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解説記事2016年03月21日 【法令解説】 平成27年改正金融商品取引法に係る政府令等の改正の解説――適格機関投資家等特例業務の見直し等――(2016年3月21日号・№635)

法令解説
平成27年改正金融商品取引法に係る政府令等の改正の解説
――適格機関投資家等特例業務の見直し等――
 金融庁総務企画局市場課 市場法制企画調整官 古角壽雄
 金融庁総務企画局市場課      課長補佐 齊藤 哲
 金融庁総務企画局市場課 金融商品取引業係長 寺山 快
 金融庁総務企画局市場課      法務係長 中村美和

Ⅰ はじめに

 平成27年5月27日、第189回通常国会において「金融商品取引法の一部を改正する法律」(平成27年法律第32号。以下「改正法」という)が可決・成立し、同年6月3日に公布された。改正法案は、金融審議会「投資運用等に関するワーキング・グループ」においてとりまとめられた報告書(脚注1)を踏まえとりまとめられたものであり、ファンドへの信頼を確保し、成長資金を円滑に供給していくためにも、投資者被害を適切に防止していくことが必要であることから、適格機関投資家等特例業務、いわゆる「プロ向けファンド」制度について、①特例業務届出者に対する欠格事由の導入、届出書の内容の拡充・公表、②実態の伴わない適格機関投資家の排除のための適格機関投資家の範囲や要件の設定、③特例業務届出者に対する行為規制の導入、④問題のある特例業務届出者への対応等の措置が図られ、公布の日から1年以内の政令で定める日から施行することとされた。これを受け、関係政府令等の策定作業が進められ、意見公募手続を経て、関係政令が平成28年1月29日に閣議決定され、関係府令等と併せ、同年2月3日に公布された(以下、これらの改正を「本改正」という)。改正法の施行日は同年3月1日とされ、関係政府令等についても、一部公布日から施行された部分を除き、同日から施行されている。
 本稿では、「プロ向けファンド」制度に係る改正事項(図表参照)を中心に、本改正の概要を解説する。なお、本稿において意見にわたる部分は、筆者らの個人的見解であることを申し添えたい。


Ⅱ 届出書の記載事項の拡充・公表等
 本改正では、適格機関投資家等特例業務に対する監督・検査を実効的かつ迅速に行い、同業務を巡る被害を防止することを可能とする観点から、同業務を行う場合にあらかじめ届け出るべき事項を拡充している。具体的には、金融商品取引法(以下「法」という)第63条第2項第9号に基づき、金融商品取引業等に関する内閣府令(以下「金商業等府令」という)において、営業所・事務所の電話番号、ホームページアドレス、ファンド持分の種別、ファンドの内容、ファンド持分を取得する適格機関投資家全員の商号・名称、種別及び数、特例業務届出者が適格機関投資家以外の者を相手方として私募を行う場合はその旨等を届出事項として追加している。また、金商業等府令第233条の3各号に掲げる者を相手方として私募を行う場合(すなわち、後記Ⅴ 2の「ベンチャー・ファンド特例」が適用される場合)には、これらに加え、同特例の適用の条件とされたファンドの財務諸表等の監査を行う公認会計士等の氏名・名称を届け出ることとされている(金商業等府令第238条第1号~第3号)。一方、特例業務届出者が外国法人又は外国に住所を有する個人であるときは、行政庁との連絡を確実に行うため、国内における代表者又は代理人の所在地等を届け出なければならないこととされている(同条第4号、第5号)。
 また、改正法において適格機関投資家等特例業務について新たに欠格事由が設けられたことや、プロ向けファンドに係る制度本来の趣旨を踏まえないファンドを排除するため出資額・割合が一定の要件を満たさない場合には同業務として行えないこととされたことを踏まえ、法第63条第3項第3号に基づき、金商業等府令において、これら欠格事由に該当するか否かや、当該要件(後記参照)に該当するか否かなどを確認するための書類を同業務に係る届出書の添付書類として新たに提出すべきこととされている(金商業等府令第238条の2第1項本文)。このうち、出資額や運用財産総額を証する書類については、適格機関投資家等特例業務に係る届出時点においてこれらの額が確定していない場合もありうることを踏まえ、やむを得ない事由があるときは届出後遅滞なく提出すれば足りることとされている(金商業等府令第238条の2第1項ただし書)。
 なお、特例業務届出者は、法第63条第2項又は第8項の規定による届出を行ったときは、遅滞なく、届出事項のうち内閣府令で定める事項を記載した書面を作成し、これを主たる営業所若しくは事務所及び適格機関投資家等特例業務を行う全ての営業所若しくは事務所に備え置いて公衆の縦覧に供し、又はインターネットの利用その他の方法により、投資者が常に容易に閲覧することができるよう公表しなければならないこととされている(金商業等府令第238条の5第1項)。当該公表については、広く投資者が情報収集を行うことを可能とする観点から義務付けられたものである。インターネットの利用その他の方法による公表を行う場合には、「投資者が常に容易に閲覧することができるよう公表しなければならない」(同項)とされているが、ここでいう「投資者」とは、投資者となりうる者を含む抽象的な意味での投資者を指し、実際に出資・拠出をした投資者に限られない。したがって、公衆縦覧と同様、全ての者が常に容易に閲覧できる状態にする必要があるものと考えられる。

