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解説記事2011年05月16日 【法令解説】 過年度遡及処理に関する会社計算規則の改正の要点(2011年5月16日号・№402)

法令解説
過年度遡及処理に関する会社計算規則の改正の要点
 法務省民事局付 髙木弘明
 法務省民事局付 新井吐夢

Ⅰ はじめに

 平成23年3月31日、「会社計算規則の一部を改正する省令」(平成23年法務省令第6号。以下「本改正省令」という)が公布、同日施行された。
 本改正省令は、企業会計基準委員会(ASBJ)が平成21年12月4日に公表した「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」(企業会計基準第24号。以下「過年度遡及会計基準」という)および「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第24号。以下「過年度遡及会計基準適用指針」という)に対応するため、会社計算規則につき、株主資本等変動計算書および注記表の整備を中心に、所要の改正をしたものである。
 以下、本改正省令による改正前の会社計算規則を「旧会社計算規則」といい、改正後の会社計算規則については「新会社計算規則」という。

Ⅱ 会社法における過年度遡及処理
 過年度遡及会計基準では、会計方針の変更に係る遡及適用をする場合の処理として、表示期間(当期の財務諸表およびこれに併せて過去の財務諸表が表示されている場合の、その表示期間)より前の期間に関する遡及適用による累積的影響額は、表示する財務諸表のうち最も古い期間の期首の資産、負債および純資産の額に反映することとされ(過年度遡及会計基準第7項(1))、表示する過去の各期間の財務諸表には、当該各期間の影響額を反映することとされている(同項(2))。また、過去の誤謬に関する処理についても、同様の取扱いが定められている(過年度遡及会計基準第21項)。
 これらの取扱いを会社法上の規律に引き直すと、会社法における計算書類の開示制度は、当期の計算書類の開示のみを求めているから(いわゆる「単年度開示」)、会社法上の計算書類に関して「表示する財務諸表のうち、最も古い期間」は当期となるので、遡及処理による累積的影響額は、当期の期首の資産、負債および純資産の額に反映することとなる。本改正省令は、このような会計処理をすることを前提に規定の整備を行っている。
 他方、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)上の財務諸表については、財務諸表等の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和38年大蔵省令第59号。以下「財務諸表等規則」という)ならびに連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(昭和51年大蔵省令第28号。以下「連結財務諸表規則」という)が、「比較情報」(当事業年度に係る財務諸表(附属明細表を除く)に記載された事項に対応する前事業年度に係る事項をいい、当事業年度に係る財務諸表の一部を構成する。財務諸表等規則6条、連結財務諸表規則8条の3参照)という概念を導入したうえで、遡及処理による累積的影響額を前期の期首の資産、負債および純資産の額に反映することを前提とした規律を設けている。
 したがって、会社計算規則の前提とする遡及処理は、財務諸表等規則・連結財務諸表規則の前提とする遡及処理と、累積的影響額を反映させる時点について異なっている点に注意が必要である(図1・図2参照)。

 なお、会社が、当期の計算書類に加えて参考情報として前期の計算書類に係る事項を開示する場合であっても(会社計算規則133条3項参照)、開示された前期の計算書類に係る事項は当期の計算書類を構成するものではないので、当期の監査対象となることはない。

Ⅲ 過年度遡及会計基準関係の改正

1.定義
(新会社計算規則2条3項関係)
 本改正省令は、本項に所要の定義規定を追加している。各規定は、過年度遡及会計基準における各用語と実質的に同じ意義を定めている。
 なお、「誤謬の訂正」(新会社計算規則2条3項64号)は、過年度遡及会計基準における「修正再表示」に対応する概念であり、一般的意義としての「誤謬を訂正すること」とは異なる。

2.株主資本等変動計算書等(新会社計算規則96条関係)
 本条7項および8項では、企業会計基準委員会が過年度遡及会計基準の公表に伴って改正した「株主資本等変動計算書に関する会計基準」(企業会計基準第6号)に対応して、株主資本等変動計算書において表示すべき事項を「前期末残高」から「当期首残高」に改めるとともに、遡及適用または誤謬の訂正をした場合には当期首残高およびこれに対する影響額を明示するよう求めることとしている(脚注1)。
 過年度遡及会計基準以外の会計慣行が遡及処理(遡及適用または誤謬の訂正)を求めていない等の理由により遡及処理をしていない場合には、当期首残高に対する影響額を明らかにする必要はない(そもそも、前期末残高と当期首残高の数値は一致するはずである)。

