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解説記事2006年12月04日 【解説】 「ストック・オプションの付与」に係る適時開示実務上の取扱い(2006年12月4日号・№189)

解説
「ストック・オプションの付与」に係る適時開示実務上の取扱い
 東京証券取引所上場部上場管理担当調査役 塚崎由寛

Ⅰ はじめに


 東京証券取引所(以下「東証」という)は平成18年11月15日、「ストック・オプションの付与」に係る適時開示実務上の取扱いについて、上場会社に対して通知を行った。
 これは、本年5月の会社法の施行後において、ストック・オプションとして新株予約権を発行する場合における上場会社の募集内容等が多様化している実態を踏まえ、開示内容や開示時期等について改めて整理を行うこととしたものである。
 本稿では、上記の見直しの背景およびその具体的な概要を、趣旨などについて若干の説明を加え、解説することとしたい。なお、文中意見にわたる部分については筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ 見直しの経緯・背景

 本年5月の会社法施行前における商法のもとでは、ストック・オプションとしての新株予約権の付与は、無償で新株予約権を発行するものと整理され、いわゆる有利発行として株主総会の決議を経ていたものが一般的であった。
 これに対し、会社法のもとでは、ストック・オプションとしての新株予約権の発行手続において、有利発行に該当しないものとして発行することも可能とされている。
 会社法では、新株予約権の募集事項の決定において、新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととすることができるものとされており(会社法238条1項2号)、そのことが当該新株予約権を引き受ける者に特に有利な条件であるとき(同条3項1号)は、有利発行として株主総会の特別決議が必要とされているが、これは、金銭の払込みを要しない場合について、そのこと自体が当然に有利発行に該当するものではないことが明文で示されたものである。
 つまり、ストック・オプションとしての新株予約権の発行については、金銭の払込みを要しない場合であっても、その対価として適切な役務提供を受けるものであれば、必ずしも有利発行には該当せず、取締役会決議のみにより発行されることが想定されているものである。
 また、ストック・オプションとしての新株予約権について、有利発行に該当しないことを明確にするなどのため、当該新株予約権の公正価値に相当する額の金銭の払込みが行われるものとして発行され(会社法238条1項3号)、当該払込みについて、その金銭の額に相当する報酬債権と相殺(会社法246条2項)するなどの法律構成が採られることによって、有利発行に該当しないものとして発行されることも想定される。
 このように、会社法のもとでは、ストック・オプションとしての新株予約権の発行について、取締役会決議のみによる発行が想定されており、また、最近におけるストック・オプションとしての新株予約権の発行においてもこのような事例が散見されていることから、適時開示事項等実務上の取扱いについて整理することとしたものである。

Ⅲ 見直し後の開示事項および実務上の取扱い

1.適時開示規則に基づく開示義務および開示事項

 上場会社の業務執行を決定する機関が、「上場会社又はその子会社(証券取引法第166条第5項に規定する子会社をいう。)の役員又は従業員に対する新株予約権の発行その他のストック・オプションと認められるものの付与」に関し、その募集事項を決定した場合、東証の「上場有価証券の発行者の会社情報の適時開示等に関する規則」に基づく開示が必要となる。
 今回の見直しにより、同項目に関する開示資料の作成にあたっては、最低限次の事項についての記載を要することとした(様式1参照)。
「(1)ストック・オプションとして新株予約権を発行する理由
(2)新株予約権の発行要領
① 新株予約権の割当ての対象者及びその人数並びに割り当てる新株予約権の数
② 新株予約権の目的である株式の種類及び数
③ 新株予約権の総数
④ 新株予約権の払込金額又はその算定方法
⑤ 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法
⑥ 新株予約権の権利行使期間
⑦ 新株予約権の行使の条件
⑧ 新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金の額
⑨ 新株予約権の取得に関する事項
⑩ 新株予約権の譲渡制限
⑪ 組織再編行為時における新株予約権の取扱い
⑫ 新株予約権の割当日
⑬ 新株予約権証券を発行する場合の取扱い」
 以下では、上記項目のうち特に注意を要する事項について、その記載方法および開示にあたっての注意事項を解説する。


2.開示事項についての注意事項
(1)「① 新株予約権の割当ての対象者及びその人数並びに割り当てる新株予約権の数」
 募集事項の決定後において、新株予約権の割当て(会社法243条)の結果、募集事項の決定時(発行決議時)における開示内容(対象人数、割当数)と変更が生じた場合は、割当ての確定日に変更後の割当内容を発行内容の確定として開示することが必要となる(様式2参照)。

