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解説記事2011年02月14日 【新会計基準解説】 「リース会計に関する論点の整理」について(2011年2月14日号・№390)

新会計基準解説
「リース会計に関する論点の整理」について
 企業会計基準委員会 専門研究員 鈴木道夫

はじめに
 企業会計基準委員会(ASBJ)では、IFRSとのコンバージェンス・プロジェクトの一環で、国際会計基準審議会(IASB)が提案しているリース会計の改正について検討を行っており、平成22年12月27日に、「リース会計に関する論点の整理」(以下「本論点整理」という。)を公表し、平成23年3月9日までコメントを募集している(脚注1)。
 本稿では、本論点整理の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅰ.本論点整理の目的と背景
 IASBと米国財務会計基準審議会(FASB)は、両者が進めているMOUプロジェクトの一環で、リースに関する会計基準の見直しを共同で進めており、平成22年(2010年)8月に、公開草案「リース」(以下「IASB及びFASBのED」という。)を公表している。
 ASBJは、平成19年8月にIASBとの間で東京合意を公表し、会計基準のコンバージェンスを進めており、そこでは、MOUプロジェクトに関して、「両者は、新たな基準が適用となる際に日本において国際的なアプローチが受け入れられるように、緊密に作業を行うこととする。」としている。
 このような中、我が国のリースに関する会計基準に関して、今後、会計基準のコンバージェンスを検討していくにあたって、このIASB及びFASBのEDの提案内容に関する関係者の理解を促進し、受け入れ可能なものであるか又は改善を要する論点があるかを早期に検討するために、IASB及びFASBにおける最終基準化前の段階ではあるが(脚注2)、本論点整理を公表し、広く関係者からの意見を募ることとした(脚注3)。
 IASB及びFASBのEDでは、リース会計について従来の考え方と異なる新しいモデルが提案されており、機器のリースや不動産の賃貸を営む企業、それらの企業から賃借を受ける企業など、リースを主たる事業としているか否かにかかわらず、広範に重要な影響を与える可能性のある提案が含まれている。
 本論点整理では、IASB及びFASBのEDで提案されている新たなリースに関する会計モデルと我が国の現行の会計基準との比較整理を中心に、会計モデルと範囲(論点1)、借手及び貸手の会計処理(論点2)、追加条件のあるリースの会計処理(論点3)、表示及び注記事項(論点4)、セール・アンド・リースバック取引や転リース(論点5)について検討している。本稿では、それらの内容について紹介する。

Ⅱ.会計モデルと範囲(論点1)
1 使用権モデル(借手の会計処理)
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 IASB及びFASBのEDでは、使用権の移転の有無という観点から、借手について、単一のモデル(使用権モデル)に基づく会計処理を定めることが提案されている。そこでは、リース取引における借手は、リース期間にわたって原資産(リース契約で特定されたリース物件)を使用する権利を表す「使用権資産」とリース料を支払う義務を表す「リース料支払債務」を認識することになる(設例1参照)。

 我が国のリースに関する会計基準(企業会計基準第13号「リース取引に関する会計基準」及び同適用指針第16号「リース取引に関する会計基準の適用指針」。以下「リース会計基準」という。)では、資産の所有に伴うリスクと経済的便益の実質的な移転の有無の観点から、リース取引をファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類し、両者で異なる会計処理を定めており、オペレーティング・リース取引についての資産及び負債の認識は求められていない。しかしながら、使用権モデルにおいては、そのようなオペレーティング・リース取引に相当する取引であっても、使用する権利を取得していると考え、リースに係る資産及び負債の認識が求められることになる。
(2)論点整理における方向性  リース契約における借手の権利と義務を資産及び負債として貸借対照表上で認識していくとする使用権モデルの基本的な考え方は、ファイナンス・リース取引かオペレーティング・リース取引かというリース取引の分類により、異なる処理が必要となる現行のリース会計基準に比べて、比較可能性の向上など一定の財務報告の改善につながると考えられる。この観点から、本論点整理では、更新オプションや変動リース料等(Ⅳ1及び2参照)が含まれない単純なリース取引を前提とすれば、この使用権モデルの考え方を基礎として、我が国においても会計基準を開発していくことが考えられるとしている。

