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解説記事2012年02月13日 【税制改正解説】 平成23年度改正による外国税額控除制度(2012年2月13日号・№438)

税制改正解説
平成23年度改正による外国税額控除制度
 税理士・日本税制研究所 主任研究員 郭 曙光

Ⅰ 平成23年度税制改正の流れと外国税額控除制度の見直し

 いわゆるねじれ国会と東日本大震災の影響で異例の展開となった平成23年度の税制改正の改正法案は、2つに分離された。
 平成23年6月30日に、「現下の厳しい経済状況及び雇用情勢に対応して税制の整備を図るための所得税法等の一部を改正する法律」及びその改正法令が公布され、その後、平成23年12月2日に、積み残し部分の「経済社会の構造の変化に対応した税制の構築を図るための所得税法等の一部を改正する法律」及びその改正法令が公布された。
 外国税額控除制度については、平成23年6月改正で、外国法人税の定義の明確化と条約相手国等における課税に係る二重課税排除のための改正が行われ、平成23年12月改正で、控除対象外国法人税の範囲及び外国税額控除の控除限度額の計算に用いられる国外所得金額の計算方法の見直し等が行われた。
 本稿においては、これらの外国税額控除制度の改正による影響について説明する。
 なお、居住者及び連結法人ついても同様の改正が行われているが、以下では内国法人に係る改正について述べることとする。

Ⅱ 平成23年度改正前の外国税額控除制度の概要
 我が国の法人税制においては、国内所得か国外所得かを問わず、内国法人に対して全世界所得を課税標準として法人税を課税することとされている。国外所得に対して、外国法令により外国法人税が課された場合、同一の所得に対して我が国と外国とで二重に課税されることになる。
 そこで、このような国際的二重課税を排除するため、我が国の法人税法において、外国で納付した外国法人税額を我が国法人税額から差し引くことができる制度として「外国税額控除制度」が設けられている。
 ただし、外国で納付した外国法人税額のうち、我が国の実効税率を超える「所得に対する負担が高率な部分の金額」については、この制度の適用対象から除外されている。
 また、外国税額控除制度には「控除限度額」が設けられ、この「控除限度額」の範囲内の金額しか控除できないこととされている(法法69①)。
 すなわち、その外国法人税を納付した事業年度において、下記1と2のいずれか小さい金額が我が国の法人税額から控除できるとされている。


1 外国法人税の定義  外国税額控除制度における「外国法人税」は、外国の法令に基づき外国又はその地方公共団体により法人の所得を課税標準として課される税で日本の法人税に相当するものとされている(法法69①括弧書き、法令141①)。
 ただし、内国法人が外国で納付したすべての税を「外国法人税」とするのではなく、納付後任意に還付請求できるような税や任意に納税猶予期間を定めることができる税など外国法人税として不適当と考えられるものは、「外国法人税」に含めないこととされている(法令141③)。

2 控除対象外国法人税の額  上記1の「外国法人税」に該当することになっても、その全額をそのまま日本法人税額から控除するのではなく、一定の制限が設けられている。
 実質的に国際的二重課税が生じていないとの観点から、外国で納付した外国法人税額のうち、「所得に対する負担が高率な部分として一定の外国法人税の額」は、外国税額控除制度の適用対象から除かれている(法法69①、旧法令142の3①)。すなわち、我が国法人税額から控除できる外国法人税額は、納付することとなる外国法人税額からその高率負担部分の金額を差し引いた金額であり、これを「控除対象外国法人税の額」という。

3 控除限度額  上記2で計算された「控除対象外国法人税の額」は、一定の「控除限度額」の範囲内でしか控除できないこととされている。
 この控除限度額は、内国法人の各事業年度の所得に対する法人税の額に、当該事業年度の所得金額のうちに当該事業年度の国外所得金額の占める割合を乗じて計算した金額とされている(法法69①、法令142①)。

