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解説記事2011年03月28日 【上場制度解説】 マザーズの信頼性向上・活性化に向けた上場制度整備の概要と実務上の留意事項(2011年3月28日号・№396)

上場制度解説
マザーズの信頼性向上・活性化に向けた上場制度整備の概要と実務上の留意事項
 東京証券取引所上場部企画担当 池田直隆

Ⅰ.はじめに

 東京証券取引所(以下「東証」という)は、平成22年12月21日にマザーズの信頼性向上および活性化に向けた施策を公表し、幅広く投資者および市場関係者の意見を反映したものとするため、上場制度の改正を伴うもの(脚注1)について、平成23年1月31日までパブリック・コメント手続を行った。
 そこで寄せられた意見(脚注2)を踏まえ、有価証券上場規程等の一部改正(脚注3)を行い、平成23年3月31日から施行する。
 改正の概要および背景については、河瀬佳史「マザーズの信頼性向上・活性化に向けた施策の概要とその背景」(本誌387号28頁参照)で述べたとおりであるが、今回の改正は、財務諸表の信頼性向上のための対応や市場コンセプト明確化のための対応などにより、マザーズの信頼性向上を図ると同時に、市場コンセプトに即した上場審査手法の導入、上場審査プロセスの効率化などを行い、成長企業への早期の資金調達機会の提供という新興市場本来の機能を果たし、市場の活性化を図ることを目的としている。
 本稿では、その具体的な改正内容について解説する。なお、文中意見にわたる部分は筆者の私見であることをお断りしておく。

Ⅱ.マザーズの信頼性向上に向けた対応
 信頼性向上に向けた対応として、「財務諸表の信頼性向上のための対応」「市場コンセプト明確化のための対応」について上場制度の改正を行う。以下では、それぞれの改正内容について述べることとする。

1.財務諸表の信頼性向上のための対応  この改正は、最近において新規上場前から継続して財務諸表の虚偽記載を行っていた事例が複数生じたことを踏まえ、新規に上場しようとする会社については、上場会社と同等の品質管理がされた財務諸表監査を受ける必要があることを明示するとともに、日本公認会計士協会が実施している財務諸表監査の信頼性向上に向けた取組みを支援するものである。
 まず、マザーズに新規上場する会社については、日本公認会計士協会が一定の品質管理レベルにあると認めた監査事務所である上場会社監査事務所の監査を受けていることを、新規上場審査の基準として義務付け、本則市場に新規に上場しようとする会社についても同様とした(有価証券上場規程(以下「規程」という)212条6号の2、205条7号の2)。
 ここでは、東証が適当でないと認める監査事務所を除いているが、これは、ある上場会社について重大な財務諸表の虚偽記載等が発覚した場合であって、当該上場会社の監査を行っていた監査事務所による監査を受けた財務諸表等に依拠して、東証が上場審査を実施することが困難であるような場合を想定している。
 なお、これらの規定については、既に上場会社監査事務所以外の監査を受け上場準備を進めている企業に配慮し、マザーズ・本則市場それぞれについて適用までの経過期間を設けた。具体的には、施行日である平成23年3月31日以前から監査契約を締結し監査(脚注4)を実施している会社については、マザーズへの新規上場申請の場合は平成24年3月31日まで、本則市場への新規上場申請の場合は平成25年3月31日までに開始した事業年度まで適用しないこととしている(規程付則3項および4項)。
 次に、上場会社についても、これまで企業行動規範上の「望まれる事項」として上場会社監査事務所または準登録事務所の監査を受けることについて努力義務としていたものを、「遵守すべき事項」として義務化することとした(規程441条の3)。

2.市場コンセプト明確化のための対応  昨今の新興市場の低迷の一因として、上場時に期待されていた成長性が発揮されず、成長が停滞・鈍化した企業群が継続的に上場していることが、新興市場に対する投資者の信頼の低下を招き、投資者・成長企業双方にとって市場の魅力を低下させているという点が挙げられる。
 これを踏まえ、マザーズについても、「成長企業向け市場」という市場コンセプトを明確化するための対応を図ることとした(参照)。