Ⅲ 実態を伴わない適格機関投資家の排除等
 法第63条第1項第1号及び第2号においては、適格機関投資家等特例業務として行うことのできる私募及び運用行為から「投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるもの」を除くこととしている。
 適格機関投資家等特例業務に関する制度は、適格機関投資家が出資を行い、自己のために当該ファンドに関与することで、ファンドの運用状況等の適正性がある程度確保されることが期待されることを前提に、特例的に設けられたものだが、これまでの当局の検査等では、登録制度の適用を免れるために適格機関投資家が形骸的な投資を行っている事例が、特に投資事業有限責任組合が適格機関投資家である場合に多くみられた。また、適格機関投資家等特例業務の出資者の範囲については、基本的には適格機関投資家を対象とするというプロ向けファンド制度の趣旨を踏まえれば、出資者の対象が投資判断能力を有する一定の投資家以外の者が占めることは適当ではないと考えられる。
 以上を踏まえ、本改正では、法第63条第1項第1号及び第2号の「投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるものとして内閣府令で定めるもの」として、①権利を有する(こととなる)適格機関投資家の全てが投資事業有限責任組合(取引の状況その他の事情から合理的に判断して、投資事業有限責任組合契約に基づき当該投資事業有限責任組合契約の相手方のために運用を行う金銭その他の財産の総額から借入金の額を控除した金額が5億円以上であると見込まれるものを除く)であること(金商業等府令第234条の2第1項第1号、第2項第1号)又は②権利を有する(こととなる)者が出資又は拠出をする金銭その他の財産の総額に占める当該権利に対して金商業等府令第233条の2第1項第2号から第6号までに掲げる者及び同府令第233条の3各号に掲げる者(適格機関投資家、金融商品取引法施行令(以下「施行令」という)第17条の12第1項各号(第6号を除く)のいずれかに該当する者並びにファンド資産運用等業者の役員、使用人及び親会社等を除く)が出資又は拠出をする金銭その他の財産の総額の割合が2分の1以上であること(金商業等府令第234条の2第1項第2号、第2項第2号)のいずれかに該当するファンドに係る私募又は運用を規定している。
 これらの規定における「運用を行う金銭その他の財産の総額から借入金の額を控除した金額」(金商業等府令第234条の2第1項第1号、第2項第1号)や「出資又は拠出をする金銭その他の財産の総額」(同条第1項第2号、第2項第2号)の算定に当たっては、いわゆるキャピタル・コール方式等を採用している契約における出資又は拠出を約束した金額ではなく、実際に出資又は拠出を受けた金額による必要があるものと考えられる。
 なお、前記の要件については、法第63条第1項第1号又は第2号に掲げる行為を行う間引き続き充足していることが求められ、その間に当該要件を満たすことができなくなった場合には、同項第1号又は第2号に掲げる行為を停止する必要があるものと考えられる。

