解説記事2010年07月05日 【法令解説】 「有価証券の売出し」に係る開示規制の見直しの要点(2010年7月5日号・№361)
法令解説
「有価証券の売出し」に係る開示規制の見直しの要点
金融庁総務企画局企業開示課 企業開示調整官 谷口義幸
Ⅰ.はじめに
平成21年6月24日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号。以下「改正法」という)による金融商品取引法の改正により、「有価証券の売出し」に係る開示規制は大きく見直しが行われ、本年(平成22年)4月1日に施行された。
これを実施するため、「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(平成21年政令第303号)および「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第78号。以下「改正府令」という)が平成21年12月28日に、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(平成22年内閣府令第12号)が平成22年3月31日にそれぞれ公布され、金融商品取引法施行令および関係内閣府令が整備されている。また、「企業内容等の開示に関する留意事項について」等の関係ガイドラインについても平成22年1月14日に改正が行われている。
本稿(脚注1)では、今般の「有価証券の売出し」に係る開示規制の見直しについて概説する。なお、本稿において意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断りしておく。
Ⅱ.改正の趣旨およびその概要
今般の金融商品取引法の改正により、既に発行された有価証券(以下「既発行証券」という)の販売勧誘が「有価証券の売出し」に該当するか否かについては、従来の「均一の条件」という形式的な要件でなく、その販売勧誘における販売サイドと投資者サイドとの間の情報格差、取引実態等に着目した要件により判断することとされた。具体的には、その販売勧誘について、既発行証券やその発行者に関する情報が十分に提供されていないために販売サイドと投資者サイドの間に情報格差が存在し、その格差を是正する必要がある場合(プライマリー的な経済実態)には、「有価証券の売出し」として開示規制を適用し、単に流通市場と顧客との間を取り次ぐような売買であるような場合(セカンダリー的な経済実態)には、開示規制の適用対象外とするものである。
有価証券の売出しに係る開示規制は、この趣旨に沿って、主に次のように見直しが行われた。
① 「有価証券の売出し」の定義について、「均一の条件」という要件が削除され、基本的に、「売付け勧誘等(後述Ⅲ1参照)のうち、多数の者を相手方として行うもの」とされた(法2条4項)。
② 取得勧誘(新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘をいう(法2条3項)。以下同じ)における「適格機関投資家私募」および「少人数私募」と同様に、適格機関投資家のみを相手方とする売付け勧誘等で一定の要件を満たすもの(いわゆる「適格機関投資家私売出し」)および少人数を相手方とする売付け勧誘等で一定の要件を満たすもの(いわゆる「少人数私売出し」)について、開示規制を免除する(法2条4項2号イ・ハ)。
③ 有価証券の売出しに該当する海外発行証券(外国で既に発行された有価証券または日本国内で既に発行された有価証券でその発行の際にその有価証券発行勧誘等(取得勧誘および組織再編成発行手続をいう(法4条2項))が外国で行われたものをいう(政令2条の12の2)。以下同じ)の売付け勧誘等であって、一定の要件(当該海外発行証券の国内における売買価格情報を容易に取得することができること等)を満たすものを「外国証券売出し」と定義し(法27条の32の2)、開示規制を免除する(法4条1項4号)。そのうえで、「外国証券売出し」を行う金融商品取引業者等に対し、簡易な情報提供として「外国証券情報」の提供または公表を義務付ける(法27条の32の2第1項)。
見直し後の有価証券の売出しに係る開示規制の概念のイメージは、図のとおりである。
Ⅲ.「有価証券の売出し」定義
1.「売付け勧誘等」に該当しない勧誘等 「有価証券の売出し」定義において、「売付け勧誘等」は、既発行証券の売付けの申込みまたはその買付けの申込みの勧誘から「取得勧誘類似行為その他内閣府令で定めるもの」を除いたものとされている(法2条4項柱書)。
このうち、「取得勧誘類似行為」(「新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘に類似するもの」と規定されている(法2条3項柱書))については、売付け勧誘等としてではなく取得勧誘として開示規制を適用することが投資者保護の観点から適切であると考えられるものとして、会社法199条1項の規定に基づく自己株式の処分(これに類する外国会社による自己株式の処分を含む)が追加された(定義府令9条1号・5号)。
一方、「内閣府令で定めるもの」は、売付け勧誘等に該当するものの、開示規制の対象としないことが適切であると考えられるものである。定義府令では、法67条の19に規定する認可金融商品取引業協会による当該売付け勧誘等に係る有価証券の価格等の通知等に係る有価証券に関する情報提供等を規定している(定義府令13条の2)。
2.多数の者を相手方として行う場合 「有価証券の売出し」定義における「多数の者を相手方として行う場合」は、50名以上の者を相手方として行う場合である(政令1条の8)。
なお、売付け勧誘等の相手方に適格機関投資家が含まれている場合であって、これらの適格機関投資家により取得される有価証券が適格機関投資家私売出しの要件(後述Ⅳ1参照)を満たすときには、売付け勧誘等の相手方からこれらの適格機関投資家は除かれる(法2条4項1号、政令1条の7の4)。
3.「有価証券の売出し」に該当しない取引 定義をそのまま当てはめれば有価証券の売出しに該当する有価証券取引であっても、その取引の対象有価証券が既開示有価証券である場合、その取引において情報の非対称性が存在しない場合、その取引において販売圧力が存在しない場合またはその取引が売買の委託の取次ぎである場合に該当する場合については、基本的に、発行開示を求める必要性は低いものと考えられる。
このため、これらの場合に該当する有価証券取引は、「有価証券の売出し」に該当しないものとされ、発行開示規制の対象から除外されている。政令1条の7の3では、これらに該当する有価証券取引として、新たに次の有価証券取引を規定している。
① 店頭売買有価証券市場における有価証券の売買または当該有価証券のPTS取引(政令1条の7の3第2号・3号)
② 金融商品取引業者等または特定投資家が他の金融商品取引業者等または特定投資家と行う取引所金融商品市場外における上場有価証券の売買のうち、当該上場有価証券の公正な価格形成および流通の円滑を図るために行うものであって、取引所金融商品市場における当該有価証券の売買価格を基礎として取引状況を勘案した適正な価格で行うもの(いわゆる「ブロックトレード」等)(同条4号)
③ 法58条の2ただし書の規定により外国証券業者が金融商品取引業者等または適格機関投資家に対して行う海外発行証券(「適格機関投資家私売出し」(後述Ⅳ1参照)等の譲渡制限が付されていないもの。以下「譲渡制限のない海外発行証券」という)の売付け(政令1条の7の3第5号)
④ 譲渡制限のない海外発行証券を取得した金融商品取引業者等または適格機関投資家(以下「売付け金融商品取引業者等」という)が、当該譲渡制限のない海外発行証券を他の金融商品取引業者等(他の者に取得させる目的で当該譲渡制限のない海外発行有価証券を買い付ける金融商品取引業者等に限る。以下「買付け金融商品取引業者等」という)に対して行う売付けであって、当該売付け金融商品取引業者等(当該売付け金融商品取引業者等が日本証券業協会(金融庁長官が指定する一の認可金融商品取引業協会(脚注2))の会員でない場合は、買付け金融商品取引業者等)が、当該譲渡制限のない海外発行証券の発行者の名称および本店所在地、銘柄、同一種類の有価証券となる要件の内容等(定義府令13条の3第1項)を日本証券業協会に報告することを条件として行うもの(同条6号)
⑤ 有価証券の私募または私売出し等が行われておらず、譲渡制限が付されていない有価証券(以下「譲渡制限のない有価証券」という)の売買であって、当該譲渡制限のない有価証券の発行者関係者(発行者、当該発行者である法人(外国法人を含む)の役員(取締役、執行役、会計参与または監査役等)または発起人、金融商品取引業者等)以外の者が所有するものの売買(同条7号)
⑥ ⑤の発行者関係者の間で行われる譲渡制限のない有価証券の売買(ただし、金融商品取引業者等間での売買は除く)(同条8号)
⑦ 社債券(新株予約権付社債券を除く)、投資法人債券等(定義府令13条の3第2項)に係る買戻条件付または売戻条件付売買であって、買戻価格または売戻価格および買戻しの日または売戻しの日があらかじめ定められているもの(いわゆる「現先取引」)(政令1条の7の3第9号)
⑧ 当該有価証券の発行者(当該発行者に対して当該有価証券の売付けを行おうとする者および当該者に対して当該有価証券の売付けを行おうとする者を含む)に対する有価証券の売付け(同条10号)
⑨ 金融商品取引業者等が顧客のために取引所金融商品市場または外国金融商品市場における有価証券の売買の取次ぎを行うことに伴う有価証券の売買(政令1条の7の3第11号)
Ⅳ.私売出し
