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解説記事2014年09月08日 【税務マエストロ】 移転価格税制への対応⑥(2014年9月8日号・№561)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
移転価格税制への対応⑥
#119 品川克己
税理士法人プライスウォーターハウスクーパース(ディレクター)

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#120 簡易課税制度(その4) 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  移転価格税制により、納税者企業が、国外関連取引の価格が独立企業間価格となっていないとの理由で課税されると、その課税対象となった所得は、その企業と取引の相手方である国外関連者の双方で課税されることとなる(二重課税の状態)。このような二重課税を排除、調整するための手段の一つが相互協議である。具体的には、双方の税務当局が納得できる独立企業間価格について合意を目指し協議を行うこととなる。近年は、相互協議をさらに発展させた「仲裁」も制度化されている。

1 移転価格税制と相互協議
(1)相互協議の意義
 相互協議とは、租税条約の規定に基づき、条約締結国の税務当局間で行う二国間協議である。租税条約の規定上は、相手国において「条約の規定に適合しない」課税を受けた場合や受けることになる場合に、そのような課税を排除するため、双方の税務当局による協議を求めることができるものである。なお相互協議で話し合われる内容は、移転価格課税に関するものに限らず、広く、二重課税排除のための対応策となる。ただし、租税条約に定められた制度であり、他国の関与も必要とする制度であることから、当然のことながら租税条約を締結していない国・地域との間では相互協議をすることはできないことに注意を要する(脚注1)。
(日米租税条約第25条1項)
 一方の又は双方の締約国の措置によりこの条約の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は、当該事案について、当該一方の又は双方の締約国の法令に定める救済手段とは別に、自己が居住者である締約国の権限ある当局に対して又は当該事案が前条1の規定の適用に関するものである場合には自己が国民である締約国の権限ある当局に対して、申立てをすることができる。当該申立ては、この条約の規定に適合しない課税に係る当該措置の最初の通知の日から3年以内に、しなければならない。
(2)移転価格関連の相互協議  相互協議は、移転価格税制による二重課税の排除のみならず、広く二重課税を排除するためのものであるが、現実的には移転価格課税に関連して行われるケースがほとんどである(参照)。