Ⅳ 特例業務届出者に係る行為規制

1 業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの

 適格機関投資家等特例業務については、本来、適格機関投資家が出資を行って、自己のために当該ファンドに関与することで、ファンドの運用状況等の適正性がある程度確保されることが期待されるが、これまでに当局の検査等において把握された問題点や被害の態様等を踏まえ、本改正において、金商業等府令第123条第1項第30号に掲げる状況を「業務の運営の状況が公益に反し、又は投資者の保護に支障を生ずるおそれがあるもの」(法第40条第2号)として規定し、これに該当しないように業務を行わなければならないこととしている。
 当該状況としては、例えば、適格機関投資家の出資額や出資割合が著しく低くなっている場合に、適格機関投資家が、特例業務届出者からほとんど実体のない業務に対する対価として報酬を受け取ったり、特例業務届出者の子会社等や関連会社等で実体のないものとなっていることによって、実際には適格機関投資家としてファンド持分を取得又は保有していないと実質的に評価しうるような状況等が挙げられる(金融商品取引業者等向けの総合的な監督指針(以下「監督指針」という)Ⅸ-1-2(2))。その判断は、個別事例ごとに実態に即して行われるべきものであるが、「出資対象事業への出資を行っている適格機関投資家が特例業務届出者の子会社等である適格機関投資家のみであること」(金商業等府令第123条第1項第30号)のみならず、必要に応じ「その他の事情を勘案して」(同号)なされることとなる。したがって、「出資対象事業への出資を行っている適格機関投資家が特例業務届出者の子会社等である適格機関投資家のみである」ことだけをもって直ちに本号に抵触することになるとは限らないものと考えられる。

2 運用財産相互間取引の適用除外要件の緩和  金融商品取引業者等がその行う投資運用業に関して、運用財産相互間で取引を行うことは原則禁止されている一方(法第42条の2第2号)、「投資者の保護に欠け、若しくは取引の公正を害し、又は金融商品取引業の信用を失墜させるおそれのないものとして内閣府令で定めるもの」については、当該禁止行為の適用除外とされている(同条ただし書)。適用除外の具体的要件は、個別の取引毎に双方の運用財産の全ての権利者に当該取引の内容及び理由を説明の上、①全ての権利者の同意(同意要件)を得て(ただし、法第2条第8項第15号に掲げる行為を行う者にあっては同意しない権利者に保有権利の買取請求権を付与することを条件に権利者の半数以上かつ全権利の4分の3以上の同意を得ること)、かつ、②市場価額又は合理的な方法により算出した価額(価額要件)により行う場合等とされている(金商業等府令第129条第1項第2号)。
 改正法によって、特例業務届出者についても、運用財産相互間取引が禁止されることとなった(法第63条第11項においてみなして適用する法第42条の2)(脚注2)。
 このうち、
・非上場企業への株式投資等が8割超であること
・原則として、レバレッジがないこと
・原則として、途中償還がないこと
・ベンチャー・ファンドとしての投資戦略をとっていることを明確に説明していること
 といった性格を有するいわゆるベンチャー・ファンドについては、新たに規制が導入されるに当たり、現行の取引実態等を踏まえつつ、成長資金の供給といった役割があることにも鑑み(脚注3)、
・投資事業有限責任組合モデル契約に準じるガバナンスの確保
・総会開催・決算情報の投資家への開示
・財務諸表の公認会計士・監査法人による会計監査の実施と決算情報や監査報告書の投資家への開示など
 相応の体制が整備されていることを条件として、
・適格機関投資家等特例業務に関する契約の締結前に、運用財産相互間取引を行う要件の内容を説明すること
・未上場株式等市場価格が存在しないものについては、当該取引を行う前に取引価額の算出方法を説明すること
 を加重して義務付けたうえで、一定の範囲内で運用財産相互間取引を行うことを認めることとしている。具体的には、同意要件については取引に係る双方のファンドそれぞれの全権利の3分の2以上の同意を取得することとし、価額要件については未上場株式など市場価格の存在しないもの(ただし、不動産の鑑定評価は不動産鑑定士が行うことが法定されていることを踏まえ、不動産信託受益権を除く)には設けないこととするとともに、そのファンド間取引に同意しない権利者に対する買取請求権の付与を義務付けないこととしている(金商業等府令第129条第1項第3号、第4号、第3項)。
 なお、本改正により、特例業務届出者は忠実義務・善管注意義務を負うこととなるため(法第63条第11項においてみなして適用する法第42条)、仮に同意要件や価額要件を満たす場合であっても、不当又は不適当な取引まで許容されるわけではない。

