解説記事2007年10月29日 【編集部解説】 役員報酬・賞与に係る商法(会社法)・企業会計・税法上の取扱いの変遷について(2007年10月29日号・№232)
解説
役員報酬・賞与に係る商法(会社法)・企業会計・税法上の取扱いの変遷について
text T&Amaster編集部 佐治俊夫
わが国の企業法制、企業会計、企業税制において、役員報酬・役員賞与の取扱いはこの数年間で激変した。平成14年改正前商法は、取締役の報酬額を「定款の定めによらない場合には株主総会の決議により定めるもの」と規定していただけだったが、平成14年の商法改正において、業績連動型の報酬(額が不確定なもの)や現物報酬についても一律に適用されることを明確化させている。また、会社法の施行では、役員賞与についても、役員に対する他の財産上の利益の供与と同様に、会社法361条等の「報酬等」に含まれることになった。
企業会計においては、狭義の役員報酬(毎月定額で支払われるもの)については、費用計上としていたが、役員賞与については、利益処分として支払われる慣行があった。しかしながら、会社法上、役員賞与もまた職務執行の対価として会社法の規制を受けることを踏まえ、役員賞与に関する会計基準(平成17年11月29日)では、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」ことになった。
法人税法においては、役員報酬・役員賞与について、法人税法固有の基準に基づいて損金算入・損金不算入の取扱いを規定していた。過大な役員報酬等について損金不算入とするほか、損金不算入となる役員賞与の判定については、定時・定額基準(旧法基通9-2-13)を設けて、その超える部分の金額を臨時的な給与として損金不算入としてきたものである。会社法の施行に即した平成18年度税制改正では、損金に算入することができる①定期同額給与、②事前確定届出給与、③利益連動給与の要件を規定し、これらに該当しないものについて損金不算入とする取扱いに改めた。
法制、会計、税制の取扱いが大きく見直されてきた役員報酬・賞与の取扱いの変遷について、検証を試みることにする。
Ⅰ 平成14年商法改正前の役員報酬・役員賞与の取扱い
1.旧商法上の取扱い 平成14年改正前の商法269条では、「取締役ガ受クベキ報酬ハ定款ニ其ノ額ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム」と規定していた。
取締役の報酬は取締役の職務執行に対する対価であり、取締役の賞与は職務執行の対価ではなく、それぞれの決算期における利益に対する功労に報いるためのものであり、利益処分であると考えられていた。
また、平成14年商法改正で不確定額の報酬などが明記されたことからすると、改正前は、取締役の報酬は確定額で定めることが求められていたと考えられる。
POINT
役員報酬額の規律は確定額が前提に
2.会計上の取扱い わが国の会計は、役員報酬については発生時に費用として計上し、役員賞与については利益処分により未処分利益を減少させることとして取り扱ってきた。
POINT
役員報酬⇒費用計上
役員賞与⇒利益処分
3.税制上の取扱い 法人税法は、役員報酬について不相当に高額なものは損金不算入と規定していた(改正前法人税法34条)。また、役員賞与については、損金の額に算入しない旨を規定していた(改正前法人税法35条)。役員報酬と役員賞与の区分については、賞与を「臨時的な給与」をいうものとし、定時・同額に支給されるものを「定期の給与」として取り扱ってきた(旧法人税基本通達9-2-13)。
POINT
定期(定時・同額)の役員給与⇒損金算入
臨時的な役員給与⇒損金不算入
Ⅱ 平成14年の商法改正による役員報酬の取扱い
1.旧商法上の取扱い 平成14年の商法改正では、取締役の報酬の決定について、次のように改正された。
商法269条【報酬の決定】
① 取締役ガ受クベキ報酬ニ付テノ左ニ掲グル事項ハ定款ニ之ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
一 報酬中額ガ確定シタルモノニ付テハ其ノ額
二 報酬中額ガ確定セザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル算定ノ方法
三 報酬中金銭ニ非ザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル内容
② 株主総会ニ前項第二号又ハ第三号ニ規定スル報酬ノ新設又ハ改定ニ関スル議案ヲ提出シタル取締役ハ其ノ株主総会に於テ其ノ報酬ヲ相当トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス
