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解説記事2013年06月24日 【ニュース特集】 遺留分減殺請求に係る更正請求の特則で重要裁決(2013年6月24日号・№504)

「相続させる」旨の遺言・「認諾」との関係etc
遺留分減殺請求に係る更正請求の特則で重要裁決

 被相続人の財産全てを相続させる旨の遺言により審査請求人が取得した土地について、遺留分減殺請求訴訟および共有持分移転登記請求訴訟が提起され当該共有持分移転登記請求が認諾された場合、遺留分減殺請求に基づき返還・弁済すべき額が確定したとする裁決事例があった(平成25年1月8日裁決)。審判所は、相続税法32条(更正の請求の特則)1項3号に該当するか否かの判断は、遺留分減殺請求に基づき返還・弁済すべき額が確定したと評価し得る事実が認められるか否かによるべきであるとし、原処分庁による更正をすべき理由がない旨の通知処分の全部を取り消している。

「認諾」が相法32条3号に該当するとして更正の請求
 本事案は、被相続人の財産の全てを相続させる旨の遺言(本件遺言)により、被相続人が所有していた土地(本件土地)を取得した請求人が、本件土地を第三者(X社)に譲渡した後、共同相続人から遺留分減殺請求訴訟、共有持分移転登記請求訴訟を提起され、当該移転登記請求訴訟において請求が認諾(本件認諾)されたというもの。
 請求人は、本件認諾が相続税法(平成18年度改正前のもの)32条(更正の請求の特則)3号に規定する事由(遺留分減殺請求に基づき返還すべきまたは弁償すべき額が確定)に該当するとして更正の請求を行い(更正の請求までの経緯は次頁参照)、原処分庁から更正をすべき理由がない旨の通知処分を受けたことから、審査請求に至っている。

 争点は、本件更正の請求が相続税法32条3号に規定する事由に該当する適法なものか否かであり、審判所は、①相続税法32条3号、②遺産全部を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言の法的性質、③遺留分減殺請求に関係する民法の規定の解釈から、本件更正の請求は、同号に規定する事由に該当すると判断している。
 以下、上記①~③に関する審判所の解釈を確認していく。

返還・弁償すべき額が確定したその都度、更正の請求を認容
 まず相続税法32条の趣旨について、審判所は、国税通則法に定める更正の請求の事由に該当しない場合において相続税または贈与税に固有の事由が発生した場合に、税負担公平の観点から更正の請求を認めるものとする。
 また、同条3号については、遺留分減殺請求に基づき返還すべきまたは弁償すべき額が確定したことを理由として更正の請求を認めるものと指摘。その趣旨および同号の文言からすれば、同号に該当する場合は、遺留分減殺請求訴訟についての判決が確定した場合や、遺留分減殺請求訴訟についての訴訟上の和解等が調書に記載されて確定判決と同一の効力を有することとなった場合に限られるものではないとしている。
 そのうえで、①受贈者または受遺者は、民法1041条1項に基づいて減殺された贈与または遺贈の目的たる各個の財産につき価格弁償をしてその返還義務を免れることができること、②相続税法32条1号が各個の財産について分割が行われ得る未分割財産の分割が行われたことを更正の請求の事由として規定していることからすれば、同条3号は、遺留分減殺請求に基づき、各個の財産について返還すべきまたは弁償すべき額が確定したその都度、更正の請求がされることを認容するものであると解釈している(次頁上掲参照)。

相続税法32条3号に関する審判所の解釈
 相続税法32条3号の趣旨および同号の文言に照らせば、同号に該当する場合とは、遺留分減殺請求訴訟についての判決が確定した場合や、遺留分減殺請求訴訟について訴訟上の和解等が調書に記載されて確定判決と同一の効力を有することとなった場合に限られるものではないと解される。
 そして、①受贈者または受遺者は、民法1041条1項に基づき、減殺された贈与または遺贈の目的たる各個の財産につき価格弁償をしてその返還義務を免れることができると解されること(最高裁第三小法廷平成12年7月11日判決)、②相続税法32条1号が各個の財産について分割が行われ得る未分割財産の分割が行われたことを更正の請求の事由として規定していることに照らすと、同条3号は、遺留分減殺請求に基づき、各個の財産について返還すべきまたは弁償すべき額が確定したその都度、更正の請求がされることを認容するものであると解される。