3 帳簿書類の作成・保存  改正法においては、特例業務届出者について、業務の適切性や財務の健全性を確保するとともに、その行う適格機関投資家等特例業務に対する監督・検査を実効的かつ迅速に行うことを可能とするため、業務に関する帳簿書類を作成・保存することを義務付けている。
 法第63条の4第1項の規定を受け、金商業等府令においては、特例業務届出者について、後記の帳簿書類の作成・保存を義務付けることとしている(金商業等府令第246条の2第1項)。
① プロ投資家からアマ投資家への転換の承諾をする場合の交付書面の写し
② 個人であるアマ投資家からプロ投資家への転換の際の法令適用の特例事項についての交付書面の写し
③ 契約締結前交付書面の写し
④ 契約締結時交付書面の写し
⑤ 契約変更書面
⑥ 法人であるアマ投資家からプロ投資家への転換の承諾の際の同意書面
⑦ 私募に係る取引記録(法第63条第1項第1号に掲げる行為を行う者であるとき)
⑧ 顧客勘定元帳(法第63条第1項第1号に掲げる行為を行う者であるとき)
⑨ 法第2条第8項第15号に掲げる行為に係る契約その他の法律行為の内容を記載した書面(法第63条第1項第2号に掲げる行為を行う者であるとき)
⑩ 運用報告書の写し(法第63条第1項第2号に掲げる行為を行う者であるとき)
⑪ 運用明細書(法第63条第1項第2号に掲げる行為を行う者であるとき)
 前記の帳簿書類のうち、①~⑤に掲げる書類についてはその作成の日から5年間、⑥に掲げる書類についてはその効力を失った日から5年間、⑦、⑧、⑩及び⑪に掲げる書類についてはその作成の日から10年間、⑨に掲げる書類についてはその契約その他の法律行為に係る業務の終了の日から10年間保存しなければならないこととされている。

4 事業報告書及び説明書類  改正法においては、特例業務届出者の監督を適切に行うためには、金融商品取引業者の業務の状況等を把握する必要があるとの観点から、事業年度ごとに事業報告書を作成し内閣総理大臣に提出することを義務付ける(法第63条の4第2項)とともに、事業報告書に記載されている事項のうち投資者保護のため必要と認められるものを記載した説明書類を作成し、公衆の縦覧に供し、又はインターネットの利用その他の方法により公表することを義務付けている(同条第3項)。
 金商業等府令においては、特例業務届出者が提出する事業報告書及び特例業務届出者が公表する説明書類について、様式を定めている(金商業等府令別紙様式第21号の2、第21号の3)。
 なお、特例業務届出者は、説明書類の公表についてインターネットの利用その他の方法による公表を行う場合には、実際に出資・拠出をした投資者に限らず、全ての者が常に容易に閲覧できる状態にする必要があるものと考えられる。

Ⅴ 適格機関投資家等特例業務の出資者の範囲等

1 適格機関投資家等特例業務の出資者の範囲
 適格機関投資家等特例業務の出資者のうち、適格機関投資家以外の者の範囲については、本来はプロ向けの制度であるものの、一方で、ファンドと関係の深い一般投資家も出資しているというプロ向けファンドの実態等を踏まえれば、投資判断能力を有する一定の投資家及び特例業務届出者と密接に関連する者に限定することが適当と考えられる。
 そのため、本改正においては、「適格機関投資家以外の者で政令で定めるもの」について、「適格機関投資家以外の者」から「適格機関投資家以外の者であつて、その取得する法第2条第2項第5号又は第6号に掲げる権利に係る私募又は私募の取扱いの相手方となる時点において、次の各号のいずれかに該当するもの」(施行令第17条の12第1項)に改めた上で、施行令及び金商業等府令において、出資者の範囲に含む者として、投資判断能力を有する一定の投資家及び特例業務届出者と密接に関連する者を列挙している。
 具体的には、まず施行令第17条の12第1項において、上場会社、資本金の額が5千万円以上である法人、純資産の額が5千万円以上である法人等に加え、特例業務届出者と密接な関係を有する者として内閣府令で定める者、財産の状況その他の事情を勘案して内閣府令で定める要件に該当する個人及び同項に掲げる者に準ずる者として内閣府令で定める者を規定している。
 金商業等府令においては、まず、特例業務届出者と密接な関係を有する者として、①当該特例業務届出者の役員又は使用人、②当該特例業務届出者の親会社等、子会社等及び親会社等の子会社等、③運用委託先、投資助言者及び当該投資助言者に対して投資助言を行う者、④②、③の役員又は使用人、⑤当該特例業務届出者、①、③又は④の親族等を規定している(金商業等府令第233条の2第1項)。
 次に、財産の状況その他の事情を勘案して内閣府令で定める要件に該当する個人として、取引の状況その他の事情から合理的に判断して、その保有する資産の合計額が1億円以上であると見込まれ、かつ、当該個人が金融商品取引業者等に有価証券の取引又はデリバティブ取引を行うための口座を開設した日から起算して1年を経過している者等を規定している(金商業等府令第233条の2第3項)。
 さらに、施行令第17条の12第1項に掲げる者に準ずる者として、①取引の状況その他の事情から合理的に判断して、保有する投資性金融資産(脚注4)の合計額が1億円以上であると見込まれる法人、②金融商品取引業者等である法人、上場会社、資本金の額が5千万円以上である法人又は純資産の額が5千万円以上である法人の子会社等又は関連会社等、③外国出資対象事業持分の発行者等を規定している(金商業等府令第233条の2第4項)。
 これら出資者の要件のうち、保有する資産に係る要件を充足しているか否かの判断については、外形的に明らかな場合を除き、自己申告のみで確認するのではなく、顧客が任意に提供した資料(例えば、取引残高報告書又は通帳の写し等)を活用することにより、全体として「合理的に判断」(金商業等府令第233条の2第3項第1号イ等)して要件の充足性を確認する必要があるものと考えられる(監督指針Ⅸ-1-1(1)①イ)。
 本改正においては、特例業務届出者の私募等の相手方の要件について、「私募又は私募の取扱いの相手方となる時点において」満たしていることを求めている(施行令第17条の12第1項)。したがって、取得勧誘時に要件を満たしていた場合は、権利の取得後に要件を満たさなくなった場合であっても、特例業務届出者は、引き続き、当該出資者から既に出資を受けた資産の運用を行うことができるものと考えられる。
 なお、こうした特例業務届出者の私募等の相手方の要件を形式的に充足する投資家についても、基本的に、適合性の原則が適用されることから、勧誘を行おうとする段階において、投資家毎に、適合性の原則に照らして勧誘の是非を個別に判断していくことが求められることに留意が必要であると考えられる。

