解説記事2008年04月14日 【制度解説】 IOSCO・マルチMOU(多国間情報交換枠組み)への署名とその意義(2008年4月14日号・№254)
解説
IOSCO・マルチMOU(多国間情報交換枠組み)への署名とその意義
金融庁総務企画局総務課国際室課長補佐 水川明大
Ⅰ はじめに
金融庁は2008年2月、IOSCO(証券監督者国際機構)が策定した枠組みである各国証券監督当局間の「協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書」(Multilateral Memorandum of Understanding concerning Consultation and Cooperation and the Exchange of Information)(以下「マルチMOU」という)の署名当局となり、世界中の証券監督当局との情報交換協力ネットワークを構築した。
本稿では、このマルチMOU署名はどのような意義を有するのか、署名に至るまでの経緯なども併せて解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であるので、あらかじめお断りしておく。
Ⅱ 証券規制当局間の国際協力の必要性の高まり
近年、証券取引のクロスボーダー化は加速度的に進展しているが、これに伴い、市場不正行為も国境を越えて行われるようになっている。
たとえば、現在は、ある国の市場に上場している証券の取引はその国の投資家のみならず、外国の投資家も購入等することができる。このこと自体は、投資家の投資機会の幅を広げるとともに、取引所や証券会社などのビジネス機会の拡大に寄与することなどから一般的に望ましいことであるが、他方、ある国の市場における取引について、インサイダー取引や相場操縦などの不正行為に外国の者が関与しているということも現実に発生するようになっており、市場の公正性をいかに確保するかという点で、重大な問題を突き付けている。
証券取引のグローバル化は、今後もますます進展することは確実であり、したがって、クロスボーダーでの市場不正行為が起こる蓋然性も、それに伴い、ますます高まっているものといえる。
このような国境を越えて行われる不正取引に対し、規制・法執行当局として適切に対応し、取引の公正性や市場の健全性を確保するためには、諸外国の証券監督当局と必要に応じて適宜、円滑に情報交換協力が行えることが不可欠となっている。
たとえば、A国の市場に上場されている証券についてなされたB国からの発注に関して不正取引の疑いがある場合には、その不正取引の実態の解明・調査などのために、A国の規制当局は、その取引に関する情報(たとえば、取引記録やBeneficial ownersに関する情報)が必要となるが、こういった情報は通常、A国の当局自らが直接、B国の関係者から取得することはできない。この場合は、B国の規制当局の協力が不可欠であり、B国の当局から必要な情報の提供を受けられることが必要となる。
このような協力の必要性は、各国が相互に必要とするものであり、相互協力・情報交換の枠組みを構築することが、世界各国の証券監督当局にとって、きわめて重要となっている。
Ⅲ IOSCOによるマルチMOUの策定
このような背景から、各国の証券当局は、相互に情報交換協力を行うことを約し、円滑な情報交換が行えるよう、必要な諸事項(支援の範囲や提供情報の取扱い等)を取り決めた枠組みを締結するようになった。この協力枠組み文書のことを、通常、Memorandum of Understandingと呼び、証券規制当局間では、通常、その頭文字をとって「MOU」と読んでいる。
当初、各国の当局は二国間ベースでMOUを結んでいたが、金融庁も、市場のつながりや相手国との関係の重要性、地域的な観点を踏まえて、1997年から2006年までにかけ、表に掲げたように、各証券規制当局との間で二国間ベースでのMOUを締結してきた。
その一方、証券取引のクロスボーダー化の進展により、特定の国との二国間ベースにとどまらず、いかなる国とも適宜、情報交換協力を提供し合えることが必要という認識が各国の証券当局間で共有されるようになり、こうした問題意識の高まりを受けて、世界の証券規制当局で構成されるIOSCOは、多国間ベースの情報交換の枠組みの構築に取り組み、2002年5月、前述の「マルチMOU」を策定したところである。
このマルチMOUにおいては、署名当局間の相互主義に基づく協力の意図が明確にされるとともに、情報交換協力の範囲、情報提供要請の手法、提供した情報の取扱い(使用や守秘)などが規定され、いわば情報交換協力のスタンダードを設定しており、これに沿って円滑な情報交換協力が行われることが企図されている。
マルチMOUは、その規定にも明記されているとおり、条約や協定のように法的拘束力を有するものではないが、この枠組みに参加した当局は、マルチMOUに規定されているような情報交換を行い合うことを約束しているのであり、その意味で協力の義務を負っているといえるだろう。
