解説記事2012年09月24日 【税務マエストロ】 95%ルールの改正による個別対応方式の留意点(6)~課税売上割合に準ずる割合の活用方法(その1)(2012年9月24日号・№468)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
95%ルールの改正による個別対応方式の留意点(6)~課税売上割合に準ずる割合の活用方法(その1)
#54 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#55 見落としがちな国際課税のリスク
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説 周知のとおり、95%ルールの改正により、課税期間中の課税売上高が5億円を超える事業者は、課税売上割合の数値にかかわらず、個別対応方式か一括比例配分方式による仕入控除税額のあん分計算が義務付けられることになった。こういった実情に配慮してか、本年3月に国税庁から公表された「消費税の『95%ルールの見直し』に伴うQ&A」では、課税売上割合に準ずる割合の活用方法などについて、従業員割合や事業部門ごとの割合、床面積割合や取引件数割合など、法令や通達にない取扱いや留意事項などが詳細に解説されている。
今回は、この課税売上割合に準ずる割合のうち、国税庁Q&Aで紹介されている従業員割合と部門別割合について、その活用方法を検討する。
1 適用単位と適用方法 課税売上割合に準ずる割合は、95%判定に用いる本来の課税売上割合のように、事業者が行う事業の全部について統一適用する必要はなく、次頁表1の①~③のような区分ごとに課税売上割合に準ずる割合を適用することができる(消基通11-5-8)。
また、本来の課税売上割合の計算方法を課税売上割合に準ずる割合として申請することにより、事実上、課税売上割合との併用も認められている。
ただし、課税売上割合に準ずる割合の承認は、表1①~③の例示のように、事業者が行う事業の全体として、それぞれに承認を受ける必要がある。したがって、承認を受けようとする特定の割合が合理的であったとしても、その他の割合が合理的でない場合やその割合の計算方法が不明確である場合には承認を受けることができない(国税庁Q&A【基本的な考え方編】(問21・22))。
2 従業員割合による計算 従業員数に比例して支出されると認められる共通対応分となる消費税額については、従業員割合で承認申請をすることができる(国税庁Q&A【基本的な考え方編】(問23))。
この方法は、従業員数を課税業務と非課税業務に区分できることが適用条件とされており、兼業従業員がいる場合において、課税業務に従事する従業員数を「総従業員数-非課税業務にのみ従事する従業員数」の算式により把握することは認められない。
計算の基礎となる従業員の取扱いを整理すると次頁表2のようになる。
実務上の適用にあたっては、共通対応分となる課税仕入れのすべてが従業員数に比例して支出されるようなことはまずありえない。したがって、実際には、福利厚生費や水道光熱費、旅費交通費などの個々の費目について従業員割合を適用することになるものと思われる。
3 事業部門ごとの割合による計算 独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門の共通対応分となる消費税額については、事業部門ごとの割合で承認申請をすることができる(国税庁Q&A【基本的な考え方編】(問24))。
この方法は、独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門についてのみ適用が認められるものである。
本店・支店ごと又は事業部門ごとに、上記算式によりその事業部門に係る課税売上高と非課税売上高を基礎として、課税売上割合と同様の方法により割合を求めることとされている。なお、適用にあたっては、下記の(1)~(3)に注意する必要がある。
(1)本来の課税売上割合との有利選択の是非 課税売上割合に準ずる割合が、本来の課税売上割合よりも低いこととなる場合であっても、その承認を受けた事業部門における課税売上割合に準ずる割合を使用しなければならない(有利選択は認められない)。
例えば、下記4の計算例において、A部門の課税売上割合(80%)よりも本来の課税売上割合(85%)のほうが大きいことを理由に、A部門の共通対応仕入税額の計算で85%を採用することは認められない。
(2)課税売上割合に準ずる割合が95%以上になった場合の取扱い 特定の事業部門において、上記算式により計算した課税売上割合に準ずる割合が95%以上になったとしても、その事業部門から発生した課税仕入れ等の税額の全額を控除することはできない(消基通11-5-9)。
例えば、下記4の計算例において、B部門の課税売上割合が96%であったとしても、B部門の共通対応仕入税額の全額を控除することは認められない。
(3)事業を行う部門以外の部門(総務、経理部門等)の取扱い
総務、経理部門等の部署から発生する売上げは、通常は預貯金の利息くらいである。したがって、これらの部門での課税売上割合を採用するとした場合には、事業部門の割合(課税売上割合に準ずる割合)がゼロになってしまう。また、古新聞や雑誌などを処分して僅かばかりの課税売上高が発生した場合には、逆に事業部門の割合が100%となり、共通対応分の消費税額が全額控除できることになってしまう。こういった理由から、総務、経理部門等については原則として事業部門ごとの割合は採用できないこととしているものと思われる。
