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解説記事2005年11月28日 【会計解説】 ストック・オプション等に関する会計基準・適用指針の公開草案について(2005年11月28日号・№140)

実 務 解 説

ストック・オプション等に関する会計基準・適用指針の公開草案について

 企業会計基準委員会 統括研究員 豊田俊一/専門研究員 片山智二

Ⅰ はじめに


 企業会計基準委員会(以下「当委員会」と表す。)は、平成17年10月19日に、企業会計基準公開草案「ストック・オプション等に関する会計基準(案)」(以下「会計基準」又は「基」と表す。)及び同適用指針公開草案「ストック・オプション等に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「適用指針」又は「指」と表す。)を公表した。会計基準については、平成16年12月に公表した公開草案(以下「先の公開草案」という。)を改訂して再公開するものである。本会計基準は、主として会社法(平成17年法律第86号)の施行日以降に企業が付与するストック・オプション(基第18項)について、その会計処理及び開示内容を明らかにすることを目的としている(基第1項、第3項)。
 誌面の都合上、本稿では先の公開草案から変更のあった点及び新たに公表された適用指針の内容に重点を置いて解説することとし、また、ストック・オプション以外の財貨又はサービス取得の対価として自社株式オプションや自社株式を用いる取引については取上げていない。用語の定義については、会計基準の第2項をご参照いただきたい。適用指針には設例と、参考資料として注記例が付されているので、併せてご覧いただければ、より理解し易いと思う(脚注1)。なお、文中意見にわたる部分は、筆者の私見であることを申し添える。また、公開草案の内容は、今後の審議の中で変更される可能性があるが、本稿では、便宜的に最終的なものと同様の表現をしている場合があることに留意する必要がある。

