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解説記事2016年08月01日 【税務マエストロ】 日本・台湾租税協定と国内法の整備②(2016年8月1日号・№653)

税務マエストロ 税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座

今週のマエストロ&テーマ
日本・台湾租税協定と国内法の整備②
#169 品川克己
PwC税理士法人

略歴 89年より大蔵省主税局に勤務。90年7月より同国際租税課にて国際課税関係の政策立案・立法及び租税条約交渉等に従事。96年ハーバード・ロースクールにて客員研究員として日米租税条約について研究。97年より00年までOECD租税委員会に主任行政官として出向(在フランス)し、「OECD移転価格ガイドライン」及び「OECDモデル条約」の改定、及び関連会議の運営に従事。01年9月財務省を辞職し現職。

次回のテーマ
#170 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例(1) 税理士 熊王征秀 消費税率引上げ、それに伴う課税の適正化など、消費税法の改正が続く。消費税マエストロが実務ポイントを解説する。

※取り上げて欲しいテーマを編集部にお寄せください。
 e-mail:ta@lotus21.co.jp

3 日台租税協定に係る国内法の整備  日台租税協定は、法形式としては、あくまで民間団体の取決めであり、本来の法律や条約ではないため、この取決めの内容を実効ならしめるための別途の法律が必要となる。こうした法律の前例としては、国際運輸業所得に特化して、その非課税取決めを実施するための「外国人等の国際運輸業に係る所得に対する相互主義による所得税等の非課税に関する法律」(旧法)があり、今般この法律が、「外国居住者等の所得に対する相互主義による所得税等の非課税等に関する法律」(以下、便宜上「日台租税協定実施法」とする。)にタイトルも含めて改正されたものである。
(1)日台租税協定実施法の適用範囲
 ① 法律の趣旨
 日台租税協定実施法は、台湾を含む外国との間で、「相互主義」に基づき、当該国との間の二重課税を排除する等のために、所得税法、法人税法、地方税法及びその他の国税関係法規の特例等を定めるものとされている(1条)。具体的な対象者は主に、特定の「外国居住者等」であるが、この「外国」とは、原則として、日本との租税条約の相手国及び租税相互行政支援協定への署名国以外の国となり、さらに、外国居住者等についての法令上の定義として、こうした外国のうち、この法律に定める課税上の取り扱いと同等の取り扱いが行われ、かつ、租税に関する情報の提供に関する取扱いと同等の取扱いが行われる外国として政令で指定するものに住所を有する個人、当該外国に本店もしくは主たる事務所を有する法人又はこれらに準ずる者とされている。おそらく台湾が新政令で指定され、この法律の対象となる外国として取り込まれることとなろう(2条)。また外国居住者等には外国の権限ある機関(政府機関の意味であろうか?)も含まれる(2条3号)。なお、この改正法は、平成28年3月31日から起算して1年を超えない期間に政令で定める日に施行されることとされており、現在(平成28年6月30日)のところ施行されていない。また、改正法に対応する改正政令も明らかになっていない。
 ② 相互主義の要件  台湾側が、次のすべてを行う場合にのみ、法令に定める相互主義の要件が満たされ、日台租税協定実施法が効力をもつこととなる(5条)。日台租税協定をはじめそもそも本来の租税条約に定める措置は相互主義を前提としており、相互主義が満たされる場合にのみ、日台租税協定に定める課税の軽減、減免が行われることとなる。旧法では、非課税の範囲を国際運輸業所得に特化していたことから、この相互主義については、簡単に「国際運輸業所得について所得税又は法人税を課さない場合」としていたが、日台租税協定実施法においては多種の所得の減免を対象としていることから、この相互主義の充足の要件として、具体的に次の4項目の日本における税制上の措置をあげ、同様のことが台湾でも行われる場合に相互主義が満たされるということになる。なお、日台租税協定では、明確に相互協議の原則が求められている(協定27条)。
(i)日台租税協定実施法に定める「所得税等の非課税等に関する規定」(脚注1)により、所得税又は法人税の軽減、免除の対象となる「対象国内源泉所得」に相当する所得で、台湾の税法上台湾で生じたとされるものについて、台湾において、所得税等の非課税等に関する規定に定める条件等と同等又は有利な条件で、所得税又は法人税が軽減、免除されること。
(ii)内国法人の国外関連取引(関連者たる台湾法人との間の取引)につき、日本で移転価格税制(租税特別措置法第66条の4)の適用による課税があった場合に、その国外関連者に該当する台湾法人の所得につき、台湾の税務当局(権限ある機関)が、当該国外関連取引が独立企業間価格で行われたとして課税されたことを認めた場合に、国外関連者である台湾法人の所得の計算を、当該独立企業間価格により計算すること(対応的調整)。
(iii)台湾においても、更正の請求の特例等が認められていること。更正の請求の特例等とは、減額更正を行うことができる国内法令上の原則的な期間を経過した後の後発的事象等(たとえば移転価格課税後の相互協議の合意など)により、当該期間経過後においても更正の請求及び減額更正が認められること。
(iv)台湾においても、源泉徴収に係る税につき還付金もしくは過誤納金がある場合に、請求権が時効により消滅した後であっても、特定の場合(脚注2)には、還付金もしくは過誤納金が還付、支給されること。