2 ベンチャー・ファンド特例  適格機関投資家等特例業務のうち、特にベンチャー・ファンドについては、成長資金を供給するなどの役割があることから、(1)一定の要件を充足したベンチャー・ファンドについては、(2)出資することができる適格機関投資家以外の者の範囲を、施行令第17条の12第1項各号に規定する者(前記1参照)に加え、投資に関する事項について知識及び経験を有するものにまで拡張することとし、(3)当該拡張された出資者を相手方として適格機関投資家等特例業務を行う特例業務届出者等に対しては、ファンドのガバナンスの確保など、相応の体制の整備を求めることとしている(以下「ベンチャー・ファンド特例」という)。
(1)ベンチャー・ファンドの要件  ベンチャー・ファンド特例を利用して、特例業務届出者等が業務を行うファンドに出資することができる出資者の範囲の拡張が認められるための要件は、施行令第17条の12第2項各号及び金商業等府令第233条の4各項により、以下のとおり規定されている。
① 出資者が出資又は拠出した金銭等の総額(以下「出資総額」という)から現金又は預貯金の額を控除した額の80%超を、株券・新株予約権・新株予約権付社債(外国の者が発行するものを含み、投資をした時点において国内の金融商品取引所に上場されていないものに限る(以下「株券等」という)(脚注5))に対して投資を行うものであること(施行令第17の12第2項第1号イ、金商業等府令第233の4第1項~第3項)
② ファンドにおいて借入れ又は第三者の債務の保証をしないこと(ただし、短期(120日以下)の借入れ若しくは債務保証又はファンドの投資先に対する債務保証(当該投資先への投資額を超えないもの)であって、当該借入れ及び債務保証額の合計がファンドの出資総額の15%を超えない場合は除く)(施行令第17条の12第2項第1号ロ、金商業等府令第233条の4第4項)
③ やむを得ない事由がある場合を除き、出資者がファンド持分の払戻しを受けることができないこと(施行令第17条の12第2項第2号)
④ ファンド持分に係る契約において、法第63条第9項に規定する内閣府令で定める事項(ガバナンスに係る事項。後記(3)で詳述する。)が定められていること(施行令第17条の12第2項第3号)
⑤ ファンド持分に係る契約の締結までに、出資者に対し、当該ファンドが①~④に掲げる要件に該当する旨を記載した書面を交付すること(施行令第17条の12第2項第4号)
(2)拡張される出資者の範囲  前記(1)の要件を満たしたファンドについては、当該ファンドに出資することができる出資者の範囲を、施行令第17条の12第1項各号に規定する者(前記1参照)に加え、「適格機関投資家以外の者であつて投資に関する知識及び経験を有するものとして内閣府令で定めるもの」にまで拡張することとしている(施行令第17条の12第2項柱書)。
 具体的には、金商業等府令第233条の3各号において、以下のとおり規定されている。
① 上場会社の役員(第1号)
② 資本金又は純資産額が5千万円以上であって、有価証券報告書を提出している会社の役員(第2号)
③ 取引の状況その他の事情から合理的に判断して、保有する投資性金融資産の合計額が1億円以上と見込まれるファンドの業務執行組合員である法人の役員(第3号)
④ 私募又は私募の取扱いの相手方となる日前5年以内に①~③のいずれかに該当していた者(第4号)
⑤ 私募又は私募の取扱いの相手方となる日前5年以内に、④又は⑤に該当する者として、同一の特例業務届出者等が発行するファンド持分を取得した者(第5号)
⑥ 私募又は私募の取扱いの相手方となる日前5年以内に、取引の状況その他の事情から合理的に判断して、保有する投資性金融資産の合計額が1億円以上と見込まれるファンドの業務執行組合員である法人であったもの(第6号)
⑦ 会社の役員若しくは従業員(特に専門的な能力であって当該業務の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該業務に従事した者に限る)又はコンサルタントとして、会社の設立、増資、新株予約権の発行、新規事業の立上げ、経営戦略の作成、企業財務、投資業務、株主総会又は取締役会の運営、買収若しくは発行する株式の金融商品取引所への上場に関する実務に、私募又は私募の取扱いの相手方となる日前5年以内に1年以上従事した者(第7号)
⑧ 私募又は私募の取扱いの相手方となる日前5年以内に、有価証券届出書(新規上場時のもの)の上位50名までの株主として記載されている者(第8号)(脚注6)
