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解説記事2006年02月13日 【会計解説】 企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」について(2006年2月13日号・№150)

実 務 解 説
企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」及び企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」について
 企業会計基準委員会 研究員 川崎聖敬

Ⅰ はじめに


 企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成17年12月9日に、企業会計基準第5号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準」(以下「本会計基準」という。)及び企業会計基準適用指針第8号「貸借対照表の純資産の部の表示に関する会計基準等の適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表した。
 本稿では、これらの概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることを申し添える。

Ⅱ 公表の経緯

 近年、資本の部に対する考え方の変更や中間区分の設定が見られる中、平成16年12月に公表された企業会計基準公開草案第3号「ストック・オプション等に関する会計基準(案)」において、ストック・オプションに対応する金額(具体的には、「新株予約権」の項目)の表示区分について引き続き議論することとしていたため、ASBJでは、貸借対照表表示検討専門委員会を設置し、当該専門委員会での討議を含め、これらの問題に対する審議を行ってきた。
 平成17年8月10日には、本会計基準及び本適用指針の公開草案を公表し、広く各界からの意見を求めた。本会計基準及び本適用指針は、その公開草案に寄せられた意見も参考にしてさらに審議を行い、その内容を一部修正して公表されたものである。

Ⅲ 貸借対照表の純資産の部の表示

1 純資産の部の表示の概要

 本会計基準では、貸借対照表は、資産の部、負債の部及び純資産の部に区分するものとしている。そして、純資産の部は、株主資本と株主資本以外の各項目に区分し、株主資本は、資本金、資本剰余金及び利益剰余金に区分するものとしている([図表]参照)(脚注1)。

(1)個別貸借対照表
  個別貸借対照表上、株主資本の区分における資本剰余金及び利益剰余金は、さらに次の区分とするものとしている。
① 資本剰余金は、さらに資本準備金及びその他資本剰余金に区分する。
② 利益剰余金は、さらに利益準備金及びその他利益剰余金に区分し、その他利益剰余金のうち、任意積立金のように、株主総会又は取締役会の決議に基づき設定される項目については、その内容を示す科目をもって表示し、それ以外については繰越利益剰余金にて表示する。
  また、個別貸借対照表上、株主資本以外の各項目は、評価・換算差額等及び新株予約権に区分し、評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益等その内容を示す科目に区分する。
(2)連結貸借対照表
  連結貸借対照表上、株主資本以外の各項目は、評価・換算差額等、新株予約権及び少数株主持分に区分する。評価・換算差額等は、その他有価証券評価差額金、繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定等その内容を示す科目に区分する。

2 考え方
(1)貸借対照表の区分(純資産の部の設定)

