解説記事2007年10月08日 【会計基準等解説】 企業会計基準公開草案第21号「セグメント情報等の開示に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第26号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針(案)」について(2007年10月8日号・№230)

実務解説
企業会計基準公開草案第21号「セグメント情報等の開示に関する会計基準(案)」及び企業会計基準適用指針公開草案第26号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針(案)」について

 企業会計基準委員会 専門研究員 河本圭介

Ⅰ.はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、企業会計基準公開草案第21号「セグメント情報等の開示に関する会計基準(案)」(以下「会計基準案」という。)及び企業会計基準適用指針公開草案第26号「セグメント情報等の開示に関する会計基準の適用指針(案)」(以下「適用指針案」という。また会計基準案と適用指針案を合わせて、以下「本公開草案」という。)を平成19年9月4日に公表し、平成19年10月19日までコメントを募集している(脚注1)。
 以下では、本公開草案の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であること、また、本公開草案は最終的なものではなく今後変更される可能性があるが、最終的なものと同様の表現をしている場合があることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ.公表の経緯
 これまで我が国においては、連結財務諸表の注記事項として、「事業の種類別セグメント情報」、「所在地別セグメント情報」及び「海外売上高」の3つのセグメント情報が開示されてきた。これらの情報は、財務諸表利用者が多角化、国際化した企業の過去の業績及び将来の見込みについて適切な判断を下すために有用な情報を提供するものとされてきたが、一方で、「我が国を代表する大企業の2割近くが単一セグメント、もしくは重要性が低いとの理由で事業の種類別セグメントを作成しておらず、現行制度が十分に機能していないと思われる。」といった指摘(脚注2)もなされていた。
 また、ASBJと国際会計基準審議会(以下「IASB」という。)の共同プロジェクトでも、セグメント情報の開示は、平成17年3月に開催された共同プロジェクトの第1回会合において、第1フェーズの検討項目とされた。
 こうした状況を受けて、ASBJは、平成17年5月にセグメント情報開示に関するワーキング・グループを設置し、後述のマネジメント・アプローチの導入について検討を行った。その後、平成18年12月にセグメント情報開示専門委員会を設置し、従来基準の見直しに向けた本格的な審議を行って、今般本公開草案の公表に至ったものである。

Ⅲ.範 囲
 本公開草案は、すべての企業の連結財務諸表又は個別財務諸表(以下「財務諸表」という。)における次の事項の開示に適用する(以下(1)から(4)を合わせて「セグメント情報等」という。)(会計基準案第3項)。
(1)セグメント情報
(2)セグメント情報の関連情報
(3)固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報
(4)のれんに関する報告セグメント別情報
 従来、セグメント情報は連結財務諸表の注記情報として要求されてきたが、本公開草案では、マネジメント・アプローチの採用に伴い、個別財務諸表においても本公開草案を適用することとしている。ただし、連結財務諸表でセグメント情報の開示を行っている場合には、個別財務諸表での開示は求められない。

Ⅳ.基本原則
 本公開草案では、基本原則として、「セグメント情報等の開示は、財務諸表利用者が、企業の過去の業績を理解し、将来のキャッシュ・フローの予測を適切に評価できるように、企業が行う様々な事業活動の内容及びこれを行う経営環境に関して適切な情報を提供するものでなければならない。」旨を定めている(会計基準案第4項)。この基本原則は、本公開草案の適用にあたり常に留意するべきものとされている。

Ⅴ.セグメント情報の開示

1 マネジメント・アプローチの採用
 米国会計基準や国際財務報告基準では、経営上の意思決定を行い、業績を評価するために、経営者が企業を事業の構成単位に分別した方法を基礎とする「マネジメント・アプローチ」が導入されている。この方法は、米国財務会計基準書第131号「企業のセグメント及び関連情報に関する開示」(以下「SFAS第131号」という。)において導入された方法である。また、IASBも、国際財務報告基準第8号「事業セグメント」(以下「IFRS第8号」という。)(脚注3)を開発するにあたり、同アプローチを採用した。
 このマネジメント・アプローチの特徴は次のとおりであるとされている(会計基準案第44項)。

(1)企業の内部組織の構造、すなわち、最高経営意思決定機関が経営上の意思決定を行い、また、企業の業績を評価するために使用する事業部、部門、子会社又は他の内部単位に対応する企業の構成単位に関する情報を提供すること
(2)最高経営意思決定機関が業績を評価するために使用する報告において、特定の金額を配分している場合にのみ、当該金額を構成単位に配分すること
(3)セグメント情報を作成するために採用する会計方針は、最高経営意思決定機関が資源を配分し、業績を評価するための報告の中で使用するものと同一にすること