Ⅱ ストック・オプションの会計処理と開示

(1)権利確定日以前の会計処理

 企業がその従業員等に対してストック・オプションを付与した場合には、これに対応して従業員等から提供されたサービスの消費を費用として会計処理する(基第4項)。その相手勘定については議論があったが、当委員会はこの問題を貸借対照表における貸方項目の区分表示のあり方全般を見直す中で検討する必要があると考え、別プロジェクトを立ち上げて、その中で先の公開草案に対して寄せられたコメントも参照しつつ検討を重ねた。その結果を受け、平成17年8月に「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準(案)」を公表しており、今回公表した公開草案においても、その内容を踏まえてストック・オプションを貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上することとしている(基第4項)。
 各報告期間における費用処理の額は、ストック・オプションの公正な評価額を、付与日から権利確定日までの対象勤務期間(基第2項(10))を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づいて配分して算定する(基第6項)。ストック・オプションの公正な評価額は、付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価(基第7項)に、ストック・オプションの権利確定数(権利確定数が確定するまではその見込数)(基第8項)を乗じたものである(基第5項)。
 ストック・オプションは通常、譲渡が禁じられており、市場価格を参照することができないことから、その公正な評価単価の算定方法が問題となる。また、対象となるストック・オプションに関しては、必ずしも勤務条件が付されている訳ではない等、権利確定日が明示されているとは限らない。権利確定日が明示されていない場合には、ストック・オプションと従業員等から提供されるサービスとの対応関係(対象勤務期間)をどのように認定するかが問題となる。今回、適用指針においてこれらの問題に対する基本的な考え方が示された。
① ストック・オプションの公正な評価単価の算定方法
  ストック・オプションについては市場価格を直接参照することができないため、ブラック・ショールズ式や二項モデル等の何らかの算定技法を用いて公正な評価単価を算定することになる(基第7項(2)、指第38項)。適用指針においては、そのような算定技法が満たすべき一般的な条件と、算定技法において使用する主要な基礎数値を見積る上での留意点を明らかにしている(指第39項)。
  算定技法が満たすべき要件としては、①確立された理論を基礎とし実務で広く適用されていること、②算定対象となるストック・オプションの主要な特性をすべて反映していることが求められている。反映すべき特性は、株式オプションに共通するもの、ストック・オプションに共通するもの、当該ストック・オプションに固有のもの等に整理することができる。ただし、権利確定数の見込みに関するものは、ストック・オプション数として見積ることとなるため、対象外とされている(指第5項)。
  例えば、算定技法としてブラック・ショールズ式を利用する場合には、上記①の要件については既に満たされており、②の要件のうち株式オプションに共通する特性についても既に反映されていることになる(指第6項、第41項)。このような場合に実際に問題となるのは、譲渡が禁止されているというストック・オプションの一般的な特性を、公正な評価単価を算定する上でどのように反映するかという点である。ブラック・ショールズ式が前提としているのは、譲渡制限のない通常の株式オプションだと考えられ、譲渡が禁止されている場合には、その分価値が低くなっているはずである。基礎数値としてオプションの満期までの期間を用いた場合、ブラック・ショールズ式においては、満期(権利行使期間の末日)までの時間的価値を計算している。しかし、譲渡が禁止されているストック・オプションにおいては、その価値を実現するためにストック・オプションを転売するという方法を選択できず実際に権利を行使するしかない。満期以前に権利行使した場合には、もし転売すれば実現できたはずの、行使時点から満期までの期間の時間的価値を放棄せざるを得ない。すなわち、ストック・オプションに含まれている時間的価値は、満期までの全期間に対する時間的価値ではなく、実際に行使されると見込まれる時期までの時間的価値である。そこで、適用指針においては、ストック・オプションの価値を測定する場合、付与日から実際に権利行使されると見込まれる時期までの期間(予想残存期間)の時間価値を求めることとしている(脚注2)(指第7項(1)、第42項)。
  公正な評価単価の算定上重要なインパクトを持つのは、ここで述べたストック・オプションの予想残存期間や株価変動性等の、算定技法において用いられる主な基礎数値の見積りである。この2つの基礎数値については、見積りの如何が結果として算定される公正な評価単価に及ぼす影響が特に大きいと考えられる。適用指針では、これらの基礎数値を見積る上での基本的な考え方や留意点が述べられている。
