カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2013年09月23日 【上場制解度説】 特設注意市場銘柄の積極的な活用等のための上場制度の見直しについて(2013年9月23日号・№516)

上場制解度説
特設注意市場銘柄の積極的な活用等のための上場制度の見直しについて
 株式会社東京証券取引所 上場部 池田直隆

Ⅰ はじめに

 株式会社東京証券取引所(以下「東証」という。)では、近年の粉飾決算事案等を踏まえた対応の一環として、今般、虚偽記載等に起因する上場廃止基準の取扱いの明確化や特設注意市場銘柄制度の見直しなどを実施した。以下では、当該見直しの概要について解説する。

Ⅱ 虚偽記載等に起因する上場廃止基準の取扱いの明確化

1 虚偽記載等に係る上場廃止基準の取扱いの明確化
 東証では、昭和45年以来、上場会社が財務諸表等に虚偽記載を行った場合や上場会社の財務諸表等に添付される監査報告書等に「不適正意見」又は「意見の表明をしない」旨が記載された場合(以下「虚偽記載等」という。)について、「その影響が重大であると当取引所が認める場合」を上場廃止の対象として規定してきた。
 この虚偽記載等に係る上場廃止基準については、これまで一定程度の事例を積み重ねてきたところではあるが、虚偽記載等の影響の重大さに関する東証の判断を巡っては、東証が監理銘柄に指定して、直ちに上場廃止とすることが適当かどうかについて審査をしている間に、上場廃止の判断を巡る報道が過熱することによって、株価形成に悪影響が生じる事例が後を絶たないほか、金融庁の企業会計審議会での「監査における不正リスク対応基準」の設定等に係る議論においても、監査人の対応が直ちに上場廃止に直結しないことが明らかになるよう、上場廃止ルールの在り方(不適正意見や意見不表明の取扱い)の検討が必要との指摘がなされている。
 そこで今回の改正では、虚偽記載等に係る上場廃止基準について、「その影響が重大であると当取引所が認める場合」とあるのを、「直ちに上場廃止としなければ市場の秩序を維持することが困難であることが明らかであると当取引所が認めるとき」に改めた(有価証券上場規程第601条第1項第11号)。これは、当該規定が、東証の金融商品市場に対する投資者の信頼を著しく毀損すると認められる場合、すなわち、市場の信頼維持のために上場廃止以外の手段がないという事態を想定したものであることを明確にしようとするものである。
 また、この改正意図をより明確にするため、平成25年6月に公表した制度要綱では、「上場前から債務超過であったなど虚偽記載により上場基準の著しい潜脱があった場合」や、「実態として売上高の大半が虚偽であったなど虚偽記載により投資者の投資判断を大きく誤らせていた場合」などを具体的な対象として例示した(これらはあくまで例示であるため、ここで例示されている事例しか虚偽記載等に係る上場廃止基準に該当しないということを意味するものではないことをご留意いただきたい。)。
 なお、実際の審査では、虚偽記載等の期間や金額、態様、株価への影響その他の事情などの観点を確認することとしている(上場管理等に関するガイドラインⅣ3.)。
 今回の改正を踏まえた虚偽記載等が発生した場合の取扱いのイメージについては、図表1を参照いただきたい。


2 特設注意市場銘柄制度の位置付けの明確化  東証では、上場廃止基準に抵触しない程度の重大な上場規則違反が認められた上場会社について、将来の上場廃止の可能性を留保して、投資者に対して注意喚起を行いつつ、上場会社に対して適切な改善を求める制度として、平成19年11月に特設注意市場銘柄制度を導入している。
 特設注意市場銘柄制度は、上場会社に一定の企業行動を義務付ける企業行動規範の制定など東証の有価証券上場規程の役割が拡大する中で、規定違反を防止するためのエンフォースメント手段の多様化を図るために導入された制度であり、主に虚偽記載等に該当したものの上場廃止とならなかった上場会社を対象として、これまで適用実績を蓄積してきた。
 しかしながら、特設注意市場銘柄に指定された上場会社については、通常の上場会社とは異なり、適切な改善がなされなければ上場廃止となるにもかかわらず、単なる上場の維持と誤解されているとの指摘もあり、制度の位置付けが投資者その他の関係者に必ずしも十分に理解されていない懸念があった。
 そこで、今回の改正では、新たに特設注意市場銘柄に指定した上場会社が所定の期間内に内部管理体制等を改善しなかった場合などについて、独立した上場廃止基準として明示することとした(有価証券上場規程第601条第1項第11号の2)。具体的には、図表2に記載している5つの類型を上場廃止の対象として明示している。

