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解説記事2015年07月20日 【税制改正解説】 平成27年度に署名された租税条約について(2015年7月20日号・№603)

税制改正解説
平成27年度に署名された租税条約について
 木下 亮

Ⅰ 日本・カタール国租税協定

 日本とカタール国(以下「カタール」という。)との間には、これまで租税協定は存在しなかったが、近年における両国の緊密化する経済関係を踏まえ、両国政府は、租税協定を締結するための正式交渉を平成26年(2014年)12月に開始し、平成27年(2015年)2月20日に東京で「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とカタール国政府との間の協定」(以下Ⅰにおいて「協定」という。)に署名した。
 今後、協定は、両国のそれぞれの国内手続に従って承認され、その承認を通知する外交上の公文の交換の日の翌日から30日目の日に効力を生ずることとなる。
 協定が平成27年(2015年)中に効力を生じた場合には、日本においては、課税年度に基づいて課される租税に関しては平成28年(2016年)1月1日以後に開始する各課税年度の租税から、課税年度に基づかないで課される租税に関しては同日以後に課される租税から、それぞれ適用されることとなる。
 協定は、国際的な二重課税を調整するため、両国において課税することができる範囲を明確にする規定等を設けている。また、その締結によって、両国の税務当局間において、両国で生じた課税に関する問題についての協議や実効的な情報交換を行うことが可能となる。これらにより、脱税及び租税回避行為を防止しつつ、両国の投資・経済交流を促進することが期待される。
 以下では、協定の主な内容について解説する。

1 対象となる租税(第2条)
(1)本条の趣旨
 本条は、協定が適用される日本とカタールの租税を以下のとおり規定している。
① 日本については、所得税、法人税、復興特別所得税、地方法人税及び住民税
② カタールについては、所得に対する租税(注)
(注)カタールの対象となる租税である「所得に対する租税」とは、カタールの所得税法によって課される所得税及びカタール金融センター租税規則によって課される法人税をいうことが確認されている。

2 居住者(第4条)
(1)「一方の締約国の居住者」の定義(本条1)
 協定の適用上、「一方の締約国の居住者」とは、日本及びカタールにおいて、それぞれ次の者をいうこととされている。
① 日本については、日本の法令の下において、住所、居所、本店又は主たる事務所の所在地その他これらに類する基準により日本において租税を課されるべきものとされる者。ただし、日本に源泉のある所得のみについて日本において租税を課されるべきものとされる者は、日本の居住者には含まれない。
② カタールについては、
 (i)カタール内に恒久的住居を有するか、いずれかの12か月の間に合計183日を超える期間滞在するか、又は重要な利害関係の中心がある自然人
 (ii)カタールの法令に基づいて設立されるか、又はカタール内に本店若しくは事業の実質的な管理の場所を有する法人格を有する団体
(2)双方居住者の振分けルール(本条2及び3)  上記(1)により双方の国の居住者とされる個人については、以下のとおり、いずれか一方の締約国の居住者とみなされる。
① その使用する恒久的住居が所在する締約国の居住者。日本とカタールの双方に恒久的住居を有する場合には、人的及び経済的関係がより密接な締約国(重要な利害関係の中心がある締約国)の居住者
② 上記①によって決定することができない場合には、その有する常用の住居が所在する締約国の居住者
③ 上記②によって決定することができない場合には、その個人が国民である締約国の居住者
④ 上記①から③までによっても決定することができない場合には、両締約国の権限のある当局の合意により解決される。
 また、上記(1)により双方の居住者とされる個人以外の者は、その者の本店又は主たる事務所が存在する締約国の居住者とみなされる。

