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解説記事2012年06月04日 【第2特集】 税務訴訟・裁決事例から見る取消し内容の分析(2012年6月4日号・№453)

取消し事案の6割超が証拠・調査不足が理由
税務訴訟・裁決事例から見る取消し内容の分析

 税務訴訟等で課税当局の処分が取り消された割合、つまり納税者側の主張が何らかの形で採用された割合は例年10%程度で推移している。取り消された事案については、法令解釈の誤りなのか、それとも証拠資料や調査不足が理由によるものだったのかなど、課税当局がその取消し理由等を分析。今後の調査等に生かしつつ、取消し割合を減らすことを目指している。特集では、判決や裁決事例をもとに課税当局の分析内容を紹介する。課税当局の考え方の1つを知ることも納税者にとっては有益なものといえよう。

証拠資料や調査不足は今後の対応が可能  国税庁が公表している税務訴訟等の取消し割合は以下ののとおりとなっている。全体的に課税当局の処分の取消件数の割合は10%程度となっている。課税当局からすれば、この割合を減らす、つまりいかに原処分を維持していくかどうかが課題となる。
 このため、課税当局では、取消し理由の内容を分析している。法令解釈の誤り、証拠資料の不足、調査不足、計算誤りなど、どの理由で取り消されたのかということだ。たとえば、「通達の取り扱いによる処分を行ったが裁判所が異なる判断をした」など、法令の解釈・適用が採用されなかったケースについては課税当局側の対応としては難しいと判断。逆に、取り消された理由の6割超が課税当局側の証拠不足や調査不足とされているが、これらについては対応が可能なものもある。
 たとえば、「取引先が海外」「取引が古い」などで証拠収集が困難なケースは難しいが、「資料等の表面的な記載のみで処分」「法人の説明を鵜呑みにする」などの事実確認が不十分なケースは、今後、課税当局でも対応を行うことが可能なものと分析している。
 では、課税当局の資料を基に証拠不足や調査不足が原因で原処分が取り消された6事例、原処分が支持された1事例を紹介する。

ケース1(納税者が審査請求の段階で新たな主張・証拠を提出)
否認項目:交際費等の損金不算入 
否 認 内 容 
 香港法人に対して支払った仲介手数料は、香港法人には実体がなく事業関連者への接待等を目的とした現金の贈答であり、交際費等に該当する。また、香港法人との間で結ばれた契約書は架空のものであり、交際費等を手数料に仮装して支出しているため、重加算税の対象となる。
課税当局の認定 納税者の主張
・香港法人に対して支出した仲介手数料は、仲介業務に係る役務提供の事実が認められず、事業関連者への接待等を目的とした現金の贈答である。
・香港法人との仲介業務契約は、架空である。
・香港法人に対して支出した仲介手数料は、一定の仲介業務の対価であり、交際費等には該当しない。
・架空の手数料に仮装した事実はない。
審判所の判断 
 審査請求時に、香港法人が料金改定交渉等に関与していることを裏付ける「FAX」等の提出があり、香港法人が一定の業務を行っていると認められ、仲介業務に実体がないと認めることはできない。
 また、支出された金員が事業関連者に渡っている可能性はあるが、それを裏付ける直接的・間接的証拠も認められないことからすれば、支出の相手先は香港法人であり、交際費等に該当する支払とは認められない。 
課税当局の分析 
 交際費等の認定に固執せず、役務提供と対価との関係について調査し、価額の合理性の面から検討する余地はあったものと考えられる。 

ケース2(訴訟で必要な立証の程度に対する認識不足から証拠資料の収集が不十分)
否認項目:連結法人間寄附金の損金不算入
否 認 内 容
 調査法人がソフトウェアの譲受け対価と称して支払った金員は対価性を有せず、A社(連結子会社)の損失を圧縮するために行われた利益供与額と認められるので、寄附金に該当するとして否認した。
課税当局の認定 納税者の主張
・ソフトウェアは、開発の都度その開発対価が支払われ、また、貸借対照表に計上し償却を行ってきていることなどから、著作権は調査法人に帰属している。
・当該対価は、連結子会社の多額の損失を圧縮するために行われた利益供与である。
・開発費用の負担があったとしても著作権は創作した者に帰属するのであって、それが譲渡された事実はない。
・ソフトウェアを貸借対照表に計上していたことが著作権を有するとの理由にはならない。
裁判所の判断
 著作権は創作した著作者に帰属し、開発費の負担によって決せられるものではなく、本件は、開発の都度、著作権の帰属を移転させる認識があったとの証拠はない。
 貸借対照表に計上していたことが、著作権を調査法人が有していたと認識しているとする理由とはならない。
課税当局の分析
・著作権が移転していたとの直接証拠がなく、間接証拠を積み上げて立証してきた事案であり、証拠収集には困難が伴った事案と思われる。
・間接証拠はできるだけ多くの収集に努めることが必要である。
・本件は、税法以外の法令(著作権法)が判決に重要な位置を占めており、これを正確に理解して証拠を収集することが肝要であった事案と思われる。