  株価変動性の見積方法に関しては、当該企業の過去の株価実績に基づいて見積る方法や、当該企業の株式オプションの市場価格から算定技法を用いて逆算する方法(脚注3)などがある。公開企業においては、前者の方法が広く利用可能であり、これを基礎として見積ることとされている。その見積りにあたっては、原則としてストック・オプションの予想残存期間に対応する長さの直近の過去の期間における株価情報を用いる。十分な情報量が得られる限り、日次、週次、月次等いずれの株価情報を用いることもできるが、それらを一貫して用いる必要がある。また、収集した情報の中に異常な情報が含まれている場合にはこれを除外すること、株価変動性の見積りに重要な影響を及ぼす将来事象については、それが公表されている場合に限って反映すること等の留意事項が示されている(指第10項)。
  公開後の日が浅い企業の場合には、自社の株価情報量が十分でない場合も考えられる。適用指針はこのような場合の考え方も示している。少なくとも2年分の日次ないし週次データがあれば、適切に株価変動性を見積ることができるものと推定されるが、この条件を満たさない場合には、何らかの方法で情報量の不足を補う必要があるとされている。この場合にも、まず当該企業自身の類似株式オプションの市場価格から株価変動性を逆算する方法を試み、これも利用可能でない場合には、当該企業と類似する企業に関する株価変動性の見積りを利用して情報量の不足を補うこととされている(指第12項、第48項)。
  ストック・オプションの予想残存期間は、権利確定までの期間、権利行使に関する従業員等の行動傾向、株価変動性等の要因を考慮して見積ることとされている。しかし予想残存期間の見積りには十分な統計データの蓄積が必要になると考えられ、このような条件が整わない間は合理的な見積りが現実に困難である場合も考えられる。そのような場合には、ストック・オプションが権利行使期間中に一様に分散的に行使されるものと仮定し、その平均値として、算定時点から権利行使期間の半ばまでの期間を予想残存期間と推定する規定が置かれている(指第13項、第14項、第49項及び第50項)。
② ストック・オプションとサービスとの対応関係の認定
  次に、ストック・オプションとサービスとの対応関係の認定について述べる。現実に付与されているストック・オプションは、勤務条件が明示的に付されており、権利確定日が明らであるケース(指第17項(1))ばかりではない。一見して権利確定日が明らかではないストック・オプションについては、これと従業員等から提供されるサービスとの対応関係をどのように認定すべきかが問題となる。
  先ず、勤務条件という形では明示されていなくても、付与に係る諸条件から、実質的に勤務条件が付されていると解される場合がある。権利行使期間の開始日が明らかであり、かつ、それ以前にストック・オプションを付与された従業員等が自己都合で退職すると権利行使ができなくなる場合には、権利を確定するために、実質的に付与日から権利行使期間開始日の前日までの勤務が要求されていると理解することができる。そこで、このような場合には勤務条件が付されているものとみなして、権利行使期間の開始日の前日を権利確定日としている(指第17項(2)、第52項)。
  次に、権利確定条件が付されていても、その内容が業績条件である場合には、勤務条件のように権利確定日は固定的ではない。このような場合には、原則として、権利が確定する日を合理的に予測することになる(指第17項(3)、第52項)。ただし、株価条件のように、権利が確定する日を合理的に見積ることができない場合には、対象勤務期間がないものとみなして、付与日に一時に費用を計上することが求められている(指第18項、第57項)。
  これに対して、権利確定条件が付されていない場合には、付与日においてすでに権利が確定していることになる。このような場合には、対象勤務期間はなく、付与日に一時に費用を計上する(指第18項、第57項)。典型的な例としては、従業員等の付与日以前のサービス提供に対して、付与日の株価が行使価格を上回っている状態のストック・オプションを付与するケースがある。
  適用指針で示された以上の基本的な考え方を整理すると図のようになる。実際には様々なバリエーションがあるが、その一例として、一つのストック・オプションに対して複数の権利確定条件が重畳的に付されている場合が考えられる。このような場合、それら複数の条件相互間の基本的な関係は、権利を確定させるために、全ての条件を満たす必要があるケース(AND条件)と、いずれかを満たせばよいケース(OR条件)の2通りである。前者の場合には、達成に最も期間を要する条件が満たされた日が権利確定日となり、後者の場合には、最も早期に達成される条件が満たされた日が権利確定日となる。AND条件とOR条件の入り混じった、より複雑な条件設定も想定されるが、以上の2つの基本的な関係についての考え方を組み合わせることで、権利確定日を判断することができる(指第19項)。

