カートの中身空

解説記事2009年04月27日 【ニュース特集】 本年6月総会における留意事項と株主の信任を得る開示・運営(2009年4月27日号・№304)

諸施策・手続の総点検を!
本年6月総会における留意事項と株主の信任を得る開示・運営

同志社大学法学部教授 中西敏和

 平成19年・20年総会は、18年に施行された会社法の全面適用への対応が注目されるとともに、機関投資家の議決権行使のさらなる積極化がみられた。このようななか、一部の配当・取締役等選任議案について行われた投資ファンド等による株主提案が一般に報じられたり、会社提案議案の否決事例が従前に比して目にとまるようになるなどの一方で、会社は役員報酬改革や買収防衛策導入を着実に進めてきたものといえる。この2~3年の経緯を踏まえて、本年総会をどのようにとらえ、どのように対応すべきか。    (編集部)

Ⅰ はじめに
 平成18年に施行された会社法も、3月期決算会社においては本年6月総会で全面適用後第3回目の定時株主総会を迎える。会社法への対応がここ数年大きな課題となっていたが、これまでの事例の集積と法務省令の改正等によって、総会関係書類についてはほぼ定着したものと思われる。
 付議議案についても、図表1のとおり、会社法関連の定款変更や役員報酬の改定といった手当ては、ほぼ一巡したように思われる。
 ただ、本年6月総会では、ほとんどすべての会社が株券電子化対応のための定款変更を予定しており、会社法関連の積残し事項の付議という観点からはラスト・チャンスともいえるが、内容次第では、逆に当該事項を盛り込んだがために定款変更議案に反対票が投じられるというリスクが生じることに留意する必要がある。
 なお、役員報酬関係については、会社法対応というよりも、むしろ株主の承認がますます得られにくくなったことを背景に、体系そのものの見直しが迫られているようである。
 総会運営面でも会社法対応がほぼ定着したが、本年3月期決算から、金融商品取引法に基づく財務報告の内部統制報告制度がスタートしており、この関係で新たな問題が生じている。
 すなわち、金融商品取引法の内部統制報告書は、対象が財務報告に限定されているものの、内部統制システムの評価を内容とするものであり、さらに公認会計士または監査法人の監査証明を受けることが求められていることによる。
 仮に財務報告に係る内部統制に重大な欠陥があると記載された場合、内部統制システム全般に関係している可能性があり、これに対する監査役の監査の実効性についても疑義が生じる可能性があるため、総会での説明を含めた対応を検討する必要が生じるからである。
 監査役と会計監査人の連携が必要であり、日程面でも、監査手続の厳格化、決算発表の早期化の要請とともに、十分留意することが必要である。
 一昨年に始まった金融危機は、その後の実体経済の悪化に伴い、今やグローバルな重要課題となっている。株主総会においても、株価の低迷や業績の悪化について、経営責任が問われる場面も増加することが予想され、想定問答の見直し等が必要となる。
 このような対応以上に、本年総会の最大の課題は、株主からの信任をいかに得るかという点にあろう。図表2のとおり、株主総会をIRの一環としてとらえる考え方が今ではすっかり定着しているにもかかわらず、「具体的には実践していない」という回答がその6割超を占めている点も気になるところである。株主総会で今、何が求められているのかという点について改めて考える必要があるように思われる。
 以下では、最近の総会の状況を踏まえ、本年総会に向けての留意点をまとめることとする。

Ⅱ 書類作成と付議議案に関する留意事項
 本年6月総会は、会社法対応という点では、総会関係書類の作成および付議議案ともにほぼ一段落したが、景気の悪化がさらに進み、景気後退局面での総会を迎えることになる。
 事業報告については、株主の理解しやすさが一層求められ、付議議案についても、役員報酬関連議案を中心に見直しが進むものと思われる。