業績連動型報酬や現物支給の報酬についても、認められると同時に、取締役の報酬としての規制を受けることが規定された。
POINT
業績連動型報酬や現物報酬を一律に規定
2.会計上の取扱い 商法改正により業績連動型報酬が認められることになったが、業績連動型の報酬については、内容的に賞与との区分が困難であること、および平成14年商法改正で委員会等設置会社が創設されたが、委員会等設置会社においては、利益処分として取締役等に金銭の分配をすることができない(取締役等に対する支給は、すべて発生時に費用として会計処理される)、ということで、役員賞与の会計処理のあり方が検討されることになった。
企業会計基準委員会は平成16年3月9日、「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」を公表し、「会計上、役員賞与は発生時に費用として会計処理することが適当であると考えられるに至ったが、これまでの実務では、株主総会の利益処分案決議(旧商法283条1項)により未処分利益の減少として会計処理する慣行があることから、当面の間、利益処分による(費用処理しない)ことも認められる」との考え方を明らかにした。
また、改正商法により認められた業績連動型の報酬については、「当期の職務に係るものは、時期に支給が行われる場合でも当期の費用として未払役員報酬等に計上されることとなる。」として、発生基準に基づいて費用に計上することが確認されている。
POINT
理屈は費用計上だが、実務慣行にも配慮
3.税制上の取扱い 平成14年の商法改正については、特段に税制上の手当ては行われていない。
Ⅲ 会社法の施行(平成18年5月)における役員報酬・役員給与の取扱い
1.会社法上の取扱い 平成18年5月に施行された会社法では、取締役の報酬等の決定について、下記のように規定された。
会社法では、取締役の報酬、賞与を職務執行の対価として、一律に規制することになった。
また、役員賞与以外の利益処分案に盛り込まれる事項については、剰余金の配当、資本の部の計数変動等を決算の確定手続とは無関係に随時行うことができると整理しているため、利益処分案(利益処分計算書)の作成は不要となり、株主資本の各項目の変動を明らかにする株主資本等変動計算書が計算書類として規定されることになった。役員賞与の会計処理について剰余金を直接減少させることを禁ずる明文規定も設けられていないものの、企業会計における役員賞与の会計処理とあいまって、利益処分による役員賞与の支給は認められないものになった(職務執行の対価として費用処理することが義務付けられた)。
POINT
役員報酬も賞与も職務執行の対価
2.会計上の取扱い 会社法が、役員賞与を役員報酬とともに職務執行の対価として一律に規定したことを踏まえ、企業会計基準委員会は平成17年11月29日、「役員賞与に関する会計基準」を公表した。「役員賞与に関する会計基準」では、「当面の取扱い」で検討してきた役員賞与と役員報酬の類似性、および会社法に規定された役員賞与と役員報酬の支給手続(同一の手続)を理由に挙げ、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」ことを明記した。
POINT
役員賞与の費用計上を明記
3.税制上の取扱い 会社法の施行および「役員賞与に関する会計基準」の公表に対応して、法人税法は役員給与の損金算入のあり方の見直しを行った。改正前までは定期の給与(定時・定額)だけが損金算入されていたが、新たに①定期同額給与、②事前確定届出給与、③利益連動給与の要件を定め、これらに該当しないものについて、役員給与(役員報酬・賞与)は損金算入できないものと規定された(法人税法34条)。
この法人税法の改正により、盆暮れなどに付加的に支給されるいわゆる賞与についても、事前確定届出給与に該当する場合には役員給与の損金算入が可能となった。また、業績連動型報酬についても、利益連動給与に該当する場合には、役員給与の損金算入が可能となった。一方で、会社法が役員給与(報酬・賞与)を業務執行の対価と位置付けていることから、会社と当該役員の法律関係(委任関係)を重視し、法律関係を重視した定期同額給与の要件を設定している(給与の改定に制限を設けている)。
POINT
①定期同額給与、②事前確定届出給与、③利益連動給与を損金算入
Ⅳ ストック・オプションと役員報酬・役員賞与