Ⅳ IOSCOによるマルチMOUのグローバル化の推進
1.2005年4月・コロンボ総会における決議 マルチMOUの策定当初は、この枠組みへの参加は各当局の自主的な判断に任せられていたが、その後、IOSCOでは、メンバーにマルチMOU署名を義務付ける動きが加速し、2005年4月のコロンボ総会において、IOSCOの全メンバーに対し、以下を求める決議がなされた。
① 早急にIOSCO・MOUに署名申請し、審査プロセスを完了すること。
② 2010年1月1日までに、IOSCO・MOUの署名当局となること。または、遅くとも2010年1月1日までに、IOSCO・MOUの付属文書Bに基づき、IOSCO・MOUへの署名を可能とする必要な法的権限を追求する(seek)公式のコミットメントを行うこと。 この決議は、一言でいえば、「全IOSCOメンバーに対するマルチMOUへの署名(将来的な署名の約束を含む)の義務付け」である。これについて若干補足すると、次のとおりとなる。
(1)決議①の意味 まず、マルチMOUへの署名を果たすためには、外国当局との情報交換協力に関する法制について、IOSCOによる審査を受け、マルチMOUに基づく情報交換が可能であるとの承認を受けなければならない。
すなわち、外国の要請に応じて必要な情報を取得し、提供できる権限を有しているか否かが審査され、マルチMOUで想定されている情報提供協力ができる当局であることをIOSCOに認めてもらうことが、マルチMOUへの署名を果たす要件となっている。上記決議の①で述べているのは、この「審査」プロセスに早急に入り、完了せよという趣旨である。
(2)決議②の意味 次に、決議②で述べているように、IOSCOのメンバーは、2010年1月1日までに審査を受け、マルチMOUに署名するに足る法制を有していると認められることが求められた。
すなわち、各メンバーは、マルチMOUに規定するような情報交換が行えるような法制を整備し、その点をIOSCOに承認してもらわなければならないということである。
ただし、現時点の法制では(たとえば、外国当局の要請に応じて国内にいる者から情報を取得する権限がないなど)マルチMOUに規定するような情報交換ができない国もあれば、審査の結果、現行法制では必要な法的権限を有していないと裁定される国もありうる。
そのような国については、前述の決議②において、将来、法改正をしてマルチMOUへの署名を果たせるようにするという意思表示を行うことが求められたところである。
2.決議によるグローバル化の促進 1に述べた総会では、マルチMOUに署名できるだけの法制を有していることが、IOSCOに新規加盟するための前提条件ともされている。
したがって、この決議により、2010年1月1日までに、世界の証券規制当局はマルチMOUに署名するか、あるいは将来時点での署名の約束をしなければならなくなったわけである。すなわち、長期的にみれば、全世界の証券規制当局がマルチMOUに署名するということになり、マルチMOUのグローバル・ネットワーク化が、はっきりとIOSCOの組織的目標となったのである。
実際、このマルチMOUへの全メンバーの参加義務化は、IOSCOにとって現在の最優先課題の1つと位置付けられている。
また、マルチMOUに、一部の国の当局だけではなく、全メンバーが参加することには、国際的な監視・監督のネットワークの抜け穴を作らないという意味がある。
マルチMOUに未参加の国があった場合、そこには国際的な監督・監視のネットワークが及んでいないため、潜在的な不正行為者からみれば、その国は不正行為をするには都合のよい国であるということになる。逆にいえば、マルチMOUのグローバル化によって、そのような不正行為の「温床」となりうる国がなくなり、どこで不正を働こうが、国際協力のもとで関係当局によるアクションがとられることになる。ここにマルチMOU自体の大きな意義があるといえるのである。
2008年3月現在において、約100あるIOSCOメンバーのほぼ半数がマルチMOU署名当局となり、また15当局が将来的な署名に取り組む意思表示をしており、マルチMOUのグローバルネットワーク化への歩みは確実に進んでいる。
Ⅴ 日本のマルチMOU署名と意義
1.署名に至る経緯 金融庁は、2006年5月にマルチMOU署名のための審査を受けるべく、IOSCOに申請を行った。
マルチMOUの審査過程では、外国当局の要請に応じて情報収集し、提供する根拠規定として重要な証券取引法(申請当時。現「金融商品取引法」)189条(参考資料1参照)を中心に議論が行われたが、2008年1月にIOSCOの審査グループは、日本のマルチMOU署名を認める旨の結論に至り、2月5日に当該結論がIOSCOとしての最終決定となった。
この結果を受け、2月19日に金融庁長官がサインをし、金融庁はマルチMOUの署名当局に正式になったところである。