 類型①については、内部管理体制等の改善の必要性が高く、特設注意市場銘柄に指定して改善を求めるべきケースであるが、そもそも改善の見込みがない場合には、改善機会を付与したとしても改善がされないことが明白であるため、その時点で上場廃止とするものである。
 また、類型②、類型③及び類型④は、特設注意市場銘柄に指定する際には改善の見込みがあると判断されたものの、その後、改善が見込まれなくなったものについては、改善期間の満了を待ったり、改善期間を延長したりするまでもなく、改善が見込まれなくなった時点で上場廃止とするものである。具体的には、特設注意市場銘柄への指定後、合理的な期間内に改善に向けた具体的な行動がなされない場合などに、「改善の見込みがなくなった」と取り扱うことを想定している。
 なお、類型③及び類型⑤における内部管理体制等の改善がなされなかったかどうかの判断については、従来から審査している内容に大きな変更はない。

Ⅲ 特設注意市場銘柄制度の見直し
 今般の見直しでは、特設注意市場銘柄制度について、これまでの適用実績を踏まえ、より積極的に活用していくための見直しも併せて実施している。

1 指定対象の拡張  これまで特設注意市場銘柄への指定対象については、虚偽記載等や上場契約違反などによって東証が上場廃止のおそれがあると判断した後、上場廃止に至らなかった場合、及び、上場規則に違反した上場会社が改善報告書を提出した後、改善措置の実施状況及び運用状況に改善が認められない場合の2つの類型に限定してきた。
 その結果、例えば、虚偽記載等の場合では、結論として上場廃止相当ではなく、特設注意市場銘柄への指定が適当と考えられる場合でも、一旦は、上場廃止のおそれを認定して監理銘柄に指定しなければ、直ちに特設注意市場銘柄に指定できないという制約があった。
 そこで、今回の改正では、既存の類型に該当しなくとも、上場会社の内部管理体制等について改善の必要性が高いと認められる場合には、特設注意市場銘柄に指定できるものとした。具体的には、虚偽記載等の場合について、上場廃止のおそれの有無にかかわらず、内部管理体制等の改善の必要性に応じて特設注意市場銘柄へ指定することができるようにするとともに(有価証券上場規程第501条第1項第2号)、上場廃止の検討対象とならない適時開示に関する規則や企業行動規範への違反の場合についても同様に特設注意市場銘柄へ指定することができるようにした(同項第3号及び第4号)。

2 内部管理体制等の改善期間の短縮  これまで特設注意市場銘柄に指定した上場会社には、指定から「3年以内」に内部管理体制等の改善を行うよう求めてきた。これは、本来、投資者保護の観点からは内部管理体制等の不備を長期間に亘って放置することは望ましくない一方で、制度導入当初には、新規上場審査に準じた審査の実施にあたり、一般に非公開会社が新規上場準備に要する期間と同程度の対応期間が必要になる場合が想定されたためであった。一方で、その後の実務においては、指定を解除された事例の大半で1年以内に必要な改善が図られ、指定から1年後の審査で指定が解除される実績が積み上がってきた。
 そうした実績を踏まえ、今回、早期改善を促すことで投資者保護の実効性を高める観点から、改善期間を原則1年に改めることとした(有価証券上場規程第501条第2項等)。
 1年が経過した時点で引続き内部管理体制等に問題がある場合は、改善の見込みがなくなったときを除き、特設注意市場銘柄への指定を6か月間継続して改善を促すこととしている。特設注意市場銘柄への指定から1年が経過した時点で引続き内部管理体制等に問題があり、かつ、改善の見込みがなくなった場合や、指定を6か月間継続したにもかかわらず内部管理体制等が改善されなかった場合には、上場廃止となる(図表2参照)。
 また、特設注意市場銘柄に指定される前でも改善の見込みがない場合には上場廃止となり、指定期間中でも改善の見込みがなくなった場合や、指定期間が満了した際に改善がなされていない場合には上場廃止となることを考慮すると、特設注意市場銘柄への指定前での今後の改善の方針、改善の計画や、指定後の改善の進捗状況は、株主及び投資者にとって投資判断上重要な情報となると考えられる。今後は、これらの情報に関する積極的な開示を求めていくこととしたい。


