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解説記事2016年02月22日 【法令解説】 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の一部改正について(2016年2月22日号・№631)

法令解説
中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律の一部改正について
 経済産業省中小企業庁 事業環境部財務課 東城光紀

Ⅰ はじめに

 中小企業・小規模事業者(以下、「中小企業」という)の経営者の高齢化が進展し、今後10年間で約半数の経営者が引退期を迎えるため、事業承継の円滑化は喫緊の政策課題である。こうした中、昨年の通常国会で、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(以下、「経営承継円滑化法」という)につき、遺留分に関する特例の対象を親族外後継者への承継に拡充する等の改正が行われた。
 中小企業の事業承継における課題や改正に至った近年の状況変化等を概観し、経営承継円滑化法の改正内容について紹介する。なお、本稿中意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることを予めお断りしておく。

1 中小企業・小規模事業者の意義  中小企業は国内企業数の9割を占め、雇用の7割を支えるなど、我が国経済の基盤を形成している(参考1)。
 また、中小企業は、優れた技術・ノウハウを活かして顧客や取引先との信頼関係を構築し、多様な商品・サービスの提供を行うなど、雇用確保のみならず、地域経済の発展・活力維持に貢献している。

【参考1】我が国における規模・形態別の事業者数
  事業者数 割  合
個人事業者 2,175,262 56.3%
小規模企業 1,277,893 33.1%
中規模企業 400,056 10.4%
大 企 業 10,319 0.3%
(出典)総務省・経済産業省「平成24年経済センサス−活動調査」再編加工
(備考)非一次産業の企業ベースで集計。中小企業については、中小企業基本法の定義に照らして、「小規模企業」(製造業その他の業種は従業員20人以下、商業・サービス業は従業員5人以下)と、小規模企業以外を「中規模企業」と区別して集計。

2 事業承継の重要性・意義  言うまでもなく、中小企業は我が国経済の基盤を支える不可欠な存在であるが、近年、中小企業において経営者の高齢化の進展や、後継者の不在などの課題が顕在化してきている。
 多くの事業者にとって、「代替わり」は事業の大きな転換期であり、事業承継を円滑に行うことのできる事業者は業績の維持・上昇が見込まれる一方、円滑に行うことができない事業者は経営に大きなダメージを被るおそれがあり、場合によっては廃業に至ることもある。
 このため、中小企業が我が国における重要な役割を継続的に果たしていくことができるよう、事業承継の円滑化を図ることが喫緊の政策課題となっている。

Ⅱ 事業承継における課題と対応

1 事業承継における課題
 中小企業においては、経営者が代表者として経営に従事し、同時に、経営者が単独あるいは経営者及び経営者の同族関係者で株式の大部分を保有していることが一般的である(所有と経営の一致)。このような特質に鑑み、事業承継に際しては、以下のような課題への対応が必要である。
(1)遺留分減殺請求権の行使による株式の散逸  まず、民法上、相続人には遺留分が付与されるため、株式等の事業用資産を後継者に集中して承継した場合、後継者以外の遺留分権利者から遺留分減殺請求権を行使される可能性がある。
 遺留分減殺請求権が行使された場合、先代経営者や後継者の意思にかかわらず株式が散逸することになり、会社の意思決定に支障が生じるおそれがある。
 また、遺留分減殺請求によって株式等を取得した遺留分権利者について相続が発生した場合には、さらに株式等が散逸してしまうおそれがある。このような事態を回避するため、早期に株式の集約や安定株主の確保を行う必要がある。
(2)株式・事業用資産の集約のための資金調達  次に、先代経営者から後継者へ、株式等や事業用資産を有償で譲渡する際、後継者に金銭的余裕がない場合には、資金を調達する必要があるが、経営者の交代に伴う信用状態の低下等により、後継者が自ら株式等の買取資金を調達することは困難である。
 後継者が資金調達できない場合、相続・贈与による移転を行わざるを得ず、本項(1)(3)の課題に直面することとなる。また、資金を捻出することができたとしても、買取資金の支出による資金不足の影響で、事業の承継・継続に支障を来すおそれがある。
(3)株式・事業用資産の相続・贈与に伴う納税負担  さらに、先代経営者から後継者への有償譲渡ではなく、贈与・相続によって株式等や事業用資産を移転する場合、後継者に多額の贈与税・相続税が課税されることとなる。
 しかし、中小企業の後継者については、納税資金に充てることのできる現預金を十分に保持していない場合も多いため、納税による資金不足の影響で、事業の承継・継続に支障を来すおそれがある。

2 中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律  上記(1)(3)の課題に対応するため、それぞれ(1)遺留分に関する民法の特例、(2)金融支援措置、(3)事業承継税制という対応策の基本的枠組みを盛り込んだ経営承継円滑化法が成立し、平成20年10月1日(遺留分に関する民法の特例については平成21年3月1日)から施行された(参考2)。
Ⅲ 経営承継円滑化法施行後における事業承継を巡る状況変化

