解説記事2016年08月29日 【SCOPE】 TH対策税制の適用除外規定、書面添付なければ適用できず(2016年8月29日号・№656)
留保金額を雑所得に算入した課税処分は適法
TH対策税制の適用除外規定、書面添付なければ適用できず
納税者が全株式を保有するデンマーク法人が行った非課税の株式譲渡をめぐり、タックス・ヘイブン対策税制(以下「TH対策税制」)を適用し同法人の課税対象留保金額を納税者の雑所得に算入した課税処分の適法性が問題となった税務訴訟で、納税者が敗訴する判決が下された(東京地裁平成28年5月13日判決)。裁判所は、納税者が所得税の確定申告をする際に、TH対策税制に係る適用除外規定の適用がある旨を記載した書面を添付していない点から同規定は適用されないと判断。また、デンマーク法人の主たる事業を株式の保有であると認定したうえで、この点からも適用除外規定は適用されないという判断を示した。なお、本件で敗訴した納税者は控訴している。
収益合計額の約90%が株式保有に係る収益、主たる事業を株式保有と認定
日本人である納税者は、約42年にわたり欧州各国で居住していたものの、日本に入国し国内で居住していた平成20年から平成23年までの間は日本の居住者であった。
納税者が株式を100%保有するA社(デンマーク法人)は、C社(オランダ法人)との間でA社の100%子会社であるB社(デンマーク法人)の株式を譲渡する旨の契約を締結し、平成20年にB社株式の80%に相当する株式を譲渡するとともに残りの20%に相当する株式を平成22年に譲渡した。
このとき、デンマークでは株式の譲渡益は原則非課税とされていたため、A社の租税負担割合はTH対策税制のトリガー税率25%(現在は20%未満)を大きく下回ることになった(平成20年12月期:2.0%、平成21年12月期:0%)。
居住者となった納税者は、平成21年分及び平成22年分の所得税の確定申告書を提出したものの、TH対策税制の適用除外規定の適用がある旨を記載した書面(適用除外記載書面)を添付していなかった。この申告に対し税務署は、A社をTH対策税制の適用対象となる特定外国子会社等に該当すると判断。TH対策税制を適用したうえでA社に係る課税対象留保金額に相当する金額を納税者の雑所得に算入する内容の課税処分を行った(図表1参照)。
この処分を不服とする納税者は課税処分の取り消しを求める訴訟を提起。裁判のなかで納税者は、A社はTH対策税制の適用除外要件(①事業基準、②実体基準、③管理支配基準及び④非関連者基準又は所在地国基準)を満たすなどと主張し、TH対策税制を適用した課税処分の取り消しを求めた。
これに対し裁判所は、適用除外規定(措置法40条の4④)について措置法40条の4第6項では、確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面(適用除外記載書面)を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り適用される旨が規定されている点を指摘。この点を踏まえ裁判所は、規定の趣旨や租税法規は原則として文理解釈によるべきことをも併せると確定申告書に適用除外記載書面を添付していない場合には適用除外規定は適用されないと解するほかないと指摘し、納税者の確定申告には同書面の添付がなかったことから納税者には適用除外規定は適用されないと判断した。
また、裁判所は、特定外国子会社等の主たる事業が株式の保有と認められる場合には適用除外規定が適用されない点を指摘。A社について裁判所は、A社の収益合計額に占める株式の保有に係る収益合計の割合が非常に高いといえるのに対し使用人は2、3人しかおらず固定施設も子会社の所在地や使用人の自宅を利用していた点を踏まえると(図表2参照)、A社の主たる事業は株式の保有であると認定。そのうえで裁判所は、この点においてもTH対策税制の適用除外規定は適用されないと判断した。
TH対策税制の適用除外規定、書面添付なければ適用できず
納税者が全株式を保有するデンマーク法人が行った非課税の株式譲渡をめぐり、タックス・ヘイブン対策税制(以下「TH対策税制」)を適用し同法人の課税対象留保金額を納税者の雑所得に算入した課税処分の適法性が問題となった税務訴訟で、納税者が敗訴する判決が下された(東京地裁平成28年5月13日判決)。裁判所は、納税者が所得税の確定申告をする際に、TH対策税制に係る適用除外規定の適用がある旨を記載した書面を添付していない点から同規定は適用されないと判断。また、デンマーク法人の主たる事業を株式の保有であると認定したうえで、この点からも適用除外規定は適用されないという判断を示した。なお、本件で敗訴した納税者は控訴している。
