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解説記事2014年02月10日 【新会計基準解説】 実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」について(2014年2月10日号・№534)

新会計基準解説
実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」について
 企業会計基準委員会 専門研究員 村田貴広

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成25年12月25日に実務対応報告第30号「従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引に関する実務上の取扱い」(以下「本実務対応報告」という。)を公表した(脚注1)。
 本稿では、本実務対応報告の概要を紹介するが、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめお断りしておく。

Ⅱ 本実務対応報告公表の経緯
 従業員等に信託を通じて自社の株式を交付する取引としては、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引と受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引が行われているが、これらの取引に関する会計処理の定めが明確でないことから会計処理のばらつきが生じているとの問題提起が、基準諮問会議に寄せられた。ASBJでは、基準諮問会議からの提言を受け、現状行われている実務を踏まえたうえで、当面の取扱いを明らかにすることを目的として、当該取引に関する会計処理及び開示について検討を行い、平成25年7月2日に公開草案を公表して広く意見を求めた。本実務対応報告は公開草案に対して一般から寄せられた意見を踏まえてさらに検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。
 なお、本実務対応報告は、当該取引に関する法律的な解釈を示すことを目的とするものではなく、当該取引が法的に有効であることを前提として会計処理及び開示の取扱いについて示している。

Ⅲ 本実務対応報告の範囲
 本実務対応報告では、従業員への福利厚生を目的として、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引及び受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引を適用の対象としている。
 従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引(図表1)は、概ね以下から構成される(本実務対応報告第3項)。

(1)企業を委託者、当該企業の従業員持株会に加入する従業員(ただし、一定の要件を満たした者)を受益者、信託会社を受託者とする信託契約を締結し、企業は金銭の信託を行う。当該信託契約は、受託者が信託にて企業の株式を取得し、企業の従業員持株会へ当該株式を売却することを目的とする。委託者である企業は、信託の変更をする権限を有している。
(2)受託者は、信託における金融機関等からの借入金により、信託にて企業の株式を取得する。この取得は、企業による募集株式の発行等の手続による新株の発行、若しくは自己株式の処分、又は信託による市場からの株式の取得により行われる。また、当該借入金の全額について、企業による債務保証が付され、企業は信託の財産から適正な保証料を受け取る。
(3)受託者は、信託契約に従い、信託にて保有する企業の株式を、時価により企業の従業員持株会へ売却する。
(4)受託者は、信託契約に従い、信託の決算を毎期行う。
(5)受託者は、信託期間中に、信託にて保有する株式の売却代金と配当金を原資として信託における金融機関等からの借入金及び借入利息を返済する。
(6)信託終了時に、信託において株式の売却や配当金の受取りなどにより資金に余剰が生じた場合にはその余剰金は従業員に分配され、企業に帰属することはない。これに対して、信託において資金に不足が生じた場合、企業は債務保証の履行等により不足額を負担する。
 また、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引(図表2)は、概ね以下から構成される(本実務対応報告第4項)。

(1)企業を委託者、当該企業の一定の要件を満たした従業員を受益者、信託会社を受託者とする信託契約を締結し、企業は金銭の信託を行う。当該信託契約は、受託者が信託にて企業の株式を取得し、企業の従業員へ当該株式を交付することを目的とする。委託者である企業は、信託の変更をする権限を有している。
(2)受託者は、信託された金銭により、信託にて企業の株式を取得する。この取得は、企業による募集株式の発行等の手続による新株の発行、若しくは自己株式の処分、又は信託における市場からの株式の取得により行われるものとする。
(3)企業は、あらかじめ定められた株式給付規程に基づき、受給権の算定の基礎となるポイントを、信託が保有する株式の範囲で従業員に割り当てる。
(4)割り当てられたポイントは、一定の要件を満たすことにより受給権として確定する。受託者は、信託契約に従い、確定した受給権に基づいて、信託にて保有する企業の株式を従業員に交付する。
(5)受託者は、信託契約に従い、信託の決算を毎期行う。
(6)信託終了時に、信託において配当金の受取りなどにより資金に余剰が生じた場合、その余剰金は従業員に分配され、企業に帰属することはない。
 本実務対応報告では、対象となる取引に関する主要な論点について会計処理の考え方を示している。一方で、取引の内容に関して「概ね以下から構成される。」(本実務対応報告第3項、第4項)という表現を用いることにより、これらの項で示した内容と大きく異ならない場合においても、本実務対応報告の定めが会計処理の判断に用いられることを想定している。
 なお、本実務対応報告は前述の2つの取引を対象としており、企業会計基準適用指針第25号「退職給付に関する会計基準の適用指針」に定めのある退職給付信託や、企業会計基準第10号「金融商品に関する会計基準」等に定めのある実質的ディフィーザンスなどについては適用されない(本実務対応報告第2項)

