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解説記事2012年11月19日 【法令解説】 私設取引システムにおける取引に対する公開買付規制の適用の見直し(2012年11月19日号・№475)

法令解説
私設取引システムにおける取引に対する公開買付規制の適用の見直し
 金融庁総務企画局企業開示課課長補佐 小長谷章人
 前金融庁総務企画局企業開示課専門官 池田賢生
 金融庁総務企画局企業開示課専門官 谷口達哉
 金融庁総務企画局企業開示課係長 福岡恵美

Ⅰ はじめに
 平成24年10月31日に「金融商品取引法施行令の一部を改正する政令」および「発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令及び株券等の大量保有の状況の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」(以下「本改正政府令」という)が公布・施行(以下「本改正」という)された(脚注1)。
 近年、私設取引システム(Proprietary Trading System。以下「PTS」という)(脚注2)に係る環境整備が進み、PTSが広く利用されることとなったことを契機として(脚注3 4)、機関投資家および証券会社から、「国民の声」提案(平成22年1月18日~2月17日の間に受付け)等を通じて、公開買付規制の5%ルール(具体的な規制の内容については後述する)がPTSの利用拡大の制約になっているとの指摘がなされるとともに、東京証券取引所と大阪証券取引所との経営統合の動きがある中で、PTSをより使い勝手のよいものとしてほしいとの要望が寄せられていた。
 これらを踏まえ検討を行った結果、公開買付規制の制度趣旨に鑑み、一定の要件を満たすPTSにおける取引について、公開買付規制の5%ルールの適用を除外することを主な内容とする本改正が行われた。
 本稿においては、これらに関する改正内容を解説する。
 なお、本稿中、意見にわたる部分は筆者らの個人的見解であり、筆者らが現在所属し、または過去に所属した組織または部署としての見解を示すものではないことをご了解いただきたい。

Ⅱ 公開買付規制

1 改正の目的
 金融商品取引法上、「取引所金融商品市場」外における株券等の買付け等(「取引所金融商品市場における有価証券の売買等」に準ずる取引による場合および著しく少数の者から株券等の買付け等を行う場合を除く)の後の株券等所有割合が5%超となる場合、当該買付け等は公開買付けによらなければならない(いわゆる5%ルール)(法27条の2第1項1号)。
 本改正政府令による改正前の令においては、PTSにおける買付け等は、「取引所金融商品市場」外における買付け等であり、また、「取引所金融商品市場における有価証券の売買等」に準ずる取引に含まれていなかったため、当該5%ルールの適用対象となっていた。
 このため、公開買付けによらずにPTSにおける買付け等を行うためには、実務上、特別関係者を含めた株券等所有割合が5%を超えていないことや、過去60日間における買付け等の相手方の人数を確認することが必要となっていたところ、機関投資家および証券会社からは、これらの作業に相当の時間やコストを要するため、PTSでは適当なタイミングで買付け等を行うことができず、結果として、PTSにおける買付け等を行うことが困難となっているとの指摘がなされていた(脚注5)。
 また、取引所金融商品市場に準じた一定の透明性や公正性を備えたPTSにおける買付け等については、5%ルールに限り、公開買付規制の適用対象外としても、公開買付規制の趣旨に反するものではないと考えられた(詳細については後述する)。
 そこで、本改正政府令においては、①そのような一定の要件を満たすPTSにおける買付け等について5%ルールの適用を除外し、②いわゆる3分の1ルール(具体的な規制の内容については後述する)については従前どおり適用対象とするとともに、③適用除外の対象となったPTSにおける買付け等の相手方については、「著しく少数の者から買付け等を行う」場合の該否判定に際して、過去60日間における買付け等の相手方の人数に含めないこととされた。

