カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2008年07月28日 【制度解説】 課徴金制度の見直し等に係る金融商品取引法等の改正の要点(2008年7月28日号・№268)

解説
課徴金制度の見直し等に係る金融商品取引法等の改正の要点

 前金融庁総務企画局市場課課長補佐 大来志郎
 金融庁総務企画局市場課専門官 鈴木謙輔

Ⅰ はじめに

 少子高齢化が進展するなかで、わが国は人口減少時代の到来を迎え、経済活動の主要な担い手であった生産年齢人口も減少が見込まれている。また、情報通信技術の急速な高度化や企業活動のグローバル化の進展は、生産活動の国際的な分業を加速させるとともに、グローバルな資金の流れを拡大させている。
 このように、わが国を取り巻く経済・金融環境が大きく変わりつつあるなかで、わが国が今後も持続的な経済成長を実現していくためには、わが国金融・資本市場において適切な投資機会が確保されることが求められる。また、内外の企業等に対し、事業の拡大等のニーズに応じた多様な資金調達機会を提供することを通じ、成長資金の供給を適切に行っていくことが重要である。
 わが国金融・資本市場が、このような内外の利用者のニーズに的確に応え、期待される役割を十分に果たしていくためには、わが国市場の競争力を強化し、市場参加者にとっての市場の魅力を高めていくことが不可欠となる。

1.改正に至る経緯  上記のような観点から、金融庁は、「金融・資本市場競争力強化プラン」を策定し、平成19年12月21日に公表した(ここに至るまでの検討経緯について、図表1参照)。「金融・資本市場競争力強化プラン」は、
(イ)信頼と活力のある市場の構築
(ロ)金融サービス業の活力と競争を促すビジネス環境の整備
(ハ)より良い規制環境(ベター・レギュレーション)の実現
(ニ)市場をめぐる周辺環境の整備
の4つの柱から構成され、市場競争力強化のための施策が包括的に盛り込まれている。
 年明け以降、プランに盛り込まれた施策のうち、法律上の手当てが必要なものについて、改正案の作成作業が進められた。その結果、わが国金融・資本市場の競争力強化のために必要な制度整備を包括的に盛り込んだ「金融商品取引法等の一部を改正する法律案」が平成20年3月4日に閣議決定され、同日、国会に提出された。
 その後、同法律案は衆議院・参議院における審議を経て、6月6日に参議院本会議で可決、成立し、6月13日に公布された(金融商品取引法等の一部を改正する法律(以下「改正法」という)の法律番号は平成20年法律第65号となっている)。


2.本稿の構成  本稿では、以下においてはプロ向け市場の創設について、においてはETFの多様化等について、においてはファイアーウォール規制の見直し等について、においては利益相反管理体制等の構築について、においては課徴金制度の見直し等について、それぞれ改正の趣旨や制度の概要を解説し、において施行日について解説する。
 なお、について重点的に解説することとし、については紙幅の都合上、概略の解説にとどめることとする。

Ⅱ プロ向け市場の創設

1.改正の趣旨
 情報の収集・分析能力やリスク管理能力が基本的に備わっていると考えられるプロの投資家については、一般投資家と比較して、市場における情報の非対称性が少ないと考えられる。こうしたプロの投資家の投資判断にあたり、必要な情報の収集・分析については、自己責任を基本とすることが可能と考えられる。
 今回の改正法において創設することとしているプロ向け市場は、このような考え方に立ち、公衆縦覧を前提とした現行の厳格な法定開示規制を緩和する一方、プロの投資家に直接の取引参加者を限定した市場の枠組みである。
 企業サイドにおいて低コストあるいはより柔軟な形で取引所市場において成長資金を調達することが可能となり得るとともに、投資家サイドにおいても発行会社の多様化により新たな投資機会の獲得につながる可能性がある。

