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解説記事2016年01月18日 【ニュース特集】 2016年における税務紛争の動向(2016年1月18日号・№626)

新春特別インタビュー
2016年における税務紛争の動向

 ヤフー事件、IBM事件、日産自動車事件など、ここ数年、実務にも大きな影響を及ぼす重要な税務紛争が続いているが、これは単なる偶然ではない。そして、このような税務紛争は、論点や形を変えながら今後も増加していく可能性が高い。
 BEPSが我が国の税制の中に採り入れられ、税務当局が広義の「租税回避」に対応していくという流れが本格化する2016年の初頭にあたり、これまで多数の税務紛争に自ら関わるともに多くの注目すべき指摘を行ってきた朝長英樹税理士に、近年重要な税務紛争が続いているのはなぜか、今年注目すべき税務紛争にはどのようなものがあるのか、納税者は税務紛争を避けるために何をしなければならないのかなどについて聞いた。

重要な税務紛争が増え始めたのは平成18年前後から
――近年、非常に重要な税務紛争が続いていますが、このような流れはいつ頃から始まったと考えれば良いのでしょうか。
朝長 明確な区切りになる年があるわけではありませんが、平成18年前後からと考えて良いと思います。
 平成24年5月8日に最高裁の上告不受理で納税者の敗訴が確定した大手商社の有利発行事件の発端となった課税処分が行われたのは、平成18年です。この事件は、昭和48年に創設された規定を適用して課税が行われたものですが、ヤフー事件をはじめとする資本等取引や組織再編成を巡る紛争と同じ領域の事件となっています。この事件が国側の勝訴で確定したことを受けて各地で課税を受けることとなった有利発行の事案は、近年の重要な税務紛争に数えられるものです。
――近年の重要な税務紛争は、資本等取引や組織再編成の分野に集中していますね。
朝長 その二つに、租税回避を巡る紛争を加える必要があります。

資本等取引や組織再編成の急増が税務紛争増加の背景に
――なぜそれらの分野の紛争が続いているのでしょうか。
朝長 資本等取引や組織再編成は、平成13年度改正前においても、税制の中で最も難解な領域とされており、しかも事例が非常に少なかったためにケーススタディが集積されなかったことが主な原因と考えて良いと思います。
 しかし、平成13年度改正により、資本等取引や組織再編成が非常に身近なものになってきました。これは、納税者や税理士だけでなく、国税当局の調査官にとっても同じです。調査官は、かつては税務調査で一生に一度しか当たらなかった合併等の事案に、今では数年に一度は当たるという状態になっているのではないかと思います。
 このため、平成13年度改正で制度が難しくなったとはいえ、総じて、調査官は税務調査でそれらの内容を調べることがあまり億劫ではなくなっているものと思われます。
 それに加えて、平成13年度改正以後の数年間、組織再編成が定着するようにということで税務当局が税務調査で問題にすることを控えてきたことが災いして、問題のあるケースが散見されるようになっていた、という事情も忘れてはなりません。

租税回避に関する従来の通説が変わる
――租税回避を巡る紛争も、資本等取引や組織再編成を巡る紛争と同じ状況と考えて良いのでしょうか。
朝長 租税回避を巡る紛争は、かなり事情が異なります。
 法人税法132条(同族会社等の行為又は計算の否認)は大正12年から存在しており、現在までのところ、この規定を用いる課税が増えたということにはなっていないはずです。
 現在、この132条の適用の可否が争われているものとしては、IBM事件とユニバーサルミュージック事件があります。
――ユニバーサルミュージック事件はどのような内容なのでしょうか。
朝長 私はこの事件には全くかかわっていませんし、この事件の裁決書等を見たわけでもありませんので、事件の内容はほとんど分かりませんが、マスコミ報道によると、フランスの関連法人からの多額の借入れの利息の損金算入が132条で否認されたようですね。
――租税回避を巡る紛争が増えていないにもかかわらず、先生が「租税回避」を巡る紛争を近年の重要な税務紛争に挙げた理由は何でしょうか。
朝長 「租税回避」の捉え方が変わってきているからです。IBM事件の高裁判決は、132条について、納税者側が主張する「行為又は計算が、異常ないし変則的であり、かつ、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的が存在しないと認められる場合」でなければ租税回避とはならないという従来の通説の解釈を明確に否定し、国側の「独立当事者間の通常の取引と異なるものは経済的合理性を欠く」ものであって租税回避となり、「租税回避の意図があったか否か、租税回避以外に正当な理由ないし事業目的があったか否かを判断する必要はない」という解釈を採用しました。高裁判決自体は納税者側の勝訴となっていますので、国側が上告受理申立てを行っているわけですが、132条の解釈に関しては、高裁判決は国側の主張を採用していますので、最高裁で納税者側の従来の解釈の主張が採用される可能性はほとんどないものと思われます。

