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解説記事2013年01月28日 【法令解説】 特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法の概要(2013年1月28日号・№484)

法令解説
特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法の概要
 経済産業省貿易経済協力局貿易振興課 課長補佐(国際租税担当) 下田 聡

Ⅰ はじめに

 第180回通常国会において、「特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法」(平成24年法律第55号。以下「アジア拠点化推進法」という。)が成立し、平成24年8月3日に公布された。また、関係法令である「特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法施行令」(平成24年政令第272号。以下「施行令」という。)、「特定多国籍企業による研究開発事業等の促進に関する特別措置法施行規則」(以下「施行規則」という。)、「研究開発事業計画の認定等に関する命令」(以下「研究命令」という。)、「統括事業計画の認定等に関する命令」(以下「統括命令」という。)についても同年10月31日に公布され、同年11月1日より施行されている。
 本稿では、アジア拠点化推進法の概要及びその支援措置について具体的に解説する。

Ⅱ 法律制定の背景
 近年、アジア新興国の経済成長に伴ってわが国の市場が相対的に縮小しており、また、アジアを中心とした新興国では、グローバル規模で活躍する企業を誘致するために、税制をはじめとする各種のインセンティブ措置の強化に取り組んでいる。一方、わが国では、諸外国と比べて高い法人実効税率等により、企業活動を支えるビジネスインフラ面での魅力が低下している。
 たとえば、欧米やアジアの外資系企業からみたアジア各国の各拠点機能としての魅力についてのアンケートによると、わが国は過去4年あまりの間に、およそすべての機能について、中国やシンガポールに劣後するようになった。とりわけ、従来は高い競争力を維持していた「アジア地域統括拠点」や「研究開発拠点」といった高付加価値拠点ではその傾向が顕著となっている(図表1参照)。

 実際、日本に置いていたアジア本社・開発拠点を他のアジア諸国に移転する外国企業も出てきており、日本企業の中にも、生産拠点だけでなく、本社や研究開発拠点の海外移転に踏み切ったところもある。
 こうした状況を踏まえ、グローバル企業の研究開発拠点や統括拠点をわが国に呼び込むことを目的として、アジア拠点化推進法を平成23年2月10日に閣議決定し、第177回通常国会に提出することとした。

Ⅲ アジア拠点化推進法の内容

1 概  要
 
アジア拠点化推進法は、複数の国で事業活動を行うグローバル企業が、わが国に新たな拠点(法人)を設置することにより、わが国で研究開発事業又は統括事業を行うことを支援するものである。具体的には、一定の要件を満たすグローバル企業を「特定多国籍企業」と規定し、この特定多国籍企業が作成する研究開発事業計画又は統括事業計画を主務大臣が認定することで、国内に設置される新たな拠点(国内関係会社)に対して、税制の特例等の支援措置を講じるものである(図表2参照)。


2 特定多国籍企業  まず、研究開発事業計画又は統括事業計画が主務大臣の認定を受けるためには、申請主体であるグローバル企業が「特定多国籍企業」に該当する必要があるが、要件は以下の3つである(法第2条第1項、施行規則第1条~第3条)。
① 本店所在地国以外の国に子法人等を有していること
② 本店所在地国以外の国に事務所や工場などの固定施設や従業員を有していること
③ 高度な知識又は技術を有していること
 つまり、複数の国にグループ企業を有してグローバル規模の経営をしており(要件①)、それらの会社がペーパーカンパニーではなく事業活動の実態を備えていて(要件②)、かつ研究開発事業又は統括事業に関する優れた能力を有している(要件③)ということになる。