2.制度の概要
(1)全体像
 プロ向け市場において取引される有価証券(特定投資家向け有価証券)については、現行の公衆縦覧型の開示規制を免除する一方、取引所ルール等により、簡素な情報提供の枠組みを設けることとしている。
 また、プロ向け銘柄が一般投資家へ転売されることを防止するため、プロ向け銘柄を特定投資家等以外の者へ譲渡することは制限されている。
 さらに、金融商品取引所の自主規制について特色ある市場を構築できるよう、プロ向け市場に係る自主規制業務の一部を自主規制法人以外へ委託することを認めることとしている。
(2)プロ投資家の範囲  プロ向け市場に直接参加することができるプロ投資家の範囲については、特定投資家(金融商品取引法(以下「法」という)2条31項)の概念を用いることとしている。
(3)投資家に対する情報提供  プロ向け市場は、取引参加者をプロ投資家に限定した市場であることを踏まえ、公衆縦覧を前提とした現行の法定開示規制を免除している。
 一方、情報提供・公表に係る最低限の枠組みを構築する観点から、プロ向け銘柄の発行時やその後の各事業年度において、プロ向け銘柄の発行者に対して情報の提供・公表を求めることとしている(法27条の31、27条の32)。そのうえで、その具体的な内容は法定せず、その様式・言語・会計基準等について、取引所ルール等で柔軟に定めることを可能としている。
 なお、提供・公表される情報の真実性を確保する観点から、これらの情報に虚偽等があった場合に係る(イ)民事上の損害賠償制度(法27条の33、27条の34)、(ロ)課徴金制度(法172条の10、172条の11等)、(ハ)罰則(法197条1項4号の2等)を規定している。
(4)取引参加に係る制限  今回の改正法では、取引参加に係る制限として、第1に、プロ向け銘柄に係る譲渡制限を設けている(法2条3項2号ロ(2)、4項1号ハ)。
 第2に、プロ向け銘柄である有価証券を、一般投資家を相手方として勧誘する場合には、法定開示規制を適用することとしている(法4条3項)。
 第3に、金融商品取引業者等が一般投資家を相手方とし、または一般投資家のためにプロ向け銘柄の売買等を行うことを禁止している(法40条の4)。
(5)自主規制業務の委託  現行の金融商品取引法上、取引所が自主規制機能を適正に発揮するための枠組みとして、自主規制法人や自主規制委員会の制度が設けられており、自主規制業務を自主規制法人以外の者へ委託することはできないこととされている(法84条1項、85条1項)。
 今回の改正法では、プロ向け市場の自主規制のあり方について、取引所の創意工夫を認める方向で一定の手当てがなされている(法85条4項~6項)。

Ⅲ ETFの多様化等

1.改正の趣旨
 ETFは、投資者にとって低コストにて、簡便かつ効率的に分散投資が可能となる投資手段である。また、取引所市場において、市場価格によるタイムリーな取引を機動的に行うことができる等のメリットがある商品でもある。
 ETFについては、これまで、投資者保護の観点から、ETFの投資対象や交換の対象を、まずは換金・価格評価の容易な有価証券に限定してきたところである。
 しかしながら、諸外国の取引所では、ETFの多様化が急速に進展し、有価証券以外に投資するものや、商品との現物交換が可能なものが上場されている。わが国においても、利用者利便の向上の観点から、これを一層推進することが必要との指摘がある。
 このような状況を踏まえ、今回の改正法においては、ETFの多様化を図るための制度整備を盛り込んだところである。また併せて、排出量取引について取引所が期待される役割を発揮していくことができるような枠組みを設けている。

2.制度の概要
(1)ETFの多様化
 今回の改正法においては、ETFの多様化に係る措置として、第1に商品現物と交換可能な投資信託の導入を行っている(投資信託及び投資法人に関する法律(以下「投信法」という)8条)。換価の容易な金などの商品現物であれば、投資者保護に欠けるおそれは低いと考えられるため、このような資産とETFとの交換を可能としているところである。
 第2に、投資信託の運用業者については、投信法等により投資者保護が図られることから、商品投資に係る事業の規制に関する法律(以下「商品ファンド法」という)の規制を適用除外することとしている(商品ファンド法33条、40条)。
(2)取引所の業務範囲の見直し  現行法上、取引所の子会社や兄弟会社において可能とされている排出量取引に関する市場開設業務について、今回の改正法では、金融商品取引所本体についても兼業業務として行うことを可能とするための制度整備を行うこととしている。

Ⅳ 証券会社・銀行・保険会社の間のファイアーウォール規制の見直し等
 ファイアーウォール規制を巡っては、わが国において導入されて以降、米国における規制緩和の動き、金融業におけるグループ化の進展・金融技術の進歩等に伴う業態区分の相対化、個人情報保護法の施行(平成17年)などの環境変化が指摘される。
 このようななか、金融審議会の提言等を踏まえる形で、今回の改正法では、①利益相反による弊害や銀行等の優越的地位濫用の防止の実効性を確保するとともに、②顧客利便の向上や金融グループの統合的内部管理の要請に応えるため、証券会社・銀行・保険会社間のファイアーウォール規制について、新たな枠組みを提供することとしている。
 また、銀行・保険会社またはそのグループの業務範囲は、本業に専念することによる効率性の発揮、利益相反取引の防止、他業リスクの回避など他業禁止の趣旨を踏まえ、法令で限定されている。
 この点に関して、今回の改正法では、近年における金融サービスの多様化・高度化等の状況を踏まえ、経営の健全性を確保しつつ、国際競争力の強化等を図る観点から、業務範囲を拡大する方向で見直しを行うこととしている。