2.署名の意義 金融庁にとって、マルチMOU署名の実現は、次のようなきわめて大きな意義があるものである。
(1)情報交換ネットワークの構築 まず、マルチMOU署名当局となったことにより、世界中の証券当局との間で、情報交換ネットワークを構築できたことが挙げられる。この結果、わが国市場を使った不公正取引に対し、クロスボーダー協力による効果的対応ができることとなる。現在、日本政府を挙げて、わが国市場の国際競争力を強化すべく取り組んでいるが、日本市場が、クロスボーダー取引にも国際協力のもとで監督監視が図られているという点は、国際金融センターとしての基礎の1つの確保という意味で、重要な意味を持つものと考えている。
(2)「金融・資本市場競争力強化プラン」項目の推進 また、昨年12月に金融庁が発表した「金融・資本市場競争力強化プラン」においても、そのなかの「ベター・レギュレーション」の項目において、参考資料2のとおり、「海外当局との連携強化」を掲げているところであり、マルチMOUへの署名は、当該施策の大きな推進を実現するものである。
(3)グローバル枠組みの構築へ さらに、金融庁のマルチMOU署名により、市場規模でみるとほとんど全世界の市場がマルチMOUのネットワークにカバーされることになった。署名メンバー数でみれば、まだ世界の半数であるが、市場規模という視点でみると、金融庁のマルチMOU署名は、グローバルな協力枠組みの構築という国際的な目標の実現に対しても、きわめて大きな意義を有するものといえるだろう。
Ⅵ 今後の取組み・課題
マルチMOUの署名当局となったことにより、今後、金融庁・証券取引等監視委員会は、世界中の証券監督当局との間で、監督・エンフォースメント上必要な情報を相互に交換し合うことが可能となった。
これからは、マルチMOUの枠組みに沿って、各国の証券規制当局と円滑な国際協力を行いながら、クロスボーダー化するわが国の証券市場の公正性や健全性の確保に努めていく必要がある。
金融庁・証券取引等監視委員会は、これまでも二国間ベースのMOUに基づき、諸外国との必要なエンフォースメント上の協力を行ってきたところであるが、これには当方が要請を行い、情報提供を受ける場合もあれば、当方が要請を受けて、外国当局に必要な情報を提供することも含まれる。
今後は、マルチMOUに基づき、世界中の当局との協力を双方向で行う必要があり、実施・実行面でマルチMOUを十分に活かせる体制強化が必要になってくるだろうと考える。
(みずかわ・あきひろ)
IOSCO・マルチMOU(多国間情報交換枠組み)への署名とその意義
金融庁総務企画局総務課国際室課長補佐 水川明大
Ⅰ はじめに
金融庁は2008年2月、IOSCO(証券監督者国際機構)が策定した枠組みである各国証券監督当局間の「協議・協力及び情報交換に関する多国間覚書」(Multilateral Memorandum of Understanding concerning Consultation and Cooperation and the Exchange of Information)(以下「マルチMOU」という)の署名当局となり、世界中の証券監督当局との情報交換協力ネットワークを構築した。
本稿では、このマルチMOU署名はどのような意義を有するのか、署名に至るまでの経緯なども併せて解説することとしたい。なお、本稿中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であるので、あらかじめお断りしておく。
Ⅱ 証券規制当局間の国際協力の必要性の高まり
近年、証券取引のクロスボーダー化は加速度的に進展しているが、これに伴い、市場不正行為も国境を越えて行われるようになっている。
たとえば、現在は、ある国の市場に上場している証券の取引はその国の投資家のみならず、外国の投資家も購入等することができる。このこと自体は、投資家の投資機会の幅を広げるとともに、取引所や証券会社などのビジネス機会の拡大に寄与することなどから一般的に望ましいことであるが、他方、ある国の市場における取引について、インサイダー取引や相場操縦などの不正行為に外国の者が関与しているということも現実に発生するようになっており、市場の公正性をいかに確保するかという点で、重大な問題を突き付けている。
証券取引のグローバル化は、今後もますます進展することは確実であり、したがって、クロスボーダーでの市場不正行為が起こる蓋然性も、それに伴い、ますます高まっているものといえる。
このような国境を越えて行われる不正取引に対し、規制・法執行当局として適切に対応し、取引の公正性や市場の健全性を確保するためには、諸外国の証券監督当局と必要に応じて適宜、円滑に情報交換協力が行えることが不可欠となっている。
