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解説記事2010年12月13日 【巻頭特集】 「公開会社法」は何処へ(2010年12月13日号・№382)

会社法雑話
制度を納得、実務のヒントに

第1回
「公開会社法」は何処へ
 西村あさひ法律事務所 弁護士 郡谷大輔

 編集部に寄せられた素朴な疑問や最近の出来事を素材として、経済産業省・法務省での立案経験を有し会計・税務分野の諸課題にも取り組んできた筆者が、背景事情や今日に至る経緯、その捉え方を語りかけるように明らかにする「会社法雑話」がスタートします。一見とりとめのない話のなかに、今後の指針や実務の一助となるような指摘もあるでしょう。ご期待ください。(編集部)

6年ぶりの改正論議  平成22年もそろそろ終わろうとしているが、今年の会社法関連の話題は何といっても、会社法の改正論議ではないだろうか。
 会社法制定・施行当時から、様々なことがいわれている会社法ではあるが、当初は買収防衛策に関連する改正の必要性、監査役と会計監査人のいわゆるインセンティブのねじれ問題、その他具体論はないが何となく規制緩和が行き過ぎだといった議論はあった。
 そして、平成21年に会社法施行規則の改正という形で、①必要かつ不可欠な場合には手続なく自己株式を取得できる(会社法施行規則27条8号)、②単元数が200未満になると単元の定めが無効になる(34条)、③責任免除を受けた取締役に交付する退職慰労金の「額」は議案として決議する必要はなく、参考書類に記載すれば足りる(84条の2)、④有価証券報告書とは異なる議決権比率の計算方法で上位10名を開示する(122条1号)といった改正が行われた。
 しかし、当然のことながら、施行規則という省令レベルの改正では、上記のように論理的には好ましい影響はなく、かつ、実務的にはほとんど意味がないものと考えられる先祖返り的な改正(上記の事項は、旧商法時代の不都合として会社法で修正した事項を元に戻した改正)はできても、それ以上のことはやりにくいということになる。
 このようななか、3年ほど前に公表された「公開会社法要綱案」(第11案について、平成19年10月・日本取締役協会)などもあり、特に上場企業等を念頭に置いた会社法制の改正論議が活発化し、今年の4月には、ついに会社法制の見直しを審議する法制審議会の部会が立ち上がって、改正論議が本格的に開始された。
 今回の改正論議は、現行会社法の制定作業時にまで遡ると平成16年以来ということになるので、約6年ぶりということになるが、昭和の時代から平成初期の商法改正が昭和25年、30年、37年、41年、49年、56年、平成2年、5年、6年、9年(3本)と数年単位で行われていたのに対し、平成9年の後は平成11年、12年、13年(3本)、14年、15年、16年(2本)、17年(会社法)と、ほぼ毎年改正が行われてきている(参照)。そのような意味では、約6年ぶりの今回の改正論議が耳目を集めるのも当然のことといえるだろう。


頻繁な改正が行われた理由  商法の頻繁な改正が行われるようになったきっかけは、平成9年に議員立法で行われたストック・オプションの導入に関する改正や自己株式消却に関する消却特例法(株式の消却の手続に関する商法の特例に関する法律)の制定であろう。
 この議員立法を境に、法務省・法制審議会が実務的な改正要望に対して学術的(法制的とも説明される)に査定・審査を加え、数年かけて部分的に個別事項の改正で応えるような改正手法から、実務的な要望をほぼ完全に実現する形で株式交換・会社分割・新株予約権その他の制度が約1年の検討期間で導入されるといった改正に変わっていったことは周知のとおりである。
 また、平成13年以降会社法に至るまでの一連の改正の端緒となったのは、またしても議員立法による、いわゆる金庫株の解禁に関する改正であった。
 自己株式の取得は、従来から実務的な要望が強かったものの、実現しない改正項目であった。たとえば、昭和56年改正時には「新株引受権付社債」を創設することによって当時のニーズに対応していたことになっており(どのような理屈かは筆者にはわからない)、平成6年改正時にも従業員持株会用の取得といった実務的には使いようのない形で部分的に認められたに過ぎなかったものである。この自己株式取得解禁により、わが国の会社や株主は資本構成・資本効率への関心を強め、結果的には、わが国の株式会社の投資対象としての魅力を高める効果があったことは否定できないであろう。
 こうした商法改正の大きな流れの終着点であった会社法制定に際しては、いかに会社法を活性化するか、いかにわが国の会社の競争力を高めるか、いかに利害関係者にとって使い勝手のよいものにするかといった視点からの議論が求められていたように思う(この点は、いまだに「規制緩和」だとする人たちがいるが、昨今の会社法改正論議を眺めてみても、具体的にどこがどう緩和されていて、その緩和によって具体的にどのような制度的な問題を生じさせているのかという指摘はないようである)。

