解説記事2016年11月14日 【税務マエストロ】 高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例(4)(2016年11月14日号・№666)
税務マエストロ
税務における第一人者“税務マエストロ”による税実務講座
今週のマエストロ&テーマ
高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例(4)
#177 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#178
日本・台湾租税協定と国内法の整備⑥
PwC税理士法人
品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
マエストロの解説
前月号では、平成28年度改正により創設された「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」について、実務上のポイントと留意事項を解説した。今月は、この特例制度に関する下記の疑問点について問題提起をし、読者の皆様と共に今後の検討課題としたい。
1 販売用の造成宅地(棚卸資産)は高額特定資産に該当するか?
(1)高額特定資産の範囲 高額特定資産とは、一取引単位における税抜の取得金額が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいう。
また、自己建設資産については建設等のために要した原材料費及び経費の累計額によるものとし、免税期間や簡易課税制度の適用期間中の課税仕入れ等の金額を除いた金額により判定する(改消法12の4・37③、改消令25の5)。
(2)付随費用の取扱い 高額特定資産の取得価額(課税仕入れに係る支払対価の額)には、引取運賃、荷役費等又はその資産を事業の用に供するために必要な費用は含まれない。よって、税抜の本体価額を1,000万円と比較したうえで、高額特定資産に該当するかどうかを判定することになる(消基通1-5-24)。
また、調整対象固定資産の取得価額(課税仕入れに係る支払対価の額)についても、引取運賃、荷役費等又はその資産を事業の用に供するために必要な費用の額は含めずに、100万円との比較判定や調整税額の計算をすることになる(消基通12-2-2)。
これに対し、免税(課税)事業者が課税(免税)事業者となる場合の期首(期末)棚卸資産の調整では、棚卸資産の取得価額(課税仕入れに係る支払対価の額)には、これらの付随費用は加算して調整税額の計算をすることとされている(消令54①一)。
(3)棚卸資産の税額調整における土地造成費の取扱い 消費税の法令に規定されている棚卸資産の範囲は、法人税の法令に規定する棚卸資産の範囲とまったく同一の定義になっている(法法2①二十、法令10)。
ただし、ここで注意したいのは、消費税の世界では、あくまでも「課税仕入れに係る棚卸資産」に限り、税額調整の対象になるということである。
例えば、山林を開発し、宅地に造成して販売するような場合には、その造成した宅地は棚卸資産には該当するものの、「課税仕入れに係る棚卸資産」ではないので、その造成費用については税額調整の対象とすることはできないことになる。
これに対し、宅地を造成して建売住宅を建築し、販売するような場合には、その建売住宅(土地付建物)は課税仕入れに係る棚卸資産であるから、建物の建築費は勿論のこと、宅地の造成費用についても税額調整の対象に取り込むことができるのである。
では、建売住宅の敷地を造成したものの、建物の建築に着工する前に決算日を迎えたような場合の宅地の造成費用はどうなるのであろうか?
販売用の宅地であれば、上記のように「課税仕入れに係る棚卸資産」には該当しないことから、その造成費用は税額調整の対象とはならない。しかし、その宅地が建売住宅の敷地として使用されるものであるならば、たとえ建物が建築されていなくとも、その造成費用は「課税仕入れに係る棚卸資産」として税額調整の対象とされるべきである。
また、建物の建築途中で決算日を迎えたような場合には、その建築途中の建物は仕掛品であり、免税期間中に課税仕入れが行われている材料費などについては当然に税額調整の対象として何ら問題はない。
(4)土地造成費と資本的支出の関係 調整対象固定資産に係る資本的支出は、100万円との比較判定や調整税額の計算をする時の課税仕入れに係る支払対価の額に含めることとされている(消基通12-2-5)。
ただし、土地の造成、改良のために要した課税仕入れに係る支払対価の額のように、調整対象固定資産に該当しない資産に係る資本的支出についてはこのような取扱いはない(消基通12-2-5(注))。
では、宅地を造成して販売する場合のその宅地の造成費用はどのような取扱いになるのであろうか?
