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解説記事2013年09月02日 【税務マエストロ】 多国籍企業の国際的租税回避問題①(2013年9月2日号・№513)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
多国籍企業の国際的租税回避問題①
#88 品川克己
日本公認会計士協会租税調査会専門委員(国際租税専門部会)
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(マネージング・ディレクター)

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#89 非適格合併における役員退職慰労引当金 税理士 朝長英樹 経営戦略の1つとして組織再編成税制を活用できる方法を、同税制等の創設を主導した筆者が事例形式で解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  安倍首相の諮問を受けた新生「政府税制調査会」が、平成25年6月24日に初会合を開いた。この初回会合では、安倍首相自らが、中長期的視点からの検討課題として、多国籍企業による国際的な租税回避への対応策を挙げている。また昨今、スターバックスやAmazonなど誰もが知る著名な多国籍企業の租税回避問題が欧米諸国でもクローズアップされている。このように、世界各国で注目されている多国籍企業の国際的租税回避とはいかなるものか、こうした問題提起が行われた背景、今後の政策当局の対応、そして企業の海外事業展開に与える影響等について検討する。

1 多国籍企業と租税回避―基本的論点  昨今、多国籍企業の租税回避問題について多くの報道がなされている(脚注1)。こうした記事のほとんどは、著名な多国籍企業が何らかの方法で「租税回避」をしているのではないかとの論調となっている。事業活動を全世界的に展開し、それが成功しているがゆえに著名であり、全世界的に事業が成功しているのであればかなりの利益を計上し、それに見合った租税負担をしているはずであろう。しかしながらこうした多国籍企業の租税負担が一般的な企業に比べて低いのはなぜか、何か不法行為による結果ではないのかといった懐疑的な論理展開が多くなっている。そして、この結果、本当の問題点、真に解決すべき問題点が曖昧になってしまっていると考えられる。まずは、今般の多国籍企業の租税回避問題の基本的論点を整理する必要がある。
 では、そもそも何が問題点なのだろうか。端的には「納税」を「逃れている」結果を問題視しているのであり、それを単純に「租税回避」と言う用語で表現しているのであろう。しかし、少なからず、「納税義務が生じていない」ことと「納税を逃れている」ことが混同されている側面も否定しがたいのが実情でもある。つまり「租税回避」の概念が曖昧になってしまっているのではないかと考えられる。では、「租税回避」とはどのようなことを指すのか。一般に「租税回避」は「脱税」と分けて考えられ、前者は合法、後者は違法と整理されることが多い。したがって「租税回避」とは、とりあえずは法律の範囲内であるが、何らかの手段を用いて納税・租税負担を回避している事実と言うことができよう。そして法律の範囲内でありながら、結果としての租税負担の低さが問題視されるのはなぜか。それはやはり用いる手段が、合法ではあるが、不自然・不合理であるからと考えることができよう。通常の企業行動、事業活動に比して奇異な状況・手段を用いることが問題なのであろう。
 こうした観点で昨今の問題を考えた場合、次の3点で冷静に検討する必要がある。
(1)税制の問題としての認識  昨今の論調は、多国籍企業の租税負担が低いという結果にのみ着目し批判するものが多い。そもそも法人税は事業活動の結果、利益である法人所得が生じてはじめて発生するものである。著名な企業であっても、他企業との厳しい競争の結果、利益を生みだすことが困難な場合もあろう。正常な事業活動、公正妥当な会計処理の結果、法人税の課税所得が生じないケースまで、単に「税金を払っていない」と言う情緒的な批判で片づけることは、真の問題点を見誤らせる結果となる可能性が高い。また、こうした批判は、課税当局による、無理な課税、強引な課税を誘発することにもなりかねない。結果として租税負担が低いことを、情緒的、倫理的な問題として捉えて批判すべきではなく、税制の問題点として考える必要があろう。利益を稼得し、法人税を納めるべき状態か否か。利益を計上しているのに、なぜ、納税額が少ないのか。そこには制度上の問題点があるのではないか、といったスタンスで考える必要があろう。
(2)通常の事業活動との明確な線引き  租税回避であることの根拠として、用いる手段の特殊性、不自然さがあげられる。企業としての一般的な行動や通常用いられる手段ではなく、不自然な企業行動や手段によって租税負担を軽減しているケースこそが、租税回避として非難されるべきであろう。しかしながら一方で、「通常」の行動・手段と「不自然」な行動・手段の線引きは極めて難しい問題といえる。どこまでが「通常」の範囲であり、どこからが「不自然」なのかは主観的概念でもあり、法律等での明確な線引きは難しいともいえよう。一方で、現在、どこかに線引きをすることも求められている。租税回避の範囲が不明確なままでは、安易に租税回避と認定され課税当局に強引・不合理な課税の根拠として利用されかねない。公平・中立な税制の確立及びその適正な執行のためにも、租税回避の範囲を明示する必要性があろう。そして、この線引きに当たっては、課税当局側の机上での議論のみではなく、健全な経済活動を制約しないよう、実際の経済活動、企業行動に十分配慮する必要があろう。
(3)時代にあった課税原則の構築  多国籍企業の租税回避問題のうち、いくつかのケースについては、決して不自然ではないが、現在の税法を忠実に適用しても租税負担が生じないものもある。こうした場合、「納税をしていない」といった倫理的な観点からの批判で片づけられる可能性が高いが、問題の本質は、現行の税制にあると捉える必要があろう。コンピューターの進歩、電子商取引に代表されるように、現在の税法や課税原則が構築された時代に比して、経済活動の規模や様式がかなり変化している。しかしながら、税法や課税原則はこうした変化に対応すべく変化が加えられていないといえよう。昨今の多国籍企業の租税回避問題は、現行税制が時代遅れとなっている点を映し出しているものであり、こうした点を改善すべく時代に即した課税原則を早急に確立する必要があると考えられる。

