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解説記事2014年11月17日 【実務解説】 事業承継税制の改正及び実務上の留意点について(2014年11月17日号・№571)

実務解説
事業承継税制の改正及び実務上の留意点について
  税理士法人山田&パートナーズ 税理士 永井 強

はじめに

 中小企業は我が国の企業数の約9割、雇用全体の約7割を占めるなど、我が国の経済の基盤をなす存在である。
 これら中小企業の多くは戦後の高度経済成長期に創業しておりその経営者の高齢化が進む中、実質的に所有と経営が一致しているという中小企業の特性から、事業用資産の承継に伴う多額の相続税負担を始めとする様々な問題が指摘されてきている。
 非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予制度(以下、「事業承継税制」という。)は、中小企業経営者の死亡等による相続税及び贈与税の負担を軽減し、その円滑な事業の承継を支援すべく平成21年4月1日に制度創設されたものであるが、「適用要件が厳しい」「リスクが高い」「制度内容が複雑である」といった声が多く聞かれるようであり、制度の活用が進んでいないと言われている。
 平成25年3月30日に公布された所得税法等の一部を改正する法律(平成25年法律第5号)においては、これらの問題に対応し制度の活用を促進すべく「適用要件の緩和」「リスクの軽減」「手続きの簡素化」という3つの観点から多岐に渡る緩和措置が規定されている。
 他方、従前より制度趣旨から外れた不適切な制度利用が見受けられるとの指摘が聞かれたところであるが、同法律においては緩和措置にあわせて「課税の適正化」としての引き締めの措置も規定されている点に留意が必要である。
 本稿においては、これらの事業承継税制に係る平成25年度改正が平成27年1月1日以降の相続若しくは遺贈又は贈与から適用開始されるにあたり、主要な改正項目につきその改正の背景及び改正の概要を述べるとともに、実務上の留意点についても触れていくこととする。なお、本稿中意見に係る部分については筆者の個人的見解であることを予めお断りしておく。

Ⅰ 適用要件の緩和

1.後継者の親族要件の廃止
(1)改正前の制度の概要
 事業承継税制の適用を受ける後継者は、先代経営者の親族であることとされている。(旧措法第70条の7第2項第3号イ、他)
(2)背景及び改正の概要  近年の中小企業においては、親族内に後継者が存在しないため社内の役員又は従業員に事業を引き継ぎたいとする中小企業の割合が増加してきている。しかし、これらの役員又は従業員は多くの場合株式を承継するための資金力に乏しいことが多く、親族外の社内承継を困難にしていると言われていることなどから、この後継者に係る親族要件を廃止することとされた。
 日本の中小企業においては、親族外の後継者に遺贈や贈与によりマジョリティを承継させるケースはまだまだ少ないものと想定されるが、この親族要件の廃止が事業承継の新たな選択肢として制度の活用が進むことが期待される。

2.先代経営者の役員退任要件の緩和
(1)改正前の制度の概要
 贈与税に係る事業承継税制の適用を受けるためには、先代経営者は贈与の時において役員でないこととされている。(旧措令第40条の8第1項第3号)
(2)背景及び改正の概要  この役員退任要件は、いわゆる税制上の恩恵を受けるためだけに行われる実態の伴わない事業承継を防止するために導入された制度とされている。しかし、世代交代直後の後継者は取引先との関係や金融機関に対する信用力などがまだ弱いことが多く、先代経営者が役員から身を引くことは事業の存続そのものに関わるとの恐れから事業承継税制の適用を躊躇させる大きな要因であると言われている。
 そこで、この役員退任要件を緩和し、贈与の時において代表権を有していないことと改正することとされた。(新措令第40条の8第1項第3号)
 これにより、先代経営者は事業承継税制適用後も代表権を返上するのみで役員として引き続き経営に参画し続けることが可能となるため、贈与による事業承継税制の適用に弾みがつくものと期待される。但し、一旦代表者を退任した先代経営者が事業承継税制適用後5年以内に再度代表者に就くことは、引き続き納税猶予の打切事由とされているため、留意が必要である。