3.注記表の区分(新会社計算規則98条関係)
 本条1項は、注記表(個別注記表および連結注記表。会社計算規則97条)に表示すべき注記項目の区分を規定している。本改正省令は、過年度遡及会計基準に対応して、所要の注記項目を追加している。
 本条2項は、会計監査人設置会社でない会社につき、公開会社(会社法2条5号)かどうか等の区分に応じて、一定の注記項目の省略を認めている。

4.重要な会計方針に係る事項に関する注記(新会社計算規則101条関係)
 旧会社計算規則101条1項は、「会計方針」を「計算書類の作成のために採用している会計処理の原則及び手続並びに表示方法その他計算書類作成のための基本となる事項」と定義していた。
 しかし、過年度遡及会計基準では、「会計方針」および「表示方法」を別概念として整理し、それぞれの変更について別個に注記事項を定めている。
 これに対応して、新会社計算規則では、それぞれの場合について「会計方針の変更に関する注記」または「表示方法の変更に関する注記」として別個に注記事項を定め(新会社計算規則102条の2、102条の3)、旧会社計算規則101条2項を削っている。

5.連結計算書類の作成のための基本となる重要な事項に関する注記等(新会社計算規則102条関係)
 旧会社計算規則102条2項は、「連結計算書類作成のための基本となる重要な事項に関する注記」として、連結の範囲または持分法の適用の範囲を変更した場合(1号)、会計処理の原則および手続を変更した場合(2号)ならびに表示方法を変更した場合(3号)における注記事項を定めていた。
 これらのうち、会計処理の原則および手続の変更(新会社計算規則では「会計方針の変更」として整理している)ならびに表示方法の変更については、新会社計算規則が別個に注記事項を定めていることから(新会社計算規則102条の2、102条の3)、本改正省令はこれらに関する部分を削除している。
 そして、残る連結の範囲または持分法の適用の範囲の変更(これが会計方針の変更に該当しないことにつき、過年度遡及会計基準適用指針第8項(3)参照)についてのみ、本条2項において注記事項を規定している。

6.会計方針の変更に関する注記(新会社計算規則102条の2関係)
 本条は、本改正省令により新たに設けられた「会計方針の変更に関する注記」の注記事項を定めている。
 会計上の変更(会計方針の変更、表示方法の変更および会計上の見積りの変更)をする際に新会社計算規則において求められる注記事項については、次頁を参照されたい。

