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解説記事2009年07月27日 【会計基準等解説】 改正実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」について(2009年7月27日号・№316)

実務解説
改正実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」について

 企業会計基準委員会 専門研究員 験馬 賢

Ⅰ.はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)から、平成21年6月23日に改正実務対応報告第15号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)が公表された。本稿では、本実務対応報告の改正の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ.改正の経緯
 ASBJでは、京都議定書で定められた京都メカニズムにおけるクレジット(以下「排出クレジット」という。)の会計処理を明確にする必要性があるとの意見を受けて、平成16年11月に実務対応報告第15号を公表した。その後、企業会計基準第7号「事業分離等に関する会計基準」や企業会計基準第9号「棚卸資産の評価に関する会計基準」(以下「棚卸資産会計基準」という。)が公表されたこと等に伴い、平成18年7月に所要の改正を行った。
 平成20年10月より排出量取引の国内統合市場の試行的実施(以下「試行実施」という。)の仕組みの1つとして試行排出量取引スキーム(以下「試行スキーム」という。)が開始されたことから、試行スキームにおいて必要と考えられる会計処理について明確化するために、今般、改正を行った。
 なお、本実務対応報告は、平成21年4月10日公表の実務対応報告公開草案第31号「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い(案)」(以下「公開草案」という。)に寄せられたコメントを検討し、公開草案を一部修正した上で公表に至ったものである。

Ⅲ.試行実施及び試行スキームの概要(脚注1)

1.試行実施の概要
 試行実施は、CO2排出削減には、CO2に取引価格を付け、市場メカニズムを活用し、技術開発や削減努力を誘導する方法を活用する必要があるとの観点に立って、低炭素社会づくり行動計画(平成20年7月29日閣議決定)において、平成20年10月から開始することとされたものである。試行実施は、以下の2つの仕組みにより構成される(「国内統合市場」として、①の排出枠と②のクレジットは等しく①の試行スキームの目標達成に充当できる。)。
① 企業等が削減目標を設定し、その目標の超過達成分(排出枠)や②のクレジットの取引を活用しつつ、目標達成を行う仕組み(試行スキーム)
② ①で活用可能なクレジット(排出クレジット及び国内クレジット)の創出、取引

2.試行スキームの概要  目標設定参加者は、平成20~24年度のうち全部又は一部の年度を目標の設定年度(連続する年度に限らない。)として任意に選択し、目標年度ごとに排出削減目標を自主的に設定し、目標達成の確認を行う。目標設定参加者は、排出総量目標又は原単位目標(脚注2)のいずれかを選択する。排出総量目標を選択した参加者は、排出総量目標に相当する排出枠の事前交付を受けるか、目標と実績の差分を事後的に清算するかのいずれかを選択できる。一方、原単位目標を設定した参加者は事後清算となる。
 目標年度(4月1日~翌年3月31日)の終了後、目標設定参加者は実績排出量を政府に報告し、審査を経て10月中旬に実績排出量が確定する。
(1)事後清算を選択する場合  実績排出量が目標排出量を下回った場合には、政府の運営する目標達成確認システムにおいて目標超過達成分が記録される。希望して目標達成確認システムにおいて保有口座を開設した目標設定参加者に対しては、目標超過達成分に相当する排出枠が無償で交付され、排出枠の売却が可能となる。また、交付された排出枠は、次の目標年度の目標達成のためにバンキング(繰越し)が可能である。
 実績排出量が目標排出量を上回った場合には、目標未達分に相当する排出枠又はクレジットを償却期限(12月中旬)までに償却する。なお、償却期限までに取引を行ってもなお排出枠・クレジットが不足する場合には、当該不足量に相当する排出枠のボローイング(次年度以降の排出枠を前借りすること)を政府に申請する。
(2)事前交付を選択する場合  目標設定参加者には、目標排出量に相当する排出枠が事前に無償で交付される。目標年度終了後償却期限までに、実績排出量に相当する排出枠又はクレジットを償却する。なお、事前交付された排出枠は、目標年度終了前にも売却することができる(脚注3)。
 償却期限までに取引を行ってもなお排出枠・クレジットが不足する場合には、当該不足量に相当する排出枠のボローイングを政府に申請する。一方、償却を行ってもなお排出枠の余剰が生じた場合には、次の目標年度の目標達成のために余剰となった排出枠をバンキングできる。
 排出枠・クレジットの償却義務は法的に定められておらず、試行スキームの最終年度(平成24年度)の償却期限において必要な量の排出枠・クレジットの償却ができなかった場合でも罰則は課せられない。
 なお、排出枠の取引は、目標設定参加者のみならず、排出枠の取引のみを目的とする取引参加者も行うことができる。

Ⅳ.本実務対応報告改正の基本的な考え方
 試行スキームは、排出量取引を本格導入する場合に必要となる条件や課題などを明らかにするために試行的に実施されるものである。このため、排出クレジットを他者から購入又は出資を通じて取得する場合の取扱いを中心とした従来の実務対応報告の構成は大きく変更せずに、試行スキームに特有である政府から排出枠を無償で取得する場合の会計処理を追加することとされた。
 改正前の実務対応報告では、事業投資としての排出クレジットを、専ら第三者に販売する目的で取得する場合と、将来の自社使用を見込んで取得する場合の2つに場合分けし、さらに、取得方法についても、他者から購入する場合と出資を通じて取得する場合に分けて、4つのパターンについての会計処理が示されていた。今回の改正では、将来の自社使用を見込んで取得する場合の取得方法に、試行スキームにおいて政府から排出枠を無償で取得する場合が追加された(表1参照)。
 なお、排出クレジットの活発な取引市場が整備されており、企業が金融投資としての取引を行う場合には、棚卸資産会計基準第15項に従い、トレーディング目的で保有する棚卸資産として、市場価格に基づく価額をもって貸借対照表価額とし、帳簿価額との差額(評価差額)は当期の損益として処理することとなる。