  なお、このように複数の権利確定条件が付されている場合において、その中に株価条件等、権利確定日を合理的に見積ることができないものが含まれている場合には、当該権利確定条件が付されていないものとみなして前記の判断を行う(指第19項また書き)。例えば、勤務条件と株価条件がともに付されており、勤務条件の対象となっている期間の途中であっても、株価条件を満たせば権利が確定することとされているような場合(OR条件)である。このような場合には、権利確定日の判断の上では株価条件が付されていないものとみなして勤務条件に基づく配分計算を行うが、その途中で実際に株価条件が達成されて権利が確定した場合には、その時点で、対象勤務期間のうち、残りの期間に計上する予定であった費用を一時に計上することになる(指第53項)。
  また、一括して付与されたストック・オプションの中に、権利行使期間の開始日が異なるストック・オプションが含まれているため、段階的に権利行使が可能となっていく場合には、権利行使期間開始日ごとに別個のストック・オプションとして会計処理を行う。しかし、同時にまとめて付与されるストック・オプションは、全体として一定期間のサービス提供に対する報酬として付与されているとの見方もあるため、付与した単位でまとめて計算を行う方法も認めることとされている。この場合には、一括して付与された単位でストック・オプションの公正な評価単価の平均値を計算し、これに基づくストック・オプションの公正な評価額を、最後に到来する権利行使期間の開始日の前日までの期間にわたって配分することになる(指第20項、第59項)。
  対象勤務期間が付されているが(脚注4)、その途中で会社都合退職した場合でも権利行使ができるストック・オプションについては、当該会社都合退職の日に権利が確定すると考えることができる。会社都合退職のうち、定年退職などその日をあらかじめ合理的に見積ることができる場合には、ストック・オプションの付与日からその合理的に見積られた日までの対象勤務期間に基づいて会計処理を行うことになる(指第54項)。
  また、役員就任時に付与され、その任期が満了した後にはじめて権利行使が可能となるストック・オプションについては、他の条件から対象勤務期間が明らかである場合にはそれにより会計処理を行うことができるが、一般にはあらかじめ任期満了の時期を確定することが困難であると考えられる。したがって、このような場合には、権利行使のために業務執行を最低限継続する必要のある就任後の最初の任期におけるサービス提供と対価関係にあるものと推定することとされている(指第56号)。
  さらに、ストック・オプションに関して業績による条件を付している場合に、直前の期の業績によってその達成、不達成を判断するものがある。このような場合には、一旦条件を満たして権利行使が可能となっても、権利を行使しないまま業績が悪化すれば、再び権利が行使できなくなり、さらにその後の業績回復により権利行使が可能となるなど、権利行使の可否が直前の期の業績に依存して変動することが考えられる。このような場合においても、企業は取引の対象として従業員等から一定の企業業績に結びつくようなサービスの提供がなされることを期待しており、最初に条件を満たすまではストック・オプションとしての権利は確定していないと考えられ、このような条件も一種の権利確定条件(業績条件)と見ることができる。そして、いったんこの条件を満たして権利行使が可能となり、実際に権利行使を行えばその後業績が変動しても、その権利行使が取り消されることはない。そのため、会計基準の適用上は、最初に条件を満たした段階で権利が確定し、その業績の変動により確定した権利が取り消されて再び権利確定しない状態に戻ることはないとして、いったん権利行使が可能となった後に権利行使を行わないまま権利行使期間の末日を経過した場合には、権利不行使による失効として会計処理することが適当であるとされている(指第58項)。
  この他にもさまざまなケースが考えられるが、前記のような基本的な考え方をベースとして個別に合理的な判断をする必要がある(指第51項)。