1.ストック・オプション制度の導入(会社法施行前) 役員報酬・賞与の取扱いの変遷を検証するにあたって、役員に対して付与されたストック・オプション(以下「SO」という)の位置付けを検証しておきたい。SOにはさまざまな側面があり、役員に付与されたSOは役員報酬・賞与に該当するのか? 課税関係は? どのように測定(課税)するのか? など、役員報酬・賞与の取扱いを検証するうえで関連してくるからである。
(1)旧商法上の取扱い わが国では、平成9年商法改正により、SO制度が導入され(自己株式方式・新株引受権方式)、平成13年商法改正では、それが新株予約権の発行の一形態として整備された。SOは、インセンティブ報酬という性格を有しているものの、旧商法においては、SOで支給される経済的利益は旧商法269条の報酬には該当しないというものと整理されていた。したがって、会社法施行前においては、役員に付与するSOは、通常、無償で発行され対価の認識をしないことから、新株予約権の有利発行として株主総会の特別決議等を要することにはなるが、旧商法269条の手続(報酬の決定)は要しないものとされていた。
POINT
会社法前のSOは報酬とは別物
(2)企業会計上の取扱い SOの報酬としての性格付けがあいまいであった会社法施行前においては、「ストック・オプション等に関する会計基準」が設定(平成17年12月27日)されるまでの当面の会計処理として、「無償で付与される新株予約権の場合には、負債は認識せず費用の認識も行わないものと考えられる。」との企業会計基準委員会の実務対応報告「新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」が公表(平成14年3月29日)されていた。SOを付与した会社では、SOを付与しても現金その他の資産の社外流出を生じず、新旧株主間における経済的価値の移転(旧株主が持分の希薄化により直接コストを負担するもの)としてとらえれば、必ずしも会計上の仕訳を要することもなかった。
POINT
SOの付与では仕訳をきらず
(3)税制上の取扱い SOの付与を受けた者の所得税法上の課税は、権利行使時に払込金額と取得した株式の時価との差額について課税されるのを原則とし(所得税法36条、所得税法施行令84条)、税制適格SOについては、権利行使により取得した株式を譲渡した時に譲渡所得として課税されることとされていた(措法29条の2)。
SOを付与した法人側の課税は、企業会計が特に会計処理を明示していなかったことなどから、特段の規定が設けられていなかった。企業会計が費用として認識しないものを法人税法が特段に損金に算入することもなく、また、付与を受けた者との課税関係の整合性に着目しても、権利行使時(あるいは譲渡時)における経済的利益は「定時・定額基準」を満たすものとは考えられず、少なくとも役員に対して付与されたSOに係る経済的利益が、SOを付与した法人において損金に算入されると考える余地はなかったことになる。
POINT
付与法人の税制は用意されず
2.会社法施行後の取扱い
(1)会社法上の取扱い 会社法では、SO目的での新株予約権の付与は、広い意味での「職務執行の対価」として付与されるものと整理されている。したがって、旧商法269条を引き継いだ会社法361条では「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」を「報酬等」として、一律の規制を受けることにした。「報酬等」にはSOの付与が含まれることになり、取締役に対してSO目的で新株予約権を付与するためには、会社法361条の株主総会の決議(定款に当該事項を定めていないとき)をとることが必要になった。
また、付与を受けた者の払込価額を無償とする場合であっても、SOの付与が適正な役務の対価と評価し得る場合には、有利発行には当たらないと考えられるようにもなっている。この場合には、有利発行に伴う規制(株主総会における特別決議)をとることは要さないことになる。
POINT
SOの付与も報酬(職務執行の対価)に
(2)企業会計上の取扱い 企業会計基準委員会は、「ストック・オプション等に関する会計基準」を公表(平成17年12月27日)した。当該会計基準では、SOを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、SOの権利の行使または執行が確定する間での間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上する会計処理の考え方が示されることになった。
各会計期間における費用計上額は、SOの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額としている。