3 恒久的施設(第5条)
(1)「恒久的施設」の定義(本条1)
 「恒久的施設」とは、事業を行う一定の場所であって企業がその事業の全部又は一部を行っているものをいう。
(2)建築工事現場等及び役務の提供(本条3)  本条3では、次のものが恒久的施設に含まれることが規定されている。
① 建築工事現場又は建設若しくは据付けの工事であって6か月を超える期間存続するもの
② 企業が行う役務の提供(コンサルタントの役務の提供を含む。)であって、使用人又はその役務の提供のために採用されたその他の職員を通じて行われるもの。ただし、このような活動が単一の又は関連するプロジェクトについていずれかの12か月の間に合計183日を超える期間行われる場合に限る。
(3)恒久的施設を有するとはされない活動(本条4)  事業を行う一定の場所であっても、準備的又は補助的な性格の活動のみを行う場所は、恒久的施設を有するとはされない。
(4)従属代理人(本条5)  企業の代理人が、一方の締約国内で、その企業の名において契約を締結する権限を有し、かつ、この権限を反復して行使する場合には、その企業は、代理人が企業のために行う全ての活動について、一方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。
(5)保険業を営む企業の取扱い(本条6)  保険業を営む一方の締約国の企業が、他の者を通じて、他方の締約国内で保険料(再保険に係るものを除く。)を受領する場合等には、その企業は、他方の締約国内に恒久的施設を有するものとされる。
(6)独立の地位を有する代理人(本条7)  一方の締約国の企業は、通常の方法でその業務を行う仲立人等の独立の地位を有する代理人を通じて他方の締約国内で事業活動を行っているという理由のみによっては、他方の締約国内に恒久的施設を有するものとはされない。

4 不動産所得(第6条)  一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産から取得する所得(農業又は林業から生ずる所得を含む。)については、その不動産が存在する他方の締約国において課税できることとされている。

5 事業利得(第7条)
(1)「恒久的施設なければ課税なし」の原則及び「帰属主義」の原則(本条1)
 本条1では、企業が事業活動によって取得する利得に対する課税に関して、二つの原則が規定されている。
 一つは「恒久的施設なければ課税なし」の原則で、一方の締約国の企業の利得に対しては、その企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて他方の締約国内において事業を行わない限り、一方の締約国においてのみ課税できるとされている。
 もう一つは「帰属主義」の原則で、一方の締約国の企業が他方の締約国内にある恒久的施設を通じて他方の締約国内において事業を行う場合には、その企業の利得のうちその恒久的施設に帰せられる部分に対してのみ、他方の締約国において課税できるとされている。
(2)独立企業原則(本条2)  本条2は、独立企業原則について規定しており、本来は企業の一部である恒久的施設を、その企業とは別個の独立した存在とみなした上で、独立した企業間における条件で取引を行うとしたならば取得したとみられる利得が恒久的施設に帰せられるものとされる。

6 海上運送及び航空運送(第8条)  企業が取得する船舶又は航空機を国際運輸に運用することによって取得する利得(以下「国際運輸業利得」という。)に対しては、第7条(事業利得)の例外として、その企業の居住地国においてのみ課税できることとされている。
 また、企業の居住地国においてのみ課税することができるとする趣旨を徹底するため、国際運輸業利得について、カタールの企業であれば日本の事業税、日本の企業であればカタールにおける日本の事業税に類似する租税が免除される。

7 関連企業(第9条)  関連企業間の取引においては、独立した企業間で用いられる取引価格(以下「独立企業間価格」という。)とは異なる取引価格を用いることによって、所得が関連企業間で移転されることがある。本条は、関連企業間の取引価格を独立企業間価格に引き直してそれぞれの企業の利得を計算するという独立企業原則に基づく課税に関するルールを定めている。
(1)独立企業間価格に基づく課税のルール(本条1)  本条1は、親子関係や兄弟関係にある関連企業間において、独立した企業間に設けられる取引条件とは異なる取引条件が設定されており、これにより企業の利得が減少していると認められる場合には、その企業の利得を独立した企業間の取引において得られたであろう利得に引き直して課税できることを規定している。
(2)対応的調整(本条2)  本条1に基づいて、一方の締約国が企業の利得を更正して課税した場合、更正された部分の利得は他方の締約国の関連企業の利得にも含まれて課税されていることから、双方の締約国が同一の利得について課税するという二重課税の状態が生ずることになる。本条2は、このような二重課税を除去するため、双方の締約国の権限のある当局が合意することを条件として、他方の締約国が関連企業の利得の減額調整を行うことを規定している。