3.雇用維持要件の緩和
(1)改正前の制度の概要
 事業承継税制の対象となる会社は、その適用後5年間はいわゆる雇用維持要件を充足しなければならないこととされている。この雇用維持要件とは、年に1回到来する第1種基準日における常時使用従業員数が相続の開始又は贈与の時における常時使用従業員数の80%を下回らないこととされるものである。(旧措法第70条の7第4項第2号、旧措令第40条の8第22項、他)
(2)背景及び改正の概要  事業承継税制が導入された時期がリーマンショック直後の非常に厳しい経済状況下であったこともあり、この当初5年間は従業員の8割以上を毎年確保し続けなければならないとする雇用維持要件は、先行き不透明な経営環境の中で事業承継税制の活用を躊躇させる最大の要因とされてきたところである。
 そこで、企業の経営努力を超えた外的要因による経営悪化の場合などにおいては企業の存続のために一時的な雇用の調整は経営判断として不可欠であることから、この雇用維持要件を、事業承継税制適用後5年以内に到来する各第1種基準日における常時使用従業員数の平均値が相続の開始又は贈与の時の常時使用従業員数の80%を下回らないことと改正することとされた。(新措法第70条の7第4項第2号、新措令第40条の8第22項、他)
 これにより、当初5年間において一時的な雇用の減少があってもその後雇用を回復し5年間の平均で8割を維持すればよく、極論を言えば当初5年間はどれだけ雇用が減少してもこれを直接の事由として納税猶予が打切りとなることは無く、経営上のリスク管理の観点からはより柔軟な雇用計画を立てることが可能となる。
 なお、事業承継税制適用後5年以内に、例えば受贈者の死亡など納税猶予打切りの判定をすべき事由が生じた場合には、その死亡の日の前日までの間に到来する各第1種基準日における常時使用従業員数の平均値により判定すべきこととなり、5年より短い期間での平均値による判定となってしまうため、留意が必要である。


Ⅱ リスクの軽減

1.再生計画の認可の決定等があった場合の納税猶予税額の再計算の特例の創設
(1)創設の背景及び制度の概要
 中小企業が事業の再建を図る場合において、いわゆる自己再生手続きとして民事再生法等の適用を受けることがある。当初の納税猶予税額は相続の開始又は贈与の時の株価を基礎として算定されたものであり、この再生手続き中である現在の株価を基礎として算定される税額とかけ離れたものであるとなると、経営者にとっては自社株式を含めた個人資産をはるかに超える個人債務を背負っていることにもなりかねず、資金調達等の観点から事業の継続を断念せざるを得ないことも想定される。
 そこで、民事再生計画若しくは更生計画の認可の決定があり又は中小企業再生支援協議会による再生計画が成立し資産評定が行われた場合には、その認可決定等の日における納税猶予対象株式等の価額に基づき納税猶予税額を再計算し、再計算直前の納税猶予税額との差額を免除する制度を創設することとされた。(新措法第70条の7第22項、他)
 但し、認可決定等の日前5年以内(相続の開始又は贈与前の期間を除く)に納税猶予を受けている後継者及びその後継者と生計を一にする者が納税猶予対象会社から受けた配当等の金額及び給与の額(債務免除益等の経済的利益を含み、法人税法上損金の額に算入されない過大役員給与に該当する部分の金額に限る。)相当額は、免除される金額から除かれる。これは、制度の濫用による租税回避行為を防止するためと考えられる。
 即ち、経営者は再生等手続き時における株価に基づく再計算後の納税猶予税額のみを負って新たなスタートを切ることができることとなる。
 なお、この特例の適用を受けるためには、原則として認可決定等の日から2ヵ月を経過する日までに所定の事項を記載した申請書に認可決定等に関する一定の書類を添付して、納税地の所轄税務署長に提出する必要がある。(新措法第70条の7第24項、新措規第23条の9第37項、他)また、この特例の適用を受けるためには後継者や対象会社にも一定の要件があるため、留意が必要である。

