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解説記事2016年04月18日 【新会計基準解説】 企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」について(2016年4月18日号・№639)

新会計基準解説
企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」について
 企業会計基準委員会 専門研究員 淡河貴絵

Ⅰ はじめに

 企業会計基準委員会(ASBJ)は、平成28年3月14日に、企業会計基準適用指針第27号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針」(以下「本適用指針」という。)を公表した(脚注1)。本稿では、本適用指針の概要を紹介する。なお、文中の意見にわたる部分は筆者の私見であることをあらかじめ申し添える。

Ⅱ 公表の経緯
 平成25年12月に開催された第277回企業会計基準委員会において、基準諮問会議より、日本公認会計士協会が公表している税効果会計に関する実務指針(会計処理に関する部分に限る。以下同じ。)について当委員会で審議を行うことが提言された。この提言を受けて、当委員会は、税効果会計専門委員会を設置して、平成26年2月から審議を開始した。その後、当委員会は、繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針を先行して開発することとし、平成27年12月に、企業会計基準適用指針第26号「繰延税金資産の回収可能性に関する適用指針」(以下「回収可能性適用指針」という。)を公表した。
 当委員会では、平成27年5月に回収可能性適用指針の公開草案を公表した後、日本公認会計士協会における税効果会計に関する実務指針のうち当該適用指針に含まれないものについて、当委員会に移管すべく審議を行ってきた。このうち税効果会計に適用する税率の取扱いについては、早急に対応すべき課題があるため、平成28年3月期決算に間に合うように対応を図るべきとの意見が聞かれた。このため、日本公認会計士協会 会計制度委員会報告第10号「個別財務諸表における税効果会計に関する実務指針」(以下「個別税効果実務指針」という。)等のうち当該取扱いについて、基本的にその内容を引き継いだ上で、必要と考えられる見直しを行い、平成27年12月に企業会計基準適用指針公開草案第55号「税効果会計に適用する税率に関する適用指針(案)」を公表して広く意見を求めた。本適用指針は、公開草案に対して寄せられた意見を踏まえて検討を行い、公開草案の内容を一部修正した上で公表するに至ったものである。

Ⅲ 本適用指針の概要
 本適用指針は、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率について、企業会計審議会が平成10年10月に公表した「税効果会計に係る会計基準」(以下「税効果会計基準」という。)を適用する際の指針を定めている。具体的には、主に次の2つについての取扱いを定めている。
・法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率
・住民税及び事業税(以下「住民税等」という。)に関する税率

1 法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率  個別税効果実務指針第18項においては、下記枠内に示したとおり、税効果会計に適用する税率は、決算日において公布されている税法に規定されている税率によることとされていた。

 この公布日を基準とする取扱いについては、3月末日を決算日とする企業において、当事業年度に税法を改正するための法律が当該決算日前までに国会で成立していても、官報による公布が当該決算日間際までなされないことが多く、決算手続や業績予測等の実務的な対応に困難を伴うとの意見が聞かれた。また、決算日以前に税法を改正するための法律が国会で成立していても、公布が当該決算日以前になされていない場合、改正直前の税率により計算される繰延税金資産及び繰延税金負債の額は有用な情報とはいえないとの意見も聞かれた。
 このため、実務を安定的に行うことができるようにする観点から、本適用指針では、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において公布されている税法に規定されている税率に代えて、決算日において国会で成立している法人税法等に規定されている税率によることとしている(本適用指針第5項)。