既発行証券については、これまで、新たに発行される有価証券のように、勧誘の相手方の属性や人数を基準として法定開示を免除する制度は設けられていなかった(ただし、特定投資家のみを相手方とするいわゆる「特定投資家私売出し」(脚注3)の制度は設けられていた)。
しかしながら、既発行証券であっても、その流通段階において転売制限を付すことは可能であると考えられることから、「有価証券の私募」と同様の制度が設けられた(なお、法では「有価証券の私売出し」という定義語は用いられていない)。
1.適格機関投資家私売出し 適格機関投資家に限定して既発行証券の売付け勧誘等を行う場合であって、当該有価証券が適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当するときには、適格機関投資家私募と同様、発行開示規制は免除される(いわゆる「適格機関投資家私売出し」)。
適格機関投資家私売出しの要件は、基本的に適格機関投資家私募の要件(今般の改正において、適格機関投資家私募の要件についても整理が行われた(政令1条の4))と同様であり、有価証券の種類ごとに規定されている(政令1条の7の4)。たとえば、新株予約権証券等(脚注4)については、次のすべての要件に該当する必要がある(同条2号)。
① イ~ハのすべてに該当すること。
イ 当該新株予約権証券等に表示された権利の行使により取得され、引き受けられ、または転換されることとなる株券の発行者が、当該株券と同一の内容(剰余金の配当等の内容をいう)の株券で有価証券報告書提出義務を負っているものを既に発行していないこと。
ロ 当該株券と同一種類の有価証券(定義府令10条の2に規定する有価証券をいう(脚注5)。以下同じ)が特定投資家向け有価証券(法4条3項に規定する特定投資家向け有価証券をいう。以下同じ)でないこと。
ハ 当該新株予約権証券と同一種類の有価証券が特定投資家向け有価証券でないこと。
② 当該新株予約権証券等(新株予約権証券を除く)と同一種類の有価証券が有価証券報告書提出義務を負っていないこと。
③ 当該新株予約権証券等(新株予約権証券を除く)と同一種類の有価証券が特定投資家向け有価証券でないこと。
④ 当該新株予約権証券等に当該新株予約権証券等の取得者が当該新株予約権証券等を適格機関投資家以外の者に譲渡することが禁止される旨の制限(この④において「転売制限」という)が、イ~ハのいずれかの方式により付されていること(定義府令13条の4第1項)。
イ 当該有価証券に転売制限が付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付される方式
ロ 当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされている方式
ハ 当該有価証券が電子化されているものである場合に、社債、株式等の振替に関する法律(以下「社振法」という)の規定により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられている方式
2.少人数私売出し 既発行証券の売付け勧誘等を少数(50名未満)の者を相手方として行う場合であって、当該有価証券が多数の者に所有されるおそれが少ない場合に該当するときには、少人数私募と同様、発行開示規制は免除される(いわゆる「少人数私売出し」)。
(1)対象となる売付け勧誘等 少人数私売出しは、50名以上の者を相手方とする売付け勧誘等、適格機関投資家私売出しまたは特定投資家私売出し以外の売付け勧誘等である。
ただし、その売付け勧誘等の勧誘者数が50名未満であっても、その売付け勧誘等の勧誘者数にその売付け勧誘等を行う日以前1月以内に行われた同一種類の他の有価証券(次の①~③の有価証券を除く)の売付け勧誘等における勧誘者数を合計して50名以上となる場合には、売出しに該当することになる(政令1条の8の3)。
① その売付け勧誘等の際に適格機関投資家私売出しに該当した有価証券
② その売付け勧誘等が有価証券の売出しに該当し、かつ、当該有価証券の売出しに関して届出等が行われた有価証券
③ その売付け勧誘等が外国証券売出し(後述Ⅴ参照)に該当し、外国証券情報(後述Ⅵ参照)の提供または公表が行われた有価証券
(2)多数の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当する要件 少人数私募により発行された有価証券については、多数の者に譲渡されないよう少人数私募の転売制限が付されていることから、当該有価証券について少人数私募の転売制限に従って売付け勧誘等を行う場合には、多数の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当し、少人数私売出しに該当することになる(政令1条の8の4第2号)。
一方、少人数私募により発行された有価証券以外の有価証券についての少人数私売出しの要件は、基本的に少人数私募の要件(今般の改正において、少人数私募の要件について整理が行われた(政令1条の7))と同様であり、有価証券の種類ごとに規定されている(政令1条の8の4第3号)。
たとえば、株券等(脚注6)または新株予約権証券等(脚注7)以外の有価証券については、次のすべての要件に該当する必要がある(政令1条の8の4第3号ハ)
① 当該有価証券の発行者が、当該有価証券と同一種類の有価証券で有価証券報告書提出義務を負っているものを発行していないこと。
② 当該有価証券と同一種類の有価証券が特定投資家向け有価証券でないこと。
③ 次の要件に該当すること。
イ 次のいずれかの要件に該当すること(定義府令13条の7第3項1号)。
(イ)当該有価証券にⅰまたはⅱの制限のいずれかが付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付されること。
ⅰ 当該新株予約権証券等に当該新株予約権証券等の取得者が当該新株予約権証券等を一括して他の一の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止される旨の制限
ⅱ 当該有価証券(当該有価証券の発行される日以前6月以内に発行された同種の既発行証券の枚数または単位の総数が50未満であり、かつ、当該有価証券の性質により分割ができない場合を除き、当該有価証券に表示されている単位未満に分割できない旨の制限
(ロ)当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされていること。
(ハ)当該有価証券が電子化されているものである場合に、社振法により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられていること。
ロ 有価証券の種類によっては、イの要件のほかに定義府令13条の7第3項2号に規定する要件に該当すること。
(3)海外発行証券 有価証券の発行者が勧誘の相手方の者の数を把握することができる発行段階と異なり、流通段階では、複数の金融商品取引業者等が別々に独立して同一銘柄の有価証券を販売することになるため、勧誘を行う各金融商品取引業者等が当該有価証券について50名未満の者を相手方として勧誘を行っても、結果的に極めて多数の者に勧誘が行われることになると考えられる。
このため、譲渡制限のない海外発行証券に係る少人数私売出しの要件として、前述(2)の有価証券の種類ごとに定められている要件に加えて、次のすべての要件に該当することが求められる(政令1条の8の4第4号、定義府令13条の7第9項・10項)。
① 金融商品取引業者等が譲渡制限のない海外発行証券の売付け勧誘等を行った場合には、次の事項を日本証券業協会に報告すること。
イ 当該譲渡制限のない海外発行証券の銘柄
ロ 当該売付け勧誘等により取得し、かつ現に保有する者の数
ハ 当該譲渡制限のない海外発行証券の発行者および本店所在地
ニ 当該譲渡制限のない海外発行証券の同一種類の有価証券の要件
ホ 当該譲渡制限のない海外発行証券を識別するために必要な事項として日本証券業協会が定める事項
② ①の報告を受けた日本証券業協会は、当該譲渡制限のない海外発行証券の銘柄ごとの所有者数の総数を公表すること。
③ ②の所有者数の総数が1,000を超えないものであること。
したがって、③の所有者数の総計が1,000名を超えた場合には、少人数私売出しの要件を満たさないことになるため、それ以後は、当該譲渡制限のない海外発行証券を日本国内に持ち込み、少人数私売出しを行うことはできないこととなる。
(4)「少人数私売出し」の要件に関する経過措置 改正法による改正前の法23条の14第1項ただし書に基づき、日本証券業協会の規則の定めるところによる有価証券の内容等を説明した文書(以下「外国証券内容説明書」という)を投資者に交付すること等により「海外発行証券の少人数向け勧誘」が行われた有価証券(以下「少人数向け勧誘対象海外発行証券」という)を開示が行われないまま転売する場合には、外国証券売出しまたは少人数私売出しを行う必要がある。
しかしながら、当該少人数向け勧誘対象海外発行証券が外国証券売出しの対象有価証券に該当しない場合には、少人数私売出しを行うことになり、前述(2)の要件を満たす必要があることから、改正前に、譲渡制限が付されていない少人数向け勧誘対象海外発行証券を取得した投資者が当該少人数向け勧誘対象海外発行証券を売却する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の転売制限が付されることとなり、売却が困難となることが考えられる。