2 米英の問題認識
(1)米国における議会の対応
 米議会上院に設置されている特別委員会では、「企業所得の海外移転と米国税制」(Offshore Profit Shifting and the U.S. Tax Code)をテーマとして、世界的な多国籍企業の幹部経営者、学者、税務当局に対する公聴会を実施している。
 第1回の公聴会は、2012年9月20日に行われ、マイクロソフト社及びヒューレットパッカード社に対し多くの質問がされた。公聴会の目的は、多国籍企業がどのようにして米国及び全世界での納税額を減少させているのかということの解明であった。そもそも米国の法定税率が30%であるにも関わらず、こうした多国籍企業の実効税率は10%~ 20%(連結ベース)なのではないか、そしてこうした実効税率負担の低さは所得の海外移転によるものではないかと考えられていたからである。米国議会は、こうした所得の海外移転は、一義的に米国租税の回避であり、その結果、米国の富(税収)の減少を招いているとの危機感を有していたのである。
 2013年5月21日には第2回の公聴会が行われ、アップル社に対し米国事業から生じる所得の海外移転及び米国への還流スキームについて聴聞が行われた。また第1回の公聴会での調査結果をまとめた報告書「Offshore Profit Shifting and the U.S. Tax Code」が公表された。この報告書では、マイクロソフトは2009年から2011年までに210億ドルの所得を海外に移転し、45億ドルの米国租税が回避されていること、Check-the-box ruleやCFC税制(我が国ではタックスヘイブン対策税制)のlook through ruleを使ったプランニングを行っていることなどが明らかにされた。
(2)英国での問題意識  英国においても、2012年11月、スターバックス、アマゾン、グーグルの代表者を議会に召喚し、調査聴聞会を実施している。ここでは、英国内での大規模な経済活動にもかからず、英国での租税負担が極めて低いことの理由について聴取され、その議事録が「Annual Report and Accounts(2011-2012) HMRC(脚注2)」で公表されている。3社とも英国内に多大な資産、人材を持ちながら売り上げは低税率国(スターバックスはスイス、オランダ、アマゾンはルクセンブルグ、グーグルはアイルランド)で認識されていると報告されている。スターバックスは、この報告書や一連の報道によって、企業イメージが大きく棄損されたと主張するとともに、2013年から2年間、法人所得の有無にかかわらず、毎年2千万ポンド(約26億円)の納税を行うことを税務当局と合意している。
 なお、キャメロン英国首相は、2013年1月24日、ダボス会議にて、こうした多国籍企業の租税負担が低いことについて倫理上の問題(ethical issues)があると発言している。

