カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

資料2012年01月16日 【主要判例】 平成23(行ヒ)104 所得税更正処分取消請求事件

事件番号 平成23(行ヒ)104
事件名 所得税更正処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月16日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 その他
判例集等巻・号・頁
原審裁判所名 福岡高等裁判所
原審事件番号 平成22(行コ)12
原審裁判年月日 平成22年12月21日

判示事項
1 所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」の支出の主体
2 法人が保険料を支払った養老保険契約に係る満期保険金を当該法人の代表者が受け取った場合において,上記満期保険金に係る当該代表者の一時所得の金額の計算上,上記保険料のうち当該法人における保険料として損金経理がされた部分が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとされた事例
3 国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとした原審の判断に違法があるとされた事例

裁判要旨
1 一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには,それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえることを要する。
2 死亡保険金の受取人を法人とし,満期保険金の受取人を当該法人の代表者とする養老保険契約の保険料を当該法人が支払い,満期保険金を当該代表者が受け取った場合において,上記保険料のうち当該代表者に対する役員報酬として損金経理がされその給与として課税された部分がその2分の1である一方,その余の部分が当該法人における保険料として損金経理がされたものであるなど判示の事情の下では,上記満期保険金に係る当該代表者の一時所得の金額の計算上,後者の部分は所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらない。
3 一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためにはそれが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえることを要するにもかかわらず,これと異なる法令解釈に基づいて行われた過少申告について,課税実務上の運用や税務当局等の示した見解の有無などの点につき十分に審理することなく,関係する通達の文言の一部や上記の法令解釈と同旨の見解を採る市販の解説書の記載のみをもって,国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるとした原審の判断には,違法がある。

