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解説記事2006年04月24日 【会社法解説】 図解でわかる法務省令講座―組織再編行為に関する規律―(2006年4月24日号・№160)

図解でわかる法務省令講座
―組織再編行為に関する規律―
 前法務省民事局付 郡谷大輔


 今回は、会社法第5編に関連する法務省令委任事項について概説する。組織再編行為(組織変更、合併、会社分割、株式交換および株式移転)に関する省令委任事項には様々なものがあるが、会社法において組織再編行為に関する規律がまとめて規定され、その内容も統一的・体系的に定められることとなったことに伴い、省令の内容についても各組織再編行為に共通の規律が定められている。

人物紹介
マミ
:霞が関の監査法人に勤める公認会計士。経済産業省・法務省において政策立案・立法作業に携わる。会社法の適用を巡る同僚たちの議論は施行日を目前になお活発で、4月から加わった新メンバーには耳栓をする者も。
カナ:赤坂の法律事務所に勤める弁護士。法務省において立法作業に携わる。この4月から久しぶりに復帰した事務所でも、やはり会社法の施行準備に向けてあわただしく、実務ならではの緊張感に身が引き締まる思いである。

Ⅰ 組織再編行為を行う際の事前開示事項

1 総論

 施行規則においては、組織再編行為を行う際の事前開示事項についての規定は10か所に散在しているものの、規律の内容については、共通の観点に基づく規律が設けられている。
 また、会社法における合併等対価の柔軟化・新株予約権買取請求の導入等の改正に対応して、新たな開示事項も導入されている。
 事前開示事項に関する商法と会社法の対応関係を整理すると、図表1~3のようになる。
 以下では、これらの事前開示事項について重要な改正点を解説することとする。



2 合併等対価の相当性に関する事項
 現行商法においても「合併ニ因リテ消滅スル会社ノ株主ニ対スル株式ノ割当ニ関スル事項ニ付其ノ理由ヲ記載シタル書面」(商法408条ノ2第1項第2号)等が開示事項とされていた。
 会社法においては、合併等対価の柔軟化により、組織再編行為において消滅会社の株主等に交付される財産の種類に限定がなくなったため、「会社法749条1項2号及び3号に掲げる事項についての定めの相当性に関する事項」(施行規則182条1号)などと規定することにより、組織再編行為に係る契約等における合併等対価についての定め自体の相当性を開示事項とすることとした。
 具体的には、①合併等対価の割当てについての理由のほか、②合併等対価の内容を相当とする理由も開示することとなる。

3 対価が株式等である場合の発行会社の定款等に関する事項
 施行規則においては、吸収型再編(吸収合併・吸収分割・株式交換)のうち、消滅会社等の株主に合併等対価が交付される吸収合併・株式交換を行う場合において、合併等対価の全部または一部が株式等である場合については、消滅会社等において、当該株式等の発行会社の定款の定め等を開示対象とすることとしている(施行規則182条2号・3号等)。一方、新設型再編(新設合併・新設分割・株式移転)を行う場合においては、新設会社の定款で定める事項については合併契約等の内容となっている(会社法753条1項1号~3号等)ため、独自の開示事項とはしていない。
 なお、吸収分割・新設分割と同時に剰余金の配当等がなされる場合においては、配当財産が承継会社その他の法人の株式等である場合であっても、発行会社の定款等に関する事項の開示は不要であるが、剰余金の配当等に関する決議がなされている場合においては、その内容を開示する必要がある(施行規則183条2号・192条2号・205条2号)。

4 消滅会社等の新株予約権者に対して交付する新株予約権等についての定めの相当性に関する事項
 会社法においては、組織再編行為における新株予約権者の取扱いを明確化するとともに、新たに新株予約権買取請求手続が設けられたため、事前開示事項に関しても、消滅会社等の新株予約権者に対して交付する新株予約権等についての定めの相当性に関する事項を開示対象としている(施行規則182条4号等)。
 具体的には、合併等対価に関する開示事項と同様に、①新株予約権者に対して交付する新株予約権等の割当てについての理由のほか、②存続会社等の新株予約権を交付すること(または交付しないこと)について相当とする理由(合併の場合には、交付する財産について新株予約権ないし金銭と定めたことを相当とする理由)をも開示する。
 なお、この開示事項については、開示を必要とする場合や開示すべき事項の内容など、組織再編行為の当事会社ごとに規律が若干異なることから注意する必要がある。