⑨ 私募又は私募の取扱いの相手方となる日前5年以内に、有価証券届出書(新規上場時以外のもの)又は有価証券報告書の上位10名までの株主として記載されている者(第9号)(脚注7)
⑩ 認定経営革新等支援機関(第10号)
⑪ 前記①~⑩(⑥を除く)に該当する個人が支配する会社(第11号)
⑫ 前記①~⑩に該当する会社等の子会社等又は関連会社等(第12号)
 なお、前記の各要件については、当該ファンド持分に係る私募又は私募の取扱いの相手方となる時点において、当該要件に該当することが必要である(金商業等府令第233条の3柱書)。
 前記⑦の要件のうち、「特に専門的な能力であって当該業務の継続の上で欠くことができないものを発揮して当該業務に従事した者」の確認方法については、外形的に明らかな場合を除き、自己申告のみで確認するのではなく、当該顧客が従事した職務の内容などの要件に関する事実(例えば、会社が作成した職歴証明書等)を十分に確認する必要があると考えられる(監督指針Ⅸ-1-1(1)①ロ)。
(3)ファンド持分に係る契約の契約書の写しの提出  法第63条第9項により、法第2条第2号第5号又は第6号に掲げる権利に係る契約(ファンド持分に係る契約)の契約書の写しを当局に提出することが求められる「投資者の保護を図ることが特に必要なものとして政令で定めるもの」とは、前記(2)の拡張された出資者に対して適格機関投資家等特例業務を行うものをいう(施行令第17条の13の2)。
 そして、当該ファンド持分に係る契約に規定することが必要とされる「適格機関投資家等特例業務の適正を確保するために必要なものとして内閣府令で定める事項」(法第63条第9項)は、具体的には、金商業等府令第239条の2第1項各号において、以下のとおり規定されている。
① ファンド持分の名称(第1号)
② ファンドの事業の内容(第2号)
③ ファンドの事業を行う営業所又は事務所の所在地(第3号)
④ 出資者及びファンド資産運用者の名称等(第4号)
⑤ 出資者が出資等をする金額(第5号)
⑥ ファンド持分に係る契約の契約期間(第6号)
⑦ ファンドの事業年度(第7号)
⑧ ファンド資産運用者が、ファンドの事業年度ごとに財務諸表等を作成し、公認会計士等の監査を受けること(第8号)
⑨ ファンド資産運用者がファンドの事業年度終了後相当の期間内に、出資者に対し、財務諸表等及び監査報告書の写しを提供すること(第9号)
⑩ ファンド資産運用者がファンドの事業年度終了後相当の期間内に、出資者を招集して、出資者に対しファンドの運営及び財産の運用状況を報告すること(第10号)
⑪ ファンドにおいて有価証券等に対する投資を行う場合に、ファンド資産運用者が出資者に対し、その投資の内容を書面により通知すること(第11号)
⑫ 正当事由がある場合、出資者の有するファンド持分の過半数(これを上回る割合を定めた場合、その割合以上)の同意を得て、ファンド資産運用者を解任できること(第12号)
⑬ ファンド資産運用者が退任した場合において、全ての出資者の同意により、新たなファンド資産運用者を選任できること(第13号)
⑭ ファンド持分に係る契約の変更(軽微な変更を除く。)をする場合において、ファンド持分の過半数(これを上回る割合を定めた場合、その割合以上)の同意を得なければならないこと(第14号)
 ファンド持分に係る契約の契約書の写しの提出手続については、前記(2)の拡張された出資者に対して適格機関投資家等特例業務を行おうとする者が新規届出(法第63条第2項)を行った場合における当該届出日、又は、新たに当該拡張された出資者に対して適格機関投資家等特例業務を行う旨の変更届出(同条第8項、金商業等府令第239条の2第2項)を行った場合における当該変更が生じた日から、原則として3か月以内に行わなければならない(同条第3項)。しかし、当該期間内に提出することができない場合においては、その旨を、理由を記載した書面を添付して当局に届け出ることにより、さらに3か月に限り、期間を延長することができる(同条第4項、第5項)(脚注8)。そして、当該3か月(延長を行った場合は6か月)の期間内に提出することができないときは、遅滞なくその旨を当局に届け出なければならない(同条第6項)(脚注9)。
 そして、法第63条第9項の規定に基づき契約書の写しを提出した契約に変更(金商業等府令第239条の2第1項各号に掲げる事項の変更に限る)があったときは、当該変更後遅滞なく、変更の内容、変更年月日及び変更の理由を記載した書面を添付して、当該変更に係る契約の契約書の写しを当局に提出しなければならない(法第63条第10項、金商業等府令第239条の2第7項)。