8 配当(第10条)
(1)居住地国の課税(本条1)
 本条1では、一方の締約国の居住者である法人が他方の締約国の居住者に支払う配当に対しては、配当を受け取る者が居住者とされる他方の締約国(居住地国)において課税できることが規定されている。
(2)源泉地国の課税(本条2)  本条2では、配当に対しては、配当を支払う法人が居住者とされる一方の締約国(源泉地国)においても課税できることを規定するとともに、その配当の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国において課税できる税率の上限(限度税率)が規定されている。
 配当の受益者が、その配当の支払を受ける者が特定される日をその末日とする6か月の期間を通じて、その配当を支払う法人の議決権等の10%以上を直接又は間接に所有する法人である場合には限度税率は5%とされ、それ以外の場合には10%とされている。
(3)配当を控除することができる法人が支払う配当の取扱い(本条4)  本条4では、課税所得の計算上、受益者に対して支払う配当を控除することができる法人(いわゆるペイスルー法人)によって支払われる配当については、5%の限度税率ではなく、10%の限度税率を適用することが規定されている。

9 利子(第11条)
(1)居住地国の課税(本条1)
 本条1では、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる利子に対しては、利子を受け取る者が居住者とされる他方の締約国(居住地国)において課税できることが規定されている。
(2)源泉地国の課税(本条2)  本条2では、利子に対しては、利子が生じた一方の締約国(源泉地国)においても課税することができることを規定し、その利子の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国が課税できる税率の上限(限度税率)を10%とすることが規定されている。
(3)源泉地国免税(本条3)  本条3では、利子が生じた一方の締約国(源泉地国)において免税となる場合が、以下のとおり規定されている。
① その利子の受益者が、他方の締約国の政府等、地方政府、地方公共団体若しくは中央銀行又は他方の締約国の政府により全面的に所有される機関(9において「政府等」という。)である場合
② その利子の受益者が他方の締約国の居住者であり、かつ、その利子が政府等によって保証された債権、政府等によって保険の引受けが行われた債権又は政府等による間接融資に係る債権に関して支払われる場合
③ その利子の受益者が、他方の締約国の居住者(その国の法令に基づいて設立され、かつ、規制されるものに限る。)である銀行、保険会社、証券会社等である場合
④ その利子の受益者が他方の締約国の居住者である年金基金であって、その利子が年金基金の主たる業務として取得され、かつ、その年金基金の受益者等の50%超がいずれかの締約国の居住者である個人である場合

10 使用料(第12条)
(1)居住地国の課税(本条1)
 本条1では、一方の締約国内において生じ、他方の締約国の居住者に支払われる使用料に対しては、使用料を受け取る者が居住者とされる他方の締約国(居住地国)において課税できることが規定されている。
(2)源泉地国の課税(本条2)  本条2では、使用料に対しては、使用料が生じた一方の締約国(源泉地国)においても課税することができることを規定し、その使用料の受益者が他方の締約国の居住者である場合に源泉地国が課税できる税率の上限(限度税率)を5%とすることが規定されている。