(1)本条1項  本項1号は、過年度遡及会計基準第10項(2)および第11項(1)に対応するものである。
 本項2号の「当該会計方針の変更の理由」は、①会計基準等の改正等(会計基準等の改正および廃止ならびに新たな会計基準等の作成。財務諸表等規則8条の3第1項柱書参照)に伴う会計方針の変更をした場合における「会計基準等の名称」(過年度遡及会計基準第10項(1))および②それ以外の正当な理由による会計方針の変更をした場合の「会計方針の変更を行った正当な理由」(過年度遡及会計基準第11項(2))の両方を含んでいる。
 本項3号は、「遡及適用をした場合」における「当該事業年度の期首における純資産額に対する影響額」を掲げている。過年度遡及会計基準は、「表示されている財務諸表のうち、最も古い期間の期首の純資産の額に反映された、表示期間より前の期間に関する会計方針の変更による遡及適用の累積的影響額」の注記を求めているところ(過年度遡及会計基準第10項(6)、第11項(4))、本号はそれに対応するものである。
 本項3号による注記が求められるのは、「遡及適用をした場合」であるが、これには過去の事業年度の全部について遡及適用をした場合と過去の事業年度の一部のみについて遡及適用をした場合(ただし、実務上このような会計処理をするケースは少ないと思われる)の両方を含む。
 本項4号は、過去の事業年度の「全部又は一部について遡及適用をしなかった場合」における注記事項を掲げている。「遡及適用をしなかった場合」には、①会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更であって、経過的な取扱い(適用開始時に遡及適用を行わないことを定めた取扱い等。過年度遡及会計基準第6項(1)参照)に従い、過去の事業年度の全部または一部につき遡及適用をしなかった場合、②遡及適用の原則的な取扱いが実務上不可能な場合(過年度遡及会計基準第8項、第9項参照)、③当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合(本項4号柱書かっこ書)等が含まれる。
 ただし、会計監査人設置会社以外の株式会社および持分会社にあっては、計算書類または連結計算書類の主な項目に対する影響額(本項4号イ)を除き、注記を省略することができる(本項柱書ただし書)。
 本項4号柱書かっこ書は、「当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難なとき」について、他の会計方針の変更の場合とは異なる取扱いを定めている。過年度遡及会計基準は、会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合の取扱いについて、独立の項目を設けて規定しているが(過年度遡及会計基準第19項、第20項参照)、概念としては会計方針の変更として整理していることから、新会社計算規則では、本条において他の会計方針の変更と一括して規定しているものである。
 本項4号イに掲げる事項は、旧会社計算規則101条2項1号および102条2項2号に掲げていた「当該変更が(連結)計算書類に与えている影響の内容」と実質的に同内容である(脚注2)。
 本項4号ロに掲げる事項は、過年度遡及会計基準第10項(3)および(7)ならびに第11項(5)に対応するものである。会計基準等の改正等に伴う会計方針の変更をした場合において、経過的な取扱いに従ったときは、本項4号ロに掲げる事項として、経過的な取扱いに従った旨および経過的な取扱いの概要を記載することとなる。
 本項4号ハに掲げる事項は、過年度遡及会計基準第10項(4)および第19項が準用する第18項(2)に対応するものである。どのような場合に「当該影響に関する事項を注記することが適切である」かは、過年度遡及会計基準その他の一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行により定まるが、たとえば、①会計基準等の改正による会計方針の変更をした場合で、経過的な取扱いに従ったときおよび②当該会計方針の変更を会計上の見積りの変更と区別することが困難な場合であって、当該会計方針の変更が将来に影響を及ぼす可能性があるときが挙げられる(脚注3)。
(2)本条2項  本項は、過年度遡及会計基準第10項柱書後段および第11項柱書後段に対応して、個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合に、個別注記表にその旨を注記したときに個別計算書類の注記の省略を認めている。
 会計方針の変更の内容・理由(同項1号、2号)および計算書類の主な項目に対する影響額(同項4号イ)については、注記を省略することはできない(脚注4)。

7.表示方法の変更に関する注記(新会社計算規則102条の3関係)
 旧会社計算規則101条2項2号および102条2項3号は、表示方法の変更の内容のみを注記事項としていたが、本改正省令は、過年度遡及会計基準に対応して表示方法の変更の理由を追加している。
 本条2項は、過年度遡及会計基準第16項柱書ただし書に対応して、個別注記表に注記すべき事項が連結注記表に注記すべき事項と同一である場合に、個別注記表にその旨を注記したときに個別計算書類の注記の省略を認めている。新会社計算規則102条の2第2項と同様の趣旨である。

8.会計上の見積りの変更に関する注記(新会社計算規則102条の4関係)
 本条は、本改正省令により新たに設けられた「会計上の見積りの変更に関する注記」の注記事項を定めている。過年度遡及会計基準第18項に対応するものである(脚注5)。

9.誤謬の訂正に関する注記(新会社計算規則102条の5関係)
 本条による注記が求められるのは、「誤謬の訂正をした場合」であるが、「誤謬の訂正」は新会社計算規則2条3項64項に定義しているとおり、「当該事業年度より前の事業年度に係る計算書類又は連結計算書類における誤謬を訂正したと仮定して計算書類又は連結計算書類を作成すること」をいうから、過去の誤謬について遡及処理をしていない場合には、本条による注記は不要である。過去の誤謬について遡及処理をすべきかどうかは、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行により定まる。
 なお、誤謬の訂正は、確定済みの過年度の計算関係書類自体を修正したり、手続または内容の誤りのために未確定となっている過年度の計算関係書類を確定させたりするような効果を持つものではないので、本条の規定は、過年度の計算関係書類の確定または未確定とは無関係のものである(脚注6)。

10.監査報告および会計監査報告の内容(新会社計算規則122条2項・126条2項関係)
 本改正省令は、新会社計算規則102条の2が「会計方針の変更」を「一般に公正妥当と認められる会計方針を他の一般に公正妥当と認められる会計方針に変更した場合」と整理し、変更に正当な理由があることを「会計方針の変更」の1要素と捉えていることを踏まえ、会計監査報告および監査役の監査報告の記載事項に関する旧会社計算規則122条2項1号および126条2項2号から「正当な理由」を削除している(脚注7)。

