解説記事2016年08月22日 【ニュース特集】 経理担当者による横領行為と顧問税理士の責任を巡る判決(2016年8月22日号・№655)
ニュース特集
会計上の不正行為に関する調査義務等が問題に
経理担当者による横領行為と顧問税理士の責任を巡る判決
診療所を経営する納税者が顧問税理士に対し、診療所の経理担当者の不正行為(横領)を調査する義務を怠ったなどと主張して顧問税理士に対し損害賠償を請求していた税賠事件で判決が下された(東京地裁平成28年5月18日判決)。裁判所は、顧問税理士に会計上の不正行為に関する調査義務があったと認めることはできないと判断。また、税務顧問契約の委任内容は税理士の本来業務(税務代理等)であるため、一般的に納税者の財産又は診療所の運営に対する不正が疑われる状況にあるのかどうかを判断し納税者に報告すべきであったということはできないとし、経理担当者の横領に関する顧問税理士の賠償責任を否定した。本特集では、顧問先の経理担当者の不正行為(横領)をめぐり、顧問税理士の責任などについて裁判所が示した判断内容などを紹介する。
不正が疑われる状況の報告を怠ったと主張し、顧問税理士に対し損害賠償請求
顧問先で発生した会計上の不正行為に関するトラブルをめぐり、顧問先がその顧問税理士に対し損害賠償を請求する事例は決して少なくない。たとえば、顧問先の粉飾決算について顧問税理士の責任が争われた事例(本誌649号40頁)や顧問先で発生した不正な資金流出に関する顧問税理士の責任が争われた事例(同643号9頁参照)が実際に問題となっている(いずれも顧問税理士側が勝訴)。
今回紹介する税賠事件で問題となったのは、顧問先の経理担当者(従業員)の横領行為について、顧問税理士に税務顧問契約上の義務違反があったか否かという点である。
具体的にみると、診療所を経営する納税者(原告)と顧問税理士(被告)は、納税者の兄(クリニックを経営)がその顧問税理士を納税者が経営する診療所の顧問税理士に推薦したことをきっかけに、税務顧問契約を締結した。ただ、税務顧問契約の締結の際に納税者と顧問税理士との間では、契約書等の書面は作成されていなかった。
顧問税理士は、診療所で会計処理などを担当していた経理担当者から預金通帳及び現金出納帳の写し、銀行振込一覧表を受け取り、これらをもとに合計残高試算表などを作成するほか、毎年決算処理や所得税及び消費税の確定申告業務などを行っていた(図1参照)。
ところが、経理担当者が顧問税理士に対し診療所の現金を横領していた事実を告白。この告白を受けた顧問税理士は、その7日後に経理担当者による横領の事実を納税者に報告した。なお、経理担当者による横領の1つは、診療所の事務室内にある金庫に一時的に保管されていた現金を約3年半にわたり着服するというものであった。
その後、納税者は、顧問税理士との税務顧問契約を解約。会計上の不正行為に関する調査義務を怠ったことなどを理由として、顧問税理士に対し損害賠償を請求する訴訟を提起した(図2参照)。
本件で顧問税理士が負う義務及び義務違反の存否に関し問題となったのは、顧問税理士は納税者に対し会計上の不正行為が行われているかを調査する義務があったか否か、会計上の不正行為が行われていると疑われる状況がある場合にこれを報告する義務があったか否かなどである。
この点に関し納税者は、税務顧問契約には税務申告の代行や税務相談など以外に、経営上の助言及び指導として伝票・現金出納帳を確認して会計上の不正行為が行われているか調査をするべき義務が含まれていると主張した。
また、納税者は、顧問税理士は納税者に対し、会計上の不正行為が行われていると疑われる状況がある場合はこれを報告する義務があったと指摘したうえで、本件には明らかに不審な事由(院長出金との名目での多額の支出など)があったにもかかわらず報告義務を怠ったことが税務顧問契約上の債務不履行に当たるという主張を展開した。
顧問契約は税理士業務に限定、不正が疑われる状況の報告義務を認めず
これに対し裁判所は、不正行為の調査義務について、税務顧問契約の締結の際に顧問税理士と納税者との間で作成された契約書等はなく、納税者が明示的に不正行為についての調査を委任したと認めることはできないと指摘。また、仮に納税者が税務顧問契約に経営指導も含まれていたと認識していてもそれは主観的な期待に過ぎず、税理士の業務が税務代理・税務書類の作成・税務相談及び付随業務(財務諸表の作成、会計帳簿の記帳代行等)であることに照らしても、納税者の期待がやむを得ないといえるような客観的な事情を認めることはできないとした。そのうえで裁判所は、顧問税理士は納税者に対し、会計上不正行為が行われているかを調査する義務があったと認めることはできないとの判断を示している。