Ⅵ 適格投資家向け投資運用業の出資者の範囲
 適格投資家向け投資運用業は、平成23年金融商品取引法改正によって新設された制度である。当該制度においては、国民の様々な資産運用ニーズに応える投資運用ファンドの立上げを促進するとの目的に基づき、①顧客がプロ等(適格投資家)に限定され、運用財産の総額が一定規模以下のファンドに係る投資運用業について、投資運用業の登録拒否要件を一部緩和するとともに、②有価証券の取得勧誘に係る業規制の緩和が行われている。
 改正法において、適格機関投資家等特例業務についての出資者の範囲が変更されたことを踏まえると、届出制よりも厳しい登録制となっている適格投資家向け投資運用業における出資者である適格投資家の範囲が、従来の範囲では狭いものと考えられるため、規制緩和の観点から、当該業務を行う金融商品取引業者と「密接な関係を有する者」の範囲(施行令第15条の10の7第4号、金商業等府令第16条の5の2)及び「特定投資家に準ずる者」の範囲(金商業等府令第16条の6)を拡大している。
 この結果、適格投資家向け投資運用業における出資者の範囲と適格機関投資家等特例業務における出資者の範囲がほぼ一致することとされている。

脚注
1 報告書(「金融審議会・投資運用等に関するワーキング・グループ報告~投資家の保護及び成長資金の円滑な供給を確保するためのプロ向けファンドをめぐる制度のあり方~」)は金融庁ウェブサイト(http://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/soukai/siryou/20150303.html)に公開されている。
2 従前からの特例業務届出者等が金融商品取引業等に関する内閣府令等の一部を改正する内閣府令(平成28年内閣府令第5号)の施行日前に締結したファンド持分に係る契約に基づき出資又は拠出を受けた金銭その他の財産の運用(施行令第17条の12第2項に掲げるベンチャー・ファンド特例の要件に該当するものに限る)については、適用除外となる(同府令附則第2条)。
3 いわゆるベンチャー・キャピタルについては、金融審議会の報告において次のように指摘されているとともに、衆議院財務金融委員会、参議院財政金融委員会において次のような附帯決議がなされている。
・金融審議会金融分科会報告「投資家の保護及び成長資金の円滑な供給を確保するためのプロ向けファンドをめぐる制度のあり方について」(平成27年3月3日)(抄)
  「特に、ベンチャー・キャピタルは、日本再興戦略において開業率10%台を目指すこととされるなか、フロンティア領域や成長領域における創業、事業構築、市場開拓等に対して資金供給を行い、起業家とともに経営に参画するなど、同戦略に掲げられた「ベンチャーの加速」を支援する役割を担っており、その役割の重要性に配慮していく必要がある。」
・衆議院財務金融委員会附帯決議(平成27年5月15日)(抄)
  「プロ向けファンド制度の運用に当たっては、ファンドがリスクマネー供給に果たす役割の重要性に鑑み、ファンドに対する投資者の信頼を確保しつつ、創業・起業期や新興期等の段階にある企業に対して、円滑かつ適切な成長資金の供給が行われるよう、配意すること。」
・参議院財政金融委員会附帯決議(平成27年5月26日)(抄)
  「また、ファンドがリスクマネー供給に果たす役割の重要性に鑑み、ファンドに対する投資者の信頼を確保しつつ、創業・起業期や新興期等の段階にある企業に対して円滑かつ適切な成長資金の供給が行われるよう配意すること。」
4 「投資性金融資産」とは、資産のうち、下記の要件に該当するものをいう(金商業等府令第233条の2第2項及び第62条第2号イ~ト参照)。
・有価証券(法第2条第1項、第2項)
・デリバティブ取引(法第2条第20項)に係る権利
