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解説記事2010年07月26日 【上場制度解説】 支配株主との重要な取引等に係る上場制度整備の概要と実務上の留意事項(2010年7月26日号・№364)

上場制度解説
支配株主との重要な取引等に係る上場制度整備の概要と実務上の留意事項
 東京証券取引所上場部企画担当 調査役 渡邉浩司

Ⅰ.はじめに

 東京証券取引所(以下「東証」という)では、昨年9月に公表した「上場制度整備の実行計画2009」(脚注1)において最重点課題として掲げられた「環境変化を踏まえた適時開示に係る制度及び実務の整備」と「上場会社のコーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備」に関連して、本年6月に四半期決算に係る適時開示の見直しおよび国際会計基準(IFRS)任意適用を踏まえた上場制度の整備を目的とする制度改正を実施した。
 具体的には、まず、本年3月に公表された上場制度整備懇談会ディスクロージャー部会報告「四半期決算に係る適時開示、国際会計基準(IFRS)の任意適用を踏まえた上場諸制度のあり方について」(脚注2)の提言を踏まえ、四半期決算に係る適時開示について、効果的かつ効率的なディスクロージャーを実現する観点から、上場会社が自らの判断に基づき、投資者ニーズに応じて的確なディスクロージャーを柔軟に行うことができるような制度上の対応を行った。
 また、本年3月期決算からIFRSの任意適用が認められたことに対応するため、IFRSを任意適用する上場会社および新規上場申請者に係る上場制度の整備を実施した。
 さらには、支配株主(脚注3)による権限濫用を防止し、適切な少数株主の保護を実現する観点から、支配株主を有する上場会社に対して、支配株主との重要な取引を行う場合に一定の手続の実施を求める内容の企業行動規範を新設したほか、議決権電子行使プラットフォームの利用促進も念頭に、上場会社に実質的な株主の指図による株主総会議決権の行使にも配慮するよう求めるなどの対応を行った。
 本稿では、これらの制度改正の概要と実務上の留意事項について解説する。

Ⅱ.四半期決算に係る適時開示の見直し
 四半期決算に係る適時開示の見直しとしては、効果的かつ効率的なディスクロージャーを実現する観点から、画一的な開示を求める枠組みを最小限に留め、投資者ニーズに応じた的確なディスクロージャーを柔軟に行うことができるよう、最低限の要件として東証所定の様式を定め(有価証券上場規程(以下「規程」という)404条)、それ以外の部分については、上場会社が自らの判断に基づき開示を行うことを基本的な考え方として整理を行った。
 詳細については、内藤友則「新『四半期決算短信様式・作成要領』の実務対応のポイント」本誌359号32頁を参照されたい。

Ⅲ.IFRS任意適用を踏まえた上場制度の整備
1.上場審査における取扱い  東証では、新規上場申請者に対する上場審査の形式要件を定めているが、それらの形式要件のうち純資産の額および利益の額に関する形式要件への適合の有無は、IFRSを任意適用する新規上場申請者については、IFRSによって作成された連結財務諸表に基づいて算定される純資産の額および利益の額を用いて判断することとした(有価証券上場規程施行規則(以下「施行規則」という)212条5項1号等)。
 また、IFRSによって作成された連結財務諸表を用いた新規上場申請については、平成22年3月期を直前事業年度とするものから認めることとしたほか、新規上場申請時に提出を求めている過去の連結財務諸表について、そのすべてをIFRSによって作成することは求めず、原則として、最近2期分をIFRSによって作成することを求めることとした。