 相互協議事案の発生件数(正式申立て件数)は毎年150件前後であり、このうち移転価格関連は概ね95%に達している。特に事前確認に関する相互協議のみで80%以上となっているように、発生した二重課税の排除のための相互協議ではなく、二重課税が発生しないようにするためにも相互協議が利用されているといえる(事前確認については次回号で解説予定)。
 なお、処理事案1件あたりに要した平均的な期間は29.3か月と2年を超えており、事前確認に係る相互協議についても29.6か月と長期化している(国税庁発表:平成24年度の「総合協議を伴う事前確認の状況」について)。この長期化の影響からか、繰越件数の総数は減少していない。この「繰越」は、相互協議での解決が未済ということであり、したがって二重課税(及びそのリスク)が解消されていないことを表しており、この総数が減少していくことが望まれる。
 また、平成25年6月末での相互協議の相手国は、同じく国税庁発表によれば23か国となっており(脚注2)、中でもアメリカの事案が最も多く、次いでオーストラリア、イギリス、韓国、シンガポールとなっている。
(3)相互協議と不服申し立てとの関係  日本では、移転価格課税が行われた場合、納税者は相互協議の申立てとは別に、異議申立て又は審査請求を行うことができる。異議申立て又は審査請求は、更正の通知を受けた日の翌日から起算して2月以内にしなくてはならないため、相互協議が合意に至らずに終了してしまう事態に備えて、あらかじめ相互協議と並行して異議申立し又は審査請求することが一般的である。この場合、双方が併行して進展するのではなく、実務的には、異議申立て又は審査請求に係る審理を中断することを希望する旨の上申書を提出し、相互協議を先に進めることが慣例的な取扱いとなっている。後日、相互協議が合意に至った場合には、異議申立て又は審査請求を取り下げ、また、相互協議が合意に至らなかった場合には、異議申立て又は審査請求に係る審査が改めて開始されることとなる。
(4)相互協議の申立て
 ① 相互協議ができる場合
 納税者は、移転価格税制に関し、次の場合には相互協議の申立てを行い、税務当局間の協議を求めることができる(「相互協議の手続きについて(事務運営指針)」、以下「相互協議指針」3)(脚注3)。
イ)国外関連者との取引に関し、我が国又は相手国において移転価格課税を受けた、又は受けるに至ると認められる場合
ロ)国外関連者との取引について、二国間の事前確認の申し出を行う場合
 なお、租税条約により、相互協議の申し立ての期間制限がある場合には、その期間内でしか相互協議の申立てはできない。たとえば、日米租税条約では、「当該措置の最初の通知の日から3年以内」とされていることから、移転価格課税に係る最初の通知(更正決定通知)の最初の日から3年以内に相互協議の申立てをしなければならない。
 ② 申告時における別表加算の場合  我が国の移転価格税制は、申告納税を前提としており、法令上は「独立企業間価格で行われたものとみな」して法人税法等を適用(課税所得を計算)することになる。したがって、実際に行われた取引価格が独立企業間価格でなく、これを独立企業間価格に置きなおした場合に課税所得が増加する場合には、理論上は、確定申告時に増加する所得を自主的に加算(別表四)することとなる(脚注4)。この場合、我が国サイドでの加算のみでは二重課税という結果になるため、相手国での減算を求め、相互協議の申立てができるかどうかが問題となる。
 この点、租税条約の規定である「締約国の措置」には、更正決定のみでなく申告納税も含まれるものと解すことができれば、相互協議の申立てはできることとなる。しかしながら、相手国が相互協議を受けるか、また合意に至ることができるかは全く別問題であり、その結果、こうした場合の二重課税の排除については相互協議による解決は難しいと考えられる。したがって実務的には、申告時(決算時)になんなりかの会計上の調整を入れることによって課税所得を増加させる手段が用いられると考えられる。ただし、相手国においては、同じく会計上の調整によって所得を減少させることとなるため、当該方法が必ずしも受け入れられるとは限らない点に注意を要する。
 ③ 修正申告を提出する場合  納税者が、確定申告後に国外関連取引について自主的に修正申告を行う場合にも、②と同様の問題が生じる。修正申告は我が国における税制上の措置の一つであると解すれば、相互協議の申立てを行うことができると考えられる。しかしながら、現在、実務上は修正申告に基づく税額についての相互協議は受け入れられていないようである(脚注5)。
(5)事前相談  移転価格課税等の個別案件についての相互協議は、国税庁長官官房相互協議室(以下「相互協議室」)が行うこととされている(相互協議指針2)。この相互協議室は、相互協議の申立ての前の相談(代理人を通じた匿名の相談を含む。)に応じることとされている(相互協議指針5)。特に、国外関連者がその所在地国で移転価格に関する調査を受けているような場合には、課税が行われた後の相互協議が円滑に行われるよう、事前に相談しておくことが望ましいといえる。
(6)申立ての手続き  相互協議の申立ては、「相互協議申立書」2部を、国税庁相互協議室に提出することにより行う。相互協議申立書には、次の資料を添付することとされている(相互協議指針6)。
イ)更正通知書等当該課税の事実を証する書類の写し
ロ)当該課税に係る事実関係の詳細及び当該課税に対する申立者又はその国外関連者の主張の概要を記載した書面(課税に至っていない場合には、課税を受けるに至ると認められる事情の詳細及び当該事情に対する申立者又はその国外関連者の主張の概要を記載した書面)
ハ)申立者又はその国外関連者が当該課税について不服申立て又は訴訟を行っているときは、不服申立て又は訴訟を行っている旨及び申立者又はその国外関連者の主張の概要を記載した書面並びに不服申立書又は訴状の写し
ニ)当該申立ての対象となる取引の当事者間の直接若しくは間接の資本関係又は実質的支配関係を示す資料
ホ)申立者又はその国外関連者が相手国の税務当局に相互協議の申立てを行っている場合には、イに掲げる資料に加え、その旨を証する書類の写し
ヘ)その他協議の参考となる資料
(7)納税の猶予  我が国において移転価格課税が行われたことに基づいて相互協議の申立てをする場合、申立者は、更正決定により納付すべき法人税の額及び加算税の額について納税の猶予を申請することができる(措法66の4の2①・相互協議指針7)。
 この場合、所轄税務署長に「納税の猶予申請書」を提出するとともに(相互協議指針7(2))、納税の猶予に係る金額に相当する担保を提供しなければならない(相互協議指針(4))。
 また、納税の猶予期間中の延滞税については免除される(措法66の4の2⑦・相互協議指針(13))。なお、地方税(法人道府県民税、法人事業税、法人市町村民税)についても同様の制度が設けられている(地方税法55条の2、72条の39の2、321条の11の2)。
(8)相互協議中の対応  相互協議は、税務当局間の協議であり、申立者がこれに参加することはできない。ただし、要請すれば、支障のない範囲で、相互協議室から、協議の進捗状況について説明を受けることができる(相互協議指針17)。
 また、協議中は、国税庁相互協議室から、協議の実施のために必要と認められる資料の提出及びその説明を求められる場合がある(相互協議指針11、13)。さらに、外国語で記載された資料がある場合には、相互協議申立書の添付資料の場合と同様に、日本語訳を求められる場合がある。
(9)協議の合意  相手国の税務当局と合意に至ると認められる状況となった場合には、相互協議室より、正式の合意に先立ち、合意案の内容が文書で通知されるとともに、当該合意内容に同意するかどうか確認を求められる(相互協議指針18(1))。
 申立者が合意案に同意する場合には、正式な合意に向けた手続が相手国税務当局間と進められる。申立者が合意案に同意しない場合には、相互協議は合意に至ることなく終了する(相互協議指針20(1)ヘ)。
 正式に、合意が成立すると、申立者に、「相互協議の合意について(通知)」により、合意年月日及び合意内容が通知される(相互協議指針19(1))。
(10)協議の終了・取下げ  次の場合には、相手国の税務当局の同意のもとに、相互協議は合意に至ることなく終了する(相互協議指針20(1))。
イ)相互協議開始後、相互協議の申立てに係る事項が、租税条約において相互協議の対象とされているものでないことが判明した場合
ロ)相互協議の申立てが事前確認に係るものである場合において、申立者が当該事前確認の申出を取り下げた場合
ハ)相互協議申立書又は添付資料その他の提出資料に虚偽の記載等があった場合
ニ)申立者から相互協議に必要な資料の提出等について協力が得られない場合
ホ)我が国又は相手国における課税後相当期間が経過している等の理由から、相互協議に必要な資料を収集することができない場合
ヘ)申立者が税務当局間の合意案に同意しなかった場合
ト)その他相互協議を継続しても適切な解決に至ることができないと認められる場合
 相互協議が終了した場合には、その旨が「相互協議の終了について(通知)」により通知される(相互協議指針20(2))。
 また、相互協議申立者は、「相互協議申立ての取下書」を提出することにより、相互協議を取り下げることができる(相互協議指針21(1)(2))。