今回の改正論議の特徴  ところで、今回の法制審議会の諮問内容をみると、「会社を取り巻く幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保する観点」とされており一見幅広い観点からの改正が行われるようにみえるが、現在具体的に検討されていると思われる事項は、社外取締役の選任義務・要件の見直し、監査役の監査機能、会計監査人の報酬決定権限の所在、大規模な第三者割当増資の在り方、多重代表訴訟、子会社に関する意思決定への親会社株主の関与など、過去の改正時にも論点には挙がったものの種々の理由により改正すべきでないなどの結論に至り、改正が見送られた項目が多数並んでいる。
 そして、経済界を含め改正に関与する者の今回の法制審議会による改正への期待感や関心は、改正論議の当初に比べると下がってきているようにもみえる。
 その要因として、現在検討されている具体的な論点が幅広い利害関係者からの一層の信頼を確保するために必要なことなのかどうかがよくわからないという実質的な問題があることは事実であろう。
 次に、このような個別論点的な改正方法が、少なくとも平成11年の株式交換制度創設以降行われていた「包括的で大きなテーマを設定し、これに関連する制度を全般的に見直す」というスタンスでの改正のやり方とは手法が違っているという点にも違和感があるのではないだろうか。ただ、改正手法自体は、その時その時の政治状況や立案担当者の考え方によって適切な手法が選択されるべきものであるから、それ自体に問題があるというわけではない。
 むしろ、この点の違和感は、そもそも今回の改正論議の端緒が上記のような個別的な論点に関する改正要望ではなく、法制審議会の会社法制部会発足以降ぱったりと聞かなくなった「公開会社法」を巡る議論だったのではないかという点から生じているのではなかろうかと思う。

「公開会社法」とは何であったか  何をもって「公開会社法」というかは、論者によって様々であるものの、今回の改正論議においては、先に挙げた「公開会社法要綱案」をみると、特に上場企業を念頭に置いた制度を構築するという思想のもと、①金融商品取引法と会社法の統合、②会社に対する証券市場の要求を担える企業統治、③企業集団を公開会社法の基本的要素として認識することといった3つの視点から提起される種々の論点ということになろう。
 この点は、民主党公開会社法プロジェクトチームが作成した「公開会社法(仮称)制定に向けて」をみても、今年7月に日本経済団体連合会が公表した「企業の競争力強化に資する会社法制の実現を求める~会社法制の見直しに対する基本的考え方~」をみても、これらの3要素が含まれていることから伺えるところである。
 立案担当者として振り返ってみると、平成5年以降の改正は、社債・監査役・株式交換・自己株式取得・新株予約権・委員会設置会社・株式振替制度など、主として上場会社を念頭に置いて行われてきたところ、会社法制定時には、近年の改正であまり日の目が当てられなかった中小企業や非公開企業(上場会社の子会社等を含む)を念頭に置いた改正事項が多かったと思う(有限会社と株式会社の一体化は最たる例である)。
 そのような経緯もあり、関係者も今度の改正は「上場会社」が主役と思っていたのであろうが、法制審議会での議論をみると「公開会社法」という用語自体が用いられなくなり、改正の論点も、公開会社法として掲げられた論点のうち、企業統治と企業集団に関する過去の商法改正・会社法改正で積み残された論点が取り上げられるという状況に至っている。