宅地の造成費用を付随費用と考えた場合には、造成宅地は棚卸資産には該当するものの、そもそもの取得金額が非課税であるから当該宅地は高額特定資産には該当しないことになる。一方で、宅地の造成費用を自己建設資産(造成宅地)の原材料と認識した場合には、造成費用が1,000万円以上となった場合に、その造成宅地は高額特定資産に該当することとなるのであろうか?
高額特定資産については、消費税法基本通達の1-5-24から1-5-28までに定めがあるが、販売用宅地の造成費用の取扱いについては何ら定めは設けられていない。そうすると、「土地造成費は調整対象固定資産についての定めはある(消基通12-2-5(注))が、高額特定資産についての定めはないのであるから、高額特定資産の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれるものと解釈すべきである」という解釈もできそうである。
販売用の宅地(棚卸資産)が高額特定資産に該当するかしないかに関わらず、その取扱いについては、消費税法基本通達に明記すべきではないだろうか?
2 自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)の適用はできるか?
(1)未成工事支出金の課税仕入れの時期 建設業者が工事を請け負った場合の費用収益の認識基準としては、工事完成基準によるケースが一般的である。つまり、工事が完成するまでの間は工事売上高は計上せず、入金額は未成工事受入金として処理をする。また、材料費、外注費などについても未成工事支出金として処理をし、工事原価に計上しないということである。
一方、仕入税額控除の時期は、課税仕入れ等を行った日の属する課税期間であり、支払ベースでの控除を認めるものではない(消基通11-3-1)。また、課税仕入れの時期については、売上げとの対応関係を考慮する必要もない。建設工事が未完成で、まだ売上げが計上されていない状態であっても、材料費、外注費などについては、課税仕入れをしたときに、仕入税額控除の対象として構わないということである。
ただし、ここで注意してほしいのは、外注費の取扱いである。
外注費といってもその内容はさまざまであり、たとえば土木工事一式を下請業者に外注するといったケースもあるし、いわゆる人工(にんく)の応援としての外注もある。人工の応援のように、その内容が人的役務の提供の場合には、月単位などで計上した出来高について、その都度仕入税額控除の対象とすることができる。
これに対し、下請業者との請負契約により、基礎工事、内装工事などを外注にだしたような場合には、その下請工事が完了したときが課税仕入れの時期となるので、たとえ出来高払いで工事代金を支払い、外注費勘定で処理をしたとしても、下請工事が完了するまでの支払分は単なる前払金であり、仕入税額控除は認められないことになるのである。
工事原価である材料費や外注費などの課税仕入れの時期は、おおむね図表3のようになる(消基通9-1-1、9-1-5、9-1-11、9-1-20)。
なお、建設業の場合、経理サイドで外注費の課税仕入れの時期を把握することは、現実問題として容易なことではない。そこで、工事が完成し、売上高を計上したときに、工事原価のうち、材料費、外注費などの課税仕入れについて、まとめて税額控除をすることも認められている(消基通11-3-5)。
(2)自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)の適用はできるか? 高額特定資産を自己建設する場合には、原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間において、その「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うこととされている。
この場合においては、自己建設高額特定資産を取得した課税期間の翌課税期間から、自己建設高額特定資産が完成した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、本則課税が強制適用となるのであるが、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)を適用して、物件の完成時に「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うことはできるのであろうか?
上記(1)のとおり、未成工事支出金の課税仕入れの時期は発生ベースで認識するのが原則である。そうすると、本通達が実務上の取扱いに配慮して設けられたものである限り、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期とすることはできないようにも思われる。一方で、高額特定資産を自己建設する場合の取得の時期を、「原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間とする」という取扱いが購入した高額特定資産との取得時期のバランスを考慮したものであると考えるならば、本通達の適用により、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期としても何ら問題はないものと考えることもできそうである。
〔具体例〕 01年度から工事に着工し、課税仕入れの累計が02年度に1,000万円以上となり、04年度に工事が完成した場合の本則課税による拘束期間は、本通達が適用できる場合には「04年度~06年度」となるのに対し、適用できない場合には「02年度~06年度」となる。
3 自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)の適用はできるか?