2.適時開示における取扱い (1)適時開示に係る軽微基準の取扱い  適時開示が求められる会社情報は、有価証券の投資判断に重要な影響を与える会社の業務、運営または業績等に関する情報である。東証では、具体的な開示の要否の判断の目安として、投資者の投資判断に及ぼす影響が軽微なものであるかどうかの基準(以下「適時開示に係る軽微基準」という)を設けており、損益計算書の項目に関しては、「売上高」「経常利益」および「当期純利益」を用いて適時開示に係る軽微基準を定めている。
 しかしながら、IFRSによって作成された連結財務諸表においては、わが国の会計基準(以下「日本基準」という)における「経常利益」に相当する利益が開示されないこと、また、日本基準における「当期純利益」に相当する利益としては、包括利益計算書の本表において開示される「当期利益」ではなく、「非支配持分控除後の親会社の所有者に帰属する当期利益」が適当と考えられることから、IFRSを任意適用する上場会社については、損益計算書の項目に関しては「経常利益」は用いず、「売上高」および「親会社の所有者に帰属する当期利益」を用いて、適時開示に係る軽微基準を定めることとした(施行規則401条1項等)。
(2)決算短信の取扱い等  IFRSを任意適用する上場会社が開示する決算短信(サマリー情報)については、IFRSと日本基準との差異を踏まえ、開示項目の名称を変更したほか、次のとおり開示対象の項目を変更した。
 まず、決算短信(サマリー情報)における利益の実績値の開示対象からは、IFRSによって作成された連結財務諸表においては開示されない「経常利益」を除外し、「税引前利益」「親会社の所有者に帰属する当期利益」および「包括利益」を追加した。
 また、連結業績予想については、原則として実績値を開示する項目と同様の項目について開示を求めるが、「包括利益」はその性質から予想になじまないことから、予想値の開示は不要と整理した。
 加えて、IFRSにおいては会計上の見積りの変更についての開示も求められることから、会計方針の変更の有無に加えて、会計上の見積りの変更の有無についても記載することとした。
 なお、IFRSを任意適用する上場会社が行う業績予想の修正については、予想値を開示する項目と同様に包括利益は対象としないこととし、売上高、営業利益、税引前利益、当期利益および親会社の所有者に帰属する当期利益を対象とすることとしている(規程405条1項)。

3.上場廃止基準等における取扱い
(1)債務超過に関する上場廃止基準等の取扱い
 東証では、上場会社に対して早期の事業再生を促すことなどを目的として、市場第一部の上場会社が債務超過の状態となった場合は、市場第二部に指定替えとするほか、さらに、1年以内に債務超過の状態でなくならなかったときは、原則として、その上場を廃止することとしている。
 しかしながら、IFRSを任意適用する上場会社については、日本基準においては債務超過に陥っていなかったにもかかわらず、IFRSと日本基準との会計基準上の差異を調整したことのみをもって債務超過に陥ってしまう可能性がある。
 この点について、そのような上場会社についてまで一律に、市場第二部への指定替えを行うとかその上場を廃止するといった硬直的な運用を行うことは、債務超過に関する上場廃止基準等の目的に沿わないばかりか、そのような上場会社の株主・投資家に重大な不利益をもたらす可能性があるため、著しく不合理である。
 このため、IFRSを任意適用する上場会社に対する債務超過に関する上場廃止基準等の適用については、当面の間はIFRSと日本基準の会計基準上の差異のうち、資本合計に重要な影響を与える可能性のある主要な項目による影響を除外するなどの方策を取ったうえで、債務超過に関する上場廃止基準等への該当の有無を判断することとした(施行規則601条4項1号等)。
 なお、債務超過に関する上場廃止基準等については、当面の間は、上記のような柔軟な運用を行うこととするが、今後のIFRSと日本基準との間のコンバージェンスの進展に伴い、日本基準を適用する上場会社においても同様の問題が発生することが予想されることから、代替となり得る基準を設定することを含め、できる限り速やかに、抜本的な見直しを検討していく予定である。
(2)不適当な合併等に係る上場廃止基準の取扱い  東証では、いわゆる裏口上場の防止を目的として、上場会社が非上場会社を吸収合併する場合などにおいて、当該上場会社が実質的には存続会社でないと認められるとき、つまり実質的には非上場会社が存続会社であると認められるときは、一定期間内に新規上場審査に準じた審査に適合しなければ上場を維持できないという上場廃止基準が設けられている。
 当該上場廃止基準においては、上場会社が非上場会社を吸収合併する場合などに、上場会社と非上場会社のどちらが実質的な存続会社であるかの判断基準の1つとして、「総資産額」および「売上高」と併せて「経常利益」が用いられている。
 しかしながら、IFRSによって作成された連結財務諸表においては日本基準における「経常利益」に相当する利益が開示されないことから、IFRSを任意適用する会社については、「経常利益」に代えて「親会社の所有者に帰属する当期利益」を用いることとした(施行規則601条8項2号b(d)等)。

