解説記事2009年03月09日 【ニュース特集】 もっともやさしい「排出権取引」の税務・会計(2009年3月9日号・№298)
国税庁が税務上の取扱いを公表し、実務上の疑問点が解消
もっともやさしい「排出権取引」の税務・会計
昨年2008年より、温室効果ガスの排出削減義務を定めた京都議定書の第一約束期間に突入したことで、京都メカニズムに基づく排出権の取得が活発になりつつある。
これに伴い、企業側からは、排出権の政府・償却口座への移転に伴う法人税法上の損金算入時期の明確化を求める声が上がっているが、こうしたなか国税庁は、経済産業省および環境省からの照会に回答する形で、「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて」と題する文書回答事例を公表した。
本特集では、この文書回答事例を踏まえながら、今後、実務で遭遇することも増えるであろう排出権取引の税務・会計上の取扱いについてまとめてみた。
1 「排出権」の仕組み 国ごとに二酸化炭素などの温室効果ガス排出量削減義務を具体的な数値目標として定めた京都議定書は、2008年~2012年を「第一約束期間」と定め、温室効果ガスの総排出量を1990年から少なくとも5.2%削減することとしている。
ちなみに、第一約束期間に続く2013年~2018年を「第二約束期間」と呼び、第一約束期間の削減目標を達成できなかった場合、超過した排出量の1.3倍分が第二約束期間の排出枠から差し引かれる。
排出量の枠は各国や各企業ごとに定められており、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えてしまった国や企業との間で、排出枠を取引することができる。これが排出権取引だ(図1参照)。
排出権は現在、主に企業間で相対で取引されている。将来的には、排出権の取引市場が開設される可能性もある。
2 排出権取引の「会計上」の取扱い 排出権取引に伴って問題となるのが、会計や税務だ。昨年からこの第一約束期間に突入したことで、最近、排出権の取得が活発になりつつあり、企業や実務家の関心が高まっている。
会計上の取扱いについては、平成16年11月30日、企業会計基準委員会より実務対応報告第15号「排出権取引の会計処理に関する当面の取扱いについて」が公表されており、次頁・上掲のような取扱いが明らかにされている。
また、排出権を購入した場合、排出権は、まず日本政府が管理する排出権登録口座システム内の自社の管理口座に預け入れられることになる。その後、排出権を使う場合には、そこから日本政府が管理する「償却口座」か「取消口座」に排出権を移転することになる。いずれの口座への移転も排出権の使用を不可能とし、温室効果ガスの削減に貢献するが、京都議定書上、温室効果ガスの削減と認められるためには、日本政府の償却口座に移転する必要がある。排出権は売買の対象となるが、売却した場合には自らのCO2の削減にはつながらず、日本政府の償却口座に移転して初めて国際的に削減したものと認められることになる。
会計上は、実際に償却口座に移転していなくても、「移転することが確実」である場合には費用化が認められることになる。
3 排出権取引の法人税上の取扱い 注意しなければならないのは、償却口座への移転については、会計と税務で取扱いが異なる点だ。
国税庁は2月26日、経済産業省および環境省からの照会に回答する形で、「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて」と題する文書回答事例を公表したが、これによると、企業などが取扱いの明確を求めていた排出権の損金算入時期を、排出権に係るクレジットが「政府保有口座に記録された日」を含む事業年度とすることが明らかにされている。
今回示された文書回答事例では、法人税上、排出権を転売(有償譲渡)した場合、これは「棚卸資産の譲渡」に該当し、当該売却により生じた損益は税務上も損金または益金の額に算入されることとする一方で、排出権を政府の償却口座に無償移転した場合には、「国等に対する寄附金」になることを明確にしている(前述のとおり、排出権を売却した場合にはCO2の削減にはつながらず、日本政府の償却口座に移転して初めて国際的に削減したものと認められることになる)(図2参照)。
そのうえで、無償移転された排出権は、排出権に係るクレジットが「政府保有口座に記録された日(=移転が完了した日)」を含む事業年度において損金算入することとした。この点、実際に政府口座に移転していなくても「移転することが確実」であれば費用化が認められる会計に比べ、税務上の損金算入時期は遅れる可能性がある(図3参照)。
