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解説記事2016年09月12日 【法令解説】 平成28年改正商業登記規則等に基づく商業・法人登記事務の取扱いについて(2016年9月12日号・№658)

法令解説
平成28年改正商業登記規則等に基づく商業・法人登記事務の取扱いについて
 法務省民事局付 辻 雄介

Ⅰ はじめに

 商業登記規則等の一部を改正する省令(平成28年法務省令第32号。以下「改正省令」という。)が本年4月20日に公布され、同年10月1日から施行される予定である。
 改正省令により、商業登記規則(昭和39年法務省令第23号。以下「規則」という。)につき、①登記簿の附属書類の閲覧に関する改正(規則第21条)及び②登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合等の変更の登記の申請書の添付書面に関する改正(規則第61条第2項及び第3項)が行われた。また、各種法人等登記規則(昭和39年法務省令第46号)等の法人の登記手続を規律する省令においても、これらの規定の全部又は一部を準用する改正が行われた。
 この改正に伴う商業・法人登記事務の取扱いについて、本年6月23日付け民商第98号をもって民事局長通達(以下「本通達」という。)が、同日付け民商第99号をもって民事局商事課長依命通知(以下「本通知」という。)がそれぞれ発出されたところであるが、改正省令は、登記簿の附属書類の閲覧申請に当たって申請書に記載すべき事項及び申請書に添付すべき書面を改め(上記①)、また、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合等の少なからずの変更の登記の申請書に、主要な株主のリストの添付を求めるものであり(上記②)、それぞれ商業・法人登記の登記簿の附属書類の閲覧を申請する者や商業・法人登記の申請人に与える影響は大きいものと考えられる。
 そこで、本稿においては、改正省令の規定並びに本通達及び本通知中に示された登記事務の取扱いについて、解説を試みることとする。
 なお、文中の意見にわたる部分は、筆者の個人的見解であることをあらかじめお断りしておく。
 また、引用する条文は、特に「改正前の」の文字を冠したものを除き、いずれも改正省令による改正後のものを指している。

Ⅱ 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議を要する場合等における登記の申請書に添付すべき書面に関する改正

1 改正の趣旨等
(1)改正の概要
 改正省令により、登記すべき事項につき、①株主全員又は種類株主全員の同意を要する場合には、株主全員又は当該種類株主全員について、②株主総会の決議を要する場合又は種類株主総会の決議を要する場合には、株式会社の主要な株主又は種類株主について、当該事項の登記の申請書に、株主全員の同意があったことを証する書面(商業登記法(昭和38年法律第125号)第46条第1項)又は株主総会の議事録(同条第2項)等に加えて、その氏名又は名称及び住所並びに各株主が有する株式の数及び議決権の数等を証する書面を添付しなければならないとされた(以下この株主の氏名等を証する書面を「株主リスト」と総称する。)。
(2)改正の趣旨  近時、株主総会の議事録等を偽造して役員になりすまして役員の変更登記又は本人の承諾のない取締役の就任の登記を行った上で会社の財産を処分するなど、商業・法人登記を悪用した犯罪や違法行為が後を絶たず、消費者保護又は犯罪抑止の観点から商業登記の真実性の担保を強化する措置をとるべきである旨要請されている。また、国際的にも、法人の透明性を確保することにより、法人格の悪用を防止すべきであるとの要請がされている(「法人及び法的取極めの悪用を防止するためのG8行動計画原則」等)。
 このような状況を踏まえ、改正省令では、登記の真実性を更に向上させるために、登記すべき事項につき株主総会の決議等を要する登記の申請書に株主リストの添付を求めることとした。これにより、不実の株主総会の議事録が作成されるなどして真実でない登記がされることを防止することができるとともに、関係者が事後的に株主総会の決議の効力を訴訟で争う場合等においても有益となると考えられる。また、法人の透明性の確保という国際的な要請にも資することとなると考えられる。