Ⅳ.コーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備

1.支配株主による権限濫用を防止するための施策の整備
(1)趣旨・定義等
 今回の制度改正において、支配株主による権限濫用を防止し、適切な少数株主の保護を実現する観点から、支配株主を有する上場会社は、当該上場会社またはその子会社等(以下「上場会社等」という)の取締役会等が支配株主その他施行規則で定める者(以下「支配株主等」という)が関連する重要な取引等を行うことについての決定をする場合には、それが少数株主にとって不利益でないことに関して、支配株主との間に利害関係を有しない者から意見を入手し(規程441条の2第1項)、その意見の概要等について開示を行う(同条2項)ことが義務付けられた。
 「重要な取引等」とは、図表1に列挙した上場会社等の決定事実のうち上場会社が適時開示を行う必要があるものをいい、上場会社等と支配株主等との間で行われている反復・継続的な営業取引については、通常、「重要な取引等」には含まれない。

 また、「支配株主等」の範囲は図表2のとおりであり(規程441条の2第1項、施行規則436条の3)、支配株主等が「関連する」場合とは、原則として、支配株主等が上場会社等との重要な取引等の当事者となる場合としている。

 意見を入手する先である「支配株主との間に利害関係を有しない者」には、たとえば、買収防衛策の実務において実施されている特別委員会に相当するような第三者委員会や、支配株主と利害関係のない社外取締役または社外監査役などが含まれる。
(2)意見の内容、フェアネス・オピニオンの取扱い  意見の開示にあたっては、たとえば、取引等の目的、交渉過程の手続(合併比率等に係る算定機関選定の経緯、決定プロセスにおける社外取締役または社外監査役の関与など)、対価の公正性、上場会社の企業価値向上などの観点から総合的に検討を行ったうえで、当該決定が少数株主にとって不利益でないかどうかに関する判断についてその理由と併せて明確に言及することが求められる。
 なお、合併・株式交換といった組織再編行為等において、支配株主と利害関係のない算定機関から対価の公正性等に関する評価(いわゆる「フェアネス・オピニオン」)を取得している場合であって、当該評価において少数株主にとって不利益でないことに関して言及されているときは、意見の入手を行ったものとして取り扱うこととした。
 ただし、合併比率算定書等の取得のみの場合については、意見の入手と同等と判断することは難しく、別途意見の入手が必要である点に留意されたい。

2.議決権行使を容易にするための環境整備の拡充  今回の制度改正において、議決権電子行使プラットフォームへの加入など機関投資家の指図権の行使を容易にするための環境整備を促すことが重要であるとの指摘を踏まえ、上場会社は、「議決権行使を容易にするための環境整備」として、実質的な株主による指図権の行使を容易にするための環境整備を行うよう努めることを企業行動規範上の努力義務として新設した(施行規則437条5号)。

Ⅴ.近時の環境変化等を踏まえた適時開示制度等の見直し

1.適時開示に係る軽微基準の連結ベースへの見直し
 適時開示に係る軽微基準については、従来、上場会社が連結財務諸表提出会社である場合においても、上場会社単体の売上高等への影響額を基準として定められていた。
 しかし、近年、投資評価や企業経営が連結ベースで行われている実態を踏まえ、原則として、上場会社の連結財務諸表における売上高等への影響額を基準として定めることとした(図表3参照。施行規則401条1項2号a(a)等)。