(1)建設仮勘定の課税仕入れの時期 消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)には、建物などの完成前に支払った金額について、建設仮勘定として経理した場合であっても、課税仕入れ等をした日の属する課税期間において仕入税額控除の規定を適用する旨が定められている。
この通達をそのまま読むと、あたかも建設仮勘定が仕入税額控除の対象となるように読めてしまうのであるが、ここは注意が必要だ。本通達は、あくまでも「課税仕入れ等をした日の属する課税期間において……」と定めているのであり、手付金などの支払日が課税仕入れの日となるわけではない。
例えば、建物の設計と建築を別々の業者に依頼したような場合には、まず、設計図面が完成した段階で「設計」という役務の提供を受けたことになる。したがって、支払った設計料は建設仮勘定として経理するものの、図面完成の時点で、まずは設計料を仕入税額控除の対象とすることになるのである。
上記のように、仕入税額控除のタイミングは、基本的に経理処理とは連動しないわけであるが、現実問題として考えた場合、設計料と建築費をバラバラに控除するのはいかにも面倒であり、勘違いの基にもなりかねない。そこで、同基本通達の後段では、目的物が完成した日の属する課税期間において、建設仮勘定にストックしておいた設計料や建築費をまとめて控除することも認めているのである。
(2)自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)の適用はできるか? 上記(1)のように、建物の設計と建築を別々に発注するということは、いうなれば設計と建築を外注したということである。したがって、設計料が1,000万円以上であれば、図面が完成した時点で「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うことになるものと思われる。
この場合においては、自己建設高額特定資産を取得した課税期間の翌課税期間から、自己建設高額特定資産が完成した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、本則課税が強制適用となるのであるが、消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)を適用して、物件の完成時に「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うことはできるのであろうか?
上記(1)のとおり、設計料などの建設仮勘定に係る課税仕入れの時期は発生ベースで認識するのが原則である。そうすると、本通達が実務上の取扱いに配慮して設けられたものである限り、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期とすることはできないようにも思われる。一方で、高額特定資産を自己建設する場合の取得の時期を、「原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間とする」という取扱いが購入した高額特定資産との取得時期のバランスを考慮したものであると考えるならば、本通達の適用により、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期としても何ら問題はないものと考えることもできそうである。
この記事に関するご意見・お問合せはta@lotus21.co.jpにお寄せください。
今週のマエストロ&テーマ
高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例(4)
#177 熊王征秀(税理士)
略歴 学校法人大原学園に税理士科物品税法の講師として入社し、在職中に酒税法、消費税法の講座を創設。その後、会計事務所勤務を経て税理士登録、独立開業。『消費税トラブルの傾向と対策』等、著書多数。
現在
東京税理士会会員相談室委員
東京税理士会税務審議部委員
東京地方税理士会税法研究所研究員
日本税務会計学会委員
大原大学院大学准教授
次回のテーマ
#178
日本・台湾租税協定と国内法の整備⑥
PwC税理士法人
品川克己 税制改正や、中国進出企業の増加に伴い、国際課税上のリスクは高まっている。国際課税の第一人者がそのリスクを検証する。
マエストロの解説
前月号では、平成28年度改正により創設された「高額特定資産を取得した場合の納税義務の免除の特例」について、実務上のポイントと留意事項を解説した。今月は、この特例制度に関する下記の疑問点について問題提起をし、読者の皆様と共に今後の検討課題としたい。
疑問点1:販売用の造成宅地(棚卸資産)は高額特定資産に該当するか? 疑問点2:自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)又は11-3-6(建設仮勘定)の適用はできるか? |
1 販売用の造成宅地(棚卸資産)は高額特定資産に該当するか?