2.納税猶予税額の計算において債務控除される財産の順番の見直し
(1)改正前の制度の概要
 相続税に係る納税猶予税額の計算において控除すべき債務がある場合には、納税猶予対象株式等の価額からその債務の額を控除した残額を相続税の課税価格とみなして納税猶予税額を算出することとされている。
(2)背景及び改正の概要  現行制度における相続税に係る納税猶予税額の計算においては、控除すべき債務の額だけ納税猶予対象株式等の価格が減少し、最終的に算出される納税猶予税額も少なくなるという構造になっている。これは、極端には控除すべき債務の額が納税猶予対象株式等の価額を超える場合には納税猶予税額が零となり事実上事業承継税制の活用ができないといった事態も想定され、被相続人個人の財産構成が事業承継税制の適用の是非に影響を及ぼすこととなり適切ではないとの指摘がなされていた。
 そこで、相続税に係る納税猶予税額の計算においては、控除すべき債務の額はまず納税猶予対象株式等以外の相続財産の価額から控除し、控除しきれない場合には納税猶予対象株式等の価額から控除すべきこととされた。(新措法第70条の7の2第2項第5号、新措令第40条の8の2第12項、他)
 これにより、被相続人が債務比率の多い財産構造であっても基本的には影響を受けることなく納税猶予税額を算出することができることとなる。

3.事業継続期間経過後における利子税の免除措置の創設
(1)改正前の制度の概要
 現行制度においては、納税猶予が打切りとなり納税猶予税額を納付すべきこととなった場合には、本来の申告期限からその猶予期限までの期間に対応する利子税を納付すべきこととされている。(旧措法第70条の7第23項、他)
(2)背景及び改正の概要  利子税は時の経過により発生するものであり、納税猶予期間が長期に渡る場合にはその累積金額も多額となり、またその納付期限は納税猶予の打切りにより突然到来することから、この事業承継税制はリスクが高いとしてその活用を躊躇する大きな要因の一つとされていた。
 そこで、事業承継税制が主たる政策目的の一つとして雇用維持要件などを課している事業継続期間(相続税又は贈与税の申告期限から5年間)を無事満了した後継者には、インセンティブとしてその当初5年間に対応する利子税を課さない(利子税率を零とする。)こととされた。(新措法第70条の7第29項、他)
 但し、事業継続期間の中途において納税猶予が打切りとなった場合には、原則通り本来の申告期限からその猶予期限までの期間に対応した利子税を納付すべきこととなるため留意が必要である。
 なお、利子税率は平成26年1月1日以降は年0.9パーセント(特例基準割合が2パーセントの場合)とされている。


4.雇用維持要件未達の場合の延納及び物納の選択
(1)改正前の制度の概要
 現行の制度においては、納税猶予が打切りとなり相続税又は贈与税を納付すべきこととなった場合には、その納付すべき税額は所定の期限までに金銭にて一括納付する必要がある。
(2)背景及び改正の概要  今般の税制改正で雇用維持要件が緩和されることとなったところであるが、予測し難い経営環境の変化等による雇用調整により納税猶予が打切りになってしまう可能性は否定できず、予期せぬタイミングでの多額の金銭支出を迫られる可能性がある状況に変わりはなく、引き続き事業承継税制の活用を躊躇する要因となることが想定された。
 そこで、事業継続期間(相続税又は贈与税の申告期限から5年間)中に雇用維持要件を充足できなくなり納税猶予が打切りとなった場合においては、金銭による一括納付に代えて延納又は物納(物納は相続税の納税猶予の場合のみ。)を選択できることとされた。(新措法第70条の7第14項第9号、他)
 この延納又は物納については基本的には相続税法上の通常の延納又は物納と同様であることから、原則として金銭納付困難事由があることが必要であり、延納の場合における延納期間は5年であり、担保の提供が必要となり所定の利子税も発生する。この担保については、納税猶予を受ける際に提供した一定の担保に付与されていたみなし充足の効果は継続されず、延納を受ける際にあらためて延納税額に応じた担保を提供する必要がある。また、物納の場合における収納価額は物納時の価額ではなく、あくまでも原則通り相続税の課税価格の計算の基礎とされた金額である。
 なお、この延納又は物納の選択が可能となるのは雇用維持要件を充足できなくなったことによる納税猶予の打切りの場合のみであって、その他の事由による打切りの場合にあっては原則通り金銭により一括納付すべきこととなるため留意が必要である。