 ただし、内部者取引規制上の重要事実に該当する会社情報については、適時開示がその解除要件となっていること等を踏まえ、引き続き適時開示が必要であるものとした(同号a(e)等)。

2.適時開示に係る宣誓書制度の見直し  適時開示に係る宣誓書制度は、上場会社の代表者が、投資者への会社情報の適時適切な提供について真摯な姿勢で臨むことを宣誓するとともに、適時開示体制の概要を記載した書面(適時開示体制概要書)を公衆縦覧に供するものであったが、近年、コーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備の一環として、上場規則上、企業行動規範を中心として適時開示以外にも上場会社に遵守を求める規定が増加してきたことを踏まえ、内容を整理簡素化する観点から、東証諸規則の遵守を確認する書類(確認書)に改めることとし、提出時期等についても見直しを行った(規程204条11項1号等)。
 また、適時開示に係る宣誓書の添付書類である適時開示体制概要書については、引き続き、投資家に提供するため「コーポレート・ガバナンスに関する報告書」に記載または添付することとした(以上について、図表4参照)。

 なお、上場会社が既に適時開示に係る宣誓書を提出している場合には、制度改正と同時に確認書の提出が必要という取扱いとはせず、宣誓書に署名した代表者が異動したときに、確認書を提出するものとした。
 また、適時開示体制概要書についても、制度改正と同時にその内容をコーポレート・ガバナンスに関する報告書に記載または添付することは求めず、適時開示体制概要書の内容について変更が生じたときに、その内容をコーポレート・ガバナンスに関する報告書に記載または添付することとした。

Ⅵ.適用時期
 今般の改正規則は、平成22年6月30日から施行されており、四半期決算に係る改正規則および見直しに伴う四半期決算短信様式・作成要領は、平成22年6月30日以後最初に終了する四半期決算から適用するものとした。
 また、通期決算に係る改正規則については、平成23年3月1日以後最初に終了する通期決算から適用することとし、通期決算短信様式・作成要領その他実務上の取扱い等については、四半期決算に係る適時開示の見直し後の実務の状況を踏まえた検討を行い、平成22年中を目途に別途決定、公表することを予定している。

Ⅶ.おわりに
 本稿では、東証が本年6月に実施した四半期決算に係る適時開示の見直しおよびIFRS任意適用を踏まえた上場制度の整備を目的とする制度改正について、その概要と実務上の留意事項について解説した。
 東証では、近年、金融・資本市場のグローバル化が進むなか、投資家および上場会社を含む市場関係者の皆様の強い問題意識に基づき、上場会社のコーポレート・ガバナンス向上に向けた環境整備や、環境変化を踏まえた適時開示に係る制度および実務の整備を進めてきたが、今回の制度改正により、昨年9月に公表した「上場制度整備の実行計画2009」に掲げられた重要課題への制度対応は概ね完了し、東証として近年取り組んできた上場制度の総合整備についても概ね対応が完了した。
 引き続き、近年の制度改正に関する実務の円滑な定着に向けて努めていきたいと考えているので、上場会社、投資家、市場関係者ほかすべての関係者の皆様のより一層のご理解・ご協力をお願いしたい。

脚注
1 「上場制度整備の実行計画2009」については、東証ホームページhttp://www.tse.or.jp/(HOME>制度・規則>上場制度の総合整備>上場制度整備の実行計画)を参照。
2 上場制度整備懇談会ディスクロージャー部会の概要、審議状況および報告の全文については、東証ホームページhttp://www.tse.or.jp/(HOME>制度・規則>上場制度の総合整備>ディスクロージャー部会)を参照。
3 「支配株主」とは、①財務諸表等規則8条3項に規定する親会社および②上場会社の議決権の過半数を直接もしくは間接に保有する者をいう(有価証券上場規程2条42号の2等。後述Ⅳ1(1)参照)。

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