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解説記事2009年04月13日 【会社法関連解説】 「会社法施行規則、会社計算規則等の一部を改正する省令」(平成21年法務省令第7号)の解説(下)(2009年4月13日号・№302)

解説
「会社法施行規則、会社計算規則等の一部を改正する省令」(平成21年法務省令第7号)の解説(下)

 法務省民事局付検事 大野晃宏
 法務省民事局付 小松岳志
 法務省民事局付検事 澁谷 亮
 法務省民事局付 黒田 裕
 法務省民事局調査員 和久友子

Ⅲ 会社法施行規則関係

1.株式関係の改正事項
(1)種類株式の内容
(新施行規則20条1項4号・9号)
 会社法108条3項では、種類株式の内容の全部または一部について、法務省令で定める事項に限って、当該種類の株式を初めて発行する時までに、株主総会または取締役会等の決議によって定める旨を定款で定めることができることとされており、この場合においては、その内容の要綱を定款で定めなければならないものとされている。
 会社法施行規則20条1項各号は、その委任を受けて、種類株式について、このような要綱では足りず、定款でその内容を必ず定めなければならない事項を定めることにより、各号に列挙されている事項以外については、会社法108条3項により定款に要綱を定めれば足りることとしている。
 新施行規則20条1項では、このような定款でその内容を定めなければならない事項として、(a)譲渡制限株式を発行する場合には、当該株式を譲渡により取得することについて当該株式会社の承認を要する旨(新施行規則20条1項4号)
(b)いわゆる役員選任権付種類株式を発行する場合には、当該種類株式の種類株主を構成員とする種類株主総会において取締役または監査役を選任することおよび選任する取締役または監査役の数(同項9号)
を加えることとしているが、これらはいずれも、旧施行規則において解釈上当然に定款に定めなければならないと考えられたものを明確化したものであり、その規律の実質に特段の変更はない。
(2)株主名簿記載事項の記載等の請求(新施行規則22条1項10号・2項4号・5号)および譲渡制限株式の取得者からの取得の承認の請求(新施行規則24条1項8号・2項4号・5号)
 株主名簿記載事項の記載等の請求を単独ですることができる場合(会社法施行規則22条)および譲渡制限株式の取得の承認の請求を単独ですることができる場合(会社法施行規則24条)に関する規律について、端数処理(会社法234条1項、235条1項)によって株式を取得した者および所在不明株主の株式を競売(同法197条1項)によって取得した者であっても、それぞれ単独での請求が可能となるよう所要の改正を行っている。
(3)自己の株式を取得することができる場合(新施行規則27条8号)
 自己の株式を取得することができる場合として、「その権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合」を新たに規定することとしている(新施行規則27条8号)。
 「その権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合」としては、典型的には、債務者が当該株式会社の株式以外にみるべき財産を有しない場合において、当該自己の株式を強制執行によって取得する場合または代物弁済として受領する場合がこれに該当するものと考えられる。
 このような場合には、会社法156条等が定める自己の株式に係る財源規制および取得方法に関する規制に服しないこととなる(脚注1・2)。
(4)自己の株式の取得に係る議案の追加請求の時期(新施行規則29条ただし書)
 旧施行規則29条では、株式会社が特定の株主から自己の株式を取得する場合において、他の株主が自己を売主に追加することを請求すること(当該取得に係る株主総会議案の追加を請求すること)ができる期限については、一律当該株主総会の日の5日前とされていた。
 これについて、公開会社でない株式会社においては、他の株主に対し、当該請求をすることができる旨を原則として当該株主総会の日の1週間前までに通知すれば足りることとされている(会社法160条2項、会社法施行規則28条各号)ため、株主が公開会社でない株式会社に対する投資を回収するか否かを判断するための時間的余裕が少ないとの指摘がされていたところである。