2 履行義務アプローチと認識中止アプローチ(貸手の会計処理)
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 IASB及びFASBのEDでは、借手と同様、リースから生じる資産及び負債を認識する使用権モデルを適用することとしつつ、その適用の方法として、履行義務アプローチと認識中止アプローチという異なる2つのアプローチを使い分ける複合モデルが提案されている。各アプローチの基本的な考え方及び認識する資産及び負債は次のとおり(設例2参照)。

(1)履行義務アプローチ……リースにより、貸手が原資産の使用権を借手に与える結果、リース料を受け取る権利という新たな資産「リース料受取債権」と原資産の使用を借手に認める義務という新たな負債「リース負債(履行義務)」が生じるとする考え方
(2)認識中止アプローチ……リースにより、リース期間にわたる原資産の経済的便益(原資産の使用権)がリース取引開始日に借手に移転されるとする考え方
 この2つのアプローチについては、IASB及びFASBのEDにおいて、貸手の原資産に伴うリスク又は便益の留保の程度に応じて、次のように使い分けることが提案されている。
(1)予想リース期間中又は予想リース期間後の原資産に伴う重要なリスク又は便益に対するエクスポージャーを貸手が留保している場合、履行義務アプローチを適用する。
(2)予想リース期間中又は予想リース期間後の原資産に伴う重要なリスク又は便益に対するエクスポージャーを貸手が留保していない場合、認識中止アプローチを適用する。
 このような考え方に基づくアプローチの使い分けは、原資産の所有に伴うリスクと便益の移転の程度により、リースをファイナンス・リース取引とオペレーティング・リース取引に分類する現行のリース会計基準の定めと類似したアプローチと捉えることもできる。
 こうした複合モデルの提案に対しては、借手側の会計処理との整合性から認識中止アプローチのみを用いる単一モデルがよいとする意見もある一方、個々のリース取引の経済的実態を反映するといった観点から、提案のように複数の会計処理を使い分ける考え方は理解できるとする意見もある。
(2)論点整理における方向性  本論点整理では、リース取引の経済的実態が売却取引と類似していることから売却に準じた会計処理を行ってリース開始時に一定の収益を認識することが適格な取引と、リース期間にわたって収益を継続的に認識することが適格な取引は、会計処理を区別することが適当という観点から、複数のアプローチを用いることは理解可能であるとしている。
 リース取引の形態は多岐にわたり、その経済的意味合いはそれぞれ異なるといえ、貸手の会計処理について、複数の会計処理を使い分ける考え方は、リース取引の経済的実態を反映するものであると考えられる。この観点から、本論点整理では、IASB及びFASBのEDで提案されている履行義務アプローチと認識中止アプローチとを使い分ける複合モデルには一定の合理性があるとし、これらのアプローチを基礎として、リース取引の多様性も踏まえ、引き続き検討していくこととしている。
 また、貸手の会計処理では収益認識が重要な問題であることから、IASB及びFASBから平成22年(2010年)6月に公表されている収益認識に関する新たな会計処理を提案する公開草案「顧客との契約から生じる収益」(以下「収益認識ED」という。)で提案されている収益認識の時期に関する取扱い(脚注5)との整合性についても検討していくこととしている。

