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コラム2007年07月30日 【Sammys Cafe】 濫用的買収者とはなにか(2007年7月30日号・№221)

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濫用的買収者とはなにか

港区の一角に、ちっぽけなカフェがある。そこは、なぜか会社法に詳しいマスターが、悩み多き法務担当者に心休まるコーヒーを差し出す大人の隠れ家。
Welcome to SAMMYS Cafe
by 弁護士 葉玉匡美

古道具屋 なんでウチの株を投資ファンドが買うんだろう。ブルドックと間違ったのかな。ローマ字で書くと似ているし。
Sammy そんなことないでしょう。最近ニッチに強い企業は狙われていますから。
古道具屋 でも、投資ファンドって、怖いもんなんだろう。濫用的買収者っていうんだっけ。俺なんか英語で何か要求されるだけで、ビビるよ。
Sammy
 英語で会社を戸惑わせても濫用的買収にはなりませんから……。

1 濫用的買収とはなにか

 「濫用的買収」は、会社法で定義された言葉ではありません。ニッポン放送事件の高裁決定において「敵対的買収者が真摯に合理的な経営を目指すものではなく、敵対的買収者による支配権取得が会社に回復し難い損害をもたらす事情がある」場合には買収防衛策を発動することができる旨判示されたことをきっかけに、判例法理のなかでクローズアップされた概念です。
 同決定やブルドックソース事件の高裁決定をみる限り、濫用的買収者に対しては、①取締役会で防衛策を発動することができる、②過度にならない財産的損害を与えても防衛手段の相当性が失われることはない等の法的意味が認められるようです。
 ニッポン放送事件高裁決定は、濫用的買収の具体例を挙げており、大まかにいえば、
(1)買収者が、会社経営に参加する意思を持たず、会社関係者に株式を引き取らせる目的を有する場合(グリーンメーラー)
(2)買収者が、一応、会社経営を支配する意思を持っているが、会社の資産を自己の利益のために濫用する目的を有する場合(焦土化経営、敵対的LBO、一時的な高配当狙い)
の2つに分類することができるでしょう。

2 企業価値の毀損

 これに対し、ブルドックソース事件高裁決定は、濫用性判断のための具体的基準を示してはいません。
 また、同決定は、ニッポン放送事件高裁決定における「会社に……損害をもたらす」という表現を、「企業価値ひいては株主共同の利益を毀損する」という表現に置き換え、しかも、その「企業価値」の内容として、株主の利益のみならず、従業員・取引先等ステークホルダーとの関係をも加味して考える旨判示しています。
 はたしてブルドック事件高裁決定で何らかの基準変更がなされたのでしょうか。同高裁が、どのような趣旨で企業価値について言及したのかは必ずしも明らかではありませんが、同事件の敵対的買収者が、TOBにおいて「全株式」の取得を目指していたという事実と関係しているかもしれません。
 仮に、企業価値をもっぱら株主の利益のみと捉えるならば、全株式を取得した株主は、企業価値を自由に毀損する権利があると考えることもできます。とすると、「全株式の取得を目指すTOBが濫用的買収に該当することはありえない」という結論が導かれる可能性があり、高裁は、そうした結論を否定するために、「企業価値」のなかに、あえてステークホルダーとの関係をも加味したのではないでしょうか。
 もっとも、同決定も、ステークホルダーとの「関係」を加味しているだけで、ステークホルダーの「利益を保護する」ということまではいっていませんから、ニッポン放送事件高裁決定で示された「会社に……損害」という要件を変更したものというより、その要件を少し具体化しただけであると考えた方がよいように思います。
 また、同決定は、濫用的買収者であることを基礎付ける事実として、①買収者が投資ファンドであること、②買収対象企業の経営に関心を示したり、関与したりしていないこと、③株式取得後、経営陣による買収を求める一方で突然株式の公開買付けの手続に出るなど様々な策を弄していること、④専ら短中期的に対象会社の株式を対象会社自身や第三者に転売することで売却益を獲得しようとしていること、⑤最終的には対象会社の資産処分まで視野に入れていること等の事実を挙げていますが、これらは、グリーンメイラー(②・③)、焦土化経営(⑤)、一時的高当配狙い(④・⑤)を基礎付ける事実でもありますので、ニッポン放送事件高裁決定の基準の枠内で濫用的買収であると認定したものといえそうです。もっとも、それらの事実だけで濫用的買収を基礎付ける事実として十分であったかどうかは、今後、検討を深めるべきところでしょう。

3 濫用的でない買収

 ブルドックソース事件の高裁決定をみて「投資ファンドは、全部、濫用的買収者になるのではないか」という極端な見方をする人もいます。
 しかし、高裁が「買収者が投資ファンドである」ことを理由として挙げたのは、「買収者が被買収会社を真摯に経営する意思がないこと」等を示すための間接事実の1つとして使っただけです。
 また、高裁は、買収者が株式を売却して利益を得ること自体を問題視しているのではなく、「自己の利益を追求するためには、買収対象会社の企業価値を毀損してもかまわない」という姿勢を濫用と評価しているだけですから、高裁決定に対し「株主が自己の利益を追求して何が悪いんだ」という批判はあたらないように思います。
 したがって、買収者としては、①会社との対話や文書のやり取りのなかで、買収対象会社を真摯に経営しようとする意思を有していることが窺えるように工夫する、②第三者がみても買収対象会社の企業価値を高められると評価されるような提案をする、③買収対象会社を不安にさせるような行為をしないということ等に気をつけていれば、濫用的買収者と評価されることはないはずです。
 逆に、買収者が①経営陣にMBOを提案すれば、グリーンメーラーとみられるおそれがありますし、②会社の資産の売却を迫ろうとすれば、焦土化経営や一時的高配当狙いとみられるおそれがありますから、そのような提案については「梨花に冠を正さず」の精神が必要でしょう。
 もちろん、株主が、経営者に対し、遊休資産を売却し経営効率を高めるようアドバイスすること自体は悪いことではありませんが、アドバイスの域を超え、会社に不安を与えるようなやり方で要求するようになったときは、濫用的買収者というレッテルを張られる可能性が高まっていると考える方が無難です。

古道具屋 そうはいっても、皆、同じ穴の狢だろ。「濫用的買収者だ」と主張して、取締役会で防衛策を発動してみようかな。
Sammy 穴のあいた古道具と防衛策は使い物になりませんよ。人を呪わば穴2つ。「捨てずに生かす」のが古道具屋の真骨頂なのですから、投資ファンドとの関係も捨て去らずに、経営に生かしてください。

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