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解説記事2014年05月26日 【未公開裁決事例紹介】 架空の業務委託契約による売買価額の分散を認めず(2014年5月26日号・№547)

未公開裁決事例紹介
架空の業務委託契約による売買価額の分散を認めず
請求人の不動産購入行為に事実の仮装なし

○請求人が一括購入した土地・建物の取得価額の計算で事実を仮装し控除対象仕入税額を過大計上したとする重加算税の賦課決定処分が取り消された事例。

基礎事実
 請求人は、昭和46年9月22日に設立された法人で、主に不動産の賃貸、管理および保全、売買等の業務を行っており、本件課税期間(平成22年9月1日から平成23年8月31日までの課税期間)における代表取締役は×××であった。
 請求人は、平成23年3月25日、本件売主から本件土地および本件建物(以下「本件不動産」という)を購入した。なお、本件不動産には、本件課税期間の開始の日現在で、×××を根抵当権者とする2つの根抵当権が設定されている旨の登記がされており、また、×××を債権者とする差押えおよび参加差押えがされている旨の登記がされていたが、平成23年3月25日に、本件各根抵当権および本件差押え等の抹消の登記が行われた。
 請求人は、本件不動産の購入に関し、本件売主または次の受託者との間で、要旨次のとおりの記載がある各契約書を取り交わした。
  イ 平成23年3月4日付「不動産売買契約書」(以下「本件売買契約書」という) (イ)売主である本件売主と買主である請求人は、売主所有の本件不動産につき売買契約を締結した。
(ロ)本件不動産の売買契約代金は180,000,000円(以下「本件売買契約代金」という)とする。
  ロ 受託者をX社とする平成23年3月4日付「業務委託契約書」 (イ)委託者である請求人と受託者であるX社は、X社に対して請求人が依頼する本件不動産の各種調査、助言および交渉をX社が行うにつき、業務委託契約を締結する。
(ロ)請求人は、本件不動産の購入に伴い、次の(ハ)に定める業務をX社に委託し、X社はこれを受託する。
(ハ)請求人がX社に委託する業務は、以下のとおりとする。
(A)本件不動産の購入に関しての調整・交渉
(B)取引の手続および日程に関する検討並びに立案
(C)契約書類の確定および作成についての支援並びに履行についての助言および支援
(ニ)請求人は、X社が上記(ハ)の業務を遂行し、本件不動産の売買契約が締結され、当該契約に基づいて本件不動産の引渡しが完了したときは、次のとおり報酬を支払うこととする。
(A)報酬金額35,000,000円
(B)消費税等相当額は上記金額に含む
※編注:請求人はY社とも、上記X社と同様の業務委託契約を締結しており、報酬金額7,500,000円(消費税等相当額を含む)を支払うこととしていた。
 請求人は、平成23年3月25日に、本件売主に対して180,000,000円、X社に対して35,000,000円、Y社に対して7,500,000円の金員をそれぞれ支払った。
 請求人は、×××に対し、本件不動産の売買契約締結の仲介手数料として、平成23年3月4日に2,800,000円および平成23年3月25日に2,933,000円の合計額5,733,000円(消費税等の額273,000円を含む)を支払った。
 請求人は、本件建物に係る消費税等の計算に関し、本件土地の路線価を参考にして本件土地の代金相当額を算出し、本件売買契約代金(180,000,000円)から、当該代金相当額を控除した残額を本件建物の代金相当額(消費税等の額を含む)とし、これに本件各業務委託契約書に係る報酬金額の合計額42,500,000円および本件仲介手数料の額を合計した金額から、消費税法30条1項本文に規定する課税仕入れに係る消費税額を計算し、確定申告をした。
 請求人は、本件調査に基づき、本件各契約書に記載された金額の総額222,500,000円を本件土地および本件建物の購入に係る金額として、当該金額を本件土地および本件建物の固定資産税評価額を基礎にあん分して算出した本件建物の代金相当額(消費税等の額を含む)および本件仲介手数料の額、並びに計上が漏れていた経費の額などから控除対象仕入税額を計算するなどして、修正申告をした。
 原処分庁は、本件不動産の売買価額は222,500,000円であるところ、これを180,000,000円とし架空の業務委託手数料42,500,000円の全額を建物に係る手数料として計上することにより控除対象仕入税額を過大に計上して消費税等の確定申告をしたのだから、請求人の行為には事実の仮装があるとして、修正申告に対し、重加算税の賦課決定処分をした。