5 自社および相手方会社の計算書類・財産状況に関する事項
 現行商法においては、各当事会社における株主総会の日の前6か月内に作成した貸借対照表および損益計算書等が開示事項とされていた(商法408条ノ2第1項3号~6号等)。
 会社法においては、開示事項の整理を行い、①最終事業年度に係る計算書類(施行規則182条5号イ等。なお、自社については会社法442条により開示されることとなる)のほか、②最終事業年度の末日後に重要な財産の処分、重大な債務の負担その他の会社財産の状況に重要な影響を与える事象が生じた場合におけるその内容を開示事項とした。
 なお、当事会社において、③設立後間もないため最終事業年度(会社法2条24号)がない場合には成立の日の貸借対照表を開示することとなり(施行規則182条5号イおよび6号ロ等)、④臨時計算書類を作成している場合には臨時計算書類も開示対象となる(施行規則182条5号ロ等)。

6 債務の履行の見込みに関する事項
 現行商法においては、会社分割に関して「各会社ノ負担スベキ債務ノ履行ノ見込アルコト及其ノ理由」(商法374条ノ2第1項3号等)が開示すべき事項とされるとともに、債務の履行の見込みがないこととなる会社分割は認められないものと解されていた。
 施行規則においては、債務の履行の見込みに関する事項を開示すべき場合の範囲を拡大して、原則として、債権者保護手続が必要となるすべての組織再編行為について開示対象とした(なお、吸収分割・新設分割における分割会社においては、債権者保護手続の要否を問わず開示対象となる)。
 また、開示すべき事項の内容についても、「履行の見込みに関する事項」(施行規則182条7号等)として、当事会社が負担すべき債務につき履行の見込みがないような組織再編行為を行った場合には、その旨を開示することで足りることとした。
 このように会社法の下では、当事会社が負担すべき債務につき履行の見込みがないような組織再編行為を行った場合であっても、組織再編行為自体の効力が否定されるものではないが、当然ながら、このような組織再編行為を行った当事会社ないし取締役等の役員には、民事上・刑事上の責任を追及される等の危険性はある。

7 その他
 備置開始後、効力発生日までの間に事前開示事項に変更が生じた場合には、事前開示書類の内容をアップデートする必要がある(施行規則182条8号等)。

Ⅱ 組織再編行為を行う際の事後開示事項

 事後開示事項については、現行商法の規律から、大きな変更はしていない。主要な変更点としては、①債権者保護手続の経過に加えて、株式買取請求手続・新株予約権買取請求手続の経過をも開示対象としていること、②吸収合併・吸収分割においては、効力発生日のほか、登記の日をも開示対象としていることなどが挙げられる。
 商法と会社法の対応関係は、図表4・5参照。



Ⅲ 会社分割と同時に剰余金の配当等を行う場合において分配可能額規制が課されない範囲

 会社法では、吸収分割・新設分割により分割会社が得た対価としての承継会社等の株式を剰余金の配当または全部取得条項付種類株式の取得の手続により分割会社の株主に分配する場合には、その剰余金の配当等に財源規制を課さないものとして(会社法792条、812条)、現行法の人的分割に係る規律の実質を維持することとしている。
 もっとも、現行商法においては、人的分割に際して、承継会社等の株式以外に金銭を交付することも認められており(商法374条2項4号等)、会社法では、この実質を維持するために、一定の限度において、承継会社等の株式以外の財産を分割会社の株主に交付することができることとしている(会社法758条8号イ、763条12号イ等)。
 施行規則178条および179条においては、このように分割会社の株主に交付することができる財産の範囲について、①承継会社等の株式以外の分割対価であって、剰余金の配当等の手続により分割会社の株主に交付する財産全体のおおむね20分の1未満のもの、②分割会社の株式(剰余金の配当の手続によっては交付不可)と定めている。
 具体的な内容は、図表6のとおりである。