  これまで、貸借対照表上で区分されてきた資産、負債及び資本の定義は必ずしも明示されていないが、そこでいう資本については、一般に、報告主体の所有者に帰属するものと理解されてきた。また、返済義務のあるものは負債の部に記載するが、少数株主持分や為替換算調整勘定のように返済義務のないものは負債の部に記載しないこととする取扱いが、近年、連結財務諸表を中心に行われてきている。
  このように、「資本」は報告主体の所有者に帰属するもの、「負債」は返済義務のあるものとそれぞれ明確にした上で貸借対照表の貸方項目を区分する場合、資本や負債に該当しない項目が生ずることがある。この場合には、独立した中間的な区分を設けることが考えられるが、中間区分自体の性格や中間区分と損益計算との関係などを巡る問題が指摘されている。また、国際的な会計基準では、中間区分を解消する動きがみられる。
  このような状況に鑑み、本会計基準では、まず、貸借対照表上、資産性又は負債性をもつものを資産の部又は負債の部に記載することとし、それらに該当しないものを資産と負債との差額として「純資産の部」に記載することとした。この結果、報告主体の支払能力などの財政状態をより適切に表示することが可能となるものと考えられている。このような考え方に基づき、本会計基準では、「新株予約権」や「少数株主持分」は、「純資産の部」に区分して記載することとし、また、これまで損益計算の観点から資産又は負債として繰り延べられてきた「繰延ヘッジ損益」(ヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べられるヘッジ手段に係る損益又は時価評価差額)についても、資産性又は負債性を有しないため、純資産の部に記載することとされた。
  さらに、本会計基準では、利益が資本取引を除く資本の変動をもたらすという関係を重視し、資本については、株主に帰属するものであることを明確にすることとした。また、資産や負債を明確にすれば、これらの差額がそのまま資本となる保証はないため、本会計基準では、貸借対照表の区分において、資本とは必ずしも同じにはならない資産と負債との単なる差額を適切に示すように、これまでの「資本の部」という表記を「純資産の部」に代えるものとしている。なお、これまで「資本の部」には、その他有価証券評価差額金など、払込資本でもなく損益計算書を経由した利益剰余金でもない項目が含まれて表記されていたため、本会計基準では、純資産のうち株主に帰属する部分を、「資本」とは表記せず、株主に帰属するものであることをより強調する観点から「株主資本」と称するものとしたとしている。
(2)純資産の部の表示
① 株主資本
  前述したように、本会計基準では、「資本の部」を資産及び負債の差額を示す「純資産の部」に代え、資産や負債に該当せず株主資本にも該当しないものも純資産の部に記載することとした。この際、純資産の部の表示については、まず、株主資本を他の純資産に属する項目から区分することが適当であると考えられるため、本会計基準では、純資産を株主資本と株主資本以外の各項目に区分することとされた。
  これは、財務報告における情報開示の中で、特に重要なのは投資の成果を表す利益の情報であると考えられ、当該情報の主要な利用者であり受益者であるのは、報告主体の企業価値に関心を持つ当該報告主体の現在及び将来の所有者(株主)であると考えられるため、当期純利益とこれを生み出す株主資本が重視されることによる。
② 新株予約権
  新株予約権は、報告主体の所有者である株主とは異なる新株予約権者との直接的な取引によるものであり、親会社株主に帰属するものではないため、株主資本とは区別することとされている。
③ 少数株主持分
  少数株主持分は、子会社の資本のうち親会社に帰属していない部分であり、親会社株主に帰属するものではないため、株主資本とは区別することとされている。
  なお、連結貸借対照表上、少数株主持分には、これまでと同様に連結子会社における評価・換算差額等の少数株主持分割合が含められる。さらに、少数株主持分を純資産の部に記載することとしても、連結財務諸表の作成については、従来どおり、親会社の株主に帰属するもののみを連結貸借対照表における株主資本に反映させる親会社説の考え方によることに留意する必要がある。
④ 評価・換算差額等
  本会計基準では、評価・換算差額等は、払込資本ではなく、かつ、未だ当期純利益に含められていないことから、株主資本とは区別し、株主資本以外の項目としている。
  なお、その他有価証券評価差額金や繰延ヘッジ損益、為替換算調整勘定などは、国際的な会計基準において、「その他包括利益累積額」として区分されているが、包括利益が開示されていない中で「その他包括利益累積額」という表記は適当ではないため、本会計基準では、その主な内容を示すよう「評価・換算差額等」として表記することとしたとしている。
  また、本会計基準では、当期純利益が資本取引を除く株主資本の変動をもたらすという関係を重視し、評価・換算差額等を、株主資本とは区別することとしたとしている。
(3)株主資本の区分
  平成14年2月に公表された企業会計基準第1号「自己株式及び法定準備金の取崩等に関する会計基準」では、これまでの資本の部において、資本性の剰余金を計上する資本剰余金の区分を設け、また、これに合わせ、利益性の剰余金を計上する利益剰余金の区分を設けた。このような区分は、債権者保護の観点から資本の部を資本金、法定準備金、剰余金に区分してきた商法の考え方と、払込資本と留保利益に区分する企業会計の考え方の調整によるものと考えられる。このため、本会計基準でも従来の考え方を引き継ぎ、株主資本は、資本金、資本剰余金及び利益剰余金に区分するものとしている。
① 資本剰余金
  資本性の剰余金を計上する資本剰余金は、個別貸借対照表上はさらに、「資本準備金」及び「その他資本剰余金」に区分するものとされている。
  ただし、本会計基準では、個別貸借対照表上においても、その他資本剰余金の内訳を示さないものとしている。これまで、その他資本剰余金は、資本金及び資本準備金の取崩によって生ずる剰余金や自己株式の処分差益等がその内容を示す科目に区分して表示されていたが、本会計基準の適用時期と同時に導入される株主資本等変動計算書があれば当期の変動状況は把握できることなどから、継続的にその他資本剰余金の残高を内容に応じて区別しておく必然性は乏しいと考えられることによる。
② 利益剰余金
  利益性の剰余金を計上する利益剰余金は、個別貸借対照表上はさらに、「利益準備金」及び「その他利益剰余金」に区分するものとされている。
  これまで、利益剰余金は、「利益準備金」「任意積立金」及び「当期未処分利益(又は当期未処理損失)」に区分する(3区分)こととされていた。これは、任意積立金と当期未処分利益を括るだけの区分を設ける実益に乏しいことなどの理由による。しかしながら、会計上は、任意積立金の区分を設ける必然性はなく、また、会社法上も利益準備金、任意積立金及びその他の各項目が示されれば足りると解されることから、本会計基準では、資本剰余金の区分と対称となるよう「利益準備金」及び「その他利益剰余金」に区分する(2区分)としている。
  さらに、本会計基準では、その他利益剰余金のうち、任意積立金のように、株主総会又は取締役会の決議に基づき設定される項目については、その内容を示す科目をもって表示し、それ以外については、「繰越利益剰余金」として表示するものとしている。後者は、今後、決算日後の利益処分に限らず剰余金の配当を行うことができるようになることなどから、これまで利益処分の前後で使い分けられてきた「当期未処分利益」と「繰越利益」に代え、「繰越利益剰余金」と称したものである。
  なお、その他利益剰余金又は繰越利益剰余金の金額が負となる場合には、マイナス残高として表示することとなる。