遺留分を侵害する遺言に民法1031条・1040条が適用
 次に、遺産全部を特定の相続人に「相続させる」旨の遺言についてみると、審判所は、被相続人の遺産の承継関係に関する遺言について、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重し、合理的にその趣旨を解釈すべきものであるとしている。
 そのうえで、遺言書において遺産全部を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、遺言者の意思は遺産全部をその相続人に単独で相続させようとする趣旨のものとするのが合理的な解釈であると判断。
 遺言書の記載からその趣旨が遺贈であることが明らかであるか、遺贈と解すべき特段の事情がない限りは、遺贈と解釈するべきではなく、「相続させる」旨の遺言は、民法908条に規定する遺産の分割方法とともに同法902条1項に規定する相続分を指定した遺言であるとするのが相当としている。
 さらに、遺言により法定相続分と異なる割合で相続分の指定がされ(民法902条1項本文)、その相続分の指定が遺留分を侵害するものであった場合については、民法902条1項ただし書が遺留分に関する規定に違反する相続分の指定を禁じていることからすれば、遺留分減殺請求権者の遺留分減殺請求の行使が妨げられるものではないと指摘。その遺言について遺留分減殺請求に関する規定である民法1031条および同法1040条が適用されることになると解釈している。

返還・弁償すべき額が確定したその都度、更正の請求を認容
 上記の民法1040条の趣旨については、減殺を受けるべき者が減殺請求の前に目的物を第三者に譲渡し、または目的物に権利を設定してしまっていた場合、遺留分減殺請求権者による目的物の返還請求を認めると当該第三者に不測の損害を生ずるおそれがあることから、その第三者に対する追及効を原則として遮断し、それによって目的物の回復が不能となった場合に、減殺を受けるべき者は遺留分権利者に価額の弁済をしなければならないこととしたものと審判所は解釈。
 この趣旨からすれば、民法1040条1項本文の規定は、遺留分権利者が、遺留分減殺請求によって目的物を取り戻して占有や登記を回復することができた場合に、これに加えて価額弁償の請求をも認めるものと解することはできないとしている。

民法1040条(受贈者が贈与の目的を譲渡した場合等)
1 減殺を受けるべき受贈者が贈与の目的を他人に譲り渡したときは、遺留分権利者にその価額を弁償しなければならない。ただし、譲受人が譲渡の時において遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、遺留分権利者は、これに対しても減殺を請求することができる。
2 前項の規定は、受贈者が贈与の目的につき権利を設定した場合について準用する。

「認諾」により価額弁償の請求は不可能に
 こうした法令解釈を示したうえで、審判所は、本事案について、本件遺言は、被相続人の全財産を請求人に「相続させる」旨の遺言であり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるとはいえず、遺贈と解すべき特段の事情の存在も認められないから、相続分とともに遺産分割の方法を指定したもとの認定。相続分の指定がされた遺言については、遺留分減殺請求に関する民法1031条および同法1040条が適用されることとなるとした。
 そのうえで、①本件認諾は、X社が、本件土地に設定されていたX社の譲渡担保権に基づく所有権移転登記について、共同相続人の各共有持分10分の1の所有権移転登記手続をすることを認めたものであり、②本件認諾の前に、請求人が共同相続人の遺留分割合が各10分の1であると認めていることから、共同相続人は、本件認諾により、本件土地の遺留分に係る共有持分の登記を回復することができたものと認定。民法1040条1項本文の規定により、共同相続人は本件認諾の後、本件遺留分減殺請求訴訟において本件土地に係る価額弁償を請求することはできず、本件土地について遺留分減殺請求に基づき返還すべきまたは弁償すべき額が変動することはないと判断し、本件認諾の日に、遺留分減殺請求権者である共同相続人は本件土地について遺留分に相当する共有持分権を取り戻すことが確定し、請求人が遺留分減殺請求に基づき返還すべきまたは弁償すべき額が確定したとしている。

遺留分減殺請求訴訟係属中は判断の結論に影響せず
 原処分庁は、①本件認諾の既判力は、主文に包含される所有権移転登記手続の可否についてのみ生じ、遺留分減殺請求を原因とするか否かの判断についてまで及ぶものではない、②本件更正の請求の時点では、本件遺留分減殺請求訴訟が係属中であり、本件土地に関して遺留分減殺請求における確定的な判断がされたものとは認められないと主張。
 これに対し審判所は、相続税法32条3号に該当するか否かの判断は、遺留分減殺請求に基づき返還すべきまたは弁償すべき額が確定したと評価し得る事実が認められるか否かによるべきものであり、①本件認諾に係る既判力の客観的範囲を根拠として同号該当性を判断することはできず、②本件においては、本件認諾の日に本件遺留分減殺請求訴訟が終了していなかったことは同号該当性の判断の結論に影響を及ぼすものではないと指摘した。

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