争点および主張  本事案の争点は、請求人が行った本件不動産の購入に関する行為に、事実の仮装があったか否か。争点に係る当事者の主張は、次頁のとおり。

【表】
原処分庁 請 求 人
 本件調査時の関係者の各申述および本件売主、X社およびY社が原処分庁宛に作成した各書面によれば、本件不動産の契約当事者が真に合意した売買価額は222,500,000円であり、本件売買契約代金(180,000,000円)は虚偽の表示と認められ、また、本件各業務委託契約書に基づく各契約は、本件売主が本件不動産の売買価額のうち42,500,000円を本件売買契約代金とは別に受領するために締結された実態のないものと認められ、請求人も実態のない本件各業務委託契約書の作成に携わっていたと認められる。
 そして、×××は、本件各業務委託契約書に記載された金額が本件不動産の売買価額を分散させたものであることを了知していたと認められるにもかかわらず、その分散させた金額が本件課税期間の消費税等の確定申告書に適正に反映しているか否か何ら確認することなく消費税等の確定申告をしたのであるから、請求人の行為には事実の仮装がある。
 請求人が、本件売主との間で合意した総額222,500,000円の支払先を3分割し、本件売買契約代金を180,000,000円、権利関係を調整する対価という名目でX社およびY社に対する各報酬の合計額を42,500,000円とする本件各契約書にそれぞれ記名押印をしたのは、本件不動産を購入するための取引条件として売主側から要請を受けたためであり、請求人には、取引を仮装する意思やその事実はない。
 そして、×××は、税務代理人にその旨を伝え、本件不動産の購入に関する資料を提出して会計処理の判断を委ねだが、結果的に本件各業務委託契約書に記載された各報酬の額を全て本件建物の取得価額として消費税等の確定申告をしたのは、税務代理人が単に本件土地および本件建物の各取得価額のあん分計算を誤ったにすぎず、請求人および税務代理人のいずれにも虚偽の事実を持って申告するという意思はなかった。したがって、請求人の行為に事実の仮装はない。