 そこで、公開会社でない株式会社については、特定の株主から自己の株式を取得する場合において、他の株主が当該取得に係る株主総会の議案に自己を売主に追加する旨を請求することができる期限について、当該株主総会の日の3日(定款でこれを下回る期間を定めた場合にあっては、その期間)前とする改正をしている(新施行規則29条ただし書)。
 なお、改正省令附則2条により、施行日前に、特定の株主に自己を加える旨の請求をすることができる旨の通知がされた場合には、当該通知に係る当該請求に係る期限については、従前の例による(すなわち、公開会社でない株式会社については、株主総会の日の5日前までに議案の追加の請求をしなければならない)こととしている。
(5)単元株式数(新施行規則34条)
 単元株式数についての規律の趣旨である少数株主の保護をより十分なものとするためには、発行済株式総数に連動しない現行の「千」を上限とする規律に加えて、発行済株式総数に連動する規律を加える必要があることから、単元株式数を定めるにあたり超えることができない一定の数として、「千」に加え、「発行済株式の総数の二百分の一に当たる数」を加える改正をしている(脚注3)。
 経過措置については、改正省令の附則3条1項により、施行日前に定められた単元株式数に関する定款の定めは、なお効力を有するものとしている。
 このため、改正省令の施行日時点において、発行済株式の総数の200分の1を超える単元株式数を定めている株式会社であっても、単元株式数に関する定款の変更をするまでの間は、当該定めは有効なものとされることから、直ちに定款の変更を行う必要はない。
(6)単元未満株式についての権利(新施行規則35条1項4号ホ・同号へ)
 本条1項4号ホ・ヘにおいては、定款の定めをもってしても制限することができない単元未満株主の権利として、
(a)単元未満株主が株主名簿記載事項の記載等の請求を単独ですることができる権利
(b)譲渡制限株式の取得の承認の請求を単独ですることができる権利
を追加することとしている。

2.株主総会参考書類関係の改正事項
(1)議案の提案の理由
(新施行規則73条1項2号)
 株主総会参考書類に記載すべき事項として、取締役が提出する議案の一般的な事項として「提案の理由」を含める旨の改正をしている(新施行規則73条1項2号)。
 すなわち、株主総会参考書類に記載すべき事項として、会社法施行規則74条~92条に具体的な事項が掲げられている取締役が提出する議案の一部(たとえば、会社役員の解任議案や組織再編行為に関する議案)については、議案を提案する理由や具体的な記載事項が定められているものがあるものの、それら以外の取締役が提出する議案については、議案を提案する理由を記載事項とする旨の規定が存しなかったところである。
 株主総会参考書類は、株主総会に出席しない株主であっても、その記載事項に基づいて議案の賛否を判断することができるようにするためのものであるところ、その作成実務においては、議案を提案する理由が記載事項となっていない議案についても、取締役が議案を提案した理由・目的・趣旨等を議案の性質に応じて可能な範囲で適宜記載することが一般的であり、このような作成実務の状況を踏まえて、取締役が提出するすべての議案について、「提案の理由」を株主総会参考書類の記載事項とすることとしたものである(脚注4)。
 なお、新施行規則73条1項2号かっこ書では、「議案が取締役の提出に係るものに限り、株主総会において一定の事項を説明しなければならない議案の場合における当該説明すべき内容を含む。」と規定しているが、これは、株主が提出する議案の場合にはその提案の理由が直ちには記載事項とはならないこと(会社法施行規則93条1項3号・3項参照)を明らかにすると同時に、取締役が提案する議案について、次の(a)~(h)の内容も「提案の理由」に含むこととするものである。
(a)全部取得条項付種類株式の全部を取得することを必要とする理由(会社法171条3項)
(b)株式の併合をすることを必要とする理由(会社法180条3項)
(c)単元株式数を定めることを必要とする理由(会社法190条)
(d)募集株式・募集新株予約権の発行価額が特に有利な金額である場合における当該払込金額でその者の募集をすることを必要とする理由(会社法199条3項、200条2項、238条3項、239条2項)