2 5%ルールの適用除外
(1)改正の概要
 本改正政府令では、法27条の2第1項1号の「株券等の買付け等」から除外される「取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等」として、新たに、次の要件をすべて満たすものとして金融庁長官が指定するPTSにおける上場有価証券の取引(特定上場有価証券(プロ向け銘柄)を対象とする場合、特定投資家等のみを当事者として行われるものに限る)を規定することとした(本改正政府令による改正後の令6条の2第2項2号)。
① 売付けもしくは買付けの申込みまたは売買についてその対象となった有価証券の種類、銘柄、価格その他当該申込みまたは売買の内容を示すべき事項として内閣府令で定める事項が直ちに公表されることとなっていること
② 売買価格の決定方法が競売買の方法その他多数の者の参加の下に価格の形成が行われる方法として内閣府令で定める方法であること③ 有価証券を所有する者が当該有価証券を適時に売却する機会が確保されていると認められること
 これにより、これらの要件を満たすPTSにおける取引においては、買付け等の相手方の人数にかかわらず、買付け等の後の株券等所有割合が5%を超える場合(後述のとおり、3分の1を超えない場合に限られる)における株券等の買付け等を公開買付けによらずに行うことが可能となった。
(2)一定の要件を満たすPTS  公開買付規制の趣旨は、会社支配権に影響を与えるような取引等が行われる場合に、投資者にあらかじめ情報開示を行うとともに、株主等に平等に株券等の売却の機会を与える点にあるが(脚注6)、市場内取引は、基本的には、①取引の数量や価格が公表され、②競争売買の手法によって価格形成が行われるとともに、③誰もが参加できるものであるため、当該公開買付規制の趣旨に照らし、公開買付規制の対象外とされている(脚注7)。
 PTSにおける買付け等についても、取引の数量や価格を含む気配・約定情報がリアルタイムに公表され(①)、競売買方式その他多数の者の参加の下に価格の形成が行われる方法による価格形成が確保されており(②)、個人投資家を含め、誰もが容易にアクセス可能である(③)のであれば、投資者保護の観点から、公開買付規制のうち5%ルールを適用する必要性は低いと考えられる。
 具体的には、まず、①については、本改正前より、PTSにおける取引に関する申込みや売買に係る価格・数量等は、PTSを開設する金融商品取引業者により申込み後5分以内に、認可金融商品取引業協会へ報告され、当該認可金融商品取引業協会により当該報告後直ちに公表されることとされている(法67条の18第7号・8号および67条の19、金融商品取引業協会等に関する内閣府令16条および17条ならびに上場株券等の取引所金融商品市場外での売買等に関する規則10条および11条)。前述のとおり、公開買付規制の趣旨に鑑みれば、市場内取引と同様、気配・約定情報がリアルタイムに公表されるのであれば、取引の数量や価格が公表され、透明性が確保されていると考えられる(①)。そこで、本改正政府令においては、売付けもしくは買付けの申込みまたは売買についてその対象となった有価証券の種類、銘柄、価格のほか、「当該申込み又は売買の内容を示すべき事項として内閣府令で定める事項」として、売付けまたは買付けの申込みに係る有価証券にあっては数量、売付けまたは買付けの別および申込みの時刻が、売買に係る有価証券にあっては数量および売買成立日時が直ちに公表されることが要件とされている(本改正政府令による改正後の他社株府令3条の2第1項)。
 ②については、PTSにおける売買価格の決定方法としては、競売買方式、市場価格売買方式、顧客間交渉方式、顧客注文対当方式および売買価格気配提示方式が認められているところ、顧客注文対当方式は、成行注文や板寄せがない点以外で、競売買方式と異なる点はなく(法2条8項10号ホおよび金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令17条1号)、競売買方式とほぼ同様の価格形成が行われていると考えられる(②)。このため、本改正府令においては、5%ルールの適用除外の要件を満たす売買価格決定方式について、競売買方式のほか、「多数の者の参加の下に価格の形成が行われる方法として内閣府令で定める方法」として、顧客注文対当方式を規定している(本改正府令による改正後の他社株府令3条の2第2項)。
 ③については、最終的にはPTSの個別事情に基づき判断されるものと考えられるが、一般的には、(i)個人投資家を含め、誰もが容易に取引に参加することが可能であり、かつ、(ii)当該取引が適時に処理される取引環境が確保されていることなどが必要と考えられ、これらの要件充足の判断にあたっては、個人投資家を含めた顧客の注文をPTSに取り次ぐこととしている証券会社が当該PTSに参加しているか否かや、当該証券会社において当該PTSを通じた取引を適時に処理するための取引環境を整備しているかなどといった事情が考慮されることとなろう。
 以上より、前記(1)①~③が確保されているPTSを開設している金融商品取引業者が使用する電子情報処理組織を告示指定することとされている(脚注8)。