たとえば、A国の市場に上場されている証券についてなされたB国からの発注に関して不正取引の疑いがある場合には、その不正取引の実態の解明・調査などのために、A国の規制当局は、その取引に関する情報(たとえば、取引記録やBeneficial ownersに関する情報)が必要となるが、こういった情報は通常、A国の当局自らが直接、B国の関係者から取得することはできない。この場合は、B国の規制当局の協力が不可欠であり、B国の当局から必要な情報の提供を受けられることが必要となる。
このような協力の必要性は、各国が相互に必要とするものであり、相互協力・情報交換の枠組みを構築することが、世界各国の証券監督当局にとって、きわめて重要となっている。
Ⅲ IOSCOによるマルチMOUの策定
このような背景から、各国の証券当局は、相互に情報交換協力を行うことを約し、円滑な情報交換が行えるよう、必要な諸事項(支援の範囲や提供情報の取扱い等)を取り決めた枠組みを締結するようになった。この協力枠組み文書のことを、通常、Memorandum of Understandingと呼び、証券規制当局間では、通常、その頭文字をとって「MOU」と読んでいる。
当初、各国の当局は二国間ベースでMOUを結んでいたが、金融庁も、市場のつながりや相手国との関係の重要性、地域的な観点を踏まえて、1997年から2006年までにかけ、表に掲げたように、各証券規制当局との間で二国間ベースでのMOUを締結してきた。
その一方、証券取引のクロスボーダー化の進展により、特定の国との二国間ベースにとどまらず、いかなる国とも適宜、情報交換協力を提供し合えることが必要という認識が各国の証券当局間で共有されるようになり、こうした問題意識の高まりを受けて、世界の証券規制当局で構成されるIOSCOは、多国間ベースの情報交換の枠組みの構築に取り組み、2002年5月、前述の「マルチMOU」を策定したところである。
このマルチMOUにおいては、署名当局間の相互主義に基づく協力の意図が明確にされるとともに、情報交換協力の範囲、情報提供要請の手法、提供した情報の取扱い(使用や守秘)などが規定され、いわば情報交換協力のスタンダードを設定しており、これに沿って円滑な情報交換協力が行われることが企図されている。
マルチMOUは、その規定にも明記されているとおり、条約や協定のように法的拘束力を有するものではないが、この枠組みに参加した当局は、マルチMOUに規定されているような情報交換を行い合うことを約束しているのであり、その意味で協力の義務を負っているといえるだろう。
Ⅳ IOSCOによるマルチMOUのグローバル化の推進
1.2005年4月・コロンボ総会における決議 マルチMOUの策定当初は、この枠組みへの参加は各当局の自主的な判断に任せられていたが、その後、IOSCOでは、メンバーにマルチMOU署名を義務付ける動きが加速し、2005年4月のコロンボ総会において、IOSCOの全メンバーに対し、以下を求める決議がなされた。
① 早急にIOSCO・MOUに署名申請し、審査プロセスを完了すること。
② 2010年1月1日までに、IOSCO・MOUの署名当局となること。または、遅くとも2010年1月1日までに、IOSCO・MOUの付属文書Bに基づき、IOSCO・MOUへの署名を可能とする必要な法的権限を追求する(seek)公式のコミットメントを行うこと。 この決議は、一言でいえば、「全IOSCOメンバーに対するマルチMOUへの署名(将来的な署名の約束を含む)の義務付け」である。これについて若干補足すると、次のとおりとなる。
(1)決議①の意味 まず、マルチMOUへの署名を果たすためには、外国当局との情報交換協力に関する法制について、IOSCOによる審査を受け、マルチMOUに基づく情報交換が可能であるとの承認を受けなければならない。
すなわち、外国の要請に応じて必要な情報を取得し、提供できる権限を有しているか否かが審査され、マルチMOUで想定されている情報提供協力ができる当局であることをIOSCOに認めてもらうことが、マルチMOUへの署名を果たす要件となっている。上記決議の①で述べているのは、この「審査」プロセスに早急に入り、完了せよという趣旨である。
(2)決議②の意味 次に、決議②で述べているように、IOSCOのメンバーは、2010年1月1日までに審査を受け、マルチMOUに署名するに足る法制を有していると認められることが求められた。
すなわち、各メンバーは、マルチMOUに規定するような情報交換が行えるような法制を整備し、その点をIOSCOに承認してもらわなければならないということである。
ただし、現時点の法制では(たとえば、外国当局の要請に応じて国内にいる者から情報を取得する権限がないなど)マルチMOUに規定するような情報交換ができない国もあれば、審査の結果、現行法制では必要な法的権限を有していないと裁定される国もありうる。
そのような国については、前述の決議②において、将来、法改正をしてマルチMOUへの署名を果たせるようにするという意思表示を行うことが求められたところである。