収益合計額の約90%が株式保有に係る収益、主たる事業を株式保有と認定
日本人である納税者は、約42年にわたり欧州各国で居住していたものの、日本に入国し国内で居住していた平成20年から平成23年までの間は日本の居住者であった。
納税者が株式を100%保有するA社(デンマーク法人)は、C社(オランダ法人)との間でA社の100%子会社であるB社(デンマーク法人)の株式を譲渡する旨の契約を締結し、平成20年にB社株式の80%に相当する株式を譲渡するとともに残りの20%に相当する株式を平成22年に譲渡した。
このとき、デンマークでは株式の譲渡益は原則非課税とされていたため、A社の租税負担割合はTH対策税制のトリガー税率25%(現在は20%未満)を大きく下回ることになった(平成20年12月期:2.0%、平成21年12月期:0%)。
居住者となった納税者は、平成21年分及び平成22年分の所得税の確定申告書を提出したものの、TH対策税制の適用除外規定の適用がある旨を記載した書面(適用除外記載書面)を添付していなかった。この申告に対し税務署は、A社をTH対策税制の適用対象となる特定外国子会社等に該当すると判断。TH対策税制を適用したうえでA社に係る課税対象留保金額に相当する金額を納税者の雑所得に算入する内容の課税処分を行った(図表1参照)。

この処分を不服とする納税者は課税処分の取り消しを求める訴訟を提起。裁判のなかで納税者は、A社はTH対策税制の適用除外要件(①事業基準、②実体基準、③管理支配基準及び④非関連者基準又は所在地国基準)を満たすなどと主張し、TH対策税制を適用した課税処分の取り消しを求めた。
これに対し裁判所は、適用除外規定(措置法40条の4④)について措置法40条の4第6項では、確定申告書にこれらの規定の適用がある旨を記載した書面(適用除外記載書面)を添付し、かつ、その適用があることを明らかにする書類その他の資料を保存している場合に限り適用される旨が規定されている点を指摘。この点を踏まえ裁判所は、規定の趣旨や租税法規は原則として文理解釈によるべきことをも併せると確定申告書に適用除外記載書面を添付していない場合には適用除外規定は適用されないと解するほかないと指摘し、納税者の確定申告には同書面の添付がなかったことから納税者には適用除外規定は適用されないと判断した。
また、裁判所は、特定外国子会社等の主たる事業が株式の保有と認められる場合には適用除外規定が適用されない点を指摘。A社について裁判所は、A社の収益合計額に占める株式の保有に係る収益合計の割合が非常に高いといえるのに対し使用人は2、3人しかおらず固定施設も子会社の所在地や使用人の自宅を利用していた点を踏まえると(図表2参照)、A社の主たる事業は株式の保有であると認定。そのうえで裁判所は、この点においてもTH対策税制の適用除外規定は適用されないと判断した。
【図表2】A社(デンマーク法人)の事業活動の内容に関する裁判所の事実認定(主なもの) |
① A社は、C社及びD社(いずれもデンマーク法人)の発行済株式の100%を平成21年12月期の期末時点まで継続して保有していたこと ② A社の株式の保有に係る事業以外の事業は、平成20年12月期はD社の商品販売の代理又は仲介(手数料5,491DKK(約9万円))及びC社への貸付金による収入(利息約22万DKK(約377万円))、平成21年12月期はC社への貸付金による収入(利息約23万DKK(約389万円))であること ③ A社の収益合計額に占める株式の保有に係る収益合計額の割合は、平成20年12月期は94.5%、平成21年12月期は88.4%であること ④ A社には2名の使用人が在籍し、平成20年12月期には人件費として約118万DKK(約1,900万円)が支払われていたこと(平成21年12月期には納税者の長女を含む3名が在籍し人件費等として約137万DKK(約2,200万円)が支払われていたこと) ⑤ 当初B社の事務所内にあったA社の本店所在地は、平成20年3月に使用人の自宅所在地に移動し、平成21年9月に納税者の長女の旧自宅兼D社の所在地へ移動しており、A社の貸借対照表に建物等の資産計上がないこと |
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