 なお、上記における「最高経営意思決定機関」とは、企業の事業セグメントに資源を配分しその業績を評価する機能を有する主体のことをいうと定義されている(会計基準案第8項)。具体的には、取締役会、執行役員会議といった会議体である場合や、最高経営責任者(CEO)又は最高執行責任者(COO)といった個人である場合などが考えられている(会計基準案第57項)。
 本公開草案では、上記のような特徴を有するマネジメント・アプローチの長所と短所を次のように分析している(表1参照)。

 本公開草案は、上表の長所と短所を比較検討した結果、財務諸表利用者が経営者の視点で企業を理解できる情報を財務諸表に開示することで、財務諸表利用者の意思決定にとってより有用な情報を提供することができると判断し、国際的な会計基準で採用されているマネジメント・アプローチを採用することとしている(会計基準案第48項)。

2 事業セグメントの識別  マネジメント・アプローチでは、企業の中で、経営者が経営上の意思決定を行い、また、業績を評価するために、企業の事業活動を区分した方法に基づいて、単一基準によるセグメント情報を財務諸表に開示することとしているが、本公開草案では、当該目的で経営者の設定する企業の構成単位を「事業セグメント」と称している。事業セグメントは、企業の構成単位で、次の要件のすべてに該当するものとされている(会計基準案第6項)。

(1)収益を稼得し、費用が発生する事業活動に関わるもの(同一企業内の他の構成単位との取引に関連する収益及び費用を含む。)
(2)企業の最高経営意思決定機関が、当該構成単位に配分すべき資源に関する意思決定を行い、また、その業績を評価するために、その経営成績を定期的に検討するもの
(3)分離した財務情報を入手できるもの


3 報告セグメントの決定  企業は、識別された個別の事業セグメント又は次の集約基準によって集約した事業セグメントの中から、量的基準に従って、報告すべきセグメント(以下「報告セグメント」という。)を決定する(会計基準案第9項)。
(1)集約基準
 複数の事業セグメントが次の要件のすべてを満たす場合、企業は当該事業セグメントを1つの事業セグメントに集約することができる。(会計基準案第10項)。

(1)当該事業セグメントを集約することが、セグメント情報を開示する基本原則と整合していること
(2)当該事業セグメントが類似の経済的特徴を有していること
(3)当該事業セグメントの次のすべての要素が類似していること
① 製品及びサービスの内容又は使用目的
② 製品及びサービスの製造方法又は製造過程
③ 製品及びサービスを販売する市場又は顧客の種類
④ 製品及びサービスの販売方法
⑤ 銀行、保険、公益事業等のような業種に特有な規制環境


(2)量的基準
 本公開草案では、報告セグメントを決定する際に考慮すべき量的基準値を次のように定めている(会計基準案第11項)。なお、当該基準値のいずれにも満たない事業セグメントを、報告セグメントとして開示することもできる。

企業は、次の量的基準のいずれかを満たす事業セグメントを報告セグメントとして開示しなければならない。
(1)売上高(セグメント間の内部売上高又は振替高を含む。)がすべての事業セグメントの売上高の合計額の10%以上であること(売上高には役務収益を含む。以下同じ。)
(2)利益又は損失の絶対値が、①利益の生じているすべての事業セグメントの利益の合計額、又は②損失の生じているすべての事業セグメントの損失の合計額の絶対値のいずれか大きい額の10%以上であること
(3)資産が、すべての事業セグメントの資産の合計額の10%以上であること

 本公開草案では、当該基準値を満たさない複数の事業セグメントを結合して報告セグメントとする場合の要件についても、国際的な会計基準と同様に定めている(会計基準案第12項)。この要件は、前出の集約基準の要件を緩和したものとなっている。
 また、本公開草案では、報告セグメントの外部顧客への売上高の合計額が連結損益計算書又は個別損益計算書(以下「損益計算書」という。)の売上高の75%未満である場合には、損益計算書の売上高の75%が報告セグメントに含まれるまで、報告セグメントとする事業セグメントを追加して識別することとされている(会計基準案第13項)。

4 セグメント情報の開示項目と測定方法
(1)報告セグメントの概要
 企業は、報告セグメントの概要として、①報告セグメントの決定方法、②各報告セグメントに属する製品及びサービスの種類を開示しなければならない(会計基準案第17項)。
(2)報告セグメントの利益(又は損失)、資産及び負債並びにその他の重要な項目の額及びその測定方法に関する事項  企業は、各報告セグメントについて、次の項目(表2参照)を開示しなければならない(会計基準案第18項から第21項)。また、その測定方法について一定の開示が求められている(会計基準案第23項)。