(1)マザーズの上場廃止基準の見直し  まず、マザーズの上場廃止基準のうち、株主数、流通株式(流通株式数および流通株式時価総額)、時価総額の基準については、上場後10年を経過した日から本則市場と同じ水準を適用することとした(規程603条1項1号、2号および5号)。
 この改正は、所期の成長が実現された時点では、もはや緩和された基準を適用しないものとすることで、市場コンセプトの明確化を図る趣旨である。
 なお、上場後10年を経過した日において、いわゆる上場廃止基準の猶予期間(脚注5)入りしている場合は、当該猶予期間において回復すべき水準が本則市場と同水準となるため、注意が必要である。
(2)市場コンセプトへの適合性確認プロセスの新設  次に、マザーズ上場会社は、上場後10年を経過した場合に、マザーズへの上場を継続するか市場第二部に上場市場を変更するかを選択し、マザーズへの上場を継続した場合は、以後5年を経過するごとに同様の選択を行うこととした(規程316条1項)。
 具体的には、上場後10年(または以後5年)を経過した日の事業年度の末日から起算して3か月を経過した日の翌日から10日の間(休業日除く。たとえば、3月決算の会社であれば7月1日から営業日で10日以内)に、どちらの市場を選択するかについて記載した「上場市場の選択申請書」を東証に提出することになる(規程316条3項)。
 ① マザーズへの上場を継続する場合  マザーズへの上場を継続する上場会社は、マザーズの市場コンセプトである「成長企業向け市場」への適合性を確認するため、「高い成長可能性に関する説明書面」(以下「説明書面」という)を作成し、自社が依然として高い成長可能性を有していることを説明する必要がある。
 説明書面においては、対象となる事業内容やビジネスモデル、高い成長可能性を有すると判断する根拠、今後の事業方針や経営戦略、経営指標の推移等を記載する。また、その記載内容については、企業評価または株価の評価に係る専門的知識および経験を有する者(脚注6)が確認し、「高い成長可能性に関する確認書」(以下「確認書」という)を提出することが併せて必要となる(規程316条3項、有価証券上場規程施行規則(以下「規則」という)316条2項)。
 なお、上場後10年を経過したときに時価総額(脚注7)が40億円以上の場合は、説明書面や確認書の提出を不要としており(規程316条3項、規則316条3項)、上場後10年を経過して一定の市場評価が得られている上場会社に配慮している。
 ② 市場第二部へ上場市場を変更する場合  市場第二部へ上場市場を変更する上場会社については、マザーズへの上場を継続する会社と異なり、「上場市場の選択申請書」の提出以外に特に追加的な対応は不要である。
 また、最低限の上場適格性(本則市場の上場廃止基準)を充足していることなどを考慮し、市場第二部への市場変更に係る審査は実施しないこととした。
 市場第二部へ上場市場を変更する時期については、上場後10年(または以後5年)を経過した日の属する事業年度の末日の属する月の翌月から起算して5か月目の月の初日(たとえば、3月決算の会社であれば8月1日)となる(規程317条2項、規則317条)。
 ③ 留意点  「上場市場の選択申請書」の提出が求められる時点において、いわゆる上場廃止基準の猶予期間入りしている場合、東証の監理銘柄または整理銘柄に指定されている場合については、市場選択の時期を1年繰り下げることとなり(規則316条1項1号、2号および3号)、以後5年ごとの市場選択プロセスでも同様となる(たとえば、上場後11年目に市場選択を行いマザーズに継続して上場した会社は、上場後16年目に次の市場選択の機会が到来する)。
(3)経過期間等  これら(1)および(2)の規定については、制度変更に伴う影響の緩和等を考慮して、改正規則の施行日である平成23年3月31日から3年間の経過期間を設けており、平成26年3月31日から適用することとした。平成26年3月31日時点において、マザーズへの上場後10年を経過している上場会社については、平成26年3月31日に上場後10年を経過したものとみなし適用する(規程付則5項)。
 また、マザーズ上場後に新設合併、株式移転等を行い、新設会社がテクニカル上場を行った場合の「10年」など年数の計算については、このテクニカル上場に伴い上場廃止となった会社が上場した日から起算して計算することとしているので、注意が必要である(規程706条、規則718条)。