 ③ 台湾居住者の範囲  日本における課税上、日台租税協定及び日台租税協定実施法による減免措置は、原則として台湾居住者(日本では非居住者)にのみ適用され、日本居住者には適用されない。協定上の居住者の定義は、他の租税条約と同様、国内法の定義を引用する一般的な規定となっている(協定4条1項)。したがって、日本及び台湾の租税法上の居住者の定義(脚注3)、範囲の違いから、日本の居住者でありながら同時に台湾の居住者に該当してしまうこともあり得る。このような日本及び台湾の双方の居住者に該当する者のことを「双方居住者」といわれるが、こうした双方居住者は、台湾の居住者である一方で日本の居住者であることから台湾居住者として日本において日台租税協定上の減免措置が受けられないこととなる。また当然に、当該者は、日本居住者として台湾において日台租税協定上の減免措置の適用も受けられないこととなろう。したがって、日台租税協定に定める減免措置の適用の可否にあたって、双方居住者をどちらかの居住者とする必要がある。この双方居住者の取扱について、日台租税協定実施法では、当該双方居住者が次の場合のいずれかに該当する場合には、台湾居住者(日本では非居住者)として日本において減免措置が適用されることとされるように定められた(3条1項)。
(i)双方居住者の使用する恒久的な住居が、日本国内又は台湾のうち、台湾のみに所在する場合
(ii)双方居住者の使用する恒久的な住居が、日本国内及び台湾の双方に所在し、かつ、日本国内又は台湾のうち、台湾と双方居住者により密接な人的及び経済的関係がある場合
(iii)次に掲げるいずれかに該当する場合において、双方居住者の有する常用の住居が、日本国内又は台湾のうち、台湾にのみに所在するとき
   双方居住者の使用する恒久的な住居が、日本国内及び台湾の双方に所在し、かつ、日本国内又は台湾の双方と双方居住者により密接な人的及び経済的関係がある場合、又は日本国内及び台湾のいずれとも双方居住者により密接な人的及び経済的関係がない場合
   双方居住者の使用する恒久的な住居が、日本国内及び台湾のいずれにも所在しない場合
(iv)次に掲げる場合に該当する場合で、双方居住者が台湾の権限ある機関から旅券の発給を受けることができるとき
   上記(iii) 又は のいずれかに該当する場合
   双方居住者の使用する常用の住居が日本国内及び台湾の双方に所在する場合、又はいずれにも所在しない場合
 なお、そもそもの日台租税協定第4条では、双方居住者の割り振りについて、次のように定められている。
3 1及び2の規定により双方の地域の居住者に該当する個人については、次のとおりその地位を決定する。
 (a)当該個人は、その使用する恒久的住居が存在する地域の居住者とみなす。その使用する恒久的住居を双方の地域内に有する場合には、当該個人は、その人的及び経済的関係がより密接な地域(重要な利害関係の中心がある地域)の居住者とみなす。
 (b)その重要な利害関係の中心がある地域を決定することができない場合又はその使用する恒久的住居をいずれの地域内にも有しない場合には、当該個人は、その有する常用の住居が存在する地域の居住者とみなす。
 (c)その常用の住居を双方の地域内に有する場合又はこれをいずれの地域内にも有しない場合には、当該個人は、当該個人が国民又は市民である地域の居住者とみなす。
 (a)から(c)までの規定により居住者の地位を決定できない場合には、当該個人は、この取決めにより認められる租税の軽減又は免除を受けることができない。
 ④ 非課税等の制限(6条)  昨今の租税条約は、いわゆるトリーティ―ショッピング防止のために「特典条項」を設け、一定の要件を満たした「適格者」にのみ租税条約の恩典を与える形態をとっている。日台租税協定においても、「減免の制限」として、取決めの特典を受けることをその主たる目的の全部又は一部とするものである場合には、取決めに規定する租税の軽減又は免除の特典を受けることができないとしている(26条)。
 この減免の制限につき、日台租税協定実施法では、台湾居住者の得る国内源泉所得(日台租税協定実施法により減免の対象となるもの)について、その国内源泉所得の基因となる権利又は財産の設定又は移転その他の行為の主たる目的の一つが、日台租税協定実施法の所得税等の非課税等に関する規定の適用を受けることである場合には、所得税等の非課税等に関する規定は適用されないこととされた(6条)。
 この規定は、トリーティ―ショッピング防止のための規定であり、理念としては合理的といえようが、法律に定める内容としてはかなり曖昧なものであり、不明確な定めといえよう。特に、何なりかの経済取引の目的の「一つ」が課税の減免であるかどうかは容易に判断できるものではなく、また逆に、減免の効果を当初から予想している場合には、「目的の一つ」としていると指摘されることも容易に予想される。また、国税通則法や法人税法等における行為計算否認規定との関係においても、こうした広範な裁量が税務当局に与えられていると解することにも批判が予想されるところでもある。重要な内容の規定ではあるが、日台租税協定のそもそもの趣旨、意義、そして実務における混乱を避ける観点から、減免を制限する場合をより限定的にすべきであり、また、明確にすべきである。

脚注
1 第2章「国内源泉所得等に対する所得税等の非課税等」が該当する。具体的には、地方税、事業税及び国民健康保険税を含めたところの、事業から生ずる所得に対する非課税等、国際運輸業所得の非課税等、移転価格課税に係る対応的調整、配当等(配当、利子及び使用料等)に係る源泉徴収の減免等、資産の譲渡により生ずる所得に対する非課税等、人的役務の提供に対する報酬に関する非課税等が該当する。
2 第33条1項
3 日本の所得税法上の居住者は、「国内に住所を有し、又は現在まで引き続いて1年以上居所を有する個人をいう。」(所得税法2条3号)。台湾では、所得税法第3条において、次のように定義されている。
「1.本法にいう中華民国の領域内に居住する個人とは、下に挙げる2種を指す。
 (1)中華民国の領域内に住所を有し、経常的に中華民国の領域内に居住する者
 (2)中華民国の領域内に住所はないが、1課税年度内における中華民国での居留が合計して満183日の者」。

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