2 住民税等に関する税率
(1)住民税等に関する税率の取扱いを定めた経緯
 住民税等の税率は、国会で成立した改正された地方税法等(以下「改正地方税法等」という。)に規定された標準税率及び制限税率を基に、法人に適用する税率、すなわち住民税等の標準税率又は超過課税による税率を規定した改正条例が地方公共団体の議会等で成立することにより変更される。
 ここで、当事業年度において地方税法等を改正するための法律が決算日以前に成立し、かつ、当該法律を含む改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合の取扱いを明確にすべきとの意見が聞かれた。
 このため、本適用指針では、法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率の取扱いとは別に住民税等に関する税率の取扱いを定め、当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合の取扱いを明らかにしている。
(2)住民税等に関する税率の取扱い  本適用指針では、住民税等について、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる税率は、決算日において国会で成立している地方税法等(脚注4)に基づく税率によることとしている(本適用指針第6項)。ここでは、当該税率のうち、当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合について具体的に記載する。
 当事業年度において地方税法等を改正するための法律が成立している場合、すなわち改正地方税法等が決算日以前に国会で成立している場合、当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立しているときに、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる住民税等の税率は、当該決算日において各地方公共団体の議会等で成立している条例(脚注5)に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率)によることとしている(本適用指針第7項(2)①)。
 一方で、改正地方税法等が決算日以前に国会で成立し、かつ、当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合、仮に当該決算日において成立している条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率)によるとすれば、改正直前の地方税法等に規定されていた標準税率及び制限税率に基づいて決定された税率を用いることとなる。この場合、毎年度の税制改正において、通常、法人税法等を改正するための法律及び地方税法等を改正するための法律が同日に成立していることを踏まえると、当該税制改正の内容の一部しか繰延税金資産及び繰延税金負債の額に反映されず、結果として税制改正の趣旨が反映されない可能性がある。
 このため、決算日において成立している条例に標準税率で課税することが規定されている場合、本適用指針では、税制改正の趣旨を反映させる観点から、繰延税金資産及び繰延税金負債の計算に用いる住民税等の税率は、改正地方税法等に規定されている標準税率によることとしている(本適用指針第7項(2)②ア)。
 また、決算日において成立している条例に超過課税による税率で課税することが規定されている場合、従来から行われている実務を踏まえ、改正地方税法等に規定されている標準税率に、当該決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率によることとしている(本適用指針第7項(2)②イ)。
 上述した事項を含め、住民税等に関する税率の取扱いは次頁ののように示すことができると考えられる。

【表】本適用指針第7項に定める決算日において国会で成立している地方税法等に基づく税率
改正税法の
成立の状況
改正条例の
成立の状況
繰延税金資産及び繰延税金負債
の計算に用いる税率
地方税法等を改正するための法案が国会に提出されていない場合 決算日において成立している地方税法等を受けた条例に規定されている税率(標準税率又は超過課税による税率)
地方税法等を改正するための法案が国会に提出されている場合 当事業年度に地方税法等を改正するための法律が成立していない場合  -
当事業年度に地方税法等を改正するための法律が成立している場合 改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立している場合
改正地方税法等を受けた改正条例が決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合 標準税率
 改正地方税法等に規定されている標準税率
又は
超過課税による税率
 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える差分を考慮する税率

(3)超過課税による税率の取扱い  本適用指針では、改正地方税法等が決算日以前に国会で成立し、かつ、当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日以前に各地方公共団体の議会等で成立していない場合、本適用指針第7項(2)②イに定める「差分を考慮する税率」を算定するにあたっては、「例えば、次の方法がある」として2つの方法を示している(本適用指針第8項)(脚注6)。
ア 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率が改正直前の地方税法等の標準税率を超える数値を加えて算定する。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする。
イ 改正地方税法等に規定されている標準税率に、決算日において成立している条例に規定されている超過課税による税率における改正直前の地方税法等の標準税率に対する割合を乗じて算定する。なお、この結果として得られた税率が、改正地方税法等に規定されている制限税率を超える場合は、当該制限税率とする。
 当該差分を考慮する税率の具体的な算定方法については、本適用指針の設例2(脚注7)を参照されたい。
 なお、税制改正の趣旨等を勘案して、他の合理的な方法があれば当該方法により算定することを妨げるものではない。