Ⅴ 利益相反管理体制等の構築
 現行制度においてファイアーウォール規制が設けられている主な趣旨の1つは、利益相反による弊害の防止という点にある。今日、金融グループの業務が、提供する商品・サービスの面でも、あるいはそれらが提供されるチャンネルの面でも多様化していくなか、潜在的な利益相反の形態は多種多様である。
 このような点に鑑みると、金融グループとしての総合的な利益相反管理の方針・プリンシプルのもとで、実効性ある管理方策が講じられることが重要となる。
 以上を踏まえ、今回の改正法では、で述べたように証券会社・銀行・保険会社間のファイアーウォール規制を見直し、また、銀行・保険会社グループの業務範囲の拡大を図る一方で、証券会社・銀行・保険会社等に各業法で利益相反管理体制の整備を義務付けることにより、金融事業者・金融グループとして利益相反による弊害の防止が図られるよう措置を講じている。

Ⅵ 課徴金制度の見直し等

1.改正の趣旨
 金融商品取引法上の課徴金制度は、平成16年証券取引法改正でインサイダー取引等の不公正取引および発行開示書類の虚偽記載を対象に導入された。また、平成17年証券取引法改正で継続開示書類の虚偽記載が課徴金の対象とされた。その後、3年余の期間において、課徴金納付命令実績は約50件となっており、これらの事案等を通じて、課徴金制度の存在に対する認識も高まっている。
 一方で、違反抑止の実効性の一層の確保を図る観点から、制度の拡充を求める声がある。いずれにせよ、制度のさらなる活用を期待する声は強く、今回の改正法において、課徴金の金額水準や対象範囲等について見直しを行うこととしている。
 また、市場の公正性・透明性を一層向上させる観点から、課徴金制度の見直しと併せて、訂正命令を行う開示書類の縦覧の制限、違反行為の禁止・停止の申立てに係る権限委任などの措置を講じている。