(e)取締役の報酬等の支給基準を定め、または改定する事項を相当とする理由(会社法361条2項)
(f)他の会社の事業の全部の譲受けをする場合において、譲り受ける資産に当該株式会社の株式が含まれるときの当該株式に関する事項(会社法467条2項・1項3号)
(g)形式上の債務超過会社を吸収合併する場合等におけるその旨の説明(会社法795条2項)
(h)吸収合併に際して承継する資産に自己の株式が含まれる場合等の当該株式に関する事項(同条3項)
 なお、株主総会参考書類と同様に、創立総会参考書類(新施行規則10条1項1号)および社債権者集会参考書類(新施行規則173条1項1号)についても「提案の理由」を記載事項とする改正を行っている。
(2)取締役の選任に関する議案および監査役の選任に関する議案  取締役または監査役の選任に関する議案を会社が提出する場合における株主総会参考書類の記載事項について、次の①および②の改正を行っている。
① 兼職状況の開示の整理(新施行規則74条2項2号、76条2項2号)
 旧施行規則74条2項2号および76条2項2号は、取締役または監査役の選任候補者について、「候補者が他の法人等を代表する者であるときは、その事実(重要でないものを除く。)」を記載することとしていたが、改正省令において、後述のとおり事業報告における会社役員の兼職状況の開示の整理を行うこと(3(3)参照)を踏まえ、株主総会参考書類における兼職状況の開示についても同様の整理を行うこととし、「候補者が当該株式会社の取締役に就任した場合において第百二十一条第七号に定める重要な兼職に該当する事実があることとなるときは、その事実」を記載事項とする改正をしている(新施行規則74条2項2号、76条2項2号)。
 これにより、(a)候補者が他の法人等の代表者を兼任しているだけでは直ちには記載事項とはならず、当該兼任のうち新施行規則121条7号の「重要な兼職」に該当するもののみを開示することとなり、一方で、(b)候補者が他の法人等の代表者ではなく、たとえば、業務執行取締役を兼職しているにすぎない場合であっても、当該兼職が「重要な兼職」に該当するのであれば株主総会参考書類の記載事項になることとなる。
 なお、「重要な兼職」の判断時点は、株主総会参考書類の作成時点である。
 すなわち、「当該株式会社の取締役に就任した場合」とは、株主総会参考書類の作成時点において、候補者が当該株式会社の取締役に就任したと仮定した場合という意味である。これは、予定される将来の就任時における兼職状況を作成時点で予想したうえで開示を行うことが困難な場合があるからであるが、他方で、将来予定される就任時までに当該「兼職」に該当する他の職から離れることが明らかな場合や将来予定される就任後間もなく当該「兼職」に該当する他の職から離れることが明らかな場合には、当該「兼職」は「重要な」ものではないということができる。
② 社外取締役候補者または社外監査役候補者に係る所定の親族関係者の開示の整理(新施行規則74条4項6号ハ、76条4項6号ハ)
 旧施行規則74条4項6号ハおよび76条4項6号ハでは、社外取締役候補者または社外監査役候補者について、当該候補者が「当該株式会社又は当該株式会社の特定関係事業者の業務執行者の配偶者、三親等以内の親族その他これに準ずるものであること」を当該株式会社が知っているときは、その旨を記載事項としていたところ、新施行規則74条4項6号ハおよび76条4項6号ハでは、事業報告における同趣旨の事項(新施行規則124条3号)との整合性の観点から「重要でないものを除く。」との文言を追加している。
 なお、「重要でないもの」の判断にあたっては、社外役員としての職務の遂行に影響を及ぼし得る事項の記載を求めるものという開示の趣旨に鑑み、当該株式会社または当該株式会社の特定関係事業者における当該親族の役職の重要性および当該親族との交流の有無などが考慮されることとなる。
(3)会計監査人の選任に関する議案(新施行規則77条7号)
 会計監査人の候補者が受ける予定があり、または過去2年間に受けていた多額の金銭その他の財産上の利益の開示において、「当該株式会社」から受ける財産上の利益も開示の対象に含めることとし、これにより当該株式会社を含む親子会社および関連会社からなる企業グループ全体からの財産上の利益の開示を要するものとする改正をしている。