3 その他の検討事項  本適用指針では、「1 法人税、地方法人税及び地方法人特別税に関する税率」及び「2 住民税等に関する税率」に記載した事項の他に、決算日後に税効果会計に適用する税率が変更された場合の取扱いについて記載している。
 税効果会計基準では、「決算日後に税率の変更があった場合には、その内容及びその影響」を注記する(税効果会計基準 第四 4)とされており、決算日後に税率が変更された場合、当該変更された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債の額を当該決算日における財務諸表に反映しないこととされている。
 審議の過程では、税効果会計に適用する税率は繰延税金資産及び繰延税金負債の見積りの一部であると考えられることから、決算日後に税率の変更を伴う法律又は条例が成立した場合には財務諸表を修正すべき後発事象(以下「修正後発事象」という。)として取り扱い、改正された税法又は改正条例に規定された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債を当該決算日における財務諸表に反映することが情報としてより有用であるとの意見が聞かれた。
 この点、仮に決算日後の税率の変更を修正後発事象として取り扱う場合、決算発表日や監査報告書日等の直前に税率の変更を伴う法律又は条例が成立するときには実務上の手続が煩雑となり、例えば2月末日を決算日とする企業においては、実務を安定的に行うことが難しくなるものと考えられる。
 また、例えば、上場株式の減損において用いられる株価や固定資産の減損会計において使用価値を算定する際に用いられる割引率のように、既存の会計基準では見積計算に用いる情報は期末日現在のものが用いられ、期末日後の変更は必ずしも財務諸表に反映されていない。
 なお、国際財務報告基準(IFRS)においても、決算日後の税率の変更は、当該変更された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債の額を当該決算日における財務諸表に反映しないことを前提としているものと考えられる。
 これらを踏まえ、決算日後に税率が変更された場合、当該変更された税率により計算した繰延税金資産及び繰延税金負債の額を当該決算日における財務諸表に反映しない現行の取扱いを踏襲している。この結果、本適用指針第4項から第9項に定める税率を用いて決算を行い、かつ、決算日後に当該税率の変更を伴う法律が成立した場合、税効果会計基準に従って、その内容及び影響を注記することとなる(本適用指針第10項)。
 なお、改正地方税法等が決算日以前に成立し、かつ、決算日後に当該改正地方税法等を受けた改正条例が成立し超過課税による税率が変更された場合であっても、本適用指針第7項(2)②イ及び第8項に定める差分を考慮する税率を用いて繰延税金資産及び繰延税金負債が計算されていることを踏まえると、通常、その影響は質的及び金額的な重要性が乏しいと考えられる。このため、本適用指針第10項では、決算日後に税率の変更を伴う条例が成立した場合の取扱いを含めないこととした(本適用指針第23項)。

4 適用時期等  本適用指針は、平成28年3月31日以後終了する連結会計年度及び事業年度の年度末に係る連結財務諸表及び個別財務諸表から適用することとしている(本適用指針第11項)(脚注8)。
 なお、本適用指針は、今後、税効果会計に関する実務指針全体の移管作業において税効果会計に関する適用指針が開発される時に、当該適用指針に統合されることが予定されている。

脚注
1 本適用指針の全文については、ASBJのウェブサイト(https://www.asb.or.jp/asb/asb_j/documents/docs/zeikouka2015_2/zeikouka_2015_2_1.pdf)を参照のこと。
2 決算日において国会で成立している法人税法等とは、決算日以前に成立した法人税法等を改正するための法律を反映した後の法人税法等をいう。
3 ここでいう法人税法等とは、法人税、地方法人税及び地方法人特別税の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。
4 ここでいう地方税法等とは、住民税等の税率が規定されている税法をいう。以下同じ。
5 決算日において成立している条例とは、決算日以前に成立した条例を改正するための条例を反映した後の条例をいう。
6 これらの方法について、通常はどの方法を採用しても結果として重要な差異が生じないことや、いずれの方法も一定の仮定に基づいた算定方法であり、適切であると考えられることにより、特定の方法を採用すべきなのかを明らかにしていないと考えられる。
7 本適用指針の設例2では、改正地方税法等が決算日以前に成立し、当該改正地方税法等を受けた改正条例が当該決算日に成立していない場合、かつ、超過課税による税率により住民税及び事業税が課されている場合に、事業税の税率が改正されたケースを示している。
8 本適用指針の適用は、企業会計基準第24号「会計上の変更及び誤謬の訂正に関する会計基準」第5項(1)の定めに該当するため、会計基準等の改正に伴う会計方針の変更として取り扱われることとなる。ただし、通常、本適用指針の適用により遡及適用した表示期間のうち過去の期間における影響はなく、同会計基準第35項に定める財務諸表利用者の意思決定への影響に照らした重要性も乏しいと考えられる。

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