このため、少人数向け勧誘対象海外発行証券のうち、「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しないものについては、平成25年3月31日までの間、少人数私売出しの要件を「改正前の外国証券内容説明書を交付すること」とすることとされた(改正府令附則4条1項)。これにより、これらの有価証券を転売する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の譲渡制限は付されず、その勧誘の相手方に引き続き外国証券内容説明書を交付することにより、少人数私売出しを行うことができることとなっている。ただし、この場合であっても、少人数私売出しに係る告知を行う必要がある(法23条の13第4項)。
Ⅴ.外国証券売出し
国内の取引所金融商品市場に上場されている有価証券については、有価証券報告書等によりその発行者に関する情報が開示されているため、当該有価証券の売出しを行う場合であっても、有価証券届出書の提出義務は免除されている。
一方、国内で売買が行われている海外発行証券には、有価証券報告書の提出義務を負わないものの、流通市場が存する外国の法令または上場している外国金融商品取引所の規則等に基づき当該海外発行証券およびその発行者に関する情報が開示され、これらの情報を国内でも容易に入手することができるものがある。さらに、このような海外発行証券についての国内における売買価格情報を容易に入手することができる場合には、当該海外発行証券の売出しに係る有価証券届出書の提出を求める必要性は低いものと考えられる。
このため、このような海外発行証券の売出しを行う場合には、基本的に、法定開示義務を免除する一方で、簡易な情報提供として「外国証券情報」の提供または公表が義務付けられている(法27条の32の2第1項)。
1.免除対象となる有価証券の売出し 届出が免除される法4条1項4号に規定する有価証券の売出し(法27条の32の2第1項において「外国証券売出し」と定義されている)は、海外発行証券の売出しであって、金融商品取引業者等が行うものに限定している。
外国証券売出しについては、有価証券届出書の公衆縦覧および目論見書の交付に代わる投資者への簡易な情報提供として、外国証券売出しを行う者に「外国証券情報」の提供または公表が義務付けられており、外国証券情報の投資者への提供または公表が確実に行われるよう、外国証券売出しを行うことができる者の範囲を金融商品取引業者等に限定している。
2.免除対象となる要件 届出が免除される具体的な要件は、海外発行証券の種類ごとに規定されているが(政令2条の12の3)、共通する基本的な要件は次のとおりである。
① インターネット等の利用により、当該海外発行証券に係る国内での売買価格に関する情報の取得が容易であること。
② 外国(当該海外発行証券の発行国に限らない)において当該海外発行証券が継続して売買されていること。
③ インターネット等の利用により、当該海外発行証券の発行者に関する情報(法令または指定外国金融商品取引所の規則等に基づく情報。日本語または英語に限る)の取得が容易であること。
このうち、①の「売買価格に関する情報の取得が容易である」とは、たとえば、金融商品取引業者等のウェブサイトに当該海外発行証券の売買価格、売買参考価格等の情報が掲載されている場合、当該海外発行証券の売買価格についての顧客からの照会を受けた金融商品取引業者等が即座に回答できるような状態にある場合等が該当すると考えられる。
②の「継続して売買されている」とは、当該海外発行証券が外国金融商品取引所に上場されている場合、外国の証券会社等により当該海外発行証券の売買価格が常時提示されている場合等、当該海外発行証券について継続して売買が行われ得る状況にある場合が該当するものと考えられる。
③の「発行者に関する情報」のうち、発行者の経理に関する情報については、公益または投資者保護のため金融庁長官が適当であると認める会計基準(日本基準、IASB(国際会計基準審議会)が発出・承認したIFRS(国際会計基準)または財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則129条の規定により金融庁長官が認める基準が考えられる)に従って作成された情報に限定される。
また、「指定外国金融商品取引所」とは、金融商品取引所に類するもので外国の法令に基づき設立されたもののうち、上場されている有価証券およびその発行者に関する情報の開示の状況(財務情報の作成基準等)ならびに売買高(売買高の規模等)その他の状況を勘案して金融庁長官が指定するものをいう。これに該当する外国の金融商品取引所は、「金融商品取引法施行令第二条の十二の三第四号ロに規定する外国の金融商品取引所を指定する件」(平成22年金融庁告示第41号)において指定されている。
海外発行証券の種類ごとの具体的な要件は、①~③の基本的要件に当該海外発行証券の特性等に応じた要件が付加されることになる(脚注8)。たとえば、海外発行新株予約権付債券については、次のすべての要件に該当する場合に外国証券売出しを行うことができる(政令2条の12の3第5号)。
イ 国内における当該海外発行新株予約権付債券に係る売買価格に関する情報をインターネット等により容易に取得することができること。
ロ 当該海外発行新株予約権付債券が指定外国金融商品取引所に上場されていること、または当該海外発行新株予約権付債券の売買が外国において継続して行われていること。
ハ 当該海外発行新株予約権付債券に表示された権利の行使により取得され、引き受けられ、または転換されることとなる株券または外国株券が指定外国金融商品取引所に上場されていること(脚注9)。
ニ 当該海外発行新株予約権付債券または上記ハの株券または外国株券が上場されている指定外国金融商品取引所の定める規則に基づき、当該海外発行新株予約権付債券の発行者の経理に関する情報その他の発行者に関する情報(日本語または英語に限る)が発行者により公表されており、かつ、国内においてインターネット等により当該情報を容易に取得することができること(ただし、当該発行者が有価証券報告書を提出している場合は、このニの要件は適用されない)。
Ⅵ.「外国証券情報」の提供・公表
1.「外国証券売出し」を行う場合 前述したように、法定開示が免除される外国証券売出しにより有価証券を売り付ける金融商品取引業者等は、簡易な情報提供として「外国証券情報」(当該有価証券およびその発行者に関する情報)を、当該有価証券を売り付ける時までに、その相手方に提供し、または公表しなければならない(法27条の32の2第1項)。
これは、当該有価証券およびその発行者に関する情報を容易に入手することが可能であるため法定開示が免除される一方で、海外で開示されているこれらの情報が国内の投資者に必ずしも周知されているとは考えられないこと等から、外国証券売出しを行う金融商品取引業者等に対し、外国証券情報の提供または公表義務を課すこととされたものである。
ただし、次の場合には、外国証券情報の提供または公表は不要とされている(法27条の32の2第1項ただし書、情報府令13条各号)。
① 当該外国証券売出しに係る有価証券(以下「売出し外国証券」という)の発行者が、当該発行者の他の有価証券について有価証券報告書を提出しており、かつ、当該売出し外国証券に関する証券情報(後述3の②「証券情報」)を提供または公表している場合
② 当該売出し外国証券の発行者が、既に当該売出し外国証券について特定証券情報(法27条の31第1項)または発行者情報(法27条の32第1項)を公表しており、かつ、当該売出し外国証券に関する証券情報を提供または公表する場合
③ 当該売出し外国証券が外国国債、外国地方債または外国特殊法人債(外国の政府または外国の地方公共団体が当該外国特殊法人債の元本の償還および利息の支払いについて保証をしているものに限る。この③において同じ)であって、当該売出し外国証券の外国証券売出しを行おうとする金融商品取引業者等が、当該売出し外国証券または当該売出し外国証券の発行者が発行する当該売出し外国証券と同じ種類の他の有価証券の売買が2以上の金融商品取引業者等により継続して行われ、または行うこととされていることを日本証券業協会の規則で定めるところにより、確認することができる場合
④ 当該外国証券売出しの相手方が適格機関投資家(当該売出し外国証券を金融商品取引業者等または非居住者以外に譲渡しないことを条件に取得する者に限る)である場合(外国証券情報の提供・公表の請求があった場合を除く)
2.投資家から請求があった場合等 外国証券売出しを行った金融商品取引業者等は、
① (a)当該外国証券売出しにより有価証券を取得し、かつ、当該金融商品取引業者等に当該有価証券の保管を委託している者(法27条の32の2第2項)、(b)当該外国証券売出しにより有価証券を取得し、かつ、当該外国証券売出しを行った金融商品取引業者等を当該有価証券に係る口座管理機関とする当該有価証券に係る加入者等(情報府令14条各号)から請求があった場合、または
② 投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合として、当該有価証券の発行者または当該有価証券の元本の償還および利息の支払いについての保証者の(a)当該有価証券の債務の履行または保証に関する事業の重要な変更(合併等)、(b)民事再生法の規定による再生手続の開始もしくは終了等の事実の発生等があった場合(情報府令15条1項各号)
には、外国証券情報を提供し、または公表しなければならない(法27条の32の2第2項)。