3 リースの定義と適用範囲
(1)リースの定義
① IASB及びFASBのEDの概要
 IASB及びFASBのEDでは、「特定資産(原資産)を使用する権利を、一定期間にわたり、対価と交換に移転する契約」をリースと定義することが提案されている。現行のリース会計基準におけるリースの定義とも類似しているが、IASB及びFASBのEDではさらに、現行のIFRS及び米国会計基準と同様に、契約の実質に基づきリースに該当するかどうかを決定することを求めており、次の観点から、契約がリースに該当するかの検討が必要としている。
(1)契約の履行が特定の資産(原資産)の使用に依存しているかどうか。
(2)契約が特定の資産の使用を支配する権利を合意された期間にわたり移転しているかどうか。
② 論点整理における方向性  本論点整理では、IASB及びFASBのEDで提案されているリースの定義に関する詳細な規定を参考に、我が国においても、リースに該当するか否かを判断するためのリースの定義に関する規定を定めていくことが考えられるとしている。
(2)原資産の売買
① IASB及びFASBのEDの概要
 法的な契約形態がリースであっても、経済的実態は、原資産の売買と同様又は類似している場合がある。IASB及びFASBのEDでは、契約終了時に、貸手から借手に原資産の支配が移転し、かつ、原資産に伴うすべてのリスクと便益(ごく僅かなものを除く)が移転されている場合、当該契約を原資産の売買に相当する契約と考え、新たなリース基準の範囲から除外することが提案されている。
 これについて、現行のリース会計基準では、例えば、所有権移転ファイナンス・リースなど、実質的に原資産の売買に相当するといえる契約についてもリース会計基準の範囲から除外する定めは設けておらず、売買と同様の会計処理を行うことが定められているのみとなっている。
② 論点整理における方向性  ASBJでは、借手の使用権モデルの会計処理や、貸手の認識中止アプローチの会計処理を前提とすれば、それらの会計処理のアプローチとは別に、原資産の売買に相当する契約をリースと区別する規準を設け、範囲から除外することは必要以上に複雑さを招く可能性があると考えている。したがって、本論点整理では、当該規準の必要性を検討し、リース会計基準の中で、売買に類似する取引に対して必要な会計処理を定める方法なども検討していくことが考えられるとしている。
(3)無形資産等のリース
① IASB及びFASBのEDの概要
 無形資産や生物資産のリースなど、一部のリースについて、IASB及びFASBのEDでは、リース基準の範囲から除外することが提案されている。特に、無形資産のリースについては、IFRSと米国会計基準の適用範囲の整合性の確保を目的に、より広範に会計処理を検討するまでは、新たなリースの会計基準には含めないこととされている。
② 論点整理における方向性  無形資産のリースを適用範囲から除外する場合、有形固定資産のリースと不整合な会計処理となる取引が生じる可能性がある。また、我が国のリース会計基準では、適用範囲から明示的に除外しているリース取引はなく、ソフトウェアのリース取引などについても対象とされていると考えられていることから、本論点整理では、それらを踏まえて、無形資産のリースに関する取扱いについても検討を行っていく必要があるとしている。
(4)賃貸等不動産
① IASB及びFASBのEDの概要
 賃貸収益等の獲得を目的として保有される不動産について、IAS第40号「投資不動産」では、「投資不動産」に該当する不動産について取得原価又は公正価値による測定を認めている。IASB及びFASBのEDでは、このような投資不動産について、一律にリース基準の範囲に含めるのではなく、公正価値で測定している場合には、貸借対照表に表示される当該不動産自体の公正価値情報等の重要性などに鑑み、リース基準の範囲から除外することが提案されている。
 なお、我が国では、そのような不動産を「賃貸等不動産」と定義し、貸手においてはそれらの時価等に関する情報の注記が求められているが、IAS第40号のように公正価値による測定は認められていない。
② 論点整理における方向性  我が国における賃貸等不動産に関する時価等についての開示とIASB及びFASBのEDで適用除外の前提としている投資不動産の会計処理は異なり、前提となる環境(原資産に適用されている会計処理)が相違していることから、本論点整理では、その相違を踏まえて、賃貸等不動産を構成する個々の賃貸借契約への履行義務アプローチ(又は認識中止アプローチ)の適用の是非を検討していくことが考えられるとしている。
(5)サービス要素の区分
① IASB及びFASBのEDの概要
 リース契約に何らかのサービス要素(例えば、物件の維持管理サービスなど)が含まれている場合がある。IASB及びFASBのEDでは、すべてのリースを使用権モデルに基づき会計処理することから、サービス要素に係る会計処理と資産・負債の認識及び損益の認識パターンが大きく相違する可能性があり、それらの要素の区分の方法が重要となる。これについて、IASB及びFASBのEDでは、貸手だけでなく借手も含め、収益認識EDで提案されている、履行義務を識別するための「区別(distinct)」できるかどうかという規準を用いてサービス要素とリース要素の区分の判断を行うこととされている。「区別できない」場合には、すべてリース要素として扱い会計処理することが提案されている(脚注6)。
② 論点整理における方向性  本論点整理では、契約にリース要素とサービス要素の双方が含まれている場合、その区分は借手の資産計上と貸手の収益認識に影響するため、経済的実態が異なる要素であれば、異なる会計処理を行うことが望ましく、両者を区分して会計処理していく方向性は適切と考えられるとしている。
 また、区分の方法について、貸手側は、収益認識に関する基準との整合性から、収益認識EDの規準を用いて区分する方向性が、基本的に適当であると考えられるとしている。ただし、借手側に貸手と同様の区分の方法を用いることについては、それによる影響も十分に考慮のうえ、検討していくこととしている。