・特定預金等(銀行法第13条の4、長期信用銀行法第17条の2、信用金庫法第89条の2、協同組合による金融事業に関する法律第6条の5の2、労働金庫法第94条の2、農林中央金庫法第59条の3又は株式会社商工組合中央金庫法第29条)及び特定貯金等(農業協同組合法第11条の2の4又は水産業協同組合法第11条の9)
・特定保険契約(保険業法第300条の2)又は特定共済契約(中小企業等協同組合法第9条の7の5第2項、農業協同組合法第11条の10の3、水産業協同組合法第15条の7又は消費生活協同組合法第12条の3第1項)に基づく保険金、共済金、返戻金その他の給付金に係る権利
・特定信託契約(信託業法第24条の2)に係る信託受益権
・不動産特定共同事業契約(不動産特定共同事業法第2条第3項)に基づく権利
・商品市場における取引(商品先物取引法第2条第10項)、外国商品市場取引(同条第13項)及び店頭商品デリバティブ取引(同法第2条第14項)に係る権利
5 これに加え、①当該株券等の発行者が発行する他の有価証券が、国内の金融商品取引所若しくは外国金融商品取引所に上場又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されているもの、②当該株券等の発行者(会社法上の大会社に限る)の親会社等が、国内の金融商品取引所若しくは外国金融商品取引所に上場又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されているもの及び③当該株券等の発行者の子会社等が、国内の金融商品取引所若しくは外国金融商品取引所に上場又は店頭売買有価証券登録原簿に登録されているものも、本文中の「株券等」から除かれることとされている(金商業等府令第233条の4第3項)。なお、②において、会社法上の大会社に限定されている理由は、ベンチャー・ファンドの中には、例えば上場企業等の一事業部分を切り離して独立させ、そこに投資を行う、いわゆるスピンアウトベンチャーに対する投資を行う者もあることから、ファンドが取得する有価証券の発行者の親会社が上場会社等であっても、当該発行者が大会社でない場合には、本文中の「株券等」に含まれることとしている(平成28年2月3日付金融庁「平成27年金融商品取引法改正等に係る政令・内閣府令等に対するパブリックコメントの結果等について」における「コメントの概要及びコメントに対する金融庁の考え方」(以下「パブリックコメントに対する考え方」という)No.106参照)。
6 金融商品取引法令上、金融商品取引所に発行株式を上場しようとする会社(いわゆるIPOを行う会社)が提出する有価証券届出書には、所有株式数の上位50名程度を記載することとされている(パブリックコメントに対する考え方No.97参照)。
7 金融商品取引法令上、金融商品取引所に発行株式を上場しようとする会社以外の会社が提出する有価証券届出書又は有価証券報告書には、所有株式数の上位10名程度を記載することとされている(パブリックコメントに対する考え方No.97参照)。
8 当該延長の届出は、1回に限られる(パブリックコメントに対する考え方No.122参照)。
9 なお、金商業等府令第239条の2第6項の規定による届出を行った場合は、同府令第238条第2号ホ及びへ並びに第3号ホ及びヘに掲げる事項等に変更が生じると考えられるため、変更届出(法第63条第8項)が必要になる。また、当該ファンドについて、3か月(延長を行った場合は6か月)期間経過後に、拡大された一般の投資家に対して取得勧誘行為等を行おうとする場合には、その旨について変更届出を行った上で、当該変更があった日から3か月(延長申請を行った場合は6か月)以内に契約書の写しを当局に提出する必要がある(パブリックコメントに対する考え方No.122等参照)。

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