企業会計がこのように費用計上の考え方をとったことには、会社法と同様に、SOを対価として企業は従業員等から提供された役務を消費したと考えたことである。また、SOの付与にインセンティブ報酬としての性格があることや、結果的に新旧株主間における経済的価値の移転であるとしても、SOの付与は、会社と従業員等との契約(雇用)関係に基づくものであり、会社への役務の提供に着目する必要があった(SOの付与を受けた者は株主に直接役務を提供するものではない)ともいえるだろう。
POINT
SO付与法人で費用計上
(3)税制上の取扱い SOの付与を受けた者の所得税法上の課税関係は、実務的には変わっていない。すなわち、権利行使時に払込金額と取得した株式の時価との差額について課税されるのを原則とし(所得税法36条、所得税法施行令84条)、税制適格SOについては、権利行使により取得した株式を譲渡した時に譲渡所得として課税される。
しかしながら、会社法が新株予約権の付与方法を多様化し、SOの付与については、無償であっても必ずしも有利発行に該当しないケースもあるとしていることから、SO付与の原則的な課税関係を規定する所得税法施行令84条について、「有利発行による場合又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるもの(新株予約権)」と規定し、限定(対象の明確化)が図られている。
SOを付与した法人側の課税関係は、企業会計が費用計上としたことから、平成18年度税制改正において、対応する規定が設けられた(法人税法54条)。
付与を受けた者の所得税が権利行使時に給与所得課税されるのが原則であることに対応し、付与した法人では、給与等課税事由が生じた日において、当該役務の提供を受けたものとして、法人税法の規定を適用するというものである。企業会計上の費用計上のタイミングでは損金に算入させずに、権利行使時において(すなわち、付与された者が給与所得課税された日において)、法人側でも、給与として取り扱うことになる。役員に付与されたSOについては、損金算入されるためには、別途、役員給与の損金算入条件(法人税法34条)を満たす必要がある。
また、付与された者が税制適格SOに該当するものとして、給与所得課税されない場合には、付与した法人側において、損金の額に算入されない旨規定された。
POINT
非適格SO付与法人は権利行使時で給与としての取扱い
適格SO付与法人は損金に算入できず (さじ・としお)
役員報酬・賞与に係る商法(会社法)・企業会計・税法上の取扱いの変遷について
text T&Amaster編集部 佐治俊夫
わが国の企業法制、企業会計、企業税制において、役員報酬・役員賞与の取扱いはこの数年間で激変した。平成14年改正前商法は、取締役の報酬額を「定款の定めによらない場合には株主総会の決議により定めるもの」と規定していただけだったが、平成14年の商法改正において、業績連動型の報酬(額が不確定なもの)や現物報酬についても一律に適用されることを明確化させている。また、会社法の施行では、役員賞与についても、役員に対する他の財産上の利益の供与と同様に、会社法361条等の「報酬等」に含まれることになった。
企業会計においては、狭義の役員報酬(毎月定額で支払われるもの)については、費用計上としていたが、役員賞与については、利益処分として支払われる慣行があった。しかしながら、会社法上、役員賞与もまた職務執行の対価として会社法の規制を受けることを踏まえ、役員賞与に関する会計基準(平成17年11月29日)では、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」ことになった。
法人税法においては、役員報酬・役員賞与について、法人税法固有の基準に基づいて損金算入・損金不算入の取扱いを規定していた。過大な役員報酬等について損金不算入とするほか、損金不算入となる役員賞与の判定については、定時・定額基準(旧法基通9-2-13)を設けて、その超える部分の金額を臨時的な給与として損金不算入としてきたものである。会社法の施行に即した平成18年度税制改正では、損金に算入することができる①定期同額給与、②事前確定届出給与、③利益連動給与の要件を規定し、これらに該当しないものについて損金不算入とする取扱いに改めた。
法制、会計、税制の取扱いが大きく見直されてきた役員報酬・賞与の取扱いの変遷について、検証を試みることにする。
Ⅰ 平成14年商法改正前の役員報酬・役員賞与の取扱い