ヤフー事件・IDCF事件、IBM事件の判決確定は来年か
――今年注目すべき税務紛争にはどのようなものがあるのでしょうか。
朝長 既に紛争になっているものがどうなるのかということと、今年新たに起こりそうな税務紛争としてどのようなものがあるのかということを分けて考える必要があります。
 既に紛争になっている重要な事件の中で、今年動きがあると思われるものとしては、塩野義製薬の現物出資事件、先ほど話に出たユニバーサルミュージック事件、神鋼商事の有利発行事件、そして、脱税事件として争われているものですが、「租税回避」か「脱税」かということが争点となっている消費税の不正受還付事件などであると考えています。
――ヤフー事件・IDCF事件やIBM事件の最高裁の判断は、今年中には出ないのでしょうか。
朝長 ヤフー事件とIDCF事件に関しては、今年中に最高裁の判断が示されて確定する可能性も残されてはいますが、法人税法132条の2(組織再編成に係る行為又は計算の否認)の初めての適用例ですから、来年になる可能性が高いと思っています。IBM事件に関しては、今年中に最高裁の判断が示される可能性は非常に低いと思います。

塩野義製薬の現物出資事件は、適格か否かが適切に判断されるべき
――塩野義製薬の現物出資事件は、事前照会で現物出資が「適格」という回答をもらっているにもかかわらず、税務調査で「非適格」として課税されたというものですよね。会社のリリース文を読むと、組織再編成を巡る事件というよりも、事前照会を巡る事件のように見えます。
朝長 税務当局への事前照会等は、非常に専門的で高度な業務です。聞き方によっても、また、相手によっても答えが違うということが有り得ます。近年は税務当局も正式な窓口を設けて対応していますので、そのようなことはあまり気にする必要が無くなっていますが、現実には、対応する税務職員の知識や経験の違いによって判断が異なるということが有り得るわけです。
――納税者は担当者を選ぶことはできませんが、例えば顧問のOB税理士の方が、国税局や税務署の担当者が十分な知識や経験が無いと感じた場合に、担当者を飛び越えて上級官庁である国税庁や財務省主税局に照会を行うということは有り得るのでしょうか。
朝長 それはやらない方が良いと思います。私が税務署や国税局に勤務していた20数年前までは、OB税理士の方々が個別の質問や時には税務調査で問題になっている事案の話を上級官庁である国税庁や主税局の職員に現役時の関係を活かして個人的に持ち込むということもあったように記憶していますが、それは遥か昔のことであって、近年は、そのようなリスクの高いことをされる方は居ないはずです。本来は権限のない上級官庁の職員が個別事案について判断を示して回答や取扱いが変わったというようなことになれば、国家公務員法違反になったり、そのような行為を求めた者が税理士法違反になったりして、処罰されるということも有り得ます。私は、監理等のポストは経験したことがありませんので、詳しいことは分かりませんが、監察官や税理士監理官がそのような情報を集めているとも聞いています。
 どのような事情があったとしても、事前照会や税務調査には、法を守り常識を持って臨む必要があります。
――そのようなリスクがある中では、事前照会や税務調査では、あくまでも担当調査官を相手に質問や主張をするしかないですね。
朝長 当然、そういうことになります。担当調査官に対して適切な質問や主張をすることができるか否かというところで、税務の専門家としての能力が問われることになります。
――話を元に戻しますと、朝長先生が、塩野義製薬の事件は事前照会の問題ではなく、現物出資が適格となるのか否の問題と捉えるべきとおっしゃる理由は何でしょうか。
朝長 いかに事前照会を問題にしたとしても、現物出資が適格か否かという問題が無くなるわけではないからです。
 この事件で問題になっている海外の現物出資の取扱いは、平成10年度改正で私が担当した部分であり、海外で事業を展開している他の法人のグループ再編に影響することにもなりますから、今年中に出ると予想される国税不服審判所の裁決を注視したいと思っています。