2.制度の概要(1)―課徴金制度の見直し―  主要な改正項目については、次のとおりである。
(1)現行の課徴金の金額水準の引上げ
① 発行開示書類等の虚偽記載に係る課徴金の金額水準
 発行開示書類・目論見書の虚偽記載に係る課徴金の現行の金額水準は、募集・売出し総額の1%(株券等の場合は2%)である。
 今回の改正法においては、この金額水準を募集・売出し総額の2.25%(株券等の場合は4.5%)へと引き上げている(法172条の2第1項、2項、4項、5項)。
② 継続開示書類の虚偽記載に係る課徴金の金額水準  継続開示書類の虚偽記載に係る課徴金の現行の金額水準は、
・虚偽記載のある有価証券報告書を提出した発行者の時価総額の10万分の3に相当する額
・300万円
のいずれか高い額(四半期・半期・臨時報告書の場合はその2分の1の額)である。
 今回の改正法においては、虚偽記載のある有価証券報告書を提出した場合の課徴金の算定方法について、時価総額の10万分の6または600万円のいずれか高い額へと引き上げている(法172条の4第1項)。虚偽記載のある四半期・半期・臨時報告書を提出した場合の課徴金の額はその2分の1の額となる(同条2項)。
 なお、現行制度において、同一の事業年度に複数の継続開示書類の虚偽記載が存在する場合に課徴金額を調整する規定が設けられているが、継続開示書類の虚偽記載を訂正する訂正報告書にさらに虚偽記載がある場合は、課徴金額の調整の対象外としている(法185条の7第6項、7項)。
③ 発行開示書類・継続開示書類に重要な事項の記載が欠けている場合  現行では、発行開示書類・継続開示書類に「重要な事項につき虚偽の記載がある」場合が課徴金の対象とされている一方、重要な事項の記載が欠けている場合は課徴金の対象とはされていない。
 今回の改正法においては、重要な事項の記載が欠けている発行開示書類・継続開示書類についても、虚偽記載と同様の課徴金の対象としている(法172条の2第1項、2項、4項、5項、172条の4第1項、2項)。
④ 風説の流布・偽計
(ア)課徴金の金額水準の見直し
 現行の課徴金額は、風説の流布・偽計によって変動した相場で、違反者が実際に行った取引により実現した利益を基準としている。
 今回の改正法においては、次の計算により算出される額の合計額を課徴金額としている。
・違反行為終了時点で売りポジションが生じている場合、当該ポジションに係る売付け等の価額から、当該ポジションを違反行為後1か月間の最安値で評価した価額を控除した額(法173条1項1号)
・違反行為終了時点で買いポジションが生じている場合、当該ポジションを違反行為後1か月間の最高値で評価した価額から、当該ポジションに係る買付け等の価額を控除した額(同項2号)
・違反行為開始時から違反行為後1か月が経過するまでの間に、募集・組織再編成等により違反行為を行った有価証券を取得させ、または交付した場合、当該有価証券の数量につき、違反行為後1か月の最高値から違反行為の直前の価格を控除した額(同項3号)
 違反行為終了時点のポジションについては、違反行為期間中の売付け等・買付け等の数量だけでなく、違反行為開始時に有するポジション(開始時における保有有価証券や空売り等の数量)も合算して判定する(法173条1項1号、2号、6項、7項)。
 また、ポジションに係る売付け等・買付け等の価額については、違反行為期間中の売付け等・買付け等についてはその価格を、違反行為開始時に有するポジションについては違反行為の直前の価格を、それぞれ用いて算出する(法173条1項1号、2号、6項、7項)。
(イ)課徴金要件の見直し  現行の風説の流布・偽計に係る課徴金は、違反行為により有価証券等の相場を変動させ、当該変動させた相場により有価証券取引等を行った場合に課される。
 しかし、相場は様々な要因が複合的に作用して形成されるものであり、ある相場が違反行為により変動されたものであることを認定することは著しく困難である。
 そこで、制度の機動性を確保するため、風説の流布・偽計により有価証券等の価格に影響を与えた場合に課徴金を課すこととしている(法173条1項)。
⑤ 相場変動型相場操縦に係る課徴金の金額水準(図表2参照)
 相場変動型相場操縦を行うことによって違反者が得る利益には、違反行為期間中に損益を確定する部分に係るもの(i)と、相場操縦終了時点でまだポジションを有している部分に係るもの(ii)が存在する。
 このうちiiについて、算定方法を見直し、風説の流布・偽計と同様に、違反行為終了時までの売付け等(買付け等)の価格と違反行為後1か月間の最安値(最高値)の差額を基準とした額の合計額を課徴金額としている(法174条の2第1項2号イ~ハ)。
 このiiの額と、違反行為期間中に確定した損益(i)(法174条の2第1項1号)との合計額が課徴金の額となる。
⑥ インサイダー取引に係る課徴金の金額水準(図表3参照)
 現行では、インサイダー取引による売買等の価格と、重要事実公表日の翌日の終値との差額を基準として課徴金額が算出される。
 インサイダー取引に係る課徴金額につき、今回の改正法においては、次の計算により算出される金額へと見直している。
・インサイダー情報に基づき重要事実公表前に売付け等を行った場合、当該売付け等の総額から、重要事実公表後2週間の最安値に売り付けた有価証券等の数量を乗じた額を控除した額(法175条1項1号、2項1号、5項、7項)
・インサイダー情報に基づき重要事実公表前に買付け等を行った場合、重要事実公表後2週間の最高値に買い付けた有価証券等の数量を乗じた額から、当該買付け等の総額を控除した額(同条1項2号、2項2号、6項、8項)
⑦ 不公正取引に係る課徴金における「自己の計算において」の要件の見直し  現行では、不公正取引に係る課徴金は、自己の計算において違反行為が行われた場合に限り賦課される。
 他人の計算による違反類型のなかには、違反者が自己の計算による違反と同様に、違反行為を通じて自己の利益を実現していると評価できるものが存在することから、このような類型に該当する違反行為を課徴金の対象に追加している。
 まず、経済的に同一性があると認められる次の者の計算において違反行為を行った場合には、違反者が自己の計算において違反行為を行ったものとみなして課徴金を算出する(法173条5項~7項、174条の2第6項~8項、175条10項、11項等)。