審判所の判断
(1)認定事実(略)
(2)関係者の答述
 イ (略)
 ロ まとめ
 関係者の各答述の間に齟齬はなく、当該各答述は、認定事実ともおおむね符合しており信用できるところ、当該各答述を総合すると、本件不動産の売買契約における取引価額の決定の経緯は、次のとおりであると認められる。
(イ)請求人は、まず、本件不動産の購入価額として220,000,000円を提示した。
(ロ)これに対し、X社は、請求人から報酬を得ようと考え、×××から提示があった180,000,000円に、当該報酬の額として35,000,000円を上乗せし、Y社に提示した。
(ハ)Y社も、請求人から報酬を得ようと考え、X社の提示した額に当該報酬の額として7,500,000円を上乗せし、請求人に対して総額222,500,000円を提示した。
(ニ)請求人は、上記(ハ)の総額222,500,000円が予算の範囲内であったため、その内訳を知らないまま購入を了承した。
(ホ)請求人は、その後、本件不動産に係る売買契約締結までの間に、×××から、権利関係の調整を行う業者等が複数介在すること、本件売買契約代金として本件売主に対して180,000,000円を支払うこと、別途42,500,000円を支払うことを聞いた上で支払を了承し、そして、本件不動産に係る代金決済までの間に、当該42,500,000円について、X社およびY社に対して35,000,000円および7,500,000円をそれぞれ支払うことを了承した上で、本件不動産を購入した。
(3)法令解釈  国税通則法68条1項に規定する「事実を隠ぺいした」とは、課税標準等または税額等の基礎となる事実を隠ぺいし、あるいは故意に脱漏したことをいい、また、「事実を仮装した」とは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、あたかも、それが真実であるかのように装うなど、故意に事実をわい曲したことをいうと解するのが相当である。
(4)本件不動産の購入における事実の仮装の有無
 イ 請求人と本件売主との間の本件不動産の売買価額について
 本件売買契約書における本件売買契約代金の額は180,000,000円であり、請求人が本件売主に支払った金員も同額であるところ、①×××および×××は、本件不動産の根抵当権者である×××に、本件不動産を180,000,000円で購入する者が見つかった旨伝えていること、②X社は、請求人が提示した価額に対し、180,000,000円を本件売買契約代金とし、35,000,000円をX社に報酬として支払うよう提示していること、③×××もX社の当該提示内容に加え、報酬の支払を求めていること、④これを受けた×××は、×××に対して、本件売買契約代金として本件売主に対して180,000,000円を支払い、別途報酬として42,500,000円を支払うことを伝え、×××はこれを承諾し、×××に対して支払われた本件仲介手数料の額は、本件売買契約代金180,000,000円を基に算定されていることに加え、⑤当審判所の調査によっても、X社またはY社に対して支払われた金員が、両社を経由して本件売主に渡っていたとする事実は認められないことを総合すると、請求人と本件売主との間の売買取引の対価の額である本件不動産の売買価額は180,000,000円であると認めるのが相当である。
 ロ X社およびY社に対して支払われた金員について  ×××および×××は、本件不動産の売買に当たり、本件各根抵当権を抹消するための債務の弁済額の交渉や本件差押え等の解除のための滞納税金の納付額の交渉を行うとともに、×××の答述によれば、代金決済に立ち会ったことが認められ、また、Y社は、×××の答述によれば、×××を介して請求人が要望した本件不動産の見分および図面等の閲覧の段取りや本件売買契約書のひな型の作成業務を行ったことが認められ、両社のこれらの業務の内容は、本件各業務委託契約書に記載された業務の内容に符合するものである。
 そうすると、X社およびY社は、請求人に対して、本件不動産の購入に伴う役務の提供を行ったと認めるのが相当であり、そして、本件の売買契約が締結され、請求人は本件不動産を購入したのであるから、請求人がX社およびY社に対して支払った金員は、両社が本件各業務委託契約書に記載された業務を行い、請求人に対して役務の提供をしたことに対する対価であると認めるのが相当である。そして、当該対価の額は、本件不動産の購入に要した費用の額に該当し本件不動産の取得価額に算入されるものではあるが、本件不動産の売買価額そのものであると認めることはできない。
 なお、×××は、本件不動産の購入の日である平成23年3月25日に、本件各業務委託契約書に記名押印したものであるが、請求人は、本件不動産に係る売買契約締結(同月4日)までの間に、権利関係の調整を行う業者等が複数介在することを聞いた上で、本件不動産に係る取引条件を了承していることからすれば、記名押印の日付をもって、本件各業務委託契約書に係る契約と、請求人とX社またはY社との間の取引の実態との関係が否定されるものではない。
 ハ まとめ  本件不動産の売買価額は180,000,000円であり、X社およびY社に対して支払われた各金員は、両社が本件各業務委託契約書に記載された業務を行い、請求人に対して役務の提供をしたことに対する対価であるところ、×××の「×××から、本件不動産の購入に当たり、権利関係の調整を行う業者等が複数介在している旨を聞き、また、取引の条件として、総額222,500,000円のうち本件売買契約代金として180,000,000円を支払い、残額42,500,000円は別の形で支払うよう言われた。当該42,500,000円の内訳の説明はなかったが、総額222,500,000円が予算だったので了承した」との答述の意味するところは、本件不動産の売買契約における取引価額の決定の経緯を踏まえると、請求人は、当初、本件不動産を総額222,500,000円で購入することを決めたが、本件売買契約代金を180,000,000円とし、差額の42,500,000円をX社およびY社に支払うという取引条件の提示を受け、これに応じて、本件売買契約書および本件各業務委託契約書に係る契約を締結したと評価するのが相当であるから、本件各契約書は、いずれも取引の実態に即したものというべきである。
 したがって、請求人が、本件不動産の売買価額を分散したとは認められず、ほかに、請求人が、本件不動産の購入に関し、何らかの事実を仮装したと認めるに足る客観的な証拠もないから、請求人が行った本件不動産の購入に関する行為について、事実の仮装はなかったと認めるのが相当である。

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