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解説記事2010年05月03日 【解説】 四半期決算に係る適時開示の見直し等に向けた制度要綱の公表とその概要(2010年5月3日号・№353)

解説
四半期決算に係る適時開示の見直し等に向けた制度要綱の公表とその概要

 東京証券取引所上場部 企画担当調査役 内藤友則

はじめに

 東京証券取引所(以下「東証」という)は平成22年4月27日、四半期決算に係る適時開示について、効果的かつ効率的なディスクロージャーを実現する観点からの見直しを行うとともに、IFRSを任意適用する上場会社および新規上場申請者に係る対応を行うことのほか、支配株主による権限濫用を防止する観点から、支配株主との重要な取引を行う場合において一定の手続を求めるなど、上場制度の整備等を行うことに関する制度要綱および実務上の取扱いの概要(案)を公表した(脚注1)。
 これは、上場制度整備懇談会ディスクロージャー部会報告「四半期決算に係る適時開示、国際会計基準(IFRS)の任意適用を踏まえた上場諸制度のあり方について」(平成22年3月24日公表)(脚注2)の提言や、上場制度整備懇談会における検討を踏まえ、所要の制度整備を行うこととしたものである。今後、この制度要綱および寄せられたパブリック・コメント等を踏まえ、平成22年6月末を目途として改正後規則および見直し後の四半期決算短信様式・作成要領を施行・適用することを予定している(適用時期の詳細については、後述を参照されたい)。
 本稿では、特に7月以降、すべての上場会社において実務対応が必要となる四半期決算に係る適時開示の見直しを中心として、その概要を解説することとしたい。なお、文中意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅰ 四半期決算に係る適時開示の見直しのポイント
 上場制度整備懇談会ディスクロージャー部会報告を受けた四半期決算に係る適時開示の見直しは、効果的かつ効率的なディスクロージャーを実現する観点から、画一的な開示を求める枠組みを最小限に留め、上場会社が自らの判断に基づき、投資者ニーズに応じた的確なディスクロージャーを柔軟に行うことができるよう、最低限の要件として東証所定の様式を定め、それ以外の部分については、上場会社の判断に基づき開示を行うことを基本的な考え方として整理を行うこととしたものである。
 見直しの具体的な概要は、次のとおりである。

1 四半期決算に係る適時開示の時期  四半期決算に係る適時開示の時期は、従来、東証からすべての上場会社に対して一律に、四半期末後30日以内に開示することが望ましいものとして早期開示を要請してきたが、具体的な開示時期の目安を示すことは取り止め、投資者ニーズに応じた適切な時期を選択し、開示することができるよう見直しを行うこととした。
 なお、東証では、具体的な開示日数の目安は示さないものの、引き続き、投資者の投資判断上最も重要な会社情報の1つとして四半期決算情報をできる限り早期に開示することを要請するとともに、上場会社による投資者ニーズに応じた適切な時期での四半期決算短信の開示を実現する観点から、市場区分別・業種別・規模別の開示時期の状況を調査・公表することとしている。
 今回の見直しにより、東証からの要請では、具体的な開示日数の目安が示されないこととなるが、投資者に早期に情報提供を行うことや、上場会社内部における重要な会社情報の滞留を解消することが重要であることはいうまでもない。あくまで、上場会社において、投資者ニーズを真摯に受け止め、自社の実情や特性に沿って開示時期を判断することが求められる。

2 四半期決算に係る適時開示の内容
(1)全体の構成
 四半期決算に係る適時開示の内容は、従来、東証からすべての上場会社に対して一律に同様の内容の開示を要請してきたが、東証による画一的な開示を求める枠組みは最小限に留め、原則として、上場会社の判断によって、投資者ニーズに応じて的確な開示内容を選択することができるよう見直しを行うこととした。
 新しい四半期決算短信の構成は、表1のとおりである。
 また、従来、東証では、四半期決算短信の開示についてのみ要請することとしていたが、今回の見直しにおいて、四半期決算短信以外での投資者ニーズに応じて対応が求められる事項を、次のように例として掲げることとした。
(具体例)
・四半期決算の補足説明資料の作成
・四半期決算の説明会、電話会議(カンファレンス・コール)の開催など説明機会の確保、上記説明会、電話会議の状況の説明や動画・音声情報の提供
・外国人投資家のニーズに応じた四半期決算短信や補足説明資料の英訳資料の提供 等
 東証では、必須の内容として開示を要請する事項以外の開示や対応については、望ましい開示事例や優良事例として明確化することを通じて、上場会社による投資者ニーズに応じた自発的な取組みを求めることとしている。
 また、上場会社による投資者ニーズに応じた適切な四半期決算に係る適時開示を実現する観点から、市場区分別・業種別・規模別の開示内容等の状況を調査・公表することとしている。
(2)四半期決算短信(サマリー情報)様式  今回の見直しにおいて、上場会社は、東証が定める所定の四半期決算短信(サマリー情報)様式により開示することが義務付けられる(表2参照)。
 従来のサマリー情報との変更点は、表題等部分に、①開示資料の表題に会計基準・連結非連結の別の表示、②四半期決算補足説明資料作成の有無の表示、③四半期決算説明会開催の有無の表示を求めることとしたほか、④四半期報告書のレビュー状況に関する説明を求めることとしたことである。
 また、従来、東証では、日本基準の連結財務諸表作成会社用様式、連結財務諸表非作成会社用様式、特定事業会社の第2四半期決算用様式の3つを提示していたが、今回の見直しに伴い、米国基準用様式、IFRS用様式を追加し、次のとおり全部で5つの様式を定めることとした。
 なお、上記様式により開示することが適当でないと東証が認める場合は、東証が都度定める様式により開示するものとしている。
(3)業績予想、配当予想の取扱い  四半期決算短信(サマリー情報)様式には、従来どおり、業績予想および配当予想の開示欄を設けている。
 今回の見直しにより、東証所定の様式により開示することが義務付けられることになるが、業績予想、配当予想の取扱いは従来の取扱いを変更しないこととしており、開示が義務付けられるものではないことにご留意されたい。
(4)四半期決算短信(添付資料)の取扱い  四半期決算短信(添付資料)の内容は、東証から必須の内容として開示を要請する事項を除いて、上場会社は、自社の開示に対する投資者ニーズに応じて開示の要否を判断することが可能となる。
(5)四半期決算短信の追加開示  四半期決算に係る投資者の投資判断上有用な情報を早期に開示する観点から、まず必須の内容について四半期決算短信の開示をした後、四半期報告書を提出するまでの間、その他有用な情報の開示が可能となった段階で、四半期決算短信の追加開示ができることを明確化することとした。