ユニバーサルミュージック事件では“IBM高裁判決後”の132条の解釈に注目
――ユニバーサルミュージック事件も、租税回避事件の中では注目すべき重要な事件ですね。
朝長 そうですね。
 現在どのような状態になっているのか分かりませんが、IBM事件の高裁判決で132条の従来の通説の解釈が明確に否定された後に、同条の適用事案においてどのような解釈に基づいて判断が下されるのか、という点で注目すべき重要な事件であると思っています。

「伝家の宝刀」という言葉は既に死語
――132条は「伝家の宝刀」とも言われるくらいで、これまではあまり使われるケースはなかったわけですよね。IBM事件やユニバーサルミュージック事件を受け、今後一般の納税者は132条をどのように捉えていけば良いのでしょうか。
朝長 まず、「これまであまり使われてこなかった」という認識は明らかに誤っています。
 昭和40年前は、同族会社の行為計算否認規定で否認されるものとして、通達で、過大出資、高価買入、低価譲渡、寄附金、無収益資産、過大給与、用益贈与、過大料率賃貸借、不良債権の肩代り、債務の無償引受の10例が挙げられていました。この事実からだけでも、過去に非常に多くの適用例があったことが分かります。
 それにもかかわらず、132条は「伝家の宝刀」と言われていたわけですが、この言葉は、税務当局にできるだけ同条を使わせないようにするという意図を込めて用いられるようになった箴言という性格が強いと思っています。132条は、むやみに使ってもらっては困る規定ですから、そのような言葉を用いたことにも一定の合理性はあるわけですが、同時に、そのような言葉で132条を捉えることで、かえって同条による否認に対する備えがおろそかになるという弊害が出ていると感じます。
――今後は、「伝家の宝刀」という言葉は使われなくなるということでしょうか。
朝長 既に死語になっていると思います。納税者としては、「伝家の宝刀」ではなく「台所の包丁」くらいに考えて、全てにおいて租税回避と言われないようにする、という対応が必要であると思っています。