4 短期間のリース
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 IASB及びFASBのEDでは、「リースの開始日現在で、更新又は延長のオプションを含めた最大限の起こり得るリース期間が12か月以内であるリース」を短期リースと定義し、この定義に該当するリース取引ごとに、借手及び貸手に次のような簡便的な会計処理の選択を認めることが提案されている。定義にもあるように「リース期間」は、契約上のリース期間ではなく、更新オプションや解約オプションを考慮したリース期間(Ⅳ1(1)参照)とされている。
(1)借手は、割引前のリース料を用いて使用権資産及びリース料支払債務を測定できる。リース料は、リース期間にわたって費用として認識される。
(2)貸手は、短期リースから生じる資産又は負債を貸借対照表に認識せず、原資産の一部の認識の中止も行わないことができる。この場合、貸手は、原資産を引き続き認識し、リース料をリース期間にわたって収益として認識する。
 これに対して、我が国のリース会計基準では、借手と貸手それぞれに、少額リース資産や短期間のリース取引などについて、賃貸借処理や利息相当額の配分方法などの簡便的な取扱いが定められているが、IASB及びFASBのEDにおける提案とは、簡便的な会計処理の内容(借手)や、オプションの取扱い、定量的な数値基準の有無等の点で、相違がみられる(脚注7)。
(2)論点整理における方向性  短期間のリースについて、本論点整理では、IASB及びFASBのEDにおける借手に関する簡便的な会計処理の提案については、得られる便益に比べて実務上のコストが相当程度大きいものとなる可能性があるとしており、コストと便益を勘案して、検討を行っていくことが考えられるとしている。

Ⅲ.借手及び貸手の会計処理(論点2)

1 借手の会計処理
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 使用権モデルに基づく借手の会計処理について、IASB及びFASBのEDではリース取引開始日に使用権資産とリース料支払債務を認識し、その測定については、次の取扱いが提案されている。
(1)当初認識時に、使用権資産とリース料支払債務をリース料の現在価値に基づき測定する。
(2)当初認識後、使用権資産をリース期間にわたって償却し、リース料支払債務は実効金利法(利息法)による償却原価で測定する。
 リース料の現在価値の算定に用いる割引率は、借手の追加借入利子率を用い、容易に算定できる場合には貸手が借手に課している利子率(脚注8)を用いることが提案されている。
(2)論点整理における方向性  本論点整理では、IASB及びFASBのEDで提案されているような借手の当初認識時及び当初認識後の測定について、使用権モデルの考え方を前提とすれば適当であると考えられ、これを基礎に、借手の会計処理を検討していくことが考えられるとしている。