また、排出権を政府口座に移転するにあたっては、その価額も問題となる。この点、文書回答では、「売買実例等を参考として適正に時価を算定する必要がある」としつつも、現状では排出権の取引市場が形成されていないため売買実例等を把握するのが困難となることも想定し、「簿価」を価額としても課税上の弊害は生じないこととしている。
4 排出権取引の消費税上の取扱い 消費税上の取扱いに関しては、まず、排出権は京都議定書の排出削減約束達成に使用できるという意味において、ある種の法律上の利益または地位としての実態を有していることを踏まえ、「無形資産」として消費税上の「資産」に該当するとしたうえで、これを内国法人が他の内国法人に譲渡した場合には消費税の課税対象となる一方、内国法人が他の内国法人から有償で取得した場合には、仕入税額控除の対象になることが明らかにされた(図4参照)。
また、今回の文書回答事例では明記されていないのが、排出権を政府の償却口座に移転した場合における消費税の取扱いだ。この点、上記のとおり排出権は消費税上の課税資産であり、これを政府の償却口座に移転する行為は「課税資産の寄附」に該当することになる。寄附である以上、消費税の課税売上にはならないが、その一方で、当該排出権の仕入れに係る税額は仕入税額控除の対象となる。
仕入税額控除を行う法人の消費税の課税売上割合が95%未満で「個別対応方式」による場合においては、①将来の自社使用を見込んでの取得であれば「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」、②第三者への転売を目的とする取得であれば「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分されることも明らかにされている(図5参照)。
なお、排出権取引が国内で行われたかどうかの判定は、譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所等の所在地で判定することとし、内国法人が外国法人に譲渡する場合には、その効用は国外で発揮されることから、「輸出免税」が適用されるとした(図6左図参照)。
また、外国法人による譲渡は国外取引に該当し、消費税は不課税となることから、内国法人が外国法人から排出権を取得する場合も国外取引として消費税は不課税となり、仕入税額控除はできないこととされた(図6右図参照)。
もっともやさしい「排出権取引」の税務・会計
昨年2008年より、温室効果ガスの排出削減義務を定めた京都議定書の第一約束期間に突入したことで、京都メカニズムに基づく排出権の取得が活発になりつつある。
これに伴い、企業側からは、排出権の政府・償却口座への移転に伴う法人税法上の損金算入時期の明確化を求める声が上がっているが、こうしたなか国税庁は、経済産業省および環境省からの照会に回答する形で、「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて」と題する文書回答事例を公表した。
本特集では、この文書回答事例を踏まえながら、今後、実務で遭遇することも増えるであろう排出権取引の税務・会計上の取扱いについてまとめてみた。
1 「排出権」の仕組み 国ごとに二酸化炭素などの温室効果ガス排出量削減義務を具体的な数値目標として定めた京都議定書は、2008年~2012年を「第一約束期間」と定め、温室効果ガスの総排出量を1990年から少なくとも5.2%削減することとしている。
ちなみに、第一約束期間に続く2013年~2018年を「第二約束期間」と呼び、第一約束期間の削減目標を達成できなかった場合、超過した排出量の1.3倍分が第二約束期間の排出枠から差し引かれる。
排出量の枠は各国や各企業ごとに定められており、排出枠が余った国や企業と、排出枠を超えてしまった国や企業との間で、排出枠を取引することができる。これが排出権取引だ(図1参照)。
排出権は現在、主に企業間で相対で取引されている。将来的には、排出権の取引市場が開設される可能性もある。
2 排出権取引の「会計上」の取扱い 排出権取引に伴って問題となるのが、会計や税務だ。昨年からこの第一約束期間に突入したことで、最近、排出権の取得が活発になりつつあり、企業や実務家の関心が高まっている。
会計上の取扱いについては、平成16年11月30日、企業会計基準委員会より実務対応報告第15号「排出権取引の会計処理に関する当面の取扱いについて」が公表されており、次頁・上掲のような取扱いが明らかにされている。