1 事業報告の作成と決算手続に関する留意事項
(1)事業報告で求められる環境激変への対応
 事業報告については、これまでの事例の集積により、会社法適用に伴う一般的な問題点はほぼ解消されたものと思われる。
 本年3月期の事業報告については、昨年4月1日に施行された法務省令の改正の影響を受けるが(松本真・小松岳志「『会社法施行規則及び会社計算規則の一部を改正する省令』(平成20年法務省令第12号)の要点」本誌253号20頁参照)、この改正は、それまでの疑問を解消するための改正という性格が強く、具体的には、①「直前の定時株主総会の終結の日の翌日以降に在任していたもの」という定義規定の適用が、役員の氏名等の記載に限定されたことにより、会社役員の報酬等の記載については、文字どおり「当該事業年度に係る」報酬等を記載すればよいことになり、②対応関係が必ずしも明らかでない報酬等についても、「当該事業年度に受け」(支給ベース)、または「受ける見込みの額が明らかとなった」(見込みベース)報酬等として記載することを求めることによって、範囲が明確にされた。
 図表3のとおり、前年3月期から、実務はほぼこれに沿って対応しており、経団連ひな型および全株懇モデルもこれを踏まえた改定が行われているので、これらが参考になる。
 会社法関係の法務省令は、本年3月にも改正が行われているが(大野晃宏ほか「『会社法施行規則、会社計算規則等の一部を改正する省令』(平成21年法務省令第7号)の解説(上)(下)」301号15頁・302号16頁参照)、これについては、平成21年4月期決算からの適用となっているため、本年3月期の事業報告を作成するにあたっては直接改正の影響は受けない。
 ただし、主要株主に関する事項の改正のように、現行実務においても7割以上の会社が改正に盛り込まれた内容に沿う形で対応している事項もあり、これについては、本年3月期の事業報告から、改正を踏まえて「大株主上位10名の氏名または名称、所有株式数、持株比率」(自己株式は除いて算出)を記載するのが望ましい(新会社法施行規則122条1号参照)。
 また、前年3月期の事業報告の分析結果をみると、内部統制システムについて、昨年6月から東京証券取引所の有価証券上場規程に明記された「反社会的勢力排除に向けた体制整備に関する内容」を新たに加えた会社が545社(内部統制システムについて記載した1,991社に対し27.4%)あり、さらに本年3月期決算からスタートする財務報告に関する内部統制報告制度を織り込む形で、「財務報告の信頼性を確保するための体制の整備」を加えた会社も427社(同21.4%)あった(「資料版/商事法務」299号109頁以下参照)。
 いずれも、広い意味では「法令遵守体制」に含まれると考えられるが、その影響の大きさを考慮すると別個に規定することも考えられる。
 本年総会に向けて事業報告の作成上問題となるのは、環境の激変への対応である。
 総論部分に当たる「事業の経過及び成果」における企業を取り巻く環境や「会社が対処すべき課題」の記載については、大幅に減益となった会社を中心に、より具体的な内容の記載が求められる。
 また従来から、機関投資家を中心に、議案情報とともに事業報告の情報開示手段としての機能に強い関心が寄せられており、とりわけ会社役員の情報とともに会社支配に関する基本方針、剰余金の配当等の決定に関する方針等に関心が高い。
 これらは会社の自主性に委ねられている事項でもあり、株主の理解が一層得られるよう、記載のあり方を含めて検討すべきものと思われる。
(2)決算手続と内部統制報告制度等  決算手続という点では、本年3月期決算から、金融商品取引法に基づく財務報告の内部統制報告制度がスタートしており、総会とは直接関係しないものの、その内容次第では総会対応を考える必要がある。
 すなわち、金融商品取引法の内部統制報告書は、対象が財務報告に限定されているものの、内部統制システムの評価を内容とするものであり、さらに公認会計士または監査法人の監査証明を受けることが求められている。
 他方、スケジュール的にみれば、事業報告は5月中旬から下旬に取締役会で確定させ、招集通知の添付書類として6月上旬には株主宛に発送されるのに対し、内部統制報告書は株主総会の招集通知の発送前後に作成され、総会後に有価証券報告書の提出に併せて提出すべく作業が進められるため、仮に内部統制報告書やその監査報告において「重要な欠陥」に相当する記載がある場合、監査役の監査報告を含め、株主総会でどのように取り扱うかという問題が生じる。
 財務報告に係る内部統制に重大な欠陥がある場合、事業報告に記載された内部統制システム全般に関係している可能性もあり、また、これに対する監査役の監査の実効性についても疑義が生じる可能性があるからである。
 これについては、本年4月3日に日本監査役協会がこれに即した監査報告書文例を示すなど(302号11頁参照)、関係者間で検討が重ねられているが、実務担当者としては、従来以上に会計監査人および監査役の連携強化に努める必要がある。
 決算関係については、これらのほか、継続企業の前提に関する注記を行う会社が年を追って増加しており、景気悪化を背景に本年はさらに増加することが予想される。
 これを踏まえ、判断要件の緩和が実施されており、本年3月期決算に係る財務諸表から適用すべく、本年3月27日に内閣府令の改正案が公表され、パブリック・コメント手続に付された後、4月20日に公布・施行されている。ただし、判断要件の緩和は、逆に記載する会社の倒産の可能性の高さを示すという声も聞かれる(301号40頁参照)。