2 仲裁制度  移転価格課税に係る相互協議が、その開始後一定の期間を経過しても当局間の合意に至らない場合には、相互協議の申立人は、租税条約の規定に基づき、仲裁の要請をすることができる。現在のところ、我が国が締結した租税条約において仲裁が可能な国は、オランダ、香港、ポルトガル、ニュージーランドのみであるが、アメリカとの改正条約(未発効)でも仲裁に関する規定が定められている。
 仲裁の要請は、「仲裁要請書」を国税庁相互協議室長に提出することにより行われる(相互協議指針41)。仲裁手続きが開始されると、独立した仲裁人により構成される「仲裁委員会」の決定(仲裁決定)が行われ、その決定に従った相互協議の合意が行われることになる。
 仲裁制度については、詳細な手続きが租税条約そのものに定められている場合もあり、またその内容も租税条約ごとに異なっている。したがって、大まかな手続きは相互協議指針に従うこととなるが、仲裁委員会の構成、仲裁決定までに要する期間などについては租税条約の定めに従うこととなる。また、仲裁制度は、一般的な相互協議と異なり、最終的な結論(実質的な合意)を得ることができることから移転価格課税事案の解決がより確実なものとなる。同時に、相互協議の担当部局(わが国では相互協議室)にとっても、独立した仲裁委員会ではなく当事者でもある課税部局段階での合意、決着を目指す機運が高まり、相互協議の効率的運用に即すると期待されているところでもある。

脚注
1 香港に所在する関連企業との国外関連取引で移転価格課税を受けた場合、日本・中国租税条約が香港に適用されないことから、以前は相互協議による二重課税排除はできなかったが、日本・香港租税条約が締結された(2010年11月締結署名、2012年4月発効)ことから、現在は相互協議が可能となっている。
2 アメリカ、カナダ、オーストラリア、韓国、中国、インド、インドネシア、マレーシア、シンガポール、タイ、ベルギー、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、アイルランド、イタリア、ルクセンブルグ、オランダ、スウェーデン、スイス、イギリスの23か国。
3 相互協議指針においては、移転価格税制関連以外の相互協議として、PEの有無等に関する場合、租税条約に反する源泉徴収課税に関する場合、無差別条項違反の課税の場合、二重居住者に関する場合及び相続税に関する場合が挙げられている。
4 事前確認における合意値を前提としない場合。
5 根拠としては、単純に、修正申告と異議申立の関係との平仄をとったものと推察される。

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