カートの中身空

閲覧履歴

最近閲覧した商品

表示情報はありません

最近閲覧した記事

解説記事2015年02月23日 【特集】 BEPSプロジェクトの鍵を握るOECDのサンタマン局長に聞く(2015年2月23日号・№583)

特集 独占インタビュー
平成28年度以降はBEPSを踏まえた税制改正が!
BEPSプロジェクトの鍵を握るOECDのサンタマン局長に聞く

 OECD(経済協力開発機構)が進めるBEPS(Base Erosion and Profit Shifting:税源浸食と利益移転)プロジェクトの議論が佳境を迎えている。2月6日にはOECDから国別報告書の提出・共有方法のガイダンスが公表されるなど、2013年7月に公表された15項目からなるBEPS行動計画(11頁参照)も2015年12月にはすべて完了する予定だ。
 このような状況の中、OECD租税センター(CTPA)局長であるパスカル・サンタマン氏が日本経済団体連合会(以下、経団連)との会合(2月3日開催、本誌582号2頁参照)を行うため、2月上旬に来日した。BEPSは何もアップルやアマゾンなどの外国の多国籍企業だけの話ではない。国外取引を行う日本企業にも少なからず関係してくる。OECDはBEPS行動計画に対する報告書を取りまとめるが、これを受け日本政府は税制改正あるいは条約の見直しという形で実施するからだ。平成27年度税制改正においても電子商取引の消費課税や外国子会社配当益金不算入制度の見直しなどは、BEPSの報告書を受けてのもの。今後、さらなる税制改正が見込まれる。BEPSは日本企業にとって“対岸の火事”ではないのである。
 パスカル・サンタマン氏は、BEPSプロジェクトの運営機関であるOECD租税委員会(CFA)の活動を支える事務局である租税センターのトップだ。本誌では、来日中のサンタマン局長に独占インタビューを敢行。企業に大きな影響を与える移転価格税制における文書化や独立企業原則(ALP)に対する見解、さらにはBEPSプロジェクト完了後の国際課税の展開などについて話を伺った。

企業のBEPSに対する反応、別の惑星で起きている出来事!?
本誌:BEPSプロジェクトはいよいよ後半戦に入り、各国で活発な議論が行われています。日本でも最近、議論が盛んになっており、2015年度(平成27年度)の税制改正では行動1「電子商取引課税」、行動2「ハイブリッド・ミスマッチの無効化」に対応した国内法の改正も行われます。こうした中、OECDの税制担当幹部が日本の経済界とこのような国際会議を開催することには大きな意味があると思います。今回のサンタマン局長の来日の意義・狙いについてお聞かせください。
サンタマン:最近では各国でBEPSに関する議論が盛んに行われています。しかし、BEPS行動計画が2013年7月に発表された当初は、「何か別の惑星で起きている出来事ではないか」と思われるように全く関心が払われていませんでした。これが当初の日本企業の反応だったと思います。
 しかし、その後に状況は変わり、日本の経済界の方も非常に緊密な関心を払うようになりました。現在ではBEPS行動計画に対するパブリックコメントなどについても書面を通じて寄せて下さるなど、多大な貢献をしてもらっています。
 初めてOECDがこのような日本の経済界と対話を始めたのは、オーストラリアが議長を務め2014年5月に東京で開催したG20国際タックスシンポジウムに端を発します。今回は経団連の方と会合(2月3日開催、本誌582号2頁参照)を行うことになりますが、その会合でOECDとして関わりを持てるというのは、たいへん嬉しく思っています。というのは、経団連との会合は、欧米企業あるいは米国企業とは異なる日本の企業の方々と直接話すことができる貴重な機会となるからです。
日頃から日本の企業からは、BEPSの公開討議草案等に対して非常に興味深く内容が豊かなコメントを頂いております。ただ、コメントを見て驚くような内容のものはありません。日本の企業の見方、そして経済界が持つ懸念というのは多かれ少なかれ欧米企業などの懸念とほぼ同じだからです。


