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解説記事2015年11月09日 【税務マエストロ】 BEPSプロジェクト:最終パッケージの公表(2015年11月9日号・№617)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
BEPSプロジェクト:最終パッケージの公表
#150 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#151 対価性の判断(その1) 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

マエストロの解説  2015年10月5日、OECD租税委員会は、BEPS(Base Erosion and Profit Shifting)行動計画に基づく「最終報告書」を含む包括的な最終パッケージを公表した。この最終報告書は10月8日のG20財務大臣・中央銀行総裁会議(ペルーのリマにて開催)に提出され、新たな国際課税のルールとして採択されたところである。今般の最終パッケージ公表を受け、それぞれの行動計画に係る施策立案の段階は一応完了となり、今後は、各国において最終報告書の提言に係る具体化等の作業段階に入っていく予定である。
 日本では、既に税制改正につながった論点があるが(たとえば外国子会社配当益金不算入の制限)、この最終報告書を受け、さらに税制改正及び租税条約の改正が行われることが予想される。納税者、特に国境を越えて事業を展開している企業においては、最終報告書の影響を踏まえた事業計画等の検討が不可欠になるといえる。

1 各行動計画における最終報告書の概要
(1)行動計画1(電子商取引課税)
 電子商取引課税に関する最終報告書での主な結論はこれまでの検討を踏まえたものとなっている。電子商取引の課税のうち、付加価値税の課税制度は「仕向地主義」の消費税課税として既に提言が行われている。法人税については、既存のPEや移転価格の概念を適用することでネクサスやデータ等を巡る課題に対応することとし、あえて現段階で新たな概念や源泉税等は提言されていない。ただ、一定の条件の下、各国国内法でこれらの措置を採る可能性もあるとされている。電子商取引の法人税課税については電子商取引の進展を今後も引き続き、モニターしていくこととし、2020年までに報告書を作成することになっている。
 日本では、既に平成27年度税制改正において、国境を越えた役務の提供に対する消費税課税の見直しが行われている。これは、国内外の事業者間で競争条件をそろえる観点から、国外事業者が国境を越えて行う電子書籍・音楽・広告の配信等の電子商取引に、消費税を課税することとするもので、本年10月1日から施行されている。
(2)行動計画2(ハイブリッド・ミスマッチの効果の無効化)  最終報告書は第一次提言の内容を踏襲し、国内法及び租税条約の規定の改正により、ハイブリッド・ミスマッチを生じさせる取引の効果を無効化する、共通のアプローチを各国間で手当てすることを提言している。最終報告書では第一次提言より更に詳細な設例と併せて、新ルール実施の指針及び経過措置的取扱いが盛り込まれている。今回の最終報告書では見送りとなった、貸株を含む取引、ハイブリッド規制資本の取扱い、CFC税制との調整等については、今後の問題として残っている。
 日本では、平成27年度税制改正において、典型的なハイブリッド・ミスマッチと言われる特定の「損金算入配当」(たとえばオーストラリアのRPSなど)を「外国子会社配当益金不算入制度」の対象から除外する改正が行われている。
(3)行動計画3(CFC税制(タックスヘイブン対策税制)の強化)  CFC税制については、各国において既に導入されているCFC税制を基準に、その構成要素として6つの項目で検討を進め(対象子会社(CFC)の範囲、適用除外基準、合算対象所得の定義、合算対象所得の計算方法、合算方法、二重課税の排除方法)、それぞれのベストプラクティスが提言された。一方で、各国において、そもそもCFC税制の政策目的や税制全般の政策目的との関連から、提言の合意には到らない項目もあったようである。その結果、提言内容の実施には柔軟に対応することを認めるなど、「強化」というより、制度設計としての提言になっているといえる。
 日本では、最終報告書の内容を踏まえて現行制度の改正が行われる予定であるが、現行制度が既にかなり強烈な制度となっていることや、既に提言内容に沿っている部分が多いことなどから、現段階で今後の改正の方向性を見きわめることは難しいといえよう。