3 研究開発事業  次に、研究開発事業計画が主務大臣の認定を受けるためには、国内関係会社の実施する研究開発事業が以下の要件を満たしている必要がある(法第2条第3項、第4条、研究命令第1条、第2条、第5条、第6条)。
① 試験研究費及び開発費の合計額が年間1億円を超えるものであること
② 新規性、高度性を有していること
③ 国内にすでに設置されている子会社や孫会社等が当該研究開発事業を実施していないこと
④ 計画期間の初年度の従業員数が10名以上であり、最終年度には25人(計画期間が5年の場合。計画期間が3年以上4年未満であれば15人、4年以上5年未満であれば20人)以上であること
⑤ 計画期間中にグループ会社から半年間以上従業員を受け入れること
⑥ 新たに設置される国内関係会社が行う事業であること
 なお、要件⑥について、新たに設置される国内関係会社は必ずしも特定多国籍企業の子会社(特定多国籍企業が議決権の過半数を保有する会社)である必要はなく、孫会社(特定多国籍企業の子会社が議決権の過半数を保有する会社)、曾孫会社(特定多国籍企業の孫会社が議決権の過半数を保有する会社)、これらの会社と特定多国籍企業が合算して議決権の過半数を保有する会社でも可能である(法第2条第2項)。

4 統括事業  また、統括事業計画が主務大臣の認定を受けるためには、国内関係会社の実施する統括事業が以下の要件を満たしている必要がある(法第2条第4項、第6条、統括命令第1条、第4条、第5条)。
① 国内関係会社の資本金の額が1億円以上であること
② 計画期間中に、国内関係会社や国内のグループ会社に5億円(計画期間が5年の場合。計画期間が3年以上4年未満であれば3億円、4年以上5年未満であれば4億円。)以上の追加出資があること
③ 国内にすでに設置されている子会社や孫会社等が当該統括事業を実施していないこと
④ 計画期間の初年度の従業員数が10名以上であり、最終年度には18人(計画期間が5年の場合。計画期間が3年以上4年未満であれば14人、4年以上5年未満であれば16人)以上であること
⑤ 計画期間の初年度に、国内関係会社の従業員の給与総額が7,000万円以上であり、最終年度には1億3,000万円(計画期間が5年の場合。計画期間が3年以上4年未満であれば1億円、4年以上5年未満であれば1億1,000万円。)以上であること
⑥ 新たに設置される国内関係会社が行う事業であること
 なお、国内関係会社の範囲については、研究開発事業と同様である。

Ⅳ 支援措置
 前述した要件を満たし、研究開発事業計画又は統括事業計画について主務大臣の認定を受けると、新たに設置される国内関係会社は、以下に紹介する各種の支援措置を受けることが可能である。これらの支援措置は、法律によるもの以外にも、運用面での各省庁の協力によるものもある。

1 法人税の軽減  主務大臣の認定を受けた国内関係会社に対して、法人税の所得控除を認めることにより、国内での研究開発事業又は統括事業のインセンティブを設けるものであるが、税制の特例を受けるためには、前述したそれぞれの事業の要件に加えて、以下の2つの要件も満たしている必要がある。
① 国内関係会社が「専ら」認定研究開発事業又は認定統括事業を行うものであること
② 計画期間が5年であること
 上記の追加要件も満たした場合、実際に控除できる金額は、研究開発事業又は統括事業に係る所得の20%である。具体的には、「研究開発事業又は総括事業により生じた所得のみについて法人税を課するものとした場合に課税標準となるべき当該事業年度の所得の金額」又は「当該事業年度の全所得金額」のいずれか少ない金額の20%が、所得の計算上、損金の額に算入できる。これにより、実効税率ベースで約7%の引下げ効果が期待される。
 なお、本特例を受けることができるのは、平成26年3月31日までに主務大臣の認定を受けた国内関係会社に限られており、認定の日から5年を経過する日までの期間内に認定が取り消された場合は、過去損金の額に算入した金額の合計額が、取消があった年度の所得の計算上、益金の額に算入されることになる。

2 ストックオプション税制の特例  現行制度上、内国法人から付与された新株予約権(ストックオプション)が税制適格である場合、権利行使時に実現した経済的利益は給与所得として課税されることなく繰り延べられ、株式譲渡時に譲渡価額と権利行使価額との差額に対して譲渡所得として課税されることになっている。しかし、この税制特例はあくまでも内国法人が付与するストックオプションに限られており、外国法人が発行するストックオプションは、権利行使時と株式譲渡時の2回にわたって課税されていた。そのため我が国への投資インセンティブを高める観点から、認定を受けた国内関係会社の役員や従業員が、特定多国籍企業などの外国法人から付与されたストックオプションについて、内国法人の場合と同様に権利行使時に実現した経済的利益は給与所得として課税せずに、株式譲渡時に一括して譲渡所得課税することとした(図表3参照)。