国別報告書のテンプレート、実施には守秘性と適正使用がポイント
本誌:行動13「多国籍企業の企業情報の文書化」における移転価格税制の文書化は産業界の懸念が特に強い項目です。例えば、事務負担の増加、機密情報の漏洩の恐れ、各国税務当局による文書の目的外使用への懸念が指摘されており、これらに関連して文書の提出・共有方法についても注目が集まっています。OECDでは1月の租税委員会(CFA)を踏まえ、2月中にも行動13を実施するためのガイダンスを公表するとのことですが、どのような検討状況でしょうか(編注:OECDは2月6日に国別報告書の提供方法についてのガイダンスを公表(今号40頁参照))。
サンタマン:移転価格税制の文書化は、日本の企業の懸念が特に強い課題です。
 まず、2014年9月に採択された国別報告書(CBCレポート)のテンプレート(ひな型)では、多国籍企業グループに対し、国ごとの売上、所得、税額等に関する情報を共通様式にしたがって各国税務当局に報告書ベースで共有すべき情報を挙げています。このテンプレートが採択されたというのは大きなメリットではないかと思っています。テンプレートは、OECD加盟国などが使用する唯一のものであり、世界経済の約90%を占める44か国(編注:OECD加盟国のほか、G20メンバーであるアルゼンチン、ブラジル、中国、インド、インドネシア、ロシア、サウジアラビア、南アフリカ及びOECD加盟申請国であるコロンビア、ラトビアがアソシエイトとして意思決定に参画)からよいものとして認知されたものだからです。
 これまでは各国が別々の報告を求めるリスクがありましたが、今回のテンプレートが公表されたことにより、報告すべき情報が統一できることになったわけです。
 テンプレートという入れ物が決まりましたので、次の段階は移転価格税制の文書化をどのように実施していくかということになりますが、考慮すべき重要な点がいくつかあります。1点目が守秘性をいかに保護していくかということです。国別報告書は、税務当局のみに提出されることに限っていることが1点。2点目は、この収集された情報の適正使用を担保しなければならないということです。つまり、国レベルでどのように租税を負担すべきかどうか、国ごとに定式配分をするような道具となってはならないということです。
 現在、移転価格税制の文書化の実施に向けて必要となる実施パッケージと呼ばれるものの最終確定を行っているところです。そしてこの実施パッケージというものが2月9日から開催されるG20財相・中央銀行総裁会議において報告される予定となっています。
 国別報告書の提出・共有方法については、日本の企業から懸念が表明されていますが、この点は考慮すべきと考えています(次頁の「国別報告書の共有方式は「条約方式」が基本に」を参照)。

>移転価格税制の文書化とは?
 2014年9月に公表されたBEPS行動計画13における報告書「多国籍企業の企業情報の文書化」では、多国籍業に対して、マスターファイル、ローカルファイル、国別報告書(CBCレポート)の作成を義務付けることとされている。多国籍企業グループによるグループ内取引を通じた所得の海外移転に対して、適正な課税(移転価格課税)を実現するため、多国籍企業グループの取引の全体像に関する情報が必要との観点から導入されるものである。なお、それぞれの文書の記載事項は以下の通りである。

>国別報告書の共有方式は「条約方式」が基本に
 国別報告書の提出・共有方法については、多国籍企業が進出する国ごとに、子会社を通じて各国の税務当局に提出する「子会社方式」と、本店所在地国の税務当局に提出した上で租税条約の情報交換規定等により他国税務当局に共有する「条約方式」の2つの意見が対立していた。経団連をはじめ各国の経済界は、機密情報の保護等の観点から「条約方式」を採用するよう主張していた。
 OECDが2月6日に公表したガイダンスでは、企業側の意見を取り入れ、「条約方式」が基本とされることになった(今号40頁参照)。これにより、多国籍企業グループの親会社は所在地国の税務当局に国別報告書を提出し、子会社の所在地国の税務当局が租税条約に基づく自動的情報交換により情報が共有されることになる。