2 議案作成に向けての留意事項  会社法対応という点では一段落したが、経済環境の変化や株主構成の変化に伴い、個々の会社においては新たに検討すべき点が生じている。
 また、参考書類の記載事項が本年3月の法務省令の改正により変更を受けたが(大野ほか・前掲解説参照)、対応は本年4月期決算会社からとなるため、本年6月定時総会には直接影響はなく、また内容面でも、会社提案の場合の記載事項として「提案の理由」が求められるという点については、すでに定款変更等で対応が図られているため、影響はないものと思われる。
(1)取締役選任議案  取締役選任議案については、機関投資家の対応が相変わらず厳しい。
 取締役の経営責任との関係では、従来から企業年金連合会は「3年連続してROE(株主資本利益率)が8%未満の会社の取締役の再任議案については事業計画等に対し納得のいく説明がない限り、肯定的な判断はできない」としており、他の機関投資家も、ほぼ同様の基準を設けている。
 もちろん、従来と同じ尺度で測ることは難しいということは認識されていると考えられるが、信任を得るためには、事業報告等で明確に方向性を示すことが従来以上に求められる。
 コーポレート・ガバナンスの強化について、金融審議会(金融庁)の「我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」、経済産業省の企業統治研究会で同時並行的に検討が行われているが、図表4・5のとおり、いずれにも検討事項のポイントの1つとして社外取締役の設置義務化が挙げられている。特に社外取締役については、その必要性とともに「独立性」ということが検討対象とされている点に留意すべきである。
 それぞれ6月など夏ころを報告書公表の目安としているところから(303号4頁参照)、本年総会に向けて、これも視野に入れる必要があろう。
 社外取締役については、その人選が難しいということが従来からいわれており、報告書の行方が気になるところではあるが、経営危機のリスクが高まれば高まるほど、社外取締役の要請が強まることは間違いないところであり、検討は避けられないものと思われる。
(2)役員報酬関連議案  役員報酬の関連では、一時のような大きな動きはみられないものの、役員退職慰労金制度を廃止する会社、役員報酬を改定する会社が毎月のようにみられ、報酬改定に伴ってストック・オプション報酬議案を付議する会社もわずかながら増加している。
 従来から存否が問題とされている役員退職慰労金に加え、現下の情勢では、役員賞与支給議案についても総会に提出しづらくなっており、廃止の方向が強まるものと思われる。
 ただ、役員報酬については、改定時に総額について株主総会で承認を受けるという、現行の報酬体系について、むしろ開示という観点から透明性を求める声が高まることが予想される。
 役員退職慰労金を廃止した会社や役員賞与を取りやめた会社の多くは、役員報酬改定という形で対応しており、機関投資家からみれば、ますます不透明感が高まったと受け止められることを懸念しておく必要がある。
(3)敵対的買収防衛策関連議案  平成20年6月総会で敵対的買収防衛策関連の議案を付議した会社は195社と、前年19年6月総会の196社とほぼ同程度の会社数となった。
 20年6月総会は当初、ブルドックソース事件を巡る一連の決定を受けて前年総会を上回る会社が導入するものと見込まれたにもかかわらず、企業年金連合会の議決権行使基準の見直し等による機関投資家の強い抵抗や、すでに採用した会社の見直しの動き等もあって、前年並みにとどまったという経緯がある。
 そして、昨年6月に企業価値研究会から「近時の諸環境の変化を踏まえた買収防衛策の在り方」と題する報告書が公表されるに及び、さらに見直し気運が高まり、いまだ混沌とした状況にある。
 少なくとも、同報告書が明らかにした「金銭補償を規定しない」という点については、機関投資家も同調しているところから、今後買収防衛策を導入する場合の1つの基準となり、すでに導入している会社においても適宜見直しが行われるものと思われる。
 いずれにせよ、敵対的買収防衛策に対する過度な期待が薄らいだことは間違いないところである。
(4)配当に関する議案  剰余金の配当議案を定時株主総会に付議する会社が今でも圧倒的多数を占め、このなかには定款で剰余金の処分権限を取締役会に委譲した会社も含まれている。
 剰余金の配当が行われない場合は、総会に当該議案が付議されることは当然なく、本年総会についてはこのような会社の増加が見込まれている。
 ただし、配当が株主にとって最大の関心事であることに変わりはなく、付議しないまでも、従来どおり、総会においてもその理由と今後の配当方針については十分説明すべきものと思われる。
 世界的な金融・経済環境の悪化については広く知れ渡っており、配当性向等一定の指標に基づいて合理性が得られるものであれば、本年の場合、それほど強い抵抗はないものと思われる。
(5)株券電子化に関する定款変更議案  本年1月5日にすべての上場会社が一斉に株券電子化へと移行したが、上場会社は株主名簿管理人を設置しており、総株主通知を中心とする、株主確定のための作業は口座管理機関・振替機関と株主名簿管理人とのデータ授受によって行われるため、発行会社にとっては、これに伴う定款変更と諸手続が中心となる。
 株券電子化に伴う定款変更の内容については、すでに「全株懇モデル」が示されているので、これが参考になるが、他に変更事項があれば、これをも含めて1つの議案として付議するのが従来の慣行であり、その内容が、敵対的買収防衛策に伴う定款変更事項等、機関投資家の反対が想定される事項である場合については、別議案とするかどうかについて、一応の検討はすべきものと思われる。
 なお、本年株主総会に向けての株券電子化に伴う留意事項としては、定款変更以外に、各種書類・帳簿の閲覧・謄写請求権や株主提案権のような少数株主権等が行使された場合にどのように対応するかという問題がある。
 こういった事項も定款に盛り込むことも考えられるが、株主提案権の提案理由の字数制限も含め、定款の授権のもとに株式取扱規則で定めるということについては、最近、機関投資家は反対姿勢を強めている。
 株券電子化のもとでは、株主が少数株主権等を行使する場合、証券会社等の口座管理機関を通じて、証券保管振替機構に個別株主通知の申出を行った後に、発行会社に対して行使することが必要であり(社債、株式等の振替に関する法律154条)、また、届出印鑑制度の廃止に伴い、発行会社における本人確認手続も従来とは異なるものとなる。
 あらかじめ、行使が予想される場合に備え、全国株懇連合会が制定した事務取扱指針等を参考に対応を用意しておく必要がある。