ケース3(資料等の表面的な記載のみで処分し、事実確認が不十分)
否認項目:交際費等の損金不算入
否 認 内 容
 中国市場から事業撤退する際に代理店の関連法人に対して支出した金員および現地の取引先に支出した金員は、事業撤退に反対する抗議行動を沈静化させるために支出したものであることから、交際費等に該当する。
 また、虚偽の契約書を作成するなどして交際費等を特別損失に計上しているため、重加算税の対象となる。
課税当局の認定 納税者の主張
・①代理店との間に撤退に際し補償金を支払うという事前契約はない、②代理店に補償金を支払わなければならない法律上の義務はない、③事業実体がない法人に対する支出であり、その目的は中国国内における販売活動等に支障をきたすことを防止することにあるとの理由から交際費等に該当する。 ・事業撤退に伴い不可避的に発生するメンテナンス業務の承継のための対価(費用)であり、交際費等には該当しない。
・メーカーと代理店は継続的な取引関係を有しており、メーカー側が一方的に取引関係を打ち切った場合には、補償を要求する一定の権利が生ずる。
審判所の判断
 ①本件の支出は撤退に伴って取引先に生ずる損害を補償するために行われたものであること、②本件の各契約は事業撤退により現地子会社が負うこととなる債務不履行責任を免れるため、中国に新設された法人にアフター業務を引き受けさせることを内容とするものであり、当該法人に対する支出は、その対価であると認められることから、交際費等に該当する支払とは認められない。
課税当局の分析
・調査時に調査法人の側も資料を提示することができなかったが、審査請求後に資料を提出されたことにより新たな取引関係が判明した。

ケース4(資料等の表面的な記載のみで処分し、事実確認が不十分)
否認項目:支払再保険料否認
否 認 内 容
 調査法人が支払った海外100%子会社に対する再保険料は、利益の平準化、第2の異常危険準備金制度の創設、租税回避を目的とするものであって、当該再保険料のうち、一定の部分(ファンド部分)の金額は実質的に預け金であると認定し、その損金算入を否認した。
課税当局の認定 納税者の主張
・社内検討経緯・資料から、損金とならない可能性を回避するため海外100%子会社を介在させるとともに、一連の取引の交渉は調査法人が行っている。
・リスク移転の必要性がない部分について利益平準化などを目的に実行したもので、租税回避スキームを意図的に構築したものである。
・海外100%子会社が「受け皿」や「導管」などといった税法に根拠のない理由によって、損金性が否認されることはない。
・リスク移転をして利益の獲得を極大化するために締結したものであって、租税回避目的ではない。
裁判所の判断
 租税回避を目的とし、真の意図が外形(法形式)と異なるならば、当事者の真に意図した法形式に基づき課税を行うことは許される。
 本件は、証拠から海外100%子会社がペーパーカンパニーなどであるとの認定はできないことおよび租税回避を目的としたとも認められない。
課税当局の分析
・本件は、海外100%子会社との取引が、形式的なもので、当事者間の真の意図を明らかにしなければならない点で、証拠収集には相当の困難が伴ったものと思われる。
・租税回避の立証は、法的側面においても的確な理論構築とともに、理論に沿った証拠の収集が最も重要な要素である。