2 貸手の会計処理
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 貸手の会計処理について、IASB及びFASBのEDでは次のように会計処理することが提案されている。
(1)当初認識時に、リース料受取債権をリース料の現在価値に基づき測定する(割引率は貸手が借手に課している利子率を用いる。)。履行義務アプローチでは、リース料受取債権と同額のリース負債(履行義務)を認識し、認識中止アプローチでは、原資産の認識を中止し、原資産の帳簿価額の配分後の金額で残存資産を認識する。
(2)当初認識後に、リース料受取債権を実効金利法(利息法)による償却原価で測定する。履行義務アプローチでは、リース負債(履行義務)を借手による原資産の使用のパターンに基づき算定し、認識中止アプローチでは、認識した残存資産については、一定の場合を除き再測定はされない。
(2)論点整理における方向性  本論点整理では、IASB及びFASBのEDで提案されている貸手の当初認識時や認識後の測定に関する会計処理について、履行義務アプローチと認識中止アプローチとを使い分ける複合モデルを前提とする場合には一定の合理性があるとしている。一方で、履行義務アプローチにおける貸手の収益認識パターンや減損の取扱い、認識中止アプローチにおける残存資産の当初認識後の測定の取扱いなど、引き続き検討が必要な項目もあり、これらについて検討していくことが考えられるとしている。

Ⅳ.追加条件のあるリースの会計処理(論点3)

1 オプション付リース
(1)更新オプション及び解約オプション
① IASB及びFASBのEDの概要
 リース契約において、借手がリース期間を更新するオプションやリース期間の中途で解約するオプションが付与されている場合があり、それらのオプションの影響により契約上のリース期間と実際のリース期間は異なるものとなる可能性がある。
 IASB及びFASBのEDでは、当該オプションの影響をリースに係る資産及び負債に含めて認識するというアプローチを採用している。具体的には、契約上や事業上の要因など様々な要因を考慮して、「発生しない可能性よりも発生する可能性の方が高くなる(すなわち、発生の可能性が50%超となる)最長の起こり得る期間」を実際に起こり得るリース期間として見積り、当該期間に応じたリース料に基づき資産及び負債を認識することとしている。
 現行のリース会計基準では、解約不能リース期間と借手が再リースを行う意思が明らかな場合における再リース期間をリース期間とするとしており、上記提案とは大きく異なる。また、不動産賃貸借契約などのように短期間に更新を繰り返すリース取引についても、リース期間の見積りが必要となることから、提案されている会計処理による影響は大きいと考えられる。
② 論点整理における方向性  更新オプション等の取扱いについては、契約上や事業上の要因などから、借手が借り続けることの実質的な拘束性が高い場合には、リース契約の締結による実質的な義務が生じていると考えられ、その影響をリースに係る負債に含めて認識することも採り得るアプローチであるといえる。しかしながら、IASB及びFASBのEDで提案されている規準で見積られたリース期間に基づき、資産・負債を認識することについては、借手にとって債務性に乏しい負債の認識につながる可能性があるとする懸念もある。したがって、本論点整理では、このような更新オプション等の取扱いに関する代替案として、例えば、見積りに際してより高い蓋然性の閾値を設ける、最も発生の可能性の高い期間とする、あるいは、解約不能期間に限るといった方法について、今後、さらに検討を要すると考えられるとしている。
(2)購入オプション
① IASB及びFASBのEDの概要
 リース契約に購入オプションが含まれている場合、IASB及びFASBのEDでは、使用する権利を終了させる手段であることを理由に、当該オプションが行使された時点で会計処理することとし、割安購入オプションに該当する場合を除き、当該購入オプションの行使価格をリース料の現在価値の算定には含めないことが提案されている。これは、更新オプション等の会計処理((1)参照)とは異なる取扱いとなっている。
② 論点整理における方向性  現行のリース会計基準では、購入オプションについては、IASB及びFASBのEDの提案と同様、行使されるまで会計処理しないこととされている。しかしながら、リース契約に含まれる更新オプション等をリースに係る資産及び負債に含めて認識する提案を前提とすれば、これと整合するように購入オプションを取り扱うことが適切であるといえ、本論点整理では、この考え方を踏まえて検討を行っていくことが考えられるとしている。