11 譲渡収益(第13条)
(1)不動産の譲渡(本条1)
 本条1では、一方の締約国の居住者が他方の締約国内に存在する不動産(第6条に規定する不動産をいう。)の譲渡によって取得する収益に対しては、その不動産の所在地国である他方の締約国において課税できることが規定されている。
(2)不動産化体株式の譲渡(本条2)  本条2では、一方の締約国の居住者が法人、組合又は信託財産(資産の価値の50%以上が他方の締約国内に存在する不動産により直接又は間接に構成される法人、組合又は信託財産に限る。)の株式又は持分の譲渡によって取得する収益に対しては、その不動産の所在地国である他方の締約国において課税できることが規定されている。
(3)国際運輸に運用される船舶等の譲渡(本条4)  本条4では、一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶等又は船舶等の運用に係る財産(不動産を除く。)の譲渡によって取得する収益に対しては、その企業の居住地国においてのみ課税できることが規定されている。
(4)その他の財産の譲渡(本条5)  本条5では、財産の譲渡から生ずる収益に対しては、原則として、譲渡者の居住地国においてのみ課税できることが規定されている。

12 独立の人的役務(第14条)
(1)独立の人的役務について取得する所得の取扱い(本条1)
 本条1では、一方の締約国の居住者が自由職業その他の独立の性格を有する活動について取得する所得に対しては、次のいずれかに該当する場合を除き、一方の締約国においてのみ課税できることとされている。
① その者が、自己の活動を行うため通常その用に供している固定的施設を他方の締約国内に有する場合
② その者が、その課税年度において開始し、又は終了するいずれかの12か月の期間において、合計183日以上の期間他方の締約国内に滞在する場合
 なお、上記①又は②に該当する場合には、その取得する所得のうち、その固定的施設に帰せられる部分又はその者が他方の締約国内において行う活動によって取得した部分についてのみ、他方の締約国においても課税できる。
(2)「自由職業」に含まれる活動(本条2)  「自由職業」には、特に、学術上、文学上、芸術上及び教育上の独立の活動並びに医師、弁護士、技術士、建築士、歯科医師及び公認会計士の独立の活動が含まれることとされている。

13 給与所得(第15条)
(1)給与所得に対する課税(本条1)
 本条1では、一方の締約国の居住者がその勤務について取得する給与等に対しては、その勤務が他方の締約国内で行われる場合に限り、他方の締約国においても課税できることが規定されている。
(2)短期滞在者免税(本条2)  本条2では、次の①から③までの要件を全て満たす場合には、一方の締約国の居住者が他方の締約国内で行う勤務について取得する給与等については、本条1の規定にかかわらず、他方の締約国において免税とされることが規定されている。
① 給与等を取得する者が他方の締約国内に滞在する期間が、その課税年度において開始し、又は終了するいずれの12か月の期間においても、合計183日以内であること。
② 給与等が、他方の締約国の居住者でない雇用者又はこれに代わる者から支払われるものであること。
③ 給与等が、雇用者が他方の締約国内に有する恒久的施設又は固定的施設によって負担されるものでないこと。
(3)国際運輸に運用する船舶等内の勤務に係る報酬(本条3)  本条3では、一方の締約国の企業が国際運輸に運用する船舶等内において行われる勤務に係る給与等に対しては、本条1及び2の規定にかかわらず、その企業の居住地国において課税できることが規定されている。

14 役員報酬(第16条)  本条では、一方の締約国の居住者が他方の締約国の居住者である法人の役員の資格で取得する報酬に対しては、他方の締約国において課税できることが規定されている。

15 芸能人及び運動家(第17条)
(1)芸能人等が取得する所得の取扱い(本条1)
 本条1では、一方の締約国の居住者が、芸能人等として他方の締約国内で行う個人的活動(以下「芸能活動等」という。)によって取得する所得に対しては、第14条(独立の人的役務)及び第15条(給与所得)の規定にかかわらず、その活動が行われた他方の締約国(役務提供地国)において課税できることが規定されている。
(2)芸能法人等が取得する報酬の取扱い(本条2)  本条2では、芸能人等の芸能活動等に関する所得が芸能人等以外の者(芸能法人等)に帰属する場合には、第7条(事業利得)、第14条(独立の人的役務)及び第15条(給与所得)の規定にかかわらず、その役務提供地国において課税できることが規定されている。