神鋼商事の有利発行事件は海外子会社への増資等に大きな影響
――神鋼商事がタイ子会社に対して行った額面金額による増資が有利発行であるとして神鋼商事に受贈益課税が行われた事件は、昨年1審で神鋼商事が敗訴していますが、今年中に2審判決が下される可能性がありそうですね。
朝長 そうですね。
――朝長先生は、この事件で鑑定意見書の作成と助言を行っておられるそうですね。
朝長 はい。この事件は、先ほど触れた大手商社の有利発行事件が平成24年5月8日に最高裁の上告不受理で確定したことによって全国一斉に同じような課税が行われた中の最初の事案です。
 このような経緯で課税が行われたために、神鋼商事の事件にも、上記の大手商社の判決が大きな影響を与えています。詳細は省略しますが、大手商社の事件は、本来は明らかに納税者が勝訴となるべきところ、有利発行に関する法令の解釈と通達の理解を誤り、納税者が敗訴してしまったものです。
 神鋼商事の有利発行事件の1審判決は、国が依拠する大手商社の有利発行事件における裁判所の法令の解釈と通達の理解が明らかに誤っていると納税者側が主張しているにもかかわらず、法令の解釈と通達の理解に関する判断を示さないまま、有利発行に該当するという結論だけを述べるというように、はじめから納税者側の敗訴という結論を決めてしまってから無理やり理由にもならない理由付けをした、と言わざるを得ないようなものとなっています。この判決文を読むと、誰もが「法令の解釈はどうなったのか?」という疑問を持つものと思います。私もいろいろな判決文を見てきましたが、このように疑問点の多い判決文は見たことがありません。
――大手商社の事件が確定しているので、同じものについて違う判決は出せない、ということなのでしょうか。
朝長 そういうことだと思いますが、大手商社の事件は、有利発行か否かの判断の物差しとなる法令の解釈と通達の理解を明らかに誤って下された判決であって、意見書でもその点を詳細に述べさせて頂いているわけですから、そこに言及することを避けて判決を下すなどということは、本来あってはならないことです。
 さすがに高裁までもが地裁と同じようなことをするということは無いものと思っています。
――高裁では、神鋼商事が逆転勝訴するというご意見ですか。
朝長 当然、そうなると思っています。
 この事件は、外資規制のある国に進出している企業の増資に大きな影響を与えるとともに、税法上の「内容の異なる株式」をどのように捉えるのかという資本等取引や組織再編成において非常に重要な問題が争点となっているという点でも、注目しておく必要があります。

消費税不正受還付事件で注目される「脱税」と「租税回避」の線引き
――先ほどお話があった消費税の不正受還付事件とはどのような事件ですか。
朝長 平成25年に、ほけんの窓口の前社長の今野則夫氏が、自身が設立した二つの資産管理会社でそれぞれ賃貸マンションを買うとともに、消費税の課税売上となる中古車の購入と販売などを行って、賃貸マンションの購入に伴って支払った消費税の還付を受けたことが「脱税」に当たるということで、在宅起訴されました。今野氏は「脱税」であることを認めて東京地裁で有罪となり、控訴もしなかったことで判決が確定しました。
 この今野氏の二つの会社の事件においては、今野氏の知人である石澤靖久氏が「脱税指南」を行った共謀共同正犯とされており、石澤氏は、脱税を認めた今野氏とは違って、これらの事件はいずれも「租税回避」であって「脱税」には当たらないと主張して争っています。 
 いわゆる自動販売機スキームを思い起こして頂くと分かるとおり、消費税には、「租税回避」を否認する規定が存在しませんので、消費税における「租税回避」は「節税」に含まれることとなり、自動販売機スキームのようなケースには課税が行われない(消費税の還付を受けることができる)わけです。
 石澤氏に関しては、東京地裁は二つの事件のうち一つは「脱税」としたものの、他の一つは「脱税」ではないという判決を下しました。
――他の一つについて「脱税」ではないとしたということは、同じ事件について同じ裁判所が異なる判決を下した、ということですか。
朝長 そうです。一つの事件に関してはいずれも消費税の還付を受けたことを「脱税」と判断したわけですが、他の一つの事件に関しては判断が分かれたわけです。国側と石澤氏側の双方が控訴し、現在、東京高裁で審理が行われています。
 これらの石澤氏の二つの事件の東京高裁の判決日は、1月29日となっています。
 この裁判はいろいろな意味で非常に興味深いものですが、特に「租税回避」と「脱税」をどのように線引きすればよいのかという点に注目する必要があります。
――「租税回避」と「脱税」を正しく分けることができれば、これらの事件には正しい判断が下されることになるわけですね。
朝長 これらの事件は、「脱税」という刑事事件として争われているわけですが、事件の内容を見れば、「租税回避」か「脱税」かという税法解釈を巡る事件という性格が非常に強いことが分かります。
 従来、「租税回避」に関しては、「節税」との線引きだけを念頭に置いて、事業目的があるのか否かというような議論がされてきましたが、本来は、「脱税」との線引きも考慮して議論をしなければなりません。
 詳細は省略しますが、消費税における「租税回避」は、税制度の濫用・潜脱と捉えるべきものであり、そのように捉えた上で、「租税回避」と「脱税」の線引きを適切に行う必要がある、と思っています。
――これらの高裁判決は、どのような判断となりそうですか。
朝長 いずれも無罪ということになるように思われます。
――脱税事件で無罪となる確率は1%未満であり、しかも、これらの二つの事件に関しては、いずれも今野氏の裁判で既に「脱税」ということで確定しているわけですよね。
朝長 確かにそのとおりです。しかし、これらの二つの事件は、内容を良く見ると、いずれも「租税回避」(消費税では「節税」)に止まり、「脱税」となるものではないと思います。