Ⅳ 会計処理

1 従業員持株会に信託等を通じて自社の株式を交付する取引
(1)個別財務諸表における処理
 ① 総額法の適用
 本実務対応報告では、個別財務諸表において総額法を適用する要件として2つの要件を示したうえで(本実務対応報告第5項(1)及び(2))、本実務対応報告第3項に示した取引は、この要件を満たし総額法を適用すべきものとしている(本実務対応報告第6項)。
 これらの2つの要件は、本実務対応報告の対象とする取引についての処理の考え方を示していた「連結財務諸表における特別目的会社の取扱い等に関する論点の整理」脚注10なお書きの内容を踏襲したものであり、現行の実務においてこの考え方に基づいて判断しているケースが多いことを踏まえたものである。
 ② 自己株式処分差額の認識時点  信託による自社の株式の取得が、企業の自己株式の処分により行われる場合、自己株式処分差額の認識時点については、「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」と「信託から従業員持株会へ株式を売却した時点で、企業において処分差額を認識する方法」(案2)の2つが考えうる(図表3)。前者は企業から信託へ株式を処分した時点で会社法上の自己株式の規制を受けなくなることに着目する考え方であり、後者は総額法の適用により信託の財産が企業の個別財務諸表に計上される処理との親和性に着目する考え方である。

 いずれの方法も一定の根拠があるが、企業会計基準適用指針第2号「自己株式及び準備金の額の減少等に関する会計基準の適用指針」における自己株式処分差額の認識時点の定めとの親和性及び自己株式の処分先である信託が他益信託であり、信託が企業と同一の存在とみなすことは必ずしも適切ではないと考えられる点と、企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識することとは整合的であると考えられることから、企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識することとした(本実務対応報告第7項)。
 ③ 期末における総額法等の会計処理  期末における総額法の適用においては以下の事項に留意することとした(本実務対応報告第8項)。
(1)総額法の適用に際して、企業は信託に残存する自社の株式を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く。)により株主資本において自己株式として計上する。信託における帳簿価額に含められていた付随費用は(2)の信託に関する諸費用に含める。
(2)信託の損益(信託による自社の株式の売却損益、信託が保有する株式に対する企業からの配当金及び信託に関する諸費用)の純額が正の値となる場合には企業において負債に計上し、負の値となる場合には資産に計上する。
(3)信託において借入金の返済や信託に関する諸費用を支払うための資金が不足する場合、債務保証の履行により企業が不足額を負担することとなるため、企業の負担の可能性がある場合には、負債性の引当金の計上の要否を判断する。
(4)自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定上、企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式の帳簿価額は通算しない。
(5)企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引は相殺消去を行わないものとする。
(2)連結財務諸表における処理  本実務対応報告では、総額法により信託財産が企業の個別財務諸表において計上される結果、実質的に信託財産がすべて財務諸表に反映済みであるという点を考慮し、信託について子会社及び関連会社に該当するか否かの判定を要しないこととした。なお、個別財務諸表における総額法の処理は、連結財務諸表上、そのまま引き継ぐこととなる(本実務対応報告第9項)。
 また、上記と同様の考え方により、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引においても同様の取扱いを行うこととしている(本実務対応報告第15項)。

