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解説記事2015年01月05日 【ニュース特集】 Q&Aで理解する「出国時課税制度」の全貌(2015年1月5日号・№577)

課税回避目的でない者も巻き込まれる?
Q&Aで理解する「出国時課税制度」の全貌

 シンガポールや香港など株式等のキャピタルゲインが非課税とされる国に移住することによる譲渡所得課税の回避を防止するため、平成27年度税制改正では、「出国時」に未実現のキャピタルゲインに対して課税する措置(以下「出国時課税制度」)が導入されることになった。
 出国時課税制度は、株式等の資産の出国時における評価額の合計額が「1億円以上」となる場合にその含み益を課税対象とするものだが、あわせて「納税猶予」の仕組みを設けることで、出国先での資産売却を予定しているかどうかを問わず、資産の評価額が1億円以上であれば一旦は同制度の適用対象とする。このため、予想以上に多くの者が同制度の適用を受けることになる可能性もありそうだ。
 新年最初となる特集では、出国時課税制度の全貌をQ&A形式で明らかにする。

>出国時課税制度の概要

◎出国時課税制度とは?
Q1
 出国時課税制度とは要するにどのような制度でしょうか?

 一言で言えば、海外移住による譲渡所得課税の回避を防止するための措置です。
 租税条約上、株式等のキャピタルゲインに対しては「株式等を売却した者が居住している国」に課税権があります。例えば、巨額の含み益のある株式を保有する者がシンガポールや香港などキャピタルゲインが非課税となる国に移住し、移住後に株式等を売却すれば、その売却益(キャピタルゲイン)に対してはシンガポールや香港の税制が適用され、日本の所得税は課税されません。
 この点を利用した譲渡所得課税の回避を防止するため、「出国時」に未実現のキャピタルゲインに対して課税を行う仕組みが出国時課税制度です。

◎出国時課税制度の対象資産
Q2
 出国時課税制度の対象資産は株式だけでしょうか?

 株式以外の資産も対象になります。
 具体的には、株式に加え、国債、社債など所得税法上の有価証券(所法2条十七、金商法2条)、匿名組合契約の出資持分、デリバティブも対象とされます。
 ただし、出国時課税制度が適用されるのは、上記の対象資産の出国時の評価額の合計額が「1億円以上」となる場合に限られます。ここで注意したいのは「合計額が1億円以上」とされている点です。したがって、株式の評価額が5千万円だったとしても、他に匿名組合契約の出資持分が5千万円あれば、出国時課税制度の適用対象となります。

◎出国時課税制度の適用対象者
Q3
 出国時課税制度の適用対象となる者の要件はあるのでしょうか?

 「出国直近の10年内で5年以上居住者であった者」であることが適用要件となります。
 したがって、過去10年間で断続的に合計5年間非居住者であったとしても、出国時課税制度の適用対象となります。
 なお、後述する納税猶予期間中、出国者は「居住者」とみなされます(詳細はQ11参照)。

◎含み損の取扱い
Q4
 出国時課税制度では、含み損も考慮されるのでしょうか?

 考慮されます。
 出国時課税制度は、未実現のキャピタルゲインが「出国時に実現したもの」としてこれを譲渡所得課税の対象にするとともに、出国時に含み損がある場合には、やはりこれがキャピタルロスとして実現したとみなし、課税所得を計算します。
 また、実際に実現しているキャピタルゲイン・ロスがあれば、これも合わせて課税所得を計算をすることになります。

>納税猶予制度の仕組み

◎納税猶予の対象となるケース
Q5
 これまでずっと居住者であり、時価5億円の株式を保有しています。このたびビジネス上の理由で数年間出国しますが、出国中に資産を売却する予定はありません。それでも出国時課税制度の対象になってしまうのでしょうか?

 はい、対象となります。
 ただし、出国時課税制度では、質問のようにビジネス上の理由による一時的な出国や、出国時にはまだキャピタルゲインが実現したわけではないため納税資金が十分でないことなどに配慮し、「納税猶予」の仕組みが設けられます。具体的には、出国時に「担保」を提供するとともに、納税管理人の届出をすることを条件に、出国時課税制度の対象となった所得税の納税猶予が認められます。

◎納税猶予の終了
Q6
 納税猶予はいつまで認められるのでしょうか?

 出国から「5年以内」に帰国しなかったり、出国期間中に資産を売却した場合には納税猶予は終了し、その時点で猶予されていた所得税(猶予期間に係る利子税を含む)の納税義務が発生します。
 逆に言うと、出国期間中に資産売却を行わず「5年以内」に帰国すれば、納税猶予の対象となった所得税は免除されます。

◎資産の一部売却
Q7
 出国期間中に納税猶予に係る資産の一部を売却しました。この場合、全資産に係る納税猶予が終了することになるのでしょうか?

 あくまで売却した資産に係る納税猶予のみが終了することになります。
 例えば出国時に保有していた株式30万株について納税猶予を受け、出国期間中にそのうち10万株だけ売却した場合には、当該10万株についてのみ納税猶予が終了し、猶予税額の納税義務が発生することになります。

◎資産価値の下落
Q8
 出国期間中に納税猶予に係る資産の価値が下落し、出国時の時価よりも低い金額で当該資産を売却しました。この場合でも、猶予税額を全額納付しなければならないのでしょうか?