アップデイトがなかったことがALPの失敗
本誌:移転価格税制について、OECDは独立企業原則(ALP:Arm's Length Principle)を維持する立場を保ちつつも、場合によってはALPを超える措置もあり得るということで、先の公開討議草案(行動8~10:リスク・再構築・特別措置)でも所得相応性基準に相当する措置などが提案されています。“独立企業原則”の時代は終わりを迎えようとしているのでしょうか。
サンタマン:現行の独立企業原則のルールというのは、1928年に初めて当時の国際連盟が打ち出したものです。このルールというのはそもそも価値が創出された、もしくは所得が稼得された国々に対して利益を配分するべく設計されています。
 ところが、グローバル化された環境の中では、この独立企業原則を適用することにより、結果として全く課税がない国に対して利益を移転することが可能になってしまったのです。これが独立企業原則の適用の失敗ということになります。理由は適切な更新(アップデイト)が一切行われてこなかったからです。今、私たちは“独立企業原則”が失われつつあるという状況に直面しています。多国籍企業が利益をタックスヘイブンに付け替えてしまった結果、二重非課税の状態が起きてしまったということです。
 しかし、独立企業原則に代わるものがないことも事実です。現在、OECDが何をしているかというと、移転価格ガイドラインに非常に詳細な説明を付ける作業を行っています。また、必要に応じて特別措置を策定するということもしております。独立企業原則を適用した結果について、道理が通り、説明がつくようにしたいと思っています。
 ご質問では、“独立企業原則”の時代は終わりを迎えようとしているのではないかと問われていますが、そうではありません。

パテントボックス、研究開発活動のインセンティブとしては効率悪い
本誌:日本には試験研究費の支出額(入口)に着目した優遇措置がある一方、研究開発の成果である知的財産権に起因する所得(出口)に対する優遇措置はありません。今回、BEPSの行動5「有害税制への対抗」で、まさに出口の優遇策であるパテントボックスに関する整理が行われたと伺っています。日本としても密かに注目していますが、研究開発に対する税制の支援策のあり方について、入口・出口含め、考えをお聞かせ下さい。
サンタマン:パテントボックス(下掲参照)については、いわゆるネクサスアプローチというものが採られます。ネクサスというのは課税上の関係、課税根拠との結びつきをみるというアプローチです。所得を生成する活動が行われている場所と、税の優遇措置を付与している場所とを関連付けてみるという考え方、それがネクサスアプローチです。
 国際社会からパテントボックスは受け入れ可能なものであり、有害なものではないという認識を取り付けたのであれば適用は可能であると思っています。しかしながら、実は経済分析でも認識されている通り、このパテントボックスというのは研究開発活動のインセンティブとして使うには、あまりにも効率が悪いということが示されています。
 したがって、パテントボックスを適用したいと思われるかもしれませんが、仮に適用したいというのであれば、より納税者の税金を効率的に使うということも考えなければなりません。
>パテントボックスとは?
 成長とイノベーションを支援するために国が提供する知的財産優遇税制のこと。企業による研究開発、製造及び特許の活用に関連した活動拠点の誘致のため、国が低率の法人税率などの優遇措置を提供するものである。英国、フランス、ルクセンブルク、オランダなどで導入されている。
 ただ、パテントボックスは、研究開発活動を引き付けるのであれば、国内の成長やイノベーションを支える観点から有益であるとされているが、価値が実際に作られる場所から低税率で課税される他の場所に所得を移すことを促すだけであれば有益ではないとされている。
 BEPSの行動5「有害税制への対抗」では、他国の税源の浸食につながる知的財産優遇税制の潜在的な有害性を除去するための国際的な基準について2015年2月6日に公表。具体的には、知的財産開発費用の総額に占める国内での自社開発支出(※関連者への外注費、他社の知的財産の取得費は含まず)の割合に応じて、優遇税率を適用する所得の額を算定することとされた(下記参照)。ただし、関連者の外注費等のうち自社開発支出の3割までは自社開発支出に含めることが可能。なお、現行制度を利用している企業への配慮の観点から、既存の優遇税制の完全廃止は、2021年6月30日とされている。