参照法条
(1~3につき)所得税法34条2項,所得税法施行令(平成23年政令第195号による改正前のもの)183条2項2号 (3につき)国税通則法65条4項

主 文
1 原判決中,第1審被告の敗訴部分を破棄する。
2 前項の部分につき,本件を福岡高等裁判所に差し戻す。
3 第1審原告の上告を棄却する。
4 前項に関する上告費用は第1審原告の負担とする。
理 由
第1 本件の事実関係等の概要
1 本件は,第1審原告の経営する医療法人が契約者となり保険料を支払った養老保険契約(被保険者が保険期間内に死亡した場合には死亡保険金が支払われ,保険期間満了まで生存していた場合には満期保険金が支払われる生命保険契約をいう。以下同じ。)に基づいて満期保険金の支払を受けた第1審原告が,その満期保険金の金額を一時所得に係る総収入金額に算入した上で,当該法人の支払った上記保険料の全額が一時所得の金額の計算上控除し得る「その収入を得るために支出した金額」(所得税法34条2項)に当たるとして,所得税(平成17年分)の確定申告をしたところ,上記保険料のうちその2分の1に相当する第1審原告に対する役員報酬として損金経理がされた部分以外は上記「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分を受けたため,上記各処分(更正処分については申告額を超える部分)の取消しを求める事案である。
2(1) 所得税法34条2項は,一時所得の金額は,その年中の一時所得に係る総収入金額からその収入を得るために支出した金額(その収入を生じた行為をするため,又はその収入を生じた原因の発生に伴い直接要した金額に限る。)の合計額を控除し,その残額から所定の特別控除額を控除した金額とすると定めている。所得税法施行令183条2項2号は,生命保険契約等に基づく一時金に係る一時所得の金額の計算について,当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金の総額は,その年分の一時所得の金額の計算上,支出した金額に算入すると定める一方で,同号イないしニにおいて,当該支出した金額に総額を算入しない掛金等を列挙しているが,その列挙された掛金等の中に,養老保険契約に係る保険料は含まれていない。
(2) 所得税基本通達(昭和45年7月1日直審(所)30(例規))34-4は,その本文(注以外の部分)において,所得税法施行令183条2項2号に規定する保険料又は掛金の総額には,その一時金の支払を受ける者以外の者が負担した保険料又は掛金の額(これらの金額のうち,相続税法の規定により相続,遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金に係る部分の金額を除く。)も含まれる旨を定め,その注において,使用者が役員又は使用人のために負担した保険料又は掛金でその者につきその月中に負担する金額の合計額が300円以下であるために給与等として課税されなかったものの額は,同号に規定する保険料又は掛金の総額に含まれる旨を定めている。
3 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 第1審原告が理事長として経営する医療法人(以下「本件法人」という。)は,平成12年12月1日,生命保険会社との間で,被保険者を第1審原告の子ら,満期日を平成17年11月30日,被保険者が満期前に死亡した場合の死亡保険金合計3000万円の受取人を本件法人,被保険者が満期日まで生存した場合の満期保険金合計3000万円の受取人を第1審原告とする3口の養老保険契約(以下「本件契約」という。)を締結した。
本件法人は,本件契約に基づき,3110万円余の保険料(以下「本件支払保険料」という。)を支払ったが,うち2分の1の部分については,本件法人において第1審原告に対する役員報酬として損金経理がされ,第1審原告にその給与として課税された(以下,当該部分を「本件報酬経理部分」という。)。他方,その余の部分については,本件法人において保険料として損金経理がされた(以下,当該部分を「本件保険料経理部分」という。)。そして,本件契約の満期日において,被保険者が生存していたため,第1審原告は,合計3000万円の満期保険金(以下「本件保険金」という。)の支払を受けた。
(2) 第1審原告は,平成17年分の所得税につき,本件保険金の金額を一時所得に係る総収入金額に算入した上で,本件支払保険料の全額が,所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たり,一時所得の金額の計算上控除し得るとして確定申告書を所轄税務署長に提出したが,所轄税務署長は,本件支払保険料はその全額がこれに当たらず,一時所得の金額の計算上控除できないとして,更正処分及び過少申告加算税賦課決定処分をした。
第1審原告は,上記各処分を不服として,所轄税務署長に対し,異議申立てをし,これを棄却する旨の決定がされたことから,国税不服審判所長に対し,審査請求をしたところ,国税不服審判所長は,前記(1)の経理処理を踏まえ,本件支払保険料のうち,本件報酬経理部分については,「その収入を得るために支出した金額」に当たり,一時所得の金額の計算上控除できるが,本件保険料経理部分はこれに当たらず,控除できないとして,上記各処分の一部を取り消す旨の裁決をした(以下,同裁決により一部取り消された後の上記各処分を,それぞれ「本件更正処分」及び「本件賦課決定処分」という。)。そこで,第1審原告は,本件更正処分のうち申告額を超える部分及び本件賦課決定処分の各取消しを求めて,本訴を提起した。
なお,所得税に関する市販の解説書には,従業員が生命保険契約に係る保険金の支払を受けた場合において,企業が支払った保険料は,従業員の給与所得としての課税の有無にかかわらず,企業負担分を従業員が負担したものとして取り扱う旨の見解を採るものが複数存在した。
4 原審は,本件支払保険料のうち,本件保険料経理部分は所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たらないとして,第1審原告の請求のうち本件更正処分の一部取消しを求める部分を棄却すべきものとする一方で,所得税基本通達34-4は,その本文のみを見れば,一時所得の金額の計算上,本件保険料経理部分を控除することができるかのような誤解を生じかねないものであり,前記のような市販の解説書も存在することからすると,第1審原告において,その平成17年分の一時所得の金額の計算上,本件保険料経理部分を総収入金額から控除したことはやむを得ないものであり,過少申告があっても例外的に過少申告加算税が課されない場合として国税通則法65条4項が定める「正当な理由があると認められる」場合に当たるとして,第1審原告の請求のうち本件賦課決定処分の取消しを求める部分を認容すべきものとした。
第2 平成23年(行ヒ)第104号上告代理人植松功,同越路倫有の上告受理申立て理由について
1 所得税法は,23条ないし35条において,所得をその源泉ないし性質によって10種類に分類し,それぞれについて所得金額の計算方法を定めているところ,これらの計算方法は,個人の収入のうちその者の担税力を増加させる利得に当たる部分を所得とする趣旨に出たものと解される。一時所得についてその所得金額の計算方法を定めた同法34条2項もまた,一時所得に係る収入を得た個人の担税力に応じた課税を図る趣旨のものであり,同項が「その収入を得るために支出した金額」を一時所得の金額の計算上控除するとしたのは,一時所得に係る収入のうちこのような支出額に相当する部分が上記個人の担税力を増加させるものではないことを考慮したものと解されるから,ここにいう「支出した金額」とは,一時所得に係る収入を得た個人が自ら負担して支出したものといえる金額に限られると解するのが上記の趣旨にかなうものである。また,同項の「その収入を得るために支出した金額」という文言も,収入を得る主体と支出をする主体が同一であることを前提としたものということができる。