4 国外所得金額  外国税額控除制度の控除限度額の計算基礎となる「国外所得金額」とは、内国法人の各事業年度において生じた国内源泉所得以外の所得(以下「国外源泉所得」という。)に係る所得のみについて、各事業年度の所得に対する法人税を課するものとした場合に、課税標準となるべき当該事業年度の所得の金額に相当する金額をいう。
 この国外所得金額は、我が国の法人税法等の法令の規定を適用して計算した所得金額が基本となるが、外国法人税が課されない国外源泉所得(以下「非課税国外所得」という。)がある場合は、その非課税国外所得の金額の3分の2に相当する金額を控除することとなる。
 また、「国外所得金額」については、いわゆるシーリング条項が設けられており、90%シーリング(当該事業年度の所得金額×90%)と国外使用人割合によるシーリング(当該事業年度の所得金額×国外使用人割合)のいずれか多い金額がその限度額とされている(法令142③)。
 さらに、この90%シーリングについては、控除対象外国法人税額等が当該事業年度の所得金額の50%に相当する金額を超える場合は、一定の算式による特例が設けられている(旧法令142の2)(下記参照)。


5 申告要件等  我が国の外国税額控除制度は、確定申告書に控除を受けるべき金額及びその計算に関する明細の記載並びに所定の書類の添付があり、かつ、控除対象外国法人税の額を課されたことを証する書類等を保存している場合に限り、適用される。そして、控除できる金額は、この確定申告書に記載された金額が限度とされている(旧法法69⑩)。

Ⅲ 平成23年6月改正

1 外国法人税の定義の明確化
 ガーンジー島において納税者が支払った税は、外国法人税に該当することを否定することはできないという最高裁判所の判決(注)(平成21年12月3日)を踏まえ、複数の税率の中から納税者と外国当局との合意により税率が決定された税のうち、最も低い税率(その最も低い税率がその合意がないものとした場合に適用されるべき税率を上回る場合には、その適用されるべき税率となる。)を上回る部分は、外国法人税に含めないこととされた(法令141③三)。
 この改正は、内国法人が平成23年6月30日以後に納付することとなる外国法人税について適用される(改正法令附則15)。


2 国外所得の範囲の見直し  今回の平成23年6月改正前においては、租税条約により相手国で課税をされた所得が我が国の税制上の国内源泉所得とされる場合、租税条約に「源泉地の読み替規定」がなければ、国外所得がない状態となり、結果的に外国税額控除を受けられず、同じ所得に対して我が国とその相手国の双方で課税されて国際的二重課税が生じていた。
 このような国際的二重課税を排除するために、改正が行われたわけであるが、改正により、国外所得の範囲について、租税条約の規定により相手国等において租税を課することができることとされる所得(その租税条約の規定において控除限度額の計算に当たって考慮しないものとされるものを除く。)でその相手国等において外国法人税が課されるものについては、国外源泉所得に該当することとされた(法令142④三)。
 ただし、この改正は、外国で課税されたものをすべて国外所得にするという改正ではないことに注意する必要がある。
 『平成23年度税制改正の解説』においては、「租税条約の規定において条約相手国等に課税を認めることについて言及されていない所得については本規定の対象外となります。」(500頁)と解説している。
 ところで、この改正に関しては、租税条約で相手国に課税権を認めている所得が我が国においても所得となるものであるのか否かということは問われていないため、二重課税がないにもかかわらず、外国税額控除が行われるという状態が生ずることもあるわけであるが、これに関しては、制度上の割切りと捉えてよいものと考える。
 この改正は、内国法人の平成23年4月1日以後に開始する事業年度の所得に対する法人税について適用される(改正法令附則2)。

Ⅳ 平成23年12月改正

1 高率負担部分の引下げ
 上記2で述べたとおり、「所得に対する負担が高率な部分として一定の外国法人税の額」は、控除対象外国法人税額とはならない(法法69①)。
 この「所得に対する負担が高率な部分として一定の外国法人税の額」とは、従来、内国法人が納付することとなる外国法人税の額のうち、その外国法人税を課する国又は地域においてその外国法人税の課税標準とされる金額に50%を乗じて計算した金額を超える部分の金額とされていた(旧法令142の3①)。
 この取扱いは、低税率国の控除枠を流用して高税率国の外国法人税が控除できる問題に対処するために、昭和63年度税制改正で、当時の我が国の法人実効税率50%をメルクマールとして定められたものだが、近年の我が国の法人実効税率の引下げに伴い、実質的に二重課税が生じていない税額まで控除できるという彼此(ひし)流用問題が再び注目を集めていた。
 そのような中で、平成23年12月改正において、法人税の税率の引下げの改正が行われ、地方税を含めた我が国の法人実効税率は従来の約40%から約35%となった(東京都の場合は40.69%から35.64%へ)。
 このため、法人実効税率の引下げに併せて、外国税額控除制度における高率な外国法人税の水準も従来の50%から、改正後の実効税率と概ね同水準となるように、35%まで引き下げられた(法令142の2①)(参照)。