Ⅳ 上場契約違約金の額の見直し
 東証では、平成20年の制度改正によって、上場規則違反を行った結果、東証市場に対する株主・投資者の信頼を毀損した上場会社に対し、上場契約違約金の支払いを求めることができる制度を導入している。
 この制度の趣旨は、上場規則違反によって市場に対する信頼が害されたことに対する損害賠償金として整理しているが、その金額については個別に算定することが困難なので、損害賠償の予定(民法第420条)として、あらかじめ1,000万円とみて一律に規定してきた。
 その一方で、近似の適用事例において、この1,000万円という金額があまりに低額であるため、上場規則の実効性確保手段としての効果が適切に発揮されているとは言い難いのではないかといった指摘も多く寄せられている。
 そこで、今回の見直しにより、その金額を、市場の信頼の毀損度合いを反映した金額とするために、個別の上場会社ごとに、市場区分や時価総額に応じて請求している年間上場料を基礎として、その20年分に相当する額を徴収することとした(有価証券上場規定施行規則第504条第1号)。
 なお、見直し後は、市場区分や時価総額に応じて、例えばマザーズの小規模な時価総額の会社については現在と同額のおよそ1,000万円を徴収することとなり、一方で、市場第一部の大規模な時価総額の上場会社については、およそ9,000万円の金額が徴収されることとなる。

Ⅴ 有価証券報告書等の提出遅延に係る見直し
 今回の改正では、上場会社の有価証券報告書等の提出遅延に係る見直しもあわせて実施している。
 これまで東証では、上場会社が有価証券報告書等を法定期限までに提出できなかった場合に、1か月(天災地変等の上場会社に帰責性がない事情による場合には3か月)の観察期間を設け、当該期間経過後も提出できなかった場合に上場廃止としてきた。
 この点に関連して、不正リスク対応基準の設定等に係る検討では、不正の兆候を監査人が発見し、追加的な監査手続きの実施を要するときに、上場廃止のリスクにより十分な監査が実施できない場合が生ずるとの懸念が示され、これを受ける形で、本年6月に金融庁により改正された企業内容等開示ガイドライン24-13では、有価証券報告書等の提出期限の延長に係る「やむを得ない理由」の取扱い等が整理されている。
 そこで、今回の改正では、上場会社が有価証券報告書等の提出期限の延長承認を受けた場合の取扱いを整備した。具体的には、有価証券報告書等の提出遅延に係る上場廃止基準について、「承認を得た期間の経過後8日目(休業日を除外する。)の日まで」に提出できなかった場合に上場廃止とする規定を設けたほか(有価証券上場規程施行規則第601条第10項第1号)、所定の期日までに有価証券報告書等が提出されない事情は投資者の投資判断に影響を及ぼすと考えられるため、上場会社が提出期限の延長に係る承認申請書の提出を行うことを決定した場合の適時開示を求めることとした(有価証券上場規程第402条第1号akの2)。
 なお、提出期限の延長に係る開示を行った場合には、その後、延長が承認されたかどうかの結果についても適時開示が求められる。延長が承認された場合はその旨を開示することが求められ、原則として、延長後の提出期限までは監理銘柄に指定されない。ただし、上場会社が、延長後の期限までに有価証券報告書等を提出できない見込みとなった場合には、改めてその旨の適時開示が必要となり、その時点で監理銘柄に指定されることになる。
 延長が承認されなかった場合は提出期限までに有価証券報告書等を提出できないことが想定されるが、その場合は、延長が承認されなかった旨の適時開示と併せて、提出できない見込みである旨の適時開示を行うことが求められ、その時点で監理銘柄に指定されることとなる。
 上場会社が提出期限の延長申請を行わなかった場合や、延長承認が得られなかった場合の取扱いは従来どおりである。(図表4参照)


Ⅵ 適用時期等
 以上が今般の見直しの概要であり、改正規定は、平成25年8月9日(以下「施行日」という。)から施行している。また、特設注意市場銘柄制度の見直しについては、施行日以後に特設注意市場銘柄に指定する上場会社から適用しており、施行日において既に特設注意市場銘柄に指定されている上場会社については、従前の制度を適用することとしている。
 なお、東京証券取引所自主規制法人の「上場管理業務について-虚偽記載審査の解説-」(平成22年発刊)の内容については、今回の有価証券上場規程等の改正前の取扱いが示されているものであり、今後は参照いただかないようお願いしたい。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索