(4)行動計画4(利子等の損金算入を通じた税源浸食の制限)  利子等の損金算入制限については、特定のミニマム・スタンダードの導入の提言は行われず、計上された利子が当該事業体の経済活動により生じた所得に直接関連するものに限り損金算入となるような共通アプローチの採用を提言している。また、基本ルールとして、日本の「過大支払利子税制」のような固定比率ルールを提言している。これは損金算入利子の指標として、各国がそれぞれの経済状況等の事情を踏まえ、EBITDA(純支払利子/所得)の10?30%での範囲で基準比率を決める方法となる。その他、多国籍企業グループ全体の比率を使用する方法、過少資本税制のような特別ルールも選択的な方法として提言されている。
 日本では、今後、現行の過大支払利子税制等についての改正の必要性が議論されると考えられる。
(5)行動計画5(有害税制への対抗)  先に公表された第一次提言から検討が重ねられ、有害税制の判定では、当該法管轄地において企業活動の実態があるか否かを合意された方法により判定を行うとする新たなミニマム・スタンダードの導入の提言が行われている。特に、パテントボックス税制(特許権等の知的財産から生じる利益に対して、通常の法人税率より低い税率を適用する税制)に関しては、有害税制の判定上「ネクサス・アプローチ」が適用され、当該法管轄地で無形資産の獲得のための研究開発活動の支出が行われたか否かにより企業活動の実態の有無が判定され、研究開発活動の割合に応じて比例的に適用される方法となる。また、ルーリングに係る情報交換義務についても合意され、2016年4月1日以後に発遣されたルーリングは発遣より3カ月以内に交換の義務が課されることとなる。
(6)行動計画6(租税条約の濫用防止)  最終報告書では、租税条約の濫用を防止するためのミニマム・スタンダードの導入が提言されている。このミニマム・スタンダードは、「特典制限条項(LOB)」、「主要目的テスト(PPT)」等を租税条約に規定するものであるが、日本の租税条約は、すでにそうした対応が進んでいるといえる。
 最終報告書におけるミニマム・スタンダードとは、租税条約の濫用防止のため最低限必要な措置として、次の2つの措置を採用することとなる。
① 租税条約のタイトル・前文に、租税条約は、租税回避・脱税(濫用を含む)を通じた二重非課税又は税負担の軽減の機会を創出することを意図したものでないことを明記すること。
② 租税条約に、一般濫用防止規定として、次のいずれかを規定すること。
 イ)主要目的テスト
 ロ)主要目的テスト及び簡略版特典制限条項
 ハ)厳格版特典制限条項及び導管取引防止規定(限定的主要目的テスト)
 日本がこれまで締結した租税条約では、基本的に上記ハ)の対応がされてきているが、今後の租税条約の改正等においても、さらにこの方針で進められると考えられる。
 なお、主要目的テスト(Principal Purpose Test:PPT)とは、取引の目的に着目するもので、その取引が租税条約の特典を享受することを主たる目的の一つとしているか判定し、仮にその取引の目的が租税条約の特典を享受することである場合には、租税条約を適用することはできないとするものである。このPPTでは、租税条約の適用の可否基準が「租税条約の濫用を目的としている」か否かという主観的要件であることから、実務的にはその立証が困難になることが予想され、また、「目的の一つである」との規定ぶりでは、当該取引の主要目的が租税条約の恩典を享受すること以外にある場合であっても、結果的に租税条約のメリットを享受できるのであれば、それが「目的の一つ」ということにもなりかねず、課税側にとって租税条約の適用を制限しやすくなっていると言える。
(7)行動計画7(恒久的施設(PE)認定の人為的回避の防止)  最終報告書では、PE認定の基準について、「代理人PEの定義の拡大」及び「PEの例外とされる準備的・補助的活動基準の付加」の2つの提言が行われている。特にコミッショネアーアレンジメント等について、従属代理人に関する規定を改正することによって代理人PEの範囲を拡大し、さらに独立代理人の適用除外規定の縮減を縮減する内容の提言が行われている。また、意図的な活動の細分化によるPE認定の回避に対する対抗措置として、PEとされない特定の活動について、それが準備的・補助的活動でない場合にはPE認定の例外としない(つまりPEと認定される)よう解釈の厳格化、現行の条約条文の改正案も含まれている。
 なお、建設PEの判定に係る12カ月基準の濫用防止規定等の提言も含まれているが、保険会社に係るPE認定のルールについては特に進展はなく、PEへの所得帰属のルールも2016年に引き続き検討が行われることとされている。
(8)行動計画8、9、10(移転価格税制(①無形資産、②リスクと資本、③他の租税回避の可能性が高い取引)  行動計画8、9、10は、移転価格税制における諸問題、論点の検討が進められた。基本的な考え方として、現行の移転価格税制における独立企業間価格等の基準が、必ずしも利得の配分結果が利得を生む経済活動と見合っていないことが指摘され、移転価格の結果が価値創造に見合ったものとすることを目的とする項目である。