100%グループ内の損益相殺に132条の2が適用される可能性も
――今年、新たに起こる可能性がある税務紛争としては、どのようなものが考えられるのでしょうか。
朝長 資本等取引や組織再編成を巡る税務紛争もいくつか起こる可能性がありますが、租税回避を巡るいろいろな税務紛争が起こる可能性が一番高いと思っています。
――租税回避否認規定には同族会社に関する132条、組織再編成に関する132条の2、そして、連結納税に関する132条の3がありますが、どの規定による否認事案が出て来る可能性が高いのでしょうか。
朝長 3つとも可能性があると思っています。
 組織再編成に関する132条の2については、100%グループ内において、利益の出る法人と欠損金のある法人を合併させて利益と欠損金を相殺し、税負担を減らす、というようなものが否認されるケースが出てくる可能性があると思っています。
――連結納税に関する132条の3の適用例はまだ出ていませんが、これも出る可能性があるということでしょうか。
朝長 連結グループ内ではそのようなことは起こりにくいわけですが、連結納税も制度創設から10年以上が経ってかなり浸透してきましたので、税務当局も、特に租税回避に関しては鷹揚には見ないものと思われます。

BEPSが租税回避への厳しい対応を後押し
朝長 昨年の10月5日に、OECDのBEPS(税源浸食と利益移転)プロジェクトから行動計画の最終報告書が出されて、今年度の税制改正から、少しずつこの最終報告書で述べられていることが我が国の税制の中に採り入れられていくことになりますが、このように、広義の「租税回避」に対応していくという流れができてきていることも、税務当局が租税回避に対して厳しく対応することを後押しすることになると思います。
 国税局で海外に事業展開を行っている大規模法人を調査する調査官の頭の片隅には、多少の差はあっても、BEPSの話が在るはずです。
――BEPSも租税回避に関する紛争が起こる背景の一つになるということですね。
 今後、BEPSプロジェクトの最終報告書の中のどの項目が税制改正に採り入れられることになるのでしょうか。
朝長 今年度の改正では移転価格税制関係の文書化が採り入れられる予定ですが、今年は外国子会社合算税制(タックスヘイブン対策税制)が大きな議論になり、来年度に改正が行われることになると思います。
 この税制は租税回避を防止するための税制として創設されたわけですから、今年は「租税回避」が立法の場面でも話題に上って議論されることになると思います。