3 3分の1ルールの適用  金融商品取引法上、「取引所金融商品市場」外における株券等の買付け等(「取引所金融商品市場における有価証券の売買等」に準ずる取引による場合を除く)であって著しく少数の者から株券等の買付け等を行う場合における株券等の買付け等の後の株券等所有割合が3分の1を超える場合、当該買付け等は公開買付けによらなければならない(いわゆる3分の1ルール)(法27条の2第1項2号)。
 本改正政府令は、一定の要件を満たすPTSにおける買付け等について、5%ルールに限り、公開買付規制の適用を除外するものであるため、3分の1ルールについては、引き続き適用対象となる。
 このため、法27条の2第1項2号の「株券等の買付け等」から除外される「取引所金融商品市場における有価証券の売買等に準ずるものとして政令で定める取引による株券等の買付け等」には、当該PTSにおける買付け等を含めず、従前どおり「店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の取引」による買付け等のみを規定することとしている。
 また、同号の適用対象となるのは「著しく少数の者から株券等の買付け等を行うものとして政令で定める場合」に限られているため、これに該当しない場合(多数の者から、株券等所有割合が3分の1超となる株券等の買付け等をPTSにおいて行うような場合)についても引き続き公開買付規制の適用対象とするべく、本改正政府令では、令7条7項1号において、「前条第二項第二号に掲げる取引による株券等の買付け等であつて株券等の買付け等の後における株券等買付者の所有に係る株券等の株券等所有割合が三分の一を超える場合における当該株券等の買付け等」は公開買付けによらなければならないこととした。

4 著しく少数の者から買付け等を行う場合における当該買付け等からの除外  本改正前は、「株券等の買付け等」から除外される「著しく少数の者から買付け等を行うものとして政令で定める場合」として、①「株券等の買付け等を行う相手方の人数」と、②「当該買付け等を行う日前六十日間に、取引所金融商品市場外において行つた当該株券等の発行者の発行する株券等の買付け等……の相手方……の人数」との合計が10名以下である場合が規定され、②の買付け等から除かれるものとして、「公開買付けによる買付け等、店頭売買有価証券市場における店頭売買有価証券の取引による株券等の買付け等、新株予約権を有する者が当該新株予約権を行使することにより行う株券等の買付け等並びに第一項第一号から第三号まで及び第十号から第十五号までに掲げる買付け等」のみを規定していた(本改正政府令による改正前の令6条の2第3項)。
 本改正政府令では、これに加え、前述の要件を満たすPTSにおける買付け等(ただし、本改正政府令による改正後の令7条7項1号に規定する場合における買付け等を除く)についても、②の買付け等から除外することとしている(本改正政府令による改正後の令6条の2第3項)。
 仮にこのような除外を行わないとすると、たとえば、PTS取引でない市場外取引によって1人の相手方から株券等を取得して株券等所有割合が5%超となる場合において、その前60日間に一定の要件を充足したPTSにおいて10人の相手方から株券等を取得していた場合には、当該市場外取引について5%ルールの適用を受けることとなり、これを回避するため、株券等所有割合が5%超となる、PTS取引でない市場外取引を行う際に、過去60日間のPTSにおける買付け等の相手方の人数を確認する必要が生じてしまうなど、PTSの利便性を損なうおそれがある。したがって、このような除外を行うことが本改正政府令の目的と整合的であると考えられる。

脚注
1 本稿では、特に断らない限り、金融商品取引法(昭和23年法律第25号)を「法」と、金融商品取引法施行令(昭和40年政令第321号)を「令」と、発行者以外の者による株券等の公開買付けの開示に関する内閣府令(平成2年大蔵省令第38号)を「他社株府令」と、それぞれ略する。
2 PTSとは、有価証券の売買またはその媒介、取次ぎもしくは代理であって、電子情報処理組織を使用して、同時に多数の者を一方の当事者または各当事者として一定の売買価格の決定方法により行うものをいう(法2条8項10号)。
3 PTS取引のメリットとして、立会内取引と比べ、手数料が安く、また、より細かな刻み値で売買することができる点等が指摘されている。
4 取引所取引全体に対するPTSの売買高の割合は、平成22年中頃までは1%前後に止まっていたが、平成24年9月時点で約5.5%に達している(PTS Information Network掲載の統計情報による)。
5 具体的には、特別関係者には、買付者と20%以上の資本関係にある法人等やその役員等も含まれるところ(法27条の2第7項、令9条)、PTSで株券等の買付け等を行うに際し、買付者と20%以上の資本関係にある法人等やその役員等の所有する株券等に係る議決権を直ちに確認することは困難との指摘がなされていた。
6 平成17年12月22日付け金融審金融分科会第一部会公開買付制度等ワーキング・グループ報告。
7 前掲(注6)参照。
8 「金融商品取引法施行令第六条の二第二項の規定に基づき、電子情報処理組織を指定する件」(平成24年10月31日金融庁告示第75号)において、「SBIジャパンネクスト証券株式会社が、金融商品取引法第二条第八項第十号に掲げる行為に係る業務において使用する電子情報処理組織(PTS第1市場およびPTS第2市場に係るものに限る。)」および「チャイエックス・ジャパン株式会社が、金融商品取引法第二条第八号第十号に掲げる行為に係る業務において使用する電子情報処理組織」が指定されている。

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