Ⅳ 株式交換における完全親会社において債権者保護手続が不要となる場合

 会社法では、株式交換に際しては、完全子会社の株主に対して完全親会社の株式以外の財産を交付することも認めるとともに(会社法768条1項2号)、その場合、原則として、完全親会社における債権者保護手続を要求している(会社法799条1項3号)。
 もっとも、現行商法では、株式交換に際し、完全親会社の株式のほかに金銭の交付も認めており(商法353条2項4号)、会社法では、この実質を維持するため、一定の場合においては、完全親会社の株式以外の財産を交換対価として交付する場合でも債権者保護手続を必要とせず(会社法799条1項3号)、債権者は事前・事後開示書類を閲覧等できない(会社法794条3項・801条6項)こととしている。
 施行規則194条、198条および202条は、このように完全親会社において債権者保護手続等が不要となる場合について定めており、具体的には、交換対価として交付する財産の合計額の5%未満である場合となる。

Ⅴ 譲渡制限株式等・持分等

 会社法では、合併等対価の柔軟化、すなわち、吸収型再編をする場合に、消滅会社の株主等に対し、存続会社等の株式を交付することなく、金銭その他の財産を交付することや対価を交付しないことができるとしている(会社法749条1項2号等)。
 もっとも、譲渡性の低い対価を交付される消滅会社等の株主の保護を図る必要があることから、このような場合においては、吸収合併・株式交換の承認手続において特殊決議・総株主同意を要するものとしており、施行規則185条・186条は、これらに関する要件を定めるものである。
 「持分等」(原則として総株主同意が必要とされる)については、権利の移転・行使に債務者その他第三者の承諾を要するものとしている。典型的には、譲渡制限特約付指名債権がこれに該当する。
 また、「譲渡制限株式等」(原則として特殊決議が必要とされる)については、存続会社等の取得条項付株式または取得条項付新株予約権(いずれも、取得対価が譲渡制限株式であるものに限る)としている。
 なお、当該事項は、施行後1年を目途として、合併等の対価に係る検討の結果に基づき、必要な見直し等の措置が講じられる(施行規則附則9条)。

Ⅵ 組織再編行為に際して差損が生じる場合

1 概要

 会社法では、簿価債務超過会社か実質債務超過会社かを問わず(これらの正確な定義は不明であるが)、組織再編行為をすることが可能となる。
 他方で、損失の引受けに当たるような吸収型再編がなされた結果、分配可能額が減少する結果となる存続会社等の株主の保護を図るため、吸収型再編に際して存続会社において差損が生ずる場合には、①簡易組織再編に係る会社法796条3項本文の要件に該当するときであっても、株主総会の決議を要するものとするとともに(会社法796条3項ただし書)、②吸収合併契約等を承認する株主総会においてその旨を説明しなければならない(会社法795条2項)こととしている。
 この「差損が生じる場合」の具体的な要件は、会社法795条2項各号に定められているが、その一部については施行規則195条に規定されている。
 結果として、以下のような場合が「差損が生じる場合」に該当することとなる。