2 受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引
(1)個別財務諸表における処理
 ① 総額法の適用
 本実務対応報告では、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引においても、従業員持株会に信託等を通じて自社の株式を交付する取引と同様の考え方により、期末に総額法を適用して、信託の財産を企業の個別財務諸表に計上することとしている(本実務対応報告第10項)。
 検討の過程で、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引では、「信託財産の経済的効果の帰属」を信託財産の運用成績の帰属と考えると、当初の資金拠出後に委託者である企業に信託財産の運用成績は帰属しないため、本実務対応報告第5項(2)の要件を満たさないとする意見もあった。最終的な検討の結果では、企業への労働サービスの提供の対価として従業員に信託財産である自社の株式が交付されることを考えると、信託財産の経済的効果が企業に帰属する側面もあるとして、同要件を満たすものとして整理している。
 ② 自己株式処分差額の認識時点  本実務対応報告では、自己株式処分差額の認識時点について、従業員持株会に信託等を通じて自社の株式を交付する取引の取扱いと同様に、「企業から信託へ自己株式を処分した時点で処分差額を認識する方法」を採ることとした(本実務対応報告第11項)。
 検討の過程で、従業員持株会に信託を通じて自社の株式を交付する取引では信託による資金調達が金融機関等からの借入により行われるのに対し、受給権を付与された従業員に信託を通じて自社の株式を交付する取引では企業からの資金の拠出により行われることから、信託に対する自己株式の処分が経済的実態として行われているかどうかについて従業員持株会の取引と異なる判断の余地があり、必ずしも両者の整合性を取る必要はないとする意見もあった。
 しかし、検討の結果、両者はいずれも企業と同一の存在とはみなせない他益信託を利用すること及び自己株式の処分が法的に有効であることを前提としていることから、異なる考え方を採ることは適当ではないと考え、両者の整合性を考慮した取扱いとしている。
 ③ 期末における総額法の会計処理  期末における総額法の適用については以下の事項に留意することとした(本実務対応報告第14項)。
(1)総額法の適用に際して、企業は信託に残存する自社の株式を、信託における帳簿価額(付随費用の金額を除く。)により株主資本において自己株式として計上する。信託における帳簿価額に含められていた付随費用は(2)の信託に関する諸費用に含める。
(2)信託の損益(信託が保有する株式に対する企業からの配当金及び信託に関する諸費用)の純額が正の値となる場合には企業において負債に計上し、負の値となる場合には資産に計上する。
(3)自己株式の処分及び消却時の帳簿価額の算定上、企業が保有する自己株式と信託が保有する自社の株式の帳簿価額は通算しない。
(4)企業が信託に支払った配当金等の企業と信託との間の取引は相殺消去を行わないものとする。
 ④ 従業員へのポイントの割当等に関する会計処理  本実務対応報告では、企業は、従業員に割り当てられたポイントに応じた株式数に、信託が自社の株式を取得したときの株価を乗じた金額を基礎として費用及びこれに対応する引当金を計上することとしている(本実務対応報告第12項)。
 従業員へのポイントの割当ての会計処理については、費用配分のあり方の観点から、「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」、「ポイント割当時の株価を基礎とし、その後の株価変動は反映しない方法」及び「ポイント割当時の株価を基礎とし、給付確定まで毎期の株価変動を反映する方法」の3つの方法の検討が行われた。
 これらの方法にはそれぞれ一長一短があるが、本件の取引が自社の株式を用いたインセンティブ・プランであるという性質から、ストック・オプションとの類似性があると考えられる点や、企業における負担が資金拠出時点で確定しているといった点を重視し、「信託への資金拠出時の株価を基礎とする方法」を用いることが適当であると考えられた。
 なお、以下の点を考慮し、最終的には、信託による株式取得時の株価を基礎として費用を算定することとしている。
(1)実務的には信託への資金拠出と信託による株式の取得はほぼ同じ時期に行われることが多いことから、信託への資金拠出時の株価を基礎としても信託による株式取得時の株価を基礎としてもさほど相違はないと考えられる。
(2)信託への資金拠出時の株価で引当金を計上しても、引当金の取崩しは信託による株式の取得原価を基礎に行われるため処理が煩雑となる。
(3)企業からの配当金を原資として信託による株式の取得が行われる場合、資金拠出時の株価が存在せず、費用を算定するための基礎となる株価を別途定める必要が生じる。