1.旧商法上の取扱い 平成14年改正前の商法269条では、「取締役ガ受クベキ報酬ハ定款ニ其ノ額ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム」と規定していた。
取締役の報酬は取締役の職務執行に対する対価であり、取締役の賞与は職務執行の対価ではなく、それぞれの決算期における利益に対する功労に報いるためのものであり、利益処分であると考えられていた。
また、平成14年商法改正で不確定額の報酬などが明記されたことからすると、改正前は、取締役の報酬は確定額で定めることが求められていたと考えられる。
POINT
役員報酬額の規律は確定額が前提に
2.会計上の取扱い わが国の会計は、役員報酬については発生時に費用として計上し、役員賞与については利益処分により未処分利益を減少させることとして取り扱ってきた。
POINT
役員報酬⇒費用計上
役員賞与⇒利益処分
3.税制上の取扱い 法人税法は、役員報酬について不相当に高額なものは損金不算入と規定していた(改正前法人税法34条)。また、役員賞与については、損金の額に算入しない旨を規定していた(改正前法人税法35条)。役員報酬と役員賞与の区分については、賞与を「臨時的な給与」をいうものとし、定時・同額に支給されるものを「定期の給与」として取り扱ってきた(旧法人税基本通達9-2-13)。
POINT
定期(定時・同額)の役員給与⇒損金算入
臨時的な役員給与⇒損金不算入
Ⅱ 平成14年の商法改正による役員報酬の取扱い
1.旧商法上の取扱い 平成14年の商法改正では、取締役の報酬の決定について、次のように改正された。
商法269条【報酬の決定】
① 取締役ガ受クベキ報酬ニ付テノ左ニ掲グル事項ハ定款ニ之ヲ定メザリシトキハ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ定ム
一 報酬中額ガ確定シタルモノニ付テハ其ノ額
二 報酬中額ガ確定セザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル算定ノ方法
三 報酬中金銭ニ非ザルモノニ付テハ其ノ具体的ナル内容
② 株主総会ニ前項第二号又ハ第三号ニ規定スル報酬ノ新設又ハ改定ニ関スル議案ヲ提出シタル取締役ハ其ノ株主総会に於テ其ノ報酬ヲ相当トスル理由ヲ開示スルコトヲ要ス
業績連動型報酬や現物支給の報酬についても、認められると同時に、取締役の報酬としての規制を受けることが規定された。
POINT
業績連動型報酬や現物報酬を一律に規定
2.会計上の取扱い 商法改正により業績連動型報酬が認められることになったが、業績連動型の報酬については、内容的に賞与との区分が困難であること、および平成14年商法改正で委員会等設置会社が創設されたが、委員会等設置会社においては、利益処分として取締役等に金銭の分配をすることができない(取締役等に対する支給は、すべて発生時に費用として会計処理される)、ということで、役員賞与の会計処理のあり方が検討されることになった。
企業会計基準委員会は平成16年3月9日、「役員賞与の会計処理に関する当面の取扱い」を公表し、「会計上、役員賞与は発生時に費用として会計処理することが適当であると考えられるに至ったが、これまでの実務では、株主総会の利益処分案決議(旧商法283条1項)により未処分利益の減少として会計処理する慣行があることから、当面の間、利益処分による(費用処理しない)ことも認められる」との考え方を明らかにした。
また、改正商法により認められた業績連動型の報酬については、「当期の職務に係るものは、時期に支給が行われる場合でも当期の費用として未払役員報酬等に計上されることとなる。」として、発生基準に基づいて費用に計上することが確認されている。
POINT
理屈は費用計上だが、実務慣行にも配慮
3.税制上の取扱い 平成14年の商法改正については、特段に税制上の手当ては行われていない。
Ⅲ 会社法の施行(平成18年5月)における役員報酬・役員給与の取扱い
1.会社法上の取扱い 平成18年5月に施行された会社法では、取締役の報酬等の決定について、下記のように規定された。
会社法では、取締役の報酬、賞与を職務執行の対価として、一律に規制することになった。
また、役員賞与以外の利益処分案に盛り込まれる事項については、剰余金の配当、資本の部の計数変動等を決算の確定手続とは無関係に随時行うことができると整理しているため、利益処分案(利益処分計算書)の作成は不要となり、株主資本の各項目の変動を明らかにする株主資本等変動計算書が計算書類として規定されることになった。役員賞与の会計処理について剰余金を直接減少させることを禁ずる明文規定も設けられていないものの、企業会計における役員賞与の会計処理とあいまって、利益処分による役員賞与の支給は認められないものになった(職務執行の対価として費用処理することが義務付けられた)。