3 その他の見直しの内容 (1)通期決算短信・四半期決算短信における監査状況・レビュー状況の記載  今回、通期決算短信・四半期決算短信において、財務諸表を開示する際には、有価証券報告書・四半期報告書で開示される財務諸表の監査状況・レビュー状況に関する説明を要請することとした。
 これは、通期決算短信・四半期決算短信において開示される財務諸表は、金融商品取引法上の公認会計士等の監査・レビューの対象ではないため、投資者に対して注意喚起を行う観点から、その状況に関する説明を求めることとしたものである。
 また、監査手続・レビュー手続に関し、監査人との間に大きな意見の隔たりがあるなど、投資者に誤解が生じ得る特段の事情があるときには、その事情等について開示を行うことを要請することとしている。
(2)通期決算短信・四半期決算短信における軽微な訂正の取扱い  従来、通期決算短信・四半期決算短信を開示した後に、有価証券報告書・四半期報告書との差異が生じる場合などは、一律直ちに訂正開示することを求めていたが、今回、上場会社・投資者双方の実務を合理化する趣旨から、有価証券報告書・四半期報告書の提出前に変更・訂正すべき事情が生じた場合、投資者の投資判断上重要な変更・訂正である場合を除いて、有価証券報告書・四半期報告書の提出後遅滞なく訂正開示することで差し支えないことを明確化することとした。
 これにより、たとえば百万円単位の訂正などは、軽微な訂正となることから、その都度開示する必要がなくなることになる。
 また、訂正対象についても、サマリー情報および必須の内容として開示要請しているものに限ることとし、これ以外の部分の訂正は、上場会社の判断により行うように整理することとした。
(3)通期決算・四半期決算に係る説明会資料の公平な情報提供  上場会社が、通期決算・四半期決算に係る補足説明資料を作成し、四半期決算説明会において第三者に提供する場合には、自社ホームページに掲載するなどの方法により当該資料の投資者への公平な情報提供に努めることを企業行動規範上の努力義務として設けることとした。
 なお、決算説明会は、上場会社において投資者ニーズに応じて開催するものであり、東証として開催を強制・要請しているものではない(マザーズ上場会社を除く(脚注3))。

4 通期決算短信の取扱い  今回、通期決算短信についても、上記3(1)~(3)については、同様に整理すべきものとして見直しを行っている。
 また今回、通期決算短信についても、上場会社は、東証が定める所定の(サマリー情報)様式により開示することを義務付けることとし、平成23年3月期決算から適用することとしているが、添付資料の構成などについては、今回、整理を行っていない。
 通期決算短信の開示時期、開示内容等の具体的な取扱いについては、四半期決算に係る適時開示の見直し後の実務の状況を踏まえた検討を行い、本年中を目途として別途策定、公表することを予定している。

Ⅱ コーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備のポイント
 今回、東証では、上場会社のコーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備の一環として、「金融審議会金融分科会我が国金融・資本市場の国際化に関するスタディグループ報告~上場会社等のコーポレート・ガバナンスの強化に向けて~」で示された提言を踏まえ、支配株主による権限濫用を防止する観点から、支配株主との重要な取引を行う場合について、一定の手続を実施することを求めるほか、議決権行使を容易にするための環境整備に係る努力義務を新設することとした。
 制度整備の具体的な概要は、次のとおりである。