3.その他  信頼性向上に向けた対応としては、これらの改正に加え、主幹事証券会社から、公開指導や引受審査にあたって特に留意した事項について記載した書面の提出を求めることとした(規則219条1項3号c)。これは、東証の上場審査において論点となりうる点を早期に把握し、多角的な検討を加えることにより、審査の実効性向上を図ることを目的としたものである。
 また、制度要綱公表時においては、これらに加え、市場関係者間で新規上場申請者に関する情報連携を強化するための制度整備(脚注8)を予定していたが、パブリック・コメント手続において、これを制度化すると、かえって情報の連携が困難になるとの指摘があったため、制度化を見送ったうえで、別途、より柔軟かつ機動的な実効性の高い対応を実務的に構築することとした。

Ⅲ.マザーズの活性化に向けた対応
 活性化に向けた対応としては、「市場コンセプトに即した上場審査手法の導入」「上場審査プロセスの効率化のための対応」について上場制度の改正を行う。以下、その改正内容について解説する。

1.市場コンセプトに即した上場審査手法の導入  マザーズの上場審査項目である「事業計画の合理性」の審査については、相応に合理的な事業計画が策定されており、その事業計画を遂行するために必要な事業基盤が整備されていることを確認するものとした(規程214条1項4号、上場審査ガイドラインⅢ.5)。まず、この見直しの趣旨を説明する。
 マザーズには、新たな技術を用いた製品の本格的な市場化にリードタイムが発生する場合や、設備投資に伴う減価償却負担などから上場後も赤字が継続するようなビジネスモデルに対しても、早期の資金調達機会を提供する役割が期待されているが、最近では、創薬系バイオベンチャーを除き、こうしたビジネスモデルの企業の上場実績がほとんど存在しない。また、一過性の要因により一時的に業績が悪化すると、上場時期が後ろ倒しになる事例も複数あり、結果として、強い資金調達ニーズが存在する時期と上場が実現するタイミングとの間に乖離が生じているとの指摘がある。
 今回の改正は、そのような指摘を踏まえ、上場「直後」の経営成績がそれまでのトレンドと比較して右肩上がりとなっていることや、上場時点において黒字化していることなどは上場の要件としないことを明確化し、長期的な視点で事業計画の実現可能性を評価する方法へと実務を見直すものである。
 次に、見直し後の具体的な審査方法についてであるが、相応に合理的な事業計画が策定されているかどうかについては、申請会社の事業計画が、自社のビジネスモデルの特徴、事業展開に際して考慮すべき様々な要素を事業計画に齟齬なく反映させているかどうかを中心に確認することとなる。この場合、今までは足元の月次業績の予算と実績の差異を合理性判断の1つの材料としていたが、今後はそのような取扱いは行わないこととしている(一方で、予実差異を適切に把握し、適時に必要な見直し・公表(業績予想の修正)が行えるか否かという観点からは確認を行う)。
 また、その事業計画を遂行するための事業基盤の整備状況の確認については、事業計画の遂行にあたって当面必要となる、人材・設備・資金などの各種経営資源等について、審査時点の状況または上場後の見込みから、整備されていると認められるかどうかについて確認することとなる。なお、事業の拡大に際して既存の設備だけでは不足する場合において、上場時に調達する資金を用いて設備投資を行う具体的な計画があるときや、事業拡大期で人員拡充が欠かせない場合において、事業の拡大ペースに応じた採用を見込んでいるときなどについては、上場後において事業基盤が整備される合理的な見込みがあるものとして取り扱うことができる場合がある。
 なお、本稿では、紙幅の関係から概要の説明にとどめざるを得ないが、今後東証が発刊している「マザーズ上場の手引き」において、より具体的な審査のポイントを解説していく予定であるので、そちらも参照していただきたい(脚注9)。