ただし、当該外国証券売出しに係る有価証券に関する情報の取得の容易性、当該有価証券の保有の状況等に照らして、公益または投資者保護に欠けることがないものと認められる次の場合には、外国証券情報の提供または公表は不要とされている(法27条の32の2第2項ただし書、情報府令16条各号)。
イ 当該有価証券に関して開示が行われている場合
ロ 前述1の②~④の場合
ハ 国内における当該有価証券の所有者が50名未満である場合
3.「外国証券情報」の内容 外国証券情報の内容は、情報府令別表において、有価証券の区分ごとに定められており、当該外国証券情報を提供し、または公表しなければならない者が提供または公表を行うことができる直近の事業年度(会計年度その他これに準ずる期間を含む)に係る情報と定められている(情報府令12条1項・2項、別表)。
情報府令別表に掲げられる情報は、①発行者情報、②証券情報および③投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合のその旨およびその内容で構成され、有価証券の種類ごとに定められている。たとえば、有価証券が海外発行株券である場合の①発行者情報および②証券情報の内容は次のとおりである。
① 発行者情報 発行者の名称・本店所在地、発行者設立の準拠法・法的地位・設立年、決算期、発行済株式数、事業の内容、経理の概要
② 証券情報 株式の種類・名称、発行地・上場外国金融商品取引所、株価の推移、業績推移(売上高・当期純利益・株主資本の額)、株式1株当たりの情報(1株当たり当期純利益・1株当たり配当額)
なお、外国証券情報の全部または一部の内容が、当該有価証券の発行者その他これに準ずる者により公表されている情報(当該情報が、(a)法令、上場金融商品取引所の規則等に基づいて公表され、(b)国内においてインターネットにより容易に取得でき、(c)日本語または英語で公表されている場合に限る)に含まれている場合には、当該公表情報を参照する旨および当該公表情報が公表されているホームページアドレスに関する情報を、外国証券情報の全部または一部とみなすことができることとされている(証券情報府令12条3項)。
4.「外国証券情報」の提供・公表方法 外国証券情報は、外国証券情報を提供し、または公表しようとする相手方(以下「外国証券情報受領者」という)に対し、次のいずれかの方法により提供し、または公表しなければならない(法27条の32の2第3項、証券情報府令17条)。
① 外国証券情報を記載した書面の交付
② 外国証券情報のファクシミリによる送信(当該外国証券情報が当該外国証券情報受領者において文書として受信できる場合であって、当該外国証券情報受領者がこの方法によることについて同意した場合に限る)
③ 電子メールまたはインターネット等を用いる送信(当該外国証券情報が当該外国証券情報受領者においてパソコンを使用して文書に変換できる場合であって、当該外国証券情報受領者がこの方法によることについて同意した場合に限る)
④ 外国証券情報が公表されているホームページアドレスに関する情報その他外国証券情報を閲覧する方法に関する情報の提供または公表(当該外国証券情報受領者がこの方法によることについて同意した場合に限る)
5.「外国証券情報」の内容に関する経過措置 「少人数向け勧誘対象海外発行証券」についても、外国証券売出しを行う場合は、外国証券情報を提供し、または公表しなければならない。しかしながら、実務上、外国証券内容説明書から外国証券情報への切替えにはかなりの時間を要することから、外国証券情報への切替えができるまでの間、少人数向け勧誘対象海外発行証券の売買が困難となることも考えられる。
このため、少人数向け勧誘対象海外発行証券についての外国証券情報の内容については、平成25年3月31日までの間、情報府令の別表に定める内容ではなく、従来の「外国証券内容説明書に記載すべき情報」の内容とすることとされた(改正府令附則4条2項)。これにより、少人数向け勧誘対象海外発行証券について外国証券売出しを行う場合には、従前の外国証券内容説明書の情報を内容とする外国証券情報をその相手方に提供・公表すればよいことになる。
Ⅶ.既開示有価証券の売出しの取扱い
1.目論見書・有価証券通知書の取扱い 従前から、法定開示が行われている有価証券(以下「既開示証券」という)の売出しについては、有価証券届出書の提出義務は免除される(法4条1項3号)一方で、有価証券通知書の提出が義務付けられる(法4条6項)とともに目論見書の作成・交付が義務付けられていた(法13条1項、15条2項)。
しかしながら、法定開示が行われている有価証券については、電子開示システム(EDINET)により有価証券報告書等の開示情報を容易に取得することが可能であることから、原則、既開示証券の売出しに係る目論見書の作成・交付は免除され(法13条1項)、有価証券通知書の提出についても免除された(法4条6項ただし書)。
2.発行者等による既開示証券の売出し 前述1のとおり、既開示証券の売出しについては、その発行者に関する情報は開示されており、情報の非対称性の問題は相対的に小さいものと考えられる。
しかしながら、既開示証券の発行者関係者等(発行者、発行者の子会社もしくは主要株主、発行者の役員または発起人等(一定の者に限る))、当該既開示証券を他の者に取得させることを目的として発行者関係者が保有する当該既開示証券を取得した金融商品取引業者等または当該既開示証券の売出しに係る引受人である金融商品取引業者等は、発行者に関する未公表の情報を保有し、または容易に取得することが可能な立場にあるうえ、当該既開示証券を大量に所有している場合もあると考えられることなどから、特に発行者に関する情報が投資情報として重要であると考えられる株券等(株券、新株予約権証券、新株予約権が付されている有価証券もしくは株券に転換し得る有価証券またはこれらの性質を有する外国証券(開示府令4条4項1号、11条の2第2号イ))については、情報の非対称性、販売圧力等の問題が生ずることが考えられる。
このため、発行者関係者等が行う売出しについては、従前どおり、目論見書の作成・交付を求めることとされた(法13条1項、15条2項)。また、既開示有価証券の売出しに使用する目論見書は、有価証券通知書の添付書類として財務局に提出することとされており、目論見書の交付を必要とする場合については、引き続き、有価証券通知書の提出も求めることとされた(法4条6項)。
脚注
1 本稿では、「金融商品取引法」を「法」、「金融商品取引法施行令」を「政令」、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」を「定義府令」、「企業内容等の開示に関する内閣府令」を「開示府令」、「証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令」(金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令(平成21年内閣府令第78号)により「特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令」の題名が改正された)を「情報府令」と表記する。また、「企業内容等の開示に関する留意事項」を「開示ガイドライン」と表記する。
2 「金融商品取引法施行令第一条の七の三第六号および証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令第十三条第三号に規定する認可金融商品取引業協会を指定する件」(平成22年金融庁告示第40号)において、日本証券業協会(昭和48年7月1日に社団法人日本証券業協会という名称で設立された法人をいう)が指定されている。
3 相手方を特定投資家に限定して行う売付け勧誘等で、金融商品取引業者等が顧客からの依頼によりまたは自己のために行うもの(特定投資家が国、日銀および適格機関投資家である場合を除く)であり、当該有価証券が特定投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当するときには、発行開示規制は免除される。
4 「新株予約権証券等」には、①新株予約権証券、②新株予約権、新優先出資引受権または資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券に転換する権利が付されている有価証券および③外国有価証券でこれらの有価証券の性質を有するものが含まれる(令1条の4第2号)。
5 定義府令10条の2に規定する同一種類の有価証券の要件についても見直しが行われ、たとえば、債券についての要件に「金額を表示する通貨」が追加された。
6 「株券等」には、①株券および外国会社の株券、②協同組織金融機関の優先出資に関する法律に規定する優先出資証券、資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券および外国有価証券でこれらの優先出資証券の性質を有するもの、③投資証券および外国投資証券(投資証券に類するもの)ならびに④外国有価証券で特殊法人の出資証券(法2条1項6号)が含まれる(令1条の4第1号)。
7 前掲・脚注4と同じ。
8 要件が定められていない有価証券については、外国証券売出しを行うことはできない。
9 権利の行使により取得、引受けまたは転換される株券または外国株券は、指定外国金融商品取引所に上場されていることが要件とされるが、平成25年3月31日までは、指定外国金融商品取引所のほか、金融商品取引所に上場されている場合についても要件に該当することとする経過措置が定められている(金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(平成21年政令第303号)附則2条1項)。したがって、平成25年3月31日までは、国内の金融商品取引所に上場している株券または外国株券に係る海外発行新株予約権付社債券についても、外国証券売出しの対象となる。