2.決議によるグローバル化の促進 1に述べた総会では、マルチMOUに署名できるだけの法制を有していることが、IOSCOに新規加盟するための前提条件ともされている。
したがって、この決議により、2010年1月1日までに、世界の証券規制当局はマルチMOUに署名するか、あるいは将来時点での署名の約束をしなければならなくなったわけである。すなわち、長期的にみれば、全世界の証券規制当局がマルチMOUに署名するということになり、マルチMOUのグローバル・ネットワーク化が、はっきりとIOSCOの組織的目標となったのである。
実際、このマルチMOUへの全メンバーの参加義務化は、IOSCOにとって現在の最優先課題の1つと位置付けられている。
また、マルチMOUに、一部の国の当局だけではなく、全メンバーが参加することには、国際的な監視・監督のネットワークの抜け穴を作らないという意味がある。
マルチMOUに未参加の国があった場合、そこには国際的な監督・監視のネットワークが及んでいないため、潜在的な不正行為者からみれば、その国は不正行為をするには都合のよい国であるということになる。逆にいえば、マルチMOUのグローバル化によって、そのような不正行為の「温床」となりうる国がなくなり、どこで不正を働こうが、国際協力のもとで関係当局によるアクションがとられることになる。ここにマルチMOU自体の大きな意義があるといえるのである。
2008年3月現在において、約100あるIOSCOメンバーのほぼ半数がマルチMOU署名当局となり、また15当局が将来的な署名に取り組む意思表示をしており、マルチMOUのグローバルネットワーク化への歩みは確実に進んでいる。
Ⅴ 日本のマルチMOU署名と意義
1.署名に至る経緯 金融庁は、2006年5月にマルチMOU署名のための審査を受けるべく、IOSCOに申請を行った。
マルチMOUの審査過程では、外国当局の要請に応じて情報収集し、提供する根拠規定として重要な証券取引法(申請当時。現「金融商品取引法」)189条(参考資料1参照)を中心に議論が行われたが、2008年1月にIOSCOの審査グループは、日本のマルチMOU署名を認める旨の結論に至り、2月5日に当該結論がIOSCOとしての最終決定となった。
この結果を受け、2月19日に金融庁長官がサインをし、金融庁はマルチMOUの署名当局に正式になったところである。
2.署名の意義 金融庁にとって、マルチMOU署名の実現は、次のようなきわめて大きな意義があるものである。
(1)情報交換ネットワークの構築 まず、マルチMOU署名当局となったことにより、世界中の証券当局との間で、情報交換ネットワークを構築できたことが挙げられる。この結果、わが国市場を使った不公正取引に対し、クロスボーダー協力による効果的対応ができることとなる。現在、日本政府を挙げて、わが国市場の国際競争力を強化すべく取り組んでいるが、日本市場が、クロスボーダー取引にも国際協力のもとで監督監視が図られているという点は、国際金融センターとしての基礎の1つの確保という意味で、重要な意味を持つものと考えている。
(2)「金融・資本市場競争力強化プラン」項目の推進 また、昨年12月に金融庁が発表した「金融・資本市場競争力強化プラン」においても、そのなかの「ベター・レギュレーション」の項目において、参考資料2のとおり、「海外当局との連携強化」を掲げているところであり、マルチMOUへの署名は、当該施策の大きな推進を実現するものである。
(3)グローバル枠組みの構築へ さらに、金融庁のマルチMOU署名により、市場規模でみるとほとんど全世界の市場がマルチMOUのネットワークにカバーされることになった。署名メンバー数でみれば、まだ世界の半数であるが、市場規模という視点でみると、金融庁のマルチMOU署名は、グローバルな協力枠組みの構築という国際的な目標の実現に対しても、きわめて大きな意義を有するものといえるだろう。
Ⅵ 今後の取組み・課題
マルチMOUの署名当局となったことにより、今後、金融庁・証券取引等監視委員会は、世界中の証券監督当局との間で、監督・エンフォースメント上必要な情報を相互に交換し合うことが可能となった。
これからは、マルチMOUの枠組みに沿って、各国の証券規制当局と円滑な国際協力を行いながら、クロスボーダー化するわが国の証券市場の公正性や健全性の確保に努めていく必要がある。
金融庁・証券取引等監視委員会は、これまでも二国間ベースのMOUに基づき、諸外国との必要なエンフォースメント上の協力を行ってきたところであるが、これには当方が要請を行い、情報提供を受ける場合もあれば、当方が要請を受けて、外国当局に必要な情報を提供することも含まれる。
今後は、マルチMOUに基づき、世界中の当局との協力を双方向で行う必要があり、実施・実行面でマルチMOUを十分に活かせる体制強化が必要になってくるだろうと考える。
(みずかわ・あきひろ)
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