(4)責任免除を受けた役員等に対し退職慰労金等を与える議案等に係る記載事項の新設(新施行規則84条の2)
 責任免除または責任制限を受けた役員等に対し、退職慰労金等の財産上の利益を与え、または当該役員等が責任免除または責任制限を受けた後に会社法238条3項各号に係る新株予約権を行使し、もしくは譲渡する場合には、会社法425条4項(同法426条6項および427条5項において準用する場合を含む)に基づき、株主総会の承認がそれぞれ必要とされている。
 新施行規則においては、以上の規律の実質を確保するため、当該承認に係る議案を提出する場合における株主総会参考書類の記載事項として、責任免除または責任制限を受けた役員等に与える財産上の利益の額等を記載事項とする規定を新設している(旧商法施行規則13条5項、16条3項参照)。
(5)株主総会参考書類の記載事項の改正に係る経過措置(改正省令附則5条)
 改正省令附則5条は、施行日以後にその末日が到来する事業年度のうち最初のものに係る定時株主総会より前に開催される株主総会または種類株主総会に係る株主総会参考書類については、なお従前の例によるものと規定している。
 すなわち、株主総会参考書類の記載事項の改正に関しては、たとえば、
(a)3月末を事業年度末とする株式会社にあっては、平成22年6月ころに一般的に開催される平成21年度に係る定時株主総会のための株主総会参考書類から新施行規則の適用があり(それ以前の臨時株主総会や平成20年度に係る定時株主総会には新施行規則は適用されない)、
(b)4月末を事業年度末とする株式会社にあっては、平成21年7月ころに一般的に開催される平成20年度に係る定時株主総会のための株主総会参考書類から新施行規則の適用がある(それ以前の臨時株主総会には新施行規則は適用されない)
こととなる。

3.事業報告関係の改正事項
(1)事業報告の内容とすべき事項等に関する規定の整理および明確化
(新施行規則118条~128条)
 従来、旧施行規則118条~128条については、各条文がいずれの類型の会社に適用されるのか、その構造が必ずしも明確ではないとの指摘がされていたところである。
 このため、新施行規則では、規定の適用関係を明確にするため、会社法施行規則118条~128条の各規定について「目」を設けるとともに、通則的にすべての会社に適用される「いわゆる会社の支配者の在り方に関する基本方針」の開示の規定(旧施行規則127条)を新施行規則118条3号に移す等の規定の適用関係を明確にするための改正を行っている。
 なお、いわゆる会社の支配者の在り方に関する基本方針の開示については、「基本方針の内容の概要」および「取組みの具体的な内容の概要」の開示で足りる旨を明らかにするため、「の概要」を文言として追加する改正を併せて行っている(新施行規則118条3号イ・ロ)。
 また、「会社役員」の範囲の明確化(新施行規則123条1号)等、規定の整理および明確化のための所要の形式的改正も行っている。
(2)会社役員および会計監査人の解任および辞任に関する開示(新施行規則121条6号、126条9号)
 会社役員および会計監査人(以下「役員等」という)の解任および辞任に関する事業報告の内容とすべき事項については、旧施行規則121条7号および126条9号の規定を改正し、開示すべき事項の範囲を合理化している。
 旧施行規則121条7号および126条9号に関しては、直近の定時株主総会以降に辞任し、または解任された役員等については、その後臨時株主総会が開催され、意見または理由が述べられない限り、たとえその後の定時株主総会において意見または理由が述べられたとしても開示の対象とはならないのではないかとの指摘がされていたところである。
 このような指摘を踏まえ、事業年度に係る事業報告(会社法435条2項参照)の内容として役員等の解任および辞任に関する開示事項が設けられている趣旨に鑑み、当該事業年度中に、次の(a)~(c)の事実が生じた場合において、次の(a)~(c)にそれぞれ掲げる事項を当該事業年度に係る事業報告における開示事項とするとの整理を行っている。
(a)当該事業年度中に役員等の解任がされ、または辞任があったという場合 当該役員等の氏名または名称
(b)役員等の解任または辞任について、次の株主総会において述べられる予定の意見または理由が当該事業年度中に判明した場合 当該述べられる予定の意見または理由