「有価証券の売出し」に係る開示規制の見直しの要点
金融庁総務企画局企業開示課 企業開示調整官 谷口義幸
Ⅰ.はじめに
平成21年6月24日に公布された「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(平成21年法律第58号。以下「改正法」という)による金融商品取引法の改正により、「有価証券の売出し」に係る開示規制は大きく見直しが行われ、本年(平成22年)4月1日に施行された。
これを実施するため、「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令」(平成21年政令第303号)および「金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令」(平成21年内閣府令第78号。以下「改正府令」という)が平成21年12月28日に、「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(平成22年内閣府令第12号)が平成22年3月31日にそれぞれ公布され、金融商品取引法施行令および関係内閣府令が整備されている。また、「企業内容等の開示に関する留意事項について」等の関係ガイドラインについても平成22年1月14日に改正が行われている。
本稿(脚注1)では、今般の「有価証券の売出し」に係る開示規制の見直しについて概説する。なお、本稿において意見にわたる部分は筆者の個人的見解であることをお断りしておく。
Ⅱ.改正の趣旨およびその概要
今般の金融商品取引法の改正により、既に発行された有価証券(以下「既発行証券」という)の販売勧誘が「有価証券の売出し」に該当するか否かについては、従来の「均一の条件」という形式的な要件でなく、その販売勧誘における販売サイドと投資者サイドとの間の情報格差、取引実態等に着目した要件により判断することとされた。具体的には、その販売勧誘について、既発行証券やその発行者に関する情報が十分に提供されていないために販売サイドと投資者サイドの間に情報格差が存在し、その格差を是正する必要がある場合(プライマリー的な経済実態)には、「有価証券の売出し」として開示規制を適用し、単に流通市場と顧客との間を取り次ぐような売買であるような場合(セカンダリー的な経済実態)には、開示規制の適用対象外とするものである。
有価証券の売出しに係る開示規制は、この趣旨に沿って、主に次のように見直しが行われた。
① 「有価証券の売出し」の定義について、「均一の条件」という要件が削除され、基本的に、「売付け勧誘等(後述Ⅲ1参照)のうち、多数の者を相手方として行うもの」とされた(法2条4項)。
② 取得勧誘(新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘をいう(法2条3項)。以下同じ)における「適格機関投資家私募」および「少人数私募」と同様に、適格機関投資家のみを相手方とする売付け勧誘等で一定の要件を満たすもの(いわゆる「適格機関投資家私売出し」)および少人数を相手方とする売付け勧誘等で一定の要件を満たすもの(いわゆる「少人数私売出し」)について、開示規制を免除する(法2条4項2号イ・ハ)。
③ 有価証券の売出しに該当する海外発行証券(外国で既に発行された有価証券または日本国内で既に発行された有価証券でその発行の際にその有価証券発行勧誘等(取得勧誘および組織再編成発行手続をいう(法4条2項))が外国で行われたものをいう(政令2条の12の2)。以下同じ)の売付け勧誘等であって、一定の要件(当該海外発行証券の国内における売買価格情報を容易に取得することができること等)を満たすものを「外国証券売出し」と定義し(法27条の32の2)、開示規制を免除する(法4条1項4号)。そのうえで、「外国証券売出し」を行う金融商品取引業者等に対し、簡易な情報提供として「外国証券情報」の提供または公表を義務付ける(法27条の32の2第1項)。
見直し後の有価証券の売出しに係る開示規制の概念のイメージは、図のとおりである。


Ⅲ.「有価証券の売出し」定義
1.「売付け勧誘等」に該当しない勧誘等 「有価証券の売出し」定義において、「売付け勧誘等」は、既発行証券の売付けの申込みまたはその買付けの申込みの勧誘から「取得勧誘類似行為その他内閣府令で定めるもの」を除いたものとされている(法2条4項柱書)。
このうち、「取得勧誘類似行為」(「新たに発行される有価証券の取得の申込みの勧誘に類似するもの」と規定されている(法2条3項柱書))については、売付け勧誘等としてではなく取得勧誘として開示規制を適用することが投資者保護の観点から適切であると考えられるものとして、会社法199条1項の規定に基づく自己株式の処分(これに類する外国会社による自己株式の処分を含む)が追加された(定義府令9条1号・5号)。
一方、「内閣府令で定めるもの」は、売付け勧誘等に該当するものの、開示規制の対象としないことが適切であると考えられるものである。定義府令では、法67条の19に規定する認可金融商品取引業協会による当該売付け勧誘等に係る有価証券の価格等の通知等に係る有価証券に関する情報提供等を規定している(定義府令13条の2)。
2.多数の者を相手方として行う場合 「有価証券の売出し」定義における「多数の者を相手方として行う場合」は、50名以上の者を相手方として行う場合である(政令1条の8)。
なお、売付け勧誘等の相手方に適格機関投資家が含まれている場合であって、これらの適格機関投資家により取得される有価証券が適格機関投資家私売出しの要件(後述Ⅳ1参照)を満たすときには、売付け勧誘等の相手方からこれらの適格機関投資家は除かれる(法2条4項1号、政令1条の7の4)。
3.「有価証券の売出し」に該当しない取引 定義をそのまま当てはめれば有価証券の売出しに該当する有価証券取引であっても、その取引の対象有価証券が既開示有価証券である場合、その取引において情報の非対称性が存在しない場合、その取引において販売圧力が存在しない場合またはその取引が売買の委託の取次ぎである場合に該当する場合については、基本的に、発行開示を求める必要性は低いものと考えられる。
このため、これらの場合に該当する有価証券取引は、「有価証券の売出し」に該当しないものとされ、発行開示規制の対象から除外されている。政令1条の7の3では、これらに該当する有価証券取引として、新たに次の有価証券取引を規定している。
① 店頭売買有価証券市場における有価証券の売買または当該有価証券のPTS取引(政令1条の7の3第2号・3号)
② 金融商品取引業者等または特定投資家が他の金融商品取引業者等または特定投資家と行う取引所金融商品市場外における上場有価証券の売買のうち、当該上場有価証券の公正な価格形成および流通の円滑を図るために行うものであって、取引所金融商品市場における当該有価証券の売買価格を基礎として取引状況を勘案した適正な価格で行うもの(いわゆる「ブロックトレード」等)(同条4号)
③ 法58条の2ただし書の規定により外国証券業者が金融商品取引業者等または適格機関投資家に対して行う海外発行証券(「適格機関投資家私売出し」(後述Ⅳ1参照)等の譲渡制限が付されていないもの。以下「譲渡制限のない海外発行証券」という)の売付け(政令1条の7の3第5号)
④ 譲渡制限のない海外発行証券を取得した金融商品取引業者等または適格機関投資家(以下「売付け金融商品取引業者等」という)が、当該譲渡制限のない海外発行証券を他の金融商品取引業者等(他の者に取得させる目的で当該譲渡制限のない海外発行有価証券を買い付ける金融商品取引業者等に限る。以下「買付け金融商品取引業者等」という)に対して行う売付けであって、当該売付け金融商品取引業者等(当該売付け金融商品取引業者等が日本証券業協会(金融庁長官が指定する一の認可金融商品取引業協会(脚注2))の会員でない場合は、買付け金融商品取引業者等)が、当該譲渡制限のない海外発行証券の発行者の名称および本店所在地、銘柄、同一種類の有価証券となる要件の内容等(定義府令13条の3第1項)を日本証券業協会に報告することを条件として行うもの(同条6号)
⑤ 有価証券の私募または私売出し等が行われておらず、譲渡制限が付されていない有価証券(以下「譲渡制限のない有価証券」という)の売買であって、当該譲渡制限のない有価証券の発行者関係者(発行者、当該発行者である法人(外国法人を含む)の役員(取締役、執行役、会計参与または監査役等)または発起人、金融商品取引業者等)以外の者が所有するものの売買(同条7号)
⑥ ⑤の発行者関係者の間で行われる譲渡制限のない有価証券の売買(ただし、金融商品取引業者等間での売買は除く)(同条8号)
⑦ 社債券(新株予約権付社債券を除く)、投資法人債券等(定義府令13条の3第2項)に係る買戻条件付または売戻条件付売買であって、買戻価格または売戻価格および買戻しの日または売戻しの日があらかじめ定められているもの(いわゆる「現先取引」)(政令1条の7の3第9号)
⑧ 当該有価証券の発行者(当該発行者に対して当該有価証券の売付けを行おうとする者および当該者に対して当該有価証券の売付けを行おうとする者を含む)に対する有価証券の売付け(同条10号)
⑨ 金融商品取引業者等が顧客のために取引所金融商品市場または外国金融商品市場における有価証券の売買の取次ぎを行うことに伴う有価証券の売買(政令1条の7の3第11号)