Ⅴ 開示等

1 取引に関連する事項の注記
 本実務対応報告の対象となる取引を行っている場合には、各期の連結財務諸表及び個別財務諸表において、以下の事項を注記することとしている。なお、連結財務諸表における注記と個別財務諸表における注記の内容が同一となる場合には、個別財務諸表の注記は、連結財務諸表に当該注記がある旨の記載をもって代えることができる(本実務対応報告第16項)。
(1)取引の概要
(2)総額法の適用により計上された自己株式について、純資産の部に自己株式として表示している旨、帳簿価額及び株式数
(3)総額法の適用により計上された借入金の帳簿価額
 また、株主資本等変動計算書には、以下の事項を注記することとしている(本実務対応報告第18項)。
(1)当期首及び当期末の自己株式数に含まれる信託が保有する自社の株式数
(2)当期に増加又は減少した自己株式数に含まれる信託が取得又は売却、交付した自社の株式数
(3)配当金の総額に含まれる信託が保有する自社の株式に対する配当金額
 総額法の適用により自己株式に計上された、信託が保有する自社の株式に関する情報を開示することとしたのは、信託が保有する株式は通常の自己株式と異なる性質を有することから、これらの情報を開示することが財務諸表の利用者にとって有用と考えられたためである。
 また、総額法の適用により計上された借入金の帳簿価額については、信託が保有する株式の価格が下落しない場合には、当該株式の売却資金で返済がなされるため一定の返済原資が確保されていること及び借入金利息を企業が負担しないことから、通常の借入金等の債務とは性格が異なると考えられたため、注記に含めている。

2 1株当たり情報における取扱い  総額法の適用により計上された自己株式に関する1株当たり情報の算定にあたっての取扱いについては、控除対象の自己株式に含める方法と、控除対象の自己株式に含めない方法の2つが検討された。前者の方法は、信託が保有する自社の株式を自己株式として会計処理することとの整合性を重視するもので、後者の方法は、企業が直接保有する自己株式と信託が保有する自社の株式の性質の違いがあるため同様に扱うべきでないとの考え方によるものである。
 本実務対応報告では、1株当たり当期純利益の算定上、信託が保有する自社の株式は期中平均株式数の計算において控除する自己株式に含め、また、1株当たり純資産額の算定上、期末発行済株式総数から控除する自己株式に含めることとした。しかしながら、財務諸表利用者の便宜のため、後者の方法による場合の数値を算定するための計算基礎を提供することとし、総額法の適用により計上された自己株式を控除する自己株式に含めている旨、並びに期末及び期中平均の自己株式の数の注記を求めている(本実務対応報告第17項)。

Ⅵ 適用時期等
 本実務対応報告は、適用にあたって一定の周知期間が必要であると考えられたことから、平成26年4月1日以後開始する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から適用することとしている。ただし、公表時点から新たな定めに従った会計処理を行う要請がある可能性を考慮し、公表後最初に終了する事業年度の期首又は四半期会計期間の期首から適用することができることとしている(本実務対応報告第19項)。
 なお、実務上の便宜のため、経過的な取扱いとして、従来採用していた方法による会計処理を継続することを認めている。この場合には、各期の連結財務諸表及び個別財務諸表において以下を注記することとしている(本実務対応報告第20項)。
(1)取引の概要
(2)当該取引について、従来採用していた方法により会計処理を行っている旨
(3)信託が保有する自社の株式に関する以下の事項
 ① 信託における帳簿価額
 ② 当該自社の株式を株主資本において自己株式として計上しているか否か
 ③ 期末株式数及び期中平均株式数
 ④ ③の株式数を1株当たり情報の算出上、控除する自己株式に含めているか否か
 これは、会計処理について本実務対応報告の定めを適用しなかったとしても、当該取引が自己株式に関連するものであり、1株当たり情報に対する影響がある可能性があることから、1株当たり情報の算定に関連する情報を提供することが財務諸表利用者にとって有用であると考えられたためである。

脚注
1 本実務対応報告の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/shintaku-pi/)を参照のこと。

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