POINT
役員報酬も賞与も職務執行の対価
2.会計上の取扱い 会社法が、役員賞与を役員報酬とともに職務執行の対価として一律に規定したことを踏まえ、企業会計基準委員会は平成17年11月29日、「役員賞与に関する会計基準」を公表した。「役員賞与に関する会計基準」では、「当面の取扱い」で検討してきた役員賞与と役員報酬の類似性、および会社法に規定された役員賞与と役員報酬の支給手続(同一の手続)を理由に挙げ、「役員賞与は、発生した会計期間の費用として処理する。」ことを明記した。
POINT
役員賞与の費用計上を明記
3.税制上の取扱い 会社法の施行および「役員賞与に関する会計基準」の公表に対応して、法人税法は役員給与の損金算入のあり方の見直しを行った。改正前までは定期の給与(定時・定額)だけが損金算入されていたが、新たに①定期同額給与、②事前確定届出給与、③利益連動給与の要件を定め、これらに該当しないものについて、役員給与(役員報酬・賞与)は損金算入できないものと規定された(法人税法34条)。
この法人税法の改正により、盆暮れなどに付加的に支給されるいわゆる賞与についても、事前確定届出給与に該当する場合には役員給与の損金算入が可能となった。また、業績連動型報酬についても、利益連動給与に該当する場合には、役員給与の損金算入が可能となった。一方で、会社法が役員給与(報酬・賞与)を業務執行の対価と位置付けていることから、会社と当該役員の法律関係(委任関係)を重視し、法律関係を重視した定期同額給与の要件を設定している(給与の改定に制限を設けている)。
POINT
①定期同額給与、②事前確定届出給与、③利益連動給与を損金算入
Ⅳ ストック・オプションと役員報酬・役員賞与
1.ストック・オプション制度の導入(会社法施行前) 役員報酬・賞与の取扱いの変遷を検証するにあたって、役員に対して付与されたストック・オプション(以下「SO」という)の位置付けを検証しておきたい。SOにはさまざまな側面があり、役員に付与されたSOは役員報酬・賞与に該当するのか? 課税関係は? どのように測定(課税)するのか? など、役員報酬・賞与の取扱いを検証するうえで関連してくるからである。
(1)旧商法上の取扱い わが国では、平成9年商法改正により、SO制度が導入され(自己株式方式・新株引受権方式)、平成13年商法改正では、それが新株予約権の発行の一形態として整備された。SOは、インセンティブ報酬という性格を有しているものの、旧商法においては、SOで支給される経済的利益は旧商法269条の報酬には該当しないというものと整理されていた。したがって、会社法施行前においては、役員に付与するSOは、通常、無償で発行され対価の認識をしないことから、新株予約権の有利発行として株主総会の特別決議等を要することにはなるが、旧商法269条の手続(報酬の決定)は要しないものとされていた。
POINT
会社法前のSOは報酬とは別物
(2)企業会計上の取扱い SOの報酬としての性格付けがあいまいであった会社法施行前においては、「ストック・オプション等に関する会計基準」が設定(平成17年12月27日)されるまでの当面の会計処理として、「無償で付与される新株予約権の場合には、負債は認識せず費用の認識も行わないものと考えられる。」との企業会計基準委員会の実務対応報告「新株予約権及び新株予約権付社債の会計処理に関する実務上の取扱い」が公表(平成14年3月29日)されていた。SOを付与した会社では、SOを付与しても現金その他の資産の社外流出を生じず、新旧株主間における経済的価値の移転(旧株主が持分の希薄化により直接コストを負担するもの)としてとらえれば、必ずしも会計上の仕訳を要することもなかった。
POINT
SOの付与では仕訳をきらず
(3)税制上の取扱い SOの付与を受けた者の所得税法上の課税は、権利行使時に払込金額と取得した株式の時価との差額について課税されるのを原則とし(所得税法36条、所得税法施行令84条)、税制適格SOについては、権利行使により取得した株式を譲渡した時に譲渡所得として課税されることとされていた(措法29条の2)。