(1)高額特定資産の範囲 高額特定資産とは、一取引単位における税抜の取得金額が1,000万円以上の棚卸資産又は調整対象固定資産をいう。
また、自己建設資産については建設等のために要した原材料費及び経費の累計額によるものとし、免税期間や簡易課税制度の適用期間中の課税仕入れ等の金額を除いた金額により判定する(改消法12の4・37③、改消令25の5)。

(2)付随費用の取扱い 高額特定資産の取得価額(課税仕入れに係る支払対価の額)には、引取運賃、荷役費等又はその資産を事業の用に供するために必要な費用は含まれない。よって、税抜の本体価額を1,000万円と比較したうえで、高額特定資産に該当するかどうかを判定することになる(消基通1-5-24)。
また、調整対象固定資産の取得価額(課税仕入れに係る支払対価の額)についても、引取運賃、荷役費等又はその資産を事業の用に供するために必要な費用の額は含めずに、100万円との比較判定や調整税額の計算をすることになる(消基通12-2-2)。
これに対し、免税(課税)事業者が課税(免税)事業者となる場合の期首(期末)棚卸資産の調整では、棚卸資産の取得価額(課税仕入れに係る支払対価の額)には、これらの付随費用は加算して調整税額の計算をすることとされている(消令54①一)。

参考 棚卸資産の税額調整 ○免税事業者が課税事業者になった場合の期首棚卸資産の税額調整 仕入控除税額の計算にあたっては、期首の在庫や期末の在庫、売上原価は一切関係がない。しかし、前期まで免税事業者だった事業者が、当期から課税事業者になるような場合には、期首の棚卸資産は免税事業者の時代に仕入れたものであり、税額控除はしていない。これを課税事業者になってから販売した場合には、その売上げについてだけは消費税が課税されることとなってしまい、継続して課税事業者である事業者と比べ、不利な扱いを受けることとなってしまう。 そこで、免税事業者が課税事業者となった場合には、売上げに対する消費税とのバランスをとるために、例外的に期首の在庫についての税額控除を認めることとしたものである(消法36①)。 (注)右図のとおり、課税事業者となる直前期(②)の仕入商品だけでなく、免税期間中に取得した棚卸資産はすべて税額調整の対象とすることができる。 ![]() ○課税事業者が免税事業者になる場合の期末棚卸資産の税額調整 課税事業者を選択している事業者が「課税事業者選択不適用届出書」を提出した場合や基準期間の課税売上高が免税点以下となったことにより、翌期から免税事業者となるような場合には、期末の棚卸資産は免税事業者となってから販売するものであり、その売上げについては消費税は課税されない。しかし、その期末棚卸資産を仕入れたのは課税事業者のときであり、その棚卸資産については、販売の有無に関係なく、課税仕入れの時点で仕入税額控除の対象とすることができることになる。 そこで、売上げに対する消費税とのバランスをとるために、原則課税を適用している事業者が翌期から免税事業者になる場合には、期末棚卸資産のうち、当課税期間中に仕入れたものについては仕入税額控除を制限することとしている(消法36⑤)。 なお、課税事業者が翌期から免税事業者になるケースでは、その課税事業者である最後の課税期間中に仕入れた棚卸資産だけが税額調整の対象とされるのであり、前期以前に仕入れたもののうち、期末に在庫として保有するものについてまで調整をする必要はない。 下図のようなケースであれば、②の課税期間の末日において保有する棚卸資産のうち、②の課税期間中に仕入れたものだけが税額調整の対象とされることになる。①の課税期間中に仕入れた棚卸資産のうち、②の課税期間の末日において保有するものがあったとしても、これについては①の課税期間においてすでに税額控除は完結しているのであり、これについてまでも調整をする必要はないということである。 ![]() |
(3)棚卸資産の税額調整における土地造成費の取扱い 消費税の法令に規定されている棚卸資産の範囲は、法人税の法令に規定する棚卸資産の範囲とまったく同一の定義になっている(法法2①二十、法令10)。
ただし、ここで注意したいのは、消費税の世界では、あくまでも「課税仕入れに係る棚卸資産」に限り、税額調整の対象になるということである。
例えば、山林を開発し、宅地に造成して販売するような場合には、その造成した宅地は棚卸資産には該当するものの、「課税仕入れに係る棚卸資産」ではないので、その造成費用については税額調整の対象とすることはできないことになる。
これに対し、宅地を造成して建売住宅を建築し、販売するような場合には、その建売住宅(土地付建物)は課税仕入れに係る棚卸資産であるから、建物の建築費は勿論のこと、宅地の造成費用についても税額調整の対象に取り込むことができるのである。
では、建売住宅の敷地を造成したものの、建物の建築に着工する前に決算日を迎えたような場合の宅地の造成費用はどうなるのであろうか?