2 変動リース料
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 リース契約には、固定のリース料だけでなく、指数やレート、原資産に係る借手の業績や使用量など、一定の指標に基づき変動するリース料が含まれている場合がある。例えば、店舗の賃貸借における売上高に応じた歩合賃料や自動車リースにおける走行距離に応じたリース料などが挙げられる。
 我が国のリース会計基準ではこのような変動リース料の取扱いは明示されていないが、IASB及びFASBのEDでは、発生時に会計処理するのではなく、リース取引開始日に予想変動リース料を期待値に基づき見積り、借手と貸手のリースに係る資産及び負債に含めて認識し、会計処理することが提案されている。ただし、貸手の場合、変動リース料を信頼性をもって測定できる場合にのみ認識することとされている。
(2)論点整理における方向性  このような変動リース料は、リース契約における借手にとっての義務であり、貸手にとっての権利と考えられ、固定か変動かにかかわらず、変動リース料をリース取引開始日に認識していく考え方は、基本的には適切であると考えられる。しかしながら、借手の業績や使用量に基づく場合など、借手自身の将来の行動に依存する変動リース料まで含めることは、借手の債務が過剰に計上される結果になる可能性もある。また、変動リース料を信頼性をもって測定することが困難な場合は、貸手だけでなく借手にとってもあり得る。加えて、その測定を常に期待値に基づき行うことが、すべての場合において望ましいとは必ずしも限らない。したがって、本論点整理では、変動リース料の認識に関しては、借手の将来の行動に依存しないものに限定することや測定の信頼性要件を借手側にも設ける必要性について、また、変動リース料の測定に関しては、期待値だけでなく最も可能性の高い金額を用いる手法の適用可能性について、検討していくことが考えられるとしている。

3 残価保証
(1)IASB及びFASBのEDの概要
 リース契約に残価保証が含まれている場合、IASB及びFASBのEDでは、借手による残価保証については、変動リース料と同様に、リース取引開始日に予想支払額を見積り、期待値に基づき算定した金額を借手と貸手のリースに係る資産及び負債として認識し会計処理することが提案されている。ただし、貸手の場合、残価保証による予想支払額を信頼性をもって測定できる場合にのみ認識することとされており、また、借手以外の第三者からの残価保証は、貸手のリースに係る資産及び負債としては認識せず、他の保証と同様に会計処理することとされている。
 現行のリース会計基準では、ファイナンス・リース取引の場合に、契約に基づく保証額をリース料総額に含めることとされており、その現在価値が借手の債務及び貸手の債権に含まれることとなる。
(2)論点整理における方向性  本論点整理では、残価保証は、リース料の後払い的な性格を有し、リース期間終了時の変動リース料に相当すると考えられることから、変動リース料の取扱いと整合的に会計処理するとするIASB及びFASBのEDの考え方は適当であるとしている。また、信頼性をもって測定できる場合にのみ認識を限定することや具体的な測定方法については、変動リース料と整合的な方法を採用することが考えられるとしている。さらに、借手以外の第三者からの残価保証の取扱いについて、様々な意見があることを踏まえ、貸手の収益認識との関連も踏まえ、その会計処理について検討していくことが考えられるとしている。

Ⅴ.表示及び注記事項(論点4)

1 IASB及びFASBのEDの概要
 リース取引に係る借手の財務諸表の表示について、IASB及びFASBのEDでは、使用権モデルを前提に、リース取引から生じる資産、負債及びキャッシュ・フローを他と区別して表示し、費用については区分表示又は注記による開示が提案されている。
 貸手については、履行義務アプローチと認識中止アプローチを使い分ける複合モデルを前提に、各アプローチにより発生した科目を他の科目と区別して表示することが提案されている。さらに、履行義務アプローチでは、貸借対照表上で、原資産、リース料受取債権、リース負債(履行義務)を他の資産とは区分して総額で表示し、その合計を正味リース資産(又は負債)として表示する結合表示と呼ばれる表示方法が提案されている。
 また、注記事項については、開示原則を定めたうえで、リースに関連する資産及び負債の期首・期末残高調整表や満期分析など、個別の開示項目が提案されている。

