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コラム2009年04月27日 【Sammys Cafe】 従業員持株会とインサイダー取引(2009年4月27日号・№304)

コンプライアンスの秘訣を指南するみんなの会社法
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従業員持株会とインサイダー取引
by TMI総合法律事務所 弁護士 葉玉匡美
港区の一角に、ちっぽけなカフェがある。そこは、なぜか会社法に詳しいマスターが、悩み多き法務担当者に心休まるコーヒーを差し出す大人の隠れ家。 Welcome to SAMMYS Cafe

総務部長 ボーナスが下がってローンが払えん。こうなったら持株会を退会して株を売るしかない。
Sammy でも、総務部長はインサイダー情報の宝庫だから、それは無理じゃないですか? 持株会を抜けるときはインサイダー取引に要注意ですよ。

1 持株会への加入とインサイダー取引

 株式を継続的に購入してくれる従業員持株会は、上場企業にとっては温かい投資家であり、最近では、従業員の拠出金に対し50%から100%という高率の補助金を出して加入を促進している会社もあります。
 他方、会社の業績悪化に伴って従業員の給料やボーナスが切り下げられると、従業員は、生活費の捻出や住宅のローンの支払いのため、従業員持株会の拠出金を減額したり、退会により株式を受け戻して市場で売却することもあります。
 しかし、持株会への加入や退会にはインサイダー取引を招くリスクがあるので、注意が必要です。
 会社関係者等のインサイダー取引(金融商品取引法166条)は、従業員等が、未公表の重要事実を知りながら、公表前に株式を売買した場合に成立します。従業員が持株会へ加入した時点では、株式の売買はまだ行われていませんから、加入時にはインサイダー取引は成立しません。
 しかし、持株会が、従業員の申し込んだ拠出金に相当する金額の株式を購入した場合には、当該購入行為は従業員の委託による買付けと評価され、その時点で従業員が未公表の重要事実を知っていれば、原則として、インサイダー取引の要件を充たすこととなります。
 この持株会による購入については、適用除外規定(金商法166条6項8号、有価証券の取引等の規制に関する内閣府令59条1項4号)がありますが、適用除外規定は、重要事実を知る前に持株会に加入した場合にのみ適用されるので、重要事実を知っている従業員が、持株会に加入したり、拠出金を増額したりすれば、その後、持株会が株式を購入した時点で、当該従業員にインサイダー取引が成立することになります。
 もっとも、重要事実である決算情報を知っている従業員が、決算公表前に持株会に加入しても、持株会による株式の購入が決算公表後であれば、インサイダー取引は成立しません。当該従業員が加入した時点では売買が行われていませんし、持株会が株式を購入した時点では決算公表後となるので、インサイダー取引にはならないからです。
 決算情報に限らず、M&Aなど他の重要事実であっても、持株会が株式を購入する前に公表されれば、持株会への加入によりインサイダー取引が成立することはありません。しかし、M&A等の公表時期は予定より遅れることが多いので、決算情報以外の未公表の重要事実を知っている従業員は、持株会への加入を断る方が安全です。

2 持株会からの退会

 未公表の重要事実を知っている従業員が、株価の下落を恐れて、持株会を退会したり、拠出金を0(ゼロ)にする行為は、インサイダー取引に該当するでしょうか。
 答えは、ノーです。従業員が退会したり、拠出金を0にすれば、持株会は、当該従業員のための株式の購入を行いません。インサイダー取引は、株式の売買により成立するものですから、退会したことにより、持株会が株式の売買を行わないのであれば、インサイダー取引が成立する余地はありません。
 ただし、当該従業員が、重要事実の公表前に、交付を受けた株式を売却する行為は、インサイダー取引となります。
 したがって、従業員持株会は、株式の交付時に、退会した従業員に対し、「あなたが、未公表の重要事実を知っている場合には、この株式を売却すると、インサイダー取引として処罰または処分されることがあります」と注意喚起した方がよいでしょう。

3 拠出金の減額

 それでは、未公表の重要事実を知る従業員が拠出金を減額する行為については、インサイダー取引にはならないのでしょうか。
 従業員が退会する場合にはインサイダー取引に該当しないので、拠出金の減額も同様に考えられそうですが、実は、そうではありません。
 この場合、従業員は、減額した拠出金で株式を購入する旨の申出をしているので、持株会が株式を購入した時点で当該従業員が株式を購入したものと評価されるため、インサイダー取引の要件を充たすことになります。
 そこで、当該行為に適用除外規定が適用されるかが問題となりますが、適用除外規定は、持株会による買付けが、従業員が重要事実を知る前に締結された契約の履行であり、かつ、持株会の買付けが一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に行われる場合で、1回当たりの拠出金額100万円未満の場合に限って適用されるため、未公表の重要事実を知っている従業員が拠出金を減額してしまうと、当該減額行為が新規の契約と同視され、あるいは、「一定の計画に従い、個別の投資判断に基づかず、継続的に」売買されたものとはいえないと評価されることにより、適用除外規定の要件を充たさず、インサイダー取引が成立するリスクを否定することはできません。
 拠出金の減額は会社が補助金を減額する場合に行うことが多いので、持株会の事務局は、減額を申し出る従業員に対して、未公表の重要事実を知らないことを確認してください。
 また、持株会規約の建付けを工夫すれば、会社が補助金を減額しても、従業員が拠出金を減額する必要がないような規定を置くこともできますから、インサイダー取引を誘発しないような規約を整備するのが望ましいでしょう。

総務部長 株は売れない、拠出金は下げられないなんて、マスター、私はどうしたらいいんだ!!
Sammy インサイダー情報を知っている社長に売るのなら、インサイダー同士の取引なのでインサイダー取引になりませんよ。
総務部長 だめだめ。今日、社長から「給料が下がったから、株を買ってくれ」と頼まれたばかりだよ……。

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