Ⅳ 純資産の部における各項目の会計処理

1 表示を除く会計処理について

 本会計基準は、貸借対照表の純資産の部の表示を定めることを目的としており、表記上、これまでの資本の部を純資産の部に代え、新株予約権や少数株主持分、繰延ヘッジ損益を当該純資産の部に記載することとしたが、表示を除く会計処理については、基本的に既存の会計基準と異なる定めはしていないとしている。このため、以下のように、それぞれの会計処理については、従来どおりのものとなる。
(1)新株予約権
  新株予約権の発行者側の会計処理については、新株予約権を純資産の部に記載することとなっても、これまでと同様に、権利が行使されたときは資本金又は資本金及び資本準備金に振り替え、権利が行使されずに権利行使期限が到来したときは利益として処理することとなる。
(2)少数株主持分
  少数株主持分を純資産の部に記載することとなっても、従来どおり、連結財務諸表の作成については親会社説の考え方による。このため、これまでと同様に、少数株主損益は、連結損益計算書において当期の損益から控除し、当期純利益は親会社の株主に帰属する利益の額として計算される。
(3)繰延ヘッジ損益
  繰延ヘッジ損益を純資産の部に記載することとなっても、本会計基準の適用による表示の変更と、時価評価されているヘッジ手段に係る損益又は評価差額をヘッジ対象に係る損益が認識されるまで繰り延べる方法とは矛盾するものではない。このため、税効果の調整を除き、現在の金融商品会計基準の適用に変更はないことに留意する(脚注2)。

2 資本連結における子会社の資本及び持分法の適用における被投資会社の資本
 本適用指針では、連結貸借対照表の作成にあたり、資本連結において親会社の子会社に対する投資と相殺消去される「子会社の資本」3は、次の項目の金額(いずれも、税効果会計適用後の金額とする。)の合計となるものとしている。
① 子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における株主資本(親子会社間の会計処理の統一及びその他個別財務諸表の修正による損益処理後)
② 子会社の個別貸借対照表上の純資産の部における評価・換算差額等
③ 子会社の資産及び負債の時価と当該資産及び負債の個別貸借対照表上の金額との差額(評価差額)
 また、持分法の適用にあたり、「被投資会社の資本」は、従来どおり、上述した子会社の資本に準ずることとなる。

3 在外子会社等の純資産の換算
 本適用指針では、連結財務諸表の作成又は持分法の適用にあたり、外国にある子会社又は関連会社の外国通貨で表示されている財務諸表項目のうち、純資産に属する項目(連結貸借対照表の作成又は持分法の適用にあたり子会社の資本及び被投資会社の資本とされた評価差額を含む。)の換算は、次の方法によるとしている。
① 親会社による株式の取得時における株主資本及び評価・換算差額等に属する項目、並びに子会社の資産及び負債の評価差額については、株式取得時の為替相場による円換算額を付する。
② 親会社による株式の取得後に生じた株主資本に属する項目については、当該項目の発生時の為替相場による円換算額を付し、親会社による株式の取得後に生じた評価・換算差額等に属する項目については、決算時の為替相場による円換算額を付する。
③ 在外子会社等の新株予約権については、発生時の為替相場による円換算額を付する。ただし、新株予約権に係る為替換算調整勘定は、新株予約権に含めて表示することとする。
④ 在外子会社等の少数株主持分については、従来どおり、決算時の為替相場による円換算額を付する。

Ⅴ 適用時期等

 本会計基準及び本適用指針は、会社法(平成17年法律第86号)施行日以後終了する中間連結会計期間及び中間会計期間に係る中間連結財務諸表及び中間財務諸表並びに連結会計年度及び事業年度に係る連結財務諸表及び財務諸表から適用する(脚注4)。
 適用時期について、公開草案では、平成18年4月1日以後開始する事業年度から適用することを提案していた。しかし、その後、会社法の施行による計算書類に関する規定が、当該施行日以後終了する事業年度から適用されることが明らかとなったため、本会計基準では一律に、会社法施行日以後終了する中間期及び事業年度末から適用するものとした。
 また、適用初年度においては、期間比較を容易にするように、これまでの資本の部の合計に相当する金額を注記するものとしている。
 
脚注
1 本会計基準では、自己株式の表示など本会計基準において特に定めのないものについては、該当する他の会計基準の定めによるとしている。このため、自己株式を保有している場合には、企業会計基準第1号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準」に基づき、純資産の部の株主資本の末尾に自己株式として一括して控除する形式で表示することとなる。
2 ただし、繰延ヘッジ損益は、部分時価評価法の場合でも、資本連結において親会社の子会社に対する投資と相殺消去される子会社の資本に含まれることとされている。
3 連結財務諸表原則においては、親会社の子会社に対する投資とこれに対応する子会社の資本を相殺消去しなければならないとされている。本適用指針では、表示を除く会計処理については、基本的に既存の会計基準と異なる定めはしていないことから、従来どおり、資本連結の手続における相殺消去の対象として、「子会社の資本」という用語を用いている。同様に、連結財務諸表原則にて、持分法の適用に際し用いられている「被投資会社の資本」についても、本適用指針では、従来どおり用いている。
4 会社法は、公布の日から1年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する(附則第1条)とされているが、平成18年5月頃の施行が見込まれている。

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