 出国時の時価と売却時の時価の差額に対応する所得税額が減額されます。
 出国期間中に資産を売却する以上、納税猶予は終了することになりますが、資産価値の下落に伴って納税資金が不足する可能性もあります。そこでこのような場合には、出国時の時価と売却時の時価の差額に対応する所得税額について更正の請求を行うことができることとされます。更正の請求(あるいは減額更正)ができるのは、納税猶予期間中に限られます(納税猶予期間が延長されている場合(Q10参照)には最大10年)。
 これは、出国期間中に資産の売却を行わないまま納税猶予期間が終了した場合も同様です。すなわち、納税猶予期間終了時点で納税猶予に係る資産の時価が出国時より下落している場合には、出国時と納税猶予期間終了時の時価の差額について更正の請求を行うことができます。

◎納税の免除を受けた場合の取得価額
Q9
 納税猶予を受けたうえで出国から5年以内に資産を売却しないまま帰国し、納税猶予額を免除されました。この場合であっても、形式的には出国時に「含み益」に対しキャピタルゲイン課税が行われたということで(そのうえで納税猶予)、当該資産の取得価額は出国時の時価に切り上げられるのでしょうか?

 取得価額は変わりません。
 納税額が猶予され、課税が行われていないにもかかわらず取得価額の切上げが行われれば、将来の譲渡所得が不適正に圧縮されてしまいます。課税が行われていない以上、資産の取得価額は資産取得時のまま維持されます(取得価額の切上げ、切下げは行われません)。

◎納税猶予期間の延長
Q10
 ビジネス上の理由で、出国先での滞在期間が5年を超えることになりそうです。今後も出国期間中に資産を売却する予定はないのですが、引き続き納税猶予を受けることはできますか?

 はい、できます。
 ビジネス上の理由などで5年間を超える海外滞在が必要になることも十分に考えられますので、出国時課税制度では、納税猶予期間の「5年間」の延長が認められます。この延長期間を含めた納税猶予期間中に対象資産を売却せず帰国すれば、猶予されていた所得税は免除されることになります。
 ただしこの場合、相続税・贈与税の納税義務者の種類(非居住無制限納税義務者など)を判定する際の「国外居住」の起算点も5年間後倒しすることが条件となりますので要注意です。

◎納税猶予期間中の地位
Q11
 海外に居住している以上、納税猶予期間中であっても非居住者と扱われるのでしょうか?

 納税猶予期間が延長された場合を含め、納税猶予期間中、出国者は日本の「居住者」とみなされます。
 これは、Q3のとおり出国時課税制度は「出国直近の10年内で5年以上居住者であった者」を対象としているため、仮に納税猶予期間中に「非居住者」と扱われれば、次回出国時に同制度の適用対象外になりやすくなってしまうためだと考えられます。

◎納税猶予の未選択
Q12
 納税猶予を選択しないことはできますか?

 できます。
 納税猶予を選択しなかった場合、出国時課税制度の適用対象となった者は、出国時において、他の所得とともに「準確定申告」を行う必要があります。

>その他の重要論点

◎二重課税の調整
Q13
 納税猶予に係る資産(含み益あり)を出国先で売却することになりましたが、出国先の国ではキャピタルゲインが非課税とされていません。出国時課税が行われたうえで出国先でキャピタルゲイン課税を受ければ二重課税となってしまいます……。

 国際課税の基本的な考え方に基づき、出国先で二重課税の調整が行われることになります。
 具体的には、出国先での売却時の課税所得計算上の取得価額を、出国時の時価とすることで、二重課税を調整します。ただし、出国先が二重課税を調整しない国である場合には、出国時課税制度により課された所得税から出国先で課された外国所得税を控除することで、二重課税を調整します。

◎相続・贈与による資産の国外移転
Q14
 海外に居住する息子に時価2億円の株式を贈与することになりました。息子は“出国”したわけではないため、本ケースは出国時課税制度の対象外と考えてよいでしょうか?

 出国時課税制度の対象になります。
 出国時課税制度は、贈与・相続による資産移転も対象にします。含み益のある資産の所有者が国外に移転するという点では、贈与・相続による移転も何ら変わりがないからです。
 具体的には、贈与者については「贈与時の資産の時価-取得価額」、被相続人については「相続発生時の資産の時価-取得価額」が譲渡所得課税の対象となります。相続のケースでは、相続人が準確定申告を行う必要があります。

◎出国時課税制度の適用日
Q15
 出国時課税制度はいつから適用されるのでしょうか?

 平成27年7月1日が予定されています。
 出国時課税制度では、納税猶予の適用を受けない者は出国時に準確定申告を実施する必要がありますが、例えば年明け早々に出国する者がこれに対応するのは不可能です(そもそも平成27年度税制改正法案が成立していません)。そこで税制当局は、「準備期間」を確保する趣旨で、同制度の適用開始日を通常の所得税関係の改正より半年送らせ、「平成27年7月1日」とする予定です。

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