 行動計画8の最終報告書では、移転が容易であり、価値ある無形資産が、所得移転の手段として使われてきたことを受けて、(i)広範かつ明確な無形資産の定義、(ii)無形資産の移転及び使用に関する利益の価値創造に沿った配分、(iii)評価が困難な無形資産(Hard-To-Value Intangible)に関する移転価格ルールの策定(いわゆる所得相応性基準)について提言されている。
 行動計画9の最終報告書では、単なる資本の提供のみでリスク管理能力を持たない場合は、リスク負担に見合う報酬を得る権利はないことを明確にし、リスク管理能力を裏付ける証拠の提示が必要であるとしている。また行動計画10の最終報告書では、その他のハイリスク分野の取引について、利益の配分等に係る提言が行われている。いずれの提言も所得移転が意図された取引形態に大きな影響を与えるものであり、移転価格ガイドラインの大幅な見直しが行われるものと見込まれる。
(9)行動11(BEPSの規模や経済的効果指標の集約及び分析方法の策定)  OECDは、BEPSにより毎年法人税の4?10%(1000億ドル- 2400億ドル)の減収が生じているとの調査結果を報告し、今後のBEPSの経済分析において、①税務執行過程で収集されながら効果的に活用がされていない税務関連情報、②行動計画5及び13、更に行動計画12が実施されればそれにより新たに入手される税務関連情報の収集が重要であると結論づけている。OECDは今後の取り組みとして、各国の税務当局と協働し、納税者の情報の機密保持に十分配慮しつつ、これらの情報の分析を進めることとしている。
(10)行動計画12(タックスプランニングの報告義務)  行動12の最終報告書では、タックスプランニングの報告制度の実施国(米国、英国、カナダ、アイルランド、イスラエル、韓国、ポルトガル、南アフリカ)の事例等からベスト・プラクティスと考えられる制度の枠組みが提言されている。なお、報告義務制度を導入する場合には、情報の提出義務(情報の内容、タイムリーな提出等)を課す必要性と納税者のコンプライアンスの負担のバランスを図るべきこと、対象とする国際的な税スキームの範囲、課税当局間でのより効果的な情報交換や協力等についても提言が行われている。
 こうした制度の導入については、基本的に各国の法体系の枠組みの中で任意とされているが、日本では、提言内容を踏まえ何らかの制度が導入されることが、既に報道されている。
(11)行動計画13(移転価格関連の文書化の再検討)  移転価格関連の文書化の作業はBEPSプロジェクトの中でも早期に着手されたものであり、特に議論の錯綜した分野といえる。文書化が義務付けられるのは、国別報告書(国ごとの所得・納税額・従業員数等を記載、年間売上7億5千万ユーロ以上の連結グループ企業を対象に経済活動のグローバルでの配分状況を示す、各国当局間は条約上の情報交換で共有)、ハイレベルなマスターファイル(グループ全体に共通する基本情報を記載し、多国籍企業の全体像を示す)、ローカルファイル(各国の関連会社の取引情報や経済分析を記載、現地税制に基く移転価格レポートと概ね同じ)であり、海外で事業を展開している企業にとって最も関心の高いBEPSの行動計画といわれている。
 また、国別報告書の作成は2016年1月1日からの適用となり得るため、企業側の対応が急がれるものであるとされているが、日本では来年度(平成28年度)税制改正により対応されることとなろう。
(12)行動計画14(相互協議の効果的実施)  行動計画14では、租税条約上の紛争解決にあたり相互協議の効果的かつタイムリーな改善努力に焦点があてられている。そして、納税者が紛争解決のための手段をより効果的に活用できるように、新たなミニマム・スタンダードの導入(Mutual Agreement Procedures (MAP)その他の手続きの導入)が提言されている。また、相互協議が円滑に進められるよう11のベストプラクティス(紛争解決担当者のトレーニングの実施、Advance Pricing Agreements (APA)の実施等)が提示されている。
 なお、これらの紛争解決手続きの一つとして多くの国(20カ国)では租税条約に仲裁条項を設ける改正にコミットしており、紛争解決手続の実効性あるモニタリングプロセスに関しては、2016年に合意がなされる予定となっている。日本では、既にオランダや米国(改正条約、未発効)等との租税条約において仲裁条項を導入しているところであるが、今後も仲裁条項を含む租税条約が締結されていくものと予想される。
(13)行動計画15(多国間協定の開発)  BEPS対策措置を早期に立法化するためには、既存の二国間の租税条約をオーバーライドする多国間協定による方法が望ましいとし、多国間協定の締結は、税制上および国際公法上の観点から技術的にも可能であると結論付けている。多国間協定については、2016年末までに参加国が署名できるよう、アドホック検討チーム(約90カ国が参加)によって開発される予定となっている。

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