次に、不正行為が疑われる状況の報告義務について裁判所は、税務顧問契約の委任内容は税理士の本来業務及び付随業務であるため、診療所の適正な運営や委任者である納税者の財産の管理保全が委任の本旨になるものではないと指摘。顧問税理士が負う善管注意義務の内容として、一般的に納税者の財産又は診療所の運営に対する不正が疑われる状況にあるのかどうかを判断し、納税者に報告すべきであったということはできないとした。また、裁判所は、仮に会計上不正行為が行われていることを顧問税理士が知り又は不正行為が行われていると疑われる状況を顧問税理士が知ったにもかかわらず報告しなかったとしても、安易にこれを納税者に報告することはかえってその不正行為を行ったと疑われた者に対する名誉毀損等の問題すら生じかねないと指摘し、顧問税理士には法的な責任を負うべき義務違反はないというべきであると判断。そのうえで裁判所は、顧問税理士は納税者に対し会計上の不正行為が行われていると疑われる状況を報告する義務があったということはできないとしたうえで、義務違反を理由とする納税者の主張を斥ける判決を下している。
会計上の不正行為に関する調査義務等が問題に
経理担当者による横領行為と顧問税理士の責任を巡る判決
診療所を経営する納税者が顧問税理士に対し、診療所の経理担当者の不正行為(横領)を調査する義務を怠ったなどと主張して顧問税理士に対し損害賠償を請求していた税賠事件で判決が下された(東京地裁平成28年5月18日判決)。裁判所は、顧問税理士に会計上の不正行為に関する調査義務があったと認めることはできないと判断。また、税務顧問契約の委任内容は税理士の本来業務(税務代理等)であるため、一般的に納税者の財産又は診療所の運営に対する不正が疑われる状況にあるのかどうかを判断し納税者に報告すべきであったということはできないとし、経理担当者の横領に関する顧問税理士の賠償責任を否定した。本特集では、顧問先の経理担当者の不正行為(横領)をめぐり、顧問税理士の責任などについて裁判所が示した判断内容などを紹介する。
不正が疑われる状況の報告を怠ったと主張し、顧問税理士に対し損害賠償請求
顧問先で発生した会計上の不正行為に関するトラブルをめぐり、顧問先がその顧問税理士に対し損害賠償を請求する事例は決して少なくない。たとえば、顧問先の粉飾決算について顧問税理士の責任が争われた事例(本誌649号40頁)や顧問先で発生した不正な資金流出に関する顧問税理士の責任が争われた事例(同643号9頁参照)が実際に問題となっている(いずれも顧問税理士側が勝訴)。
今回紹介する税賠事件で問題となったのは、顧問先の経理担当者(従業員)の横領行為について、顧問税理士に税務顧問契約上の義務違反があったか否かという点である。
具体的にみると、診療所を経営する納税者(原告)と顧問税理士(被告)は、納税者の兄(クリニックを経営)がその顧問税理士を納税者が経営する診療所の顧問税理士に推薦したことをきっかけに、税務顧問契約を締結した。ただ、税務顧問契約の締結の際に納税者と顧問税理士との間では、契約書等の書面は作成されていなかった。
顧問税理士は、診療所で会計処理などを担当していた経理担当者から預金通帳及び現金出納帳の写し、銀行振込一覧表を受け取り、これらをもとに合計残高試算表などを作成するほか、毎年決算処理や所得税及び消費税の確定申告業務などを行っていた(図1参照)。
ところが、経理担当者が顧問税理士に対し診療所の現金を横領していた事実を告白。この告白を受けた顧問税理士は、その7日後に経理担当者による横領の事実を納税者に報告した。なお、経理担当者による横領の1つは、診療所の事務室内にある金庫に一時的に保管されていた現金を約3年半にわたり着服するというものであった。
その後、納税者は、顧問税理士との税務顧問契約を解約。会計上の不正行為に関する調査義務を怠ったことなどを理由として、顧問税理士に対し損害賠償を請求する訴訟を提起した(図2参照)。
本件で顧問税理士が負う義務及び義務違反の存否に関し問題となったのは、顧問税理士は納税者に対し会計上の不正行為が行われているかを調査する義務があったか否か、会計上の不正行為が行われていると疑われる状況がある場合にこれを報告する義務があったか否かなどである。