SOを付与した法人側の課税は、企業会計が特に会計処理を明示していなかったことなどから、特段の規定が設けられていなかった。企業会計が費用として認識しないものを法人税法が特段に損金に算入することもなく、また、付与を受けた者との課税関係の整合性に着目しても、権利行使時(あるいは譲渡時)における経済的利益は「定時・定額基準」を満たすものとは考えられず、少なくとも役員に対して付与されたSOに係る経済的利益が、SOを付与した法人において損金に算入されると考える余地はなかったことになる。
POINT
付与法人の税制は用意されず
2.会社法施行後の取扱い
(1)会社法上の取扱い 会社法では、SO目的での新株予約権の付与は、広い意味での「職務執行の対価」として付与されるものと整理されている。したがって、旧商法269条を引き継いだ会社法361条では「取締役の報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」を「報酬等」として、一律の規制を受けることにした。「報酬等」にはSOの付与が含まれることになり、取締役に対してSO目的で新株予約権を付与するためには、会社法361条の株主総会の決議(定款に当該事項を定めていないとき)をとることが必要になった。
また、付与を受けた者の払込価額を無償とする場合であっても、SOの付与が適正な役務の対価と評価し得る場合には、有利発行には当たらないと考えられるようにもなっている。この場合には、有利発行に伴う規制(株主総会における特別決議)をとることは要さないことになる。
POINT
SOの付与も報酬(職務執行の対価)に
(2)企業会計上の取扱い 企業会計基準委員会は、「ストック・オプション等に関する会計基準」を公表(平成17年12月27日)した。当該会計基準では、SOを付与し、これに応じて企業が従業員等から取得するサービスは、その取得に応じて費用として計上し、対応する金額を、SOの権利の行使または執行が確定する間での間、貸借対照表の純資産の部に新株予約権として計上する会計処理の考え方が示されることになった。
各会計期間における費用計上額は、SOの公正な評価額のうち、対象勤務期間を基礎とする方法その他の合理的な方法に基づき当期に発生したと認められる額としている。
企業会計がこのように費用計上の考え方をとったことには、会社法と同様に、SOを対価として企業は従業員等から提供された役務を消費したと考えたことである。また、SOの付与にインセンティブ報酬としての性格があることや、結果的に新旧株主間における経済的価値の移転であるとしても、SOの付与は、会社と従業員等との契約(雇用)関係に基づくものであり、会社への役務の提供に着目する必要があった(SOの付与を受けた者は株主に直接役務を提供するものではない)ともいえるだろう。
POINT
SO付与法人で費用計上
(3)税制上の取扱い SOの付与を受けた者の所得税法上の課税関係は、実務的には変わっていない。すなわち、権利行使時に払込金額と取得した株式の時価との差額について課税されるのを原則とし(所得税法36条、所得税法施行令84条)、税制適格SOについては、権利行使により取得した株式を譲渡した時に譲渡所得として課税される。
しかしながら、会社法が新株予約権の付与方法を多様化し、SOの付与については、無償であっても必ずしも有利発行に該当しないケースもあるとしていることから、SO付与の原則的な課税関係を規定する所得税法施行令84条について、「有利発行による場合又は役務の提供その他の行為による対価の全部若しくは一部であることとされるもの(新株予約権)」と規定し、限定(対象の明確化)が図られている。
SOを付与した法人側の課税関係は、企業会計が費用計上としたことから、平成18年度税制改正において、対応する規定が設けられた(法人税法54条)。
付与を受けた者の所得税が権利行使時に給与所得課税されるのが原則であることに対応し、付与した法人では、給与等課税事由が生じた日において、当該役務の提供を受けたものとして、法人税法の規定を適用するというものである。企業会計上の費用計上のタイミングでは損金に算入させずに、権利行使時において(すなわち、付与された者が給与所得課税された日において)、法人側でも、給与として取り扱うことになる。役員に付与されたSOについては、損金算入されるためには、別途、役員給与の損金算入条件(法人税法34条)を満たす必要がある。
また、付与された者が税制適格SOに該当するものとして、給与所得課税されない場合には、付与した法人側において、損金の額に算入されない旨規定された。
POINT
非適格SO付与法人は権利行使時で給与としての取扱い
適格SO付与法人は損金に算入できず (さじ・としお)
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