会社法・金商法の調整問題  しかし、上場会社を対象とした改正を考えるのであれば、上場会社に適用されるもう1つの会社法制的な法律である金融商品取引法との調整問題が主たる問題として取り上げられるべきだと思う。
 確かに、会社法制定時には、会社法のみの工夫により対応可能な会社法と金融商品取引法との調整を図る改正がいくつか行われている(この点は、公開会社法要綱案に詳しい)。たとえば、
・会社法上の子会社の範囲と金融商品取引法の子会社の範囲
・株式の募集手続等における会社法の公告・通知制度と金融商品取引法の届出書制度
・金融商品取引法上の財務諸表と会社法上の計算書類
・会社法上の決算公告と金融商品取引法上の有価証券報告書提出義務
などである。
 また、過去にも、委任状勧誘制度と書面投票制度の調整(昭和56年改正において異なる制度として導入した両制度について、平成13年以降順次整理調整を図っている)、連結計算書類と連結財務諸表の調整(連結ベースによる事業報告の許容等)など、可能な範囲で調整等が行われた例はある。
 しかし、会社法制定後に行われた金融商品取引法の改正では、会社法との調整はほとんど意識されず、独自に重複分野に規制をするなどの動きもみられ、公開会社法にまつわる論議でも指摘されていた事項をも踏まえれば、両法の調整論点として検討すべき事項は、
・金融商品取引法上の内部統制報告書と会社法上のいわゆる内部統制
・金融商品取引法上の監査人による監査と会社法上の会計監査人による監査
・金融商品取引法と会社法の監査役の取扱いの差異(金融商品取引法では内部監査人であり監査人の監査対象、会社法では会計監査人の会計監査を監査役が監査するという逆転現象が生じている)
などが、いわゆるガバナンス関係で指摘できるものとなる(社外役員の要件、監査役の機能、インセンティブのねじれ問題などは、本来、これらの問題の一部または派生問題に過ぎないと思われる)。さらに、
・合併等の組織再編時の開示方法の調整
・有価証券報告書と事業報告・計算書類の抜本的な調整
・TOB規制や大量保有報告など金融商品取引法上株主に課せられる規制と会社法の株主権との調整
・自己株式や種類株式の位置付けの調整(TOB規制・開示規制・インサイダー規制の適用範囲)
・IFRS適用を見据えた計算書類・分配規制等の調整
など開示面の調整、重複規制の整理、両法域における概念違いなどの調整が挙げられる。

制度利用者の望みは……  そもそも「公開会社法」という言葉を聞けば、より多くの利害関係者が思い浮かべる改正の論点は、企業統治や企業集団ではなく、このような金融商品取引法との調整問題であろう。会社法制定直後から公開会社法の論議が出ていたにもかかわらず、改正作業そのものが始まらず、会社法の改正作業が始まっても企業統治や企業集団といった部分的な論点しか取り上げられず、最大の改正論点とも考えられる金融商品取引法との調整問題が取り上げられていないことは、非常に残念な事態である。
 それでは、今回の会社法の改正論議において、会社法と金融商品取引法との調整問題が俎上に載せられないのはなぜか、「公開会社法」という用語が使われないのはなぜか。筆者でなくても多くの人は薄々勘付いてはいるだろう。そう、所管が違うのである。
 ご承知のように、会社法とはわが国の株式会社の設立根拠法であり、わが国の経済活動の担い手のほぼすべての法主体はこの「株式会社」である。したがって、わが国の経済が発展し、国民生活を豊かにしていくという究極的な目的の達成のためには、経済活動の担い手であり、重要な手段である「株式会社」という法主体がどれだけ「強い」のかということが問題となる。
 ただ、ここでいう「強さ」が一義的には決まらないことは当然である。古くは法務省・法制審議会が「株式会社ができること」を事細かに決めているような制度も多数あったわけであるが、実務上のニーズを捉えた会社法制に関する議員立法の実施や国全体の政策の方向性などを契機に種々の議論が積み重ねられ、会社法の制定時には、この「強さ」の源泉を利害関係者の合理的な判断に求めたといっても過言ではない。利害関係者による制度の合理的な利用は排除しないし、何が合理的なのかという点はやはり利害関係者の判断によって決めていくべきであるという考え方である(この点を指して、「事前規制から事後監視へ」と評することもあろう)。
 金融商品取引法と会社法というわが国の株式会社制度を支える重要な法律が、所管違いといった政府の内部事情から、両者の調整なく、独自の規制体系を積み重ね、会社に無用のコストがかかる、株主や投資家にとってわかりにくい制度となっていく事態は、少なくとも株式会社という制度を利用する利害関係者の誰もが望むところではないであろうし、わが国の株式会社の「強さ」を減衰していくことにもつながりかねない。
 今回の改正論議は引き続き継続されるが、そうであれば、所管によっては対応できない改正問題が生じている時に何が起こったのか、過去を振り返ってみるのもよいかもしれないなどと考えている。

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