販売用の宅地であれば、上記のように「課税仕入れに係る棚卸資産」には該当しないことから、その造成費用は税額調整の対象とはならない。しかし、その宅地が建売住宅の敷地として使用されるものであるならば、たとえ建物が建築されていなくとも、その造成費用は「課税仕入れに係る棚卸資産」として税額調整の対象とされるべきである。
また、建物の建築途中で決算日を迎えたような場合には、その建築途中の建物は仕掛品であり、免税期間中に課税仕入れが行われている材料費などについては当然に税額調整の対象として何ら問題はない。
(4)土地造成費と資本的支出の関係 調整対象固定資産に係る資本的支出は、100万円との比較判定や調整税額の計算をする時の課税仕入れに係る支払対価の額に含めることとされている(消基通12-2-5)。
ただし、土地の造成、改良のために要した課税仕入れに係る支払対価の額のように、調整対象固定資産に該当しない資産に係る資本的支出についてはこのような取扱いはない(消基通12-2-5(注))。
では、宅地を造成して販売する場合のその宅地の造成費用はどのような取扱いになるのであろうか?
宅地の造成費用を付随費用と考えた場合には、造成宅地は棚卸資産には該当するものの、そもそもの取得金額が非課税であるから当該宅地は高額特定資産には該当しないことになる。一方で、宅地の造成費用を自己建設資産(造成宅地)の原材料と認識した場合には、造成費用が1,000万円以上となった場合に、その造成宅地は高額特定資産に該当することとなるのであろうか?
高額特定資産については、消費税法基本通達の1-5-24から1-5-28までに定めがあるが、販売用宅地の造成費用の取扱いについては何ら定めは設けられていない。そうすると、「土地造成費は調整対象固定資産についての定めはある(消基通12-2-5(注))が、高額特定資産についての定めはないのであるから、高額特定資産の課税仕入れに係る支払対価の額に含まれるものと解釈すべきである」という解釈もできそうである。
販売用の宅地(棚卸資産)が高額特定資産に該当するかしないかに関わらず、その取扱いについては、消費税法基本通達に明記すべきではないだろうか?
2 自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)の適用はできるか?
(1)未成工事支出金の課税仕入れの時期 建設業者が工事を請け負った場合の費用収益の認識基準としては、工事完成基準によるケースが一般的である。つまり、工事が完成するまでの間は工事売上高は計上せず、入金額は未成工事受入金として処理をする。また、材料費、外注費などについても未成工事支出金として処理をし、工事原価に計上しないということである。
一方、仕入税額控除の時期は、課税仕入れ等を行った日の属する課税期間であり、支払ベースでの控除を認めるものではない(消基通11-3-1)。また、課税仕入れの時期については、売上げとの対応関係を考慮する必要もない。建設工事が未完成で、まだ売上げが計上されていない状態であっても、材料費、外注費などについては、課税仕入れをしたときに、仕入税額控除の対象として構わないということである。
ただし、ここで注意してほしいのは、外注費の取扱いである。

これに対し、下請業者との請負契約により、基礎工事、内装工事などを外注にだしたような場合には、その下請工事が完了したときが課税仕入れの時期となるので、たとえ出来高払いで工事代金を支払い、外注費勘定で処理をしたとしても、下請工事が完了するまでの支払分は単なる前払金であり、仕入税額控除は認められないことになるのである。
工事原価である材料費や外注費などの課税仕入れの時期は、おおむね図表3のようになる(消基通9-1-1、9-1-5、9-1-11、9-1-20)。


(2)自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)の適用はできるか? 高額特定資産を自己建設する場合には、原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間において、その「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うこととされている。
この場合においては、自己建設高額特定資産を取得した課税期間の翌課税期間から、自己建設高額特定資産が完成した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、本則課税が強制適用となるのであるが、消費税法基本通達11-3-5(未成工事支出金)を適用して、物件の完成時に「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うことはできるのであろうか?