(2)権利確定日後の会計処理
 権利確定日後は、ストック・オプションは最終的には権利行使されるか、権利行使期間中に権利行使されずに失効するかのいずれかとなる。権利行使された場合には、その権利行使に対応する部分は、払込資本に振り替えることとされている(基第9項)。権利行使に対応して従業員等に自社の株式を交付することが必要となるが、新株発行により交付する場合のほか、自己株式(金庫株)の処分により交付する場合も考えられる。後者の方法によった場合、自己株式の取得原価と、新株予約権の帳簿価格及び権利行使に伴う現金受領額の合計額との差額は、自己株式処分差額となり、企業会計基準公開草案第7号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準(案)」に基づき、その他資本剰余金等として会計処理する(指第22項、公開草案第7号第8項、第9項)。
 一方、ストック・オプションが権利不行使により失効した場合には、この失効に対応する部分は、原則として当該失効が生じた期に利益として会計処理する(基第10項)。この利益は前期損益修正益であり、特別利益に該当するものとして「新株予約権戻入益」等の科目名称を用いて計上することになる(指第21項)。

(3)条件変更を行った場合の会計処理
 先の公開草案においては、ストック・オプション付与後に株価が著しく下落し、インセンティブ効果が損なわれたため、これを回復する目的で行使価格を引き下げるケースを条件変更の典型的な例として想定し、このような場合についての会計処理が示されていた(基第55項)。このような条件変更の会計上の取扱いについては、今回も変更されていない(脚注5)(基第12項、第56項、第57項)。
 しかし、ストック・オプションに係る条件変更は必ずしもこのようなケースには限られない。今回の公開草案においては、先の公開草案で採り上げていなかった類型の条件変更の取扱いを追加的に明らかにした。ストック・オプションを巡る条件には様々なものがあり得るが、条件変更の「効果」という観点から見ると、行使価格を引き下げる場合のように条件変更によってストック・オプションの「公正な評価単価」を変動させるもの、権利確定条件を緩和する場合のように権利が確定すると見込まれる「ストック・オプション数」を変動させるもの、あるいは対象勤務期間を延長する場合のように「費用の合理的な計上期間」を変動させるものの3つの類型に分類することができる。
 今回、後二者のような新たな類型の条件変更を追加的に検討したことに伴い、各類型を包摂する「条件変更」の意義を改めて明らかにすることとした。すなわち、ストック・オプションに係る「条件変更」とは、「意図的に」前記の3つの要素のいずれか1つ以上を変動させることである(基第2項(16))。
 例えば、ストック・オプション数(権利確定見込数)を変動させる条件変更は、条件変更によって、企業が「意図的に」ストック・オプション数を変動させる場合を指す。ストック・オプション数は、企業の「意図せざる」環境の変化等によっても生じ得る。会計基準第8項(2)は、「権利不確定による失効の見込数に重要な変動が生じた場合」の会計処理を述べているが、これは正にこのような場合が念頭に置かれており、ストック・オプション数を見直して、その影響額を「見直した期に」損益として計上することとしている。
 しかし、条件変更により、ストック・オプション数を「意図的に」変動させる場合にはこれとは異なり、将来にわたる効果を期待して条件変更を行ったものと考えられる。そのため、その影響額は、「条件変更後、合理的な費用配分期間の残存期間にわたって」反映させることが適当であると考えられ、そのような会計処理が求められている(脚注6)(基第13項、第58項)。
 条件変更の結果、当該ストック・オプションと対価関係にあるサービスの提供期間(対象勤務期間)が変動する場合には、厳密に言えば、当該ストック・オプションが「どのサービスに対する対価として用いられているのか」が変化してしまうため、条件変更の前後で報酬としての同一性を失い、別の取引に置き換わったとみることも可能である。しかし、行使価格の引下げ等の際に、これと合わせて対象勤務期間の延長が行われることもあることから、対象勤務期間が延長または短縮された場合には、条件変更の問題として取り扱うこととされた(基第59項)。この場合には、以後、新たな計上期間にわたって、残存期間に計上すると見込んでいた金額を計上することになる(基第14項)。
 ストック・オプションに係る条件変更を、前記のような3つの類型に分類して、それぞれの会計処理を明らかにしたが、現実には、3つの類型のうちのいくつかの条件変更が同時に行われる場合や、1つの条件変更がいくつかの類型の効果を併せ持つことも多いと考えられる。例えば、勤務条件を緩和した場合には、ストック・オプション数を変動させると同時に合理的な費用の配分期間である対象勤務期間をも変動させる。また、勤務条件の変更による権利確定日の変動が権利行使期間開始日の変動を通じて、ストック・オプションの公正な評価単価を算定する上での基礎数値の一つであるストック・オプションの予想残存期間に影響を及ぼす可能性もある。しかし、このような複合的な条件変更においても、それぞれの要素に分解して会計処理を行うことは可能であると考えられる(基第60項)。