また、排出権を購入した場合、排出権は、まず日本政府が管理する排出権登録口座システム内の自社の管理口座に預け入れられることになる。その後、排出権を使う場合には、そこから日本政府が管理する「償却口座」か「取消口座」に排出権を移転することになる。いずれの口座への移転も排出権の使用を不可能とし、温室効果ガスの削減に貢献するが、京都議定書上、温室効果ガスの削減と認められるためには、日本政府の償却口座に移転する必要がある。排出権は売買の対象となるが、売却した場合には自らのCO2の削減にはつながらず、日本政府の償却口座に移転して初めて国際的に削減したものと認められることになる。
会計上は、実際に償却口座に移転していなくても、「移転することが確実」である場合には費用化が認められることになる。
3 排出権取引の法人税上の取扱い 注意しなければならないのは、償却口座への移転については、会計と税務で取扱いが異なる点だ。
国税庁は2月26日、経済産業省および環境省からの照会に回答する形で、「京都メカニズムを活用したクレジットの取引に係る税務上の取扱いについて」と題する文書回答事例を公表したが、これによると、企業などが取扱いの明確を求めていた排出権の損金算入時期を、排出権に係るクレジットが「政府保有口座に記録された日」を含む事業年度とすることが明らかにされている。
今回示された文書回答事例では、法人税上、排出権を転売(有償譲渡)した場合、これは「棚卸資産の譲渡」に該当し、当該売却により生じた損益は税務上も損金または益金の額に算入されることとする一方で、排出権を政府の償却口座に無償移転した場合には、「国等に対する寄附金」になることを明確にしている(前述のとおり、排出権を売却した場合にはCO2の削減にはつながらず、日本政府の償却口座に移転して初めて国際的に削減したものと認められることになる)(図2参照)。
そのうえで、無償移転された排出権は、排出権に係るクレジットが「政府保有口座に記録された日(=移転が完了した日)」を含む事業年度において損金算入することとした。この点、実際に政府口座に移転していなくても「移転することが確実」であれば費用化が認められる会計に比べ、税務上の損金算入時期は遅れる可能性がある(図3参照)。
また、排出権を政府口座に移転するにあたっては、その価額も問題となる。この点、文書回答では、「売買実例等を参考として適正に時価を算定する必要がある」としつつも、現状では排出権の取引市場が形成されていないため売買実例等を把握するのが困難となることも想定し、「簿価」を価額としても課税上の弊害は生じないこととしている。
4 排出権取引の消費税上の取扱い 消費税上の取扱いに関しては、まず、排出権は京都議定書の排出削減約束達成に使用できるという意味において、ある種の法律上の利益または地位としての実態を有していることを踏まえ、「無形資産」として消費税上の「資産」に該当するとしたうえで、これを内国法人が他の内国法人に譲渡した場合には消費税の課税対象となる一方、内国法人が他の内国法人から有償で取得した場合には、仕入税額控除の対象になることが明らかにされた(図4参照)。
また、今回の文書回答事例では明記されていないのが、排出権を政府の償却口座に移転した場合における消費税の取扱いだ。この点、上記のとおり排出権は消費税上の課税資産であり、これを政府の償却口座に移転する行為は「課税資産の寄附」に該当することになる。寄附である以上、消費税の課税売上にはならないが、その一方で、当該排出権の仕入れに係る税額は仕入税額控除の対象となる。
仕入税額控除を行う法人の消費税の課税売上割合が95%未満で「個別対応方式」による場合においては、①将来の自社使用を見込んでの取得であれば「課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等に共通して要するもの」、②第三者への転売を目的とする取得であれば「課税資産の譲渡等にのみ要するもの」に区分されることも明らかにされている(図5参照)。
なお、排出権取引が国内で行われたかどうかの判定は、譲渡を行う者の当該譲渡に係る事務所等の所在地で判定することとし、内国法人が外国法人に譲渡する場合には、その効用は国外で発揮されることから、「輸出免税」が適用されるとした(図6左図参照)。
また、外国法人による譲渡は国外取引に該当し、消費税は不課税となることから、内国法人が外国法人から排出権を取得する場合も国外取引として消費税は不課税となり、仕入税額控除はできないこととされた(図6右図参照)。
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