・違反者がその総株主等の議決権の過半数を保有している会社その他の違反者と密接な関係を有する者として内閣府令で定める者
・違反者と生計を一にする者その他の違反者と特殊の関係にある者として内閣府令で定める者
 また、金融商品取引業者または登録金融機関が、その顧客の計算において違反行為を行った場合は、手数料・報酬等に相当する額の課徴金の対象となる(法173条1項4号、174条の2第1項2号ニ、175条1項3号、2項3号)。
(2)課徴金の対象範囲の見直し
① 発行開示書類の不提出
 発行開示書類の不提出を伴う募集・売出しについては、発行開示書類に虚偽記載がある場合と同様に、募集・売出し総額の2.25%(株券等の場合には4.5%)の額の課徴金の対象としている(法172条)。
 具体的には、次の違反者が対象となる。
(イ)届出が必要な募集・売出し(いわゆるプロ向け有価証券のアマ向け勧誘(適格機関投資家取得有価証券一般勧誘または特定投資家等取得有価証券一般勧誘)を含む)について、届出が受理されていないのにこれを行った者(法172条1項)
(ハ)届出の効力発生前に有価証券を募集により取得させた発行者または売出しにより売り付けた者(同条2項)
(ロ)目論見書を交付しないで売出しにより既開示有価証券を売り付けた者(同条3項)
(ニ)発行登録追補書類を提出せずに有価証券を募集により取得させた発行者または売出しにより売り付けた者(同条4項)
 これら違反者のうち売出しを行った者については、いずれも自己の所有する有価証券を売り付けた者に限られる。
 (イ)・(ロ)については、同一の募集・売出しにおいて双方の違反が存在する場合も想定されるところ、そのような場合に課徴金額を調整する規定が設けられている(法185条の7第2項、3項)。
 また、届出書類に記載すべき重要な事項の変更がある場合等に提出が求められる訂正届出書・訂正発行登録書(法7条前段、23条の4前段等)の不提出について、虚偽記載と同様の額の課徴金の対象としている(法172条の2第6項)。
② 継続開示書類の不提出
(ア)有価証券報告書、四半期・半期報告書の不提出
 有価証券報告書等の不提出について、作成費用相当額として監査報酬額を基準とした額の課徴金の対象としている(法172条の3)。
 具体的には、有価証券報告書の不提出については、原則として直前事業年度における監査報酬額を課徴金額とし、監査を受けるべき直前事業年度がない場合は、金融商品取引法監査に係る監査費用の売上高区分ごとの最低値の平均である400万円を課徴金額としている(法172条の3第1項)。四半期・半期報告書の不提出の場合、これらの2分の1の額の課徴金が課される(同条2項)。
(イ)臨時報告書の不提出
 臨時報告書のうち、破産手続開始の申立てや重要な災害があった場合等、投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす事項を記載すべきものを提出しない違反について、虚偽記載がある場合と同様の課徴金の対象としている(法172条の4第3項)。
 課徴金の対象となる臨時報告書の具体的な範囲については、内閣府令で規定される。
③ 公開買付制度における開示規制違反  公開買付けに関する情報開示を実施しない、あるいは虚偽の情報を提供するという違反行為のもと、株券等の買付け等を行う場合、公開買付けの成功に本来必要なプレミアムを費用とせずに買付け等を行っていることが想定される。
 そこで、公開買付けに際して付されるプレミアムの平均等を勘案して、買付者が公開買付けに係る開示規制に違反した場合について、買付総額ないし対象者の時価総額の25%の額の課徴金の対象としている。
 具体的には、買付者による次の違反行為が新たに課徴金の対象に追加されている。
・公開買付開始公告を実施しないで買付け等を行った場合(法172条の5)
・重要な事項につき虚偽の表示があり、または表示すべき重要な事項の表示が欠けている公開買付開始公告、その訂正公告等を行った場合(法172条の6第1項)
・公開買付届出書・訂正届出書・対質問回答報告書・訂正報告書を提出しない場合(同条2項)
・重要な事項につき虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項の記載が欠けている公開買付届出書等を提出した場合(同条1項)
④ 大量保有報告書類の不提出・虚偽記載等  大量保有報告書類を提出しない場合や大量保有報告書類において虚偽の情報を提供する場合、自らが行う株券等に係る大量取得や大量処分等の取引に追随者が生じて市場価格が変動することを回避し、取引コストを抑えることが想定される。
 そこで、大量保有報告書等の提出が株価変動率に与える影響等を勘案して、大量保有報告書類の不提出・虚偽記載等について、対象株券等の発行者の時価総額の10万分の1の額の課徴金の対象としている。
 具体的には、次の違反行為を新たに課徴金の対象としている。
・大量保有報告書・変更報告書を提出しない場合(法172条の7)
・重要な事項につき虚偽の記載があり、または記載すべき重要な事項の記載が欠けている大量保有報告書・変更報告書・訂正報告書を提出した場合(法172条の8)
⑤ 仮装・馴合売買  仮装・馴合売買は、相場操縦行為の一類型であることから、相場変動型相場操縦に係る課徴金の考え方に準じて、違反行為終了時までの売付け等(買付け等)の価格と違反行為後1か月間の最安値(最高値)の差額を基準とした額の合計額の課徴金の対象としている(法174条1項1号~3号)。
 顧客や経済的同一性のある他人の計算による違反も対象となる(法174条1項4号、5項~7項)。
⑥ 違法な安定操作取引(図表4参照)
 違法な安定操作取引について、相場変動型相場操縦に係る課徴金の考え方に準じ、次の(イ)・(ロ)の合計額の課徴金の対象としている。
(イ)違反段階に係る損益として、違反行為に係る自己の計算による有価証券の売付け等の価額から買付け等の価額を控除した額(法174条の3第1項1号)
(ロ)違反行為終了時までの売付け等(買付け等)の価格と違反行為後1か月間の最安値(最高値)の差額を基準とした額の合計額(同項2号イ~ハ)
 顧客や経済的同一性のある他人の計算による違反も対象となる(法174条の3第1項2号ニ、5項~9項)。
 以上に述べてきた違反行為類型と課徴金の金額水準については、図表5を参照されたい。