(4)開示
 ストック・オプションに関する開示項目は、①ストック・オプション会計が適用されたことによる影響額(脚注7)、②ストック・オプションの内容、規模及びその変動状況、及び③ストック・オプションの公正な評価単価や数量に関する見積方法である(基第17項)。
 ①に関しては、まず、報告期間に計上された費用の額とその科目名称の開示が求められる。これは、報告期間において新たに付与したストック・オプションに係る当期の費用計上額のみならず、報告期間より前に付与されたストック・オプションに係る当期の費用計上額を含むことに留意が必要である。また、当期中にストック・オプションの権利不行使による失効が生じた場合には、新株予約権として計上した額のうち、その失効に対応して利益として計上された(基第10項)額の注記も求められている(指第26項)。
 ②に関して注記の対象となるのは、報告期間中のいずれかの時点で存在したストック・オプションである。注記内容は、(a)付与対象者の区分及び数、(b)ストック・オプションの数、(c)付与日、(d)権利確定条件、(e)対象勤務期間、(f)権利行使期間、(g)権利行使価格、(h)付与日における公正な評価単価及び(i)権利行使時の株価の平均値である(指第27項)。
 このうち、(b)のストック・オプションの数については、(イ)付与数、(ロ)権利不確定による失効数、(ハ)権利確定数、(ニ)権利未確定残数、(ホ)権利行使数、(ヘ)権利不行使による失効数、及び(ト)権利確定後の未行使残数の注記が必要である。いずれも、権利行使した際に取得する株式数のベースで表示することとされており、(イ)、(ロ)、(ハ)、(ホ)、及び(ヘ)については報告期間中の数、残数である(ニ)及び(ト)に関しては、報告期末の数だけではなく、報告期首の数の記載も求められている(指第28項)。
 これらの注記については、契約単位で記載する方法と、複数の契約を集約して記載する方法とがある。付与対象者の区分、権利確定条件の内容、対象勤務期間や権利行使期間等の長さが概ね類似しているものについては、集約して記載する方法を採用することができる(脚注8)(指第29項)。契約数が多い場合には、集約して記載した方が分かりやすい開示となる場合も考えられるためである。
 また、権利行使時の株価については、ストック・オプションの行使時期が多数に亘ることもあり得るため、合理的な範囲内で、月中の平均株価を用いる等の簡便な算定方法によることを認めることとした(指第29項なお書き)。
 ③は、以上で示されたストック・オプションの公正な評価単価や数量につき、その見積方法の注記を求めるものである。公正な評価単価については、基本的には報告期間中に新たに付与されたストック・オプションが対象となる。求められる注記の内容は、使用した算定技法及びその中で使用した主な基礎数値とその見積方法である。使用した算定技法と基礎数値の見積方法に関しては、内容が同一のものについては集約して記載することとされている(指第31項)。権利確定数の見積方法に関しては、勤務条件や、業績条件の不達成による失効数の見積方法を記載することが求められている(但し、株価条件については、合理的に見積ることが困難であると考えられるため、対象から除外されている)(指第32項)。
 なお、前述の条件変更を行った結果、注記していた内容に変更が生じた場合には、その変更内容について注記することになる(指第35項)。

Ⅲ 未公開企業における取扱い

 未公開企業については、ストック・オプションの公正な評価額について、損益計算に反映させるに足りるだけの信頼性をもって見積ることが困難な場合が多いと考えられること、未公開企業では一般投資家がいないこと等から、注記によって、各期末における本源的価値の合計額及び各報告期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額を開示することを条件に(基第17項(5))、「公正な評価単価」に代え、「単位当たりの本源的価値の見積もり」に基づいて会計処理を行うことができるものとされている(基第11項)。ここで、「単位当たりの本源的価値の見積もり」とは、算定時点においてストック・オプションが権利行使されると仮定した場合の単位当たりの価値であり、当該時点におけるストック・オプションの原資産である自社の株式の評価額と行使価格との差額をいう。
 未公開企業における取扱いについては、先の公開草案において上記のような折衷的な解決が図られることとなったように様々な考え方があり、先の公開草案に対して寄せられたコメントにおいても意見が分散していた。しかし、寄せられたコメントのうち、特に財務諸表利用者が概ね原案を支持したことから、本公開草案では原案を変更していない。
 また、コメントの中で、より具体的な考え方や取扱いを明らかにするよう求める意見があり、未公開企業において公正な評価単価によることができる場合があるのか、未公開企業における自社の株式の評価方法について、適用指針で特定の方法を示すべきか等の点が検討された(脚注9)。