Ⅳ.私売出し
既発行証券については、これまで、新たに発行される有価証券のように、勧誘の相手方の属性や人数を基準として法定開示を免除する制度は設けられていなかった(ただし、特定投資家のみを相手方とするいわゆる「特定投資家私売出し」(脚注3)の制度は設けられていた)。
しかしながら、既発行証券であっても、その流通段階において転売制限を付すことは可能であると考えられることから、「有価証券の私募」と同様の制度が設けられた(なお、法では「有価証券の私売出し」という定義語は用いられていない)。
1.適格機関投資家私売出し 適格機関投資家に限定して既発行証券の売付け勧誘等を行う場合であって、当該有価証券が適格機関投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当するときには、適格機関投資家私募と同様、発行開示規制は免除される(いわゆる「適格機関投資家私売出し」)。
適格機関投資家私売出しの要件は、基本的に適格機関投資家私募の要件(今般の改正において、適格機関投資家私募の要件についても整理が行われた(政令1条の4))と同様であり、有価証券の種類ごとに規定されている(政令1条の7の4)。たとえば、新株予約権証券等(脚注4)については、次のすべての要件に該当する必要がある(同条2号)。
① イ~ハのすべてに該当すること。
イ 当該新株予約権証券等に表示された権利の行使により取得され、引き受けられ、または転換されることとなる株券の発行者が、当該株券と同一の内容(剰余金の配当等の内容をいう)の株券で有価証券報告書提出義務を負っているものを既に発行していないこと。
ロ 当該株券と同一種類の有価証券(定義府令10条の2に規定する有価証券をいう(脚注5)。以下同じ)が特定投資家向け有価証券(法4条3項に規定する特定投資家向け有価証券をいう。以下同じ)でないこと。
ハ 当該新株予約権証券と同一種類の有価証券が特定投資家向け有価証券でないこと。
② 当該新株予約権証券等(新株予約権証券を除く)と同一種類の有価証券が有価証券報告書提出義務を負っていないこと。
③ 当該新株予約権証券等(新株予約権証券を除く)と同一種類の有価証券が特定投資家向け有価証券でないこと。
④ 当該新株予約権証券等に当該新株予約権証券等の取得者が当該新株予約権証券等を適格機関投資家以外の者に譲渡することが禁止される旨の制限(この④において「転売制限」という)が、イ~ハのいずれかの方式により付されていること(定義府令13条の4第1項)。
イ 当該有価証券に転売制限が付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付される方式
ロ 当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされている方式
ハ 当該有価証券が電子化されているものである場合に、社債、株式等の振替に関する法律(以下「社振法」という)の規定により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられている方式
2.少人数私売出し 既発行証券の売付け勧誘等を少数(50名未満)の者を相手方として行う場合であって、当該有価証券が多数の者に所有されるおそれが少ない場合に該当するときには、少人数私募と同様、発行開示規制は免除される(いわゆる「少人数私売出し」)。
(1)対象となる売付け勧誘等 少人数私売出しは、50名以上の者を相手方とする売付け勧誘等、適格機関投資家私売出しまたは特定投資家私売出し以外の売付け勧誘等である。
ただし、その売付け勧誘等の勧誘者数が50名未満であっても、その売付け勧誘等の勧誘者数にその売付け勧誘等を行う日以前1月以内に行われた同一種類の他の有価証券(次の①~③の有価証券を除く)の売付け勧誘等における勧誘者数を合計して50名以上となる場合には、売出しに該当することになる(政令1条の8の3)。
① その売付け勧誘等の際に適格機関投資家私売出しに該当した有価証券
② その売付け勧誘等が有価証券の売出しに該当し、かつ、当該有価証券の売出しに関して届出等が行われた有価証券
③ その売付け勧誘等が外国証券売出し(後述Ⅴ参照)に該当し、外国証券情報(後述Ⅵ参照)の提供または公表が行われた有価証券
(2)多数の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当する要件 少人数私募により発行された有価証券については、多数の者に譲渡されないよう少人数私募の転売制限が付されていることから、当該有価証券について少人数私募の転売制限に従って売付け勧誘等を行う場合には、多数の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当し、少人数私売出しに該当することになる(政令1条の8の4第2号)。
一方、少人数私募により発行された有価証券以外の有価証券についての少人数私売出しの要件は、基本的に少人数私募の要件(今般の改正において、少人数私募の要件について整理が行われた(政令1条の7))と同様であり、有価証券の種類ごとに規定されている(政令1条の8の4第3号)。
たとえば、株券等(脚注6)または新株予約権証券等(脚注7)以外の有価証券については、次のすべての要件に該当する必要がある(政令1条の8の4第3号ハ)
① 当該有価証券の発行者が、当該有価証券と同一種類の有価証券で有価証券報告書提出義務を負っているものを発行していないこと。
② 当該有価証券と同一種類の有価証券が特定投資家向け有価証券でないこと。
③ 次の要件に該当すること。
イ 次のいずれかの要件に該当すること(定義府令13条の7第3項1号)。
(イ)当該有価証券にⅰまたはⅱの制限のいずれかが付されている旨が当該有価証券に記載され、当該有価証券の取得者に当該有価証券が交付されること。
ⅰ 当該新株予約権証券等に当該新株予約権証券等の取得者が当該新株予約権証券等を一括して他の一の者に譲渡する場合以外の譲渡が禁止される旨の制限
ⅱ 当該有価証券(当該有価証券の発行される日以前6月以内に発行された同種の既発行証券の枚数または単位の総数が50未満であり、かつ、当該有価証券の性質により分割ができない場合を除き、当該有価証券に表示されている単位未満に分割できない旨の制限
(ロ)当該有価証券の取得者に交付される当該有価証券に関する情報を記載した書面において、当該有価証券に転売制限が付されている旨の記載がされていること。
(ハ)当該有価証券が電子化されているものである場合に、社振法により加入者が当該有価証券に転売制限が付されていることを知ることができるようにする措置がとられていること。
ロ 有価証券の種類によっては、イの要件のほかに定義府令13条の7第3項2号に規定する要件に該当すること。
(3)海外発行証券 有価証券の発行者が勧誘の相手方の者の数を把握することができる発行段階と異なり、流通段階では、複数の金融商品取引業者等が別々に独立して同一銘柄の有価証券を販売することになるため、勧誘を行う各金融商品取引業者等が当該有価証券について50名未満の者を相手方として勧誘を行っても、結果的に極めて多数の者に勧誘が行われることになると考えられる。
このため、譲渡制限のない海外発行証券に係る少人数私売出しの要件として、前述(2)の有価証券の種類ごとに定められている要件に加えて、次のすべての要件に該当することが求められる(政令1条の8の4第4号、定義府令13条の7第9項・10項)。
① 金融商品取引業者等が譲渡制限のない海外発行証券の売付け勧誘等を行った場合には、次の事項を日本証券業協会に報告すること。
イ 当該譲渡制限のない海外発行証券の銘柄
ロ 当該売付け勧誘等により取得し、かつ現に保有する者の数
ハ 当該譲渡制限のない海外発行証券の発行者および本店所在地
ニ 当該譲渡制限のない海外発行証券の同一種類の有価証券の要件
ホ 当該譲渡制限のない海外発行証券を識別するために必要な事項として日本証券業協会が定める事項
② ①の報告を受けた日本証券業協会は、当該譲渡制限のない海外発行証券の銘柄ごとの所有者数の総数を公表すること。
③ ②の所有者数の総数が1,000を超えないものであること。
したがって、③の所有者数の総計が1,000名を超えた場合には、少人数私売出しの要件を満たさないことになるため、それ以後は、当該譲渡制限のない海外発行証券を日本国内に持ち込み、少人数私売出しを行うことはできないこととなる。
(4)「少人数私売出し」の要件に関する経過措置 改正法による改正前の法23条の14第1項ただし書に基づき、日本証券業協会の規則の定めるところによる有価証券の内容等を説明した文書(以下「外国証券内容説明書」という)を投資者に交付すること等により「海外発行証券の少人数向け勧誘」が行われた有価証券(以下「少人数向け勧誘対象海外発行証券」という)を開示が行われないまま転売する場合には、外国証券売出しまたは少人数私売出しを行う必要がある。
しかしながら、当該少人数向け勧誘対象海外発行証券が外国証券売出しの対象有価証券に該当しない場合には、少人数私売出しを行うことになり、前述(2)の要件を満たす必要があることから、改正前に、譲渡制限が付されていない少人数向け勧誘対象海外発行証券を取得した投資者が当該少人数向け勧誘対象海外発行証券を売却する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の転売制限が付されることとなり、売却が困難となることが考えられる。