Ⅲ 総会運営面での留意事項

1 出席株主の状況と総会場の設営
 総会に出席する株主は年々増加しており、業績悪化と株価低迷を受けて、本年総会は多くの会社において来場株主の増加が見込まれると予想せざるを得ない。
 出席株主数の増加が見込まれる場合に留意しなければならないのは、会場の用意である。来場した株主に見合った座席数を確保することが必要であり、収容能力との関係で会場の変更を余儀なくされる場合は、早めの対応が必要となる。
 ただ、本年の場合、株価低迷については横並びであるところから、来場株主の増加が見込まれるとしても、他の会社との関係で増加の度合いは予測しにくい点がある。新たな会場の確保も、従来以上に困難となることが予想される。
 このような折、次善の策として考えられるのは、会場とは別のスペースを同一建物あるいは敷地内に確保し、これを予備会場として利用することを含めた弾力的な対応を検討することであろう。
 すなわち、本会場の収容能力を超えた場合は、予備会場を第2・第3会場として使用することになるが、最低限、第1会場の模様が伝えられるビデオカメラとモニターテレビを第2・第3会場にも設置すること、質疑に際しては第2・第3会場の株主にも均等の機会を与えること、さらに実際の質疑応答は議長の指名のもと、第1会場に誘導し(この間、議事はストップさせる)、第1会場で質疑応答は完結させることを守れば、問題ないものと思われる。

2 さらなる議決権行使の促進策  個人株主の来場数の変動が見込まれる一方で、上場会社においては、議決権行使のさらなる低下が見込まれる。
 増配や経営責任の追及といった具体的な懸案事項があればともかく、各社とも最大限の努力をしたにもかかわらず、業績の回復が見込めないという現状のもとでは、議決権行使に対するモチベーションの低下が生じることが懸念されるからである。
 来場株主がどの程度見込まれるかということと、定足数の確保や決議を成立させるための議決権数の確保とは、次元の異なる話であるというのが一般的であり、会社が把握している大株主の議決権数だけで定足数の確保や必要な賛成票の獲得ができない場合には、議決権行使比率向上や賛成票獲得に向けての努力が必要となる。
 特に、機関投資家を中心に外国人投資家の所有割合が多い会社については、外国人投資家の議決権行使促進に向けての努力が別の観点から必要となる。