(1)公正な評価単価によることができる場合
 先の公開草案に対して寄せられたコメントの中には、未公開企業であっても、信頼性をもって、ストック・オプションの公正な評価単価を見積ることができると考える意見と、反対に、自社の株価を参照できない以上、未公開企業については、そのような信頼性をもった見積りが困難であると考える意見とがあり、常に両者の選択が可能なのかという問題が提起された。
 未公開企業の場合に、専ら公開企業である他社の情報のみを用いて、仮定の計算を行うことは、通常、当該企業自身のストック・オプションの公正な評価単価を計算することにはならない。しかし、未公開株式の価値や、ストック・オプション価値の算定技法の今後の進化も想定され、企業の置かれた状況と用いる算定技法のいかんによっては、十分な信頼性をもってストック・オプションの公正な評価単価の見積りを行う可能性も十分考えられる。
 したがって、未公開企業についても、本来原則である公正な評価単価によるストック・オプション価値の測定と、単位当たりの本源的価値を見積る方法をともに認めることが適当と考えられた(指第60項)。

(2)未公開企業における自社の株式価値の評価方法
 一般に、市場価格を参照できない場合の株式価値の評価方法として、実務上様々な方法が用いられているが、先の公開草案に寄せられたコメントの中には、未公開企業において用いる株式価値の評価方法について、適用指針において明らかにするよう求めるものがあった。
 一般に、会計処理に関して採用する方法は、その結果として開示される情報の時系列的な比較可能性を高め、また、開示情報についての恣意的な操作を排除する等の観点から、特段の事情のない限り、継続的な適用を求めることが多い。しかし、企業価値の実態を最もよく表す株式価値の評価方法は、企業の発展段階に応じて異なり得る。
 したがって、株式価値の評価方法に関しては、その開示を条件に、それぞれの評価時点において、企業価値を最もよく表し得ると考えられる方法を採用すればよいと考えられた(指第61項、第62項)。

(3)開示
 一般にストック・オプションに関しては、その公正な評価単価の見積方法の開示が求められているが(基第17項(3))、未公開企業の場合には、その見積方法の内容として、特にその価値算定の基礎となる自社の株式の評価方法についての注記が求められている(指第33項)。この注記は、「公正な評価」に基づく会計処理を行う場合にも、「単位当たりの本源的価値」の見積りに基づく会計処理を行う場合にもともに必要である(指第74項)。
 また、「単位当たりの本源的価値」の見積りによる会計処理を行う場合には、ストック・オプションの各期末における本源的価値の合計額及び各報告期間中に権利行使されたストック・オプションの権利行使日における本源的価値の合計額の注記が必要である(基第17項(5))。この点については、各報告期間中の権利行使は区々に行われ得ることから、これらの本源的価値の計算は、月中の平均株価を基礎として算定する等の簡便で合理的な算定方法によることができることとされている(指第34項)。

Ⅳ 親会社が子会社の従業員等に親会社株式オプションをに付与した場合の取扱い

 親会社が、子会社の従業員等に親会社株式を原資産とした株式オプション(親会社株式オプション)を付与する場合がある。このような取引の、親会社及び子会社の個別財務諸表上の取扱いが適用指針において明らかにされた。

(1)「親会社」の個別財務諸表
 子会社の従業員等に、親会社株式オプションが付与された場合に、これに対応して量的又は質的に追加提供されると考えられるサービスの直接の受領者は子会社である。しかし、親会社が子会社の従業員等に自社株式オプションを付与するのは、子会社の従業員等に対し、親会社自身の子会社に対する投資の価値を結果的に高めるようなサービス提供を期待していることによると考えられるため(脚注10)、このような取引も、親会社にとって、本会計基準の適用される取引に該当し(基第22項)、自社株式オプションの付与に対応して、親会社が子会社において享受したサービスの消費を費用として認識することとされている(指第24項(1)、第64項)。

