コラム2009年06月29日 【SCOPE】 上場会社のガバナンス論議、取引所の開示充実が主な対応に(2009年6月29日号・№312)

望ましい体制は個々の企業で選択
上場会社のガバナンス論議、取引所の開示充実が主な対応に

 「企業統治研究会」と「(金融審)我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ」で検討されてきたコーポレート・ガバナンス上の問題に関する提言がともに6月17日、正式に公表された。

「開示の充実」を通じて個別企業ごとの体制構築を促す  両者の会合とも検討の趣旨・開始日、具体的課題等については本誌303号4頁を参照されたい。また、いずれの報告案も今般の検討に係る最終会合でおおむね了承されていたが(企業統治研究会について308号14頁、金融審のスタディグループ(以下「市場国際化SG」という)について311号13頁参照)、一部に加筆・修正がある。
 各提言で共通に触れられた論点と、記述のニュアンスを損なわないように抜粋した提言内容を表1に掲げた。両提言とも(A)(B)では、取締役会に対する監督体制が監査役設置会社において不十分であるとの指摘を紹介し、純然たる「社外」の視点として独立取締役の存在意義を肯定しつつも、個々の企業の多様性を尊重。当該企業にとって望ましいガバナンス体制の構築を「開示の充実」を通じて促す恰好である。結論として「社外取締役の設置義務付け」など一律の規制は見送り、具体的な対応を取引所に委ねた((C)参照)。

【表1】企業統治研究会・市場国際化SGにおける共通の論点と提言の内容

共通する論点
企業統治研究会の提言(要旨)
市場国際化SGの提言(要旨)
(A)社外取締役・監査役の独立性 ① 最低限、一般株主との利益相反が生じるおそれのない「独立」な役員が存在することを前提に、社外性に多様性を認め、一律に「社外性」要件を「独立性」要件に置き換えない
② 個々の上場企業の対応については、当該企業にとり最適な統治構造が株主との対話のなかで合意形成できるよう、企業側の考え方につき、開示の充実等を求める
① 親会社や兄弟会社などの出身者については、子会社上場のあり方や少数株主の利益保護策について、早急な検討が進められるべき
② 大株主企業、主要取引先などの出身者については、取引所において、会社との関係についてより具体的な内容の開示を求めるとともに、当該者の独立性に関する会社の考え方についても適切な開示を求めることが適当
(B)社外取締役の導入 ▲次のいずれかの対応を選択することを求める
① 社外取締役を設置し、企業統治体制を整備、実行することについて開示する(社外取締役の役割、機能の開示等)
② ①を選択しない場合、当該企業独自の方法で企業統治体制を整備、実行することについて開示する
○ 取引所においては、多くの上場会社にとって、株主・投資者等からの信認を確保していくうえでふさわしいと考えられるガバナンスのモデルを提示し、それを踏まえて、上場会社に対しては、それぞれのガバナンス体制の内容とその体制を選択する理由について十分な開示を求めるといった対応がとられるべき
(C)ガバナンスの規律付けを法改正によるか、取引所に委ねるか ① 一定の範囲で企業実態に応じた対応が必要であり、今般は、法改正を行わない対応を採用する
② 取引所による対応に委ねることが現実的であり、市場の開設者として一定の質を備えた企業を投資家に提供していく役割から、ガバナンスについて何らかの枠組みを形成する役割がある
① 会社法と金商法とでは、適用範囲や効果、エンフォースメントの手法が大きく異なることから、問題に応じて冷静な吟味が必要になる
② 市場運営の適正を確保するという取引所本来の役割を果たすため、取引所がそのルールによって、会社法制との整合性を保ちつつ、適切な規律付けを行うことは極めて重要かつ取引所の使命でもあり、上場会社を念頭に、特に質の高い規律付けが求められる

株式持合いの開示、総会決議の票数公表など  このほか、市場国際化SGでは広範な検討を加えており、主な論点を表2として抜粋した。一定の第三者割当増資への対応が一大論点であったが、取引所の対応方針も示されており(下村昌作・本誌310号32頁参照)、本稿では割愛する。これら以外の論点として、①キャッシュアウト、②監査人の選任議案・報酬の決定権、③株主・投資者による経営との対話の充実があり、日本公認会計士協会も具体的対応を要望する②(309号12頁参照)では「検討の促進」を求める形となった。
 総じて、わが国法制の「わかりにくさ」は外国人投資家の前にほぼ存置された。ガバナンス体制の不断の見直しが上場各社に求められている。

【表2】市場国際化SGにおけるその他の主な論点と提言の内容

その他の主な論点
市場国際化SGの提言(要旨)
(1)グループ化 ① 取引所においては、そのコーポレート・ガバナンス原則において、同原則が企業集団全体において実現されることの重要性の明確化を図ることが適当であり、同時に、親会社の経営に重要な影響を与える子会社が行う経営上の重要な行為やその経営状況に関して、当該子会社の経営陣の見解が親会社の見解と合わせて親会社株主に適切に開示されるよう求めることが適当
② いわゆる企業集団法制の整備が重要であり、法制面での検討を期待
(2)子会社上場 ○ 取引所においては、子会社の上場にあたって、親会社や兄弟会社などの出身者でない、少数株主の利益を十分に配慮することのできる社外取締役・監査役の選任を求めるなど利益相反関係の適切な管理、親会社の権限乱用の適切な防止に実効性あるルール整備が検討されるべき
(3)株式の持合い ① 相互にまたは多角的に明示・黙示の合意のもとで株式を持ち合っているような一定の持合状況の開示について、制度化に向けて検討されるべき
② 銀行等保有株式取得機構の積極的な活用が望まれる
(4)監査役の機能強化 ① 上場会社等においては、監査役監査を支える人材・体制の確保(このための内部監査・内部統制部門との連携)、独立性の高い社外監査役の選任、財務・会計に関する知見を有する監査役の選任等の措置が講じられていくことが望まれる
② 取引所においては、これらを望ましい事項と位置付けるとともに、各上場会社の取組状況についての開示の枠組み等を整備していくことが適当
(5)役員報酬の開示 ○ 役員報酬の決定方針が定められている場合にはその開示を求めていくとともに、ストック・オプションなども含めた報酬の種類別内訳についても開示を求めるなど報酬の開示の充実が図られるべき
(6)議決権の行使を通じたガバナンスの発揮 ① 機関投資家の議決権行使が受託者責任の重要な要素を構成するものであることの一層の明確化を通じて、適切な議決権行使の徹底を図っていくことが重要あり、この関連では、わが国においても米国エリサ法のような法制の整備が考えられる
② 機関投資家の議決権行使ガイドラインの作成について、その内容のさらなる充実を図っていくとともに、ガイドラインの公表についても業界ルール等によるルール化が進められるべき
③ 機関投資家においては、議決権行使結果を整理・集計のうえ公表することについて、業界ルール等の整備が進められるべき
④ 上場会社等においては、各議案の議決結果について、単に可決か否決かだけでなく、賛否の票数まで公表することが適当であり、法定開示および取引所ルールにより、ルール化が進められるべき
⑤ 取引所においては、上場会社による議決権電子行使プラットフォームの利用促進について、一定の上場会社に対する利用義務化の検討などを含め、積極的な取組みが求められる
⑥ 有価証券報告書・内部統制報告書を株主総会への報告事項にすべきであるとの指摘について、現行、有価証券報告書の添付書類として株主総会に報告した計算書類・事業報告を求めている金融商品取引法令の規定の存在が制約となりうるため、当該規定について所要の手当てが講じられるべき

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