(3)課徴金の加算制度  過去5年間に課徴金の対象となった者が再度違反した場合には、課徴金の額を1.5倍にすることとしている(法185条の7第13項)。
(4)課徴金の減算制度  コンプライアンス体制の構築の促進・再発防止の観点から、当局の調査前に(イ)自己株取得におけるインサイダー取引、(ロ)発行開示書類・継続開示書類の虚偽記載、(ハ)大量保有報告書の不提出等の違反行為を報告した場合には課徴金を半額に減算することとしている(法185条の7第12項)。
(5)除斥期間の延長  除斥期間を現行の3年から5年に延長することとしている(法178条3項~27項)。

3.制度の概要(2)―その他の主な見直し―
(1)訂正命令を行う開示書類の縦覧の制限
 現行制度上、開示書類の虚偽記載があった場合には、当該書類と合わせて訂正箇所を明示した訂正報告書等を公衆縦覧に供することとされている。仮に、虚偽記載のある開示書類について、当局がEDINETのフロントページに注意喚起の記載をする等の措置を講じたとしても、訂正の対象となる虚偽記載のある開示書類を公衆縦覧に供しておくこと自体が公益または投資者保護の観点から問題となるケースが想定される。
 以上を踏まえ、今回の改正法においては、虚偽記載のある開示書類による投資者・発行会社等の誤解や混乱を回避するため、①金融庁が訂正報告書の提出命令を発出した旨などの重要参考情報をEDINET上で(フロントページではなく)当該開示書類自体に付すことができる(法27条の30の7)、②金融庁が訂正報告書の提出命令を行った開示書類について、例外的に縦覧に供しないことができる(法25条6項~8項、27条の14第5項~7項、27条の28第4項~6項)こととされている。
(2)違反行為の禁止・停止の申立てに係る権限委任  法192条に基づき、裁判所は、緊急の必要があり、かつ、公益・投資者保護のため必要・適当であるときは、当局の申立てにより、金融商品取引法や金融商品取引法に基づく命令に違反する行為を行った者等に対して、その行為の禁止・停止を命ずることができることとされている。
 この申立てについては、現行制度上、金融庁長官が行うこととされているが、日常的に証券取引を監視している証券取引等監視委員会が直接行うことを可能とすることにより、違反行為に迅速に対応することが有用と考えられる。
 このような観点から、今回の改正法においては、この申立てに係る金融庁長官の権限を証券取引等監視委員会に委任することとしている(法194条の7第4項)。

Ⅶ 施 行 日
 今回の法改正については、わが国金融・資本市場の競争力強化が喫緊の課題であることに鑑み、基本的に、公布の日(平成20年6月13日)から6か月を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている(改正法附則1条本文)。
 ただし、ファイアーウォール規制の見直しと利益相反管理体制等の構築については、金融機関側のシステム対応等、その準備に相応の期間を要するものと考えられることから、公布の日から1年を超えない範囲内において政令で定める日から施行することとしている(改正法附則1条3号)。
 今後、これらの施行に向けて、関係政府令の整備を行うことが必要となる。
(おおきた・しろう/すずき・けんすけ)

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索