 本特例を受けることができるのは、特定多国籍企業が平成26年3月31日までに認定を受けた場合であって、実際にストックオプションを付与する契約が当該認定日から3年以内に締結された場合に限られる。さらに、内国法人に対するストックオプション税制の特例と同様、権利行使が付与契約の決議がされた日から2年後、10年を経過するまでの間になされ、かつ、権利行使価額の合計額が1,200万円を超えないものとなる。
 なお、そもそも役員等の個人所得に対する課税の特例であって法人の所得に対する課税とは関連がないため、1の法人税の所得控除と併用することも可能である。
 一方、そもそも認定を受けるためには、国内関係会社が専ら研究開発事業又は統括事業を実施するものであって、計画期間が5年であることが必要な点については、1と同様である(租税特別措置法第29条の3、同施行令第19条の4)。

3 特許に関する特例  特定多国籍企業による研究開発事業の促進を図るため、認定を受けた国内関係会社(中小企業者に限る)が行う認定研究開発事業の成果に係る発明について、特許出願に係る審査請求料及び特許料(第1年分~第10年分)を2分の1に軽減することとした。(法第10条)
 さらに、通常の特許出願については、審査請求から審査着手までにある程度の審査順番待ち期間を要するところ、特許法の運用として、認定を受けた国内関係会社が行う認定研究開発事業の成果に係る発明に関連する特許出願について、通常の特許出願に比べて早期に審査着手する早期審査の対象に加えることとした。特許の早期審査は、中小企業や個人、大学、公的研究機関等による特許出願やグリーン技術に関連する特許出願においてすでに講じられており、通常の特許出願における審査順番待ち期間が約22.2か月であるところ、早期審査に係る特許出願については約1.9か月で審査着手がなされている(2011年度実績)。

4 入国審査の迅速化  アジア拠点化推進法の認定を受けた特定多国籍企業が設置する国内関係会社には、グローバルに活躍する特定多国籍企業の性格から,多数の外国人役員や従業員が就業することが想定されるが、外国人がわが国において就業するためには在留資格認定証明書の取得が必要になる。そのため、これらの外国人役員や従業員の円滑な入国を実施する観点から、主務大臣の認定を受けた国内関係会社に就業する予定の外国人に対しては、実務運用上、この在留資格認定証明書の交付申請に関する審査の迅速化を実施することとした。これにより、通常1ヶ月程度かかる審査が約10日間に短縮されることになる。
 なお、実際に審査の迅速化を受けることができる在留資格は,国内関係会社に就業する予定の外国人に関係が深いとされる「投資・経営」、「法律・会計」、「研究」、「人文知識・国際業務」、「企業内転勤」の5つである。

5 その他の支援措置  上記以外にも、国内関係会社への投資を促進する観点から2つの支援措置が講じられている。
 1つは、中小企業投資育成株式会社(以下「投育社」)の支援対象の拡充である。投育社の支援対象は、中小企業投資育成株式会社法(昭和38年法律第101号)により資本金3億円以下の会社に限られているが、アジア拠点化推進法では、上記のとおり、従業員数が一定数以下の企業も「中小企業」と定義しているため、こうした企業に限り、資本金が3億円を超える企業であっても、投育社の支援対象とすることとした(法第9条)(図表4参照)。
 2つ目は、外国為替及び外国貿易法(昭和24年法律第228号。以下「外為法」という。)の法定不作為期間の短縮化である。外為法の規定により、上記の業種に対して外国投資家が投資を行うには、財務大臣及び事業所管大臣に対する事前届出が義務づけられており、届出から30日間は投資を行ってはならないこととなっている。(図表5参照)そこで、国内関係会社に対する海外からの投資を迅速化する観点から、この投資を行ってはならない期間を30日間から2週間に短縮することとした(法第8条)。

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