2 株式会社についての改正
(1)改正の内容等
 ア 登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合(規則第61条第3項)
(ア)改正の内容
  登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合には、申請書に、総株主の議決権(当該決議において行使することができるものに限る。以下同じ。)の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主であって、10名又はその有する議決権の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数のうちいずれか少ない人数の株主につき、次に掲げる事項を証する書面(株主リスト)を添付しなければならないとされた(規則第61条第3項。本通達第3の1(2)ア)。
 ① 氏名又は名称
 ② 住所
 ③ 当該株主のそれぞれが有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)及び議決権の数
 ④ 当該株主のそれぞれが有する議決権の数の割合
(イ)株主リストに記載すべき内容   株主リストに記載すべき内容のうち、特に注意を要すると考えられる点は、次の点である。
 a 議決権の数に対するその有する議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる株主
   株主リストには、株主総会に出席した株主に限られず、自己株式等の議決権を有しない株式の株主を除き、当該株主総会において、当該決議事項につき議決権を行使することができた株主全ての中から対象となる株主が記載されている必要があるとされた(本通知第2の2(1)ア)。
 b 上位10名の株主
   議決権の数の割合が高いことにおいて上位となる10名の株主とは、当該登記すべき事項に係る株主総会の決議において議決権を行使することができたものが有する議決権の数の割合を基準として上位10名となる株主をいうと考えられる。
   10位の株主までに、同順位の株主が複数名いるような場合には、その全ての株主の氏名等を株主リストに記載することを要すると考えられる。
 c その有する議決権の数の割合を当該割合の多い順に順次加算し、その加算した割合が3分の2に達するまでの人数
   当該登記すべき事項に係る株主総会の決議において行使することができた者を基準とすること、同順位の株主が複数いる場合には、その全ての株主の記載を要することはbと同様である。
(ウ)登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合の株主リストの形式   株主リストは、代表取締役の作成に係る規則第61条第3項に規定する事項を証明する書面であって、登記所に提出された印鑑が押印されたものがこれに該当するとされた(本通知第2の2(2))。
  株主リストの書式は法定されておらず、株主リストに記載すべき事項が記載され、会社の代表者においてその事項を証明した書面であって、登記所届出印が押印されていれば、その様式は問わないものと考えられる。
  もっとも、申請人等の便宜等の観点から、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合における株主リストの書式例が、法務省のホームページに公開されている(資料1参照。http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00095.html)。

  この書式例の一つとして、内国法人の法人税の確定申告書に添付することとされている「同族会社等の判定に関する明細書」(法人税法施行規則(昭和40年大蔵省令第12号)第34条第2項参照。以下「同族会社等判定明細書」という。)の写しを添付したものも掲載されている(資料2参照)。これは、株主の数が3~4名程度の株式会社においては、株主リストに記載すべき株主と同族会社等判定明細書に記載すべき株主とが一致することが少なくないと考えられること、また、その他の記載事項も、株主の住所や株式数といった点で共通するところも多いことから、株式会社が株主リストを作成するに当たって、同族会社等判定明細書の写しを利用できると便宜であると考えられ、そのような意見が改正省令の制定過程において実施されたパブリックコメントの手続でも寄せられていたことを踏まえたものである。
 
  同族会社等判定明細書の写しを添付した株主リストに記載することとされた事項は、同明細書には記載する欄がないか、あっても、その対象が異なることから、別途記載を要するとされたものである。したがって、この書式例によらない場合であっても、同族会社等判定明細書にこれらの事項が付記されている等、これらの事項が記載されていることを要すると考えられる。
  ただし、同ホームページによると、同書式例を利用できる場合について、一定の条件が付されており、どのような場合に利用できるのかのフローチャートも併せて公開されている(資料3参照)。

  このほか、有価証券報告書を添付した株主リストの書式例も同ホームページで公開されている。
  なお、これらの株主リストについても、登記所に印鑑を提出した代表者が作成した上で、登記所届出印の押印をして証明することを要し、かつ、証明書(株主リスト)と同族会社等判定明細書の写し等の間に契印を要するとされていることにも注意を要する。
 イ 登記すべき事項につき種類株主総会の決議を要する場合(規則第61条第3項)   登記すべき事項につき種類株主総会の決議を要する場合における登記申請についても株主リストの添付が必要とされた(規則第61条第3項)。
  この場合の株主リストの記載内容、形式等は、登記すべき事項につき株主総会の決議を要する場合(ア(イ)・(ウ))と基本的に同じであるが、種類株主総会の決議を要する場合には、株式の数及び議決権の数・割合として、当該種類の株式に係るもののみを記載すれば足りるとされている点が異なる。
 ウ 登記すべき事項につき株主総会又は種類株主総会の決議があったものとみなされる場合(規則第61条第3項)   株主総会又は種類株主総会の決議について、会社法第319条第1項(同法第325条において準用する場合を含む。)の規定により当該決議があったものとみなされる場合にも、申請書にア又はイの株主リストを添付しなければならないとされた(規則第61条第3項。本通達第3の1(2)ウ)。
 エ 登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合(規則第61条第2項第1号)
(ア)改正の内容
  登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合には、申請書に、株主全員につき次に掲げる事項を証する書面(株主リスト)を添付しなければならないとされた(規則第61条第2項第1号。本通達第3の1(1)ア)。
 ① 氏名又は名称
 ② 住所
 ③ 各株主が有する株式の数(種類株式発行会社にあっては、株式の種類及び種類ごとの数を含む。)
 ④ 議決権の数
  なお、この場合における株主リストには、からまでの場合と異なり、各株主が有する議決権の総議決権に対する割合については記載を要しないとされている。
(イ)書面の形式   株主全員の同意を要する場合の株主リストの書式例についても、法務省のホームページに公開されている(資料4参照。http://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00095.html)。