1 事業承継形態の多様化
(1)親族外承継の増加
 経営承継円滑化法の施行後、中小企業の事業承継を取り巻く環境には大きな変化が見られる。
 特に、事業承継の形態を見ると、20年以上前は後継者候補として親族内をあげる中小企業が約9割であり、経営承継円滑化法制定の際に参考とした10~19年前においても約8割が親族内であった。
 しかし、その後、親族外承継へのシフトが進んでおり、直近9年では親族外承継が約4割を占め、増加傾向が顕著となっている(参考3)。

 また、後継者としての実力を兼ね備えていれば、親族外の者であっても事業を承継させようと考える経営者が4割を超えている(参考4)。

(2)経営者の交代率の低迷と平均年齢の上昇  経営者の交代率は、1980年代の平均5%から低下を続け、平成23年には2.5%と低迷している。また、経営者の交代率の低迷に伴い、経営者の平均年齢は年々上昇しており、2011年には約59歳に達している(昭和50年代には52~53歳前後)。さらに、経営者のうち60歳以上の割合はこの20年間で2割以上増加し、5割超を占めるに至っている(参考5、6)。
 これらを合わせ考えると、今後10年間で経営者の約半数が引退期を迎えることが想定される。

2 親族外承継に関する制度環境の整備  中小企業を取り巻く以上の状況変化に加え、以下のとおり、事業承継に係る制度的な手当てが行われた。これにより、親族外の後継者への事業承継が行われやすくなる環境が整備され、今後、親族外の後継者への事業承継が増加するものと考えられる。
(1)親族外承継への事業承継税制の適用拡充  上記1の環境変化等を受けて、平成20年の経営承継円滑化法の成立とあわせて創設された事業承継税制について、平成25年度税制改正(平成27年1月施行)において親族外承継への対象拡充等が行われた(参考7)。

 なお、事業承継税制の拡充と同時に、相続税の基礎控除額の引き下げ、最高税率の引き上げ等を内容とする平成25年度税制改正が施行された。小規模宅地の特例の拡充と併せて実施されたものではあるが、かかる相続税の課税強化により、事業承継に伴う株式・事業用資産の移転に係る相続税負担が実質的に増加する場合があるものと考えられる。
(2)経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の定着(「主要行等向けの総合的な監督指針」(平成23年7月 金融庁))  従来、先代経営者は、会社が必要な事業資金を金融機関から借り入れるにあたって連帯保証人となっているケースが多く、また、後継者に事業承継をした後においても継続することが一般的であった。
 親族内承継の場合であれば、当該先代経営者の保有していた株式や事業用資産も相続人らが承継するため、相続人らが保証債務しか承継できないという問題は起こりにくかった。
 他方、親族外承継の場合、株式・事業用資産等は親族外後継者が承継することとなる。そのため、先代経営者の相続人には先代経営者が保有していた株式・事業用資産等は承継されず、保証債務のみを承継してしまうおそれがあった。このように、先代経営者を含む第三者の個人連帯保証を求める融資慣行の存在は、先代経営者にとって親族外後継者への承継を躊躇させる障害であった。
 平成23年7月、金融庁はこのような慣行について、金融機関が企業へ融資する際に経営者以外の第三者(退任した先代経営者を含む)の個人連帯保証を求めないことを原則とする旨の監督指針の改正を実施した。これに伴い、親族外後継者に承継を行う際、退任する先代経営者(第三者)による個人連帯保証の継続を求める融資慣行が改められ、相続人が保証債務のみを承継する障害が取り除かれることになった(参考8)。

【参考8】「主要行等向けの総合的な監督指針」(平成27年6月 金融庁) ※本指針は上記指針の改訂版
III-10 経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立等III-10-2 主な着眼点(1)経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする融資慣行の確立  個人連帯保証契約については、経営者以外の第三者の個人連帯保証を求めないことを原則とする方針を定めているか。また、方針を定める際や例外的に経営者以外の第三者との間で個人連帯保証契約を締結する際には、必要に応じ、「信用保証協会における第三者保証人徴求の原則禁止について」における考え方を踏まえているか。特に、経営者以外の第三者が、経営に実質的に関与していないにもかかわらず、例外的に個人連帯保証契約を締結する場合には、当該契約は契約者本人による自発的な意思に基づく申し出によるものであって、金融機関から要求されたものではないことが確保されているか。

 また、平成25年12月には、日本商工会議所と全国銀行協会が共同で設置した経営者保証に関するガイドライン研究会から、「経営者保証に関するガイドライン」が公表され、「事業承継時の対応」として、債権者は「前経営者が負担する保証債務について、後継者に当然に引き継がせるのではなく」「必要性等について改めて検討する」こととしている。
 こうした監督指針の改正やガイドラインの公表により、親族外後継者にとって事業承継しやすい環境が整いつつあると考えられる。
(3)親族外承継等における民法特例の活用ニーズ  中小企業庁が行ったアンケート調査結果によると、民法特例を知っている中小企業の3割強が「親族外の後継者なので利用できない」と回答し、「知っていて今後利用する予定」と回答した会社数を上回っている(参考9)。
 この調査結果から、親族外承継においても経営承継円滑化法に基づく制度を活用したいというニーズが高まっていることを確認することができる。