2 吸収合併・吸収分割・株式交換の場合
(1)吸収合併・吸収分割の場合
 吸収合併・吸収分割を行う場合には、次の①または②の場合が「差損が生じる場合」となる。
① 〔吸収型再編の前後における純資産の部の増加額〕+〔合併等対価(株式・新株予約権を 除く)の帳簿価額〕が0未満である場合(会社法795条2項1号、施行規則195条1項・2項)
② 〔吸収型再編の前後における純資産の部の増加額〕+〔合併等対価(社債に限る)の帳簿価額〕が0未満である場合(会社法795条2項2号、施行規則195条1項・2項)
 結局のところ、①の額は、②の額に合併等対価として交付する株式等以外の財産の価額を加えた額であるため、簿価債務超過の事業を合併等対価として交付するような特異な場合を除けば、②の要件に該当するかを確認すれば足りることとなる。
 また、「差損が生じる場合」に該当するかどうかについては、吸収合併・吸収分割に適用される会計処理によって大きく異なってくることとなる。
 第1に、パーチェス法が適用される場合には、吸収型再編の前後における純資産の部の変動額と対価として交付した金銭等の差額はのれんの計上により吸収されるため、原則として該当しない。
 もっとも、合併等対価として含み損がある財産を対価として交付する場合には、含み損に相当する額について純資産の部の額が減少することから、「差損が生じる場合」に該当する可能性が生じる。
 第2に、持分プーリング法が適用される場合または共通支配下取引の場合には、消滅会社等の資産および負債を、それぞれの適正な帳簿価額で引き継ぎ、または計上することとなるため、承継する権利義務が簿価債務超過である場合には、資産の部の変動額よりも負債の部の変動額が大きくなることから、原則として、「差損が生じる場合」に該当することとなる(もっとも、共通支配下取引の場合には、のれんが生じる場合もあることから、必ずしも差損が生じることとはならない)。
(2)株式交換の場合
 株式交換を行う場合には、原則として、〔取得する株式の簿価〕-〔合併等対価(株式等を除く)の帳簿価額〕が0未満である場合が「差損が生じる場合」となるが、のれん(計算規則20条)や差額負債(計算規則31条)が生じる場合には、のれんについては加算し、差額負債は減算することとなる(会社法795条2項3号、施行規則195条5項)。
 株式交換においても、「差損が生じる場合」に該当するかどうかについては、適用される会計処理によって大きく異なってくることとなる。
 第1に、パーチェス法が適用される場合には、取得する株式の取得価額は、原則として、完全子会社の株主に交付する財産の時価で評価されることとなることから、交換対価が金銭ないし株式の場合、「差損が生じる場合」に該当することはない。
 もっとも、合併等対価として含み損がある財産を交付した場合には、吸収合併・吸収分割と同様に「差損が生じる場合」に該当する可能性が生じる。
 第2に、持分プーリング法が適用される場合または共通支配下取引の場合においては、完全子会社の株主資本の額がマイナスであるときは、〔取得する株式の簿価=0〕-〔合併等対価(株式等を除く)の帳簿価額〕≦0となり、差額負債が発生するため、「差損が生じる場合」に該当することとなる(もっとも、共通支配下取引の場合には、のれんが生じる場合があることから、必ずしも差損が生じることとはならない)。

POINT
~ここに注意~
組織再編行為に際して差損が生じる場合

~パーチェス法が適用される場合には、原則として「差損が生じる場合」には該当しない
~持分プーリング法が適用される場合または共通支配下取引の場合には、承継する権利義務ないし完全子会社が簿価債務超過である場合等に「差損が生じる場合」に該当する可能性が生じる。
~連結配当規制適用会社では、原則として、「差損が生じる場合」には該当しない。

3 連結配当規制適用会社の特則
 吸収型再編における吸収会社等が連結配当規制適用会社(計算規則2条3項72号)である場合において、消滅会社等が子会社である場合には、原則として、「差損が生じる場合」に該当することはない(施行規則195条3項・4項・5項3号)。
 これは、連結配当規制適用会社においては、子会社に対する投資損失が分配可能額に反映されているため、吸収型再編により子会社が過去に計上した損失の引受けがなされたとしても分配可能額に影響を及ぼさないためである。

マミ:商法では単純に6分の1と定めていた簡易組織再編での反対株主数は、ずいぶんややこしくなったわ。
カナ:条文は難しいけど、要するに、株主総会が開催されたとした場合に当該合併契約等を承認する議案が否決される可能性が生じる株式数よ。

Ⅶ 簡易組織再編の要件を満たす場合であっても株主総会の決議を必要とする場合

 会社法796条4項は、存続会社等における簡易組織再編についての要件を満たす場合であっても、法務省令で定める一定数以上の株主が反対した場合には、簡易組織再編ができないこととされている。
 施行規則197条等は、この反対株主による異議の要件を定めるものである。
 具体的な反対要件の数については、図表7のとおりである。


今週のおさらい11
◎事前・事後備置書類の内容について整理
事前備置書類の内容、特に消滅会社と存続会社の開示事項の相違には留意が必要である。
◎組織再編行為に際して差損が生じる場合を規定
パーチェス法が適用される場合、連結配当規制適用会社は、原則として、「差損が生じる場合」に該当しない。
◎簡易組織再編の要件を満たす場合における反対株主の要件
株主総会が開催された場合に当該合併契約等承認議案が否決される可能性が生ずる株式数以上の株式を有する株主の反対があった場合には、総会の承認が必要である。

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