 旧基準の50%と違い、新基準の35%を超える税率が適用される外国法人税は多数存在するため、実務上、注意が必要である。
 この改正は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度において納付することとなる外国法人税について適用される(改正法令附則10)。
 内国法人が納付することとなる外国法人税の額のうちに、高率負担部分があるかどうかは、一の外国法人税ごとに、かつ、その外国法人税の課税標準とされる金額ごとに判定することとされている(法基通16-3-22)。
 なお、高率負担部分に該当するとされる部分の金額は、外国税額控除制度の適用対象とはならないが、損金の額に算入することができる。

2 国外所得金額の計算の見直し  上記で述べたように、法人税額から控除できる外国法人税額は、控除対象外国法人税額と「控除限度額」とのいずれか小さい金額となるが、この「控除限度額」の計算基礎となる国外所得金額の計算については、次の2つの改正が行われた。
(1)非課税国外所得の全額除外  我が国の外国税額控除制度における「控除限度額」は、国や所得を区分せず、すべての国外所得及び外国法人税額を一括通算して計算されるため、外国法人税が課されない非課税国外所得を国外所得から除かないと、これによって作られる控除枠の流用問題が生じることになる。
 国際的二重課税の排除を目的とする我が国の外国税額控除制度においては、理論的には、非課税国外所得の全額を国外所得から除外するのが合理的であるということになるが、低率で課税される国外源泉所得とのバランスを考え、従来は、非課税国外所得の3分の2に相当する金額を除外することとされていた。
 しかし、このような仕組とする限り、国外所得に含まれる非課税国外所得の3分の1に相当する金額の控除枠を利用して、外国で高率課税された外国法人税が我が国の法人税額から控除されてしまうという控除枠の流用の問題が残る状態となっていた。
 このような流用の問題はなくなるように、平成23年12月改正では、外国税額控除制度の適正化の観点から、非課税国外所得の全額を国外所得の金額から除くこととされた(法令142③)。
 この改正は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用するとされている(改正法令附則2)。
 ただし、平成24年4月1日から平成26年3月31日までの間に開始する各事業年度については、経過措置として、全額ではなく、非課税国外所得の金額の6分の5に相当する金額を国外所得の金額から除くこととされている(改正法令附則9)。
(2)90%制限の特例措置の廃止等  国外所得の金額は、従来、各事業年度の所得金額に90%又は国外使用人割合を乗じて計算した金額のいずれか多い金額をその限度額とすることとされていた(旧142③)。
 これは、事業活動の全部を国外で行っている場合でも、我が国にある本社は何らかの貢献をしているということで、所得の最低でも10%は我が国に配分するべきであるという考え方によるものである。また、使用人のうち国外使用人の割合が90%超で、国外における事業活動のウエイトが高いことが明らかな場合は、90%に代えて、この国外使用人割合を使うことも認めていた。
 さらに、この90%制限については、控除対象外国法人税額等が当事業年度の所得金額の50%に相当する金額を超えるような外国の税負担が極めて高い場合には、特例措置として、一定の算式によって計算した金額を用いることもできるようにされていた(旧法令142の2)。
 平成23年12月改正では、この国外使用人割合による計算と90%制限の特例措置が廃止された(法令142③・旧法令142の2削除)。これにより、少なくとも所得の10%については、我が国での納税が確保されることになる。
 この改正は、平成24年4月1日以後に開始する事業年度分の法人税について適用される(改正法令附則2)。

3 当初申告要件と当初記載額制限の廃止  外国税額控除制度については、従来、当初の確定申告書に適用金額を記載しなければ適用できないという「当初申告要件」が設けられていたが、これが平成23年12月改正によって廃止された。修正申告書又は更正請求書に適用金額を記載することによる事後的な適用も可能になった。
 また、控除できる金額が当初の確定申告書に記載された金額を限度とする従来の「記載額制限」も廃止され、当初記載された金額を上回る減額更正も可能となった(法法69⑩)。
 この改正は、平成23年12月2日以後に確定申告書等の提出期限が到来する法人税について適用される(改正法附則17)。


脚注
注 最高裁判所民事判例集第63巻10号2283頁、LEX/DB:25441558

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