1 支配株主による権限濫用を防止するための施策の整備  今回の制度整備において、東証では、上場会社が支配株主との間で、事業の譲渡や株式交換など上場会社が適時開示を行う必要がある重要な取引等を行う場合は、支配株主と利害関係のない者による、当該取引等が少数株主にとって不利益なものでないことに関する意見の入手を行うことを企業行動規範上義務付けることとしている。
 また、この場合において、上場会社は、入手した意見の内容のほか、対価の公正性を担保するための措置および利益相反を回避するための措置に関する事項等も含め、必要かつ十分な適時開示を行うことを義務付けることとしている。
 なお、この対応については、支配株主との間の重要な取引等のみではなく、たとえば、上場会社と兄弟会社との重要な取引など、少数株主を保護する観点から、実質的に同様の行為についても同様の対応を求めることとしている。

2 議決権行使を容易にするための環境整備の拡充  今回の制度整備において、東証では、議決権電子行使プラットフォームへの加入など機関投資家の指図権の行使を容易にするための環境整備を促すことが重要であるとの指摘を踏まえ、上場会社は、「議決権行使を容易にするための環境整備」として、実質的な株主による指図権の行使を容易にするための環境整備を行うよう努めることを企業行動規範上の努力義務として新設することとした。

Ⅲ 近時の環境変化等を踏まえた適時開示制度等の見直しのポイント
 東証においては、環境変化や作成者、利用者ニーズへ迅速に対応する観点から、適時開示制度の見直しを順次行っている。
 これは、近時、わが国のディスクロージャー制度については大きく見直しが図られており、金融商品取引法に基づく法定開示においては財務報告に係る内部統制報告制度の導入や四半期報告制度の導入など大きな制度改正が行われたほか、会社情報の適時開示においても、その充実を図る対応や実効性確保手段の多様化などの対応が上場制度の総合整備として行われてきたが、このような対応が進められる中、東証においては、会社情報の適時開示について、全体として真に効果的・効率的なものになっているかという観点や、真に使い勝手のよいものとなっているかとの観点から、不断の見直しを行うことが重要との問題意識に基づくものである。
 これまでのところ、上記の考え方に沿って、平成20年8月には、①会社情報の適時開示に係る遵守事項の明確化、②適時適切な開示の実践に係る規定の位置付けの見直し、③環境変化等を踏まえた開示基準や実務上の取扱いの見直しを実施し、同年12月には、①適時開示における最低限求められる開示事項の明確化、②非上場の親会社等の情報に係る適時開示の整理などの対応を実施しているが、今回、次の2点について見直しを行うこととした。

1 適時開示に係る軽微基準の連結ベースへの見直し  上場会社の適時開示基準については、従来、内部者取引規制上の重要事実に合わせる観点から単体ベースで定められていたが、近年、投資評価や企業経営が連結ベースで行われている市場実態や、ディスクロージャー制度がより一層連結中心となってきていること等を踏まえ、これを連結ベースに見直しを行うこととした。
 ただし、内部者取引規制上の重要事実に該当する会社情報については、適時開示がその解除要件となっていること等を踏まえ、引き続き、適時開示が必要であるものとして整理している。

2 適時開示に係る宣誓書制度の見直し  適時開示に係る宣誓書制度は、上場会社の代表者が、投資者への会社情報の適時適切な提供について真摯な姿勢で臨むことを宣誓する書面とともに、適時開示体制の概要を記載した書面(適時開示体制概要書)を東証を通じて公衆縦覧に供するものであるが、近時、適時開示以外にも、企業行動規範など上場会社に遵守を求める規定が上場規則上増加してきたことを踏まえ、内容を整理する観点から、東証諸規則の遵守を確認する書類(確認書)に改めることとし、提出時期を新規上場時および代表者異動時に限ることとした。
 また、適時開示体制概要書は廃止することとし、その内容については、コーポレート・ガバナンスに関する報告書において記載するものとして整理することとした。

Ⅳ 適用時期およびIFRS任意適用を踏まえた上場制度の対応
 新しい四半期決算に係る適時開示の規則および様式・作成要領は、平成22年6月末日以後最初に終了する四半期決算から適用することを予定している。また、平成22年6月末日以前に終了する四半期決算のうち、改正後規則の施行日以降の発表分から早期適用できるものとすることを予定している。
 なお、通期決算に係る適時開示の規則および様式については、平成23年3月1日以後最初に終了する通期決算から適用することを予定している(早期適用はできないこととする予定)。
 また今回、IFRSの任意適用を踏まえた上場制度の対応を行うこととしているが、詳細については公表された制度要綱等を参照されたい。


脚注
1 制度要綱および実務上の取扱い等の概要(案)は、東証ホームページhttp://www.tse.or.jp/(HOME>制度・規則>パブリック・コメント>パブリック・コメント)を参照。
2 上場制度整備懇談会ディスクロージャー部会報告の全文および同部会の審議状況は、東証ホームページhttp://www.tse.or.jp/(HOME>制度・規則>上場制度の総合整備>ディスクロージャー部会)を参照。
3 マザーズ上場会社は、上場規則上、年2回以上、当該会社に対する投資に関する説明会(会社説明会)を開催することが義務付けられている(有価証券上場規程421条の2等)。

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