ポストBEPSプロジェクトは?
本誌:2015年12月に15のBEPS行動計画のすべてが出揃う予定となっていますが、国内法については一貫性のある執行、そのレビュー、勧告内容の見直しといった課題が生じると思われます。また、条約関係については、合意された事項をどこまで行動15「多国間協定の開発」でマルチの枠組みに取り込むのか、という論点もあると考えられます。少し気が早いですが、ポストBEPSプロジェクト、2016年以降の国際課税の展開について、どのようにお考えですか。
サンタマン:この多国間協定(参照)というのは簡単です。BEPSプロジェクトで策定された租税条約上の措置を多国間協定を通じて既在の租税条約を修正し、実施するのです。

 例えば、BEPSの行動2「ハイブリッド・ミスマッチの無効化」にも帰結していますし、行動6「租税条約濫用の防止」にも関係しています。PEの定義を変更した行動7「恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止」ですとか、あるいは行動14「相互協議の効果的実施」において多国間協定として形が表れています。
 この多国間協定というのは、まさにBEPSに示されている実施計画の実施、これを簡素な形でかつ、効率よく進めていくための手段となっています。もちろんその中で各国が有する主権というものは尊重しながらやっていきます。もしすべての国がモデルの租税条約に対して合意するということになれば、それで済むということです。同じことを二国間でやろうとしたならば1か国ずつ交渉しなければなりませんから、3,000を超える二国間条約の改正には15年はかかるでしょう。しかし、多国間協定はわずか2年で租税条約を改正することができるという非常にシンプルなやり方です。
ガイドラインなどが必要に  次にBEPSプロジェクトが完了した後ですが、個人的には実施の方に目が向けられるのではないかと考えております。つまり、OECD加盟国及び非加盟国双方が一貫してこのBEPS行動計画を実施していけるようにするためのガイドラインが必要になってくると思っています。そして出来ればOECD非加盟国がOECDスタンダードに歩み寄りをみせるということが考えられるのではないかと思います。
 また、BEPSに示された施策を実施していくことに合意した国については、その実施状況をモニタリングしていくことも行われると思います。モニタリングについては、行動14「相互協議の効果的実施」に盛り込まれている相互協議に非常に関連があると思っています。
 以上のことを端的にいいますと、現段階でこれまで見られなかったレベルでの各国間の協力が出来上がっているのではないかと思います。G20・OECDの枠組みにより国を超えた規則のようなものが出来たということです。これは各国政府にとっても、企業にとっても恩恵のあることだと考えます。

BEPSプロジェクトに注視、評判リスクに直面する可能性も
本誌:最後に、日本の読者(特に企業関係者)にメッセージをお願いします。
サンタマン:日本の読者の方にお伝えしたいことは非常にシンプルです。BEPSプロジェクトに対して常に関心を向けていて下さい。このBEPSプロジェクトは、G20のリーダー達が主導した政治的なプロジェクトであり、かつ、偶然生まれたものではないからです。
 まず、財務危機が起こり、その後に財務危機が元となった金融危機が引き起こされ、最終的には社会的危機、政治的危機にまで至るに及びました。
 このような状況の中、政治家は世界中で公平な税制であることについて説明責任を果たさなければならない必要が生じたのです。タックスプランニングを通じて租税負担を減らす企業がある一方で、タックスプランニングをグローバルベースで行っていない企業と比べた場合、大きなギャップが生じるようになってしまっているわけです。したがって、このBEPSプロジェクトも政治的な問題を反映したものになっています。
 この点について絶対に目を逸らすことなく常に高いアンテナを張ってみるということが必要になると思います。そうしなければ、企業として一番避けたい評判リスク(Reputation Risk)に直面するという可能性も否めないからです。
本誌:本日はありがとうございました。

当ページの閲覧には、週刊T&Amasterの年間購読、
及び新日本法規WEB会員のご登録が必要です。

週刊T&Amaster 年間購読

お申し込み

新日本法規WEB会員

試読申し込みをいただくと、「【電子版】T&Amaster最新号1冊」と当データベースが2週間無料でお試しいただけます。

週刊T&Amaster無料試読申し込みはこちら

人気記事

人気商品

  • footer_購読者専用ダウンロードサービス
  • footer_法苑WEB
  • footer_裁判官検索