Ⅲ 手続きの簡素化

1.担保提供手続きの簡素化
(1)改正前の制度の概要
 現行制度における事業承継税制の適用を受けるためには、納税猶予税額に対応する担保を提供する必要がある。この場合、納税猶予対象株式を担保として提供する場合には、その株券を供託して供託書を税務署長に提出するという手続きが必要となる。(旧措法第70条の7第1項、旧措令第40条の8第3項、他)
(2)背景及び改正の概要  納税猶予対象株式の全部を担保として提供する場合には、いわゆるみなし充足(納税猶予期間中に担保物件である株式の価値が下落し担保割れの状態になったとしても、その担保価値は被担保債権を充足しているとみなす特例。)の恩恵があることから、多くの制度適用者において納税猶予対象株式を担保物件とすることが検討されている。しかし、現行の会社法の施行以降多くの中小企業は株券不発行会社に移行しており、担保提供のためには再度定款変更により株券発行会社として株券を発行するという手続きが必要となり、非常に煩雑であり不経済であると言われてきた。
 そこで、株券不発行会社に係る非上場株式について納税猶予制度の適用を受けるにあたり、その納税猶予対象株式の全部を担保として提供する場合には、株券を発行せずとも一定の書類(納税猶予対象株式に対する質権設定承諾書や印鑑証明書等。)を税務署長に提出することで納税猶予の適用を受けることができることとされた。(新措法第70条の7第14項第2号、新措令第40条の8第3項、新措規第23条の9第1項、他)
 なお、例えば株券発行会社で実際の株券を供託して担保提供している場合において、定款変更により株券不発行会社に移行した場合には、所定の期限までに上記の質権設定承諾書等の書類を税務署長に提出しない限り株券無効により納税猶予が打切りとなってしまうなど、担保が失効してしまう事象には留意が必要である。

2.経済産業大臣の事前確認制度の廃止
(1)改正前の制度の概要
 従前、事業承継税制の適用を受けるためには、経済産業大臣の事前確認を受けることが必要とされていた。具体的には、納税猶予を受けるためには相続の開始又は贈与の後に経済産業大臣の認定を受けることが要件とされており、この経済産業大臣の認定を受けるためには相続の開始又は贈与の前に経済産業大臣の事前確認を受けておくことが要件とされていたものである。
(2)背景及び改正の概要  この経済産業大臣の事前確認は、その確認手続きの中で事業承継への取組み具合を確認事項とすることで、中小企業に計画的な事業承継への取り組みを促すことが目的とされていた。しかし、例えば不慮の事故など突発的な事由で経営者に相続が開始した場合など、この確認手続きを経ていなかったことで後継者が事業承継税制の適用を受けることができなくなってしまうという弊害が指摘されてきた。
 そこで、経済産業大臣の認定要件としての経済産業大臣の事前確認手続きを廃止することとされた。
 なお、本稿に述べる一連の事業承継税制に係る改正事項の適用開始に先立ち、この経済産業大臣の事前確認手続きの廃止に係る改正は平成25年4月1日から適用されている。

Ⅳ 課税の適正化

1.資産保有型会社等の例外規定における従業員の属性の適正化
(1)改正前の制度の概要
 事業承継税制においては、租税負担の軽減を主たる目的とした事業実態のない会社が制度趣旨に反してその適用を受けることを避けるために、いわゆる資産保有型会社又は資産運用型会社については事業承継税制の適用を受けることができないこととされている。(旧措法第70条の7第2項第1号、他)
 資産保有型会社とは会社の総資産価額のうちに占める特定資産の価額の割合が70パーセント以上である会社、資産運用型会社とは会社の総収入金額のうちに占める特定資産の運用収入の金額の割合が75パーセント以上である会社をいう。(旧措法第70条の7第2項第18号)
 しかしながら、この形式的な割合基準により資産保有型会社又は資産運用型会社に該当する場合であっても、真に実業を行い雇用を確保しているものについてまで排除することは適当でないことから、その適用除外のための事業実態要件を設けており、その要件の一つとして常時使用従業員が5人以上いることが必要とされている。(旧措令第40条の8第5項、第24項、旧措規第23条の9第5項、他)
(2)背景及び改正の概要  現行の制度においては事業実態があることの確保を目的として常時使用従業員数が5人以上であることを規定しているところであるが、その5人の大部分を納税猶予を受ける後継者等の身内で占めている会社についてはその実業性や雇用への貢献等の観点から制度の利用が適当ではないとの指摘があった。
 そこで、この事業実態要件における5人以上の常時使用従業員については、納税猶予を受ける後継者及びその生計を一にする親族を除外して判定することとされた。(新措令第40条の8第5項、第23項、他)
 これにより、主として家族従業員により構成していた会社については事業承継税制の適用が困難となる可能性があり、真に雇用の確保が求められることとなる。従前、家族従業員を含めてこの事業実態要件を充足することを想定していた会社については、今後は早急にその従業員構成を再検討することが必要となる。