 各開示は、事業セグメントに資源を配分する意思決定を行い、その業績を評価する目的で、最高経営意思決定機関に報告される金額に基づいて行わなければならないとされている(会計基準案第22項)。財務諸表の作成にあたって行った修正や相殺消去、又は特定の収益、費用の配分は、最高経営意思決定機関が使用する事業セグメントの利益(又は損失)の算定に含まれている場合にのみ、報告セグメントの利益(又は損失)の額に含めることができる。この取扱いは、報告セグメントの資産及び負債の額についても同様である。
 ただし、特定の収益、費用、資産又は負債を各事業セグメントの利益(又は損失)、資産又は負債に配分する場合、企業は合理的な基準に従って配分しなければならない。適用指針案では、合理的な基準に関する一定の指針が示されている(適用指針案第12項)。
(3)差異調整に関する事項  企業は、報告セグメントの各開示項目について、報告セグメントの各開示項目の合計額とこれに対応する財務諸表計上額との差異調整に関する事項を開示しなければならない(会計基準案第24項)。

Ⅵ.関連情報の開示
 企業は、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き、次の事項をセグメント情報の関連情報として開示しなければならない。当該関連情報に開示される金額は、当該企業の財務諸表を作成するために採用した会計処理に基づく数値によるものである(脚注4)(会計基準案第28項)。
(1)製品及びサービスに関する情報
(2)地域に関する情報
(3)主要な顧客に関する情報
 当該関連情報を開示することで、マネジメント・アプローチに基づくセグメント情報の短所とされる企業間の比較可能性の問題に対処する補完的な情報を財務諸表利用者に提供すること
ができると考えられている(会計基準案第49項)。
 なお、適用指針案では、関連情報を開示するにあたって考慮すべき重要性の判断基準を定めている(適用指針案第14項から第17項)。
(1)製品及びサービスに関する情報  企業は、主要な個々の製品又はサービスあるいはこれらの同種・同系列のグループごとに、外部顧客への売上高を記載することとされている。なお、当該事項を開示することが実務上困難な場合には、当該事項の開示に代えて、その旨及びその理由を注記しなければならない(会計基準案第29項)。
(2)地域に関する情報  企業は、事業活動を行う地域について、次の事項を記載することとされている。なお、当該事項を開示することが実務上困難な場合には、当該事項に代えて、その旨及びその理由を注記しなければならない(会計基準案第30項)。
① 国内の外部顧客への売上高に分類した額と海外の外部顧客への売上高に分類した額
 主要な外国がある場合には、これを区分して開示しなければならない。
 各区分に売上高を分類した基準についても記載する。
② 国内に所在している有形固定資産の額と海外に所在している有形固定資産の額
 主要な外国がある場合には、これを区分して開示しなければならない。
(3)主要な顧客に関する情報  企業は、主要な顧客がある場合には、その旨、当該顧客の名称又は氏名、当該顧客への売上高及び当該顧客との取引に関連する主な報告セグメントの名称を記載することとされている(会計基準案第31項)。
 主要な顧客に該当するかどうかの判断にあたり、同一の企業集団に属する顧客への売上高については、企業が知り得る限り、これを集約して主要な顧客に該当するか否かを判断することが望ましいとされている(会計基準案第84項)。

Ⅶ.固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報の開示
 企業は、損益計算書に固定資産の減損損失を計上している場合には、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き、報告セグメント別の内訳を開示しなければならない(会計基準案第32項)。

Ⅷ.のれんに関する報告セグメント別情報の開示
 企業は、損益計算書にのれんの償却額又は負ののれんの償却額を計上している場合には、セグメント情報の中で同様の情報が開示されている場合を除き、のれんの償却額及び未償却残高並びに負ののれんの償却額及び未償却残高について報告セグメント別の内訳を開示しなければならない(会計基準案第33項)。

Ⅸ.適用時期
 適用時期については、財務諸表作成者ほか各関係者における受入準備が必要であることを考慮して、平成22年4月1日以後開始する連結会計年度及び事業年度から適用することとされている(会計基準案第34項)。
(かわもと・けいすけ)

脚注
1 ASBJのホームページ(http://www.asb.or.jp/html/documents/exposure_draft/ed21-segments/)を参照。
2 平成13年11月にテーマ協議会がASBJに対して提言した「第1回テーマ協議会提言書」より抜粋。
3 IASBは、マネジメント・アプローチを採用したIFRS第8号を2006年11月に公表している。
4 この扱いは、「Ⅶ.固定資産の減損損失に関する報告セグメント別情報の開示」、「Ⅷ.のれんに関する報告セグメント別情報の開示」においても同様である。

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