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解説記事2015年09月07日 【ニュース特集】 所得税の買換特例をめぐる最近の訴訟トラブル(2015年9月7日号・№609)

ニュース特集
税務訴訟は納税者が敗訴、税賠事件は税理士が勝訴
所得税の買換特例をめぐる最近の訴訟トラブル

 個人の資産税実務のなかでも重要度が高い「買換特例」の適用をめぐる“税賠事件”と“税務訴訟”で、ここ最近相次いで判決が下されていたことが本誌取材により判明した。税賠事件は、「居住用財産の買換特例」に関する税理士の誤った説明により、納税者が更正処分(特例の否認)を受けることになったか否かが問題となったもの。一方、税務訴訟は、納税者が譲渡した土地の取得価額をめぐり、その土地を約40年前に取得した納税者の父が「事業用資産の買換特例」の適用を受けていたか否かが問題となったものだ。特集では、買換特例が問題となった2つの訴訟に関する裁判所の判断内容などを詳しくお伝えする。

特例に関する税理士の回答に誤りがあったか否かが問題に
 最初に紹介する税賠事件で問題となった「居住用財産を買い換えた場合の譲渡損失等の特例(措法41条の5)」は、旧居宅を売却し、新居宅を購入した場合に、旧居宅の譲渡により生じた譲渡損失について給与所得などとの損益通算を認めるというもの(以下「特例」)。本事案は、この特例に関する税理士(被告)の誤った説明により、納税者(原告)が更正処分(特例の否認)を受けることになったか否かが問題となった(図1参照)。

 事実関係をみると、納税者は、納税者が代表取締役を務める会社と税務顧問契約を締結していた税理士に対し、不動産の譲渡・賃貸などに関する税務相談を行っていた。納税者は、特例の適用に関する税理士の提案に沿って、A社(不動産仲介業者)から居住用不動産を購入するとともに、その購入資金をA社から借り入れることにした。
 その後、納税者は、借入先を納税者が代表を務めるB社(宅建業者および貸金業者)に変更した場合でも特例を適用できるかどうかを税理士事務所の職員に確認。これに対し職員は、複数の税務署に対し借入先が貸金業の登録があることなどを伝えたうえで、「特例の適用に問題がないか」を確認したところ問題はない旨の回答を受けた。税理士は、税理士事務所の職員に対して税務署の回答を納税者にそのまま伝えるように指示。職員は、納税者に対して税務署が特例適用に問題はない旨を回答したと報告した。この報告を受けた納税者は、A社から不動産を購入し、B社から購入資金を借り入れたが、借入時点においてB社の貸金業免許の登録は終了していた。
借入先の貸金業免許が終了、適用の対象外に  納税者は、特例適用を前提とした申告書を作成し、税理士の確認を受けたうえで申告書を税務署に提出したものの、この特例適用は税務署により否認された。これを不服とする納税者は、国税不服審判所に対し審査請求を行った。審判所は、買換資産を取得した日の属する年分の12月31日においてB社の貸金業の登録が抹消されていたことなどを理由に特例の適用はないと判断。これを受け納税者は、税理士の誤った説明(特例の適用がある旨を回答)により更正処分を受けることになったなどと主張して、税理士に対し損害賠償を請求した。
地裁、税理士の回答が誤りであるとはいえず  裁判所は、本件における確定申告は納税者が自ら行うこととなっており、税務相談に関する報酬の定めがないことなどを指摘し、本件における税理士の義務は納税者から受けた情報を前提に特例の有無を検討するに止まり、納税者から受けた情報の正確性を検討するまでの義務は負っていないと判断した。
 さらに裁判所は、B社を借入先とする場合であってもB社が貸金業の免許を更新していた場合には特例の適用を受け得たと指摘。そのうえで、裁判所は、借入先をA社からB社に変更したい旨の相談を税理士が受けた際にB社は貸金業の免許を得ていたと認定できるため、B社を借入先とした場合に特例の適用がある旨の税理士の回答も直ちに誤りであることにはならないとし、納税者の請求を斥ける判決を下した。(東京地裁平成27年5月19日判決)。

約40年前に特例適用の事実があったか否かが問題に
 次に紹介する税務訴訟で問題となった「特定事業用資産の買換特例(措法37条)」は、個人が事業用資産を譲渡し、新たに事業用資産を取得した場合に、譲渡資産の売却益の80%相当額について課税の繰延べを認める一方で、譲渡資産の取得価額を買換資産の取得価額に引き継がせるというもの(以下「特例」)。本事案は、被相続人(納税者の父)が昭和48年に取得した本件土地に関し、被相続人が事業用資産の買換特例の適用を受けていたか否かが問題となったものだ(図2参照)。

 事実関係をみると、相続などにより本件土地を取得した納税者は、被相続人が特例の適用を受けていないことを前提に、本件土地の取得価額を実際の取得価額(約2,800万円)としたうえで平成20年分の確定申告を行った。
 この申告に対し税務署は、被相続人の昭和48年分の申告書は現存していなかったものの、特例適用に関し税務署内部で作成される「取得価額引継整理票」(以下「本件整理票」)の原本が存在したため、本件土地に関し被相続人は特例の適用を受けていたと判断。税務署は、本件土地の取得価額は特例の適用により引き継がれた取得価額(約494万円)であるとしたうえで、納税者に対し更正処分等を行った。この処分を不服とする納税者は、約40年前の本件整理票の原本の存在をもって、税務署が被相続人の確定申告に対し特例を適用したとはいえないなどと主張し、更正処分等の取り消しを請求した。
当局作成資料から特例の適用があったと認定  裁判所は、税務署員が作成した本件整理票の原本には納税者からの申告がなければ知り得ない具体的な事実関係が概ね正確に記載されている点などから、被相続人は特例の適用を受けようとする旨記載した申告書を提出したことが推認されると認定。本件整理票を作成した税務署員は特例適用について一定の調査確認を行い、統括官の決裁を受けたものであると認定したうえで、被相続人は本件土地を買換資産とする特例の適用を受けた者に当たると判断した。そのうえで、裁判所は、本件土地の取得価額は特例適用により引き継がれた取得価額(約494万円)であると判断し、納税者の請求を斥けた。(東京地裁平成27年6月30日判決)。

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