16 退職年金及び保険年金(第18条)
(1)退職年金等及び保険年金の取扱い(本条1)
 本条1では、第19条2(政府等から支払われる退職年金等の取扱い)が適用される場合を除いて、一方の締約国の居住者に支払われる退職年金その他これに類する報酬及び保険年金に対しては、一方の締約国(居住地国)においてのみ課税できることが規定されている。
(2)「保険年金」の定義(本条2)  本条2は、「保険年金」の定義を規定している。「保険年金」とは、金銭等による適正かつ十分な給付の対価としての支払を行う義務に従って、終身にわたり又は特定の期間中若しくは確定することができる期間中に、所定の時期において定期的に所定の金額が支払われるものとされている。

17 政府職員(第19条)
(1)政府等から支払われる給与等の取扱い(本条1)
 本条1では、一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体に対して提供される役務について、個人に対し、一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体によって支払われる給与等に対しては、原則として、一方の締約国(支払国)においてのみ課税できることが規定されている。
(2)政府等から支払われる退職年金等の取扱い(本条2)  本条2では、本条1の規定にかかわらず、一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体に対して提供される役務について、個人に対し、一方の締約国又はその地方政府若しくは地方公共団体によって支払われ、又はこれらが拠出し、若しくは設立した基金から支払われる
退職年金等に対しては、原則として、一方の締約国(支払国)においてのみ課税できることが規定されている。

18 学生(第20条)  本条では、専ら教育又は訓練を受けるため一方の締約国内に滞在する学生、事業修習者又は研修員であって、現に他方の締約国の居住者であるもの又はその滞在の直前に他方の締約国の居住者であったものがその生計、教育又は訓練のために受け取る給付(一方の締約国外から支払われるものに限る。)については、一方の締約国(滞在地国)において免税とされることが規定されている。ただし、事業修習者及び研修員に対する免税は、一方の締約国(滞在地国)内において最初に訓練を開始した日から3年を超えない期間についてのみ適用される。

19 その他の所得(第21条)
(1)その他の所得の取扱い(本条1)
 本条1では、一方の締約国の居住者が受益者である所得であって、第6条(不動産所得)から第20条(学生)までに規定されている各種の所得に該当しないものに対しては、その源泉地を問わず、居住地国においてのみ課税できることが規定されている(注)。
(注)本条1の例外として、議定書8は、協定のいかなる規定にもかかわらず、日本は、匿名組合契約又はこれに類する契約に基づいて取得される所得及び収益に対して、日本の法令に従って課税できることを規定している。

20 二重課税の除去(第22条)  本条は、各締約国が自国の居住者に対して二重課税を除去するための措置をとらなければならないことを規定しており、日本においてもカタールにおいても、外国税額控除によって二重課税が排除されることとされている。

21 無差別待遇(第23条)
(1)本条の趣旨
 本条は、相手国の居住者等に対して課税上の差別的取扱いを行ってはならないことを規定している。
 なお、本条の規定は、第2条(対象となる租税)に規定する協定の対象となる租税に限定されず、全ての種類の租税に適用される。

22 相互協議手続(第24条)  本条は、協定の規定に適合しない課税等を解決するための相互協議手続について規定している。
(1)納税者の申立て(本条1)  本条1では、いずれか一方又は双方の締約国の措置により協定の規定に適合しない課税を受けたと認める者又は受けることになると認める者は、その事案について、一方又は双方の締約国の法令上の救済手段とは別に、自己が居住者である締約国の権限のある当局に対して申立てをすることができることが規定されている。
(2)相互協議及び合意の実施(本条2)  本条2では、本条1の申立てを受けた権限のある当局は、その申立てを正当と認める場合であって、かつ、自らの措置のみでは満足すべき解決を与えることができない場合には、他方の締約国の権限のある当局との合意によってその事案を解決するよう努めなければならないことが規定されている。また、権限のある当局間で合意が成立した場合には、両締約国の法令上のいかなる期間制限にもかかわらず、その合意を実施しなければならないこととされている。
(3)協定の解釈又は適用に関する相互協議(本条3)  本条3では、両締約国の権限のある当局は、協定の解釈又は適用に関して生ずる困難又は疑義についても合意によって解決するよう努めなければならないこと、及び、協定に定めのない場合における二重課税を除去するため、相互に協議できることが規定されている。