グループ法人税制に関する「100%外し」にもリスク
――その他に今年租税回避に関する紛争が起こる可能性があるテーマは何でしょうか。
朝長 グループ法人税制に関するものが出てくる可能性があると考えています。
 平成22年度改正で導入されたいわゆるグループ法人税制により、100%グループ内で含み損益のある資産を売買しても譲渡損益が繰り延べられてしまったり、自己株式買取り等のみなし配当事由による子会社株式の譲渡損益が計上されなくなってしまったりすることから、資産の含み損を計上したり子会社株式の譲渡損を計上したりするために「100%外し」を行うケースが見受けられますが、このようなものに対して租税回避として課税が行われる可能性があると思っています。
――組織再編成における「適格外し」と言われるものと同じようなものですね。
朝長 そうです。ある税理士の方が「1%でも持たせれば、それで大丈夫だから」と言うのを聞いたことがありますが、実務においては、それが調査官にどのように見えるのかということまで良く考えて対応をする必要がある、ということです。
 IDCF事件では、分割の「適格外し」が租税回避ということで132条の2によって否認されて裁判となっているわけですから、早晩、それと同じようなことがグループ法人税制でも起こるものと思われます。
 グループ法人税制の導入によって、100%の持株関係にある法人が存在する企業グループには、全て同税制の取扱いが適用されるようになりましたので、必然的に132条や132条の2で否認される可能性がある法人も大幅に増えています。グループ法人税制に関しては、かなり危ない状況のものがあると思っています。
――「100%外し」という点では、連結納税にも同様の事情があるように思われますが、132条の3が適用されるケースが出てくるということでしょうか。
朝長 「100%外し」ということになると、132条の3というよりも、132条や132条の2が適用されることになるかもしれませんが、そのようなケースが出てくる可能性もあると思います。

現在の租税回避事案の動向を知ることは必須
――こうして話を伺ってみると、今年は租税回避を巡る紛争がかなり高い確率で起こるように思われますが、納税者としてはどのような備えが必要なのでしょうか。
朝長 税務調査で租税回避として否認が行われて争いになったものを見てみると、そのほとんど全てが租税回避とされることになるのか否かというところの判断を誤ったものと言って良い状況にあります。この判断が適切にできれば、租税回避とされないように行為や計算を行うこととなり、税務調査で否認されることも無くなるはずです。
 決して容易なことではありませんが、これが否認を受けないためには最も重要です。
 現在、租税回避の捉え方が大きく変わろうとしているところですから、その判断が更に難しくなっているわけですが、少なくともヤフー事件やIBM事件で租税回避に関して語られていることの概要くらいは理解した上で、実務を行う必要があります。

事後隠ぺい・事後仮装と言われるようなことはやらない方が良い
――租税回避として課税が行われる可能性がある場合、税務調査に対してはどのような備えが必要でしょうか。
朝長 これに関しては一般論として何かを申し上げるということはなかなか難しいのですが、事後隠ぺい・事後仮装と言われるようなことはやらない方が良いということだけは言っておきたいと思います。租税回避として否認されるおそれがある場合には、何とかして隠そうというようなことになりがちであり、その心理も理解するところですが、そのような行為には当然リスクが伴います。
 租税回避を巡る税務紛争においては、事実を隠そうとしたり、資料を隠そうとしたり、無理に取って付けたような話をしたりして、それが却って納税者に不利な材料になってしまうというケースが少なからずあります。
――隠したり嘘をついたりすることだけでなく、“言い訳”にもリスクがあるのですね。
朝長 そうです。仮に、都合が悪いと思われるものがあったとしても、それを隠したり嘘をついたりせずに、租税回避には当たらないという説得力のある説明をすることができる人が本当の専門家です。
 租税回避は、新聞等では「課税逃れ」という見出しになることが多いと思いますが、隠ぺいや仮装が伴うと「悪質な課税逃れ」などという見出しで報道されることになり、また、隠ぺいや仮装があったために重加算税が課されれば、人事上の処分をせざるを得なくなったりします。企業の税務担当者やそれをサポートする税務の専門家は、そのようなことまで念頭に置いて対応することが必要となります。
――本日は長時間貴重なお話をお聞かせ頂き、誠に有り難うございました。
朝長英樹 ともなが ひでき
 財務省主税局において、金融取引に係る法人税制の抜本改正(平成12年)・組織再編成税制の創設(平成13年)・連結納税制度の創設(平成14年)などを主導。
 税務大学校研究部において、事業体税制等を研究。平成18年7月に税務大学校教授を最後に退官。
 現在、日本税制研究所 代表理事、朝長英樹税理士事務所 所長

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