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解説記事2014年09月29日 【法令解説】 新規上場の促進及びIFRS任意適用の促進に向けた施策に伴う開示府令、監査証明府令等の改正について(2014年9月29日号・№564)

法令解説
新規上場の促進及びIFRS任意適用の促進に向けた施策に伴う開示府令、監査証明府令等の改正について
 金融庁総務企画局企業開示課 開示企画調整官 大谷 潤
 金融庁総務企画局企業開示課 企業会計調整官 徳重昌宏
 弁護士(前金融庁総務企画局企業開示課 専門官) 佐藤光伸

Ⅰ はじめに

 本稿では、平成26年8月20日に公布された「企業内容等の開示に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令」(平成26年内閣府令第57号。以下「改正府令」という。)における改正事項のうち、新規上場の促進及びIFRS任意適用の促進に向けた施策について解説を行う。なお、本稿において意見にわたる部分は、筆者らの個人的見解であり、筆者らが現に所属し、または過去に所属した組織の見解ではないことをあらかじめ申し添えておく。

Ⅱ 総  論

1 今回の改正の背景
(1)新規上場時の有価証券届出書に掲げる財務諸表の年数短縮
 平成25年12月25日、金融審議会「新規・成長企業へのリスクマネーの供給のあり方等に関するワーキング・グループ」報告書(以下「リスクマネーWG報告書」という。)における提言を踏まえた改正内容となっている。リスクマネーWG報告書では、新規・成長企業に対するリスクマネーの供給促進を図る観点から、新規上場促進策として、
「企業が新規上場を行う場合には、当該企業の募集有価証券に係る有価証券届出書を提出した上で、投資者に対して募集行為を行うことが一般的であり、新規上場時に提出する有価証券届出書には、過去5事業年度分の財務諸表の記載が必要とされている。
 しかしながら、当該記載については、①投資者に交付される目論見書には過去2事業年度分の財務諸表のみが記載されていること、②新規上場企業に投資する投資者は、当該企業の将来性を重視する場合も多いと考えられるところ、有価証券届出書において、将来情報の開示の充実が図られてきたこと、③新規上場企業の開示をめぐる国際的な状況にも変化が生じていることなどを踏まえると、過去2事業年度分の財務諸表のみの記載とするよう見直すことが適当であると考えられる」
と提言された(脚注1)。
(2)非上場のIFRS適用会社が初めて提出する有価証券届出書に掲げる連結財務諸表の年数  平成25年10月28日、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令」が公布、施行された。同府令は、連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則(以下「連結財務諸表規則」という。)第一条の二に規定する特定会社の要件を緩和するものであった。すなわち、同府令が施行されたことにより、非上場会社も指定国際会計基準(以下「IFRS」という。)を適用することが可能となった。
 改正前の企業内容等の開示に関する内閣府令(以下「開示府令」という。)においては、非上場会社が新規上場に伴い有価証券届出書を提出する場合には、有価証券届出書の【経理の状況】欄に、最近2連結会計年度に係る連結財務諸表および最近2事業年度に係る単体財務諸表を掲げることとされていた(脚注2)。
 このため、非上場会社がIFRSを適用し、新規上場に伴い初めて有価証券届出書を提出する場合には、比較情報を含めた最近2連結会計年度に係る連結財務諸表および最近2事業年度に係る単体財務諸表(すなわち、実質3期分の財務情報)を掲げる必要があった(脚注3)。

Ⅲ 有価証券届出書上に掲げる財務諸表の年数短縮に係る改正

1 【特別情報】欄の削除
 リスクマネーWG報告書の提言に従い、有価証券届出書に記載する財務諸表の記載年数を過去2事業年度分のみとするため、有価証券届出書の【特別情報】の単体財務諸表の記載義務を免除することとした。すなわち、有価証券届出書の第三部【特別情報】の第1【提出会社及び連動子会社の最近の財務諸表】を【連動子会社の最近の財務諸表】と改正することにより、提出会社の過去5事業年度分(【経理の状況】に掲げられた単体財務諸表を除く。)の単体財務諸表を掲げる必要はなくなることとなった。