 オ 登記すべき事項につき種類株主全員の同意を要する場合(規則第61条第2項第2号)  登記すべき事項につき種類株主全員の同意を要する場合の登記申請にも、株主リストを添付しなければならないとされた(規則第61条第2項第2号)。
 この場合の株主リストに記載すべき事項は、記載を要する株主が対象となる種類株式を有する株主であること及び各株主が有する株式及び議決権の数として、当該種類株式に係るもののみ記載すれば足りるとされているほかは、登記すべき事項につき株主全員の同意を要する場合(エ)と同様である。

3 投資法人及び特定目的会社についての改正  規則第61条第2項及び第3項の規定は、特定目的会社登記規則(平成10年法務省令第37号)第3条及び投資法人登記規則(平成10年法務省令第51号)第3条においても準用されているので、これらの法人の登記事項につき社員総会又は投資主総会の決議等を要する場合についても、投資主又は社員につき2の事項を記載した書面を添付しなければならないこととなるとされた(本通達第3の2)。
 一方、持分会社又は一般社団法人等の上記法人以外の登記申請に当たっては、株主リストに相当する書面の添付は必要とされていない。
 特定目的会社についての社員リスト及び投資法人についての投資主リストの記載事項やその書式等については、いずれも株主リストと同様であると考えられる。

Ⅲ 登記簿の附属書類の閲覧に関する改正

1 改正の概要
 改正省令により、登記簿の附属書類の閲覧の申請書に記載する請求の目的として、閲覧しようとする部分を記載しなければならず(規則第21条第1項)、また、同申請書には、規則第18条第2項各号(第3号を除く。)に掲げる事項のほか、申請人の住所、代理人によって請求するときは代理人の住所及び閲覧しようとする部分について利害関係を明らかにする事由を記載しなければならないとされた(規則第21条第2項。本通達第2の1(1)ア)。
 さらに、登記簿の附属書類の閲覧の申請書には、閲覧しようとする部分について利害関係を証する書面を添付しなければならないとされ(規則第21条第3項第2号)、附属書類の閲覧の申請人が法人である場合には、当該法人が当該閲覧の申請を受けた登記所の管轄区域内に本店若しくは主たる事務所を有するとき又は閲覧の申請書に当該法人の会社法人等番号を記載したときを除き、その代表者の資格を証する書面を添付しなければならないとされた(規則第21条第3項第1号、商業登記法第19条の3。本通達第2の1(2))。

2 改正の趣旨  改正省令による改正前の商業登記規則では、附属書類の閲覧の申請書に、閲覧しようとする附属書類及び利害関係を明らかにする事由を記載することを求めていたが(改正前の商業登記規則第21条)、登記官において利害関係の有無を判断するための疎明資料の提出は義務付けられていなかった。また、「閲覧しようとする書類」として「附属書類一式」と記載されて閲覧の対象となる附属書類を特定しないまま申請がされることも多いといわれていた。
 このようなことに鑑み、改正省令では、登記官において、閲覧についての利害関係の有無をより適切に判断できるようにするため、附属書類の閲覧の申請書において、閲覧の対象となる附属書類の部分の特定を求めることや、その部分についての利害関係を記載することを求めることを明記するとともに、あわせて、当該利害関係を証する書面の添付を求めることとしたものと考えられる。

3 附属書類の閲覧の申請書の記載事項  改正省令により新たに申請書の記載事項とされた「閲覧しようとする部分」としては、当該附属書類が添付された登記申請を特定した上で、当該閲覧しようとする附属書類の名称を記載することとされた(本通達第2の1(1)イ)。また、「利害関係を明らかにする事由」としては、このように特定された附属書類を閲覧することについての利害関係を明らかにする事由が具体的に記載されることを要するとされた(同(3)ア)。

4 附属書類の閲覧の申請書の添付書面  改正省令により新たに添付することとされた「利害関係を証する書面」は、閲覧しようとする部分について、利害関係を有することを証する書面であることを要するとされた(本通達第2の1(3)イ)。

Ⅳ 施行日及び経過措置
 改正省令は、平成28年10月1日から施行される(改正省令附則第1項)。
 そして、改正省令の施行前にされた登記の申請については、規則第61条第2項又は第3項(これらの規定を他の省令において準用する場合を含む。)の規定にかかわらず、なお従前の例によるとされた(改正省令附則第2項)。したがって、改正省令の施行前に記載の登記の申請であって登記がされていないものについては、改めて株主リストの添付を要さず、他方で、改正省令の施行後にされた記載の登記の申請については、株主総会の決議等がその施行前にされたものであっても、株主リストを添付しなければならないこととなる(本通達第4)。

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