4 計算例による適用事例の検討 事業部門ごとの割合により承認を受けたケースについて、下記の<計算例1>によりその節税効果を確認する。私見としては、事業部門ごとの課税売上割合による計算が一番実践的で、かつ、使い勝手がよいように思われる。この場合において、総務、経理部門の共通仕入税額については次のいずれかの方法による計算を検討することになろう。
① 総務、経理部門の共通仕入税額に本来の課税売上割合を乗じて計算する方法
② 総務、経理部門の共通仕入税額を従業員数で各部門に配賦した上で、各部門ごとの課税売上割合(課税売上割合に準ずる割合)を乗じて計算する方法(従業員数以外の合理的な配賦基準があれば当然にその方法によることも認められる)
5 検討事項
(1)総務、経理部門の従業員数の取扱い 上記4の<計算例1>の(5)において、総務、経理部門の共通対応仕入税額を配賦する際に、同部門の従業員数を加味したところで共通対応分の仕入控除税額を計算すると次のようになる。
総務、経理部門の共通対応仕入税額を各部門に配賦する際に、同部門の従業員数を加味するか否かについては見解の分かれるところではないだろうか。私見としては、上記2の従業員割合の計算において、兼業従業員は原則として従業員割合の計算に含めないこととしていることを考慮すれば、総務、経理部門の従業員数は、配賦計算に加味すべきではないと思われる。
いずれにせよ、最終的に税務署長の承認を受けなければ課税売上割合に準ずる割合(事業部門ごとの割合)は採用できないのであるから、承認申請の際には、後々のトラブルが発生しないよう、丁寧な説明書の添付などを心がけるべきであろう。
(2)総務、経理部門に売上高がある場合の取扱い 総務、経理部門に売上高がある場合の取扱いはどうなるのであろうか?
国税庁Q&Aには、「総務、経理部門等の共通対応分の消費税額全てを各事業部門の従業員数比率等適宜の比率により事業部門に振り分けた上で、事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合によりあん分する方法も認められます」と記載されている。この文面を読む限り、総務、経理部門の売上高は配賦計算に考慮する必要はないようにも思われる。
そうすると、下記の<計算例2>のように、総務、経理部門以外の部門における課税売上割合が100%の場合には、本来の課税売上割合にかかわらず、結果として共通仕入税額はその全額が控除できることになってしまい、事業内容等の実態を適正に反映した計算方法とはいえないものとなってしまうことが危惧される。
そこで、総務、経理部門に売上高がある場合には、共通対応分の消費税額だけでなく、総務、経理部門の売上高についても従業員比率等を使って各部門に配賦をし、部門別の課税売上割合を算出する方法を検討してみてはどうかと考えている(※参照)。
記事に関連するお問い合わせ先 記事に関するお問い合わせは週刊「T&Amaster」編集部にお寄せください。執筆者に質問内容をお伝えいたします。
TEL:03-5281-0020 FAX:03-5281-0030 e-mail:ta@lotus21.co.jp
※なお、内容によっては回答いたしかねる場合がありますので、あらかじめご了承ください。
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
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95%ルールの改正による個別対応方式の留意点(6)~課税売上割合に準ずる割合の活用方法(その1)
#54 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#55 見落としがちな国際課税のリスク
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース 品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
e-mail:ta@lotus21.co.jp
マエストロの解説 周知のとおり、95%ルールの改正により、課税期間中の課税売上高が5億円を超える事業者は、課税売上割合の数値にかかわらず、個別対応方式か一括比例配分方式による仕入控除税額のあん分計算が義務付けられることになった。こういった実情に配慮してか、本年3月に国税庁から公表された「消費税の『95%ルールの見直し』に伴うQ&A」では、課税売上割合に準ずる割合の活用方法などについて、従業員割合や事業部門ごとの割合、床面積割合や取引件数割合など、法令や通達にない取扱いや留意事項などが詳細に解説されている。
今回は、この課税売上割合に準ずる割合のうち、国税庁Q&Aで紹介されている従業員割合と部門別割合について、その活用方法を検討する。
1 適用単位と適用方法 課税売上割合に準ずる割合は、95%判定に用いる本来の課税売上割合のように、事業者が行う事業の全部について統一適用する必要はなく、次頁表1の①~③のような区分ごとに課税売上割合に準ずる割合を適用することができる(消基通11-5-8)。