(2)「④ 新株予約権の払込金額又はその算定方法」
 新株予約権と引換えに行う金銭の払込みの要否により、次のとおり記載することとした。
 まず、新株予約権と引換えに金銭の払込みを要しないこととする場合(会社法238条1項2号)には、本項目に係る開示事項として、「払込みを要しない旨」および「払込みを要しないこととすることが有利発行に該当しない場合には、その旨」を記載することとした。
 一方、新株予約権と引換えに金銭の払込みを要することとする場合(同項3号)には、その「払込金額」とともに、「払込金額が有利発行に該当しない場合には、その旨」を記載することとした。
 なお、募集事項の決定時(発行決議時)の開示の際に具体的な払込金額が定まっていない場合は、払込金額の算定方法を記載することとし(算定方法としてブラック・ショールズ式等を用い、当該算式に基づく公正価格を払込金額とすることとされている場合は、上記の「払込金額が有利発行に該当しない旨」を示しているものとして取り扱う)、別途、払込金額の算定日に具体的な金額を発行内容の確定として開示することが必要となる(様式2参照)。
 また、払込金額の払込みに代えて、割当対象者の有する報酬請求権等と新株予約権の払込金額の払込債務とを相殺するなどの処理を行う場合には、募集事項の決定時にその旨を併せて記載することとした。
(3)「⑤ 新株予約権の行使に際して出資される財産の価額又はその算定方法」
 募集事項の決定時(発行決議時)の開示の際に当該価額の具体的な金額が定まっていない場合は、当該価額の算定方法を記載することとし、別途、当該価額の算定日に具体的な金額を発行内容の確定として開示することが必要となる(様式2参照)。
(4)「⑧ 新株予約権の行使により株式を発行する場合における増加する資本金及び資本準備金の額」
 募集事項の決定時(発行決議時)の開示の際に具体的な金額の確定が困難である場合は、「資本金の増加額は、会社計算規則第40条第1項に従い算出される資本金等増加限度額の2分の1の金額とし、計算の結果端数が生じたときはこれを切り上げる。残額は資本準備金に組み入れる。」などのように、最低限、資本金等増加限度額のうち資本金に組み入れる額の割合を記載することとした。
 なお、本件開示後に具体的な金額が確定した場合であっても、当該金額の開示は求めない。

3.有利発行の場合の取扱い
 前述のとおり、会社法のもとでは、ストック・オプションとしての新株予約権については有利発行には該当しないものとして発行することが可能であるが、有利発行の該当性の判断が困難な場合などには、引き続き有利発行に該当するものとして発行することも想定されることから、その場合の開示にあたっては、その発行手続に応じて、次のとおり取り扱うこととした。
(1)募集事項の決定を取締役会に委任する場合
 ストック・オプションとしての新株予約権の発行に関し、それが有利発行に該当するため株主総会に付議し、かつ、株主総会で新株予約権の募集事項の決定を取締役会に委任する場合(会社法239条)には、上場会社の業務執行を決定する機関が株主総会への付議内容を決定した時点で、当該付議内容の開示が必要となるが、当該開示にあたっては、「新株予約権の発行が有利発行に該当する旨」および「その条件での発行を必要とする理由」ならびに「募集事項の決定を取締役会に委任する旨」を含めて開示することとした。
 なお、当該株主総会後に、業務執行を決定する機関が上記委任に基づき募集事項を決定したときは、前述1で記載した内容の開示が必要となる。
(2)募集事項の決定を株主総会の決議で行う場合
 ストック・オプションとしての新株予約権の発行に関し、それが有利発行に該当するため株主総会に付議し、かつ、当該株主総会で新株予約権のすべての募集事項の決定に係る決議を行う場合(会社法238条)には、上場会社の業務執行を決定する機関が株主総会への付議内容を決定した時点で、「ストック・オプションの付与」に係る業務執行を決定する機関の決定として、当該付議内容(前述1で記載した内容)の開示が必要となるが、当該開示にあたっては、「新株予約権の発行が有利発行に該当する旨」および「その条件での発行を必要とする理由」を含めて開示することとした。
 ただし、前述(1)のとおり、実務上は募集事項の決定は取締役会に委任することが一般的であり、すべての募集事項の決定を株主総会の決議で行うことはあまり想定されないものと思われる。

4.報酬議案として付議する場合の取扱い
 取締役に対する報酬としてストック・オプションとしての新株予約権を付与する場合は、報酬規制の対象として、株主総会の決議が必要となる(会社法361条1項)。
 上場会社の業務執行を決定する機関が、株主総会への付議内容として上記の内容を決定した場合における当該内容の開示の必要性については、当該付議内容は、厳密には新株予約権の募集事項の決定に係るものではなく、取締役に対する報酬に関する議案であることから、その時点で「ストック・オプションの付与」として開示することは必要ではない。
 ただし、当該議案の内容が、事実上、ストック・オプションとしての新株予約権の募集事項の内容を相当程度有しているものであれば、その内容を開示することが望ましい。

Ⅳ おわりに

 東証は、本稿で解説した「ストック・オプションの付与」に係る適時開示の取扱いに関する見直しのみならず、会社法施行後の上場会社を取り巻く状況や会社情報の開示の実態を踏まえ、他の開示項目についても、適宜必要な見直しを行っていく所存である。
 上場会社各社においては、引き続き適時適切な会社情報の開示等に努めていただくようお願いしたい。(つかざき・よしひろ)

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