したがって,一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に該当するためには,それが当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならないと解するのが相当である。 なお,所得税法施行令183条2項2号についても,以上の理解と整合的に解釈されるべきものであり,同号が一時所得の金額の計算において支出した金額に算入すると定める「保険料…の総額」とは,保険金の支払を受けた者が自ら負担して支出したものといえる金額を指すと解すべきであって,同号が,このようにいえない保険料まで上記金額に算入し得る旨を定めたものということはできない。所得税法基本通達34-4も,以上の解釈を妨げるものではない。
2 これを本件についてみるに,本件支払保険料は,本件契約の契約者である本件法人から生命保険会社に対して支払われたものであるが,そのうち2分の1に相当する本件報酬経理部分については,本件法人において第1審原告に対する役員報酬として損金経理がされ,第1審原告に給与課税がされる一方で,その余の本件保険料経理部分については,本件法人において保険料として損金経理がされている。これらの経理処理は,本件契約において,本件支払保険料のうち2分の1の部分が第1審原告が支払を受けるべき満期保険金の原資となり,その余の部分が本件法人が支払を受けるべき死亡保険金の原資となるとの前提でされたものと解され,第1審原告の経営する本件法人においてこのような経理処理が現にされていた以上,本件契約においてこれと異なる原資の割合が前提とされていたと解するのは相当でない。そうすると,本件報酬経理部分については,第1審原告が自ら支払を受けるべき満期保険金の原資としてその役員報酬から当該部分に相当する保険料を支払った場合と異なるところがなく,第1審原告において当該部分に相当する保険料を自ら負担して支出したものといえるのに対し,本件保険料経理部分については,このように解すべき事情があるとはいえず,当該部分についてまで第1審原告が保険料を自ら負担して支出したものとはいえない。当該部分は上記のとおり本件法人において損金経理がされていたものであり,これを一時所得の金額の計算上も控除し得るとすることは,二重に控除を認める結果を招くものであって,実質的に見ても不相当といわざるを得ない。
したがって,本件支払保険料のうち本件保険料経理部分は,所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」に当たるとはいえず,これを本件保険金に係る一時所得の金額の計算において控除することはできないものというべきである。これと同旨の原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。
第3 平成23年(行ヒ)第105号上告代理人須藤典明ほかの上告受理申立て理由について
1 過少申告加算税は,過少申告による納税義務違反の事実があれば,原則としてその違反者に対し課されるものであり,これによって,当初から適法に申告し納税した納税者との間の客観的不公平の実質的な是正を図るとともに,過少申告による納税義務違反の発生を防止し,適正な申告納税の実現を図り,もって納税の実を挙げようとする行政上の措置である。この趣旨に照らせば,国税通則法65条4項にいう「正当な理由があると認められる」場合とは,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,上記のような過少申告加算税の趣旨に照らしても,なお,納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合をいうものと解するのが相当である(最高裁平成17年(行ヒ)第9号同18年4月20日第一小法廷判決・民集60巻4号1611頁,最高裁平成16年(行ヒ)第86号,第87号同18年4月25日第三小法廷判決・民集60巻4号1728頁,最高裁平成17年(行ヒ)第20号同18年10月24日第三小法廷判決・民集60巻8号3128頁参照)。
2 これを本件についてみるに,所得税基本通達34-4は,その本文の文言のみを見れば,本件保険金に係る一時所得の金額の計算上,本件保険料経理部分を総収入金額から控除することが許容される趣旨に理解する余地のあるものであり,このような理解と同旨の市販の解説書も複数存在していたものである。しかしながら,通達は法令の解釈に則してその意味内容が確定されるべきものであるところ,上記通達も,所得税法34条2項にいう「その収入を得るために支出した金額」とは収入を得た個人が支出したものといえる金額をいうとの前記第2の1の解釈を踏まえてその意味内容が確定されるべきものであり,その注の記載も含めた全体の意味内容を見ると,使用者の負担した保険料等のうち給与等として課税されたものを控除の対象とすることを原則とする趣旨に解する余地もあるのであって,直ちに上記のような理解が導かれるものとはいい難い。また,本件の証拠として提出されている上記解説書について税務当局がその監修等をしていたり,上記解説書が上記のような見解を採るべき法令解釈上の具体的な根拠を示していたりするなどの事情はうかがわれない。そして,上記解説書の採る見解の根拠となり得るような課税実務上の運用や税務当局ないしその関係者の示した見解の有無などの事情については,明らかにされていない。
そうすると,このような状況の下で,上記課税実務上の運用や税務当局ないしその関係者の示した見解の有無などの点について十分に審理することなく,所得税基本通達34-4の文言や市販の解説書に係る前記の事情のみをもって,前記第2の1の解釈と異なる法令解釈に基づいて行われた過少申告について,真に納税者の責めに帰することのできない客観的な事情があり,過少申告加算税の趣旨に照らしてもなお納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷になる場合に当たるものということは困難である。したがって,上記の点について十分に審理することなく,本件において上記の過少申告がされたことについて国税通則法65条4項にいう「正当な理由」があるものとした原審の判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるというべきである。論旨は,この趣旨をいうものとして理由がある。
第4 結論
以上によれば,原判決中,第1審被告の敗訴部分は破棄を免れず,この部分については,上記の点について更に審理を尽くさせるため本件を原審に差し戻すべきであり,その余の部分についての第1審原告の上告は棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 宮川光治 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇)
PDFファイルを表示(20120116113157.pdf)

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索