3 具体的スキーム  米国上院の小委員会報告書「Offshore Profit Shifting and the U.S. Tax Code」及び英国特別調査会の報告書「Annual Report and Accounts(2011-2012)」等に、現在問題とされている多国籍企業の事業スキームのいくつかが解析されている。ここでは、スターバックス及びAmazonのケースを簡略して紹介する(脚注3)。
(1)スターバックス  スターバックスのケースでは、ブランド、店舗デザイン、マーケティング等の無形資産(IP)に係る使用料が論点となっている。次のように、英国等、店舗の所在する各国での法人税納付額は少ないようであるが、節税スキームと言うほどのことか疑問でもある。しいて言えば、オランダの優遇政策の問題ともいえよう(図1)。

① スターバックスの元来のIP(おそらく、そのロゴ、名称、店舗イメージ、マーケティング)は米国で創造されたと考えられ、これらは何らかの形態(おそらく譲渡)によりオランダ法人(便宜的に「スターバックスNE」とする)に移転される。この段階では米国親会社(スターバックスUS)にキャピタルゲインが生じ、米国において課税されている。
② 一方、世界各国のスターバックス店舗(通常はその国の法人)は、オランダ法人から、こうしたIPの使用許諾を受け、それぞれの国で通常のビジネスを行う。
③ こうした店舗法人は、その売り上げの6%を、IPの使用料として、オランダ法人に支払う。なお、オランダでは使用料収入に対して、通常税率より低い課税をうける。一方、英国はじめ、各国の子会社レベルは、支払使用料を控除するとほとんど所得が生じない状況となる(移転価格の問題として、使用料の多寡が問題となろう。)。
④ オランダ法人は、受取使用料の50%を、米国法人に支払う(何らかの使用料名目)。したがって、各国法人から吸収した使用料の50%が米国に還流するため、税務上のメリット(節税額)はオランダでの使用料収入の半額に対するオランダの優遇措置税率のみとなる。
(2)Amazon  Amazonは取扱商品によって事業スキームが異なっているが、一般的な棚卸商品について焦点をあてる。Amazonのビジネスはウェブサイトを使った小売業と考えることができるが、このウェブサイトを運営する上で必要な無形資産の所有者及び運営は、すべてルクセンブルグの法人が行い、ルクセンブルグに所得が集中することになっている(脚注4)(図2)。

① Amazonのウェブビジネスに関するIPが何らかの形でルクセンブルグ法人(Amazon Europe Holdings)に移転され、ヨーロッパの事業体は、この法人に使用料を支払う。
② ルクセンブルグにはもう1社関連会社が所在(Amazon EU Sari)しており、この法人がウェブサイトを運営し、すべての棚卸資産の所有者となる。したがって、売り上げのすべてを認識する一方で、損失に対するリスクも負担することとなる。
③ 英国はじめ、ヨーロッパ内の各国の法人は、倉庫を有し、サービスセンター的な役割を行っているが、これらAmazon EU Sariから委託された業務で、機能とリスクが限定されたサービス会社の位置づけとなっている。したがって、販売利益は計上せず、サービス収入に対する薄い利益のみ計上することとなる。
  ウェブサイトを利用した販売であることから、販売の場所を特定することは難しく、また、ウェブサイトの管理者または所有者が販売に関するリスクを負担することは不自然なこととも考えられない。

脚注
1 「Taxウォーズ」日本経済新聞(平成25年6月30日)特集記事など
2 「HM Revenue and Customs」英国歳入関税庁、我が国の国税庁に相当。
3 どちらのケースも英国議会の報告書「Annual Report and Accounts(2011-2012)」における報告内容を簡略化した。
4 ルクセンブルグの法定税率は28.8%であるが、何らかの優遇措置によって実質的な税負担はかなり低いようである。

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