Ⅳ 経営承継円滑化法の一部改正(民法特例の対象見直し)

1 遺留分に係る民法の特例の立法趣旨
(1)遺留分制度の概要等(参考10)
 中小企業の先代経営者が後継者に対して株式等を贈与した結果、後継者以外の相続人の遺留分を侵害した場合、後継者は、遺留分侵害を受けた相続人から減殺請求を受ける可能性がある(民法第1031条)。
 減殺請求に関連する相続紛争が発生すると、①解決に長期間を要することが多く、その間後継者は会社経営に集中できなくなり、中小企業の事業運営に多大な悪影響が及ぶことになる。また、②相続人による減殺請求が認められた場合、株式が分散し少数株主が複数人現れ、会社の意思決定に支障を来すことになる。
 すなわち、中小企業の先代経営者の相続に伴う経営承継においては、事業活動が円滑に進むよう、一定の場合において遺留分放棄に係る制度を改善する必要が生じていた。
(2)遺留分放棄制度による手当てでは不十分である理由  ところで、現行の民法においても、遺留分の放棄に関する制度があり(民法第1043条)、当該制度により、後継者が先代経営者の保有する中小企業の株式を全て承継することが可能である。
 しかし、遺留分を放棄するためには、①各遺留分権利者が自ら申立てをして家庭裁判所の許可を受けなければならず(同条第1項)、遺留分放棄のメリットの少ない後継者以外の遺留分権利者にとっては負担が大きいといえる。
 また、②推定相続人間で遺留分を放棄する旨の約束をしても、遺留分の放棄は、各推定相続人の相続財産に対する単独行為であるため(同条第2項)、その全員が遺留分放棄の許可を受けるか否かが不確定である。
 さらに、③遺留分は、その一部を放棄することも可能であるが、後継者に贈与した自社の株式について、将来の価値上昇分についてのみ放棄するということは事実上困難である。
 このため、遺留分権利者間の合意形成のための制度を創設し、遺留分放棄手続や、遺留分算定基礎財産の算定における評価の特例等を設ける必要があった。
(3)特別法制定の必要性・制度趣旨  現行の遺留分放棄制度に基づく手当てでは十分でないことから、先代経営者の相続における遺留分権利者全員の合意に基づき、先代経営者が後継者に贈与した株式等の価額を遺留分算定基礎財産から除外することや、株式等の価額を遺留分算定基礎財産に算入する際に予め固定することができるよう、経営承継円滑化法が制定されたのである(参考2)。
 これにより、相続開始後に後継者と非後継者である相続人の間で生じうる紛争を相続開始前の段階で未然に防止できるため、後継者が会社経営に集中できるようになるとともに、中小企業の株式等の分散を防止し迅速な意思決定を保つことができ、先代経営者から後継者に対し、中小企業の経営を円滑に承継することが可能となった。

2 経営承継円滑化法の一部改正の概要  前述した、近年増加しつつある親族外承継の増加等の状況変化に対応するため、先の通常国会において、経営承継円滑化法の一部を改正する法律が成立した。
 改正内容は、親族内後継者に限られていた民法特例の対象を親族外後継者へ拡充するというものである。
 また、先代経営者、後継者等が円滑に事業承継を進めることができるよう、独立行政法人中小企業基盤整備機構が、先代経営者等に対し事業承継に係る必要な助言を実施できることとした(参考11)。


 なお、経営承継円滑化法と同時に、小規模企業共済法についても、後継者である子どもが先代経営者を扶養するとは限らない現状を踏まえ、親族内承継を行う場合の共済金額の引上げ、また、経営層の代替わりの促進を目的に、加入年数にかかわらず65歳以上の役員退任時の共済金額の引上げ等の改正が行われた。
 遺留分に係る民法特例の拡充等により、親族外後継者も、同特例の適用を受けることができることになるため、先代経営者は、子供や娘婿、従業員などから、能力や意欲があり最適と考えられる後継者を選ぶことが可能となる。
 改正法は、昨年8月21日に成立し、公布から1年以内に施行することとされている。

Ⅴ おわりに
 今後10年間で中小企業の約半数の経営者が引退期を迎えると考えられるため、事業承継の円滑化は重要な政策課題となっている。
 このため、今般の経営承継円滑化法の改正に加え、後継者不在の企業の後継者マッチング支援を行う事業引継ぎ支援センターの全国展開や、事業承継を契機に新たな分野に挑戦する第二創業支援等、予算や税制を含めた総合的な施策をきめ細かく実施しているところである。
 他方、こうした施策は必ずしも認知度が高いとはいえないため、引き続き、中小企業の経営者や後継者、士業等の専門家や民間の支援機関等に対して普及啓発を行う必要があると考えている。また、事業承継税制の更なる見直しや、非上場株式の評価方法等についても引き続き検討を行うこととしている。
 こうした取組を通じて、我が国の経済に不可欠な存在である中小企業の事業承継を円滑化するための環境整備を図ってまいりたい。

参考2、参考11拡大
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