(c)当該意見または理由の陳述が当該事業年度中の株主総会において行われた場合 当該陳述された意見または理由
 新施行規則121条6号および126条9号においては、このような規律の実質を明確なものとするため、(a)~(c)のいずれの事実が発生した場合でも所定の事項を事業報告の内容とすることができるように、辞任または解任を限定していた旧施行規則における「当該事業年度中に」との文言を削除することとし、また「意見があった」との文言を「意見がある」に改めている。
 ある事業年度に係る事業報告において、述べられる「予定」の意見または理由を開示した場合(すなわち、(b)の事項を開示した場合)、その後に開催された株主総会において現に述べられた意見または理由が、当該株主総会の事業報告で開示された「予定」の意見または理由と同一のものであった場合には、同じ内容を翌事業年度に係る事業報告において再度開示する必要はない(すなわち、このような場合には、(c)の事項を重ねて開示する必要はない)ことを明らかにするため、「(当該事業年度前の事業年度に係る事業報告の内容としたものを除く。)」旨の文言を追加している。
 なお、事業年度末から当該事業年度に係る事業報告の作成時点までの間に、役員等が辞任した場合には、当該役員等に関する前述(a)~(c)の事項は、「重要な事項」(新施行規則121条9号または118条1号(脚注5))に該当するのであれば、当該事業年度に係る事業報告に記載することとなる。
 このような場合であっても、一度事業報告に記載された意見または理由と同一の意見または理由が現に株主総会で述べられた場合には、同じ内容を翌事業年度に係る事業報告の内容とする必要はない。
(3)会社役員の兼職等の状況に関する開示(新施行規則121条7号、124条1号・2号、128条)
 事業報告における会社役員の兼職等の状況に関する開示については、次の(a)~(c)の整理をすることにより、規律の合理化を図っている。
(a)他の法人等の代表者を兼任していることについての開示を求める旧施行規則121条3号を削除し、新施行規則121条7号の「重要な兼職」に含まれる場合にのみ兼職状況を開示すれば足りるものとする。このため、会社役員が他の法人等の代表者を兼任しているだけでは当然には開示を要するものとはならず、当該兼任のうち同条7号の「重要な兼職」に該当するもののみを開示すれば足りることとなる。
(b)社外役員が他の会社の業務執行取締役等または他の株式会社の社外役員を兼職または兼任していることに関する開示を求める旧施行規則124条1号および2号については、同条1号の「他の会社(外国会社を含む。)」、同条2号の「他の株式会社」を「他の法人等」(会社法施行規則2条3項1号参照)に統一することにより、新施行規則124条1号および2号において法人の種類による差異を設けないものとしたうえで、当該兼職または兼任が新施行規則121条7号の「重要な兼職」に該当する場合に「当該株式会社と当該他の法人等との関係」を開示するものとする。
(c)事業報告の附属明細書に関する新施行規則128条2項においても「他の会社」を「他の法人等」に統一し、所定の兼任または兼職が新施行規則121条7号の「重要な兼職」に該当する場合における兼職の状況の明細を開示するものとする。
 このような整理に伴い、兼職状況の開示に関する各規定間の細かな差異がなくなっている。
 事業報告の作成実務においては、従前どおり、会社役員全員について、「重要な兼職」といえるものがあるか否かを確認したうえで、「重要な兼職」と判断されたものの範囲内で、社外役員について若干の追加的な事項の開示を行えば足りるということとなる(脚注6)。
(4)株式会社の株式に関する事項(新施行規則122条1号)
 旧施行規則122条1号では、発行済株式総数の10%以上の数の株式を有する大株主が開示事項とされていたものの、そもそもそのような大株主が存在しない会社も少なくなく、そのような会社にあっては、実務上、法定の開示事項に代えて、保有株式数の比率において上位の者10名を開示している例が多いとの指摘がされていたところである。
 このような指摘を踏まえ、新施行規則122条1号においては、発行済株式の総数に対する保有株式数の割合において上位の者10名(株主名簿における保有株式数を基準として形式的に算出するものであり、割合の計算における分母および分子から自己株式は除外される)の株主の氏名等を事業報告の内容とするよう改正を行っている。