2 【主要な経営指標等の推移】(ハイライト情報)に記載する経営指標  改正前の開示府令においては、有価証券届出書の【主要な経営指標等の推移】(以下「ハイライト情報」という。)として、
(1)過去5連結会計年度分の連結財務諸表に係る経営指標と、
(2)過去5事業年度分の単体財務諸表に係る経営指標
を記載することとされていた。
 本改正府令により、ハイライト情報のうち、(1)連結財務諸表に係る経営指標については、過去2連結会計年度分のみの記載で足りることとされた(脚注4・5)。
 一方で、(2)単体財務諸表に係る経営指標については、連結財務諸表に係る経営指標と同様に過去2事業年度分とするか、または引き続き過去5事業年度分とするかは両観点からの指摘がなされていた。
 単体財務諸表に係る経営指標について、過去2事業年度分に短縮しないことによるデメリットとしては、以下の点が考えられる。
 ①ハイライト情報も虚偽記載の対象となるため、過去5事業年度分のハイライト情報を記載させることとすると、結局は、過去5事業年度分の財務諸表を確認し直す必要は生じることとなり、【特別情報】の単体財務諸表の記載義務を免除するという改正の実質的な意義が没却される。なお、米国では、JOBS法により、新興成長企業が提出する有価証券届出書には過去2事業年度分の財務諸表を記載することという改正が行われたことと併せて、ハイライト情報についても、過去2事業年度分を記載すれば足りることとされた。
 一方で、単体財務諸表に係る経営指標について、引き続き過去5事業年度分の記載を必要とすることについて、以下の指摘がなされていた。
① 過去2事業年度分より前の経営指標が完全になくなってしまうのは不都合であり、「せめて単体財務諸表分の財務情報は残すべきである」との意見が強くある。
② 株式会社である以上、過去5事業年度分の会社法上の計算書類を作成しているはずであり、経営指標を開示することは負担ではない。
③ 目論見書や既存の上場企業の有価証券届出書に記載される単体財務諸表は過去2事業年度分であり、これは本改正府令による見直しの根拠の1つとされたが、これらの財務書類のハイライト情報には、過去5事業年度分の経営指標が記載されている。
 以上の事情を総合的に勘案し、単体財務諸表に係る経営指標については、引き続き過去5事業年度分の記載を求めることとした。ただし、新規上場企業の負担を一定程度軽減するという観点から、過去2事業年度より前の3事業年度分の経営指標は、会社法上の計算書類から算出した各数値を記載すれば足りることとした(脚注6)。この場合、投資者の誤認混同を防止する観点から、
① 会社法上の数値である3事業年度分が記載された表と、金商法上の数値である2事業年度分が記載された表とを分離する、
② 当該3事業年度分は会社法上の計算書類から算出した数値であることを表の欄外に注記として記載させる、
③ 3事業年度分については金商法上の監査証明を受けていない旨を記載させる、
 こととした。
 なお、仮に、有価証券届出書または有価証券報告書(以下「有価証券届出書等」という。)のハイライト情報の欄に会社法上の計算書類から算出した各数値を記載した場合であって、当該有価証券届出書等の提出後に会社法上の計算書類に誤りが判明し、当該有価証券届出書等に記載したハイライト情報に係る数値を訂正する必要が生じたとしても、有価証券届出書等の虚偽記載には該当しないものと考えられる(脚注7)。

Ⅳ 非上場のIFRS適用会社が初めて提出する有価証券届出書等に掲げる連結財務諸表

1 改正事項
 前記Ⅱ1(2)で述べたように、IFRS適用会社については、有価証券届出書等の【経理の状況】欄に、最近2連結会計年度に係る連結財務諸表および最近2事業年度に係る単体財務諸表(比較情報(脚注8)を含む。)を掲げる必要がある。その結果、IFRS適用会社が提出する有価証券届出書等には、実質3期分の財務情報を掲げる必要があることになる。しかしながら、日本基準適用会社については、比較情報を除いた最近2連結会計年度に係る連結財務諸表および最近2事業年度に係る単体財務諸表(2期分)の記載を求めており、IFRS適用会社についてのみ、実質的に3期分の連結財務諸表および単体財務諸表の記載を求める特段の必要性はないと考えられる。むしろ、実質的に3期分の記載を求めることにより、非上場会社がIFRSを適用することの障壁となっているのではないかという指摘がなされていた。
 なお、改正前の有価証券届出書等の【経理の状況】欄に記載する連結財務諸表および単体財務諸表ならびに監査報告書の制度、および改正後の同制度については、図表参照。