Ⅴ.試行スキームにおける会計処理

1.試行スキームにおける排出枠を他者から購入する場合
 本実務対応報告において改正前から定められている「排出クレジットを他者から購入する場合」と同様の会計処理を行う(本実務対応報告脚注5及び脚注9)。すなわち、取引参加者が専ら第三者に販売する目的で購入する場合には、取得原価により棚卸資産として処理し(本実務対応報告3(1))、目標設定参加者が将来の自社使用(償却)を見込んで購入する場合には、「無形固定資産」又は「投資その他の資産」の購入として会計処理を行う(本実務対応報告4(1))。

2.試行スキームにおいて、事後清算により政府から排出枠を無償で取得する場合(本実務対応報告4(3)①)(表2参照)
(1)排出枠の取得時
 会計上、取引を認識しない。
 排出枠を取得時の公正価値により資産計上し、同額の受贈益を計上する処理も検討されたが、取得した排出枠は、次年度以降に目標未達となった場合、不足分の充当に使用する可能性があること、また、試行スキームで定められた平成24年度までの目標設定年度以降における排出枠の取扱いが定まっておらず、将来当該排出枠を売却できるとは限らないことから、資産計上は行わないこととされた。
(2)排出枠の売却時  企業が複数年度にわたって試行スキームに参加する場合、排出枠を第三者へ売却しても、その後の排出の状況によっては、試行スキームに参加する複数年度通算で排出枠が不足する可能性があることから、当該取引は暫定的なものとみて、売却の対価は仮受金その他の未決算勘定として計上し、試行スキームに参加する複数年度を通算して目標達成が確実と見込まれた時点で利益に振り替える。
 目標達成が確実と見込まれた時点とは、必ずしも試行スキームに参加する最終の目標年度終了後である必要はなく、最終の目標年度終了前であっても自社の排出の状況を勘案すると目標達成が確実と見込まれる場合も含むと考えられる。
 目標未達となり費用が発生する場合には、利益に振り替えるのではなく費用の減額に充てる。例えば、2年度にわたって試行スキームに参加し、第1年度目は排出量削減目標を超過達成したため、超過達成分に相当する排出枠が事後的に交付され、当該排出枠を10百万円で他者に売却し、仮受金として計上したと仮定する。ここで、第2年度目は目標未達となったため、既に他者から購入し15百万円で資産として計上されていた排出枠を償却することとした場合、資産計上されていた15百万円のうち10百万円は仮受金と相殺され、残りの5百万円が費用に振り替えられることとなる。
 購入した排出枠の売却は資産の売却として処理する一方、無償で取得した排出枠を売却した場合には売却の対価は未決算勘定として計上するため、無償で取得した排出枠と購入した排出枠の両方を保有している場合に両者を簿価通算することは適当でない。このため、保有する排出枠の一部を売却した場合には、まず他者から購入した排出枠を売却したものとみなすこととされた。なお、保有する排出枠の一部を償却した場合には、まず無償で取得した排出枠を償却したものとみなすこととされている。 

3.試行スキームにおいて、事前交付により政府から排出枠を無償で取得する場合(本実務対応報告4(3)②)(表2参照)
(1)排出枠の取得時
 事後清算により排出枠を取得する場合と同様に、会計上、取引を認識しない。
(2)排出枠の売却時  事後清算により取得した排出枠を売却した場合の処理と同様に、売却の対価は仮受金その他の未決算勘定として計上し、試行スキームに参加する複数年度を通算して目標達成が確実と見込まれた時点で利益に振り替える。

4.費用の計上について  各目標年度の償却期限において排出枠が不足する場合、排出枠のボローイングが可能であり、また、最終的な償却期限までに不足分の償却を行わない場合の排出量削減義務が法的に課されているわけではない。このため、費用の計上は、各目標設定年度の目標未達が政府の目標達成確認システムにおいて確認された時点や不足する排出枠をボローイングにより償却した時点ではなく、資産計上された排出枠又は代替するクレジットを償却した時点で行う(本実務対応報告脚注11)。
 つまり、原則として、各年度の排出量削減目標の未達が見込まれた時点や、未達が確定した時点で負債等の計上を行うのではなく、他者からの購入又は出資を通じて取得し、本実務対応報告4(1)又は(2)に従って資産計上された排出枠やクレジットを償却した時点で資産から費用に振り替えることとなる。
 なお、資産計上された排出枠やクレジットを実際に償却していなくとも償却することが確実と見込まれる場合や、第三者へ売却する可能性がないと見込まれる場合には費用とすることが適当である(本実務対応報告4(1))(脚注4)。 

Ⅵ.適用時期
 本実務対応報告は公表日(平成21年6月23日)を含む事業年度から適用する。
(けんま・まさる)

脚注
1 試行実施及び試行スキームの詳細については、経済産業省のホームページ(http://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/index.html)又は環境省のホームページ(http://www.env.go.jp/earth/ondanka/det/dim/trial.html)を参照。
2 原単位目標を設定した場合は、目標年度の原単位目標と当該目標年度の原単位実績の差分に当該目標年度の活動量実績を乗じたものが、目標超過達成分(マイナスの場合は目標未達分)とされる。
3 安易な売り過ぎを防止するために、事前交付された排出枠の9割は、償却以前の取引の対象とすることができない(コミットメントリザーブ)。
4 既に排出枠やクレジットを有償で取得し資産計上している場合が想定されているが、取得前であっても、例えば購入の約定は行ったものの受渡しが翌期にずれ込む場合で、購入後償却することが確実と見込まれるときにも、費用計上するものと考えられる。

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