上記(1)のとおり、未成工事支出金の課税仕入れの時期は発生ベースで認識するのが原則である。そうすると、本通達が実務上の取扱いに配慮して設けられたものである限り、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期とすることはできないようにも思われる。一方で、高額特定資産を自己建設する場合の取得の時期を、「原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間とする」という取扱いが購入した高額特定資産との取得時期のバランスを考慮したものであると考えるならば、本通達の適用により、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期としても何ら問題はないものと考えることもできそうである。
〔具体例〕 01年度から工事に着工し、課税仕入れの累計が02年度に1,000万円以上となり、04年度に工事が完成した場合の本則課税による拘束期間は、本通達が適用できる場合には「04年度~06年度」となるのに対し、適用できない場合には「02年度~06年度」となる。

3 自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)の適用はできるか?
(1)建設仮勘定の課税仕入れの時期 消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)には、建物などの完成前に支払った金額について、建設仮勘定として経理した場合であっても、課税仕入れ等をした日の属する課税期間において仕入税額控除の規定を適用する旨が定められている。
この通達をそのまま読むと、あたかも建設仮勘定が仕入税額控除の対象となるように読めてしまうのであるが、ここは注意が必要だ。本通達は、あくまでも「課税仕入れ等をした日の属する課税期間において……」と定めているのであり、手付金などの支払日が課税仕入れの日となるわけではない。
例えば、建物の設計と建築を別々の業者に依頼したような場合には、まず、設計図面が完成した段階で「設計」という役務の提供を受けたことになる。したがって、支払った設計料は建設仮勘定として経理するものの、図面完成の時点で、まずは設計料を仕入税額控除の対象とすることになるのである。

上記のように、仕入税額控除のタイミングは、基本的に経理処理とは連動しないわけであるが、現実問題として考えた場合、設計料と建築費をバラバラに控除するのはいかにも面倒であり、勘違いの基にもなりかねない。そこで、同基本通達の後段では、目的物が完成した日の属する課税期間において、建設仮勘定にストックしておいた設計料や建築費をまとめて控除することも認めているのである。

(2)自己建設高額特定資産の課税仕入れの時期について、消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)の適用はできるか? 上記(1)のように、建物の設計と建築を別々に発注するということは、いうなれば設計と建築を外注したということである。したがって、設計料が1,000万円以上であれば、図面が完成した時点で「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うことになるものと思われる。
この場合においては、自己建設高額特定資産を取得した課税期間の翌課税期間から、自己建設高額特定資産が完成した日の属する課税期間の初日から3年を経過する日の属する課税期間まで、本則課税が強制適用となるのであるが、消費税法基本通達11-3-6(建設仮勘定)を適用して、物件の完成時に「自己建設高額特定資産」を取得したものとして取り扱うことはできるのであろうか?
上記(1)のとおり、設計料などの建設仮勘定に係る課税仕入れの時期は発生ベースで認識するのが原則である。そうすると、本通達が実務上の取扱いに配慮して設けられたものである限り、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期とすることはできないようにも思われる。一方で、高額特定資産を自己建設する場合の取得の時期を、「原材料費、経費などの課税仕入れの累計額が1,000万円以上となった課税期間とする」という取扱いが購入した高額特定資産との取得時期のバランスを考慮したものであると考えるならば、本通達の適用により、物件の完成時を自己建設高額特定資産の取得の時期としても何ら問題はないものと考えることもできそうである。
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