2.上場審査プロセス効率化のための対応  長期化している上場準備期間や上場審査プロセスの不透明性などが、株式公開の意欲を減退させ、わが国におけるIPOの減少要因の1つとなっているとの指摘を踏まえ、主幹事証券会社の引受審査と東証の上場審査の期間の効率化を図り、上場に至るまでの期間を全体として短縮するとともに、上場時期の予見可能性を含めて上場審査プロセスの透明性の向上を図るための改正を行うものである。
(1)「推薦書」の提出時期の見直し  まず、マザーズへの新規上場申請時に主幹事証券会社に作成を求めている「推薦書」の提出期限を、東証が上場承認する日の数日前(新規上場申請を受理した段階で東証から伝達する)までに変更することとし(規程211条2項、規則219条3項)、本則市場についても同様とした(規程204条2項、規則204条4項)。
 これは、引受審査と上場審査を一部並行して実施できるようにすることで、上場までの期間短縮を図ることを目的とするものである。
 なお、従来「推薦書」の記載内容として主幹事証券会社に求めていた、新規上場申請会社の法令違反の状況および反社会的勢力との関係に係る確認については、従来どおり新規上場申請時までに実施してもらう必要があるため、別途その内容を記載した「確認書」を新規上場申請時に提出することが必要となる(規則219条1項3号b)。これについても、本則市場も同様としている(規則204条1項7号b)。
(2)標準上場審査期間の設定  次に、マザーズの新規上場審査については、新規上場申請を受けてから承認までの期間を、原則2か月とすることとした(規程214条3項、規則228条の2)。
 これは、新規上場申請会社における上場時期の予見可能性を高める趣旨であり、東証においても、従来平均して約3か月弱を要していた上場審査期間を踏まえ、上場審査プロセスの見直しを実施した。実際の上場審査では、主幹事証券会社等とも調整したうえで、新規上場申請時に、この標準上場審査期間を前提とするスケジュールを新規上場申請会社に対して提示する。

Ⅳ.その他の施策
 以上、今回のマザーズの信頼性向上および活性化に向けた施策のうち、上場制度の改正を伴うものについて述べたが、併せて、制度改正を伴わない見直しも複数実施する予定である。
 にて今回の施策の全体像をまとめているので、前掲・河瀬解説とともに参考とされたい。


Ⅴ.おわりに
 以上が改正の概要であるが、今回の制度改正や実務的な取扱いを決めるにあたっては、複数の市場関係者の方々から貴重なご意見をいただいた。この場を借りて厚く御礼を申し上げたい。
 今後、これらの改正を踏まえ、新たなマザーズをスタートさせることになるが、東証としては、市場の信頼性向上および活性化を実現するため、マザーズが成長企業に対する早期の資金調達機会の提供を通じた新規産業の育成という当初の目的に立ち返り、新しい市場を一から創設するつもりで、適切な市場運営に努めて参りたいと考えている。
 また、今回の改正がゴールであるとは考えておらず、さらなる市場の魅力向上のために追加的な制度の見直しの必要が生じた場合には、適時適切に対応していくことが大切であると考えている。
 IPOに関する市場関係者、上場会社や新規上場予定会社、さらには投資者の皆様におかれても、マザーズの魅力向上のために、引き続きご協力いただければ幸いである。

脚注
1 制度要綱については、東証のHP(http://www.tse.or.jp/rules/comment/101221-jojo.pdf)を参照。
2 詳細は、東証のHP(http://www.tse.or.jp/rules/comment/101221-jojo_5.pdf)を参照。
3 改正規則については、新旧対照表を東証のHP(http://www.tse.or.jp/rules/regulations/110228a2.pdf)に掲載している。
4 金融商品取引法193条の2の規定に準ずる監査をいう。
5 たとえば株主数の上場廃止基準は、事業年度の末日で一定の基準を満たさない場合であって、1年以内にその基準とならないときと規定しているが、ここでいう「猶予期間」とは、その回復すべき1年間を指す。他の上場廃止基準についても同じ。
6 証券会社、監査法人、M&Aアドバイザー、銀行、シンクタンクなどを想定。制度要綱公表時には、証券会社のみを想定していたが、パブリック・コメントに寄せられた意見を踏まえ、提出主体を見直している。
7 上場後10年を経過した日の属する事業年度の末日の属する月の、月末または月間平均時価総額。
8 詳細は、制度要綱1.の「(2) 上場審査の実効性向上のための市場関係者との連携の強化」を参照。
9 「マザーズ上場の手引き」は、東証のHP(http://www.tse.or.jp/listing/b_listing/guide/mothers.html)に掲載している。

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