この点に関し納税者は、税務顧問契約には税務申告の代行や税務相談など以外に、経営上の助言及び指導として伝票・現金出納帳を確認して会計上の不正行為が行われているか調査をするべき義務が含まれていると主張した。
また、納税者は、顧問税理士は納税者に対し、会計上の不正行為が行われていると疑われる状況がある場合はこれを報告する義務があったと指摘したうえで、本件には明らかに不審な事由(院長出金との名目での多額の支出など)があったにもかかわらず報告義務を怠ったことが税務顧問契約上の債務不履行に当たるという主張を展開した。
顧問契約は税理士業務に限定、不正が疑われる状況の報告義務を認めず
これに対し裁判所は、不正行為の調査義務について、税務顧問契約の締結の際に顧問税理士と納税者との間で作成された契約書等はなく、納税者が明示的に不正行為についての調査を委任したと認めることはできないと指摘。また、仮に納税者が税務顧問契約に経営指導も含まれていたと認識していてもそれは主観的な期待に過ぎず、税理士の業務が税務代理・税務書類の作成・税務相談及び付随業務(財務諸表の作成、会計帳簿の記帳代行等)であることに照らしても、納税者の期待がやむを得ないといえるような客観的な事情を認めることはできないとした。そのうえで裁判所は、顧問税理士は納税者に対し、会計上不正行為が行われているかを調査する義務があったと認めることはできないとの判断を示している。
次に、不正行為が疑われる状況の報告義務について裁判所は、税務顧問契約の委任内容は税理士の本来業務及び付随業務であるため、診療所の適正な運営や委任者である納税者の財産の管理保全が委任の本旨になるものではないと指摘。顧問税理士が負う善管注意義務の内容として、一般的に納税者の財産又は診療所の運営に対する不正が疑われる状況にあるのかどうかを判断し、納税者に報告すべきであったということはできないとした。また、裁判所は、仮に会計上不正行為が行われていることを顧問税理士が知り又は不正行為が行われていると疑われる状況を顧問税理士が知ったにもかかわらず報告しなかったとしても、安易にこれを納税者に報告することはかえってその不正行為を行ったと疑われた者に対する名誉毀損等の問題すら生じかねないと指摘し、顧問税理士には法的な責任を負うべき義務違反はないというべきであると判断。そのうえで裁判所は、顧問税理士は納税者に対し会計上の不正行為が行われていると疑われる状況を報告する義務があったということはできないとしたうえで、義務違反を理由とする納税者の主張を斥ける判決を下している。
| 裁判所、経理担当者による横領が一見して明らかであったとはいえず |
| 本件で納税者は、税理士法1条(税理士の使命)及び43条の1(助言義務)の趣旨からすれば、顧問税理士は経理担当者の横領が疑われる状況(院長出金名目の支出の増加、資金繰り悪化等)を納税者に報告すべきであったという主張も行っていた。これに対し裁判所は、税理士法1条及び43条の1は、税理士が納税義務の適正な実現を目指すことを規定するものであって、委任者の財産等の保護等を規定するものではないと指摘。この点を踏まえ裁判所は、院長出金の増加や資金繰り悪化の原因としては、従業員の横領以外の原因であることも十分あり得るため、その原因が経理担当者の横領によることが一見して明らかであったともいうことはできないにもかかわらず、顧問税理士が納税者に対し報告すべきであったということはできないと判断した。 |
| 裁判所、納税者の承諾がない顧問料の増額分の返還を顧問税理士に対し命じる |
| 今回紹介した税賠事件では、経理担当者の横領に関する顧問税理士の責任だけでなく、納税者の承諾なく顧問税理士が顧問料及び決算報酬の増額分(合計112万円)を受け取っていたか否かという点も問題となっていた。この点に関し顧問税理士は、経理担当者を介して納税者から顧問料及び決算報酬の増加について了承を得ていると主張した。しかし、これに対し裁判所は、納税者が経理面の事務に積極的に関わっていなかったことなどからすれば経理担当者が納税者に無断で顧問料及び決算報酬の増額を行った可能性もあり、納税者が増額に同意していたと推認することはできないと指摘。裁判所は、納税者が増額に同意していたと認めることはできないと判断したうえで、顧問税理士に対し増額分(112万円)の返還を命じた。 |
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