また、本来の課税売上割合の計算方法を課税売上割合に準ずる割合として申請することにより、事実上、課税売上割合との併用も認められている。
ただし、課税売上割合に準ずる割合の承認は、表1①~③の例示のように、事業者が行う事業の全体として、それぞれに承認を受ける必要がある。したがって、承認を受けようとする特定の割合が合理的であったとしても、その他の割合が合理的でない場合やその割合の計算方法が不明確である場合には承認を受けることができない(国税庁Q&A【基本的な考え方編】(問21・22))。
2 従業員割合による計算 従業員数に比例して支出されると認められる共通対応分となる消費税額については、従業員割合で承認申請をすることができる(国税庁Q&A【基本的な考え方編】(問23))。

この方法は、従業員数を課税業務と非課税業務に区分できることが適用条件とされており、兼業従業員がいる場合において、課税業務に従事する従業員数を「総従業員数-非課税業務にのみ従事する従業員数」の算式により把握することは認められない。
計算の基礎となる従業員の取扱いを整理すると次頁表2のようになる。

3 事業部門ごとの割合による計算 独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門の共通対応分となる消費税額については、事業部門ごとの割合で承認申請をすることができる(国税庁Q&A【基本的な考え方編】(問24))。

この方法は、独立採算制の対象となっている事業部門や独立した会計単位となっている事業部門についてのみ適用が認められるものである。
本店・支店ごと又は事業部門ごとに、上記算式によりその事業部門に係る課税売上高と非課税売上高を基礎として、課税売上割合と同様の方法により割合を求めることとされている。なお、適用にあたっては、下記の(1)~(3)に注意する必要がある。
(1)本来の課税売上割合との有利選択の是非 課税売上割合に準ずる割合が、本来の課税売上割合よりも低いこととなる場合であっても、その承認を受けた事業部門における課税売上割合に準ずる割合を使用しなければならない(有利選択は認められない)。
例えば、下記4の計算例において、A部門の課税売上割合(80%)よりも本来の課税売上割合(85%)のほうが大きいことを理由に、A部門の共通対応仕入税額の計算で85%を採用することは認められない。
(2)課税売上割合に準ずる割合が95%以上になった場合の取扱い 特定の事業部門において、上記算式により計算した課税売上割合に準ずる割合が95%以上になったとしても、その事業部門から発生した課税仕入れ等の税額の全額を控除することはできない(消基通11-5-9)。
例えば、下記4の計算例において、B部門の課税売上割合が96%であったとしても、B部門の共通対応仕入税額の全額を控除することは認められない。
(3)事業を行う部門以外の部門(総務、経理部門等)の取扱い

総務、経理部門等の部署から発生する売上げは、通常は預貯金の利息くらいである。したがって、これらの部門での課税売上割合を採用するとした場合には、事業部門の割合(課税売上割合に準ずる割合)がゼロになってしまう。また、古新聞や雑誌などを処分して僅かばかりの課税売上高が発生した場合には、逆に事業部門の割合が100%となり、共通対応分の消費税額が全額控除できることになってしまう。こういった理由から、総務、経理部門等については原則として事業部門ごとの割合は採用できないこととしているものと思われる。
4 計算例による適用事例の検討 事業部門ごとの割合により承認を受けたケースについて、下記の<計算例1>によりその節税効果を確認する。私見としては、事業部門ごとの課税売上割合による計算が一番実践的で、かつ、使い勝手がよいように思われる。この場合において、総務、経理部門の共通仕入税額については次のいずれかの方法による計算を検討することになろう。
① 総務、経理部門の共通仕入税額に本来の課税売上割合を乗じて計算する方法
② 総務、経理部門の共通仕入税額を従業員数で各部門に配賦した上で、各部門ごとの課税売上割合(課税売上割合に準ずる割合)を乗じて計算する方法(従業員数以外の合理的な配賦基準があれば当然にその方法によることも認められる)
5 検討事項
(1)総務、経理部門の従業員数の取扱い 上記4の<計算例1>の(5)において、総務、経理部門の共通対応仕入税額を配賦する際に、同部門の従業員数を加味したところで共通対応分の仕入控除税額を計算すると次のようになる。


総務、経理部門の共通対応仕入税額を各部門に配賦する際に、同部門の従業員数を加味するか否かについては見解の分かれるところではないだろうか。私見としては、上記2の従業員割合の計算において、兼業従業員は原則として従業員割合の計算に含めないこととしていることを考慮すれば、総務、経理部門の従業員数は、配賦計算に加味すべきではないと思われる。
いずれにせよ、最終的に税務署長の承認を受けなければ課税売上割合に準ずる割合(事業部門ごとの割合)は採用できないのであるから、承認申請の際には、後々のトラブルが発生しないよう、丁寧な説明書の添付などを心がけるべきであろう。
(2)総務、経理部門に売上高がある場合の取扱い 総務、経理部門に売上高がある場合の取扱いはどうなるのであろうか?
国税庁Q&Aには、「総務、経理部門等の共通対応分の消費税額全てを各事業部門の従業員数比率等適宜の比率により事業部門に振り分けた上で、事業部門ごとの課税売上割合に準ずる割合によりあん分する方法も認められます」と記載されている。この文面を読む限り、総務、経理部門の売上高は配賦計算に考慮する必要はないようにも思われる。
そうすると、下記の<計算例2>のように、総務、経理部門以外の部門における課税売上割合が100%の場合には、本来の課税売上割合にかかわらず、結果として共通仕入税額はその全額が控除できることになってしまい、事業内容等の実態を適正に反映した計算方法とはいえないものとなってしまうことが危惧される。
そこで、総務、経理部門に売上高がある場合には、共通対応分の消費税額だけでなく、総務、経理部門の売上高についても従業員比率等を使って各部門に配賦をし、部門別の課税売上割合を算出する方法を検討してみてはどうかと考えている(※参照)。


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