2.資産保有型会社等の例外規定における賃貸事業の適正化
(1)改正前の制度の概要
 事業承継税制においてはいわゆる資産保有型会社又は資産運用型会社についてはその適用を受けることができず、その適用除外のための事業実態要件が設けられていることは既述の通りであるが、その要件の一つとして相続の開始又は贈与の時まで3年以上商品販売等を行っていることが必要とされている。(旧措令第40条の8第5項、第24項、旧措規第23条の9第5項、他)
(2)背景及び改正の概要  現行の制度においては事業実態があることの確保を目的として3年以上商品販売等を行っていることと規定しており、その商品販売等には資産の貸付けも含まれるところであるが、その資産の貸付けが例えば後継者本人や身内である個人又は会社に対する不動産の貸付けのみである会社についてはその実業性や雇用への貢献等の観点から制度の利用が適当ではないとの指摘があった。
 そこで、この事業実態要件における商品販売等ついては、納税猶予を受ける後継者及びその同族関係者等に対する資産の貸付けを除外することとされた。(新措令第40条の8第5項、第23項、他)
 これにより、後継者本人や親族又は子会社等に対する不動産の貸付けのみを行う会社については事業承継税制の適用が困難となる可能性があり、真に実業としての外部賃貸等が求められることとなる。従前、身内への不動産賃貸等によりこの事業実態要件を充足することを想定していた会社については、今後は早急にその事業の内容につき再検討することが必要となる。

3.対象会社が上場株式等を有する場合の納税猶予税額の計算方法の見直し
(1)改正前の制度の概要
 現行制度においては、納税猶予対象会社(その一定の子会社を含む)が一定の外国会社の株式又は一定の医療法人の出資を有する場合には、当該会社が当該株式又は出資を有しないものとして納税猶予税額を計算することとされている。(旧措法第70条の7第2項第5号、旧措令40条の8第12項、他)
(2)背景及び改正の概要  従前より外国会社の株式や医療法人の出資そのものは事業承継税制の対象とはならないところ、納税猶予対象会社が一定の外国会社の株式や一定の医療法人の出資を有する場合には、これらの株式又は出資を有しないものとして納税猶予税額を算出することにより事業承継税制の制度趣旨を担保している。つまり、これらの株式又は出資を有しないこととされた分だけ納税猶予対象株式の価額が低くなり、算出される納税猶予税額も低くなるということである。
 他方、上場株式等そのものについても事業承継税制の対象とはならないところ、納税猶予対象会社が大量の上場株式等を保有している場合であっても、いわゆる資産保有型会社等の適用除外のための事業実態要件を充足することで納税猶予を受けることができることとなり、実態として大量の上場株式等そのものについて納税猶予を認めていることと変わらず、納税資金難に直面する中小企業への支援施策としての事業承継税制の趣旨に反するとの指摘があった。
 そこで、資産保有型会社又は資産運用型会社に該当する納税猶予対象会社(一定の子会社を含む)が上場株式等を1銘柄につき発行済株式等の3パーセント以上を保有する場合には、その上場株式等を有しないものとして納税猶予税額を算出することとされた。(新措法第70条の7第2項第5号、新措令40条の8第11項、他)
 なお、この上場株式等に係る特例は従前の外国会社の株式又は医療法人の出資に係る特例とは異なり、資産保有型会社又は資産運用型会社に該当する納税猶予対象会社のみが対象となるが、その資産保有型会社又は資産運用型会社の判定においてはいわゆる適用除外のための事業実態要件の適用は無い点に留意が必要である。