(5)事業報告およびその附属明細書の開示事項に係る改正の経過措置(改正省令附則6条)
 改正省令附則6条は、施行日前にその末日が到来した事業年度のうち最終のものに係る事業報告およびその附属明細書については、なお従前の例によるものとしている。
 すなわち、事業報告およびその附属明細書の開示事項に係る改正規定については、株主総会参考書類に係る改正規定の適用が開始される定時株主総会(前述2(5)参照)と同じ定時株主総会のための事業報告およびその附属明細書から適用が開始されることとなる。

4.その他の改正事項
(1)委員会設置会社における「特定監査役」の範囲の明確化
(新施行規則132条5項3号)
 委員会設置会社における「特定監査役」について、監査委員会が「特定監査役」を定めた場合以外の場合の規律が明確ではなかったため、このような場合には、「監査委員のうちいずれかの者」が「特定監査役」となる旨を明らかにする改正を行っている(新施行規則132条5項3号ロ)。
 なお、新計算規則130条5項3号の「特定監査役」の規律についても、同様の改正を行っている。
(2)責任追及等の訴えに係る不提訴理由の通知(新施行規則218条)
 本条では、株式会社が会社法847条1項の責任追及等の訴えを提起しない場合において、所定の株主等から請求を受けたときに当該請求者に対して提出または提供しなければならないものとして、「請求対象者の責任又は義務の有無についての判断」のみならず「その理由」も含まれることを明確化する改正を行っている。
 なお、この文言の追加は、規定の形式的な整備にすぎないものであり、従来の規律の実質を変更するものではないから、不提訴の判断の根拠を従来よりも詳細に記載することが必要となるということはない。
(おおの・あきひろ/こまつ・たけし/しぶたに・りょう/くろだ・ゆたか/わく・ともこ)


脚注
1 平成13年法律第79号による改正前の商法のもとでは、同法210条3号の「会社ノ権利ノ実行ニ当リ其ノ目的ヲ達スル為必要」との規定についても、同改正後の商法210条1項の「買受クルニハ」との規定についても、解釈により、債務者が当該株式会社の株式以外にみるべき財産を有しない場合において、当該自己株式を強制執行により取得し、または代物弁済により受領するとき等は自己の株式に関する財源規制および取得方法に関する規制には服しないものとされていたところである。
2 債務者に当該会社の株式以外に十分な財産がある場合にあえて当該株式に担保権を設定して実行する場合や、債権が名目的で担保権の実行以外による弁済が予定されていない場合等、自己株式取得規制を潜脱する濫用的な担保権実行による自己の株式の取得の場合には、「その権利の実行に当たり目的を達成するために当該株式会社の株式を取得することが必要かつ不可欠である場合」に該当しないことはいうまでもない。
3 なお、種類株式発行会社が単元株式数を定める場合であっても、発行済株式総数の200分の1に当たる数を超えることは許されないが、種類株式ごとの発行済株式総数の200分の1に当たる数を超えてはならないものとはされていない。
4 したがって、従前から、このような実務によっている会社については、新施行規則によって記載事項に特段の追加はないということとなる。また、たとえば、会社役員等の解任議案(会社法施行規則78条~81条)や組織再編行為に関する議案(会社法施行規則86条~92条)のように、各別に当該議案を提案する理由が開示事項とされているものについては、当該各別の提案の理由と新施行規則73条1項2号の「提案の理由」の内容は重なることから、2つの別個の理由を開示する必要はない。
5 事業報告は、原則としてあくまで事業年度中に発生した事実について記載するものであることから(会社法435条2項参照)、このような場合における理由等は新施行規則121条6号または126条9号による開示事項とはならないものと考えられる。
6 なお、事業報告の附属明細書の開示事項である「兼職の状況の明細」に該当する事項についても事業報告の内容としている場合には、事業報告の附属明細書において当該事項を重ねて開示する必要がないことについては、従前と何ら異ならない。

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