23 情報の交換(第25条)  本条では、両締約国の権限のある当局が、協定の規定の実施又は両締約国若しくはそれらの地方政府若しくは地方公共団体が課す全ての種類の租税に関する両締約国の法令(その法令に基づく課税が協定の規定に反しない場合に限る。)の運用若しくは執行に関連する情報を交換することが規定されるとともに、情報の交換におけるルールが規定されている。この情報の交換は、協定の対象となる租税以外の租税に関する情報も対象となる。

Ⅱ 日本・英領バージン諸島租税情報交換協定の締結
 国境を越える経済取引、資産の移転等が活発化する中、国際的な脱税及び租税回避行為を防止して適切に税収を確保する観点から、多数の国及び地域との間で租税に関する情報交換の枠組みを整備・拡充することの重要性が増している。こうした情勢を踏まえ、平成26年(2014年)6月18日に、日本政府は、英領バージン諸島(以下「BVI」という。)政府との間で、「租税に関する情報の交換のための日本国政府と英領バージン諸島政府との間の協定」(以下Ⅱにおいて「協定」という。)に署名を行った。
 協定は、OECDモデル租税情報交換協定(OECDが策定した、租税に関する実効的な情報交換を実施することを目的とした国際約束のモデル)に沿った内容のもので、協定の締結により、日本とBVIとの間で、租税に関する国際標準に基づく税務当局間の実効的な情報交換の実施が可能となり、国際的な脱税及び租税回避行為の防止に資することが期待される。
 協定は、平成26年(2014年)9月11日に効力発生に必要な相互の通知が終了し、同年10月11日に発効した。
 協定は、犯則租税事案に関しては、対象となる犯則租税事案に係る課税年度にかかわらず適用される。また、他の全ての事案に関しては、課税年度に基づいて課される租税に係る事案である場合には、平成26年(2014年)10月11日以後に開始する課税年度に関する要請について、課税年度がない場合には、同日以後に課される租税に関する要請について、適用される。
 以下では、協定の主な内容について解説する。

1 目的及び適用範囲(第1条)  協定の目的は、日本とBVIの権限のある当局が、協定の対象となる租税に関する両締約者の法令の運用又は執行に関連する情報の交換を通じて支援を行うこととされ、交換される情報には、協定の対象となる租税の決定、賦課及び徴収、租税債権の回収及び執行並びに租税事案の捜査及び訴追に関連する情報が含まれる。また、これらの情報は、各締約者の法令に従うことを条件として、協定に規定される手続等に従って入手され、交換され、秘密として取り扱われる。

2 対象となる租税(第3条)  協定が適用される租税は、一方の締約者のために課される全ての種類の租税とされている。これにより、日本は、BVIに対し、日本の全ての国税に関する情報の提供を要請し、その提供を受けることが可能となる。他方で、協定は、一方の締約者の地方政府又は地方公共団体のために課される租税については、適用しないこととされており、日本の地方税に関する情報の提供をBVIに対して要請することはできない。


3 秘密(第8条)  協定に基づいて両締約者の権限のある当局が提供し、及び受領した全ての情報は、秘密として取り扱われる。
 情報は、被要請者の権限のある当局の書面による明示の同意がない場合には、第1条(目的及び適用範囲)に定める目的以外の目的のために使用することはできないこととされている。また、情報を、非締約者(日本とBVI以外の国・地域)内にある者又は当局に開示することはできないこととされている。

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