3 想定問答の準備  本年の株主総会においては、想定問答の大幅な見直しが必要となる。
 業績が急速に悪化し、株価もそれにつれて下落している場合、この3月期決算においては経常的な損益だけでなく、将来に備えて、大幅な特別損失を計上するところも増加することが見込まれる。
 株主の信任を得るためにも、今後の業績回復に向けての展望を含め、十分な説明が必要となる。
 なお、配当については、減益減配(無配)、減益配当維持と色々な組合せが考えられる。安定配当を標榜していた会社は、安定配当を求める声と、無理な配当によるキャッシュ・フローの悪化の防止との調和が必要となる。
 いずれにしても、株主に不安感を抱かせることのないよう、配当の限界がどこにあるのかを見定めたうえでの説明が求められる。
 業績悪化に伴い、役員報酬の処理や説明も重要課題の1つである。
 議案についての見直しとともに、報酬の透明性を求める声が高まることが予想され、その体系と考え方を示すことが必要となる。
 最後に、株価の下落に伴って、保有株式の減損処理が問題となる。
 バブル経済の破綻時期に問題とされた事項であり、安易に繰り返したとなれば経営責任にも波及しかねない。その必要性について将来展望も織り込んだ説明が求められる。
 想定問答については、本年の場合、精度の向上とともに、総会までに生ずる様々な事象の変化に対応できるよう、当意即妙の回答が求められるため、答弁担当役員との連携が重視される。

4 株主提案の動き  関係者全員によるリハーサルとともに、関係者による読会を繰り返すことも検討する意味がある。投資ファンドを中心とする株主提案は平成20年6月総会において減少し、本年総会においてもその傾向は変わらないものと思われる。
 一方で、経営権を巡る争奪戦は今後も色々な形で行われることが予想される。
 双方ともに、否決されることを前提としたかのような株主提案権行使への対応はほぼ確立されているが、委任状争奪戦につながるような株主提案権行使や会社提案に対する反対行動については、まだまだ十分確立されたとはいえない状況にある。
 いずれにせよ決議の成否については、後の訴訟をも念頭に置いて丁寧な対応を行うことが必要である。どの会社にも当てはまる事項ではないが、株主の動向その他からこのような動きが懸念される場合には、総会検査役の選任申請や議決権行使の勧誘方法、総会当日の委任状の確認、投票といった過程を含め、マニュアル化しておくことが必要である。

Ⅳ おわりに―株主の声をいかにとらえるか―
 総会に来場する株主にお土産を配付する会社が78.9%に達し(2008年版株主総会白書・旬刊「商事法務」1850号47頁・図表36)、ビジュアル化を実施する会社が70.5%に増え(同51頁・図表42参照)、さらに、総会で株主の発言があった会社が62.1%へと増加した(同107頁・図表122参照)。
 また、その結果は出席株主数の増加にもつながり、6月総会の1社当たり平均出席株主数は年々増え続け、20年6月総会においては前年比13名増加して179名となっている(「資料版/商事法務」292号150頁参照)。
 しかし、図表2のとおり、株主総会をIRの一環としてとらえる考え方が今ではすっかり定着し、上記のような手厚い対応が図られているにもかかわらず、「具体的には実践していない」という回答がその6割超を占めているということの意味を改めて考える必要があるように思われる。
 株主総会は、機関投資家やアナリストが集まるIR説明会とは異なる風景であり、多分に来場する株主のほとんどが個人であることの特性によるものと考えられないわけでもない。
 出席株主の多くは総会に発言を求めて来ているわけではない。したがって、その反応は窺い知れない面があり、イベントや手土産につられてくる株主が数多くいることも否定できない。しかし、株主総会における経営者の肉声による説明と株主の質問に対する応答ぶりをみに来る株主が少なからずいることも事実である。ソニーのようにイベントを実施するわけでもないのに、多くの株主が来場するという事実にも目を向ける必要がある。
 いずれにしても、手土産を配付したり、ビジュアル化したりすることは、それなりのコストを要することであり、そろそろその見極めが必要な時期に来ているものと思われる。
 その結果、総会がIRの場に値しないと考えるならば簡素な総会を志向すべきであるし、逆にIRの場に値すると考えるならば、実践しているといえるだけの工夫をすべきものと思われる。特に、経費節減の折から、無駄と考えれば手土産の配付の打切りを検討すべきである。
 本年総会は、昨年末からの極めて厳しい状況のもとで運営されることは必至である。このような際は、大きな変革を行うことはこれ自体リスクを伴うが、それとともに、株主の信任をいかに得るかという観点から、総点検を行うことも必要である。
 このためには、総会に出席しない株主も含めた情報開示の充実策として事業報告等の開示書類の充実があり、総会に出席した株主の声を聞くことも、前述のとおり今後の総会を考えるうえで重要である。
 具体的には、投票を求めることによって、総会への参加意欲を高め、同時に出席株主にアンケートを行うことによって生の声を聞くことが考えられる。これらについては、決議結果が明らかであるということを前提にすれば、総会後にインターネット等を通じて公表するということも考えられる。
 いずれにしても、国内外の株主から共通して寄せられるのは透明性を求める声であり、そのための努力は惜しむべきではない。
(なかにし・としかず)

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索