11.旧会社計算規則126条3項の削除  旧会社計算規則126条3項は、当該事業年度に係る計算書類が修正された過年度事項を前提に作成されている場合に、会計監査人が当該修正に係る事項も監査しなければならない旨を規定していた。
 しかし、新会社計算規則では、96条7項1号において、遡及適用または誤謬の訂正をした場合の当期首残高に対する影響額が当事業年度における計算書類の一部であることが明確となるなど、旧会社計算規則126条3項と同じ趣旨が他の規定により明確とされていることから、本改正省令は同項を削除している。

12.過年度遡及会計基準関係の経過措置  本改正省令は、上記111の過年度遡及会計基準に対応した改正規定につき、平成23年4月1日以後開始する事業年度に係る計算書類および連結計算書類ならびにこれらについての監査報告および会計監査報告について適用することとし、同日前に開始する事業年度に係るものについては、なお従前の例とする旨の経過規定を設けている。

Ⅳ その他の改正

1.満期保有目的の債券
(新会社計算規則2条3項27号関係)
 旧会社計算規則2条3項27号は、「満期保有目的の債券」の定義について、企業会計基準委員会が金融危機等を背景に一時的な対応策として公表した実務対応報告「債券の保有目的区分の変更に関する当面の取扱い」に対応して、平成21年法務省令第7号によりその意義を拡張していた。
 しかし、同実務対応報告が平成22年3月31日に廃止されたことから、新会社計算規則の本号の定義は、平成21年法務省令第7号による改正前のものと同一のものとしている。
 本号関係の改正については、同実務対応報告が効力を有していた平成20年12月5日から平成22年3月31日までの間に保有目的を売買目的有価証券等から満期保有目的の債券に変更した場合における当該満期保有目的の債券についての会社計算規則5条6項(2号に係る部分に限る)の適用につき、なお従前の例による旨の経過規定を設けている。

2.1株当たり情報に関する注記(新会社計算規則113条関係)
 企業会計基準委員会が平成22年6月30日に改正を公表した「1株当たり当期純利益に関する会計基準」(企業会計基準第2号)は、事業年度中または事業年度の末日後に株式の併合または株式の分割をした場合の取扱いおよび注記事項(同会計基準第30-2項参照)を新設している。
 本条3号は、これに対応し、当期の期首に株式の併合または株式の分割をしたと仮定して1株当たりの純資産額および1株当たりの当期純利益金額・当期純損失金額を算定したときにおける注記事項を定めている。
 1株当たりの純資産額および1株当たりの当期純利益金額・当期純損失金額を算定するにあたって当期の期首に株式の併合または株式の分割をしたと仮定すべきかどうかは、一般に公正妥当と認められる企業会計の慣行により定まる。企業会計の慣行が求めていない等の理由によりそのような仮定をしない場合は、本条3号に掲げる事項を注記する必要はない。
 同会計基準の改正に係る適用時期は、過年度遡及会計基準の適用時期と同じであるため、本号関係の改正については、過年度遡及会計基準に対応した規定に関するものと同様の経過措置を設けている。

脚注
1 遡及適用または誤謬の訂正をした場合に、遡及適用または誤謬の訂正前の当期首残高および遡及適用または誤謬の訂正後の当期首残高の両方を、影響額とともに記載することは、もちろん妨げられない。
2 過去の事業年度のすべてに新たな会計方針を遡及適用した場合の累積的影響額を算定することが実務上不可能な場合には、計算書類または連結計算書類の主な項目に対する実務上算定可能な影響額を記載することとなる。
3 当該事業年度の翌事業年度以降の財産または損益に影響を及ぼす可能性があるが、その影響額を合理的に見積もることが困難である場合には、その旨を記載すれば足りると考えられる(過年度遡及会計基準第18項(2)参照)。
4 新会社計算規則のもと、計算書類において省略することができない注記事項は、旧会社計算規則101条2項が注記を求めていた事項と合致していることとなる。
5 新会社計算規則102条の2第1項4号ハに掲げる注記と同様、当該事業年度の翌事業年度以降の財産または損益に影響を及ぼす可能性があるが、その影響額を合理的に見積もることが困難である場合には、その旨を記載すれば足りると考えられる(前掲・脚注3参照)。
6 郡谷大輔=和久友子編著『会社法の計算詳解〔第二版〕』(中央経済社、2008年)104頁、小松岳志ほか「会社法における過年度事項の修正に関する若干の整理」商事法務1866号21頁参照。
7 財務諸表等の監査証明に関する内閣府令(昭和32年大蔵省令第12号)4条6項参照。

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