このため、少人数向け勧誘対象海外発行証券のうち、「外国証券売出し」の対象有価証券に該当しないものについては、平成25年3月31日までの間、少人数私売出しの要件を「改正前の外国証券内容説明書を交付すること」とすることとされた(改正府令附則4条1項)。これにより、これらの有価証券を転売する際には、一括譲渡以外の譲渡が禁止される等の譲渡制限は付されず、その勧誘の相手方に引き続き外国証券内容説明書を交付することにより、少人数私売出しを行うことができることとなっている。ただし、この場合であっても、少人数私売出しに係る告知を行う必要がある(法23条の13第4項)。
Ⅴ.外国証券売出し
国内の取引所金融商品市場に上場されている有価証券については、有価証券報告書等によりその発行者に関する情報が開示されているため、当該有価証券の売出しを行う場合であっても、有価証券届出書の提出義務は免除されている。
一方、国内で売買が行われている海外発行証券には、有価証券報告書の提出義務を負わないものの、流通市場が存する外国の法令または上場している外国金融商品取引所の規則等に基づき当該海外発行証券およびその発行者に関する情報が開示され、これらの情報を国内でも容易に入手することができるものがある。さらに、このような海外発行証券についての国内における売買価格情報を容易に入手することができる場合には、当該海外発行証券の売出しに係る有価証券届出書の提出を求める必要性は低いものと考えられる。
このため、このような海外発行証券の売出しを行う場合には、基本的に、法定開示義務を免除する一方で、簡易な情報提供として「外国証券情報」の提供または公表が義務付けられている(法27条の32の2第1項)。
1.免除対象となる有価証券の売出し 届出が免除される法4条1項4号に規定する有価証券の売出し(法27条の32の2第1項において「外国証券売出し」と定義されている)は、海外発行証券の売出しであって、金融商品取引業者等が行うものに限定している。
外国証券売出しについては、有価証券届出書の公衆縦覧および目論見書の交付に代わる投資者への簡易な情報提供として、外国証券売出しを行う者に「外国証券情報」の提供または公表が義務付けられており、外国証券情報の投資者への提供または公表が確実に行われるよう、外国証券売出しを行うことができる者の範囲を金融商品取引業者等に限定している。
2.免除対象となる要件 届出が免除される具体的な要件は、海外発行証券の種類ごとに規定されているが(政令2条の12の3)、共通する基本的な要件は次のとおりである。
① インターネット等の利用により、当該海外発行証券に係る国内での売買価格に関する情報の取得が容易であること。
② 外国(当該海外発行証券の発行国に限らない)において当該海外発行証券が継続して売買されていること。
③ インターネット等の利用により、当該海外発行証券の発行者に関する情報(法令または指定外国金融商品取引所の規則等に基づく情報。日本語または英語に限る)の取得が容易であること。
このうち、①の「売買価格に関する情報の取得が容易である」とは、たとえば、金融商品取引業者等のウェブサイトに当該海外発行証券の売買価格、売買参考価格等の情報が掲載されている場合、当該海外発行証券の売買価格についての顧客からの照会を受けた金融商品取引業者等が即座に回答できるような状態にある場合等が該当すると考えられる。
②の「継続して売買されている」とは、当該海外発行証券が外国金融商品取引所に上場されている場合、外国の証券会社等により当該海外発行証券の売買価格が常時提示されている場合等、当該海外発行証券について継続して売買が行われ得る状況にある場合が該当するものと考えられる。
③の「発行者に関する情報」のうち、発行者の経理に関する情報については、公益または投資者保護のため金融庁長官が適当であると認める会計基準(日本基準、IASB(国際会計基準審議会)が発出・承認したIFRS(国際会計基準)または財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則129条の規定により金融庁長官が認める基準が考えられる)に従って作成された情報に限定される。
また、「指定外国金融商品取引所」とは、金融商品取引所に類するもので外国の法令に基づき設立されたもののうち、上場されている有価証券およびその発行者に関する情報の開示の状況(財務情報の作成基準等)ならびに売買高(売買高の規模等)その他の状況を勘案して金融庁長官が指定するものをいう。これに該当する外国の金融商品取引所は、「金融商品取引法施行令第二条の十二の三第四号ロに規定する外国の金融商品取引所を指定する件」(平成22年金融庁告示第41号)において指定されている。
海外発行証券の種類ごとの具体的な要件は、①~③の基本的要件に当該海外発行証券の特性等に応じた要件が付加されることになる(脚注8)。たとえば、海外発行新株予約権付債券については、次のすべての要件に該当する場合に外国証券売出しを行うことができる(政令2条の12の3第5号)。
イ 国内における当該海外発行新株予約権付債券に係る売買価格に関する情報をインターネット等により容易に取得することができること。
ロ 当該海外発行新株予約権付債券が指定外国金融商品取引所に上場されていること、または当該海外発行新株予約権付債券の売買が外国において継続して行われていること。
ハ 当該海外発行新株予約権付債券に表示された権利の行使により取得され、引き受けられ、または転換されることとなる株券または外国株券が指定外国金融商品取引所に上場されていること(脚注9)。
ニ 当該海外発行新株予約権付債券または上記ハの株券または外国株券が上場されている指定外国金融商品取引所の定める規則に基づき、当該海外発行新株予約権付債券の発行者の経理に関する情報その他の発行者に関する情報(日本語または英語に限る)が発行者により公表されており、かつ、国内においてインターネット等により当該情報を容易に取得することができること(ただし、当該発行者が有価証券報告書を提出している場合は、このニの要件は適用されない)。
Ⅵ.「外国証券情報」の提供・公表
1.「外国証券売出し」を行う場合 前述したように、法定開示が免除される外国証券売出しにより有価証券を売り付ける金融商品取引業者等は、簡易な情報提供として「外国証券情報」(当該有価証券およびその発行者に関する情報)を、当該有価証券を売り付ける時までに、その相手方に提供し、または公表しなければならない(法27条の32の2第1項)。
これは、当該有価証券およびその発行者に関する情報を容易に入手することが可能であるため法定開示が免除される一方で、海外で開示されているこれらの情報が国内の投資者に必ずしも周知されているとは考えられないこと等から、外国証券売出しを行う金融商品取引業者等に対し、外国証券情報の提供または公表義務を課すこととされたものである。
ただし、次の場合には、外国証券情報の提供または公表は不要とされている(法27条の32の2第1項ただし書、情報府令13条各号)。
① 当該外国証券売出しに係る有価証券(以下「売出し外国証券」という)の発行者が、当該発行者の他の有価証券について有価証券報告書を提出しており、かつ、当該売出し外国証券に関する証券情報(後述3の②「証券情報」)を提供または公表している場合
② 当該売出し外国証券の発行者が、既に当該売出し外国証券について特定証券情報(法27条の31第1項)または発行者情報(法27条の32第1項)を公表しており、かつ、当該売出し外国証券に関する証券情報を提供または公表する場合
③ 当該売出し外国証券が外国国債、外国地方債または外国特殊法人債(外国の政府または外国の地方公共団体が当該外国特殊法人債の元本の償還および利息の支払いについて保証をしているものに限る。この③において同じ)であって、当該売出し外国証券の外国証券売出しを行おうとする金融商品取引業者等が、当該売出し外国証券または当該売出し外国証券の発行者が発行する当該売出し外国証券と同じ種類の他の有価証券の売買が2以上の金融商品取引業者等により継続して行われ、または行うこととされていることを日本証券業協会の規則で定めるところにより、確認することができる場合
④ 当該外国証券売出しの相手方が適格機関投資家(当該売出し外国証券を金融商品取引業者等または非居住者以外に譲渡しないことを条件に取得する者に限る)である場合(外国証券情報の提供・公表の請求があった場合を除く)
2.投資家から請求があった場合等 外国証券売出しを行った金融商品取引業者等は、
① (a)当該外国証券売出しにより有価証券を取得し、かつ、当該金融商品取引業者等に当該有価証券の保管を委託している者(法27条の32の2第2項)、(b)当該外国証券売出しにより有価証券を取得し、かつ、当該外国証券売出しを行った金融商品取引業者等を当該有価証券に係る口座管理機関とする当該有価証券に係る加入者等(情報府令14条各号)から請求があった場合、または
② 投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合として、当該有価証券の発行者または当該有価証券の元本の償還および利息の支払いについての保証者の(a)当該有価証券の債務の履行または保証に関する事業の重要な変更(合併等)、(b)民事再生法の規定による再生手続の開始もしくは終了等の事実の発生等があった場合(情報府令15条1項各号)
には、外国証券情報を提供し、または公表しなければならない(法27条の32の2第2項)。
ただし、当該外国証券売出しに係る有価証券に関する情報の取得の容易性、当該有価証券の保有の状況等に照らして、公益または投資者保護に欠けることがないものと認められる次の場合には、外国証券情報の提供または公表は不要とされている(法27条の32の2第2項ただし書、情報府令16条各号)。