2 論点整理における方向性  本論点整理では、使用権モデルから生じる各科目について、区分表示だけでなく、注記として開示する方法も含め検討していくこと、また、貸手の履行義務アプローチにおける結合表示について、その方法や必要性を検討していくことが考えられるとしている。
 注記事項については、提案されている会計処理を前提とすれば、一定の合理性があると考えられるものの、個々の具体的な開示項目の取扱いについては引き続き検討を要するとしている。

Ⅵ.その他の論点(論点5)

1 IASB及びFASBのEDの概要
 セール・アンド・リースバック取引について、IASB及びFASBのEDでは、原資産の譲渡取引が、原資産の売買(Ⅱ3(2)参照)にあたる場合にのみ売却取引及びリース取引として会計処理し、それ以外は金融取引として会計処理することが提案されている。さらに、セール・アンド・リースバック取引は、他の一般的な取引にはない条件を有している可能性があることを踏まえ、リスク及び便益の移転を妨げる継続関与の例が詳細に示されている。
 また、転リースについて、中間の貸手(原リースの借手兼転リースの貸手)は、原リースと転リースを別個の取引とし、変動リース料等の測定の信頼性要件など、借手と貸手で異なる取扱いが必要となる規定も含め、原リースには借手の規定を、転リースには貸手の規定を用いて会計処理し、通常のリースとは区分して表示することが提案されている。

2 論点整理における方向性  本論点整理では、一般に、セール・アンド・リースバック取引は金融取引としての性格が強いと考えられ、売却取引として処理するために厳格な要件を求める方向性については適当と考えられるとしている。ただし、具体的にどのような要件を設けるかについては、IASB及びFASBの今後の検討状況も踏まえ、検討していく必要があるとしている。
 また、転リースについては、対称でない貸手と借手の取扱いも含めて会計処理することの適切性に加え、通常のリースと転リースの区分表示の必要性や、転リースに履行義務アプローチが適用される場合の貸借対照表における表示、損益計算書における相殺表示の方法など、引き続き検討を行っていくことが考えられるとしている。

脚注
1 本論点整理の原文は、企業会計基準委員会のウェブサイトから入手可能である(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/summary_issue/lease-ronten/)。
2 平成22年(2010年)12月20日付のIASB作業計画では、平成23年第2四半期中の最終基準化が予定されている。
3 本論点整理では、適用対象となる財務諸表について、連結財務諸表、個別財務諸表双方とするか、平成21年6月に公表された企業会計審議会の「我が国における国際会計基準の取扱いに関する意見書(中間報告)」(以下「中間報告」という。)に示されたいわゆる連結先行の考え方を採用するかについては議論していない。
4 原資産の帳簿価額20,000千円×(移転した部分に係る公正価値(リース料の現在価値)24,639千円÷原資産の公正価値26,000千円)。
5 収益認識EDでは、財又はサービスに対する支配を顧客が獲得したときに、財又はサービスは顧客に移転し、その時点で、企業によって識別された履行義務は充足され、収益が認識される、とされている。
6 FASBが提案するアプローチ。IASBは、認識中止アプローチを適用している貸手については、「区別できない」場合であっても、一定の方法により区分して会計処理することを提案しており、この点について両者の提案は異なっている。
7 ただし、我が国のリース会計基準とIASB及びFASBのEDでは、前提とする会計モデルが同一ではなく、例えば、前者の簡便的処理は、ファイナンス・リース取引に対するものといえるのに対し、後者はリース取引全般に対するものであるため、対象が異なる。
8 取引の性質や、リース料、リース期間などのリース取引固有の条件を考慮に入れた割引率とされ、例えば、借手の追加借入利子率、貸手の計算利子率、不動産利回りなどが該当し得るとされている。

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