ケース5(資料等の表面的な記載のみで処分し、事実確認が不十分)
否認項目:受取利息計上漏れ
否 認 内 容
 中小企業者への融資に対して1月遅れで入金される地方公共団体からの利子補給金については、入金時に収益計上をしているが、金融業を営む法人の貸付金等から生ずる利子については、入金時での収益計上が認められないことから、3月分の受取利息が計上漏れである。
課税当局の認定 納税者の主張
・本件の契約内容等によれば、地方公共団体から受領する利子補給金は、調査法人と中小企業者との約定金利の一部で、貸付金の利子に相当する。
・金融業を営む法人は法人税基本通達2-1-24により、貸付金等から生ずる利子については、入金時での収益計上は認められないことから、受取利息計上漏れとなる。
・各地方公共団体からの利子補給金は、利子ではなく一種の補助金である。
・補助金の決定日を知り得ず、請求金額のほとんどが請求月の月末までには入金していることから、入金時に収益計上しているものであり、税務上も認められる。
減額更正理由
 否認理由は相当であると考えるが、否認対象とした利息の計算期間の末日が翌期に及んでおり、当期未発生のため、本件更正処分が適法であるとはいえない。
課税当局の分析
・課税要件に関する論点の整理を的確に行ったが、その前提となる事実関係について帳簿書類等の資料の確認不足による把握誤りがあり、課税要件を充足していなかった。

ケース6(法人の説明・経理等を鵜呑みにし、事実確認が不十分)
否認項目:減価償却超過額
否 認 内 容
 パチンコ業を営む調査法人が新しい遊技台の導入に伴い取り外した遊技台について計上した除却損は、有姿除却が認められる合理的理由がないので、当該除却損を償却費として償却限度額の再計算を行い、新たに算出された償却限度超過額として否認した。
課税当局の認定 納税者の主張
・取り外した遊技台については、翌期に廃棄業者へ引渡しをしているものやその枠のみを再利用しているものがあることから、①期末までに除却された事実がなく、かつ、②翌期において使用またはいつでも稼動し得る状態であり有姿除却が認められる合理的理由がない。 ・課税当局は、「除却の事実がなく」という一般的な除却でないことを有姿除去が認められない理由としている。
・一度取り外した遊技台をそのまま遊技台として再度使用することはなく、当該取り外した遊技台は法人税基本通達7-7-2(有姿除去)「その使用を廃止し、今後通常の方法により事業の用に供する可能性がないと認められる固定資産」に該当し、除却損として損金算入が認められる。
・期末までに既に廃棄された遊技台が多数含まれており、個別の事実認定に誤りがある。
減額更正理由
 取り外した遊技台の廃棄状況等について個別に確認しておらず、また、遊技台はその使用廃止時に除却予定等と明示しており、「今後通常の方法により事業の用に供する可能性」がなかったと認められる。
課税当局の分析
・使用を廃止した減価償却資産の事後の事業供用の可能性は、その廃止時における事後処理の方法や客観的な経済情勢その他の状況の変化を見極めて判断するのが相当であり、単に期末や翌期における事象のみをもって判断するべきではない。

ケース7(課税当局の処分が認められた)
否認項目:システム障害損否認
否 認 内 容
 元従業員Aが顧客名義を利用して不正に買い付けた株式の株価が暴落したことから、Aが本件株式の損失を調査法人のシステム障害による損失に付け替えたものである。
 また、調査法人もシステム障害など発生していないという事実を知りながら決算修正経理も行わずに確定申告書を提出したため、調査法人の一連の行為は事実の仮装に当たり、重加算税の対象となる。
課税当局の認定 納税者の主張
・調査法人は、システム障害の有無について社内調査を行っており、事業年度中に、システム障害がなかった事実を専務等に報告していることおよび決算修正経理も行わなかったことから、調査法人の一連の行為は事実の仮装に当たり、重加算税の対象となる。 ・事業年度末までに、システム障害はなかったという確証が得られなかったため、決算修正経理を行わなかったものである。
裁判所の判断
 調査法人の役員らは、システム障害が存在しなかったことを十分に認識していたにもかかわらず、監査法人にそのことを報告しなかったうえ、システム障害の発生による損失が生じたものとして架空の特別損失を計上し、これに基づいて確定申告書を提出したものであるから、調査法人の一連の行為は事実の仮装に当たる。
課税当局の分析
・調査の際に、認定しようとする事実の直接証拠がないというケースが少なくないと思われるが、仮にそうであったとしても、本件のように認定しようとする事実を推認できるような証拠(間接事実)の収集を積極的に調査時に行っておくことが重要である。

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