イ 当該有価証券に関して開示が行われている場合
ロ 前述1の②~④の場合
ハ 国内における当該有価証券の所有者が50名未満である場合
3.「外国証券情報」の内容 外国証券情報の内容は、情報府令別表において、有価証券の区分ごとに定められており、当該外国証券情報を提供し、または公表しなければならない者が提供または公表を行うことができる直近の事業年度(会計年度その他これに準ずる期間を含む)に係る情報と定められている(情報府令12条1項・2項、別表)。
情報府令別表に掲げられる情報は、①発行者情報、②証券情報および③投資者の投資判断に重要な影響を及ぼす事実が発生した場合のその旨およびその内容で構成され、有価証券の種類ごとに定められている。たとえば、有価証券が海外発行株券である場合の①発行者情報および②証券情報の内容は次のとおりである。
① 発行者情報 発行者の名称・本店所在地、発行者設立の準拠法・法的地位・設立年、決算期、発行済株式数、事業の内容、経理の概要
② 証券情報 株式の種類・名称、発行地・上場外国金融商品取引所、株価の推移、業績推移(売上高・当期純利益・株主資本の額)、株式1株当たりの情報(1株当たり当期純利益・1株当たり配当額)
なお、外国証券情報の全部または一部の内容が、当該有価証券の発行者その他これに準ずる者により公表されている情報(当該情報が、(a)法令、上場金融商品取引所の規則等に基づいて公表され、(b)国内においてインターネットにより容易に取得でき、(c)日本語または英語で公表されている場合に限る)に含まれている場合には、当該公表情報を参照する旨および当該公表情報が公表されているホームページアドレスに関する情報を、外国証券情報の全部または一部とみなすことができることとされている(証券情報府令12条3項)。
4.「外国証券情報」の提供・公表方法 外国証券情報は、外国証券情報を提供し、または公表しようとする相手方(以下「外国証券情報受領者」という)に対し、次のいずれかの方法により提供し、または公表しなければならない(法27条の32の2第3項、証券情報府令17条)。
① 外国証券情報を記載した書面の交付
② 外国証券情報のファクシミリによる送信(当該外国証券情報が当該外国証券情報受領者において文書として受信できる場合であって、当該外国証券情報受領者がこの方法によることについて同意した場合に限る)
③ 電子メールまたはインターネット等を用いる送信(当該外国証券情報が当該外国証券情報受領者においてパソコンを使用して文書に変換できる場合であって、当該外国証券情報受領者がこの方法によることについて同意した場合に限る)
④ 外国証券情報が公表されているホームページアドレスに関する情報その他外国証券情報を閲覧する方法に関する情報の提供または公表(当該外国証券情報受領者がこの方法によることについて同意した場合に限る)
5.「外国証券情報」の内容に関する経過措置 「少人数向け勧誘対象海外発行証券」についても、外国証券売出しを行う場合は、外国証券情報を提供し、または公表しなければならない。しかしながら、実務上、外国証券内容説明書から外国証券情報への切替えにはかなりの時間を要することから、外国証券情報への切替えができるまでの間、少人数向け勧誘対象海外発行証券の売買が困難となることも考えられる。
このため、少人数向け勧誘対象海外発行証券についての外国証券情報の内容については、平成25年3月31日までの間、情報府令の別表に定める内容ではなく、従来の「外国証券内容説明書に記載すべき情報」の内容とすることとされた(改正府令附則4条2項)。これにより、少人数向け勧誘対象海外発行証券について外国証券売出しを行う場合には、従前の外国証券内容説明書の情報を内容とする外国証券情報をその相手方に提供・公表すればよいことになる。
Ⅶ.既開示有価証券の売出しの取扱い
1.目論見書・有価証券通知書の取扱い 従前から、法定開示が行われている有価証券(以下「既開示証券」という)の売出しについては、有価証券届出書の提出義務は免除される(法4条1項3号)一方で、有価証券通知書の提出が義務付けられる(法4条6項)とともに目論見書の作成・交付が義務付けられていた(法13条1項、15条2項)。
しかしながら、法定開示が行われている有価証券については、電子開示システム(EDINET)により有価証券報告書等の開示情報を容易に取得することが可能であることから、原則、既開示証券の売出しに係る目論見書の作成・交付は免除され(法13条1項)、有価証券通知書の提出についても免除された(法4条6項ただし書)。
2.発行者等による既開示証券の売出し 前述1のとおり、既開示証券の売出しについては、その発行者に関する情報は開示されており、情報の非対称性の問題は相対的に小さいものと考えられる。
しかしながら、既開示証券の発行者関係者等(発行者、発行者の子会社もしくは主要株主、発行者の役員または発起人等(一定の者に限る))、当該既開示証券を他の者に取得させることを目的として発行者関係者が保有する当該既開示証券を取得した金融商品取引業者等または当該既開示証券の売出しに係る引受人である金融商品取引業者等は、発行者に関する未公表の情報を保有し、または容易に取得することが可能な立場にあるうえ、当該既開示証券を大量に所有している場合もあると考えられることなどから、特に発行者に関する情報が投資情報として重要であると考えられる株券等(株券、新株予約権証券、新株予約権が付されている有価証券もしくは株券に転換し得る有価証券またはこれらの性質を有する外国証券(開示府令4条4項1号、11条の2第2号イ))については、情報の非対称性、販売圧力等の問題が生ずることが考えられる。
このため、発行者関係者等が行う売出しについては、従前どおり、目論見書の作成・交付を求めることとされた(法13条1項、15条2項)。また、既開示有価証券の売出しに使用する目論見書は、有価証券通知書の添付書類として財務局に提出することとされており、目論見書の交付を必要とする場合については、引き続き、有価証券通知書の提出も求めることとされた(法4条6項)。
脚注
1 本稿では、「金融商品取引法」を「法」、「金融商品取引法施行令」を「政令」、「金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令」を「定義府令」、「企業内容等の開示に関する内閣府令」を「開示府令」、「証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令」(金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う金融庁関係内閣府令の整備等に関する内閣府令(平成21年内閣府令第78号)により「特定証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令」の題名が改正された)を「情報府令」と表記する。また、「企業内容等の開示に関する留意事項」を「開示ガイドライン」と表記する。
2 「金融商品取引法施行令第一条の七の三第六号および証券情報等の提供又は公表に関する内閣府令第十三条第三号に規定する認可金融商品取引業協会を指定する件」(平成22年金融庁告示第40号)において、日本証券業協会(昭和48年7月1日に社団法人日本証券業協会という名称で設立された法人をいう)が指定されている。
3 相手方を特定投資家に限定して行う売付け勧誘等で、金融商品取引業者等が顧客からの依頼によりまたは自己のために行うもの(特定投資家が国、日銀および適格機関投資家である場合を除く)であり、当該有価証券が特定投資家以外の者に譲渡されるおそれが少ない場合に該当するときには、発行開示規制は免除される。
4 「新株予約権証券等」には、①新株予約権証券、②新株予約権、新優先出資引受権または資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券に転換する権利が付されている有価証券および③外国有価証券でこれらの有価証券の性質を有するものが含まれる(令1条の4第2号)。
5 定義府令10条の2に規定する同一種類の有価証券の要件についても見直しが行われ、たとえば、債券についての要件に「金額を表示する通貨」が追加された。
6 「株券等」には、①株券および外国会社の株券、②協同組織金融機関の優先出資に関する法律に規定する優先出資証券、資産の流動化に関する法律に規定する優先出資証券および外国有価証券でこれらの優先出資証券の性質を有するもの、③投資証券および外国投資証券(投資証券に類するもの)ならびに④外国有価証券で特殊法人の出資証券(法2条1項6号)が含まれる(令1条の4第1号)。
7 前掲・脚注4と同じ。
8 要件が定められていない有価証券については、外国証券売出しを行うことはできない。
9 権利の行使により取得、引受けまたは転換される株券または外国株券は、指定外国金融商品取引所に上場されていることが要件とされるが、平成25年3月31日までは、指定外国金融商品取引所のほか、金融商品取引所に上場されている場合についても要件に該当することとする経過措置が定められている(金融商品取引法等の一部を改正する法律の施行に伴う関係政令の整備等に関する政令(平成21年政令第303号)附則2条1項)。したがって、平成25年3月31日までは、国内の金融商品取引所に上場している株券または外国株券に係る海外発行新株予約権付社債券についても、外国証券売出しの対象となる。
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