 本改正府令では、具体的には、非上場のIFRS適用会社が初めて提出する有価証券届出書等に掲げる連結財務諸表および単体財務諸表について、開示府令において、「比較情報を含む最近(1)連結会計年度および最近(1)事業年度」とし、実質的に最近2期分の財務情報を掲げることとした。
 この際、「比較情報を含む最近連結会計年度」の連結財務諸表および「比較情報を含む最近事業年度」の単体財務諸表は、1期分の財務情報と考えられるため、通常であれば、その監査証明には「最近連結会計年度および最近事業年度について監査を行った」という表明がなされ、「比較情報」部分について監査が行われたか否かが必ずしも明らかではない。
 このため、最近2連結会計年度に係る連結財務諸表および最近2事業年度に係る財務諸表について監査を受けていることを明らかにするために、
① 監査証明府令において、「比較情報」部分についても監査報告書において監査意見を表明することができることを可能とする(脚注9)、
② 開示府令において、「比較情報を含む最近連結会計年度に係る連結財務諸表」の記載ができるのは、IFRSに基づいて作成した「比較情報」部分についても監査証明を受けている場合に限定する(脚注10)、
という改正を行った。
 なお、米国会計基準に基づき連結財務諸表を作成するいわゆる米国式連結財務諸表提出会社(脚注11)が初めて有価証券届出書を提出する場合にも、IFRS適用会社と同様の改正を行った。

Ⅴ その他の改正
 企業会計基準委員会(ASBJ)は、国際的な会計基準と平仄を合わせるために、平成25年9月13日に企業結合に関する会計基準および関連する他の改正基準等を改正した。これらの改正事項は、主に以下の事項となっている。
① 少数株主持分の取扱い
② 当期純利益概念の整理
③ 取得関連費用の取扱い
④ 暫定的な会計処理の確定の取扱い
 これらの改正を踏まえ、本改正府令においては、少数株主持分および当期純利益概念の整理を行った。具体的には、開示府令第19条第2項第19号において当期純利益という用語を親会社株主に帰属する当期純利益と改めたことを始め、各様式で用いられている「少数株主持分」を「非支配株主持分」に、「当期純利益」を「親会社株主に帰属する当期純利益」にそれぞれ改正を行った。

脚注
1 リスクマネーWG報告書については、http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/tosin/20131225-1.html参照。
2 改正前開示府令第2号様式記載上の注意(60)aおよび(67)a。
3 日本基準(J-GAAP)適用会社の連結財務諸表および単体財務諸表については、開示府令において、「比較情報」を除いた連結財務諸表および単体財務諸表を掲げれば足りるとされている。一方、IFRSでは、「比較情報」は当期の連結財務諸表および単体財務諸表の一部を構成するものとして密接不可分の性質と整理されているため、「比較情報」を除いた連結財務諸表または単体財務諸表を掲げた場合には、IFRSに準拠した連結財務諸表または単体財務諸表ではないとみなされてしまうおそれがある。平成25年10月28日「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則等の一部を改正する内閣府令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について「(別紙1)コメントの概要及びそれに対する金融庁の考え方」No.12参照。
4 開示府令第2号の4様式記載上の注意(11)a、第3号様式記載上の注意(5)b。
5 開示府令第3号様式における取扱いに留意する必要がある。第3号様式記載上の注意(5)bでは、以下のとおり規定されている。「第2号の4様式による有価証券届出書の提出日後最初に到来する連結会計年度末から2連結会計年度を経過していない場合には、同様式「第二部 企業情報」の「第1 企業の概況」の「1 主要な経営指標等の推移」に掲げた最も古い連結会計年度から最近連結会計年度までに係る主要な経営指標等の推移について記載すること。」すなわち、第2号の4様式による有価証券届出書提出後最初に提出する有価証券報告書には、3連結会計年度分の経営指標を、翌年度に提出する有価証券報告書には、4連結会計年度分の経営指標をそれぞれ記載する必要がある。
6 開示府令第2号の4様式記載上の注意(11)b。
7 金商法上の責任は生じない一方で、会社法上の責任は生じる可能性があることに留意する必要がある。
8 IFRS適用会社の作成する「比較情報」と、日本基準適用会社が作成する「比較情報」は、厳密には異なる定義が用いられることに留意する。前者は、IFRSで定義する「比較情報」であるのに対して、後者は、連結財務諸表規則第8条の3または財務諸表等規則第6条で定義する「比較情報」を意味する。そのため、監査証明府令第4条第2項においては、IFRS適用会社の作成する「比較情報」について、「連結財務諸表規則第8条の3に規定する比較情報に相当するもの」と定義付けた。
9 監査証明府令第4条第2項。
10 開示府令第2号様式記載上の注意(60)a、第2号の4様式記載上の注意(12)、第4号様式記載上の注意(3)。
11 連結財務諸表規則第95条。なお、財務諸表等規則第130条参照のこと。

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