(2)「子会社」の個別財務諸表
 子会社の従業員等に対する当該親会社株式オプションの付与が子会社の報酬体系に組み入れられている等、子会社においても報酬として位置付けられている場合、親会社株式オプションの付与と引換えに従業員等から提供されたサービスの消費を費用として認識する。同時に、子会社として報酬の負担を免れたことによる利益を計上する必要がある(脚注11)(指第24項(2)、第64項)。
 他方、当該親会社株式オプションの付与が、子会社の報酬としては位置付けられていない場合には、子会社の個別財務諸表において会計処理を要しないこととされている(指第24項(3)、第64項)。
 以上、親会社が直接、子会社の従業員等に対して自社株式オプションを付与するケースを想定したが、親会社株式オプションを子会社経由で子会社の従業員に付与する場合もあり得る。このような場合であっても、付与の経路が異なるだけで、取引の経済的実質は変わらないため、同様の会計処理が求められると考えられる(指第65項)。
 しかし、上記の場合と同様に子会社がその従業員等に親会社株式オプションを付与する場合であっても、子会社が主体となって子会社自身の報酬として付与している場合には、子会社がその会社財産である親会社株式オプションを報酬として支払っているものと考えられる。この場合には、親会社の個別財務諸表において、子会社従業員等のサービス提供に関する費用を計上する必要はないと考えられる。なお、子会社は、様々な経緯で親会社株式オプションを取得することがあり得るが、報酬として用いるためこれを取得する場合には、通常、有償で取得することになるものと考えられるとされている(指第66項)。

Ⅴ 適用時期

 公開草案では、本会計基準は、会社法(平成17年法律第86号)の施行日以後に付与されるストック・オプション、自社株式オプション及び交付される自社の株式について適用されることとされている。そのため、同じ事業年度の中でも、会社法の施行日より前に付与されたものと、会社法の施行日以降に付与されたものとでは、会計処理が異なることになる。この点、会社の事業年度を基準として適用時期を定めることを提案していた先の公開草案からは、考え方が変更されていることに留意が必要である。
 
1 ASBJのホームページ(http://www.asb.or.jp/j_ed/stockop/stockop.html)を参照。
2 二項モデル等を用いる場合には、モデルの特性上、譲渡禁止特性の反映の仕方はこれと異なる(指第7項(2)、第42項)。
3 当該企業の株式オプションの市場価格から逆算した株価変動性を利用するためには、次のような条件を満たし算定値に十分な信頼性があると認められることが必要とされている(指第11項、第46項、第47項)。
 ・活発に取引されている市場において形成された価格情報に基づいていること。
 ・算定対象のストック・オプションの算定日に十分に近い時点で測定された価格情報であること。
 ・権利行使価格、オプション期間等が、算定対象のストック・オプションと類似していること。
4 ここでいう、対象勤務期間が付されている場合には、先に述べた、付与条件の内容から実質的に勤務条件が付されているとみなされる場合(指第17項(2))を含む。
5 A 付与日におけるストック・オプションの公正な評価単価
 B 条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価
1)A < Bの場合
条件変更日以後も、Aに基づくストック・オプションの公正な評価額の配分を継続することに加え、条件変更日におけるストック・オプションの公正な評価単価(B)が、付与日における公正な評価単価(A)より増加した部分(B-A)に見合う、ストック・オプションの公正な評価額の増加額につき、以後追加的な配分計算を行う。
2)A ≧ Bの場合
条件変更日以後も、Aに基づくストック・オプションの公正な評価額を配分する計算を継続する。
6 ストック・オプション数を見直し、これによるストック・オプションの公正な評価額と、それまでに当該ストック・オプションに関して計上した費用の額との差額を残存期間にわたって計上することとされている(指第13項)。
7 この注記は、本会計基準の適用対象となっている取引全体につき求められている。財貨を取得する取引の場合には、当初の資産計上額(又は費用計上額)とその科目名称を注記することになる(指第26項)。
8 但し、株式の公開前に付与したストック・オプションと公開後に付与したストック・オプションの集約や権利行使価格の設定方法が著しく異なるものの集約は不可となっている。
 なお、単価情報の集約の仕方については指第30項に規定がある。
9 この他、未公開企業が会計基準適用開始前に付与し、適用開始後に条件変更を行う場合の取扱い(指第23項)が規定されている。
10 このような取引は、通常、グループ経営上の視点から行われると考えられるが、親会社(単独)の視点からはこのように解釈することができる。
11 損益インパクトのない、両建の会計処理となる。

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