4.総収入金額の適正化
(1)改正前の制度の概要
 事業承継税制の適用にあたっては、その適用に係る相続の開始又は贈与の日の属する事業年度の直前の事業年度における総収入金額が零を超えることが必要とされている。(旧措法第70条の7第2項第1号、旧措令第40条の8第9項第1号、他)
(2)背景及び改正の概要  この総収入金額が零を超えていることとする要件は会社の事業実態の確保を目的とするものであるが、その総収入金額の会計的な定義が広範であるため、例えば事実上事業の全てを休止している会社であっても預金利子がわずかでも生じていれば営業外収入としての総収入金額が計上され要件を充足することとなってしまい、その形骸化が指摘されていた。
 そこで、この総収入金額が零を超えていることとする要件につき、その総収入金額から営業外収入及び特別利益を除外することとなった。(新措法第70条の7第4項第10号、新措令第40条の8第9項第1号、新措規第23条の9第6項、他)
 これにより、この要件は本業における売上収入が零を超えることを求めることとなり、いわゆる休眠会社は制度の適用を受けることができなくなる。

5.制度名称の変更
(1)背景及び改正の概要
 事業承継税制は平成21年4月1日に制度創設され、その制度名称として条文見出しの表現により「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予制度」と呼称されてきた。そして、創設以降事業承継税制は適用要件が厳しい、リスクが高い、煩雑であるといった声が多く、その活用が進んでいないと言われてきた。そのような中で、事業承継税制の呼称が納税猶予制度であるが故に、この制度は納税が猶予されるだけで、雇用維持要件などの縛りを受けるだけのメリットがない制度との誤解が中小企業経営者にあるとの指摘がされている。
 そこで、制度の普及促進のためにはその制度のメリットを端的に表現する名称を冠することも重要であるとの観点から、事業承継税制の最大の恩恵である免除をその名称に付し、「非上場株式等についての相続税及び贈与税の納税猶予及び免除制度」とあらためることとされた。

Ⅴ 適用時期等

1.原 則
 本稿における事業承継税制の改正は、原則として平成27年1月1日以後に相続若しくは遺贈
又は贈与により取得する非上場株式等に係る相続税又は贈与税につき適用され、同日前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した非上場株式等に係る相続税又は贈与税についてはなお旧法の規定が適用される。(改正法附則第86条第1項、第2項、第6項、他)
 但し、経済産業大臣の事前確認制度の廃止については、平成25年4月1日から適用されており、同日以降は経済産業大臣の事前確認を受けていなくても相続の開始又は贈与後に経済産業大臣の認定を受けることができることとされている。

2.経過措置
(1)内 容
 平成26年12月31日以前に相続若しくは遺贈又は贈与により取得した非上場株式等に係る相続税又は贈与税については、なお旧法の規定が適用されるのであるが、既に旧法の規定により事業承継税制の適用を受けている者については、その者の選択により、平成27年1月1日以降は一定の改正項目につき一定要件の下で新法の適用を受けることができる経過措置が講じられている。(改正法附則第86条第4項、第8項、第12項)つまり、今日既に納税猶予を受けている者についても、所定の手続きにより新法における一定の緩和措置の恩恵を受けることが可能ということである。但し、同時に新法における一定の課税の適正化に係る措置も適用となるため、その選択には慎重な判断が必要である。
(2)手続き  旧法の適用者が新法の適用を受けるためには、次の①又は②のいずれか遅い日までに納税地の所轄税務署長に所定の新法適用選択届出書を提出しなければならない。(改正法附則第86条第14項)
① 平成27年1月1日以後最初に到来する継続届出書の提出期限
② 平成27年3月31日
 また、旧法適用者が改正後の中小企業経営承継円滑化法に係る規定の適用を受けようとする場合には、この税務署長への届出書とは別に、平成27年1月1日以後最初に到来する継続報告書の提出期限までに、経済産業大臣に所定の届出書を提出する必要があるため、留意が必要である。


永井 強 ながい つよし
平成17年税理士登録
 現在、税理士法人山田&パートナーズ法人・資産税第8部部長
 平成21~23年、経済産業省中小企業庁事業環境部財務課課長補佐として、中小企業経営承継円滑化法の運用改正等を手掛ける。
 『中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律施行規則の改正について』ロータス21・週刊T&Amaster、『早めに手を打つ相続・贈与税対策』大蔵財務協会・週刊税のしるべ、『税務インデックス』税務研究会(共著)、ほか著書多数

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